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特開2024-63445軸力測定システム、軸力測定方法、及び測定治具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063445
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】軸力測定システム、軸力測定方法、及び測定治具
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
G01L5/00 103C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171402
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】394026714
【氏名又は名称】株式会社ジャスト
(71)【出願人】
【識別番号】592254526
【氏名又は名称】学校法人五島育英会
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】夛田 健次
(72)【発明者】
【氏名】川越 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】大村 哲矢
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA06
2F051AB04
(57)【要約】
【課題】既設ボルトの軸力を簡易かつ高精度に測定可能な軸力測定システム等を提供する。
【解決手段】軸力測定システム1は、ボルト頭部51の側面に配置され、超音波として、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波を発信する発信部7と、ボルト頭部51の上記側面と反対側の側面に配置され、第1の横波、第2の横波、及び縦波を受信する受信部9と、受信した第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速に基づいて、ボルト5の軸力を算出する軸力算出部32と、を備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの軸力を測定する軸力測定システムであって、
ボルト頭部の側面に配置され、超音波として、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波を発信する発信部と、
前記ボルト頭部の前記側面の反対側の側面に配置され、前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波を受信する受信部と、
受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速に基づいて、ボルトの軸力を算出する算出部と、
を備えることを特徴とする軸力測定システム。
【請求項2】
予め、ボルトの種類毎に、第1の横波、第2の横波、及び縦波の音速からボルトの軸力を算出するための固有パラメータを求めておき、
前記算出部は、前記受信部により受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速と、前記固有パラメータに基づいて、ボルトの軸力を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の軸力測定システム。
【請求項3】
前記発信部は、
ボルトの軸方向に振動する第1の横波を発信する第1の発信センサと、
ボルトの径方向に振動する第2の横波を発信する第2の発信センサと、
縦波を発信する第3の発信センサと、から構成され、
前記受信部は、
前記第1の横波を受信する第1の受信センサと、
前記第2の横波を受信する第2の受信センサと、
前記縦波を受信する第3の受信センサと、から構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の軸力測定システム。
【請求項4】
前記ボルトは六角ボルトであり、
前記第1の発信センサと前記第1の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第1の対辺に位置し、
前記第2の発信センサと前記第2の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第2の対辺に位置し、
前記第3の発信センサと前記第3の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第3の対辺に位置する
ことを特徴とする請求項3に記載の軸力測定システム。
【請求項5】
ボルトの軸力を測定する軸力測定方法であって、
ボルト頭部の側面において、超音波として、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波を発信するステップと、
前記ボルト頭部の前記側面の反対側の側面において、前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波を受信するステップと、
受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速に基づいて、ボルトの軸力を算出するステップと、
を含むことを特徴とする軸力測定方法。
【請求項6】
