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特開2024-63485樋形状の計測方法、及び、樋形状の計測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063485
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】樋形状の計測方法、及び、樋形状の計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20240502BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01B11/24 Z
C21B7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171483
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100212026
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真生
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 剛士
【テーマコード(参考)】
2F065
4K015
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA17
2F065AA31
2F065AA53
2F065AA63
2F065CC14
2F065FF12
2F065FF61
2F065GG04
2F065MM08
2F065MM16
2F065MM26
2F065PP05
2F065PP22
4K015EC03
4K015EC10
4K015KA00
(57)【要約】
【課題】大樋の内側面の形状を簡便に計測する。
【解決手段】本開示の一側面に係る樋形状の計測方法は、三次元計測装置を用いて、高炉の周囲に配置された大樋の内側面の形状を計測する方法である。この計測方法は、大樋の一方の側方において大樋の中央部に対応する位置に三次元計測装置を配置した第1状態で、3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、三次元計測装置の位置座標を計測する工程と、第1状態において、第1内側面に向けて三次元計測装置により光を照射して、第1内側面の位置座標を計測する工程と、大樋の他方の側方において大樋の中央部に対応する位置に三次元計測装置を配置した第2状態で、3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、三次元計測装置の位置座標を計測する工程と、第2状態において、第2内側面に向けて三次元計測装置により光を照射して、第2内側面の位置座標を計測する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う三次元計測装置を用いて、高炉の周囲に配置された大樋の内側面の形状を計測する計測方法であって、
前記大樋の一方の側方において前記大樋の第1内側面に対して光を照射できるように、前記大樋の長手方向における中央部に対応する位置に前記三次元計測装置を配置した第1状態で、所定位置に固定された3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、前記三次元計測装置の位置座標を計測する第1工程と、
前記第1状態において、前記第1内側面に向けて前記三次元計測装置により光を照射して、前記第1内側面の位置座標を計測する第2工程と、
前記大樋の他方の側方において前記大樋の前記第1内側面に対向する第2内側面に対して光を照射できるように、前記大樋の長手方向における中央部に対応する位置に前記三次元計測装置を配置した第2状態で、前記3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、前記三次元計測装置の位置座標を計測する第3工程と、
前記第2状態において、前記第2内側面に向けて前記三次元計測装置により光を照射して、前記第2内側面の位置座標を計測する第4工程と、を含む樋形状の計測方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記第1工程で計測された前記三次元計測装置の位置座標と、前記第1内側面からの反射光に基づく前記第1内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、前記第1内側面の位置座標が算出され、
前記第4工程では、前記第3工程で計測された前記三次元計測装置の位置座標と、前記第2内側面からの反射光に基づく前記第2内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、前記第2内側面の位置座標が算出され、
前記第1工程、前記第2工程、前記第3工程、及び、前記第4工程を含む一連の工程が、繰り返し実行される、請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記第1内側面が含まれるように予め設定された範囲に前記三次元計測装置から光を照射することで、前記第1内側面の位置座標を計測し、
前記第4工程では、前記第2内側面が含まれるように予め設定された範囲に前記三次元計測装置から光を照射することで、前記第2内側面の位置座標を計測する、請求項1又は2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記第1工程は、
第1走査密度で前記三次元計測装置から周囲に光を照射して、前記3以上のターゲット球体を探索する第1走査処理と、
前記第1走査処理による探索結果に基づき設定された範囲に、前記第1走査密度よりも細かい第2走査密度で前記三次元計測装置から光を照射して、前記3以上のターゲット球体それぞれの位置を示す情報を取得する第2走査処理と、を含む、請求項1又は2に記載の計測方法。
【請求項5】
移動自在な状態で配置され、光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う三次元計測装置と、
高炉の周囲に配置された大樋の周囲において、所定位置に固定された3以上のターゲット球体と、を備え、
前記三次元計測装置は、
前記大樋の一方の側方において前記大樋の第1内側面に対して光を照射できるように、前記大樋の長手方向における中央部に対応する位置に配置された第1状態で、前記3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する第1処理と、
前記第1状態において、前記第1内側面に向けて光を照射して、前記第1内側面の位置座標を計測する第2処理と、
