(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063521
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】スピン計測システム
(51)【国際特許分類】
G01P 3/36 20060101AFI20240502BHJP
A63B 60/46 20150101ALI20240502BHJP
A63B 71/02 20060101ALI20240502BHJP
A63B 69/36 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01P3/36 C
A63B60/46
A63B71/02 Z
A63B69/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171548
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】501389246
【氏名又は名称】株式会社ディテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】玉置 郁
(72)【発明者】
【氏名】浮谷 卓匡
(57)【要約】
【課題】少ない処理量で姿勢に制限なくボールのスピンを計測する。
【解決手段】どの方向から見ても所定数以上のマーカーが表れるようにボールにマーカーを分散配置する。撮影した回転前のマーカー中から2つの回転前マーカーを取り出して並べた順列と、撮影した回転後のマーカー中から2つの回転後マーカーを取り出して並べた順列との全ての組について、組中の各回転前のマーカーA(No.1)、A(No.2)から順列中の順番が同じ回転後のマーカーB(No.1)、B(No.2)への2つの3次元の移動ベクトルV(No.1)、V(No.2)の外積VJを軸方向とする回転軸Jと、回転軸Jまわりの移動ベクトルを求めたマーカー間の3次元の回転角ω1、ω2を求める。各組について求めた回転軸と回転角の組み合わせのうち、回転前マーカーから回転後マーカーへの回転として最も良く整合するものを計測値とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体のスピンを計測するスピン計測システムであって、
どの方向から見ても3以上のマーカーが表れるように複数のマーカーが分散配置された球体が回転するようすを撮影するカメラと、
第1の時点で前記カメラが撮影した画像中に表れた各マーカーを回転前マーカー、第1の時点の直後の時点である第2の時点で前記カメラが撮影した画像中に表れた各マーカーを回転後マーカーとして、前記各回転前マーカーと前記各回転後マーカーの、原点が前記球体の中心に相当する位置となる3次元の座標系である計測座標系上の3次元座標を算定するマーカー座標算定手段と、
前記計測座標系上の回転軸を表す回転軸候補と前記計測座標系上の回転角を表す回転角候補の組である計測値候補を複数算定する計測値候補算定手段と、
前記計測値候補算定手段が算定した計測値候補のうち、回転軸候補が表す回転軸まわりに、前記各回転前マーカーの前記3次元座標を、回転角候補が表す回転角、回転させた3次元座標が、前記各回転後マーカーの前記3次元座標に最も整合する計測値候補を最良計測値候補として、当該最良計測値候補の回転軸候補を前記計測座標系上の前記球体の回転軸として、当該最良計測値候補の回転角候補を前記計測座標系上の前記球体の回転角として計測する計測値候補評価手段とを有し、
前記計測値候補算定手段は、
全ての回転前マーカー中から2つの回転前マーカーを取り出して並べた順列と、全ての回転後マーカー中から2つの回転後マーカーを取り出して並べた順列との各組み合わせを処理対象組として、各処理対象組について、
当該処理対象組の2つの順列の順列中の順番が同じ回転前マーカーと回転後マーカーをペアとすることにより2つのペアを設定し、
各ペアについて求まる前記回転前マーカーの前記3次元座標から前記回転後マーカーの前記3次元座標への移動ベクトル同士の外積であるベクトルと方向が同じ、前記計測座標系の原点を通る回転軸を当該処理対象組の回転軸候補として求め、
設定した2つのペアのそれぞれ、もしくは、一方のペアについて、求めた当該処理対象組の回転軸候補まわりの、当該ペア中の前記回転前マーカーの前記3次元座標に対する当該ペア中の前記回転後マーカーの3次元座標の回転角を、当該処理対象組の回転角候補として求め、