測定対象の対象ボルトを測定するための測定治具であって、
底部と側部を有し、
前記底部には、
前記底部の中央に前記対象ボルトの頭部を通すための開口部と、
前記開口部の周囲に、超音波を発信する発信センサを設置するための第1の溝部と、
前記開口部の周囲に、超音波を受信する受信センサを設置するための第2の溝部と、が形成され、
前記側部には、
前記第1の溝部の方向に第1のボルトをねじ込むための第1のボルト孔と、
前記第2の溝部の方向に第2のボルトをねじ込むための第2のボルト孔と、が形成され、
前記第1のボルトを前記第1のボルト孔にねじ込むことで、前記第1の溝部に設置される前記発信センサが前記第1のボルトの先端部によって押圧され、前記対象ボルトの頭部側面に前記発信センサを固定させることが可能であり、
前記第2のボルトを前記第2のボルト孔にねじ込むことで、前記第2の溝部に設置される前記受信センサが前記第2のボルトの先端部によって押圧され、前記対象ボルトの頭部側面に前記受信センサを固定させることが可能である
ことを特徴とする測定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの軸力を測定する軸力測定システム、軸力測定方法、及び測定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物には高力ボルトによる締結工法がある。ボルトの締結は構造物の安全上、重要の役割であり、適正な軸力(締付け力)がないとボルトの破断や緩みが生じ大きな事故につながることとなる。高力ボルトの締付け軸力を適正に管理することは安全性を確保するためにも重要である。
【0003】
ボルトの軸力を測定する方法としては、テストハンマ、トルクレンチ、ひずみゲージを用いた方法などが知られている(非特許文献1参照)。テストハンマを用いた方法(打音点検)は、簡便であるため多くの本数を点検できるが、点検者による個人差が大きく記録性もないため、定量的な評価が難しい。
【0004】
トルクレンチを用いた方法(例えば戻しトルク法)は、現場ではトルクレンチの用意で済むため簡便であるが、トルク係数のばらつきにより、検査の信頼性が低い。また、ひずみゲージを用いた方法は、測定精度が高く信頼性はあるが、既設ではボルトの取替えが前提となるため、既設ボルトへの適用が困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】西村昭、加藤修吾、神田正孝、山崎信之、米谷真二:既設高力ボルトの各種非破壊検査の特質、橋梁と基礎Vol.17、No.11、pp.26-33、1983.11
【非特許文献2】ダコタ・ジャパン:ボルトの伸びと軸力の関係、[online]、[令和4年10月19日検索]<URL:https://www.dakotajapan.com/maxseries/point/point2.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、超音波を利用した方法も知られている。例えば、弾性域内において、軸力とボルトの伸び量が正比例の関係になることから、超音波パルスエコーによりボルト軸部の伸び量を測定することで、ボルトの軸力を測定する方法が知られている(非特許文献1、2参照)。しかしながら、ボルト軸部の伸び量を高精度に測定するためには、ボルト両端部の精密な処理や、ボルトの原寸法が必要となるため、既設ボルトへの適用には課題があった。
【0007】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、超音波を利用して既設ボルトの軸力を簡易かつ高精度に測定可能な軸力測定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための第1の発明は、ボルトの軸力を測定する軸力測定システムであって、ボルト頭部の側面に配置され、超音波として、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波を発信する発信部と、前記ボルト頭部の前記側面の反対側の側面に配置され、前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波を受信する受信部と、受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速に基づいて、ボルトの軸力を算出する算出部と、を備えることを特徴とする軸力測定システムである。
【0009】
第1の発明によれば、ボルト頭部の側面間で、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波の超音波を測定し、測定した第1の横波、第2の横波、及び縦波に基づいてボルトの軸力を算出する。これにより、超音波を利用して既設ボルトの軸力を簡易かつ高精度に測定することができる。
【0010】
また第1の発明において、予め、ボルトの種類毎に、第1の横波、第2の横波、及び縦波の音速からボルトの軸力を算出するための固有パラメータを求めておき、前記算出部は、前記受信部により受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速と、前記固有パラメータに基づいて、ボルトの軸力を算出するようにしてもよい。
【0011】
