(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063407
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】カニューラ及び長尺体の送り方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240502BHJP
A61B 1/018 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A61M25/00 560
A61B1/018 515
A61M25/00 622
A61M25/00 534
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171324
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
(72)【発明者】
【氏名】神山 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】榊 航平
【テーマコード(参考)】
4C161
4C267
【Fターム(参考)】
4C161AA01
4C161AA06
4C161BB00
4C161DD03
4C161FF35
4C161FF42
4C161FF43
4C161GG15
4C267AA02
4C267BB02
4C267BB07
4C267BB08
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB16
4C267BB31
4C267BB40
4C267CC22
4C267EE03
4C267HH04
4C267HH08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カニュレーションのし易さを良好にするためのカニューラを提供する。
【解決手段】第1器官内に配置される内視鏡から送り出され第2器官の入口部への挿入に用いられるシャフト20を備え、シャフト20は、シャフト20の少なくとも先端部20dに設けられシェイピングにより形状を調整可能なシェイピング部56を備え、シェイピング部56の一部を直径9.0mmの円柱体70に一巻き分だけ巻き付けた状態でシャフト20の先端に5.0Nの錘72を吊るした後、錘72を取り除いて静止状態になったときのシャフト20の初期状態に対する角度変化量を基準角度θs(°)とするとき、シェイピング部56は、基準角度θsが90°以上となるように構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1器官内に配置される内視鏡から送り出され第2器官の入口部への挿入に用いられるシャフトを備え、
前記シャフトは、前記シャフトの少なくとも先端部に設けられシェイピングにより形状を調整可能なシェイピング部を備え、
前記シェイピング部の一部を直径9.0mmの円柱体に一巻き分だけ巻き付けた状態で前記シャフトの先端に重量が5.0Nの錘を吊るした後、前記錘を取り除いて静止状態になったときの前記シャフトの初期状態に対する角度変化量を基準角度θs(°)とするとき、前記シェイピング部は、前記基準角度θsが90°以上となるように構成されるカニューラ。
【請求項2】
前記シャフトは、造影剤を通すためのルーメンを内包するシャフト本体と、前記シェイピング部において前記シャフト本体に埋設されるコイルと、を備える請求項1に記載のカニューラ。
【請求項3】
前記シャフト本体は、前記シェイピング部に設けられ外部から前記ルーメン内を視認可能な透明部を備え、
前記コイルには、隣接する素線間にギャップが形成される請求項2に記載のカニューラ。
【請求項4】
前記ギャップの軸方向寸法は、0.10mm以上である請求項3に記載のカニューラ。
【請求項5】
前記シャフトは、前記コイルが埋設されたコイル領域と、前記コイル領域よりも基端側に設けられ前記コイルが埋設されていない非コイル領域とを備える請求項2に記載のカニューラ。
【請求項6】
前記シャフトは、造影剤を通すためのルーメンを内包するシャフト本体を備え、
前記シャフト本体は、少なくとも一層の樹脂層からなり、
前記シェイピング部において前記樹脂層はオレフィン系樹脂により構成される請求項1に記載のカニューラ。
【請求項7】
前記シャフトは、前記シェイピング部において前記シャフト本体に埋設されるコイルを備える請求項6に記載のカニューラ。
【請求項8】
外部からルーメン内を視認可能な透明部を有するシャフト本体と前記シャフト本体に埋設されるコイルとを備えるカニューラを用いて、前記透明部を通して前記ルーメン内の長尺体に付いた螺旋模様及び前記コイルを外部から視認しつつ、前記長尺体を送る長尺体の送り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カニューラ及びカニューラを用いた長尺体の送り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影:Endoscopic Retrograde Chaolangiopancreatography)に用いられるカニューラを開示する。このカニューラのシャフトは、十二指腸内に配置される内視鏡から送り出され、十二指腸に開口する乳頭部から膵管、胆道等の到達目標となる器官内に挿入される。