前記大樋の他方の側方において前記大樋の第2内側面に対して光を照射できるように、前記大樋の長手方向における中央部に対応する位置に配置された第2状態で、前記3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する第3処理と、
前記第2状態において、前記第2内側面に向けて光を照射して、前記第2内側面の位置座標を計測する第4処理と、を実行するように構成されている、樋形状の計測システム。
【請求項6】
前記三次元計測装置は、
前記第2処理において、前記第1処理で計測した前記三次元計測装置の位置座標と、前記第1内側面からの反射光に基づく前記第1内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、前記第1内側面の位置座標を算出し、
前記第4処理において、前記第3処理で計測した前記三次元計測装置の位置座標と、前記第2内側面からの反射光に基づく前記第2内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、前記第2内側面の位置座標を算出し、
前記第1処理、前記第2処理、前記第3処理、及び、前記第4処理を含む一連の処理を繰り返し実行する、請求項5に記載の計測システム。
【請求項7】
前記三次元計測装置は、
前記第2処理において、前記第1内側面が含まれるように予め設定された範囲に光を照射して、前記第1内側面の位置座標を計測するように構成されており、
前記第4処理において、前記第2内側面が含まれるように予め設定された範囲に光を照射して、前記第2内側面の位置座標を計測するように構成されている、請求項5又は6に記載の計測システム。
【請求項8】
前記第1処理は、
第1走査密度で周囲に光を照射して、前記3以上のターゲット球体を探索する第1走査処理と、
前記第1走査処理による探索結果に基づき設定された範囲に、前記第1走査密度よりも細かい第2走査密度で光を照射して、前記3以上のターゲット球体の位置を示す情報を取得する第2走査処理と、を含む、請求項5又は6に記載の計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樋形状の計測方法、及び、樋形状の計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高炉出銑樋の内面形状の計測装置が開示されている。特許文献1に開示された計測装置は、高炉出銑樋の幅方向に相対向して設けられた、少なくとも一対の光波測距装置の姿勢制御を行うとともに、測定データを演算処理して高炉出銑樋の内面形状を求める。特許文献2には、高炉出銑樋残厚測定装置が開示されている。特許文献2に開示された測定装置は、高炉出銑樋の長手方向への移動及び出銑樋内での昇降が可能であり、出銑樋内面に光像を投射形成し、撮像された光像と出銑樋内面における基準光像との偏差に基づき内面の残厚を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-241714号公報
【特許文献2】特開昭61ー194304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、高炉の周囲に配置された大樋の内側面の形状を簡便に計測することが可能な樋形状の計測方法、及び、樋形状の計測システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示の一側面に係る樋形状の計測方法は、光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う三次元計測装置を用いて、高炉の周囲に配置された大樋の内側面の形状を計測する方法である。この計測方法は、大樋の一方の側方において大樋の第1内側面に対して光を照射できるように、大樋の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置を配置した第1状態で、所定位置に固定された3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、三次元計測装置の位置座標を計測する第1工程と、第1状態において、第1内側面に向けて三次元計測装置により光を照射して、第1内側面の位置座標を計測する第2工程と、大樋の他方の側方において大樋の第1内側面に対向する第2内側面に対して光を照射できるように、大樋の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置を配置した第2状態で、3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、三次元計測装置の位置座標を計測する第3工程と、第2状態において、第2内側面に向けて三次元計測装置により光を照射して、第2内側面の位置座標を計測する第4工程と、を含む。
【0006】
[2]上記[1]に記載の計測方法において、第2工程では、第1工程で計測された三次元計測装置の位置座標と、第1内側面からの反射光に基づく第1内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、第1内側面の位置座標が算出されてもよく、第4工程では、第3工程で計測された三次元計測装置の位置座標と、第2内側面からの反射光に基づく第2内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、第2内側面の位置座標が算出されてもよい。第1工程、第2工程、第3工程、及び、第4工程を含む一連の工程が、繰り返し実行されてもよい。
【0007】
[3]上記[1]又は[2]に記載の計測方法において、第2工程では、第1内側面が含まれるように予め設定された範囲に三次元計測装置から光を照射することで、第1内側面の位置座標を計測してもよく、第4工程では、第2内側面が含まれるように予め設定された範囲に三次元計測装置から光を照射することで、第2内側面の位置座標を計測してもよい。
【0008】
[4]上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の計測方法において、第1工程は、第1走査密度で三次元計測装置から周囲に光を照射して、3以上のターゲット球体を探索する第1走査処理と、第1走査処理による探索結果に基づき設定された範囲に、第1走査密度よりも細かい第2走査密度で三次元計測装置から光を照射して、3以上のターゲット球体それぞれの位置を示す情報を取得する第2走査処理と、を含んでもよい。
【0009】