求めた当該処理対象組の回転軸候補と求めた当該処理対象組の各回転角候補との組み合わせを前記計測値候補として算定することを特徴とするスピン計測システム。
【請求項2】
請求項1記載のスピン計測システムであって、
前記計測値候補評価手段は、各計測値候補について、評価値を算出する評価値算出処理を行うと共に、算出した評価値が最小の計測値候補を前記最良計測値候補とし、
前記評価値算出処理において、前記計測値候補評価手段は、前記各回転前マーカーについて誤差値を求める誤差値算出処理を行うと共に、各回転前マーカーについて求めた誤差値の平均に比例する値を当該計測値候補の評価値とし、
前記誤差値算出処理において、前記計測値候補評価手段は、誤差値を求める回転前マーカーの前記3次元座標を、評価値を求める計測値候補の回転軸候補が表す回転軸まわりに、当該計測値候補の回転角候補が表す回転角、回転させた3次元座標を回転後マーカー推定座標とし、当該回転後マーカー推定座標に前記計測座標系の原点から向かうベクトルに対して、当該回転後マーカー推定座標に最も近い回転後マーカーの3次元座標に前記計測座標系の原点から向かうベクトルがなす角度の絶対値を誤差値として算出することを特徴とするスピン計測システム。
【請求項3】
請求項1記載のスピン計測システムであって、
前記マーカー座標算定手段は、前記カメラが撮影した画像を、前記球体を平行投影した画像である平行投影画像に変換し、当該平行投影画像中に表れる前記球体の像が、前記計測座標系上の当該計測座標系の原点を中心とする所定長の半径の球体を平行投影した像であるものと見なして、前記各回転前マーカーと前記各回転後マーカーの前記計測座標系上の3次元座標を算定することを特徴とするスピン計測システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のスピン計測システムであって、
前記計測値候補評価手段が計測した前記計測座標系上の前記球体の回転軸と前記計測座標系上の前記球体の回転角と、前記第1の時点の前記第2の時点との間の時間間隔とより、前記球体の所定の回転方向の回転速度を算出する回転速度算出手段を有することを特徴とするスピン計測システム。
【請求項5】
請求項4記載のスピン計測システムであって、
前記球体はゴルフボールであり、
前記カメラは、ゴルフショットが行われるエリアを撮影し、
前記回転速度算出手段は、前記ゴルフボールのバックスピン方向の回転速度とサイドスピン方向の回転速度とライフルスピン方向の回転速度のうち、少なくとも1つの回転速度を算出することを特徴とするスピン計測システム。
【請求項6】
コンピュータに読み取られ実行されるプログラムであって、
当該プログラムは、前記コンピュータを、
どの方向から見ても3以上のマーカーが表れるように複数のマーカーが分散配置された球体が回転するようすを撮影するカメラが、第1の時点で撮影した画像中に表れた各マーカーを回転前マーカー、前記カメラが、第1の時点の直後の時点である第2の時点で撮影した画像中に表れた各マーカーを回転後マーカーとして、前記各回転前マーカーと前記各回転後マーカーの、原点が前記球体の中心に相当する位置となる3次元の座標系である計測座標系上の3次元座標を算定するマーカー座標算定手段と、
前記計測座標系上の回転軸を表す回転軸候補と前記計測座標系上の回転角を表す回転角候補の組である計測値候補を複数算定する計測値候補算定手段と、
前記計測値候補算定手段が算定した計測値候補のうち、回転軸候補が表す回転軸まわりに、前記各回転前マーカーの前記3次元座標を、回転角候補が表す回転角、回転させた3次元座標が、前記各回転後マーカーの前記3次元座標に最も整合する計測値候補を最良計測値候補として、当該最良計測値候補の回転軸候補を前記計測座標系上の前記球体の回転軸として、当該最良計測値候補の回転角候補を前記計測座標系上の前記球体の回転角として計測する計測値候補評価手段として機能させ、
前記計測値候補算定手段は、
全ての回転前マーカー中から2つの回転前マーカーを取り出して並べた順列と、全ての回転後マーカー中から2つの回転後マーカーを取り出して並べた順列との各組み合わせを処理対象組として、各処理対象組について、
当該処理対象組の2つの順列の順列中の順番が同じ回転前マーカーと回転後マーカーをペアとすることにより2つのペアを設定し、