この後、到達した器官内にシャフトの先端から造影剤が注入され、その造影剤を用いたX線撮影により器官の状態を調べることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カニューラを用いる場合、内視鏡から送り出されるシャフトを到達目標となる器官の入口部に挿入するカニュレーションが行われる。本願発明者は、カニュレーションのし易さを良好にするためのカニューラに関して、新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、カニュレーションのし易さを良好にするためのカニューラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のカニューラは、第1器官内に配置される内視鏡から送り出され第2器官の入口部への挿入に用いられるシャフトを備え、前記シャフトは、前記シャフトの少なくとも先端部に設けられシェイピングにより形状を調整可能なシェイピング部を備え、前記シェイピング部の一部を直径9.0mmの円柱体に一巻き分だけ巻き付けた状態で前記シャフトの先端に重量が5.0Nの錘を吊るした後、前記錘を除荷し、静止状態にある前記シャフトの初期状態に対する角度変化量を基準角度θs(°)とするとき、前記シェイピング部は、前記基準角度θsが90°以上となるように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本開示のカニューラによれば、カニュレーションのし易さを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】カニューラの使用状態を示す第1の模式図である。
【
図2】カニューラの使用状態を示す第2の模式図である。
【
図3】カニューラの使用状態を示す第3の模式図である。
【
図4】実施形態のカニューラの全体を示す側面図である。
【
図5】実施形態のカニューラの部分側面断面を示す模式図である。
【
図6A】基準角度θsの測定手順を示す第1の説明図である。
【
図6B】基準角度θsの測定手順を示す第2の説明図である。
【
図6C】基準角度θsの測定手順を示す第3の説明図である。
【
図7】カニューラを用いた長尺体の送り方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための実施形態を説明する。同一又は同等の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
図1を参照する。まず、カニューラ10の利用シーンから説明する。ここでは、ERCPにカニューラ10が用いられる例を説明する。このカニューラ10の用途は一例であり、各種検査、各種手術に用いられてもよい。
【0011】
ERCPは、総胆管、胆嚢等の胆道12及び膵管14のいずれかの器官(ここでは胆道12)に造影剤を注入し、造影剤を用いたX線撮影により器官の状態を調べる検査である。このERCPでは、口から十二指腸16まで内視鏡18が挿入され、その内視鏡18からカニューラ10のシャフト20が送り出される。このシャフト20は、十二指腸16の内腔面に開口する乳頭部22から到達目標となる器官(ここでは胆道12)に挿入される。到達した器官内にはシャフト20の先端から造影剤が注入される。この乳頭部22は、十二指腸16から胆道12及び膵管14の双方の器官に通じる入口部となる。乳頭部22は、その周囲を取り囲む括約筋の収縮により開度を狭くしており、その奥側の部分より窄まって狭くなる狭窄部となる。
【0012】
このようにカニューラ10は、第1器官24(ここでは十二指腸16)内に配置される内視鏡18から送り出され、第2器官26(ここでは胆道12)の入口部26aに挿入するカニュレーションに用いられる。第2器官26の入口部26aは第1器官24の内腔面に開口する。第1器官24、第2器官26のそれぞれは生体の消化器官となる。ここでの消化器官とは、生体の口、咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸含む)、大腸、肛門で構成される消化管の他に、胆管、胆嚢、肝臓が含まれる。ここでの第1器官24は十二指腸、第2器官26は総胆管である例を示すが、これらの具体例は特に限定されない。
【0013】
図2を参照する。カニューラ10は、内視鏡18と組み合わせて用いられる。内視鏡18は、十二指腸内視鏡等の側視型内視鏡である。この内視鏡18は、生体の内部に挿通されるチューブ体32と、チューブ体32の先端部に設けられるカメラ34と、チューブ体32に設けられカニューラ10が挿通されるチャンネル36と、を備える。この他に、内視鏡18は、チューブ体32の基端側に取り付けられるハンドル(不図示)と、チューブ体32の先端部の曲げ量を調整するためのアングルワイヤを用いた湾曲機構(不図示)とを備える。カニューラ10は、内視鏡18においてチューブ体32の基端側に設けられる挿入ポート(不図示)からチャンネル36内に挿入される。
【0014】
カメラ34は、例えば、可視光カメラである。側視型内視鏡に用いられるカメラ34は、チューブ体32の径方向外側を撮像範囲Saとして撮像する。カメラ34により撮像された画像は、生体の外部に配置されたディスプレイに表示される。このカメラ34により撮像された画像を観察しつつ、カニューラ10を用いた術者による処置が施される。ここでのカニューラ10を用いた処置とは、例えば、カニュレーションの他に、シャフト20を通して第2器官26内に造影剤を注入する処置、シャフト20を通して第2器官26内にガイドワイヤーを送り出す処置等をいう。
