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  • 特開-建物の耐震改修方法 図1
  • 特開-建物の耐震改修方法 図2
  • 特開-建物の耐震改修方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063543
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】建物の耐震改修方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/06 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
E04G23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171590
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷 皓司
(72)【発明者】
【氏名】松下 和輝
(72)【発明者】
【氏名】木下 美佳
(72)【発明者】
【氏名】川崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛士
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】川野 潤生
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA00
2E176BB32
2E176CC04
(57)【要約】
【課題】建物の床面積を減らさずに建物の耐震性を向上できる建物の耐震改修方法を提供する。
【解決手段】建物の耐震改修方法は、複数階層の建物10の周囲を盛り土して、建物10の下層階を地中化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階層の建物の周囲を盛り土して、前記建物の下層階を地中化する、建物の耐震改修方法。
【請求項2】
前記下層階の開口部を壁体で閉塞して土留め壁とする、
請求項1に記載の耐震改修方法。
【請求項3】
盛り土に用いる前記土は、前記建物の周囲の地盤を掘削した残土である、
請求項1又は2に記載の耐震改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の耐震改修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、建物の床スラブを撤去して建物の重量を低減し建物に生じる地震力を低減させる耐震改修方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-190120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された耐震改修方法では、床スラブの撤去が必要となる。したがって、建物全体の床面積を少なくしたくない場合は、この耐震改修方法を採用することができない。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、建物の床面積を減らさずに建物の耐震性を向上できる建物の耐震改修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の建物の耐震改修方法は、複数階層の建物の周囲を盛り土して、前記建物の下層階を地中化する。
【0007】
請求項1の建物の耐震改修方法では、複数階層の建物の周囲を盛り土して、建物の下層階を地中化する。これにより、建物の下層階は地下階となり、建物の地上部分の高さは低くなる。例えば地上部分が3階建ての建物の周囲を盛り土して1階部分を地中化すると、地上部分が2階建ての建物となる。
【0008】
これにより、地震時には、建物の地上部分の揺れが低減される。したがって、建物の床面積を減らすことなく、耐震性を向上させることができる。また、盛り土によって地盤面が高くなるため、水害に対する耐久性が向上する。
【0009】
請求項2の建物の耐震改修方法は、請求項1に記載の耐震改修方法において、前記下層階の開口部を壁体で閉塞して土留め壁とする。
【0010】
請求項2の建物の耐震改修方法では、地中化した下層階部分の開口部が、壁体で閉塞されて土留め壁となる。これにより、複数層を地中化した場合に土圧が大きくなっても、当該土圧に抵抗することができる。
【0011】
請求項3の建物の耐震改修方法は、請求項1又は2に記載の耐震改修方法において、盛り土に用いる前記土は、前記建物の周囲の地盤を掘削した残土である。
【0012】
請求項3の建物の耐震改修方法では、盛り土に用いる土として、建物の周囲の地盤を掘削した残土を用いる。地盤を掘削して造成することにより、建物の周囲が整備される。また、残土を用いることにより、産業廃棄物の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、建物の床面積を減らさずに建物の耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法によって耐震改修された建物を示す断面図である。
図2】耐震改修前の建物を示す断面図である。
図3】耐震改修する建物の開口部に壁体を構築した状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0016】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において構成を省略する、異なる構成と入れ替える、一実施形態及び各種の変形例を組み合わせて用いる等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
<耐震改修方法>
本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法は、建物の周囲の地盤の造成により建物を耐震改修する方法である。この建物の耐震改修方法では、図1に示すように、複数階層の建物10の周囲を盛土して、建物10の下層階を地中化する。
【0018】
(耐震改修前の状態)
図2に示す耐震改修前の状態においては、建物10は地下階を有しない、地上3階建ての建築物である。この状態で、建物10の周囲の地盤Gを造成する。図2において、地盤Gの表面、すなわち地盤面GL1は平坦に描かれているが、地盤面GL1の形状はどのようなものであってもよい。地盤Gには河川Rが形成されており、河川Rの水面RL1は地盤面GL1より低い位置にある。