各ペアについて求まる前記回転前マーカーの前記3次元座標から前記回転後マーカーの前記3次元座標への移動ベクトル同士の外積であるベクトルと方向が同じ、前記計測座標系の原点を通る回転軸を当該処理対象組の回転軸候補として求め、
設定した2つのペアのそれぞれ、もしくは、一方のペアについて、求めた当該処理対象組の回転軸候補まわりの、当該ペア中の前記回転前マーカーの前記3次元座標に対する当該ペア中の前記回転後マーカーの3次元座標の回転角を、当該処理対象組の回転角候補として求め、
求めた当該処理対象組の回転軸候補と求めた当該処理対象組の各回転角候補との組み合わせを前記計測値候補として算定することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールや卓球ボールなどの球体のスピンを計測する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
球体のスピンを計測する技術としては、表面に2つの小円上のマーカーを付したゴルフボールのゴルフショットのようすをカメラで撮影し、撮影した画像からゴルフボールの表面のマーカーの三次元座標を算出すると共に、マーカーの三次元座標の時間変化よりゴルフボールの回転速度や回転軸の傾きを計測する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した表面に2つのマーカーを付したゴルフボールをカメラで撮影して、ゴルフボールの回転速度や回転軸の傾きを計測する技術によれば、ゴルフショットの度に、2つのマーカーが測定する回転の前後の画像において必ずカメラで撮影されるようにゴルフボールをセットする必要があり煩雑である。
【0005】
また、2つのマーカーが必ずカメラ方向を向いていることが担保されない運動中の球体については、その回転速度や回転軸の傾きを計測することができない。
一方で、球体に多数のマーカーを分散して配置すれば、このようなマーカーが撮影されない事象の発生は回避できる。
しかし、このようにすると、測定する回転の前後の画像において、どのマーカーとどのマーカーが同じマーカーであるのかが不特定となり、回転の前後のマーカーの三次元座標から直接に回転速度や回転軸の傾きを算定することができなくなる。そこで、回転速度と回転軸の傾きとの組み合わせの総当たり方式の評価によって、回転の前後の各マーカーの三次元座標の組に最も整合する回転速度と回転軸の傾きを求めて計測値とすることが考えられるが、このようにすると、計測に要する計算量が過大となる。
【0006】
そこで、本発明は、球体の姿勢に制限なく、比較的に少ない処理量で、球体の回転速度や回転軸の傾きを、当該球体の回転前後の画像から計測できるスピン計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、球体のスピンを計測するスピン計測システムにおいて、どの方向から見ても3以上のマーカーが表れるように複数のマーカーが分散配置された球体が回転するようすを撮影するカメラと、第1の時点で前記カメラが撮影した画像中に表れた各マーカーを回転前マーカー、第1の時点の直後の時点である第2の時点で前記カメラが撮影した画像中に表れた各マーカーを回転後マーカーとして、前記各回転前マーカーと前記各回転後マーカーの、原点が前記球体の中心に相当する位置となる3次元の座標系である計測座標系上の3次元座標を算定するマーカー座標算定手段と、前記計測座標系上の回転軸を表す回転軸候補と前記計測座標系上の回転角を表す回転角候補の組である計測値候補を複数算定する計測値候補算定手段と、前記計測値候補算定手段が算定した計測値候補のうち、回転軸候補が表す回転軸まわりに、前記各回転前マーカーの前記3次元座標を、回転角候補が表す回転角、回転させた3次元座標が、前記各回転後マーカーの前記3次元座標に最も整合する計測値候補を最良計測値候補として、当該最良計測値候補の回転軸候補を前記計測座標系上の前記球体の回転軸として、当該最良計測値候補の回転角候補を前記計測座標系上の前記球体の回転角として計測する計測値候補評価手段とを備えたものである。
【0008】
