(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063577
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240502BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240502BHJP
G01N 27/41 20060101ALI20240502BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 331
G01N27/41 325J
G01N27/419 327J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171646
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】牧 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康太
(72)【発明者】
【氏名】白石 悟
(72)【発明者】
【氏名】矢板 航平
(72)【発明者】
【氏名】清家 雄也
(72)【発明者】
【氏名】濱本 大輝
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BM07
(57)【要約】
【課題】センサ素子を挿通する金属製ハウジングと、該ハウジングの外周に溶接された金属製外筒とを備え、溶接部表面へのピンホールの発生を抑制したガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、溶接により形成される溶融部分よりも後端側で外筒の内周面に接触しているハウジングの外周面の、軸方向における長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のセンサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジングと、
前記軸方向における、前記ハウジングの後端側の一部が圧入され、圧入された前記ハウジングとの重なり部分において周方向に溶接がなされることで、前記ハウジングの外周面に装着された金属製の外筒と、
を備え、
前記溶接により形成される前記外筒の溶融部分よりも前記後端側で、前記外筒の内周面に接触している前記ハウジングの外周面の、前記軸方向における長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下であり、
前記基準距離Lrは、以下の数式(1)によって算出される、
ガスセンサ。
Lr=k×Da/(Tb×Tc) ・・・数式(1)
ここで、前記数式(1)において、
「k」は、比例定数を表し、
「Da」は、前記ハウジングの外周面から、前記ハウジング内に溶け込んだ前記溶融部分の最深部までの、前記ハウジングの径方向における深さを表し、
「Tb」は、前記ハウジングの外径と前記外筒の内径との差である締め代を表し、
「Tc」は、前記外筒の厚みを表す。
【請求項2】
前記基準距離Lrは、前記接触距離Lgの1.2倍よりも大きい、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部には、面取り加工が施されている、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記面取り加工は、R面取り加工である、
請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記外筒および前記ハウジングのそれぞれの軸方向において、前記溶融部分よりも前記後端側の、前記ハウジングの外周面および前記外筒の内周面の少なくとも一方には、前記軸方向に延びるスリットが形成されている、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNOxなどの特定ガス濃度を検出するガスセンサについて、例えば以下の構成を備えるものが知られている。すなわち、長尺状のセンサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状かつ金属製のハウジングと、係るハウジングの外周に溶接された金属製の外筒とを備えるガスセンサが知られている。例えば、下掲の特許文献1には、前記ハウジングの一部を前記外筒に圧入した後、前記ハウジングと前記外筒との重なり部分に対して、周方向に溶接を施して両者を接合することで製造されるガスセンサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らは、上述の構成を備えるガスセンサについて、前記溶接を施す際に、前記ハウジングと前記外筒との接触面に残留油分等が付着していた場合、以下の問題が発生することを見出した。すなわち、係る残留油分等が溶接時の熱で揮発ガスとなり、溶着金属中に混ざることで溶接部分の表面(溶接部表面)に気泡(ピンホール)として現れることがある。
【0005】
そして、係るピンホールが発生した場合、ピンホールを起点に腐食が発生したり、ピンホールが部材(例えば、前記外筒)を貫通してシール性を低下させたりする等の不具合が発生する可能性がある。特に、ガスセンサを過酷な環境下で使用したり、長期間にわたって使用したりする場合、係る不具合が発生する可能性は大きくなる。係る不具合の発生を防止するため、前記ハウジングと前記外筒とをそれぞれ十分に洗浄して両者の接触面に油分等が残留しないようにすることも考えられるが、残留油分等を完全になくすことは困難である。
