(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063553
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】車両用ショックアブソーバ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/38 20060101AFI20240502BHJP
F16F 9/18 20060101ALI20240502BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
F16F9/38
F16F9/18
F16F9/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171604
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大照 武道
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069CC22
3J069CC30
(57)【要約】
【課題】ショックアブソーバにおいて内部への異物混入を抑制する。
【解決手段】ショックアブソーバ10は、シリンダ内部に作動流体17が封入されたケーシング部11と、ケーシング部11内に摺動可能に収納されたピストン12Aを有し、先端側がケーシング部11の一端から延出したロッド部12と、ロッド部12とケーシング部11との間で作動流体17をシールするためのシール部13と、ロッド部12の先端側に取り付けられ、先端側からロッド部12の延在する方向へ延びた中空円筒状をなし、ケーシング部11とロッド部12との一部を外側から被覆するための円筒状のカバー部14と、ケーシング部11とカバー部12との間の空間に配置されたメッシュ部を有し、ケーシング部11の外周面及びカバー部12の内周面の一方に固定されるとともに他方に対して摺動可能に設けられた環状のリング部20と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内部に作動流体が封入された円筒状のケーシング部と、
前記ケーシング部内に摺動可能に収納されたピストンを有する棒状部材で形成され、前記ピストンとは反対側の先端側が前記ケーシング部の一端から延出したロッド部と、
前記ケーシング部に前記一端に設けられ、前記ロッド部と前記ケーシング部との間で前記作動流体をシールするためのシール部と、
前記ロッド部の前記先端側に取り付けられ、前記先端側から前記ロッド部の延在する方向へ延びた中空円筒状部材で形成されており、前記ケーシング部と前記ロッド部との一部を外側から被覆するためのカバー部と、
前記ケーシング部の外周面と前記カバー部の内周面との間に形成された空間に配置されたメッシュ部を有する環状部材で形成され、前記ケーシング部の前記外周面及び前記カバー部の前記内周面の一方に固定されるとともに前記ケーシング部の前記外周面及び前記カバー部の前記内周面の他方に対して摺動可能に設けられたリング部と、を備えた
ことを特徴とする車両用ショックアブソーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、トラックなどの車両に搭載された車両用ショックアブソーバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラックなどの車両に装備されたサスペンション装置において、路面から入力される振動を吸収するショックアブソーバが使用されている。
このショックアブソーバには、オイル封入されたシリンダを有するケーシングと、シリンダ内を摺動するロッドとが設けられており、ロッドがシリンダ内を摺動することで、オイル流通抵抗を利用して振動を減衰する構造となっている。
【0003】
かかるショックアブソーバでは、ケーシングとロッドとの間にシール部材を設けてケーシング内への異物混入を防ぐこと(例えば特許文献1)や、外部からの異物混入を防止するためにケーシングの外側にアウタカバーを設けること(例えば特許文献2)が知られている。
特許文献2のようなアウタカバーは、ショックアブソーバの伸縮動作に追従してロッドと共にケーシングに対して移動し得るように、ケーシングの外周面に対し隙間を開けて装着されている。なお、トラックやダンプなどの車両に搭載されたショックアブソーバでは、悪路での走行を踏まえて、アウタカバーが設けられていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3157500号公報