ここで、前記計測値候補算定手段は、全ての回転前マーカー中から2つの回転前マーカーを取り出して並べた順列と、全ての回転後マーカー中から2つの回転後マーカーを取り出して並べた順列との各組み合わせを処理対象組として、各処理対象組について、当該処理対象組の2つの順列の順列中の順番が同じ回転前マーカーと回転後マーカーをペアとすることにより2つのペアを設定し、各ペアについて求まる前記回転前マーカーの前記3次元座標から前記回転後マーカーの前記3次元座標への移動ベクトル同士の外積であるベクトルと方向が同じ、前記計測座標系の原点を通る回転軸を当該処理対象組の回転軸候補として求め、設定した2つのペアのそれぞれ、もしくは、一方のペアについて、求めた当該処理対象組の回転軸候補まわりの、当該ペア中の前記回転前マーカーの前記3次元座標に対する当該ペア中の前記回転後マーカーの3次元座標の回転角を、当該処理対象組の回転角候補として求め、求めた当該処理対象組の回転軸候補と求めた当該処理対象組の各回転角候補との組み合わせを前記計測値候補として算定する。
【0009】
ここで、このスピン計測システムは、前記計測値候補評価手段において、各計測値候補について、評価値を算出する評価値算出処理を行うと共に、算出した評価値が最小の計測値候補を前記最良計測値候補とし、前記評価値算出処理において、前記計測値候補評価手段は、前記各回転前マーカーについて誤差値を求める誤差値算出処理を行うと共に、各回転前マーカーについて求めた誤差値の平均に比例する値を当該計測値候補の評価値とし、前記誤差値算出処理において、前記計測値候補評価手段は、誤差値を求める回転前マーカーの前記3次元座標を、評価値を求める計測値候補の回転軸候補が表す回転軸まわりに、当該計測値候補の回転角候補が表す回転角、回転させた3次元座標を回転後マーカー推定座標とし、当該回転後マーカー推定座標に前記計測座標系の原点から向かうベクトルに対して、当該回転後マーカー推定座標に最も近い回転後マーカーの3次元座標に前記計測座標系の原点から向かうベクトルがなす角度の絶対値を誤差値として算出するように構成してもよい。
【0010】
また、以上のスピン計測システムは、前記マーカー座標算定手段において、前記カメラが撮影した画像を、前記球体を平行投影した画像である平行投影画像に変換し、当該平行投影画像中に表れる前記球体の像が、前記計測座標系上の当該計測座標系の原点を中心とする所定長の半径の球体を平行投影した像であるものと見なして、前記各回転前マーカーと前記各回転後マーカーの前記計測座標系上の3次元座標を算定するように構成してもよい。
【0011】
ここで、以上のスピン計測システムに、前記計測値候補評価手段が計測した前記計測座標系上の前記球体の回転軸と前記計測座標系上の前記球体の回転角と、前記第1の時点の前記第2の時点との間の時間間隔とより、前記球体の所定の回転方向の回転速度を算出する回転速度算出手段を備えてもよい。
【0012】
また、このスピン計測システムにおいて、前記球体はゴルフボールであってよく、前記カメラは、ゴルフショットが行われるエリアを撮影するものであってよく、前記回転速度算出手段は、前記ゴルフボールのバックスピン方向の回転速度とサイドスピン方向の回転速度とライフルスピン方向の回転速度のうち、少なくとも1つの回転速度を算出するものであってよい。
【0013】
また、本発明は、併せて、コンピュータを、上述のマーカー座標算定手段と計測値候補算定手段と計測値候補評価手段として機能させるプログラムも提供する。
以上のようなスピン計測システムやプログラムによれば、どの方向から見ても3以上のマーカーが表れるように表面上にマーカーを分散配置した球体を用いて、ゴ球体の姿勢に制限なく、球体の回転軸や回転角などの、球体のスピンの属性を計測することができる。
また、カメラによって撮影された球体のマーカーの数をnとして、n個のうちから2つ選んで並べる順列をnP2として最大でも2×(nP2×nP2)個の回転軸と回転角との組み合わせについてのみ、回転前マーカーの3次元座標と回転後マーカーの3次元座標との組との整合性を評価して計測値を求めることができるので、取り得る全ての回転軸と回転角との組み合わせについて整合性を評価する場合に比べ、大幅に少ない処理で球体のスピンの計測を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、球体の姿勢に制限なく、比較的に少ない処理量で、球体の回転速度や回転軸の傾きを、当該球体の回転前後の画像から計測できるスピン計測システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るゴルフショット解析システムを示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るゴルフボールを示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