【0006】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、センサ素子を挿通する金属製ハウジングと、該ハウジングの外周に溶接された金属製外筒とを備え、溶接部表面へのピンホールの発生を抑制したガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の観点に係るガスセンサは、長尺状のセンサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジングと、前記軸方向における、前記ハウジングの後端側の一部が圧入され、圧入された前記ハウジングとの重なり部分において周方向に溶接がなされることで、前記ハウジングの外周面に装着された金属製の外筒と、を備え、前記溶接により形成される前記外筒の溶融部分よりも前記後端側で、前記外筒の内周面に接触している前記ハウジングの外周面の、前記軸方向における長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下であり、前記基準距離Lrは、以下の数式(1)によって算出される。
Lr=k×Da/(Tb×Tc) ・・・数式(1)
【0009】
ここで、前記数式(1)において、「k」は、比例定数を表し、「Da」は、前記ハウジングの外周面から、前記ハウジング内に溶け込んだ前記溶融部分の最深部までの、前記ハウジングの径方向における深さを表し、「Tb」は、前記ハウジングの外径と前記外筒の内径との差である締め代を表し、「Tc」は、前記外筒の厚みを表す。前記溶融部分は、前記外筒の、溶融により組織変更している部分と言い換えてもよい。
【0010】
当該構成では、前記ガスセンサは、前記センサ素子を挿通する金属製の前記ハウジングと、前記ハウジングが圧入され、前記ハウジングとの重なり部分において周方向に溶接がなされることで、前記ハウジングの外周面に装着された金属製の前記外筒と、を備える。例えば、前記ハウジングと前記外筒との重なり部分において、周方向にレーザー溶接がなされることで、前記外筒は、前記ハウジングの外周面に装着される。そして、前記ガスセンサにおいて、前記接触距離Lgは前記基準距離Lr以下であり、前記基準距離Lrは、前記数式(1)によって算出される。
【0011】
ここで、前記基準距離Lrは、例えば、前記ハウジングと前記外筒との接触面に付着していた残留油分等が前記溶接の際の熱で揮発してなる揮発ガスが、自己の圧力により到達することのできる距離(到達可能距離)のうち、最大の距離を示している。すなわち、互いに接触する前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との少なくとも一方に残留油分等が付着していた場合、係る残留油分等が前記溶接の際の熱で揮発することで揮発ガスが発生する。このような揮発ガスが、自己の圧力により、互いに接する前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との間を移動できる距離を、「揮発ガスの到達可能距離」と称する場合、前記基準距離Lrは、係る到達可能距離の最大値である。
【0012】
また、前記揮発ガスの到達可能距離は、前記Da、前記Tb、および、前記Tcのそれぞれと、以下の関係を有する。すなわち、前記ハウジングの外周面から、前記ハウジング内に溶け込んだ前記溶融部分の最深部までの、前記ハウジングの径方向における深さを表す前記Daが大きいほど、前記ハウジングおよび前記外筒の熱変形は大きい。つまり、前記Daが大きいほど、前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との隙間は大きい。そのため、前記Daが大きいほど、前記揮発ガスに対する拡散抵抗の値は小さくなり、前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との間を移動する、前記揮発ガスの前記到達可能距離は大きくなる。また、前記ハウジングの外径と前記外筒の内径との差である締め代を表す前記Tbが大きいほど、前記揮発ガスに対する拡散抵抗の値は大きくなり、前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との間を移動する、前記揮発ガスの前記到達可能距離は小さくなる。さらに、前記外筒の厚みを表す前記Tcが大きいほど、前記溶接の際の熱は拡散しやすくなるため、前記揮発ガスの発生量は減少し、また、前記ハウジングおよび前記外筒の熱変形は小さくなる。そのため、前記Tcが大きいほど、前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との間を移動する、前記揮発ガスの前記到達可能距離は小さくなる。前記Da、前記Tb、および、前記Tcは、それぞれ、前記到達可能距離に対して、上述の関係を有するため、前記到達可能距離の最大値である前記基準距離Lrは、前記Da、前記Tb、および、前記Tcの関数として表すことができる。また、試験等によって、比例定数である前記kを求めることができる。そのため、前記基準距離Lrは、比例定数である前記kと、前記Da、前記Tb、および、前記Tcとの関数である前記数式(1)によって、算出される。
【0013】
そして、前記ガスセンサにおいて、前記接触距離Lgは、前記基準距離Lr以下であり、つまり、「前記溶融部分よりも前記後端側で前記外筒の内周面に接触している前記ハウジングの外周面の、前記軸方向における長さ」は、前記基準距離Lr以下である。言い換えれば、「前記溶融部分が前記ハウジングの外周面に接する端点」(溶融部端)の位置から、「前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面とが、周方向の全体にわたって非接触となる位置」(解放位置)までの長さは、前記基準距離Lr以下である。
【0014】