【0015】
内視鏡18は、チャンネル36から外部に送り出されるシャフト20をチューブ体32の径方向外側に案内する起立台38を備える。起立台38は、チューブ体32に対して回転軸40を中心に回転自在に設けられる。起立台38は、初期位置(
図3の位置)から一方向に回転させることで初期位置からの回転角度を調整可能である。起立台38は初期位置にあるときチューブ体32に対して倒伏しており、その回転角度が大きくなるほどチューブ体32に対する起立度合いが大きくなる。起立台38の回転角度は、ハンドルに設けられた操作レバーにより操作可能である。起立台38は、起立台38との接触位置において、起立台38の回転角度に応じた曲げ量でシャフト20を曲げたうえで、チューブ体32の径方向外側に向けてシャフト20を案内する。
【0016】
ここで、内視鏡18を用いて第2器官26の入口部26aにシャフト20を挿入するカニュレーションの概要とあわせて、本実施形態のカニューラ10を想到するに至った背景を説明する。
【0017】
カニュレーション時には、まず、カメラ34による撮像範囲Sa内に第2器官26の入口部26aが位置するように、第1器官24内における内視鏡18の位置を調整する。この後、内視鏡18のチャンネル36にカニューラ10のシャフト20を挿入し、チャンネル36から外部にシャフト20を送り出す。この後、起立台38を初期位置から回転させることで、シャフト20を曲げた状態にする。この後、カメラ34により第2器官26の入口部26aとシャフト20の先端20aを観察しつつ、その入口部26aに対してシャフト20の先端20aが挿入し易い目標位置に配置されるように、シャフト20の位置、向きを調整する。この後、シャフト20とともに内視鏡18を移動させることで、シャフト20の先端20aを第2器官26の入口部26aに挿入する。このようにシャフト20の目標位置は、シャフト20とともに内視鏡18を移動させることで第2器官26の入口部26aにシャフト20を挿入可能な位置となる。このときの内視鏡18の移動態様は様々である。この移動態様の一例として、チューブ体32の先端部が第2器官26の入口部26aに近づくように、湾曲機構によりチューブ体32を方向Daに湾曲させる場合もある。この他にも、第1器官24内での内視鏡18の前進方向Db1とは逆向きの後退方向Db2に内視鏡18を引く場合もある。
【0018】
図3を参照する。チャンネル36から内視鏡18の外部に送り出されるシャフト20の送出部20bに着目する。シャフト20の送出部20bは、起立台38によりシャフト20の曲げ量を調整しない場合、
図3の二点鎖線で示すように、カメラ34の撮像範囲Saから遠ざかるように内視鏡18の前進方向Db1に向かって延びる。このため、カニュレーション時には、カメラ34の撮像範囲Saにシャフト20の先端20aが配置されるように、シャフト20の送出部20bの曲げ量を調整する必要がある。これを実現するうえで、通常、起立台38により、起立台38との接触位置におけるシャフト20の局所的な曲げ量が調整される(
図2参照)。
【0019】
しかしながら、この場合、起立台38との接触位置でしかシャフト20に大きな曲げ量を付与することができない。よって、起立台38のみを用いて曲げ量を調整する場合、カニュレーション時にシャフト20の送出部20bにおいて実現できる形状が制約されてしまうという問題がある。
【0020】
ここで、本願発明者は、このようなカニュレーションのし易さとの関係で、シャフト20の曲げ癖の付き易さに新たに着目した。シャフト20に曲げ癖が付き易くなるほど、起立台38との接触位置以外において、シャフト20の送出部20bに大きな曲げ量を付与した状態を維持し易くなる(
図3参照)。ひいては、カニュレーション時にシャフト20の送出部20bにおいてシェイピングにより実現できる形状の自由度を高めることができる。カニュレーション時に第2器官26の入口部26aに挿入し易いシャフト20の先端20aの位置、向きは、到達目標となる第2器官26の位置、内視鏡18の移動態様、術者の慣れ等によって様々である。シェイピングにより実現できる形状の自由度が高くなるほど、このようなカニュレーション時におけるシャフト20の先端20aの位置、向きに関する術者の要望に応え易くなり、カニュレーションのし易さを良好にすることができる。
【0021】
また、シェイピングにより実現できる形状の自由度を高くすることで、起立台38との接触位置以外において、シャフト20の送出部20bに大きな曲げ量を付与した状態を維持し易くなる。よって、カニュレーション時に目標位置にシャフト20の先端20aを配置するにあたり、起立台38によりシャフト20に局所的に大きな曲げ量を付与せずに済み、起立台38との接触位置周りでのキンクの発生を抑制できるようになる。
【0022】
本願発明者は、このシャフトの曲げ癖の付き易さを定量的に評価するためのパラメータとして後述する基準角度θsを新たに見出した。更に、本願発明者は、このようなカニュレーションのし易さとの関係で基準角度θsが適した数値範囲となるように設定したシャフト20を新たに見出した。以下、このような背景のもとでなされたカニューラ10を説明する。
【0023】
図4、
図5を参照する。本実施形態のカニューラ10は、シャフト20と、シャフト20の基端側に取り付けられるハンドル50と、を備える。ハンドル50は、医師等の術者により把持される。
【0024】