【特許文献2】特開2016-133191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、アウタカバーはケーシングの外周面に対し隙間を開けて装着されている。そのため、ショックアブソーバが伸縮動作によりケーシングとアウタカバーとの間に負圧が生じた場合に、上記の隙間を通じて外部からアウタカバー内部に異物が混入してしまうおそれがあった。アウタカバー内部に異物が混入すると、例えば混入した異物によりシール部材が損傷してオイル漏れを招くおそれがある。よって、車両用ショックアブソーバにおいて内部への異物混入を抑制するうえで改善の余地があった。
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、車両用ショックアブソーバにおいて内部への異物混入を抑制することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
適用例に係る車両用ショックアブソーバは、シリンダ内部に作動流体が封入された円筒状のケーシング部と、前記ケーシング部内に摺動可能に収納されたピストンを有する棒状部材で形成され、前記ピストンとは反対側の先端側が前記ケーシング部の一端から延出したロッド部と、前記ケーシング部に前記一端に設けられ、前記ロッド部と前記ケーシング部との間で前記作動流体をシールするためのシール部と、前記ロッド部の前記先端側に取り付けられ、前記先端側から前記ロッド部の延在する方向へ延びた中空円筒状部材で形成されており、前記ケーシング部と前記ロッド部との一部を外側から被覆するためのカバー部と、前記ケーシング部の外周面と前記カバー部の内周面との間に形成された空間に配置されたメッシュ部を有する環状部材で形成され、前記ケーシング部の前記外周面及び前記カバー部の前記内周面の一方に固定されるとともに前記ケーシング部の前記外周面及び前記カバー部の前記内周面の他方に対して摺動可能に設けられたリング部と、を備えている。
【0007】
適用例に係る車両用ショックアブソーバでは、リング部がケーシング部の外周面及びカバー部の前記内周面の一方に固定されるとともにケーシング部の外周面及びカバー部の内周面の他方に対して摺動可能に設けられている。そのため、ショックアブソーバの伸縮動作によりケーシング部とカバー部との間に負圧が生じたとしても、リング部によりカバー部内への異物混入は防止される。
そのため、ショックアブソーバ内部への異物混入を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
適用例に係る車両用ショックアブソーバによれば内部への異物混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】適用例に係る車両用ショックアブソーバの断面図である。
【
図2】
図1のリング部を軸線に沿ってみた説明図である。
【
図3】
図2のリング部をA-A線からみた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本件の適用例に係る荷台高さ調整装置について説明する。以下の適用例はあくまでも例示に過ぎず、この適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、下記の適用例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせられる。
【0011】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係る車両用ショックアブソーバの断面図である。
車両用ショックアブソーバ(以下、「ショックアブソーバ」とも言う)10は、トラックなどの車両(図示省略)に装備されたサスペンション装置に用いられており、路面から車両に入力される振動を減衰するための装置である。このショックアブソーバ10は、例えば車両のフレーム(図示省略)と車軸(図示省略)との間に介装される。
【0012】
具体的には、
図1に示すショックアブソーバ10は、軸方向の一端(図中左端)がブッシュ5Lを介してフレーム(図示省略)に取り付けられ、軸方向の他端(図中右端)がブッシュ5Rを介して車軸(図示省略)に取り付けられる。ショックアブソーバ10の一端側(車両のフレーム側)に対し他端側が相対的に移動してショックアブソーバ10全体が伸縮することで、後述するオイルの流動抵抗を利用して振動を減衰する。図中白抜き両矢印は、ショックアブソーバ10の伸縮方向を示す。ショックアブソーバ10の伸縮方向は、ショックアブソーバ10の軸線に沿う直線方向である。
【0013】
図1のショックアブソーバ10には、ケーシング部11と、ロッド部12と、シール部13と、アウタカバー(カバー部)14とが含まれている。
ケーシング部11は、ショックアブソーバ10の本体部であって円筒部材(シリンダ)で形成されている。
図1では、ケーシング部11が内筒11Aと外筒11Bとからなる二重構造のシリンダで形成された複筒式のショックアブソーバ10を例に挙げている。内筒11Aと外筒11Bとの内部には、ショックアブソーバ10の作動流体として用いるオイル17が封入されており、かつ、ガスあるいはエアが封入されたリザーバ室18も設けられている。
