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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063518
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】鉄源の溶解精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171544
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014CB01
4K014CB05
4K014CC07
(57)【要約】
【課題】電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、スラグ量が増大し、あるいはアーク出力を強化しても耐火物の溶損を抑止することのできる、鉄源の溶解精錬方法を提供する。
【解決手段】電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程と、第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する第二工程と、温度および成分を調整する第三工程と、排滓、出湯する第四工程を含み、前記第一工程の終点においてスラグ中のFeO濃度(F)が下記(1)式を満たすことを特徴とする鉄源の溶解精錬方法。
【数1】

(1)式において、C,S,Aは各々、スラグ中の質量基準でのCaO濃度(C)、SiO濃度(S)、Al濃度(A)を示す。また、スラグ中の酸化鉄がすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、
電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程と、
第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する第二工程と、
温度および成分を調整する第三工程と、
排滓、出湯する第四工程を含み、
前記第一工程の終点においてスラグ中のFeO濃度(F)が下記(1)式を満たすことを特徴とする鉄源の溶解精錬方法。
【数1】

(1)式において、C,S,Aは各々、スラグ中の質量基準でのCaO濃度(C)、SiO濃度(S)、Al濃度(A)を示す。また、スラグ中の酸化鉄がすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)とした。
【請求項2】
前記第三工程の終点において、スラグ中のFeO濃度(F)が前記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鉄源の溶解精錬方法。
【請求項3】
前記第三工程の終点において、スラグ組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄源の溶解精錬方法。
C/(S+1.2A)≧0.8 … (2)
(2)式において、C,S,Aは前記(1)式と同様である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉を用いた鉄源の溶解精錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車用鋼板の製造に適する高級鋼は主に、鉄鉱石を原料として高炉-転炉法で製造されている。高炉法では、還元材としてコークスを用いるため、COが生成される。これに対して、電気炉製鋼法はスクラップを主要な原料として用いており、COの生成量が少ないという特徴を有する。ゼロカーボン・スチール実現に向けて、電気炉製鋼法の高級鋼製造への適用拡大が求められている。
【0003】
特許文献1には、製鋼用電気炉を用いた低リン溶鉄の製造方法として、溶鉄温度を1500℃以上として製鋼用電気炉により生成されるスラグにおいて、その組成により前記溶鉄温度での固相率及び粘性が大きく変化することに着目し、固体鉄源と、任意選択的に溶鉄源とを装入し、電気エネルギーを用いてそれら原料の溶解時に生成したスラグの一部またはすべてを排滓し、その後脱リンフラックスを添加して脱リン処理を行う工程において、前記排滓するスラグ組成質量比CaO/(SiO+Al)を0.25以上0.70以下の範囲内に調整する方法が開示されている。これにより、溶鉄の低リン化に要する石灰原単位を低減し、効率的に製鋼用電気炉で低リン溶鉄を製造することができるとしている。