シャフト20は、シャフト本体52と、シャフト本体52の先端に装着される筒状のチップ部材54と、シェイピングにより形状を調整可能なシェイピング部56と、を備える。チップ部材54の内周部には造影マーカー54aが設けられる。造影マーカー54aは、Pt(例えば、Pt-Ir)、Au,W等を主成分に含む金属(合金を含む)により構成され、X線に対して不透過性を持つ。これにより、X線撮影において生体内部でのカニューラ10の造影マーカー54aの位置を把握できるようになる。
【0025】
シャフト本体52は、造影剤を通すためのルーメン60を内包する。本実施形態において、ルーメン60は造影剤の他にもガイドワイヤーを通すことができる。詳しくは、ルーメン60内にガイドワイヤーを通した状態で、ルーメン60の内壁面とガイドワイヤーとの間の空間を通して造影剤も通すことができる。ハンドル50には、ルーメン60内に造影剤を投入するための第1ポート62Aと、シャフト20のルーメン60内にガイドワイヤーを挿入するための第2ポート62Bとが設けられる。造影剤は、生体の外部空間において第1ポート62Aからルーメン60内に投入され、ルーメン60を経由したうえでチップ部材54を通して第2器官26内に注入される。同様に、ガイドワイヤーは、生体の外部空間において第1ポート62Aからルーメン60に挿入され、ルーメン60を経由したうえでチップ部材54を通して第2器官26内に引き出される。ガイドワイヤーは、例えば、生体の外部にカニューラ10を抜き出す場合に、このカニューラ10をガイドするために用いられる。この他にも、ガイドワイヤーは、カニューラ10を生体の外部に抜き出した後も留置しておき、生体の外部から新たな医療器具(他のカニューラ等)を挿入する場合に、この医療器具をガイドするために用いられる。
【0026】
シャフト本体52は、少なくとも一層の樹脂層64からなる。シャフト本体52は、シェイピング部56を構成する先端シャフト部52bと、先端シャフト部52bよりも基端側に設けられる基端側シャフト部52cとを備える。シャフト本体52は、シェイピング部56(先端シャフト部52b)において、内層66と外層68からなる二層の樹脂層64により構成される。内層66はルーメン60を形成し、外層68は内層66を被覆するとともにシャフト20の外周面を形成する。基端側シャフト部52cは、単層の樹脂層64により構成される。先端シャフト部52bとチップ部材54は熱収縮チューブ、熱融着等により連結される。先端シャフト部52bと基端側シャフト部52cは熱収縮チューブ、熱融着等により連結される。
【0027】
シェイピング部56は、シャフト20の先端部20cに少なくとも設けられる。ここでのシャフト20の先端部20cは、シャフト20の先端20aから基端側に亘る軸方向範囲のうち、少なくともシャフト20の送出部20bを含む軸方向範囲を構成する。シェイピング部56は、シャフト20の送出部20bを構成するともいえる。本実施形態のシェイピング部56は、シャフト20の先端20aから基端側に亘る軸方向範囲のうち、チップ部材54よりも基端側において設けられる。シェイピング部56は、次に説明する基準角度θsが90°以上となるように構成される箇所である。シェイピング部56は、この基準角度θsが90°以上となる部位を特定するための概念に過ぎず、それよりもシャフト20の基端側にある基端側シャフト部52cもシェイピングにより形状を調整可能であってもよい。
【0028】
図6A~
図6Cを参照する。基準角度θsの測定手順を説明する。まず、
図6Aに示すように、曲げ癖のついていない真っ直ぐのシャフト20を準備する。この後、
図6Bに示すように、シャフト20のシェイピング部56の一部を直径9.0mmの円柱体70に一巻き分だけ巻き付けた状態で、シャフト20の先端20aに重量が5.0Nの錘72を吊るす。ここでは、測定治具74と錘本体76を備える錘72を吊るす例を示す。測定治具74は、シャフト20をクランプする治具本体74aと、治具本体74aに設けられた第1フック74bとを備える。錘本体76は、第1フック74bに引っ掛けられる第2フック76aと、第2フック76aに吊り支持される分銅部76bとを備える。この錘72の構成は一例であり、その具体例は特に限定されない。
【0029】
シャフト20は、円柱体70に対するシャフト20の巻付箇所20dよりもシャフト20の先端側に設けられる先端側ストレート部分20eと、その巻付箇所20dよりもシャフト20の基端側に設けられる基端側ストレート部分20fとを備える。円柱体70にシャフト20を巻き付けるとき、円柱体70の軸線方向(
図6の紙面直交方向)から見て、シャフト20の先端側ストレート部分20eと基端側ストレート部分20fとが直線上に並ぶように配置する。
【0030】
このようにシャフト20に錘72を吊るした状態のまま少なくとも30秒保持する。この後、
図6Cに示すように、シャフト20から錘72を取り除くと、円柱体70に対するシャフト20の巻付箇所20dが曲げ癖の付いた状態で復元する。シャフト20の巻付箇所20dは、錘72を取り除いてから徐々に復元するため、その復元が完全に止まる静止状態となるまで待つ。この静止状態になったときのシャフト20の巻付箇所20dにおける初期状態(
図6Aの状態)に対する角度変化量を基準角度θsとする。
【0031】
円柱体70の軸線方向(