そのため、前記溶接の際、互いに接する前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面との間に発生した前記揮発ガスは、自己の圧力により、前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面とが周方向の全体にわたって非接触となる位置(解放位置)まで移動できる。前記溶接の際、例えば、前記溶融部分中の前記揮発ガスは、自己の圧力により、「前記ハウジングの外周面と前記外筒の内周面とが周方向の全体にわたって非接触となる位置」まで、移動することができる。つまり、前記溶接の際に発生した前記揮発ガスは、自己の圧力により前記解放位置へと移動することができ、前記解放位置において解放(放出)される。そのため、前記ガスセンサは、前記揮発ガスが前記溶融部分中に留められて前記溶融部分にピンホールを発生させる可能性を低減することができ、つまり、前記溶融部分におけるピンホールの発生を抑制することができる。
【0015】
したがって、前記ガスセンサは、前記センサ素子を挿通する金属製の前記ハウジングと、前記ハウジングの外周に溶接された金属製の前記外筒とを備え、前記溶融部分におけるピンホールの発生を抑制することができる。
【0016】
また、前記ガスセンサは、前記接触距離Lgを、前記数式(1)によって算出される前記基準距離Lr以下とすることで、前記溶融部分におけるピンホールの発生を抑制することができる。そして、前述のとおり、前記数式(1)における比例定数である前記kは、試験等によって予め求めておくことができる。したがって、前記ガスセンサは、前記ピンホールの発生を抑制する構造を、設計段階において決定することができ、例えば、前記接触距離Lgの値を、設計段階において、前記基準距離Lr以下となるよう決定しておくことができる。さらに、前記ガスセンサは、前記ピンホールの発生を抑制することで、該ピンホールに起因する、腐食の発生、シール性の低下といった不具合の発生する可能性を抑制することができる。加えて、前記ガスセンサは、設計段階で前記ピンホールの発生を抑制する構造を実現できるため、溶接条件などを従前のものから変更することなく、前記ピンホールの発生を抑制することができる。また、前記ガスセンサは、前記ハウジングと前記外筒との接触面に油分等が残留しないように前記ハウジングと前記外筒とをそれぞれ十分に洗浄するなどの工程を必要としないため、製造に際して必要となる管理、工程における、工数を抑制することができる。
【0017】
第2の観点に係るガスセンサは、上記第1の観点に係るガスセンサにおいて、前記基準距離Lrは、前記接触距離Lgの1.2倍よりも大きくてもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記基準距離Lrは、前記接触距離Lgの1.2倍よりも大きく、つまり、前記接触距離Lgは、前記基準距離Lrの1.2分の1よりも小さい。本件発明者らは、前記接触距離Lgを、前記基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることで、前記溶融部分において発生するピンホールの数が急激に減少することを実験によって確認した。そのため、前記ガスセンサは、前記接触距離Lgを、前記基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることで、前記溶融部分におけるピンホールの発生を極めて効果的に抑制することができる。
【0018】
第3の観点に係るガスセンサは、上記第1または上記第2の観点に係るガスセンサにおいて、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部には、面取り加工が施されていてもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部には、面取り加工が施されており、例えば、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部には、直線状に、または、曲線状に、面取り加工が施されていてもよい。前記ガスセンサにおいて、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部には、例えば、C面取り加工およびR面取り加工の少なくとも一方が施されていてもよい。前記ガスセンサは、係る面取り加工を施された前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部を、前記ハウジングを前記外筒へと圧入する際のガイドとして利用することができ、前記ハウジングを前記外筒へと圧入しやすくなる。
【0019】
第4の観点に係るガスセンサは、上記第3の観点に係るガスセンサにおいて、前記面取り加工は、R面取り加工であってもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部に施される前記面取り加工は、R面取り加工である。前記ガスセンサは、前記ハウジングの外周面の前記後端側の端部に施される前記面取り加工としてR面取り加工を採用することで、加工の際のバリ発生を抑制することができ、前記ハウジングと前記外筒との間のバリかみ込みを抑制することができる。
【0020】
第5の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第4の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記外筒および前記ハウジングのそれぞれの軸方向において、前記溶融部分よりも前記後端側の、前記ハウジングの外周面および前記外筒の内周面の少なくとも一方には、前記軸方向に延びるスリットが形成されていてもよい。
【0021】
当該構成では、前記ガスセンサは、前記外筒および前記ハウジングのそれぞれの軸方向において、前記溶融部分よりも前記後端側の、前記ハウジングの外周面および前記外筒の内周面の少なくとも一方には、前記軸方向に延びるスリットが形成されている。前記ガスセンサにおいて、前記スリットは、前記ハウジングの、前記後端側の端面まで延びていてもよい。また、前記ガスセンサにおいて、前記ハウジングの外周面および前記外筒の内周面の少なくとも一方には、周方向において互いに間隔を空けて設けられる複数の前記スリットが、形成されていてもよい。