るスピン計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態において用いる平行投影画像を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る撮影画像を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るマーカーの3次元座標の算出法を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る計測値候補の算出法を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る計測値候補の評価値の算出法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るスピン計測システムの実施形態について、ゴルフショット時のゴルフボールのスピンを計測するゴルフショット解析システムへの適用を例にとり説明する。
図1a、bに、本実施形態に係るゴルフショット解析システムの構成を示す。
図1aは、ゴルフショット動作を行うユーザに、おおよそ対面する方向から見たゴルフショット解析システムのようすを、
図1bは、おおよそユーザ側から見たゴルフショット解析システムのようすを表している。
図示するように、ゴルフショット解析システムは、ユーザがゴルフショット動作を行うエリアである撮像エリア3の横に配置された撮影装置1、撮影装置1に接続されたスピン計測装置2を備えている。
ここで、ゴルフスイング解析システムにおいては、
図1a、bに示すように、実空間上に固定した座標として、水平面上のゴルフボールの打ち出し方向(ゴルフボールの軌道がストレートであると見なす方向)をXw方向、水平面上のXw方向と垂直であって撮影装置1に近づいていく方向をYw方向、鉛直上方向をZw方向とする、XwYwZw直交座標系を実空間座標系として用いる。
【0017】
そして、計測装置2は、撮像エリア3の、Yw方向側に設置され、
図1bに示すように撮影装置1に内蔵されたカメラ11によって、撮像エリア3に置かれたゴルフボール4のゴルフショットのようすを撮影する。
次に、
図2に、本実施形態でスピン計測に用いるゴルフボール4を示す。
図2a、bに異なる方向から見たゴルフボール4のようすを示すように、本実施形態では、どの方向から見ても所定数以上のマーカーが表れるように、ゴルフボール4の表面上にマーカーを分散して多数配置する。ここで、所定数は少なくとも3以上の整数とする。
【0018】
次に、
図3に、スピン計測装置2の機能構成を示す。
図示するように、スピン計測装置2は、所定フレーム数分、撮影装置1が撮影した最新の画像フレームを保持する画像メモリ21、対象フレームセット抽出部22、平行投影画像変換部23、マーカー3次元座標算出部24、マーカー3次元座標メモリ25、計測値候補算定部26、計測値候補評価部27、計測値出力部28を備えている。
【0019】
ただし、スピン計測装置2はコンピュータを用いて構成してよく、この場合、
図3に示したスピン計測装置2の各部は、所定のコンピュータプログラムをコンピュータが実行することにより実現される。
対象フレームセット抽出部22は、画像メモリ21からゴルフクラブヘッドがゴルフボール4にインパクトした直後に撮影装置1が撮影した時間的に隣接する2つの画像フレームのセットを対象フレームセットとして抽出する。
ここで、ゴルフクラブヘッドのゴルフボール4とのインパクトのタイミングは、画像フレームを解析して検出してもよいし、撮影装置1の内部もしくは外部に、当該インパクトを検出する検出装置を設けることによって検出してもよい。
次に、平行投影画像変換部23は、各画像フレームにゴルフボール4が表れる位置から求まるゴルフボール4と撮影装置1との位置関係や、カメラ11の各種特性に従って、対象フレームセット抽出部22が対象フレームセットとして抽出した2つの画像フレームを、ゴルフボール4のYw側に表れる表面をYw方向に平行投影した場合に得られる画像である平行投影画像に変換する。
【0020】
以下では、便宜上、対象フレームセット抽出部22が対象フレームセットとして抽出した2つの画像フレームを平行投影画像に変換した2つの画像フレームのうち、時間的に前の画像フレームを回転前画像フレームFA、時間的に後の画像フレームを回転後画像フレームFBと呼称する。また、対象フレームセット抽出部22が対象フレームセットとして抽出した2つの画像フレームのうち、時間的に前の画像フレームが撮影された時刻をTA、時間的に後の画像フレームが撮影された時刻をTBとして説明を行う。