また第1の発明において、前記発信部は、ボルトの軸方向に振動する第1の横波を発信する第1の発信センサと、ボルトの径方向に振動する第2の横波を発信する第2の発信センサと、縦波を発信する第3の発信センサと、から構成され、前記受信部は、前記第1の横波を受信する第1の受信センサと、前記第2の横波を受信する第2の受信センサと、前記縦波を受信する第3の受信センサと、から構成されるようにしてもよい。
【0012】
さらに、前記ボルトは六角ボルトであり、前記第1の発信センサと前記第1の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第1の対辺に位置し、前記第2の発信センサと前記第2の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第2の対辺に位置し、前記第3の発信センサと前記第3の受信センサは、互いに、前記ボルト頭部の第3の対辺に位置するようにしてもよい。
【0013】
第2の発明は、ボルトの軸力を測定する軸力測定方法であって、ボルト頭部の側面において、超音波として、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波を発信するステップと、前記ボルト頭部の前記側面の反対側の側面において、前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波を受信するステップと、受信した前記第1の横波、前記第2の横波、及び前記縦波の音速に基づいて、ボルトの軸力を算出するステップと、を含むことを特徴とする軸力測定方法である。
【0014】
第3の発明は、測定対象の対象ボルトを測定するための測定治具であって、底部と側部を有し、前記底部には、前記底部の中央に前記対象ボルトの頭部を通すための開口部と、前記開口部の周囲に、超音波を発信する発信センサを設置するための第1の溝部と、前記開口部の周囲に、超音波を受信する受信センサを設置するための第2の溝部と、が形成され、前記側部には、前記第1の溝部の方向に第1のボルトをねじ込むための第1のボルト孔と、前記第2の溝部の方向に第2のボルトをねじ込むための第2のボルト孔と、が形成され、前記第1のボルトを前記第1のボルト孔にねじ込むことで、前記第1の溝部に設置される前記発信センサが前記第1のボルトの先端部によって押圧され、前記対象ボルトの頭部側面に前記発信センサを固定させることが可能であり、前記第2のボルトを前記第2のボルト孔にねじ込むことで、前記第2の溝部に設置される前記受信センサが前記第2のボルトの先端部によって押圧され、前記対象ボルトの頭部側面に前記受信センサを固定させることが可能であることを特徴とする測定治具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、超音波を利用して既設ボルトの軸力を簡易かつ高精度に測定可能な軸力測定システム等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ボルト5の軸方向の応力分布を示す図
図2】ボルト頭部51における応力と超音波の関係を示す図
図3】軸力測定システム1の概要を示す図
図4】測定状態を示す図
図5】測定治具10の外観構成の例を示す図
図6】発信センサ及び受信センサをボルト頭部51の側面に固定する様子を示す図
図7】固定蓋19を取り付けた測定治具10の例を示す図
図8】軸力測定システム1の機能構成の例を示す図
図9】パラメータテーブル40のデータ構成の例を示す図
図10】測定端末3のハードウェア構成の例を示す図
図11】ボルト5の軸力測定処理の流れを示すフローチャート
図12】軸力測定の別例を示す図
図13】測定治具10aの外観構成の例を示す図
図14】軸力測定システム1aの機能構成の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態(「本実施形態」と表記する。)について詳細に説明する。
【0018】
まず、ボルトの軸力を測定する方法の概要を説明する。本実施形態では、音弾性法に基づいてボルトの軸力を測定する。音弾性法とは、超音波の音速が応力に応じて変化する現象(音弾性効果)を利用し、超音波の伝播時間を測定し応力を求める方法である。
【0019】
図1は、ボルト5を所定の軸力で締め付けた際における、ボルトの軸方向の応力分布を示す図である。図1に示すように、ボルト5のボルト軸部53において応力(引張応力)が発生する。また、ボルト軸部53だけでなく、ボルト頭部51においても応力が発生していることが分かる。すなわち、ボルト頭部51を対象として音弾性法に基づく応力測定が可能と考えられる。
【0020】
本実施形態では、ボルト軸部53ではなく、ボルト頭部51において超音波を測定することで、ボルト5の軸力を求める方法を提案する。測定対象のボルトは、典型的には鋼構造物に使用される高力ボルトを想定するが、これに限定されない。
【0021】
図2は、ボルト頭部51における超音波と応力の関係を表す概念図である。図2に記載の各パラメータは以下のとおりである。
【0022】
第1主応力σは、ボルト頭部51の軸方向(上下方向)の応力であり、σ或いはα・σが測定(算出)したいボルト5の軸力に相当する。αは、ボルト5の形状に応じて定まる定数である。ここでは簡単のため、σを測定(算出)したいボルト5の軸力として説明する。なお、ボルト5の形状や応力はボルト軸に対して軸対象となるため、第2主応力σは軸方向と直交する平面(径平面)上で常に一定となる。
【0023】