【0004】
電気炉の主要な原料であるスクラップ中には、Cuをはじめとするトランプエレメントを含有しており、トランプエレメントは電気炉での溶解精錬で除去されずに鋼中に含有され、自動車用鋼板の製造に適しない。電気炉での高級鋼製造には、これらトランプエレメントの含有量が少ない良質な鉄源が必要であるが、良質なスクラップは資源量に限りがある。そのため、鉄源として還元鉄や銑鉄(型銑や溶銑)を活用することにより、スクラップの使用量を削減する必要がある。また、昨今の電気自動車の普及等から、モーターに用いられる電磁鋼由来のスクラップを用いる必要性も増している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2022/054555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁鋼屑のような鉄源を用いると、一般的なスクラップに比べて鉄源中に含まれるSi、Al含有量が多いため、これらが酸化して生じるSiOやAl等の生成によってスラグ量が増大する。また還元鉄中にはCaO、SiOやAl等が多く含まれている。鉄源を主にアークによって加熱溶解する際、特にSiO等の酸化物生成量が多い場合、多量のスラグによって耐火物の損耗が生じやすい課題がある。そのため、従来の操業形態のままでは多量のスラグによって炉壁等に用いられる耐火物の化学的溶損が悪化する問題があった。また、生産性を高めようと投入電力を増やそうとすると、アークの輻射熱によって耐火物が溶損するため、アーク出力の強化に伴って耐火物の熱的溶損が生じる課題がある。一方でアーク出力を抑えると、溶解に時間を要し、生産性が低下することとなる。
【0007】
本発明は、電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、鉄源に起因するSiOやAl等の生成によってスラグ量が増大しても耐火物の溶損を抑止することができ、またアーク出力を強化しても耐火物の溶損を抑止することのできる、鉄源の溶解精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、
電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程と、
第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する第二工程と、
温度および成分を調整する第三工程と、
排滓、出湯する第四工程を含み、
前記第一工程の終点においてスラグ中のFeO濃度(F)が下記(1)式を満たすことを特徴とする鉄源の溶解精錬方法。
【数1】
(1)式において、C,S,Aは各々、スラグ中の質量基準でのCaO濃度(C)、SiO濃度(S)、Al濃度(A)を示す。また、スラグ中の酸化鉄がすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)とした。
[2]前記第三工程の終点において、スラグ中のFeO濃度(F)が前記(1)式を満たすことを特徴とする[1]に記載の鉄源の溶解精錬方法。
[3]前記第三工程の終点において、スラグ組成が下記(2)式を満たすことを特徴とする[1]又は[2]に記載の鉄源の溶解精錬方法。
C/(S+1.2A)≧0.8 … (2)
(2)式において、C,S,Aは前記(1)式と同様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電気炉を用いた鉄源の溶解精錬において、電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程の終点においてスラグ中のFeO濃度(F)が上記(1)式を満たすことにより、耐火物の溶損を抑止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電気炉を用いた鉄源の溶解精錬においては、電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程と、第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する第二工程と、温度および成分を調整する第三工程と、排滓、出湯する第四工程を含んでいる。
【0011】