【0021】
この場合、
図4に示すように、縮尺を除き、回転前画像フレームFAは時刻TAのゴルフボール4のYw側に表れる表面をYw方向に平行投影して得られる画像となり、回転後画像フレームFBは時点TBのゴルフボール4のYw側に表れる表面をYw方向に平行投影して得られる画像となる。なお、
図4は説明のために模式的に示したものであり、時刻TA、時刻TBのゴルフボール4との実際の位置関係を示したものではない。
【0022】
なお、回転前画像フレームFA、回転後画像フレームFBは、その時点のゴルフボール4の中心の位置からYw方向に無限遠離れたカメラ11で-Yw方向を撮影した画像に相当する。
次に、マーカー3次元座標算出部24は、回転前画像フレームFA、回転後画像フレームFB中に表れるマーカーの3次元座標を算出する。
すなわち、マーカー3次元座標算出部24は、まず、回転前画像フレームFA中のマーカーと回転後画像フレームFB中のマーカーを識別し、識別した各マーカーにラベルを付与しラベリングする。
ここでは、
図5に示すように、回転前画像フレームFA中のマーカーは、Aiのラベルでラベリングするものとする。すなわち、回転前画像フレームFA中のマーカー数がn個であれば、A1、A2、...、Anのラベルを各マーカーに順に付与する。
また、回転後画像フレームFB中のマーカーは、Biのラベルでラベリングするものとする。すなわち、回転後画像フレームFB中のマーカー数がn個であれば、B1、B2、...、Bnのラベルを各マーカーに順に付与する。
そして、マーカー3次元座標算出部24は、ラベリングした各マーカーの3次元座標を次のように算出する。
いま、
図6aの画像フレーム601は、3次元座標を算出するマーカーmが含まれる画像フレーム(回転前画像フレームFAまたは回転後画像フレームFB)である。
各画像フレームには画像フレーム上の画素の座標系として、右方向を正方向とする水平軸uと、下方向を正方向とする垂直軸vと、左上角の原点CPとによって定義されるuv画素座標系が定義されている。
マーカー3次元座標算出部24は、画像フレーム601に表れるゴルフボール4のエッジからゴルフボール4の像の領域、位置を識別し、uv画素座標系上でのゴルフボール4の中心CFの座標(Cu、Cv)、uv画素座標系上でのゴルフボール4の半径rを算出する。また、uv画素座標系上でのマーカーmの座標を(mu、mv)とする。
【0023】
そして、次に、マーカー3次元座標算出部24は、マーカーmの計測座標系上での3次元座標を算出する。
計測座標系は、
図6bに示すようにゴルフボール4の中心に相当する位置を原点とするXYZ直交座標系であり、計測座標系のX方向は実空間座標系のXw方向と等しく、計測座標系のY方向は実空間座標系のYw方向と等しく、計測座標系の+Z方向は実空間座標系のZw方向と等しい。
【0024】
マーカー3次元座標算出部24は、画像フレーム601が、計測座標系上の原点Cを中心とする直径Rが1の球体を撮影したものと見なして、
図6bに示すように、当該計測座標系上の球体の表面上にマーカーmをマッピングし、マーカーmの3次元座標(mx、my、mz)を算出する。
【0025】
より具体的には、マーカーmの3次元座標(mx、my、mz)を、下式により算出する。
mx=(mu-Cu)/r
mz=(mv-Cv)/r
my=(1-mx2-mz2)1/2
なお、ゴルフボール4のスピンの計算にゴルフボール4の半径は必要ないため、マーカーmをマッピングする計測座標系上の球体の半径Rを1とし、以降の計算処理の負担を軽減している。
【0026】
次に、マーカー3次元座標算出部24が算出した、回転前画像フレームFAと回転後画像フレームFBのラベルングされた各マーカーの3次元座標は、マーカー3次元座標メモリ25に格納される。
そして、計測値候補算定部26は、マーカー3次元座標メモリ25に格納された各マーカーの3次元座標を用いて、回転軸と回転角のセットである計測値候補を複数算定する。
すなわち、回転前画像フレームFA中のAiのラベルでラベリングされたマーカーを回転前マーカー、回転後画像フレームFB中のBiのラベルでラベリングされたマーカーを回転後マーカーと呼ぶこととして、計測値候補の算定は次のように行う。