[5]本開示の一側面に係る樋形状の計測システムは、移動自在な状態で配置され、光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う三次元計測装置と、高炉の周囲に配置された大樋の周囲において、所定位置に固定された3以上のターゲット球体と、を備える。三次元計測装置は、大樋の一方の側方において大樋の第1内側面に対して光を照射できるように、大樋の長手方向における中央部に対応する位置に配置された第1状態で、3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する第1処理と、第1状態において、第1内側面に向けて光を照射して、内側面の位置座標を計測する第2処理と、大樋の他方の側方において大樋の第2内側面に対して光を照射できるように、大樋の長手方向における中央部に対応する位置に配置された第2状態で、3以上のターゲット球体からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する第3処理と、第2状態において、第2内側面に向けて光を照射して、内側面の位置座標を計測する第4処理と、を実行するように構成されている。
【0010】
[6]上記[5]に記載の計測システムにおいて、三次元計測装置は、第2処理において、第1処理で計測した三次元計測装置の位置座標と、第1内側面からの反射光に基づく第1内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、第1内側面の位置座標を算出してもよく、第4処理において、第3処理で計測した三次元計測装置の位置座標と、第2内側面からの反射光に基づく第2内側面の相対的な位置の測定結果とに基づいて、第2内側面の位置座標を算出してもよい。三次計測装置は、第1処理、第2処理、第3処理、及び、第4処理を含む一連の処理を繰り返し実行してもよい。
【0011】
[7]上記[5]又は[6]に記載の計測システムにおいて、三次元計測装置は、第2処理において、第1内側面が含まれるように予め設定された範囲に光を照射して、第1内側面の位置座標を計測するように構成されていてもよく、第4処理において、第2内側面が含まれるように予め設定された範囲に光を照射して、第2内側面の位置座標を計測するように構成されていてもよい。
【0012】
[8]上記[5]~[7]のいずれか1つに記載の計測システムにおいて、第1処理は、第1走査密度で周囲に光を照射して、3以上のターゲット球体を探索する第1走査処理と、第1走査処理による探索結果に基づき設定された範囲に、第1走査密度よりも細かい第2走査密度で光を照射して、3以上のターゲット球体の位置を示す情報を取得する第2走査処理と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、高炉の周囲に配置された大樋の内側面の形状を簡便に計測することが可能な樋形状の計測方法、及び、樋形状の計測システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、樋形状の計測システムの一例及び大樋の一例を模式的に示す平面図である。
図2図2は、三次元計測装置の一例を模式的に示す側面図である。
図3図3は、計測方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、計測方法の様子を模式的に示す斜視図である。
図5図5は、計測方法の様子を模式的に示す平面図である。
図6図6は、計測方法の様子を模式的に示す側面図である。
図7図7は、計測結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。一部の図面には、X軸、Y軸、及びZ軸により規定される直交座標系が示される。Z軸が鉛直方向に対応し、X軸及びY軸が水平方向に対応する。
【0016】
[樋形状の計測システム]
図1には、一実施形態に係る樋形状の計測システム及び計測対象である大樋が模式的に示されている。図1に示される計測システム1(樋形状の計測システム)は、大樋90の内側面の形状を計測する作業の少なくとも一部を実行するシステムである。計測システム1は、大樋90の内側面の複数箇所に光を照射して、大樋90の内側面の複数箇所それぞれの位置座標を計測する。計測システム1は、内側面の複数箇所それぞれの位置座標を示す点群データを演算することで、大樋90の内側面の形状を計測(三次元計測)する。本開示において、「位置座標」は、絶対座標を意味する。位置座標は、緯度、経度、及び標高によって規定されてもよく、任意に定められた基準位置を原点として、X軸、Y軸、及びZ軸それぞれの座標(値)によって規定されてもよい。
【0017】
計測システム1による計測対象の大樋90は、高炉80の周囲に配置されている。高炉80は、鉄鉱石を還元処理することで、鋼となる銑鉄を取り出すための炉である。高炉80の炉本体は、Z軸方向に沿って延びるように形成されており、円筒状に形成されている。高炉80には、炉本体から溶銑を取り出すための出銑口82が設けられている。高炉80には、周方向に沿って配置された複数の出銑口82(例えば、4個又は5個の出銑口82)が設けられてもよい。
【0018】
図1では、複数の出銑口82のうちの1つが示されている。複数の出銑口82は、炉本体の中心軸を挟んで対向する一対の出銑口82(平面視にて対角方向の位置にある一対の出銑口82)を含んでもよい。一対の出銑口82において、交互に出銑が行われる。例えば、1つの出銑口82に着目すると、その出銑口82からは数時間おきに溶銑が排出される。一対の出銑口82での交互の出銑が、ある程度の期間(例えば、1月)だけ継続された後、他の一対の出銑口82が用いられて、高炉80からの出銑が行われる。
【0019】
複数の出銑口82それぞれには、大樋90が接続されている。大樋90は、主樋又は出銑樋とも称される。対応する出銑口82から溶銑が大樋90の内部に導入されるように、大樋90の一端が高炉80に接続されている。平面視(鉛直上方から見ること)において、大樋90は、高炉80から離れるように延びている。図1に例示される大樋90は、水平な一方向に延在しており、X軸方向に沿って延びるように形成されている。大樋90の内部には、溶銑と共に溶融スラグが導入される。
【0020】
大樋90は、対応する出銑口82から排出された溶銑と溶融スラグとを流下させる流路Fを形成する。大樋90は、高炉80の出銑口82から排出される溶銑及び溶融スラグの混合物を受け止める機能と、長手方向に混合物が流れる過程において比重分離により溶銑と溶融スラグとを分離する機能とを有する。大樋90は、製鉄プロセスにおける各種の窯炉設備の中でも、幅に対して長さ寸法が大きい設備である。幅に対して長さ寸法が大きいことにより、自動化による保全作業の効率化及び簡素化を難しくする(例えば、大樋90の長手方向に沿って移動機構が必要となる)。
【0021】
高炉80から排出される溶銑及び溶融スラグの温度は、約1400℃~約1600℃である。溶銑は、鉄を主成分とする溶融状態の金属であり、溶融スラグは、Al、SiO、又は、CaO等の溶融状態の酸化物である。そのため、溶銑の比重と溶融スラグの比重とは互いに異なり、大樋90の流路F内で分離することができる。溶融スラグと分離された後の溶銑は、大樋90の他端の近傍に設けられた立ち上がり部84からオーバーフローして、溶銑樋86に導入される。