【0019】
(盛り土)
建物10を耐震改修するためには、建物10から見て、建物10から所定距離L1だけ離れた位置より遠い部分の地盤Gを掘削する。この掘削によって発生した残土を、建物10の外周面に接するように盛り土する。この盛り土によって、建物10の外周面から少なくとも所定距離L2だけ離れた部分まで丘状部20を形成する。丘状部20は、建物10の外周面を取り囲むように形成する。
【0020】
ここで、所定距離L2としては、丘状部20が地震時に地盤Gと一体的に挙動し、また、建物10において地中化された部分が丘状部20と一体的に挙動するために必要な距離を確保する。
【0021】
一方、所定距離L1は、所定距離L2より長くても短くてもよい。ただし、地盤Gが軟弱地盤の場合は、所定距離L1を所定距離L2より短くし、かつ、丘状部20に地盤改良材を混入して、丘状部20のせん断強度を地盤Gのせん断強度より高くしてもよい。
【0022】
また、丘状部20の高さH(造成前の地盤面GL1からの高さ)は、特に限定されるものではないが、本実施形態においては、少なくとも建物10の1階部分を覆う高さである。これにより、建物10の1階部分が地中化される。
【0023】
(土留め壁の構築)
地盤Gを掘削して発生した残土を建物の周囲に盛り土する前に、建物10の開口部を、コンクリートによって閉塞する。閉塞される開口部は、丘状部20によって地中化される部分に形成された開口部である。
【0024】
具体的には、図3に示すように、建物10の1階部分の外周壁12に形成された開口部12Aを、コンクリートCによって閉塞する。また、このコンクリートCは、建物10の外周面に沿って配置された梁14の梁下部分にも一体的に打設する。
【0025】
コンクリートCの内部には、鉄筋16を配筋する。鉄筋16は、例えば縦筋及び横筋を備えており、外周壁12や梁14に埋設するアンカー筋と接合する。また、鉄筋16は、屋外側(盛り土後においては丘状部20側)及び屋外側のダブル配筋とすることが好ましい。
【0026】
これにより、開口部12Aが、コンクリートCによって形成された壁体18によって閉塞される。
【0027】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法では、図1に示すように、複数階層の建物10の周囲を盛り土して、建物10の下層階を地中化する。これにより、建物10の下層階は地下階となり、建物10の地上部分の高さは低くなる。
【0028】
例えば図2に示す建物10のように地上部分が3階建ての建物10の周囲を、図1に示すように盛り土して1階部分を地中化すると、建物10は地上部分が2階建ての建物となる。
【0029】
これにより、地震時には、建物10の地中化された1階部分が丘状部20と一体的に揺れ、また、高さが低くなった地上部分の揺れが低減される。すなわち、図2に模式的に示す耐震改修前の建物10の振幅W1に対して、図1に示す耐震改修後の建物10の振幅W2は小さい。したがって、建物10の床面積を減らすことなく、耐震性を向上させることができる。
【0030】
また、盛り土によって形成される丘状部20の地盤面が高くなるため、水害に対する耐久性が向上する。例えば河川Rの水面RL1が増水によって上昇して高くなり、造成前の地盤面GL1より高い水面RL2が形成されても、建物10の内部に氾濫水が浸水し難くなる。
【0031】
また、本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法では、図3に示すように、地中化した下層階部分、すなわち1階部分の開口部12Aが、壁体18で閉塞されて土留め壁となる。これにより、丘状部20から建物10に作用する土圧Pに抵抗することができる。
【0032】
なお、上記実施形態においては建物10の1階部分のみを地中化しているが、丘状部20の高さを高くして、建物10の複数層を地中化してもよい。このような場合において土圧が大きくなっても、土留め壁となる壁体18を構築することで、当該土圧に抵抗することができる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る建物の耐震改修方法では、盛り土に用いる土として、建物10の周囲の地盤Gを掘削して発生した残土を用いている。地盤Gを掘削して造成することにより、建物10の周囲が整備される。また、残土を用いることにより、産業廃棄物の発生を抑制できる。
【0034】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、図2に示すように、耐震改修前の建物10が、地下階を有しない、地上3階建ての建築物であるが、本発明の実施形態はこれに限らない。耐震改修前の建物10は地下階を有していてもよいし、地上4階建て以上であってもよい。建物10の階層数に関わらず、本発明の効果を得ることができる。
【0035】
また、上記実施形態においては、丘状部20の高さH(造成前の地盤面GL1からの高さ)を、建物10の1階部分を覆う高さとして説明した。この高さHは、必ずしも一定である必要はない。つまり、丘状部20において、建物10に接する部分には起伏があってもよい。例えば図1に破線で示す丘状部22のように、建物10の3階部分を覆う部分を形成してもよい。また、部分的に、建物10の1階部分を覆わない箇所があってもよい。
【0036】
また、上記実施形態においては、地盤Gを掘削して発生した残土を、建物10の外周面に盛り土しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。地盤Gを掘削する必要がない場合は、盛り土用の土を異なる場所から搬入してもよい。
【0037】
また、上記実施形態においては、地中化した下層階部分の開口部12Aを、壁体18で閉塞して土留め壁としている。本発明においては、この壁体18に加えて、補助壁体(図示略)を構築してもよい。補助壁体は、例えば図3に示す土圧Pに沿う方向(外周壁12と直交する方向)に構築する。これにより、土圧に対する抵抗力をさらに高めることができる。
【0038】
また、上記実施形態においては、建物10の床面積を減らすことなく耐震性を向上させられる旨を記載しているが、これは、建物10の床面積を減らす減築を許容しないものではない。つまり、本発明においては、必要に応じて建物10の床面積を減らしてもよいし、減らさなくてもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 建物
12A 開口部
18 壁体
図1
図2
図3