図6Bの紙面直交方向)から見た静止状態にあるシャフト20の位置関係を検討する。シャフト20の先端側ストレート部分20eの中心線に沿った直線を第1基準線Lb1とし、その基端側ストレート部分20fの中心線に沿った直線を第2基準線Lb2とする。第1基準線Lb1と第2基準線Lb2の交点を原点Poとする。このとき、基準角度θsは、原点Po周りでの第2基準線Lb2に対する第1基準線Lb1のなす角度として定義される。この基準角度θsは、原点Poから初期状態にあるときのシャフト20の先端20a(
図6Cで二点鎖線で示す)に向かって第2基準線Lb2の延びる線部分を始線とし、円柱体70に対する巻き方向(ここでは反時計回り)を角度の正方向とする。この基準角度θsは、例えば、分度器、画像解析等を用いて計測してもよい。このとき、シャフト20の少なくとも一部(例えば、基端側ストレート部分20f)を机等の平面上に置いた状態で基準角度θsを計測する。シャフト20に錘72を吊るしてから基準角度θsを計測するまでの作業は室温(20℃~30℃)下で行う。
【0032】
この基準角度θsは、シャフト20のシェイピング部56での曲げ癖の付け易さの指標となる。この基準角度θsが大きくなるほど曲げ量(曲率)の大きい曲げ癖をシャフト20のシェイピング部56に付けた状態を維持し易くなる。ひいては、シャフト20の送出部20bにおいてシェイピングにより実現できる形状の自由度が大きくなり、カニュレーションのし易さを良好にすることができる。この観点から、シャフト20のシェイピング部56の基準角度θsは、ある程度の大きさより大きくすることが望ましい。この観点から、本実施形態のシャフト20のシェイピング部56は、ある程度の大きさがあることの目安として、基準角度θsが90°以上となるように構成されることを条件としている。
【0033】
この基準角度θsの下限値は、シャフト20の一般的な素材であるポリエーテルブロックアミド(PEBAX)を用いてシャフト本体52を構成した場合に、その基準角度θsが25度程度になることに基づいて設定した。基準角度θsは、シェイピングにより実現できる形状の自由度を高めるうえでは大きいほど好ましい。基準角度θsの上限値は特に限定されないものの、一例を挙げると、測定条件との関係では360度となり、現状の技術水準との関係では180度となる。勿論、今後の技術水準の進歩に合わせて、基準角度θsを180以上としてもよい。
【0034】
基準角度θsの調整手段として、例えば、次の(A1)、(A2)の少なくとも一方を採用してもよい。(A1)は、シェイピング部56においてシャフト本体52に曲げ癖の付き易い部材を埋設する手法である。(A2)は、シェイピング部56においてシャフト本体52に曲げ癖の付きやすい素材を採用する手法である。
【0035】
本実施形態のシャフト20は、(A1)の手法を採用している。このシャフト20は、曲げ癖の付き易い部材として、シェイピング部56においてシャフト本体52に埋設されるコイル78を備えている。このコイル78は、素線78aを螺旋状に巻き回した形状からなり、その素線の素材は、例えば、ステンレス等の金属の他、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂が採用される。コイル78は、シャフト本体52を構成する樹脂層64に埋設される。本実施形態のコイル78は、シェイピング部56が設けられる先端シャフト部52bにおいて内層66に巻き付けられるとともに外層68に埋設される。これは、例えば、内層66に巻き付けたコイル78に外層68を押出成形することで得ることができる。
【0036】
コイル78をシャフト本体52に埋設した場合、コイル78のピッチを密にするほど基準角度θsを大きくし易くなる。また、コイル78をシャフト本体52に埋設した場合、コイル78の線径を太くするほど基準角度θsを大きくし易くなる。このように、シャフト本体52にコイル78を埋設した場合、コイル78のピッチ、線径の調整により基準角度θsを容易に調整できるようになる。
【0037】
(A2)の手法を採用する場合、曲げ癖の付き易い素材として、例えば、オレフィン系樹脂、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))等を、シェイピング部56におけるシャフト本体52を構成する樹脂層64の素材に採用してもよい。このオレフィン系樹脂は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等が含まれる。曲げ癖の付き易い素材を採用する場合、好ましくは、シャフト本体52の肉厚を調整することで基準角度θsを90°以上となるように構成してもよい。シャフト本体52の肉厚が厚くなるほど曲げ癖が付き易くなる。このような曲げ癖の付き易い素材を採用した場合、通常、シャフト本体52のキンクが生じ易いという問題がある。この点、曲げ癖の付き易い素材を採用しつつコイル78を併用することで、耐キンク性を確保しつつ大曲率の曲げ癖を付け易くなる。また、オレフィン系樹脂を採用した場合、耐キンク性、大曲率の曲げ癖を付け易くしつつ、良好な滑り性を得ることができるという利点もある。
【0038】
本実施形態のように、シェイピング部56においてシャフト本体52(先端シャフト部52b)が二層以上の樹脂層64により構成される場合を考える。この場合、シャフト本体52の外周面を形成する樹脂層64(ここでは外層68)と、そのルーメン60を形成する樹脂層64(ここでは内層66)の少なくとも一方がオレフィン系樹脂により構成されると好ましい。シャフト20の外周面を形成する樹脂層64をオレフィン系樹脂により構成した場合、シャフト20の外周面と他物体(内視鏡18、内腔面)との接触時における滑り性を確保しつつ、曲げ量の大きい曲げ癖を付け易くなる。ルーメン60を形成する樹脂層64がオレフィン系樹脂により構成される場合、ルーメン60内を挿通されるガイドワイヤーとの接触時における滑り性を確保しつつ、曲げ量の大きい曲げ癖を付け易くなる。これを実現するうえで、外層68及び内層66の双方がオレフィン系樹脂により構成されてもよい。シェイピング部56においてシャフト本体52が単層の樹脂層64により構成される場合、その樹脂層64がオレフィン系樹脂により構成されていればよい。
