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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063438
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】鉄道車両用構体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/08 20060101AFI20240502BHJP
   B61D 37/00 20060101ALI20240502BHJP
   B61D 25/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B61D17/08
B61D37/00 G
B61D25/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171388
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 茂
(72)【発明者】
【氏名】小畑 亮二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正
(72)【発明者】
【氏名】須田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】白井 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健悟
(72)【発明者】
【氏名】大塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 賢太
(57)【要約】
【課題】側構体に表示器の窓を備えた場合でもその強度を補うことが可能な構造の鉄道車両の提供。
【解決手段】行先表示器200を側構体に備える鉄道車両10において、行先表示器200は、側構体40に保持され、行先表示器200を車外から視認できるように、行先表示窓部100が側構体40に開口して形成され、行先表示窓部100は、行先表示器200を取り付ける表示窓取付枠110と、表示窓取付枠110にネジ止めされるカバー(保持枠130)と、保持枠130と表示窓取付枠110に挟まれて保持される透過部材(窓部材140)と、を有し、表示窓取付枠110は、側構体40に備える外板45と同じ材料、又はより強度の高い材料で作られ、開口部(窓抜部116)の強度を補うこと。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
行先表示器を側構体に備える鉄道車両において、
前記行先表示器は、前記側構体に保持され、
前記行先表示器を車外から視認できるように、行先表示窓部が前記側構体に開口して形成され、
該行先表示窓部は、前記行先表示器を取り付ける表示窓取付枠と、該表示窓取付枠にネジ止めされるカバーと、該カバーと前記表示窓取付枠に挟まれて保持される透過部材と、を有し、
前記表示窓取付枠は、前記側構体に備える外板と同じ材料、又はより強度の高い材料で作られ、前記行先表示窓部の強度を補うこと、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠は、前記側構体の前記外板に対してシアプレートを介して溶接して設けられること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠は、
開口部を有する底面と、
該底面の4辺から車両内側に向かって立設された立上部と、
該立上部の車両内側端部から前記開口部とは反対側に延設された耳部を有し、
該耳部にフロードリル加工によるネジ穴が形成され、
前記カバーは、
前記ネジ穴に対応する貫通孔を有すること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠の、前記底面の四隅から立設する前記立上部が切り欠かれることで、隣り合う前記立上部の隣接する端部はお互いに離間していること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
行先表示器を側構体に備える鉄道車両の製造方法において、
前記行先表示器を車外から視認可能とする開口を前記側構体に設ける第1工程と、
前記側構体の車両内側に、表示窓取付枠を、底面に設けた開口部を前記側構体の前記開口に合わせるように配置して溶接する第2工程と、
前記表示窓取付枠にカバーをネジ止めすることで透過部材を挟持させる第3工程と、
前記表示窓取付枠の車両内側に前記行先表示器をネジ止めして取り付ける第4工程よりなること、
を特徴とする鉄道車両の製造方法。
【請求項6】