電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程においては、電気炉内に鉄源としてのスクラップ、還元鉄、銑鉄(型銑や溶銑)を装入した上で、アーク加熱によって固体鉄源を溶解する。鉄スクラップ中には酸化されやすい合金成分としてSi、Mn、Cr、Alなどを含有している。特に電磁鋼は高濃度でSiを含有している。還元鉄中にはCaO、SiOやAlを含有しており、銑鉄中にはSiを含有している。鉄源中のFeの一部、およびFe以外の酸化されやすい金属成分は、固体鉄源の溶解中に電気炉内に供給される酸素によって酸化され、鉄源中の酸化物成分とともに、スラグを形成する。
【0012】
第一工程で鉄源の溶解が完了すると、次の第二工程において、第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する。これにより、引き続き行う第三工程において、溶鉄の温度および成分を調整するに際し、精錬に適切なスラグの形成が容易になる。第三工程で溶鉄の温度と成分が目標値になるように精錬を行い、その後第四工程において排滓、出湯を行う。
【0013】
第一工程~第四工程のうち、第一工程は時間が長く、また固体鉄源を溶解するためにアークの出力が最も高いため、電気炉耐火物の溶損が最も進行するのは第一工程においてである。
【0014】
第一工程において、鉄源由来のCaO、SiO、Alの生成量は、鉄源の種類別の配合比率によって異なるが、合計3kg/t以上である。特に、鉄源として電磁鋼スクラップ、還元鉄、銑鉄を高い比率で用いた場合、鉄源由来のCaO、SiO、Alの生成量が多くなる。
【0015】
電気炉内に投入した鉄源を加熱、溶解する第一工程においては、アーク加熱を行うとともに電気炉内に酸素が供給される。酸素ガスは、溶鉄中不純物の酸化除去や、スラグのフォーミングを目的とした炭材の燃焼のために供給される。供給された酸素ガスによって電気炉内の溶融した溶鉄中Fe分が酸化し、スラグ中の酸化鉄分を形成する。スラグ中の酸化鉄にはFeOとFeの2種類が存在するが、ここでは、スラグ中の酸化鉄を構成するFeがすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)として取り扱う。
【0016】
そこでまず、種々のスラグ組成において、スラグが平衡状態において全て液相となる最小のFeO濃度(以下「限界FeO濃度」という。)について、1600℃での値をsolgasmix(多元平衡解析計算プログラム)で推定することを試みた。限界FeO濃度は、スラグ中のCaO、SiO、Alの濃度によって変動する。まずは、Al濃度が変動しても限界FeO濃度が一定に保たれる、スラグ組成のパラメータを探索した。以下、スラグ中の質量基準でのCaO濃度をC、SiO濃度をS、Al濃度をA、FeO濃度をFとして示す。
【0017】
その結果、
塩基度B=C/(S+1.2A) (3)
の値が一定であれば、Al濃度(A)が0~20%の範囲で変動しても、塩基度Bに対する限界FeO濃度の変化が同等であることが判明した。そこで以下、上記(3)式の塩基度Bを指標として検討を進めることとした。
【0018】
塩基度Bと限界FeO濃度との関係をsolgasmixを用いて調査したところ、限界FeO濃度の値は、塩基度Bが0.7から1.2の間で最小(=0)となり、塩基度Bが0.7未満では塩基度Bが低くなるほど増大、塩基度Bが1.2超では塩基度Bが高くなるほど増大することが明らかとなった。そこで次に、塩基度Bを引数とする関数で、上記と似たような傾向を示す関数を探索し、Xを定数とした下記(4)式の関数において、X=3としたときにBと限界FeO濃度との関係に一致することが判明した。このことから、下記(4)式を用いることが適切であることがわかった。
P=X×((B+0.1)-1+0.7-1×B+5.3)-13 (4)
【0019】
次に、(4)式のPを指標として、実際の電気炉操業において、第一工程のスラグ組成から計算したパラメータPの値ごとに、耐火物溶損を抑制することのできるスラグ中FeO濃度(F)の最大値の評価を行った。その結果、(4)式のXにX=7を代入した下記(5)式を満足するスラグ中FeO濃度(F)であれば、種々のBの値において、耐火物溶損を抑制することができることが明らかとなった。
F≦7×((B+0.1)-1+0.7-1×B+5.3)-13
=7×(B+0.1)-1+10×B+24 (5)
【0020】