【0022】
本件発明者らは、前記軸方向に延びるスリットを、前記ハウジングの外周面および前記外筒の内周面の少なくとも一方に形成することで、係るスリットを形成しない場合に比べて、前記ピンホール発生の抑制効果を向上させることができることを確認した。したがって、前記ガスセンサは、前記軸方向に延びるスリットによって、前記溶融部分におけるピンホール発生の抑制効果を、前記スリットを形成しない場合に比べて、より向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、センサ素子を挿通する金属製ハウジングと、該ハウジングの外周に溶接された金属製外筒とを備え、溶接部表面へのピンホールの発生を抑制したガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るガスセンサの主要な構成の一例を概略的に示す部分断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のガスセンサにおける溶接位置の周辺におけるハウジングと外筒との関係を模式的に示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、変形例1に係るハウジングについて、溶接位置の周辺における外筒との関係を模式的に示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、変形例2に係るハウジングについて、溶接位置の周辺における外筒との関係を模式的に示す拡大断面図である。
【
図5】
図5は、変形例3に係るハウジングについて、溶接位置の周辺における外筒との関係を模式的に示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、ハウジングの角部に施される、種々の面取り加工の例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0026】
以下に詳細を説明するガスセンサ1は、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している円筒状のハウジング20と、ハウジング20の外周面210に装着された外筒40とを備えている。ハウジング20および外筒40は、それぞれ、金属製の部材である。ハウジング20の後端側を外筒40の先端側に圧入した後、ハウジング20と外筒40との重なり部分において周方向に溶接をなすことで、外筒40は、ハウジング20の外周面210に装着される。係る構成を備えるガスセンサ1について、溶接の際、互いに接しているハウジング20の外周面210および外筒40の内周面410の少なくとも一方に油分等が存在した場合、係る油分等は溶接の際の熱で揮発ガスとなる。そして、係る揮発ガスが、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間から抜け出せずに、溶接により形成される外筒40の溶融部分420中に留められると、溶融部分420には揮発ガスの気泡が、つまり、ピンホールが、発生することになる。溶融部分420は、溶融により組織変更している部分と言い換えてもよい。
【0027】
本件発明者らは、係るピンホールの発生を抑制する方法を検討し、ガスセンサ1について、以下の構成を備えるように構成することで、ピンホールの発生を抑制できることを確認した。すなわち、ガスセンサ1において、溶融部分420中の揮発ガスが、互いに接するハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようにすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制できることを確認した。
【0028】
具体的には、ガスセンサ1において、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とは互いに接しているが、溶接の際の熱によって発生した揮発ガスは、自己の圧力により、外周面210と内周面410との間を移動することができる。そこで、ガスセンサ1において、外筒40の溶融部分420の後端側の端部(溶融部端Ef)から、外周面210と内周面410とが非接触となる位置(非接触位置Np)までの距離(接触距離Lg)は、以下の条件を満たすように調整されている。すなわち、ガスセンサ1において接触距離Lgは、「揮発ガスが、自己の圧力により、外周面210と内周面410との間を移動できる距離」(到達可能距離)以下となるように、調整されている。
【0029】
ガスセンサ1において、接触距離Lgを係る到達可能距離以下とすることで、溶融部分420中の揮発ガスは、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようになる。そのため、ガスセンサ1は、「揮発ガスが外周面210と内周面410との間から抜け出せずに溶融部分420中に留められ、溶融部分420にピンホールを発生させる」可能性を抑制することができる。
【0030】
以下に、接触距離Lgを、到達可能距離以下とし、特に、到達可能距離の最大値である基準距離Lr以下とすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制したガスセンサ1について、
図1等を用いて、その詳細を説明する。
【0031】
[構成例]
(ガスセンサの全体概要)
図1は、本実施形態に係るガスセンサ1の主要な構成の一例を概略的に示す部分断面模式図である。本実施形態においては、ガスセンサ1の備えるハウジング20と外筒40とが満たすべき関係について、特に、接触距離Lgが満たすべき条件について、その理解を容易にするため、ガスセンサ1が、以下の構成を備える例について説明する。すなわち、ガスセンサ1が、センサ素子10、ハウジング20、センサ素子保持部材30、外筒40、および、外側保護カバー50を備える例について説明する。しかしながら、本実施形態に係るガスセンサ1は、センサ素子10、ハウジング20、センサ素子保持部材30、外筒40、および、外側保護カバー50以外の構成を備えていてもよい。