【0022】
図2には、図1のII-II線における断面が模式的に示されている。大樋90は、その延在方向に直交する断面において、凹状に形成されている。大樋90は、鋳床88に設けられている。大樋90は、例えば、金物樋92と、レンガ94と、耐火物96と、を含む。大樋90によって形成される流路Fを内側と定義した場合、金物樋92、レンガ94、及び、耐火物96は、外側からこの順に配置されている。金物樋92は、金属製の樋である。
【0023】
レンガ94は、金物樋92の内側に設けられている。レンガ94は、耐火性のレンガである。耐火物96は、レンガ94の内側に設けられている。耐火物96は、不定形の耐火物であり、樋材として機能する。すなわち、耐火物96が、大樋90の流路Fを形成しており、大樋90の内面は、耐火物96の表面によって形成される。大樋90の内面(耐火物96の表面)は、流路Fにおいて溶銑及び溶融スラグ(溶融物)が流れることによって損耗する。そのため、大樋90(耐火物96)の定期的な保守点検が必要である。
【0024】
対応する出銑口82が数時間おきに繰り返し使用されるので、大樋90も数時間おきに使用される。落銑防止及び樋の寿命管理の観点から、数時間おきに繰り返し使用されている間において、定期的に大樋90の内面の形状を計測する必要があり、大樋90の内面を補修する必要がある。大樋90が使用されていない数時間の間で、大樋90の内面の形状の計測、及び、補修作業を行う必要がある。大樋90内での溶銑及び溶融スラグを含む混合物の流れによって、使用する時間に比例して耐火物96が損耗していく。出銑口82及び大樋90の使用がある程度の期間継続された後、他の一対の出銑口82が使用されている間に、大樋90の内面の大掛かりな補修(例えば、耐火物96を再形成する全面的な補修)が行われる。
【0025】
耐火物96の損耗の特徴として、次の2つが挙げられる。出銑口82は上向きに設けられているので、高炉80内の圧力により勢いよく飛散した上記混合物が落下する部位(例えば、出銑口82から3m~4m程度離れた部位)での溶損が最も激しい傾向がある。大樋90の下流部分においては、溶銑と溶融スラグとが分離されている境界部位において選択的に極端にえぐられた局部損耗が生じる傾向がある。この局部損耗は、大樋90の内部の深さの半分程度の位置に生じ得るので、目視では確認し難い。なお、耐火物96を補修した際の品質トラブルによっても、局部損耗が発生し得る。
【0026】
耐火物96が損耗し過ぎると、又は、耐火物96の異常損耗が発生すると、金物樋92に穴が開き、落銑(溶融物が構造物の下方に流下すること)が発生し得る。落銑が発生すると、下方の設備が焼損してしまう。その結果、高炉80の運転を一時的に休止する処理を行わなければならず、高炉80以降の工程を一斉に止める処理まで含めて大きな影響を及ぼす。そのため、大樋90の内面、すなわち、耐火物96の損耗の程度を(精度良く)計測することが非常に重要である。安定して出銑を継続するために、計測システム1によって、一対の出銑口82から交互に出銑が繰り返されている間の出銑を停止している熱間で、大樋90(耐火物96)の断面形状が計測される。熱間での大樋90の内面の温度は、600℃~1000℃程度である。
【0027】
計測システム1は、三次元計測装置20と、3以上のターゲット球体10と、を備える。三次元計測装置20は、光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う装置である。三次元計測装置20は、例えば、周囲にレーザ光を照射して、レーザ光の反射光を受けることで、周囲に存在する構造物等の計測対象物の形状を計測可能な三次元スキャナ(3Dスキャナ)である。三次元計測装置20は、LiDAR(Laser Imaging Detection And Ranging)技術を利用して、計測対象物の計測箇所の相対的な位置を測定してもよい(計測箇所の方向と距離を算出してもよい)。計測箇所は、計測対象物のうちのレーザ光が照射される(当たる)箇所である。三次元計測装置20は、自身の位置座標、及び、相対的な位置の測定結果から、計測箇所の位置座標を計測(算出)する。
【0028】
三次元計測装置20は、大樋90の側方において移動自在な状態で配置される。三次元計測装置20は、作業員によって、大樋90の側方にある鋳床88の上面に移動自在な状態で配置されてもよい。三次元計測装置20は、大樋90の周囲に在る構造物に固定されていない。三次元計測装置20は、作業員によって運搬可能な装置であってもよい。以下では、大樋90の流路Fにおいて上流から下流を見たときを基準に、「右」及び「左」の用語を使用する。図1又は図2では、大樋90よりも右側の領域(側方)が「91R」で示され、大樋90よりも左側の領域(側方)が「91L」で示されている。大樋90は、Y軸方向において互いに対向する一対の内側面を有しており、図2では、一対の内側面それぞれが「98R」及び「98L」で示されている。
【0029】
三次元計測装置20は、大樋90の側方の領域91Rにおいて大樋90の内側面98Lに対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に配置された状態で、内側面98Lの三次元計測を行う。三次元計測装置20は、大樋90の側方の領域91Lにおいて大樋90の内側面98Rに対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に配置された状態で、内側面98Rの三次元計測を行う。大樋90の長手方向における中央部とは、大樋90の長手方向において大樋90を3つの分割領域に均等に分割した際に中央に位置する分割領域である。
【0030】
三次元計測装置20は、例えば、計測装置本体30と、支持部材40と、コントローラ50と、を有する。計測装置本体30は、周囲にレーザ光を照射すると共に、レーザ光の照射に伴う反射光を受光する機能を有する。計測装置本体30は、レーザ光を照射してから反射光を受光するまでの時間を計測して距離に換算する。計測装置本体30は、レーザ光を照射する位置(出射する角度)を変化させることで、ある範囲においてレーザ光を走査(スキャン)する。計測装置本体30は、スキャナヘッド32と、光学部品34と、駆動部36と、を含んでもよい。
【0031】
スキャナヘッド32は、レーザ光を照射し、反射光を受光する。スキャナヘッド32は、鉛直な軸線まわりに回転可能に設けられている。光学部品34は、例えば、レーザ光の光源と、スキャナヘッド32からのレーザの照射角度を変化させるミラー部材と、を含む。駆動部36は、スキャナヘッド32を駆動する駆動源と、光学部品34のミラー部材を駆動する駆動源とを含む。一例では、駆動部36によりスキャナヘッド32が上記軸線まわりに回転することで、レーザ光の平面視における照射角度が変化する。駆動部36によりミラー部材が駆動することで、レーザ光が照射される方向の仰角が変化する。