行先表示器を側構体に備える鉄道車両の製造方法において、
前記行先表示器を車外から視認可能とする開口を、前記側構体の外板に設ける第1工程と、
強度を補強するためのシアプレートを、前記外板の車内側に配置して溶接する第2工程と、
前記シアプレートの車内側に、底面に設けた開口部を前記外板の前記開口の位置に合わせて表示窓取付枠を設置すると共に、該表示窓取付枠を前記シアプレートに溶接する第3工程と、
前記表示窓取付枠にカバーをネジ止めすることで透過部材を挟持させる第4工程と、
前記表示窓取付枠の車両内側に前記行先表示器をネジ止めして取り付ける第5工程よりなること、
を特徴とする鉄道車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用構体の構造における技術に関し、具体的には鉄道車両に設けられた行先表示窓取付枠の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉄道車両には、側構体の上部などに乗客に案内するために行き先や運行区間、路線名などを表示する行先表示器(行先表示幕)が備えられている。かつての行先表示器は方向幕などと呼ばれて、機械巻き取り式の方向幕を巻き取って表示を変えていたが、近年はLED表示器の採用が多く薄型のものが多くなった。
【0003】
しかし、薄くなったとはいえ、こうした行先表示器を側構体に取り付ける際には、側構体の上部に設けられた取付金具を用いて車内側から取り付けられ、外板に開口部が設けられることで当該開口部から車内側に取り付けられた行先表示器が確認できる構成とするのが一般的である。そして、鉄道車両にステンレス構体を採用すると、車内側に取付金具が溶接して設けられることで、車外に溶接痕や凹凸などが出てしまい美観を損ねるなどの問題があった。
【0004】
ステンレス鋼製の鉄道車両構体は、高強度かつ腐食に強く表面硬度が高いという特徴を有しているため、塗装などの表面処理が不要でメンテナンス性に優れる。その一方で、ステンレス鋼の線膨張係数が大きい上に熱伝導率が比較的小さいという材料特性により、溶接を行うと局部に熱が溜まって熱変形を起こし易いという特性がある。取付金具の溶接痕は、こうしたステンレス鋼の特性に起因するものである。このため、側構体に用いる外板の美観を保つために、近年では様々な方法が提案されている。
【0005】
特許文献1に、鉄道車両用側構体及びその製造方法に関する技術が開示されている。外板開口部の周縁内側にシアプレートを設けており、外板横骨部材はシアプレートまで延びると共に、断面略コの字状の本体部と、この本体部の端縁に連続して互いに反対方向に延びるように設けられ外板に接合される2つの取付フランジ部とを有する断面ハット形状とされる。この結果、縦方向の接合線や横方向の接合線の止端を開口部周辺からなくし、開口部周辺の見栄えを向上させることができる。
【0006】
特許文献2に、鉄道車両に関する技術が示されている。側構体の側外板の外側面に表示器が設けられている。この表示器は、筐体が板状で表示画面が平面になっているフラットパネルディスプレイである。表示器が、側構体のドア開口と窓開口との間に、または窓開口の上側或いは下側に、またはドアに対し、接着又はネジ止めによって取り付けられる。表示器の表面が保護膜にて覆われ、周囲にシール材が設けられている。側構体の側外板の外側面に表示器を設けるために、側構体の強度を低下させることがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-112344号公報
【特許文献2】特開2013-23188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術を用いた場合に、どのように表示器を保持させるかについては言及がなく、何らかのブラケットを設けて取り付けるということにもなれば、質量が増える結果となる。側構体に開口部を設けることで側構体の強度低下を招くが、特許文献1では開口部の周囲に設けるシアプレートと、外板の強度を増す目的で用意された補強枠部材を外板横骨部材に溶接して設ける構成とすることで補強する構成となっているため、補強枠部材を設ける場合も質量の増加に繋がる。
【0009】
一方、特許文献2の技術を用いて表示器を備えた鉄道車両を製造する場合、側構体の外側に表示器を貼り付けるなどの理由から、表示器に防水性能や薄さなどが要求される。また、鉄道車両のデザインの自由度が低下する等の理由から、側構体の外側に表示器を設けることを避ける場合もあるため、側構体の内側に表示器を設ける方法が求められている。
【0010】
そこで、本発明はこの様な課題を解決し、側構体に表示器用の開口部を備えた場合でもその強度を補うことが可能な構造の鉄道車両の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両は、以下のような特徴を有する。