まず、全ての回転前マーカー中から2つの回転前マーカーを取り出して並べた順列と、全ての回転後マーカー中から2つの回転後マーカーを取り出して並べた順列との全ての組み合わせを処理対象組とする。
すなわち、たとえば、仮に、回転前マーカーの数がA1とA2とA3の3つであり、回転後マーカーの数がB1とB2とB3の3つであれば、回転前マーカーの順列は(A1、A2)、(A1、A3)、(A2、A1)、(A2、A3)、(A3、A1)、(A3、A2)の6個となり、回転後マーカーの順列は(B1、B2)、(B1、B3)、(B2、B1)、(B2、B3)、(B3、B1)、(B3、B2)の6個となるので、回転前マーカーの6個の順列のうちの1つの順列と回転前マーカーの6個の順列のうちの1つの順列との、6×6=36個の組み合わせのそれぞれを処理対象組とする。
【0027】
なお、回転前マーカーの数と回転前マーカーの数が共にn個である場合、処理対象組の数は、nP2×nP2で表すことができ、たとえば、nが7であれば、処理対象組の数は7P2×7P2=42×42=1764となる。
【0028】
次に、計測値候補算定部26は、各処理対象組について以下の処理を行う。
いま、処理対象組の回転前マーカーの順列を(A(No.1)、A(No.2))と表し、回転後マーカーの順列をB(No.1)、B(No.2)と表す。
計測値候補算定部26は、処理対象組の2つの順列の順列中の順番が同じもの同士をペアとすることにより2つのペアを設定する。すなわち、A(No.1)とB(No.1)をペアとし、A(No.2)とB(No.2)をペアとすることにより2つのペアを設定する。
そして、マーカー3次元座標メモリ25に格納された3次元座標を用いて、各ペアの回転前マーカーから回転後マーカーへの計測座標系上の移動ベクトルを算出する。すなわち、たとえば、
図7aに示すように、回転前マーカーのA(No.1)、A(No.2)の3次元座標が求まっており、
図7bに示すように、回転前マーカーのB(No.1)、B(No.2)の3次元座標が求まっている場合には、
図7c1に示すようにA(No.1)の3次元座標からB(No.1)の3次元座標への移動ベクトルV(No.1)と、A(No.2)の3次元座標からB(No.2)の3次元座標への移動ベクトルV(No.2)を算定する。
【0029】
次に、
図7c2に示すように、移動ベクトルV(No.1)と移動ベクトルV(No.2)の外積によって求まる移動ベクトルV(No.1)と移動ベクトルV(No.2)の双方に垂直なベクトルである回転軸ベクトルVJを求める。
そして、回転軸ベクトルVJの方向と、軸方向が同じ軸であって計測座標系の原点Cを通る軸を回転軸Jとして算定する。
また、各ペアの回転前マーカーから回転後マーカーへの回転軸Jまわりの回転角ω1、ω2を算定する。すなわち、A(No.1)からB(No.1)への回転軸Jまわりの回転角ω1と、A(No.2)からB(No.2)への回転軸Jまわりの回転角ω2を算定する。たとえば、A(No.1)からB(No.1)への回転軸Jまわりの回転角ω1は、A(No.1)から回転軸Jに降ろした垂線に対して、B(No.1)から回転軸Jに降ろした垂線が成す角として求めることができる。
【0030】
そして、計測値候補算定部26は、算定した回転軸Jと算定した回転角ω1のセットと、算定した回転軸Jと算定した回転角ω2のセットとを、それぞれこの処理対象組について求めた計測値候補とすることにより、2つの計測値候補を生成する。
ただし、算定した回転軸Jと、算定した回転角ω1と算定した回転角ω2とのうちの一方とのセットのみを、この処理対象組について求めた計測値候補とすることもできる。
次に、計測値候補算定部26が、全ての処理対象組について計測値候補を算定したならば、計測値候補評価部27は、各計測値候補を評価し、最も評価の高い計測値候補を計測値として計測値出力部28に出力する。
計測値候補評価部27における計測値候補の評価は、次のように行う。
ここで、評価対象の計測値候補の回転軸をQと表し、回転角をωで表すものとする。
計測値候補の評価においては、全ての回転前マーカーのそれぞれを対象として以下の処理を行う。
すなわち、まず、計測座標系において、対象とする回転前マーカーを、回転軸Qまわりに回転角ω回転した位置を、回転後マーカー推定位置として算定する。