また図2では、ボルト頭部51のある1つの側面から、第1の横波、第2の横波、及び縦波の各超音波を発信する例を示しているが、各超音波の音速はどの側面から発信しても同じである。したがって、第1の横波、第2の横波、及び縦波の各超音波を、それぞれ、ボルト頭部51の異なる側面から発信してもよい(図4参照)。
【0024】
音弾性理論によれば、第1主応力σと第2主応力σの差(主応力差)と横波の音速の間に以下の式(1)の関係が成り立つ(B:音響複屈折)。
【0025】
【数1】
【0026】
また、第1主応力σと第2主応力σの和(主応力和)と縦波の音速と横波の平均音速の比(音速比R)との間に以下の式(2)が成り立つ。
【0027】
【数2】
【0028】
上記の式(1)(2)により第1主応力σと第2主応力σを求めることができる。すなわち、ボルト5の軸力(σ)を得ることができる。具体的には、ボルト5の軸力σは以下の式(3)のように計算される。
【0029】
【数3】
【0030】
式(3)の固有パラメータa、b、cは、ボルト種類(材料)に依存するパラメータ(定数)である。固有パラメータa、b、cは、ボルト5の締付け軸力を変えながら、ボルト5の軸力σと、音速比η及び音速比ηの関係を複数回テストすることで、あらかじめ求めておく。式(3)は、未知数(固有パラメータa、b、c)が3つの方程式となるので、少なくとも3回テストを行えば固有パラメータa、b、cが決定される。
【0031】
固有パラメータa、b、cが定まれば、測定現場において、測定対象のボルト5について第1の横波の音速VS1、第2の横波の音速VS2、及び縦波の音速Vを測定し、測定した各音速から音速比η及び音速比ηを求めて式(3)に代入することで、ボルト5の軸力σを算出できる。
以上、本実施形態のボルト軸力測定の概要を説明した。
【0032】
次に、本実施形態の軸力測定システム1について説明する。
図3は、軸力測定システム1の概要を示す図である。軸力測定システム1は、ボルト5(六角ボルト)の軸力を測定するシステムである。図3に示すように、ボルト頭部51の側面に超音波の発信部7と受信部9を設置することで、ボルト頭部51内を伝搬する超音波の音速を測定する。測定端末3は、発信部7及び受信部9を制御したり、測定した超音波の音速に基づいてボルト5の軸力を算出する端末である。
【0033】
図4は、ボルト頭部51の測定状態の様子を拡大した図である。図4(a)はボルト頭部51の真上からみた上面図、図4(b)は図4(a)のA-A′断面図を示す。
【0034】
図4(a)に示すように、発信部7は、第1の発信センサ71、第2の発信センサ72、第3の発信センサ73から構成される。
【0035】
第1の発信センサ71は、ボルト5の軸方向(上下方向)に振動する横波の超音波(第1の横波)を発信する探触子であり、ボルト頭部51の1つの側面に配置される。
【0036】
第2の発信センサ72は、ボルト5の径方向(軸方向と直交する方向)に振動する横波の超音波(第2の横波)を発信する探触子であり、第1の発信センサ71が配置されたボルト頭部51の側面とは異なる側面に配置される。
【0037】
第3の発信センサ73は、縦波の超音波を発信する探触子であり、第1の発信センサ71及び第2の発信センサ72が配置されたボルト頭部51の側面とは異なる側面に配置される。
【0038】
また受信部9は、第1の受信センサ91、第2の受信センサ92、第3の受信センサ93から構成される。
【0039】
第1の受信センサ91は、第1の発信センサ71により発信した第1の横波を受信する探触子であり、第1の発信センサ71が配置されたボルト頭部51の側面と反対側の側面に配置される。すなわち、第1の発信センサ71と第1の受信センサ91は、互いに、ボルト頭部51の対辺(第1の対辺)に位置するように配置される。
【0040】
第2の受信センサ92は、第2の発信センサ72により発信した第2の横波を受信する探触子であり、第2の発信センサ72が配置されたボルト頭部51の側面と反対側の側面に配置される。すなわち、第2の発信センサ72と第2の受信センサ92は、互いに、第1の対辺とは異なる対辺(第2の対辺)に位置するように配置される。
【0041】
第3の受信センサ93は、第3の発信センサ73により発信した縦波の超音波を受信する探触子であり、第3の発信センサ73が配置されたボルト頭部51の側面と反対側の側面に配置される。すなわち、第3の発信センサ73と第3の受信センサ93は、互いに、第1及び第2の対辺とは異なる対辺(第3の対辺)に位置するように配置される。
【0042】
図4(b)(図4(a)のA-A′断面図)に示すように、本実施形態では、ボルト5が既設された状態で軸力測定が行われる。図4(b)は、ボルト5とナット6により被締結部材81と被締結部材82を締結した状態で測定を行う例を示している。なお、ボルト5による締結方法は図4(b)の例に限定されるものではない。例えば、図示は省略するが、ボルト5が高力ボルトの場合、一般的に、ボルト頭部51と被締結部材81との間やナット6と被締結部材82の間に座金が設けられる。
【0043】
図5は、ボルト頭部51に各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93を固定する測定治具10の外観構成の例を示す図である。図5(a)は測定治具10の上面図、図5(b)は図5(a)のA-A′断面図を表す。
【0044】