【0012】
(1)行先表示器を側構体に備える鉄道車両において、
前記行先表示器は、前記側構体に保持され、
前記行先表示器を車外から視認できるように、行先表示窓部が前記側構体に開口して形成され、
該行先表示窓部は、前記行先表示器を取り付ける表示窓取付枠と、該表示窓取付枠にネジ止めされるカバーと、該カバーと前記表示窓取付枠に挟まれて保持される透過部材と、を有し、
前記表示窓取付枠は、前記側構体に備える外板と同じ材料、又はより強度の高い材料で作られ、前記行先表示窓部の強度を補うこと、
を特徴とする。
【0013】
上記(1)に記載の態様によって、鉄道車両の側構体に行先表示窓部を開口して設けた場合にも、側構体の車両側から取り付けた表示窓取付枠が強度部材として機能するために、他の補強を備えなくとも側構体の必要強度を満足することが可能である。これは、表示窓取付枠に側構体に用いる外板と同じ材料を採用したからであり、表示窓取付枠を側構体に溶接する構造とすることで、側構体の一部を開口して行先表示窓部を設けることで構造的な強度が低下したとしても、表示窓取付枠が強度部材として機能することで、全体として構造強度の低下を抑えることが可能となる。
【0014】
車体の撓みに起因する側構体への影響は、構造的に弱くなる行先表示窓部が設けられた場所に出ることになる。このため、側構体の行先表示窓部周辺を起点とした変形を抑制するために、外板に用いる材料と同じか、より強度の高い材料を表示窓取付枠に用いることで、より側構体の構造的な強度の向上を図ることができる。
【0015】
(2)(1)に記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠は、前記側構体の前記外板に対してシアプレートを介して溶接して設けられること、
が好ましい。
【0016】
上記(2)に記載の態様によって、シアプレートを用いることで側構体の剛性の低下を抑制することが可能となる。また、シアプレートに対して表示窓取付枠を溶接するため、表示窓取付枠をシアプレートに溶接する時に生じる溶接痕に関しては、外板に直接現れず、結果的に車両構体の美観に影響しない。また、シアプレートを外板に溶接するにあたっては、外観上目立ちやすい縦方向の溶接を減らし、横方向の溶接でその強度を確保することが可能となるため、車両構体の美観向上に寄与することが可能である。
【0017】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠は、
開口部を有する底面と、
該底面の4辺から車両内側に向かって立設された立上部と、
該立上部の車両内側端部から前記開口部とは反対側に延設された耳部を有し、
該耳部にフロードリル加工によるネジ穴が形成され、
前記カバーは、
前記ネジ穴に対応する貫通孔を有すること、
が好ましい。
【0018】
上記(3)に記載の態様によって、表示窓取付枠の立上部が例えば曲げ加工などを用いることによって立設されることで強度が増す他、フロードリル加工を用いてネジ穴を形成する手法を採用することで、表示窓取付枠に用いる板材の板厚を抑え、外板と同じ材料、又はより強度の高い材料を用いて表示窓取付枠を形成することができる。したがって、コストダウンに貢献することができる。
【0019】
従来は、表示窓取付枠を強度部材として考えるという発想がなかったために、加工の容易な素材を用いることが多かった。そして、軽量化を図る観点から、耳部は折り曲げることで厚みを確保してタップをたてネジ穴を形成するヘミング加工を採用することが多かった。ヘミング加工は、折り返して厚みを確保することの可能な手法であり、柔らかい鋼材を用いる必要がある。その結果、表示窓取付枠を強度部材として扱うことが難しく、また、折り曲げる必要があるために質量が増える。こうした問題を(3)の態様を採用することで改善できるため、側構体の強度を高めつつ軽量化を図ることが可能となる。
【0020】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の鉄道車両において、
前記表示窓取付枠の、前記底面の四隅から立設する前記立上部が切り欠かれることで、隣り合う前記立上部の隣接する端部はお互いに離間していること、
が好ましい。
【0021】
上記(4)に記載の態様によって、表示窓取付枠の溶接性を向上させることが可能となる。鉄道車両構体の製造において、例えばレーザー溶接を用いるケースは多いが、溶接するにあたっては溶接部に近接する部分を押さえる必要がある。このため、表示窓取付枠の底面の四隅から立設する立上部が切り欠かれて、立上部の隣接する端部がお互いに離間している構造となっていることで、表示窓取付枠の隅まで溶接が可能となるため、側構体の強度を高めることが可能である。