【0032】
本実施形態に係るガスセンサ1は、その内部に備わるセンサ素子10によって被測定ガス(例えば、排気ガス)中の所定の測定対象ガス成分(例えば、NO
x等)を検出するものである。ガスセンサ1は、センサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している円筒状のハウジング20と、ハウジング20の外周面210に装着された外筒40と、を備える。
図1に例示するガスセンサ1は、さらに、センサ素子10を保持するための挿通孔を有し、セラミックス材料によって構成されたセンサ素子保持部材30と、センサ素子10の先端側を囲繞する(覆う)有底筒状の外側保護カバー50と、を備えている。
図1に例示するように、ガスセンサ1の外側は、主として、外側保護カバー50と、ハウジング20と、外筒40とから構成される。
【0033】
例えば、ガスセンサ1、センサ素子10、ハウジング20、センサ素子保持部材30、外筒40、および、外側保護カバー50のそれぞれの中心軸は同軸になっている。なお、
図1においては、ガスセンサ1の本体部の中心軸(軸線)を図面の左右方向と一致させる態様にてガスセンサ1を示している。以下の説明においては、特に断らない限り、紙面右側をガスセンサ1の先端側と称し、紙面左側をガスセンサ1の後端側と称する。ガスセンサ1の先端側とセンサ素子10の先端側とは同じ側にあり、ガスセンサ1の後端側とセンサ素子10の後端側とは同じ側にある。
【0034】
(センサ素子)
センサ素子10は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスからなる素子体を主たる構成材料とする長尺の柱状あるいは薄板状の部材である。センサ素子10を長尺の筒状、もしくは管状の部材として構成してもよい。センサ素子10は、先端側にガス導入口および内部空所などを備えるとともに、素子体表面および内部に種々の電極や配線パターンを備えた構成を有する。
【0035】
センサ素子10においては、内部空所に導入された被測定ガスが内部空所内で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。ガスセンサ1においては、センサ素子10の内部を流れる酸素イオンの量が被測定ガス中における所定のガス成分の濃度に比例することに基づいて、係るガス成分の濃度が求められる。
【0036】
図1に例示するように、例えば、センサ素子10の表面の、先端から長手方向における所定の範囲は、保護膜Pで被覆されてなっていてもよい。保護膜Pは、センサ素子10の先端近傍を熱的な衝撃から保護するために設けられる、例えばAl
2O
3などからなる厚みが10μm~2000μm程度の多孔質膜であり、耐熱衝撃保護層とも称される。保護膜Pは、その目的に照らして、50N程度までの力に耐え得るように形成されるのが好ましい。保護膜Pの形成範囲は、センサ素子10の具体的構造に応じて適宜に定められる。
【0037】
長尺の柱状あるいは薄板状の部材であるセンサ素子10の、保護膜Pが設けられていない側の端部が、センサ素子10の後端である。ガスセンサ1において、センサ素子10は、円筒状のハウジング20内部を軸方向AXに貫通しており、保護膜Pで被覆された先端と、保護膜Pで被覆されていない後端とが、ハウジング20から突き出している。
【0038】
(ハウジング)
ハウジング20は、センサ素子10が内部を軸方向AXに貫通する円筒状の部材であり、金属で形成されている。ハウジング20は、その内部にセンサ素子10等を収容する円筒状の収容空間を備えるとともに、ガスセンサ1を測定位置に固定する際に用いられる。
【0039】
ハウジング20は、例えば、径方向に突出する突出部(フランジ)を備えており、周方向全体にわたって係る突出部が設けられていてもよい。係る突出部は、ガスセンサ1の取り付けられる不図示の外部部材(例えば、排気管)と接して、係る外部部材により規定される空間(例えば、排気管内)から被測定ガスが漏れ出すのを防ぐ部材である。
【0040】
例えば、ハウジング20の外周には、突出部と接触する態様にて、不図示の固定ボルトが環装されてもよい。この固定ボルトは、例えば金属で形成され、外周面におねじが設けられている。ハウジング20は、「排気管に溶接され、内周面にめねじが設けられた固定用部材(被取付部、ボス)」内に挿入され、さらに、突出部と固定用部材とが接した状態で、上述の固定ボルトが固定用部材内に挿入される。このようにして、ハウジング20は固定用部材内に固定され、つまり、ガスセンサ1が排気管内に固定される。そして、突出部(特に、突出部の、先端側の面)は、排気管(固定用部材)の面と当たりシール面を形成することにより、被測定ガスが排気管の外部へと漏れだすのを防ぐ。
【0041】
なお、
図1に例示するハウジング20の先端側と後端側とを別々の部材として構成し、係る先端側の部材と後端側の部材とを溶接等によって接続、固定することで、ハウジング20を構成してもよい。例えば、ハウジング20は、突出部を備える金属製の主体金具(
図1に例示するハウジング20の先端側に相当する部材)と、係る主体金具に溶接固定される円筒形の内筒(
図1に例示するハウジング20の後端側に相当する部材)とを含んでいてもよい。本実施形態において、ハウジング20は、センサ素子10が内部を軸方向AXに貫通する、金属製の、円筒状の部材であればよく、ハウジング20は、1つの円筒状の部材によって構成してもよいし、複数の円筒状の部材を同軸に接続することにより構成してもよい。
【0042】