【0039】
前述の(A2)の手法を採用しない場合、シェイピング部56においてシャフト本体52を構成する樹脂層64の素材は特に限定されない。この樹脂層64の素材は、例えば、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ナイロン、PEBAX、フッ素系樹脂等のカニューラに用いられる各種素材を用いてもよい。
【0040】
シャフト20のシェイピング部56のシェイピング方法として、例えば、次の(B1)、(B2)の少なくとも一つを採用してもよい。(B1)は、内視鏡18のチャンネル36内にシャフト20を挿入する前に、生体の外部において術者の手作業でシャフト20のシェイピング部56を曲げることでシェイピングする方法である。この場合、チャンネル36内を経由することで、シャフト20のシェイピング部56に付けた曲げ癖の曲げ量が低減することもあり得る。(B2)は、起立台38を用いて、内視鏡18のチャンネル36から送り出されたシャフト20のシェイピング部56を曲げることでシェイピングする方法である。この場合、起立台38を用いたシャフト20のシェイピング部56の曲げと、シャフト20の送り出し量の変更とを繰り返すことで、シャフト20の複数の軸方向位置で曲げ癖を付与するとよい。
【0041】
以上のカニューラ10の効果を説明する。シャフト20のシェイピング部56は、基準角度θsが90°以上となるように構成される。よって、基準角度θsが90°よりも小さい場合(例えば、30°未満の場合)と比べ、シャフト20のシェイピング部56においてシェイピングにより実現できる形状の自由度が大きくなる。ひいては、前述のように、カニュレーション時におけるシャフト20の先端20aの位置、向きに関する術者の要望に応え易くなり、カニュレーションのし易さを良好にすることができる。また、基準角度θsが90°よりも小さい場合と比べ、前述のように、カニュレーション時に目標位置にシャフト20の先端20aを配置するにあたり、起立台38との接触位置周りでのシャフト20のキンクの発生を抑制することができる。
【0042】
カニュレーション時には、前述のように、内視鏡18のチャンネル36からカニューラ10のシャフト20を送り出す。この後、起立台38を初期位置から回転させてシャフト20を曲げた状態にする。この後、前述のように、カメラ34により第2器官26の入口部26aとシャフト20の先端20aを観察しつつ、シャフト20を挿入し易い目標位置に配置する。この後、前述のような、第2器官26の入口部26aへのシャフト20を挿入に先立って、回転角度を調整した位置から起立台38を初期位置に戻す。これにより、起立台38との接触によりシャフト20の送り出し長さを調整し難くなる事態を回避できる。このとき、シャフト20のシェイピング部56に曲げ癖が付き易くなっているため、起立台38を初期位置に戻したとしても、起立台38の回転角度に応じた曲げ量でシャフト20を曲げた状態を維持したままにし易くなる利点がある。起立台38を初期位置に戻した後は、前述のように第2器官26の入口部26aにシャフト20を挿入する。この後、必要に応じて、シャフト20から第2器官26内にガイドワイヤー(不図示)を引き出す。
【0043】
シャフト20は、シェイピング部56においてシャフト本体52に埋設されるコイル78を備える。よって、コイル78の埋設箇所においてコイル78によりシャフト20のキンクに抵抗でき、耐キンク性を向上させることができる。
【0044】
このように耐キンク性を高めるうえでシャフト本体52の肉厚を増大させる手法も想定される。シャフト本体52の肉厚を増大させた場合、ルーメン60の小内径化及びシャフト本体52の大外径化の少なくとも一方を招く。ルーメン60が小内径化するほど、ルーメン60内に注入される造影剤の流量の低減により造影力の低下を招く。また、シャフト本体52が大外径化するほど、カニュレーション時において、第2器官26の入口部26aに対してシャフト20の先端部20cを挿入し難くなり、その入口部26aに対するアクセス性の低下を招く。
【0045】
この点、本実施形態によれば、シェイピング部56においてシャフト本体52に埋設されるコイル78により、シャフト本体52の大きな肉厚増大を招くことなく耐キンク性を高めることができる。よって、シャフト本体52の外径及び内径が同じでコイル78がないカニューラと比べて、ルーメン60の内径を維持することで造影力を維持したまま、耐キンク性を高めることができる。また、同様のコイル78がないカニューラと比べて、シャフト本体52の外径を維持することでアクセス性を維持したまま耐キンク性を高めることができる。ひいては、耐キンク性、造影力、アクセス性のそれぞれについてバランスよく良好なカニューラ10を実現できるようになる。
【0046】