【0014】
内筒11Aと外筒11Bとのそれぞれは、ショックアブソーバ10の軸線に沿って同軸上に配置されており、内筒11Aが外筒11Bの内部に収容され、外筒11Bは内筒11Aの外側に配置されている。
内筒11A及び外筒11Bのそれぞれの左端(ケーシング部11の一端)には、ロッド部12を摺動可能に支持する第一キャップ11Cが設けられている。
内筒11Aの右端(ケーシング部11の他端)にはベースバルブ15が設けられている。ベースバルブ15を通じて内筒11Aと外筒11Bとの間をオイル17が移動可能である。また、外筒11Bの右端には、第二キャップ16が設けられている。この第二キャップ16に対してブッシュ5Rが固定されている。
【0015】
ロッド部12は、内筒11A(ケーシング部11)内に摺動可能に収納されたピストン12Aを有する棒状部材で形成されている。ロッド部12は、第一キャップ11Cを介してケーシング部11に対して摺動可能に支持されている。
ロッド部12においてピストン12Aとは反対側に位置する先端側(図中左側)は、ケーシング部11の一端(図中左端)から延出している。
ピストン12A内には図示しないピストンバルブが設けられている。このピストンバルブを通じてピストン12Aに対して軸方向の一方側と他方側との間をオイル17が移動可能である。
【0016】
ロッド部12は、ケーシング部11に対してショックアブソーバ10の軸線に沿って相対的に往復動可能に設けられている。
ロッド部12がケーシング部11に対して図中左側へ移動すると、ショックアブソーバ10が伸長する。ロッド部12がケーシング部11に対して図中右側へ移動すると、ショックアブソーバ10が収縮する。
このショックアブソーバ10の伸縮動作に伴いオイル17がピストンバルブ及びベースバルブ15を通過するときの抵抗により、減衰力が生じる。すなわち、ショックアブソーバ10の伸長時には、ピストン12Aの左側の室内のオイル17がピストン12Aに押圧されてピストン12Aの右側の室内に移動しようとし、その際図示しないピストンバルブをオイルが通過する際に流通抵抗を与え、減衰力を発生させる。また、ショックアブソーバ10の収縮時には、ピストン12Aの右側の室内のオイル17がピストン12Aに押圧されて内筒11Aと外筒11Bの間の室内に移動しようとし、その際ベースバルブ15をオイルが通過する際に流通抵抗を与え、減衰力を発生させるようになっている。
【0017】
ケーシング部11の一端(図中左端)には、シール部13が設けられている。
シール部13は、ケーシング部11とロッド部12との間でオイル17をシールするため密封部材である。具体的には、シール部13には、弾性体からなる環状のシール部材13Aとシール部材13Aを覆うハウジング13Bとが含まれている。シール部材13Aは、その外周側でハウジング13Bに固定され、かつ、内周側がロッド部12の外周面に接触するように設けられており、第一キャップ11C(ケーシング部11)とロッド部12の隙間からのオイル漏れを防止している。
【0018】
ロッド部12の先端(図中左端)には、アウタカバー14が取り付けられている。
アウタカバー14は、ロッド部12の外周を保護するとともにシール部13付近への異物混入を防止するために設けられている。
図1に示すように、アウタカバー14は、一端(図中左端)が閉塞され、他端(図中右端)が開口をなす中空円筒部材で形成されている。このアウタカバー14が、ロッド部12の先端側からロッド部12の延在する方向(図中右方)へ延びた姿勢で、ケーシング部11及びロッド部12と同軸上に配置されている。
【0019】
アウタカバー14は、ケーシング部11とロッド部12との一部(図中左側の一部)に重複する位置に配置され、ケーシング部11とロッド部12との一部を外側から被覆している。そのため、ロッド部12のうちケーシング部11から延出した部分とケーシング部11の左端(一端)に設けられたシール部13とは、アウタカバー14の内部に収容され、アウタカバー14により保護される。
【0020】
アウタカバー14は、ショックアブソーバ10の伸縮動作を可能とするために、ロッド部12と一体的にケーシング部11に対して往復動可能に設けられている。そのため、アウタカバー14の内径はケーシング部11の外径よりも大きく設定されている。その結果、アウタカバー14の内周面とケーシング部11の外周面との間には空間14Aが形成される。
アウタカバー14の軸線に沿う方向の寸法は、ショックアブソーバ10が伸縮動作した際にも所定の保護性能を発揮し得るように、アウタカバー14の往復動範囲Wに基づき適宜の寸法に設定されてよい。
【0021】
外筒11B(ケーシング部11)の外周面とアウタカバー14の内周面との間には、リング部20が設けられている。