前述のとおり、円筒状のハウジング20がその内部に備える収容空間にはセンサ素子10が収容される。例えば、係る収容空間において、センサ素子10は、その長手方向が円筒状のハウジング20の軸方向AXに一致するように配置されており、具体的には、センサ素子10の中心軸とハウジング20の中心軸とが同軸となるように配置されている。係る態様にてハウジング20の備える収容空間に収容されたセンサ素子10は、センサ素子保持部材30によって、その位置が保持されている。
【0043】
(センサ素子保持材)
センサ素子保持部材30は、センサ素子10と接してセンサ素子10をハウジング20内に保持する、セラミックス材料によって構成された部材である。
図1に例示するセンサ素子保持部材30は、セラミックサポータ310、330、350と、圧粉体320、340とを含む。センサ素子保持部材30はさらに、不図示のワッシャーを含んでいてもよい。セラミックサポータ310、330、350、および、圧粉体320、340は、それぞれ、センサ素子10を保持するための挿通孔を有し、センサ素子10に対し同軸に環装されている。つまり、ガスセンサ1において、センサ素子10をハウジング20の中心軸(ガスセンサ1の中心軸)上に配置した状態で、セラミックサポータ310、330、350と、圧粉体320、340とが、係る中心軸に沿って環装されている。
図1には、セラミックサポータ310、圧粉体320、セラミックサポータ330、圧粉体340、セラミックサポータ350が、先端側から後端側へとこの順で、センサ素子10に環装されている例が示されている。さらに、上述のワッシャーが、セラミックサポータ350よりも後端側で、セラミックサポータ350に接した状態で、センサ素子10に環装されていてもよい。なお、以下の説明においては、セラミックサポータ310、330、350と、圧粉体320、340と、上述のワッシャーとをまとめて、「環装部品」とも称する。
【0044】
セラミックサポータ310、330、350は、それぞれ、セラミックス製の碍子である。また、圧粉体320、340は、それぞれ、タルクなどのセラミックス粉末を成型したものである。
【0045】
例えば、
図1に例示するように、ハウジング20内部の先端側にはテーパー部が設けられており、センサ素子10に環装されたセラミックサポータ310、330、350と、圧粉体320、340と、不図示のワッシャーとが係止されている(固定されている)。これは、あらかじめセンサ素子10に対する環装部品の環装がなされた状態で、それら環装部品の外周にハウジング20を嵌め合わせることによって実現されてなる。また、上述の係止がなされうえで、後端側から先端側へとワッシャーに所定の荷重を加えることによって圧粉体320、340のそれぞれを圧縮することで、ハウジング20の内部においては、センサ素子10の両端部間が封止される。係る封止がなされた状態で、ワッシャーの後端側のハウジング20を縮径状にかしめることによって、環装部品が拘束され、センサ素子10の両端部間の気密性が確保される。すなわち、ハウジング20の内部空間において、センサ素子10に環装されたセラミックサポータ310、330、350と、圧粉体320、340とは、ハウジング20の内面(内壁)、特に、テーパー部における内壁と、ワッシャーとに挟まれて封止されている。ここで、ハウジング20の、圧粉体340と隣り合う位置を縮径状にかしめて、センサ素子10の両端部間の気密性をさらに向上させてもよい。
【0046】
なお、図示は省略するが、ガスセンサ1においては、外筒40の内部であってハウジング20より後端側の位置において、センサ素子10と外部との電気的接続を図るためのコネクタが、センサ素子10に備わる複数の端子電極に接続されていてもよい。係るコネクタから延在するケーブルが、外筒40の後端に設けられた開口部から引き出されていてもよい。外筒40の後端に設けられた開口部を、さらに、基準ガスたる大気の出入部としてもよい。
【0047】
内部空間にセンサ素子10およびセンサ素子保持部材30を収容した、円筒状のハウジング20の後端側は、外筒40の先端側に圧入される。そして、外筒40の、ハウジング20との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、外筒40は、ハウジング20の外周面210に装着される。
図1に示す例では、溶接位置Wpにおいて周方向に溶接がなされることで、外筒40は、ハウジング20の外周面210に装着されている。
【0048】
(外筒)
外筒40は、ハウジング20の外周面210(特に、後端側の外周面210)に環装されてなり、ガスセンサ1のうち、被測定ガスと接触しない部位を保護する、金属製の円筒状部材である。すなわち、外筒40は、ハウジング20の後端側の外周面210の一部が内周面410に密接することで、ハウジング20に固定されている。ハウジング20に対する外筒40の環装およびその際の外筒40とハウジング20の密接固定は、ハウジング20の後端側の一部を外筒40に対し圧入することにより実現される。
【0049】
外筒40の内側空間は、基準ガスたる大気が存在する基準ガス存在空間となっている。外筒40の内側空間は、例えばエンジンの排気管などの内部に被測定ガスが存在する配管等にガスセンサ1が取り付けられた状態において、該配管等とは離隔される。ただし、外筒40の内側空間は密閉されているわけではなく、大気は、外筒40の図示しない後端部分に設けられた開口部において、外筒40の内側空間に出入可能となっている。
【0050】
(外側保護カバー)
外側保護カバー50は、センサ素子10の先端を囲繞する(覆う)有底筒状の部材であり、例えば、金属で形成されている。外側保護カバー50は、ガスセンサ1の使用時に、被測定ガスに直接に接触する部分であるセンサ素子10の先端およびその近傍を保護する。
図1に例示するように、外側保護カバー50には、外側から内側への被測定ガスの流れを許容する貫通孔51が形成されている。
図1には、有底筒状の部材である外側保護カバー50の底面(ガスセンサ1の先端側の面)に貫通孔51が形成されている例が示されている。しかしながら、