電気炉での製錬工程、特に第一工程のようにアーク加熱の出力が大きくかつ処理時間が長い工程においては、アークによる耐火物の熱的溶損を低減するため、スラグをフォーミングさせてアークをスラグで覆うことが有効である。ところが、スラグ中のFeO濃度が低すぎると、スラグのフォーミングが低下することとなり、アークが露出して耐火物の熱的溶損が進行することが判明した。そこで、同じく上記パラメータPごとに、スラグのフォーミングが低下することなくアークの露出を防止することができる、最低のスラグ中FeO濃度(F)の評価を行った。その結果、(4)式のXにX=2.1を代入した下記(6)式を満足するFeO濃度(F)であれば、種々のBの値において、フォーミングの低下を抑止してアークを被覆し、耐火物溶損を抑制することができることが明らかとなった。
F≧2.1×((B+0.1)-1+0.7-1×B+5.3)-13
=2.1×(B+0.1)-1+3×B-2 (6)
【0021】
そこで、上記(5)式と(6)式をまとめて一つの不等式とし、さらに(3)式を代入することにより、以下の(1)式を導くことができた。
【数2】
(1)式において、C,S,Aは各々、スラグ中の質量基準でのCaO濃度(C)、SiO濃度(S)、Al濃度(A)を示す。また、スラグ中の酸化鉄がすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)とした。
【0022】
(1)式左辺の係数をX=2.1としているが、係数がX=2.5であるとより好ましい。係数がX=3.0であるとさらに好ましい。また(1)式右辺の係数をX=7としているが、係数がX=6.5であるとより好ましい。係数がX=6.0であるとさらに好ましい。
【0023】
なお、第一工程において、前記(3)式で定めるスラグ組成のB=C/(S+1.2A)の値に制限はないが、Bの値が0.3~3.1の範囲内にあれば、上記(1)式を満たすこととあいまって、フォーミング抑制を防止してアークの露出を防止し、耐火物溶損を十分に抑制することができるので好ましい。
【0024】
本発明により、第一工程においてアークがスラグに被覆されているので、アークの出力を上げることが可能となり、高速にアーク溶解を行って第一工程を短縮できる。そのため第三工程の精錬時間を確保することが可能となり、第三工程における脱P精錬も十分に促進することができる。
【0025】
第一工程における鉄源投入は、連続的に行うこととしても良い。これにより、スラグ組成制御がよりやりやすくなる。
【0026】
本発明の鉄源の溶解精錬方法では、第一工程での鉄源の加熱、溶解を行った後、第二工程でスラグを排出し、第三工程で溶鉄の温度および成分の調整を行う。第三工程は、第一工程に比較して処理時間が短い場合が多く、また固体鉄源の溶解が伴わないのでアークの発熱量も第一工程より少ない。そのため、電気炉の耐火物に対するアタックも、第三工程は第一工程に比較すると激しくはないが、第三工程においても耐火物の溶損対策を行うことは効果を発揮する。そして第三工程においても、第一工程と同様、第三工程の終点において、スラグ中のFeO濃度(F)が前記(1)式を満たすことにより、好適な結果を得ることができる。第三工程の終点におけるスラグ中のFeO濃度(F)が(1)式左辺より大きい値を取ることにより、スラグが適度にフォーミングしてアークの露出を防止し、耐火物の損耗度合いを低減することができる。また、FeO濃度(F)が(1)式右辺より小さい値を取ることにより、耐火物の損耗度合いを低減することができる。
【0027】
第三工程においても、(1)式左辺の係数がX=2.5であるとより好ましい。係数がX=3.0であるとさらに好ましい。また(1)式右辺の係数がX=6.5であるとより好ましい。係数がX=6.0であるとさらに好ましい。
【0028】
第三工程で実施する溶鉄の成分調整については、単純に合金成分を添加することによる成分調整のみの場合もあるが、溶鉄の脱P精錬を目的とする場合もある。第三工程でのスラグに脱P能力を持たせ、酸化精錬を行うことによって溶鉄中のP濃度の低減を図る。本発明では、前記(3)式で定義した塩基度B=C/(S+1.2A)を指標として、前記第三工程の終点において、スラグ組成が
B=C/(S+1.2A)≧0.8 … (2)
を満たすことにより、第三工程で良好な脱P精錬を行うことができる。(2)式において、C,S,Aは前記(1)式と同様である。B≧1.0であるとより好ましい。塩基度Bの上限は特に定めないが、B≦4.5とすれば、過飽和となるCaOの量を抑えることができ、好ましい。
【0029】