次に、カニューラ10の他の特徴を説明する。シャフト本体52は、シェイピング部56に設けられ外部からルーメン60内を視認可能な透明部80を備える。ここでの「視認可能」とは、ルーメン60内を通る造影剤の有無及びガイドワイヤーの動きの少なくとも一方を視認可能であればよく、その条件を満たせば透明部80において白濁していてもよい。ここでの「視認可能」とは、カメラ34を用いずに目視により直接に視認可能であってもよいし、内視鏡18のカメラ34により撮像された画像において視認可能であってもよい。透明部80は、シャフト本体52の透明部80となる箇所(樹脂層64)を透明素材により構成することで実現される。
【0047】
本実施形態の透明部80はシャフト本体52の全周範囲に設けられるが、その一部の周方向範囲のみに設けられていてもよい。また、本実施形態の透明部80は、シェイピング部56の軸方向範囲の全域においてシャフト本体52に設けられるが、その軸方向範囲の一部にのみシャフト本体52に設けられてもよい。また、本実施形態の透明部80は、シャフト本体52の先端部52aから基端部までの軸方向全範囲に設けられる。
【0048】
このような透明部80をシャフト本体52が備えることで、カメラ34を用いた観察により、シャフト本体52のルーメン60内を通る造影剤、ガイドワイヤーの状態を把握できるようになる。例えば、ルーメン60内に造影剤を通す場合を考える。この場合、カメラ34を用いた観察により、シャフト本体52の透明部80を通してルーメン60内の造影剤の有無を視認することで、ルーメン60内を造影剤が通っているか把握できる。この他にも、ルーメン60内にガイドワイヤーを通す場合を考える。この場合も、カメラ34を用いた観察により、シャフト本体52の透明部80を通してガイドワイヤーの動きを確認することで、ルーメン60内をガイドワイヤーがどの程度の速度、移動量で移動しているか把握できるようになる。なお、これを実現するうえで、ガイドワイヤーの外周面には、通常、ガイドワイヤーの軸方向移動を視認するための模様(例えば、螺旋模様)が付与されている。
【0049】
コイル78には、シャフト20の軸方向に隣接する素線78a間にギャップ82が形成される。これにより、シャフト20の透明部80において外部からルーメン60内を視認するうえで、コイル78のギャップ82を通してルーメン60内を視認できるようになる。このようにルーメン60内を視認できるようにすることで、シャフト本体52にコイル78を埋設した場合でも、ルーメン60内を通る造影剤等の状態を把握できるようになる。
【0050】
このような観点からギャップ82の軸方向寸法L82は、好ましくは、0.10mm以上である。この軸方向寸法L82は、0.28mm以上、0.40mm以上の順で更に好ましい条件となる。ギャップ82の軸方向寸法L82の上限値は特に限定されないものの、耐キンク性との関係では小さいことが好ましい。コイル78の耐キンク性は、素線78aの太さ、素材等によって変わるものの、良好な耐キンク性を得る観点からギャップ82の軸方向寸法L82は、例えば、10.0mm以下としてもよい。
【0051】
このギャップ82の軸方向寸法L82は、次に説明する官能評価試験に基づいて設定した。この官能評価試験では、
図4に示すカニューラ10を用いて、ギャップ82の軸方向寸法L82を変えた条件のもとで、ルーメン60内を通されるガイドワイヤーの動きを視認できるか否かを確認することで、視認性を評価した。この官能評価試験では、内視鏡18から送り出したシャフト20を模擬的な乳頭部22に挿入した状態のもと、シャフト20のルーメン60内に実際にガイドワイヤーを通した。ガイドワイヤーは、ルーメン60内での動きを把握できるように螺旋模様を付した。このとき、内視鏡18のカメラ34によりカニューラ10の送出部20bを撮像し、カメラ34により撮像した画像を目視により確認することで、視認性を評価した。このとき、被写体の実際の大きさに対する画像上での被写体の大きさの割合は10倍とした。
【0052】
視認性は、以下に示す3段階で評価した。ガイドワイヤーの動きを明瞭に視認できる場合はAとした。Aよりもガイドワイヤーの動きの視認し易さに劣るものの、ガイドワイヤーの動きを把握するうえで支障ない場合はBとした。ガイドワイヤーの動きを僅かに視認できる場合はCとした。以下の表1は、ギャップ82の軸方向寸法と視認性との関係を示す。ガイドワイヤーは線径(直径)を0.08mmとした。
【0053】
【0054】
ギャップ82の軸方向寸法が0.07mmであると、ガイドワイヤーの動きを僅かに視認できた。ギャップ82の軸方向寸法が0.28mmであると、ガイドワイヤーの動きを視認し易くなった。ギャップ82の軸方向寸法が0.48mmであると、ガイドワイヤーの動きを更に視認し易くなった。これらの結果に基づいて、僅かにでも見やすくするための条件として0.10mm、更に見やすくするための条件として0.28mm、より一層見やすくするための条件として0.40mmと設定した。
【0055】
シャフト本体52の先端からハンドル50までの軸方向寸法をL52とする。シャフト20は、コイル78の埋設されたコイル領域84と、コイル78の埋設されていない非コイル領域86とを備える。コイル領域84は先端シャフト部52bにより構成され、非コイル領域86は基端側シャフト部52cにより構成される。本実施形態のコイル領域84は、シャフト本体52の軸方向寸法L52を二等分する位置よりも先端側に設けられる。コイル領域84の軸方向寸法の下限値は、特に限定されないが、例えば、良好な耐キンク性を得る観点からは20.0mm以上としてもよい。非コイル領域86はコイル領域84よりも基端側に設けられる。これにより、シャフト20の全長にコイル領域84とするよりコイル78の使用量を削減でき、カニューラ10の低コスト化を実現できるようになる。