【0032】
支持部材40は、計測装置本体30を支持する部材である。支持部材40は、例えば、三脚である。支持部材40は、大樋90の側方において、移動自在な状態で設置される。計測装置本体30は、支持部材40に対して着脱自在であってもよく、支持部材40に固定されていてもよい。
【0033】
コントローラ50は、計測装置本体30を制御するコンピュータである。コントローラ50は、設定された照射範囲に対してレーザ光が照射されるように計測装置本体30を制御してもよい。レーザ光の照射範囲は、平面視(X-Y平面)におけるレーザ光の照射角度の範囲と、レーザ光が照射される方向の仰角の範囲と、を含んでもよい。一例では、コントローラ50は、レーザ光の仰角を一定に保った状態で、平面視における照射角度を変化させてスキャンする処理を、レーザ光の仰角を徐々に(所定角ずつ)変化させながら繰り返すように、計測装置本体30を制御する。
【0034】
コントローラ50は、設定された走査密度でレーザ光のスキャンが行われるように計測装置本体30を制御してもよい。走査密度は、計測装置本体30から、ある距離だけ離れた位置での単位面積あたりの計測箇所の数で規定される。走査密度が細かいほど、上記距離での単位面積あたりに含まれる計測箇所の個数が多く、走査密度が粗いほど、上記距離での単位面積あたりに含まれる計測箇所の個数が少ない。コントローラ50は、スキャンした際の反射光の受光結果に基づき、大樋90の内側面の複数箇所それぞれの相対的な位置を算出した結果を計測装置本体30から取得する。
【0035】
コントローラ50は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を備える。コントローラ50は、入出力デバイスを備えてもよい。入出力デバイスは、作業員等のユーザからの情報をコントローラ50に入力すると共に、コントローラ50からの情報をユーザに報知するための装置である。コントローラ50は、駆動部36に対して駆動電力を供給するドライバを備えてもよい。コントローラ50は、計測装置本体30の動作手順が予め定められたプログラムに従って、計測装置本体30を制御してもよい。計測装置本体30は、レーザ光を照射してから反射光を受光するまでの時間を計測して、計測箇所までの距離を算出するコントローラ(CPU)を有してもよい。
【0036】
3以上のターゲット球体10は、計測装置本体30の位置座標を計測するために用いられる部材である。3以上のターゲット球体10それぞれは、大樋90の周囲において、所定位置に固定されている。ターゲット球体10は、少なくとも球状に形成された球状面を含む。ターゲット球体10の位置座標は、予め計測されている。ターゲット球体10の位置座標は、ターゲット球体10の球状面により規定される球の中心の位置座標である。ターゲット球体10の球状面には、反射機能を高めるために特殊な塗料が塗布されていてもよく、再帰性反射材が貼られていてもよい。
【0037】
3以上のターゲット球体10は、高炉80の周囲に設けられた建屋内に固定されている。ターゲット球体10は、基準球であってもよい。ターゲット球体10(基準球)は、固定部材を介して建屋内に固定されてもよい。ターゲット球体10の位置座標は、作業員等によって、ターゲット球体10を設置した際に測定されてもよい。3以上のターゲット球体10は、X軸方向において、大樋90の長手方向における中央(中心)よりも、高炉80から離れた位置に配置されてもよい。3以上のターゲット球体10のうちの2つのターゲット球体10は、大樋90の長手方向に直交する水平な一方向であるY軸方向において、大樋90を間に挟むように配置されてもよい。
【0038】
3以上のターゲット球体10は、大樋90(鋳床88の上面)よりも高い位置に固定されてもよい。コントローラ50は、3以上のターゲット球体10それぞれの位置座標を示す情報を記憶している。コントローラ50は、ターゲット球体10の球状面により規定される球の半径の値を記憶していてもよい。以下では、計測システム1が、3個のターゲット球体10を有する場合を例に説明する。
【0039】
三次元計測装置20は、作業員によって、大樋90の側方に移動自在な状態で配置される。作業員は、領域91Rにおいて大樋90の内側面98Lに対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置する。以下、領域91Rにおいて、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に配置された状態を「第1状態」という。三次元計測装置20は、第1状態で、3個のターゲット球体10からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する処理(第1処理)を実行するように構成されている。三次元計測装置20は、第1状態において、内側面98Lに対してレーザ光を照射して、内側面98Lの位置座標を計測する処理(第2処理)を実行するように構成されている。
【0040】
内側面98Lの位置座標の計測が行われた後、三次元計測装置20は、作業員によって、第1状態とは反対側の側方に移動自在な状態で配置される。作業員は、領域91Lにおいて大樋90の内側面98Rに対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置する。以下、領域91Lにおいて、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に配置された状態を「第2状態」という。三次元計測装置20は、第2状態で、3個のターゲット球体10からの反射光に基づいて、自身の位置座標を計測する処理(第3処理)を実行するように構成されている。三次元計測装置20は、第2状態において、内側面98Rに対してレーザ光を照射して、内側面98Rの位置座標を計測する処理(第4処理)を実行するように構成されている。
【0041】
[樋形状の計測方法]
続いて、図3図6を参照しながら、樋形状の計測方法として、三次元計測装置20を用いて、大樋90の一対の内側面(内側面98R,98L)の形状を計測する方法について説明する。図3は、三次元計測装置20を用いた計測方法の一例を示すフローチャートである。この計測方法は、対応する出銑口82からの出銑が中断した熱間において、又は、大掛かりな補修後において大樋90が最初に使用される前に実行される。
【0042】
図3に示されるように、最初に、ステップS11が実行される。ステップS11では、例えば、作業員が、大樋90の一方の側方である領域91Rにおいて大樋90の内側面98L(第1内側面)に対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置する。これにより、計測システム1が上記第1状態となる。図4には、領域91Rに三次元計測装置20が配置された様子が例示されている。