【0022】
また、前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両の製造方法は、以下のような特徴を有する。
【0023】
(5)行先表示器を側構体に備える鉄道車両の製造方法において、
前記行先表示器を車外から視認可能とする開口を前記側構体に設ける第1工程と、
前記側構体の車両内側に、表示窓取付枠を、底面に設けた開口部を前記側構体の前記開口に合わせるように配置して溶接する第2工程と、
前記表示窓取付枠にカバーをネジ止めすることで透過部材を挟持させる第3工程と、
前記表示窓取付枠の車両内側に前記行先表示器をネジ止めして取り付ける第4工程よりなること、
を特徴とする。
【0024】
(6)行先表示器を側構体に備える鉄道車両の製造方法において、
前記行先表示器を車外から視認可能とする開口を、前記側構体の外板に設ける第1工程と、
強度を補強するためのシアプレートを、前記外板の車内側に配置して溶接する第2工程と、
前記シアプレートの車内側に、底面に設けた開口部を前記外板の前記開口の位置に合わせて表示窓取付枠を設置すると共に、該表示窓取付枠を前記シアプレートに溶接する第3工程と、
前記表示窓取付枠にカバーをネジ止めすることで透過部材を挟持させる第4工程と、
前記表示窓取付枠の車両内側に前記行先表示器をネジ止めして取り付ける第5工程よりなること、
を特徴とする。
【0025】
上記(5)または(6)に記載の態様によって、(1)及び(2)に記載される鉄道車両の製造が可能となり、行先表示窓部を設けると同時に、表示窓取付枠によって側構体の必要強度を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態の、鉄道車両の側面図である。
図2】本実施形態の、車両内側から見た表示窓取付枠の部分拡大側面図である。
図3】本実施形態の、表示窓取付枠の斜視図である。
図4】本実施形態の、表示窓取付枠の取付状態を示す分解斜視図である。
図5】本実施形態の、シアプレートの溶接状態を示す平面図である。
図6】本実施形態の、溶接部分の断面を示す部分断面図である。
図7】本実施形態の、行先表示窓部の断面図である。
図8】本実施形態の、行先表示窓部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の、鉄道車両10の側面図を示す。図2に、車両内側から見た表示窓取付枠110の部分拡大側面図を示す。図1のA部を裏側(車両内側)から見た平面図である。鉄道車両10は、屋根構体20と妻構体30と側構体40と台枠50を有し、側構体40には、複数の窓部41と出入口42が形成されている。また、側構体40の一部には行先表示窓部100が設けられている。なお、窓部41や出入口42に設けられている窓枠や開閉扉などは省略し、開口部のみを図示している。
【0028】
側構体40の上部に設けられている行先表示窓部100は、外板45に対してシアプレート120が溶接され、その上から窓部材140(図8参照)を保持するための表示窓取付枠110が溶接されて取り付けられている。図3に、表示窓取付枠110の斜視図を示す。表示窓取付枠110は、中央に窓抜部116として長方形の抜き部が設けられた底面112の四辺に、それぞれ立上部113が立設され、各立上部113の車両内側先端から底面112に平行であって窓抜部116とは反対の方向へ耳部111が延設されている。この耳部111には複数のネジ穴115が設けられている。
【0029】
また、底面112の四隅は角部114が形成され、角部114には立上部113が立設されない構成となっている。つまり隣り合う立上部113同士が角部114を挟んで離間して立設されている。これは底面112の辺の長さに対して立上部113の一辺の長さが短く設定されているという意味でもある。また、表示窓取付枠110に用いる材料は、外板45と同じ材料が採用されており、具体的には例えばSUS301Lなどの比較的高強度な特殊鋼を用いている。外板45より高強度な材料を選択する場合は、例えばSUS301L-Hなど加工硬化された高強度ステンレス材を用い、より側構体40の強度を高めることが可能である。
【0030】
図4に、表示窓取付枠110の取付状態を分解斜視図として示す。表示窓取付枠110が側構体40に取り付けられるにあたっては、シアプレート120を介して外板45に溶接されている。図5に、シアプレート120の溶接状態を平面図として示す。シアプレート120は、外板45にかかる応力を緩和する目的の補強部材であり、外板45の窓抜部116に対応する部分に窓抜部116が設けられている。
【0031】