図5(a)(b)に示すように、測定治具10は、主に、円盤状の底部11と、底部11の周囲に立設した円筒状の側部16から構成される。底部11の中央には、ボルト頭部51を通すための円形の開口部13が形成される。また開口部13の周囲には、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93を配置するための略矩形状の溝部15が、それぞれ、開口部13の周方向に等間隔に設けられる。
【0045】
側部16には、各溝部15の方向にボルト孔17が形成される。各ボルト孔17は、側部16の周方向に等間隔に設けられる。開口部13の周囲に設けられる各溝部15の周方向の角度と、側部16の周囲に設けられる各ボルト孔17の周方向の角度は略一致する。
【0046】
図6は、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93をボルト頭部51の側面に固定する様子を示す。図6(上図)に示すように、まず、開口部13にボルト頭部51を通し、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93を各溝部15に配置する。
【0047】
そして、センサ固定用ボルト18を各ボルト孔17に挿入してねじ込むことで、センサ固定用ボルト18の先端部が、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93の後部を押圧する。センサ固定用ボルト18の押圧力及び溝部15によって、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93がボルト頭部51の各側面に固定される(図6(下図))。
【0048】
また、図7に示すように、測定治具10に固定蓋19を取り付けてもよい。図7(a)は固定蓋19を取り付けた測定治具10の上面図、図7(b)は図7(a)のA-A′断面図を示す。固定蓋19は、円筒状の側部16の内側に嵌る円状の平板部材であり、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93を上部から固定する。
【0049】
各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93を上部から固定するためには、固定蓋19の下面が、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93の上面の少なくとも一部と接触すればよい。また図7(a)に示すように、固定蓋19には、各発信センサ71~73及び各受信センサ91~93のケーブル等を通すための孔21や切り込み23を設けてもよい。
【0050】
測定治具10を構成する各部材(底部11、側部16、センサ固定用ボルト18、固定蓋19等)の材質は特に限定されないが、例えばアクリル製の部材からなる。
【0051】
図8は、軸力測定システム1の機能構成の例を示す図である。
測定端末3のセンサ制御部31は、発信部7及び受信部9を制御する機能部である。センサ制御部31は、発信部7(第1の発信センサ71、第2の発信センサ72、第3の発信センサ73)に超音波の発信命令を送信する。
【0052】
発信部7(第1の発信センサ71、第2の発信センサ72、第3の発信センサ73)は、測定端末3から発信命令を受信すると、超音波を発信する。具体的には、第1の発信センサ71は、ボルト5の軸方向に振動する横波の超音波(第1の横波)を発信し、第2の発信センサ72は、ボルト5の径方向に振動する横波の超音波(第2の横波)を発信し、第3の発信センサ73は、縦波の超音波を発信する。
【0053】
受信部9(第1の受信センサ91、第2の受信センサ92、第3の受信センサ93)は、発信部7によって発信した超音波を受信する。具体的には、第1の受信センサ91は、第1の発信センサ71により発信した第1の横波を受信し、第2の受信センサ92は、第2の発信センサ72により発信した第2の横波を受信し、第3の受信センサ93は、第3の発信センサ73により発信した縦波の超音波を受信する。
【0054】
測定端末3の軸力算出部32は、受信部9(第1の受信センサ91、第2の受信センサ92、第3の受信センサ93)により受信した第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波の音速と、パラメータテーブル40(図9参照)に基づいて、ボルト5の軸力を算出する機能部である。ボルト5の軸力算出処理については後述する(図11)。
【0055】
図10は、測定端末3(コンピュータ)のハードウェア構成の例を示す図である。図10に示すように、測定端末3は、制御部301、記憶部302、通信部303、入力部304、表示部305、周辺機器I/F部306等がバス309を介して接続されて構成される。但し、これに限ることなく、適宜様々な構成をとることができる。
【0056】
制御部301は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成される。制御部301は、記憶部302、ROM、記録媒体(メディア)等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス309を介して接続された各部を駆動制御する。
【0057】
ROMは、測定端末3のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部301が後述する各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0058】