【0056】
以下、本開示内容の実施例を説明する。第1実施例では、シェイピング部56においてシャフト本体52の外層68をポリエーテルブロックアミド、内層66をポリアミドとし、コイル78の線径を直径0.08mm、コイル78のギャップ82の軸方向寸法を0.52mmとした。この場合、シャフト20のシェイピング部56における基準角度θsを103°とすることができた。第2実施例では、シェイピング部56においてシャフト本体52の外層68及び内層66の双方をポリエチレン、コイル78の線径を直径0.08mm、コイル78のギャップ82の軸方向寸法を0.52mmとした。この場合、シャフト20のシェイピング部56における基準角度θsを135度とすることができた。いずれの例でもコイル78の素材はステンレスとした。
【0057】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0058】
シャフト20のシェイピング部56はコイル78を備えずともよい。この場合、シャフト20のシャフト本体52は、曲げ癖の付き易い素材(オレフィン系樹脂、フッ素樹脂(PTFE)等)により構成しつつ、シャフト本体52の肉厚を調整するとよい。シャフト20のシェイピング部56は一層の樹脂層64により構成されてもよいし、三層以上の樹脂層64により構成されてもよい。シャフト20のシェイピング部56がコイル78を備える場合、シャフト本体52は、シェイピング部56において透明部80を備えずともよい。コイル78はギャップ82が形成されていなくともよい。コイル78のギャップ82は0.10mm未満でもよい。シャフト20は非コイル領域86を備えずともよい。
【0059】
図7を参照する。以上のカニューラ10を用いた長尺体90の送り方法を説明する。
図7は、第1実施形態のカニューラ10の透明部80の拡大図である。
図7では、カニューラ10の外部から視認できる形状を示す。長尺体90は、カニューラ10のルーメン60内に挿通される。長尺体90は、例えば、前述したガイドワイヤーであるが、その具体例はこれに限定されず、他の医療機器でもよい。長尺体90の外周部には螺旋模様92が付されている。ここでは、説明の便宜のため、螺旋模様92にハッチングを付して示す。ここでの螺旋模様92のなす螺旋の巻き方向は、カニューラ10のコイル78のなす螺旋の巻き方向と同じであるが、逆向きでもよい。螺旋模様92のなす螺旋のピッチ(一巻きあたりの軸方向に進む距離)はコイル78のなす螺旋のピッチと同等である。ここでの同等は、言及している対象が同一又はほぼ同一であることをいう。
【0060】
長尺体90の送り方法は、このようなカニューラ10及び長尺体90を準備するステップと、カニューラ10のルーメン60内に長尺体90を送るステップとを含む。長尺体90を送るステップでは、カニューラ10の透明部80を通して、長尺体90の螺旋模様92及びコイル78を外部から視認しつつ、シャフト20の軸方向に長尺体90を送る。このとき、コイル78のいずれかの巻き部分に対する螺旋模様92の相対的な動きを視認することで、長尺体90の送り速度を容易に把握できるようになる。この長尺体90の送り速度を把握するにあたって、コイル78の存在する軸方向範囲のいずれにある巻き部分に注目してもよいため、使い勝手がよい。また、コイル78と螺旋模様92とで螺旋の巻き方向が同じであり、それらのピッチが同等である場合、コイル78のどの巻き部分に注目しても、巻き部分に対する螺旋模様92の相対速度がほぼ同じとなる。よって、コイル78のどの巻き部分に注目しても、同様の精度で長尺体90の送り速度を把握できる。なお、この送り方法を実現するうえで、シャフト20のシェイピング部56の基準角度θsは90°以上である必要はない。
【0061】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造、数値には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【0062】
以上の実施形態、変形形態により具体化される技術的思想を一般化すると、以下の項目に記載の技術的思想が含まれているともいえる。
【0063】
第1項目は、外部からルーメン内を視認可能な透明部を有するシャフト本体と前記シャフト本体に埋設されるコイルとを備えるカニューラを用いて、前記透明部を通して前記ルーメン内の長尺体に付いた螺旋模様及び前記コイルを外部から視認しつつ、前記長尺体を送る長尺体の送り方法である。
【0064】
第2項目は、第1器官に配置される内視鏡から送り出され第2器官の入口部への挿入に用いられるシャフトを備え、前記シャフトは、造影剤を通すためのルーメンを内包するシャフト本体と、前記シャフト本体の少なくとも先端部に埋設されるコイルと、を備えるカニューラである。
【0065】
この項目に記載の技術的思想の目的は、耐キンク性、造影性、アクセス性のそれぞれについてバランスよく良好なカニューラを実現することにある。
【符号の説明】
【0066】
10…カニューラ、18…内視鏡、20…シャフト、20c…先端部、24…第1器官、26…第2器官、26a…入口部、52…シャフト本体、56…シェイピング部、60…ルーメン、64…樹脂層、70…円柱体、72…錘、76…コイル、76a…素線、80…透明部、82…ギャップ、84…コイル領域、86…非コイル領域。