次に、3次元座標メモリを参照して、算定した回転後マーカー推定位置と位置が最も近い回転後マーカーを求める。そして、計測座標系の原点Cから対象とする回転後マーカー推定位置に向かうベクトルと、計測座標系の原点Cから求めた最も近い回転後マーカーの位置に向かうベクトルとが成す角度の絶対値を角度誤差として求める。
【0031】
たとえば、
図8aの黒丸のように回転前マーカーが分布し、
図8bの黒丸のように回転後マーカーが分布している場合において、
図8aに示す回転前マーカーAiの角度誤差は次のように求める。
まず、回転前マーカーAiを、評価対象の計測値候補の回転軸Qまわりに、評価対象の計測値候補の回転角をω回転した回転後マーカー推定位置がAi’を求める。また、
図8bに示すように回転後マーカー推定位置Ai’に3次元座標が最も近い回転後マーカーBjを求める。そして、
図8cに示すように、計測座標系の原点Cから回転後マーカー推定位置Ai’に向かうベクトルと、計測座標系の原点Cから回転後マーカーBjの位置に向かうベクトルとが成す角度dθを求め、dθの絶対値|dθ|を、回転前マーカーAiについて求めた角度誤差とする。
【0032】
次に、計測値候補評価部27は、全ての回転前マーカーについて角度誤差|dθ|が求まったならば、各回転前マーカーについて求めた角度誤差|dθ|の平均を、この計測値候補の評価値とする。
但し、角度誤差|dθ|が大きい回転前マーカーについては、回転によりカメラ11から見てゴルフボール4の裏側となって、対応する回転後マーカーが撮影できていない可能性が大きいので、所定のしきい値より大きい角度誤差|dθ|は、評価値とする平均の算出から除外する。
【0033】
なお、このような除外を行わない場合には、各回転前マーカーについて求めた角度誤差|dθ|の合計を、この計測値候補の評価値としてよい。
そして、計測値候補評価部27は、全ての計測値候補について評価値が求まったならば、評価値が最も小さい計測値候補の回転軸と回転角を、回転軸と回転角の計測値として計測値出力部28に出力する。
計測値出力部28は、計測値候補評価部27から受け取った回転軸と回転角の計測値と、対象フレームセットの2つの画像フレームの撮影時刻差TAB-TAとから、ゴルフボール4の回転軸の傾き、回転速度、ゴルフボール4のY軸まわりの回転であるバックスピンの回転速度、Z軸まわりの回転であるサイドスピンの回転速度、X軸まわりの回転であるライフルスピンの回転速度等をゴルフボール4のスピンの測定値として算定する。そして、計測値出力部28は、算定したゴルフボール4のスピンの測定値を表示出力等の外部に出力する処理を行う。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態によれば、どの方向から見ても所定数以上のマーカーが表れるように表面上にマーカーを分散配置したゴルフボール4を用いて、ゴルフボール4の姿勢に制限なくゴルフボール4のスピンを計測することができる。
また、カメラ11によって撮影されたゴルフボール4のマーカーの数をnとして、最大でも2×(nP2×nP2)個の回転軸と回転角との組み合わせについてのみ、回転前マーカーと回転後マーカーとの組との整合性を評価して計測値を求めることができるので、取り得る全ての回転軸と回転角との組み合わせについて回転前マーカーと回転後マーカーとの組との整合性を評価する場合に比べ、大幅に少ない処理でゴルフボール4のスピンの計測を行うことができる。
【0035】
なお、以上の実施形態では、対象フレームセット抽出部22が抽出したゴルフクラブヘッドがゴルフボール4にインパクトした直後の2つの画像フレーム間でスピンを計測する場合について説明したが、画像フレーム間でスピンを計測する2つの画像フレームを時間的に順次進めながらスピンの計測を行うことにより、連続的なスピンの計測を行うようにしてもよい。
【0036】
また、以上では、ゴルフショット時のゴルフボール4のスピンの計測例にとり説明したが、本実施形態で示したスピンの計測の技術は、ゴルフ以外の任意のスポーツ用の球形のボールのスピンの計測や、その他の任意の球体のスピンの計測に同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…撮影装置、2…スピン計測装置、3…撮像エリア、4…ゴルフボール、11…カメラ、21…画像メモリ、22…対象フレームセット抽出部、23…平行投影画像変換部、24…マーカー3次元座標算出部、25…マーカー3次元座標メモリ、26…計測値候補算定部、27…計測値候補評価部、28…計測値出力部。