また、制御部301は、記憶部302に記憶されている処理プログラムに従って、図11に示す測定処理等を実行する。各処理を実行するプログラムは、予め測定端末3の記憶部302やROM等に記憶されていてもよいし、ネットワーク等を介してダウンロードされ、記憶部302等に記憶されたものでもよい。
【0059】
記憶部302は、HDD(ハードディスクドライブ)等であり、制御部301が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部301により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。本実施形態では、記憶部302には、式(3)の固有パラメータ42を保持するパラメータテーブル40(図9参照)が格納されている。
【0060】
通信部303は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークを介して通信接続された外部装置との通信を媒介するインタフェースであり、通信制御を行う。
【0061】
入力部304は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タブレット等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部301へ出力する。
【0062】
表示部305は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部301の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。なお、入力部304と表示部305とが一体的に構成されたタッチパネル式の入出力部としてもよい。
【0063】
周辺機器I/F部306は、測定端末3に周辺機器を接続させるためのポートであり、測定端末3は周辺機器I/F部37を介して発信部7及び受信部9を含む周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部306は、USBやIEEE1394等で構成されている。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。バス309は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0064】
図11のフローチャートを参照して、ボルト5の軸力測定処理の流れを説明する。測定現場において、軸力測定システム1が設置され、測定準備が整っているものとする。
【0065】
まず、測定端末3の制御部301(センサ制御部31)は、周辺機器I/F部306を介して、発信部7(第1の発信センサ71、第2の発信センサ72、第3の発信センサ73)に超音波の発信命令を送り、第1の横波、第2の横波、及び縦波を発信する(ステップS1)。なお、制御部301(センサ制御部31)が各発信センサ71~73に対して超音波の発信命令を送信する順序やタイミングは任意である。
【0066】
そして、第1の受信センサ91が、第1の発信センサ71により発信した第1の横波を受信し、第2の受信センサ92が、第2の発信センサ72により発信した第1の横波を受信し、第3の受信センサ93が、第3の発信センサ73により発信した縦波を受信する(ステップS2)。受信した第1の横波、第2の横波、及び縦波のデータは測定端末3に伝送され、周辺機器I/F部306を介して測定端末3の記憶部302に記憶される。
【0067】
そして、測定端末3の制御部301(軸力算出部32)は、ステップS2において受信した第1の横波、第2の横波、及び縦波の音速に基づいて、ボルト5の軸力を算出する(ステップS3)。
【0068】
具体的には、測定端末3の制御部301(軸力算出部32)は、第1の受信センサ91により受信した第1の横波の音速Vs1と、第2の受信センサ92により受信した第2の横波の音速Vs2に基づいて、式(3)の音速比ηを算出する。
【0069】
また、測定端末3の制御部301(軸力算出部32)は、第3の受信センサ93により受信した縦波の音速Vと、第2の受信センサ92により受信した第2の横波の音速Vs2に基づいて、式(3)の音速比ηを算出する。
【0070】
また、測定端末3の制御部301(軸力算出部32)は、パラメータテーブル40(図9参照)から式(3)の固有パラメータ42(a、b、c)を取得する。
【0071】
図9は、固有パラメータ42を保持するパラメータテーブル40のデータ例を示す図である。図9に示すように、パラメータテーブル40には、ボルトの種類41毎に、固有パラメータ42(a、b、c)が格納されている。前述したように、固有パラメータ42(a、b、c)は、ボルト5の締付け軸力を変えながら、ボルト5の軸力σと、音速比η及び音速比ηの関係を複数回テストすることで、あらかじめ求めておく。
【0072】
測定端末3の制御部301(軸力算出部32)は、算出した音速比η及び音速比ηと、パラメータテーブル40から取得したボルト5のボルト種類41に応じた固有パラメータ42(a、b、c)を式(3)に代入することで、ボルト5の軸力σを算出する。算出した結果(測定結果)は、測定端末3の表示部305に表示される。
【0073】