リング部20は、外筒11Bの外周面に対する圧入(挿入)により取り付けられた弾性体からなる環状部材であり、空間14Aからアウタカバー14内部への異物混入を防止するために設けられている。異物の例としては、砂粒や、石粒,その他の粉塵(塵埃)が挙げられる。
【0022】
リング部20は、ケーシング部11とアウタカバー14が重複する位置に取り付けられている。
ケーシング部11に対するリング部20の取り付け位置は、ショックアブソーバ10が伸縮動作した際にも所定の混入防止性能を発揮し得るように、アウタカバー14の往復動範囲W内に設定される。アウタカバー14内部への異物混入防止の観点からは、ケーシング部11に対するリング部20の取り付け位置は、往復動範囲W内であり、かつ、アウタカバー14の開口側(
図1中右側)に設定されるのが好ましい。
【0023】
図2は、
図1のリング部20をショックアブソーバ10の軸線に沿う向きからみた図である。また、
図3は、リング部20を
図2のA-A線からみた断面図である。
図1~
図3に示すように、リング部20は、その内周縁部20Aでケーシング部11の外周面に固定されており、外周縁部20Bでアウタカバー14の内周面に摺動可能に接触するように設けられている。
【0024】
図2に示すようにリング部20は、内周縁部20Aと外周縁部20Bとの間にメッシュ部20Cが設けられている。メッシュ部20Cは、空間14A内に配置されており、空気の流通を許容するとともに異物の流通を防ぐ網目状の部位である。具体的には、メッシュ部20Cは、内周側の基部20Dから外周縁部20Bへ向かって径方向に沿う面に延在している。
【0025】
メッシュ部20Cの網目サイズ(目開き)は空気の流通を許容するとともに異物の流通を防ぎ得る寸法に設定されている。
また、
図3に示すように、基部20Dは、基部20D以外の他部に対し鍔状に張り出しており、他部よりも肉厚に形成されている。基部20Dが肉厚であるため、リング部20をケーシング部11の外周面に対して圧入し得る強度を確保している。
【0026】
[2.作用及び効果]
上記の適用例に係るショックアブソーバ10では、ケーシング部11の外周面にリング部20が取り付けられている。そのため、ショックアブソーバ10の伸縮動作によりケーシング部11とアウタカバー14との間に負圧が生じようとしても、リング部20のうち空間14A内に配置された部位がメッシュ部20Cにより形成されており空気の流通がよいため負圧になり難い。かつ、負圧が生じたとしても、リング部20によりアウタカバー14内部への異物混入は防止される。
そのため、ショックアブソーバ10内部への異物混入を効果的に抑制することができる。その結果、アウタカバー14内部のロッド部12やシール部13が異物から適切に保護されるため、オイル漏れを抑制することができる。
【0027】
上記の適用例においてリング部20は、空間14A内に配置されたメッシュ部20Cを有しているので、ショックアブソーバ10の伸縮動作に際してリング部20は、異物混入を防止する一方で空気の流通は妨げない。そのため、ケーシング部11の外周面にリング部20が設けられた構造であっても、ケーシング部11とアウタカバー14との間の摺動抵抗を悪化させにくい。
また、上記の適用例においてリング部20は、弾性環状部材形成されているため、ケーシング部11に対するリング部20の固定力はリング部20の弾性力により確保されている。そのため、リング部20を固定するための固定具や固定するための構造は不要である。よって、リング部20の取り付け構造が簡単である。
【0028】
[3.その他]
上記の適用例では、リング部20として、内周縁部20Aでケーシング部11の外周面に固定され、外周縁部20Bでアウタカバー14の内周面に摺動する構造を例に挙げた。これに限らず、リング部は、外周縁部でアウタカバー14の内周面に固定され、内周縁部でケーシング部11の外周面に摺動する構造であってもよい。この場合、リング部は、肉厚に形成された基部を外周側に有し、基部から内周側へ向かってメッシュ部が設けられた構造をなす。
また、上記の適用例では、複筒式ショックアブソーバ10を例に挙げて説明したが、これに限らず、単筒式ショックアブソーバや、内部にスプリングを設けたショックアブソーバでもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 ショックアブソーバ
11 ケーシング部
11A 内筒
11B 外筒
11C 第一キャップ
12 ロッド部
12A ピストン
13 シール部
13A シール部材
13B ハウジング
14 アウタカバー
14A 空間
15 ベースバルブ
16 第二キャップ
17 オイル
18 リザーバ室
20 リング部
20A 内周縁部
20B 外周縁部
20C メッシュ部
20D 基部
5L,5R ブッシュ