図1に例示する貫通孔51の配置態様はあくまで例示であって、貫通孔51の配置位置および配置個数は、外側保護カバー50の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。例えば、有底筒状の部材である外側保護カバー50の側面に複数の貫通孔51が形成されていてもよい。また、外側保護カバー50の底面に複数の貫通孔51が形成されていてもよい。
【0051】
外側保護カバー50は、ハウジング20の先端側の外周面210に装着され、例えば、外側保護カバー50の後端側(開口縁)は、ハウジング20に内周面が当接しており、これにより外側保護カバー50はハウジング20に固定されている。
【0052】
図1に例示するガスセンサ1において、有底筒状の外側保護カバー50の開口縁は、ハウジング20の有する突出部に接している。しかしながら、ガスセンサ1にとって、外側保護カバー50の開口縁とハウジング20の突出部とが接することは必須ではなく、両者の間には隙間があってもよい。例えば、ハウジング20の有する突出部と、有底筒状の外側保護カバー50の開口縁との間には、不図示の流水溝が設けられていてもよい。係る流水溝は、円筒状のハウジング20の周方向に延びており、例えば、ハウジング20の外周を一周して設けられていてもよい。
【0053】
上述の流水溝の底面(底部)の径は、外側保護カバー50の開口縁の径よりも小さくてもよく(短くてもよく)、つまり、底面の、ハウジング20の軸(中心軸)までの長さは、外側保護カバー50の開口縁の、ハウジング20の軸までの長さよりも短くてもよい。言い換えれば、上述の流水溝の底面(底面の外周)から、ハウジング20の軸までの長さは、外側保護カバー50の開口縁から、ハウジング20の軸までの長さよりも短くてもよい。
【0054】
図1に例示する外側保護カバー50は、円筒状の大径部と、係る大径部に接続しており大径部よりも径の小さい有底筒状の先端部とを有している。言い換えれば、本実施形態において、有底筒状の外側保護カバー50は、円筒状の胴部と、有底筒状で胴部よりも内径の小さい先端部とを有している。係る胴部は、外側保護カバー50の中心軸方向に沿った側面をもつ側部と、胴部の底部であって側部と先端部とを接続する段差部と、を有している。ただし、ガスセンサ1にとって、外側保護カバー50がこのような構成を備えることは必須ではなく、外側保護カバー50が、胴部と先端部とを有することは必須ではない。言い換えれば、ガスセンサ1にとって、外側保護カバー50を、円筒状の胴部の側面と有底筒状の先端部とを段差部によって接続した構成とすることは必須ではない。ガスセンサ1にとって、外側保護カバー50は、センサ素子10の先端を覆う、有底筒状の形状を有していればよい。例えば、外側保護カバー50は、円筒状の胴部の側面と有底筒状の先端部とを、段差部を介さずに直接接続した構成としてもよい。また、例えば、外側保護カバー50は、複数の段差部を備えていてもよい。すなわち、外側保護カバー50は、円筒状の大径部と、係る大径部に接続し、かつ、大径部よりも径の小さい円筒状の胴部と、係る胴部に接続した先端部であって、胴部よりも内径が小さく、かつ、有底筒状である先端部と、を有していてもよい。つまり、本実施形態において外側保護カバー50は、センサ素子10の先端(先端)を覆う有底筒状の形状を有していればよく、有底筒状の形状に加えてどのような形状を含むかは、ガスセンサ1の使用方法、使用箇所等に応じて適宜選択される。
【0055】
以上のような構成を有することで、ガスセンサ1では、所定位置に取り付けられた状態において、センサ素子10の先端の周りの被測定ガス存在空間と、後端の周りの基準ガス存在空間とが完全に離隔されるようになっている。これにより、ガスセンサ1は、被測定ガス中における測定対象ガス成分の濃度を精度良く測定できるようになっている。
【0056】
(ガスセンサについての整理)
これまでに説明してきたとおり、ガスセンサ1は、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している、円筒状であって金属製のハウジング20と、ハウジング20の外周面210に装着された金属製の外筒40と、を備えている。外筒40は、ハウジング20の後端側の一部が圧入され、圧入されたハウジング20との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、ハウジング20の外周面210に装着されている。
図1に示す例では、溶接位置Wpにおいて周方向に溶接がなされることで、外筒40は、ハウジング20の外周面210に装着されている。
【0057】
ガスセンサ1において、溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。以下、
図2等を用いて、係る接触距離Lgの詳細を説明する。
【0058】
(接触距離について)
図2は、ガスセンサ1における溶接位置Wpの周辺におけるハウジング20と外筒40との関係を模式的に示す拡大断面図であり、特に、接触距離Lgについて、その詳細を説明する図である。
図2において、紙面の左右方向が軸方向AXである。
【0059】
図2に例示するように、溶接により形成される外筒40の溶融部分420は、ハウジング20内に溶け込んでおり、係る溶融部分420の周囲において、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とは、互いに接している。また、
図2に示す例では、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には面取り加工が施されており、つまり、ハウジング20の後端側の角部には面取り加工が施されている。具体的には、
図2に例示するハウジング20において、外周面210の後端側の端部にはC面取り加工が施され、ハウジング20の外周面210とハウジング20の後端面220との間には、直線状の断面形状を有する角面Afが形成されている。
【0060】