【0043】
次に、三次元計測装置20のコントローラ50がステップS12を実行する。ステップS12では、例えば、コントローラ50が、第1走査密度で三次元計測装置20から周囲にレーザ光を照射して、3個のターゲット球体10を探索する処理(第1走査処理)を実行する。コントローラ50は、図5に示されるように、平面視において、三次元計測装置20の全周において走査されるように、三次元計測装置20を制御してもよい。コントローラ50は、図6に示されるように、仰角が所定のマイナス値から所定のプラス値までの範囲において走査されるように、三次元計測装置20を制御してもよい。
【0044】
図5及び図6では、ステップS12においてレーザ光を走査する範囲が「R1」で示されている。コントローラ50は、ステップS12において、走査範囲R1に対して第1走査密度でレーザ光を走査するように、三次元計測装置20を制御する。ターゲット球体10を探索するとは、走査範囲において、ターゲット球体10の存在と概ねの位置(暫定の位置)とを検出することを意味する。
【0045】
次に、コントローラ50が、ステップS13を実行する。ステップS13では、例えば、コントローラ50が、ステップS12での探索結果に基づき設定された範囲に、上記第1走査密度よりも細かい第2走査密度でレーザ光を照射して、3個のターゲット球体10それぞれの位置を示す情報を取得する処理(第2走査処理)を実行する。第2走査密度でのレーザ光の走査では、第1走査密度に比べて、計測点の間隔が小さく、ある基準距離での単位面積あたりの計測点の数が多い。
【0046】
図5及び図6では、ステップS13においてレーザ光を走査する範囲が「R2」で示されている。走査範囲R2は、ステップS12でのターゲット球体10の位置の検出結果に基づいて設定される。走査範囲R2は、例えば、ターゲット球体10の径の大きさを考慮して、走査範囲R2にターゲット球体10が含まれるように設定される。1つの走査範囲R2は、走査範囲R1よりも小さい。コントローラ50は、ステップS12において、走査範囲R2に対して第2走査密度でレーザ光を走査するように計測装置本体30を制御する。ステップS13において、計測システム1は第1状態に維持されている。
【0047】
コントローラ50は、ステップS13において、3個のターゲット球体10それぞれについて、走査範囲R2でのレーザ光を走査した結果から、ターゲット球体10の球状面の相対的な位置を計測する。そして、コントローラ50は、3個のターゲット球体10それぞれについて、ターゲット球体10の球状面の相対的な位置と、ターゲット球体10の半径の大きさとに基づいて、計測装置本体30に対するターゲット球体10の中心の相対的な位置を算出する。
【0048】
次に、コントローラ50が、ステップS14を実行する。ステップS14では、例えば、コントローラ50が、ステップS14での3個のターゲット球体10それぞれの相対的な位置の算出結果と、3個のターゲット球体10それぞれの位置座標(絶対座標)とに基づいて、計測装置本体30の位置座標を算出する。コントローラ50は、種々の手法(例えば、公知の手法)により、計測装置本体30の位置座標を算出してもよい。以上のステップS11~S14の実行により、第1状態で、位置座標が既知である3以上のターゲット球体10からの反射光に基づいて、三次元計測装置20の位置座標が計測される。
【0049】
次に、コントローラ50が、ステップS15を実行する。ステップS15では、例えば、コントローラ50が、第1状態において、内側面98Lに向けて三次元計測装置20によりレーザ光を照射して、内側面98Lの位置座標を計測する。一例では、コントローラ50は、内側面98Lの複数の計測箇所(レーザ光が照射される複数箇所)それぞれについて、内側面98Lからの反射光に基づき計測装置本体30に対する相対的な位置を測定する。そして、コントローラ50は、反射光に基づく相対的な位置の測定結果と、第1状態における計測装置本体30の位置座標(ステップS14で算出された位置座標)とに基づいて、内側面98Lの複数の計測箇所それぞれの位置座標を算出する。コントローラ50は、種々の手法(例えば、公知の手法)により、内側面98Lの位置座標を算出してもよい。
【0050】
コントローラ50は、ステップS15を実行する際に、内側面98Lが含まれるように予め設定された範囲(以下、「走査範囲R3」という。)に三次元計測装置20からレーザ光を照射させて、内側面98Lの位置座標を計測してもよい。走査範囲R3は、ステップS15の実行前において、作業員によって設定されてもよい。作業員は、走査範囲を絞らずに三次元計測装置20の周囲を走査して得られる周囲の構造物の位置座標を示す情報に基づいて、内側面98Lの端部の位置座標を特定することで、走査範囲R3を設定してもよい。走査範囲R3を走査する際の走査密度は、上記第1走査密度よりも細かくてもよく、上記第2走査密度よりも粗くてもよい。
【0051】
次に、ステップS21が実行される。ステップS21では、例えば、作業員が、三次元計測装置20を移動させる。作業員は、大樋90の他方の側方である領域91Lにおいて大樋90の内側面98R(第2内側面)に対してレーザ光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置する。これにより、計測システム1が上記第2状態となる。図4では、領域91Lに配置された状態の三次元計測装置20が破線で示されている。
【0052】
次に、コントローラ50がステップS22を実行する。ステップS22では、例えば、コントローラ50が、上記ステップS12と同様に、第1走査速度で三次元計測装置20から周囲にレーザ光を照射して、3個のターゲット球体10を探索する処理を実行する。ステップS22は、計測システム1が第2状態に維持されたまま実行される。
【0053】
次に、コントローラ50が、ステップS23を実行する。ステップS23では、例えば、コントローラ50が、ステップS13と同様に、ステップS22での探索結果に基づき設定された範囲に、第1走査密度よりも細かい第2走査密度でレーザ光を照射して、3個のターゲット球体10それぞれの位置を示す情報を取得する処理を実行する。ステップS23は、計測システム1が第2状態に維持されたまま実行される。ステップS23において、コントローラ50は、第2状態での三次元計測装置20に対するターゲット球体10の相対的な位置を算出する。
【0054】
次に、コントローラ50が、ステップS24を実行する。ステップS24では、例えば、コントローラ50が、ステップS23での3個のターゲット球体10それぞれのターゲット球体10の相対的な位置の算出結果と、3個のターゲット球体10それぞれの位置座標(絶対座標)とに基づいて、第2状態における計測装置本体30の位置座標を算出する。以上のステップS21~S24の実行により、第2状態で、位置座標が既知である3以上のターゲット球体10からの反射光に基づいて、三次元計測装置20の位置座標が計測される。