なお、排滓に際しては炉内のスラグが炉外に排出できれば任意の操作方法を用いてよく、例えば排滓中にアーク加熱や炉体傾動等の操作を行うか否かは任意に選択できる。また、第一工程において加熱、溶解と並行してスラグを流出させてもよい。第三工程において温度および成分調整と並行してスラグを流出させてもよい。
【実施例0030】
溶鉄量が175トンのアーク電気炉を用い、本発明の鉄源の溶解精錬方法を実施した。製造した175トンの溶鉄のうち、110トンを出鋼し、65トンを電気炉内に残して次ヒートの種湯とした。鉄源として、前記種湯に加えて固体鉄源としてスクラップと還元鉄を使用した。固体鉄源に占める還元鉄の割合は50%とした。還元鉄中のCaO濃度は1質量%、SiO濃度は2質量%、Al濃度は0.5質量%程度であった。
【0031】
電気炉内に投入した鉄源をアーク加熱によって溶解する第一工程と、第一工程で生じたスラグの一部または全部を排出する第二工程と、温度および成分を調整する第三工程と、排滓、出湯する第四工程をこの順番で実施した。
【0032】
第一工程で生成するスラグ成分のうち、CaO源としては還元鉄中のCaO源に加えて生石灰を添加し、SiO源としては還元鉄中のSiO、スクラップ中のSiが酸化して生成するSiO源に加えて必要に応じて珪石やFeSi合金を添加し、Al源として還元鉄中のAl、スクラップ中のAlが酸化して生成するAl源に加えて必要に応じてアルミドロスやアルミナ煉瓦屑、ボーキサイトを添加した。
【0033】
第一工程での溶解が完了した後、第二工程において、第一工程で生じたスラグのうちの30~70%を排出した。
【0034】
続く第三工程においては、電気炉内に残存するスラグに加えて、必要に応じてCaO源として生石灰を添加し、酸化精錬によって脱P精錬を行った。脱P精錬終了後、第四工程として、第三工程で生じたスラグのうちの70~90%を排出し、溶鉄175トンのうち110トンを出鋼した。炉内に残存した65トンの溶鉄は次ヒートの種湯とした。
【0035】
第一工程終点と第三工程終点の電気炉内スラグサンプルを採取し、スラグ成分を分析した。スラグ中の質量基準でのCaO濃度(C)、SiO濃度(S)、Al濃度(A)を、それぞれC,S,Aとして、表1の「C/(S+1.2A)」欄に結果を記載した。スラグ中の酸化鉄がすべてFeOであるとして換算してFeO濃度(質量基準)(F)を記載した。表1には、上記分析値を用いて算出した(1)式左辺と(1)式右辺の値も記入している。
【0036】
表1に各実施例のスラグ組成および評価結果を示す。本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す各水準の操業条件を連続して100ヒート実施した。
【0039】
耐火物損耗速度指標については、溶解終了時の湯面高さでの耐火物残寸を測定し、100ヒートでの変化を下記基準で評点付けした。
◎ :平均0.1mm/ヒート以下
〇 :平均0.1mm/ヒート以上 0.5mm/ヒート未満
× :平均0.5mm/ヒート以上
【0040】
脱P指数については、
W_P_in=種湯中のP量+鉄源中のP持ち込み量
W_P_out=精錬終了時点での溶鉄中P量
を評価した上で、
脱P率=(W_P_in-W_P_out)/W_P_in×100
として脱P指数(%)を算出した。100ヒートでの脱P率の平均値を下記基準で評点付けした。
○ :70%以上
△ :30%以上70%未満
× :30%未満
【0041】
総合評点を以下の基準で評価した。
◎ :耐火物損耗速度指標◎、かつ、脱P指数○
〇 :耐火物損耗速度指標○、かつ、脱P指数○
または 耐火物損耗速度指標◎、かつ、脱P指数△
× :耐火物損耗速度指標×
【0042】
表1の本発明例1~11が本発明例であり、比較例1、2が比較例である。
【0043】
本発明例1~11はいずれも、第一工程のスラグFeO含有量が本発明範囲に入っており、耐火物損耗速度指数は◎または○であって良好であった。本発明例1、3、4、6~11は第三工程でのスラグ中FeO含有量も本発明の好適範囲を満たしており、耐火物損耗速度指数が◎であった。本発明例9は、第三工程でのスラグ「C/(S+1.2A)」が本発明の好適範囲を満たしていないことから、第三工程での脱P能力が十分ではなく、脱P指数が△であった。
【0044】
比較例1は第一工程のスラグFeO含有量が本発明範囲を下限に外れ、比較例2は第一工程のスラグFeO含有量が本発明範囲を上限に外れ、いずれも耐火物損耗速度指標が×であった。