以上、本実施形態の軸力測定システム1について説明した。本実施形態によれば、ボルト頭部51の側面間において、ボルトの軸方向に振動する第1の横波、ボルトの径方向に振動する第2の横波、及び縦波の超音波を測定し、測定した第1の横波、第2の横波、及び縦波に基づいてボルト5の軸力を算出する。本実施形態の軸力測定法では、ボルト両端部(ボルト頭部上面とボルト先端部)の精密な処理や、ボルトの原寸法を必要としないため、既設ボルトの軸力を簡易かつ高精度に測定することができる。また、第1の横波、第2の横波、及び縦波の3種の超音波を軸力測定に利用することで、ボルト軸力をより高精度に測定することが可能となる。
【0074】
図12は、本実施形態の軸力測定の別例を示す図である。図12の例では、発信部7aが、1つの発信センサ71aから構成される。発信センサ71aは、例えば、第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波を1つのセンサで発信可能な3軸の超音波発信プローブである。
【0075】
また、受信部9aも、1つの受信センサ91aから構成される。受信センサ91aは、発信センサ71aにより発信した第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波を1つのセンサで受信可能な3軸の超音波受信プローブである。発信センサ71a及び受信センサ91aは、互いに、ボルト頭部51の対辺に位置するように配置される。
【0076】
図13は、ボルト頭部51に発信センサ71aと受信センサ91aを固定する測定治具10aの外観構成の例を示す図である。図13(a)は測定治具10aの上面図、図13(b)は図13(a)のA-A′断面図を表す。
【0077】
図13(a)(b)に示すように、測定治具10aは、測定治具10(図5)と同様に、円盤状の底部11と、底部11の周囲に立設した円筒状の側部16から構成される。底部11の中央には、ボルト頭部51を通すための円形の開口部13が形成される。開口部13の周囲には、発信センサ71a及び受信センサ91aを配置するための略矩形状の溝部15が、それぞれ、開口部13の周方向に等間隔に2つ設けられる。また側部16には、溝部15と同方向にボルト孔17が2つ形成される。
【0078】
測定治具10の場合(図6)と同様に、センサ固定用ボルト18を測定治具10aの各ボルト孔17に挿入してねじ込むことで、センサ固定用ボルト18の先端部が、発信センサ71a及び受信センサ91aの後部を押圧する。これにより、図12のように、発信センサ71a及び受信センサ91aがボルト頭部51の2側面に固定される。
【0079】
また、図示は省略するが、測定治具10の場合(図7)と同様に、固定蓋を取り付けてもよい。固定蓋は、固定蓋の下面が、発信センサ71a及び受信センサ91aの上面の少なくとも一部と接触すればよく、また、発信センサ71a及び受信センサ91aのケーブル等を通すための孔や切り込みが設けられてもよい。
【0080】
図14は、軸力測定システム1aの機能構成の例を示す図である。
測定端末3aのセンサ制御部31aは、発信部7a及び受信部9aを制御する機能部である。センサ制御部31は、発信部7a(第1の発信センサ71a)に第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波の発信命令を送信する。第1の横波、第2の横波、及び縦波の各超音波の発信命令を送信するタイミングや順序は任意である。
【0081】
発信部7a(第1の発信センサ71a)は、測定端末3から発信命令を受信すると、第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波を発信する。
受信部9a(第1の受信センサ91a)は、発信部7(第1の発信センサ71a)により発信した第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波を受信する。
【0082】
測定端末3aの軸力算出部32aは、受信部9a(受信センサ91a)により受信した第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波の音速と、パラメータテーブル40(図9参照)に基づいて、ボルト5の軸力を算出する。ボルト5の軸力を算出する処理は、図11と略同様である。
【0083】
以上のように、第1の横波、第2の横波、及び縦波の超音波を発信することが可能な1つの発信センサ71a、及びそれら超音波を受信する1つの受信センサ91aによって軸力測定システムを構築することも可能である。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
1、1a………軸力測定システム
3、3a………測定端末
5………………ボルト
51……………ボルト頭部
53……………ボルト軸部
6………………ナット
7、7a………発信部
71……………第1の発信センサ
72……………第2の発信センサ
73……………第3の発信センサ
71a…………発信センサ
81……………被締結部材
82……………被締結部材
9、9a………受信部
91……………第1の受信センサ
92……………第2の受信センサ
93……………第3の受信センサ
91a…………受信センサ
10、10a…測定治具
11……………底部
13……………開口部
15……………溝部
16……………側部
17……………ボルト孔
18……………センサ固定用ボルト
19……………固定蓋
21……………孔
23……………切り欠き
40……………パラメータテーブル
42……………固有パラメータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14