【0055】
次に、コントローラ50が、ステップS25を実行する。ステップS25では、例えば、コントローラ50が、第2状態において、内側面98Rに向けて三次元計測装置20によりレーザ光を照射して、内側面98Rの位置座標を計測する。一例では、コントローラ50は、内側面98Rの複数の計測箇所(レーザ光が照射される複数箇所)それぞれについて、内側面98Rからの反射光に基づいて三次元計測装置20に対する相対的な位置を測定する。そして、コントローラ50は、反射光に基づく相対的な位置の測定結果と、第2状態における三次元計測装置20の位置座標(ステップS24で算出された位置座標)とに基づいて、内側面98Rの複数の計測箇所それぞれの位置座標を算出する。コントローラ50は、種々の手法(例えば、公知の手法)により、内側面98Rの位置座標を算出してもよい。
【0056】
コントローラ50は、ステップS25を実行する際に、ステップS15と同様に、内側面98Rが含まれるように予め設定された範囲に三次元計測装置20からレーザ光を照射させて、内側面98Rの位置座標を計測してもよい。ステップS25においてレーザ光を走査する上記範囲は、上述の走査範囲R3と同様の方法で、ステップS25の実行前に設定されてもよい。ステップS25においてレーザ光を走査する上記範囲は、内側面98Rの大部分(90%以上)が含まれるように設定されてもよい。以上により、1つの大樋90に対する1回の計測方法が終了する。
【0057】
図3に示される樋形状の計測方法は一例であり、適宜変更可能である。図3に示されるフローチャートにおいて、各ステップの順序が入れ替えられてもよく、あるステップと別のステップとが並行して実行されてもよい。図3に示されるフローチャートにおいて、異なる処理を実行する別のステップが追加されてもよい。ステップS21~S25が実行された後に、ステップS11~S15が実行されてもよい。図3に示される樋形状の計測方法においてコントローラ50が行う演算の少なくとも一部が、三次元計測装置20の計測装置本体30によって行われてもよい。
【0058】
1つの大樋90に着目した場合に、図3に示される一連の工程又は一連の処理が、繰り返し実行されてもよい。1つの大樋90に着目した場合に、大樋90での1回又は複数回の出銑が行われる度に、図3に示される1回の計測方法が実行されてもよい。一例では、数週間に1回の頻度で、図3に示される1回の計測方法が実行されてもよい。1回目の計測方法において、ステップS15,S25での走査範囲が設定されてもよく、2回目以降の計測方法では、ステップS15,S25において1回目の計測方法で設定された走査範囲が用いられてもよい。
【0059】
1回目の計測方法は、大樋90が使用される前に実行されてもよい。複数回の計測方法の間において、領域91Rでの三次元計測装置20の配置位置が互いに異なってもよく、領域91Lでの三次元計測装置20の配置位置が互いに異なってもよい。他の大樋90においても、同一の三次元計測装置20を用いて、図3に示される計測方法が実行されてもよい。つまり、1つの三次元計測装置20を用いて、複数の大樋90それぞれでの一対の内側面の形状の計測が行われてもよい。
【0060】
図3に示される一連の工程(又は一連の処理)が繰り返し実行される場合、それぞれの計測回において、大樋90の内側面の位置座標を示す点群データが算出されてもよい。これらの点群データでは、計測回ごとに三次元計測装置20の配置位置が異なっていても、内側面の位置座標が計測されているので、同じ座標系で重ね合わせて評価できる。一例では、作業員は、1回目の計測方法で得られた大樋90の内側面の位置座標を示す点群データと、2回目の計測方法で得られた大樋90の内側面の位置座標を示す点群データとを比較することで、大樋90の内側面の損耗(劣化)状態を把握してもよい。作業員は、点群データ同士の比較により、大樋90の内部の複数の高さ位置における大樋90の幅を計測してもよく、内側面98R,98Lにおける局所的に損耗が激しい箇所の有無を確認してもよい。
【0061】
内側面98R,98Lそれぞれの位置座標を示す点群データは、例えば、所定位置を原点としたX軸、Y軸、及び、Z軸の座標で表すこと(変換すること)が可能な三次元のデータである。図7は、X軸の座標をある値に固定したときのY-Z平面における点群データを示すグラフである。図7において、「Pr1-R」は、1回目の計測において得られた内側面98Rの形状を示す点群データであり、「Pr1-L」は、1回目の計測において得られた内側面98Lの形状を示す点群データである。「Pr2-R」は、2回目の計測において得られた内側面98Rの形状を示す点群データであり、「Pr2-L」は、2回目の計測において得られた内側面98Lの形状を示す点群データである。
【0062】
図7に示されるグラフから、大樋90の使用前後において、大樋90の内側面(耐火物96の表面)の損耗が生じていることがわかる。内側面98R及び内側面98Lの双方の位置座標を計測することで、大樋90の内部のY軸方向における幅の大きさを把握できる。
【0063】
[実施形態の効果]
以上に説明した計測方法とは異なり、大樋90の損耗状態を把握する方法として、出銑完了後に残銑を抜いた直後に、作業員が、測定治具を用いて、大樋90の内部の幅を計測することが考えられる。この場合、高温下で作業員が作業を行う必要があり、その作業には危険が伴うと共に、高精度な計測を行うことができない。人手に代えて計測装置を用いて、大樋90の内部の形状を計測することも考えられる。大樋が使用されている間、保熱又は安全のために大樋には樋カバーがかけられる場合が多く、計測を含む保全作業を行う際には、樋カバーを専用の移動装置又は工場クレーンで取り外してから作業を行う。そのため、計測装置等の保全機器を樋の周辺に固定設備として配置できず、作業の際には何らかの手段で計測装置を樋近傍に移動させる必要がある。
【0064】
人手作業に代えて、例えば、上述した特許文献2のように、計測センサを樋内部の中心部に配置して、大樋の長手方向に沿って移動させながら、計測する手法も考えられる。この場合、計測センサを大樋の長手方向に沿って移動させるための機構、及び、計測センサを冷却するための機構(耐熱対策)が必要となり、装置が大型化してしまう。さらに、樋カバーを取り外した後に、計測装置をクレーン等で移動させる段取り作業が必要であり、事前準備が煩雑である。
【0065】
段取り作業を軽減するために、上述した特許文献1のように、計測センサを所定位置に固定して、計測する手法も考えられる。しかしながら、高炉の周囲において、計測センサを固定できる箇所は限られており、大樋の一部において計測精度が劣る懸念がある。例えば、大樋の上流部近傍に配置する必要があり、樋の全長にわたって斜めから計測するために、局部損耗の検知等の残厚を管理するための高精度な計測が困難である。計測センサを所定位置に固定するために大樋ごとに、計測装置を設ける必要がある。また、計測装置には精密機械も含まれており、高温の粉塵環境下に設置されるので、定期点検のための保守作業が煩雑である。