図5に示すようにシアプレート120は外板45に接して溶接して保持されている。溶接箇所となる外側溶接線L1で示され、概ね鉄道車両10の長手方向(レール方向)、つまり進行方向に沿って設けられている。シアプレート120は外板45の裏面(車内側)の窓抜部116の周囲に配置されるが、その他の部分には板材を断面ハット形状に折り曲げた補強部材150が車両長手方向に配設され、高さ方向に離間しつつ複数並べて溶接接合されている。
【0032】
図6に、溶接部分の断面を示す部分断面図を示す。前述したシアプレート120の車両内側(図6ではシアプレート120の上側)に、図4に示すように表示窓取付枠110を重ねて溶接する。溶接箇所は、図6に示すように底面112とシアプレート120が重ねられる場所で、内側溶接線L2が形成される。
【0033】
図7に、行先表示窓部100の断面図を示す。図8に、行先表示窓部100の分解斜視図を示す。透過性の高いガラスなどの材料を用いた窓部材140は、表示窓取付枠110の窓抜部116を塞ぐように配置される。この略長方形の窓部材140は、その周囲を表示窓取付枠110と保持枠130とでシール材106を介して挟んで保持されている。保持枠130は、表示窓取付枠110の耳部111に設けられたネジ穴115を利用して表示窓取付枠110に対して固定される。シーリング材105は、窓抜部116の外周に施工されており、外部からの水や埃の侵入を防ぐ機能を有している。
【0034】
保持枠130の車内側の面には、表示窓取付枠110に設けられたネジ穴115を利用して、行先表示器200が取り付けられている(本実施形態では、行先表示器200と保持枠130とを、表示窓枠110に設けられたネジ穴115にボルトを用いて共締めして取り付けている)。行先表示器200は図8に示される様に窓部材140越しに車外から行先表示が見えるように取り付けられる。したがって、図8に描かれない面にLEDなどを利用したディスプレイ部分が設けられている。なお、行先表示器200の取付に関しては、別途ブラケットを用いて取り付けることを妨げない。
【0035】
本実施形態の鉄道車両10は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0036】
まず、表示窓取付枠110によって鉄道車両10の側構体40に設けられた開口部(窓抜部116)を補強することが可能となることが効果として挙げられる。これは、行先表示器200を側構体40に備える鉄道車両10において、行先表示器200は、側構体40に保持され、行先表示器200を車外から視認できるように、行先表示窓部100が側構体40に開口して形成されているからである。
【0037】
また、行先表示窓部100は、行先表示器200を取り付ける表示窓取付枠110と、表示窓取付枠110にネジ止めされるカバー(保持枠130)と、保持枠130と表示窓取付枠110に挟まれて保持される透過部材(窓部材140)と、を有し、表示窓取付枠110は、側構体40に備える外板45と同じ材料で作られ、開口部(窓抜部116)の強度を補う。つまり、表示窓取付枠110によって側構体40の剛性を高めている。
【0038】
車体にかかる荷重は、垂直荷重や車端荷重、ねじり荷重や気密荷重など様々なものが想定されるが、課題に示した通り、側構体40に行先表示窓部100を設けた場合には垂直荷重がかかった際に、行先表示窓部100を設けた部分での強度低下が問題となる。しかし、表示窓取付枠110の強度を高める必要がある一方で、質量の増加は極力避けたい。そこで、表示窓取付枠110を外板45と同じSUS301Lなどの高強度ステンレス材を用い、外板45に溶接して取り付けることで、行先表示窓部100での強度低下を抑制することができる。さらに、必要に応じて表示窓取付枠110は、外板45よりも強度の高いSUS301L-Hなどの材料を用いることで、より側構体40の強度低下の抑制に貢献できる。この結果、行先表示窓部100を設けた部分に応力が集中して、車体が破損するようなことを防ぐことができる。
【0039】
また、表示窓取付枠110は、開口部(窓抜部116)を有する底面112と、曲げ加工によって4辺が底面112から立ち上げられ形成された立上部113と、立上部113の先端から外側に延設された耳部111を有し、耳部111にフロードリル加工(穴開けと同時にボスを形成し、当該ボスに雌ネジを形成する加工)によるネジ穴115が形成され、カバー(保持枠130)は、表示窓取付枠110を取り付けた際にネジ穴115に対応する位置に貫通孔を有する。更に、表示窓取付枠110の、底面112の四隅から立設する立上部113が切り欠かれることで、隣り合う立上部113の隣接する端部はお互いに離間している。
【0040】