【0066】
一方、コンパクトで容易に持ち運べる画像計測装置又はレーザ計測装置が、建設産業などにおいて実用化されてきている。このような計測手段(例えば、SLAM又はVLAM)を用いる場合、長い樋に沿って移動しながら短時間で計測できるので手軽であるが、移動するにつれて、基準位置の誤差が累積していくので、樋の長手方向における位置によって計測精度に差異が生じ得る。
【0067】
使用中の樋が、今後どの程度使えるかを判断するための残厚の管理では、損耗する前(使用前)と使用後で計測装置の位置を厳密にそろえて計測する必要がある。上述のように、計測装置を固定することは望ましくないので、基準となる対象物との距離を計測することで基準位置を計測することが不可欠である。しかしながら、このような作業は精度を確保するために高い技量が必要とされ、だれでも容易に操作することが難しい。
【0068】
操作の難しさを解消する対策として、樋の近傍に基準位置出しのためのマーカー(目印)を設けて、計測を行う際に、大樋の内側面の計測と一緒に、基準位置の計測を行う方法も考えられる。計測精度を維持するためには、マーカーは、大樋にできるだけ近い位置に設けることが望ましい。しかしながら、マーカーは樋の周囲において障害物となり、熱又は発塵の影響を受けるために、マーカーを常時設置しておくことは難しい。代替案として計測作業の度にマーカーを設置する案も考えられるが、この設置作業自体が、非常に危険な作業である。
【0069】
以上に説明した実施形態に係る樋形状の計測方法は、光の照射に伴う反射光に基づき三次元計測を行う三次元計測装置20を用いて、高炉80に接続された大樋90の内側面の形状を計測する方法である。この計測方法は、大樋90の一方の側方(領域91R)において大樋90の内側面98Lに対して光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置した第1状態で、所定位置に固定された3以上のターゲット球体10からの反射光に基づいて、三次元計測装置20の位置座標を計測する第1工程と、第1状態において、内側面98Lに向けて三次元計測装置20により光を照射して、内側面98Lの位置座標を計測する第2工程と、大樋90の他方の側方(領域91L)において大樋90の内側面98Lに対向する内側面98Rに対して光を照射できるように、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置に三次元計測装置20を配置した第2状態で、3以上のターゲット球体10からの反射光に基づいて、三次元計測装置20の位置座標を計測する第3工程と、第2状態において、内側面98Rに向けて三次元計測装置20により光を照射して、内側面98Rの位置座標を計測する第4工程と、を含む。
【0070】
この樋形状の計測方法では、樋形状の内部に三次元計測装置20の一部を配置する必要がなく、三次元計測装置20の耐熱対策のための機構が簡素化される。さらに、移動機構が設けられないため装置が小型化できるので、計測のための段取り作業が軽減される。そして、大樋90の長手方向における中央部に対応する位置から光が照射されるので、内側面に対する光の照射方向の角度が小さくならず、計測精度を容易に維持できる。また、3以上のターゲット球体10からの反射光を用いることで、基準となる対象物を大樋90の近傍に配置する必要がなく、精度を維持しつつ基準位置の算出が容易である。以上のことから、上記樋形状の計測方法により、大樋90の内側面の形状を簡便に計測することが可能である。
【0071】
以上の実施形態に係る計測方法において、第2工程では、第1工程で計測された三次元計測装置20の位置座標と、内側面98Lからの反射光に基づく内側面98Lの相対的な位置の測定結果とに基づいて、内側面98Lの位置座標が算出されてもよく、第4工程では、第3工程で計測された三次元計測装置20の位置座標と、内側面98Rからの反射光に基づく内側面98Rの相対的な位置の測定結果とに基づいて、内側面98Rの位置座標が算出されてもよい。第1工程、第2工程、第3工程、及び、第4工程を含む一連の工程が、繰り返し実行されてもよい。この場合、一連の工程における工程ごとに、三次元計測装置20の位置座標を用いて、大樋90の内側面98L,98Rの位置座標が算出される。そのため、三次元計測装置20が工程ごとに異なる位置に配置されても、1つの工程で得られた内側面98L,98Rの位置座標と、他の工程で得られた内側面98L,98Rの位置座標とを重ねて合わせて(同じ座標を用いて)評価できる。よって、簡便な計測と、上記残厚の高精度な管理との両立を図ることが可能である。
【0072】
以上の実施形態に係る計測方法において、第2工程では、内側面98Lが含まれるように予め設定された範囲に三次元計測装置20から光を照射することで、内側面98Lの位置座標を計測してもよく、第4工程では、内側面98Rが含まれるように予め設定された範囲に三次元計測装置20から光を照射することで、内側面98Rの位置座標を計測してもよい。この場合、内側面98R,98Lを計測する際に、光を照射する範囲が限定される。よって、大樋90の内側面の形状を計測する時間を短縮することが可能である。
【0073】
以上の実施形態に係る計測方法において、第1工程は、第1走査密度で三次元計測装置20から周囲に光を照射して、3以上のターゲット球体10を探索する第1走査処理と、第1走査処理による探索結果に基づき設定された範囲に、第1走査密度よりも細かい第2走査密度で三次元計測装置20から光を照射して、3以上のターゲット球体10それぞれの位置を示す情報を取得する第2走査処理と、を含んでもよい。ターゲット球体10を最初に探す際に、ターゲット球体10の位置の検出精度を向上させるために、走査密度を細かくすると計測に時間を要する。また、ターゲット球体10を最初に探す際に、計測時間を短縮するために、走査密度を粗くすると、ターゲット球体10の位置の検出精度が低下する。これに対して、上記方法では、粗い第1走査密度での探索が行われ、その探索の結果を利用した細かい第2走査密度での位置の検出が行われる。よって、計測時間の短縮と計測精度の向上との両立を図ることが可能である。
【0074】
以上の実施形態に係る計測方法の少なくとも一部を実行する計測システム1においても、計測方法の種々の例と同様の作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0075】
1…計測システム、10…ターゲット球体、20…三次元計測装置、30…計測装置本体、40…支持部材、50…コントローラ、80…高炉、82…出銑口、90…大樋、98R,98L…内側面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7