つまり、行先表示窓部100に設ける表示窓取付枠110を強度部材とすることで、行先表示窓部100が設けられた側構体40の補強を、表示窓取付枠110が溶接してあることで実現可能となる。これは、表示窓取付枠110に外板45と同じ材料を採用し、外板45に表示窓取付枠110を、シアプレート120を介して溶接することで実現している。側構体40の行先表示窓部100には、外板45に開口部である窓抜部116を設ける必要があるため、強度が低下する。その上、開口部で行先表示器200が外部から見える様に取り付ける必要があるため、補強部材150を溶接することも難しい。そこで、高強度な表示窓取付枠110を、シアプレート120を介して外板45に溶接して備えることよって強度を補うことが可能となるのである。必要に応じて表示窓取付枠110に外板45よりも強度の高い材質の材料を採用することで、側構体40はより高い剛性を得ることができる。
【0041】
従来例では表示窓取付枠110は、耳部111にヘミング加工を施して、厚みを作ってタップ加工を行うことが多かった。このために表示窓取付枠110は曲げ加工し易いステンレス材を用いていたため、強度部材として見ることが難しかった。しかしながら、耳部111にフロードリル加工をしてタップ加工をする構成とすることで、表示窓取付枠110に外板45と同等のSUS301Lなどの比較的高強度な材料を使用することが可能である。したがって、側構体40の強度を高めることに貢献する。
【0042】
また、表示窓取付枠110はシアプレート120を介して溶接して設けられているので、シアプレート120によっても側構体40の補強が可能であると共に、表示窓取付枠110をシアプレート120に溶接するので、表示窓取付枠110の溶接に対する自由度を上げることが可能となる。前述した様に鉄道車両10の軌道方向に沿ったラインで溶接する方が目立ちにくいため、外板45に図5に示すような外側溶接線L1に沿って溶接した後に、図2に示すように内側溶接線L2が形成されるが、内側溶接線L2はシアプレート120との溶接なので、外板45の外表面には影響が出にくい。外側溶接線L1の位置は比較的に自由に決定できるため、鉄道車両10の美観に影響しにくい位置を選ぶことが可能となる。
【0043】
ステンレス構体を用いた鉄道車両10の場合、外板45の外表面の仕上目の方向は車両長手方向と一致している。外側溶接線L1の他にも、外板45の継ぎ目などが鉄道車両10の仕上目の方向と同じ車両長手方向に形成されているため目立たない。同様に外側溶接線L1も外板45の外表面に影響が見られた場合にも仕上げが行われた際には目立たなくなる。したがって、シアプレート120を用いて外側溶接線L1の位置をある程度任意に選ぶことが可能なことは、鉄道車両10の美観の向上に繋がる。
【0044】
表示窓取付枠110の、底面112の四隅から立設する立上部113が切り欠かれることで、隣り合う立上部113の隣接する端部はお互いに離間する構造になる。このため、表示窓取付枠110の溶接が容易になる。これは、図6に示すように表示窓取付枠110をシアプレート120に対して溶接するにあたって、溶接の品質を確保して十分な溶接強度を得るため、表示窓取付枠110とシアプレート120との間に空間ができないように内側溶接線L2の近傍を、図示しない押圧ローラRで押さえながら溶接する必要があるからである。
【0045】
しかしながら、底面112はその外周側に立上部113が形成されているため、角の部分で溶接が困難になるところ、図2に示すように四隅の角部114から立設する立ち上げ部133を切り欠くことで、押圧ローラRと立上部113とが干渉しないように工夫されている。こうすることで、内側溶接線L2は底面112の端部にまで連続して形成することができ、強度を高めることに貢献する。このことは、側構体40の強度を高めることにも貢献する。
【0046】
以上、本発明に係る鉄道車両10などに関する説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、鉄道車両10の構造の一例を図1に示しているが、行先表示窓部100が側構体40に設けられていれば、窓部41や出入口42のレイアウトなどにかかわらず本発明の適用が可能である。また、側構体40に表示窓取付枠110を溶接するにあたってシアプレート120を介して溶接しているが、シアプレート120を使わずに表示窓取付枠110を外板45に直接溶接することを妨げない。
【符号の説明】
【0047】
10 鉄道車両
40 側構体
45 外板
50 台枠
100 行先表示窓部
110 表示窓取付枠
111 耳部
112 底面
113 立上部
114 角部
115 ネジ穴
116 窓抜部
200 行先表示器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8