図中の「溶融部中心Cf」は、溶接により形成される外筒40の溶融部分420の、軸方向AXにおける中心を示している。溶融部分420は、外筒40の、溶融により組織変更している部分と言い換えてもよい。
【0061】
図中の「溶融部端Ef」は、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側にある、溶融部分420が、ハウジング20の外周面210に接する端点を示している。溶融部端Efは、ハウジング20に接する溶融部分420の、軸方向AXにおける後端と言い換えてもよい。また、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20の外周面210と、外筒40の内周面410と、溶融部分420との接触位置と言い換えてもよい。軸方向AXにおいて溶融部端Efよりも後端側において、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とは互いに接するようになっている。
【0062】
図中の「非接触位置Np」は、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが非接触となる(接しなくなる)位置を示している。すなわち、非接触位置Npは、溶融部中心Cfよりも後端側で、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが非接触となる、最も先端側の位置を示しており、「解放位置」とも称される。非接触位置Npは、溶融部中心Cfよりも後端側において、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって、非接触となる位置と言い換えてもよい。また、非接触位置Npは、ハウジング20の外周面210の後端と言い換えてもよい。前述のとおり、
図2に示す例では、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には面取り加工(C面取り加工)が施されている。そのため、非接触位置Npは、係る面取り加工を施した後のハウジング20の外周面210の後端と言い換えてもよい。
【0063】
図中の「溶込深さDa」は、ハウジング20の外周面210から、ハウジング20内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20の径方向における深さを示している。最深部Dpは、溶接によりハウジング20内に溶け込んでいる外筒40の溶融部分420のうち、最も深くハウジング20内に溶け込んでいる溶融部分420の、ハウジング20の径方向における位置と言い換えてもよい。
【0064】
図中の「厚みTc」は、金属製の円筒状の部材である外筒40の厚みを示しており、つまり、外筒40の外径と内径との差を示している。
【0065】
図2に示す例では、溶融部端Efと非接触位置Npとの間で、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とは互いに接しており、特に、外周面210と内周面410とは、周方向の全体にわたって、互いに接している。また、軸方向AXにおいて非接触位置Npよりも後端側においては、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とは互いに接しておらず、特に、外周面210と内周面410とは、周方向の全体にわたって、互いに接していない。
【0066】
ここで、前述のとおり、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触している、ハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さである。そのため、
図2に示す例では、接触距離Lgは、溶融部端Efの位置と非接触位置Npとの間の距離と捉えることもできる。すなわち、
図2に示し例では、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で、周方向の全体にわたって外筒40の内周面410に接触している、ハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さと言い換えてもよい。
【0067】
本実施形態に係るガスセンサ1は、係る接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、外筒40の溶融部分420中の揮発ガスが、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようにしている。
【0068】
前述のとおり、基準距離Lrは、例えば、「揮発ガスが、自己の圧力により、外周面210と内周面410との間を移動できる距離」である到達可能距離の、最大値である。すなわち、基準距離Lrは、例えば、ハウジング20と外筒40との接触面に付着していた残留油分等が溶接の際の熱で揮発してなる揮発ガスが、自己の圧力により到達することのできる距離(到達可能距離)のうち、最大の距離を示している。そして、揮発ガスの到達可能距離は、溶込深さDa、ハウジング20の外径と外筒40の内径との差である締め代を表す締め代Tb、および、外筒40の厚みTcのそれぞれと、以下の関係を有する。
【0069】
すなわち、「ハウジング20の外周面210から、ハウジング20内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20の径方向における深さ」を表す溶込深さDaが大きいほど、ハウジング20および外筒40の熱変形は大きい。つまり、溶込深さDaが大きいほど、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との隙間は大きい。そのため、溶込深さDaが大きいほど、外周面210と内周面410との間を移動しようとする揮発ガスに対する拡散抵抗の値は小さくなり、揮発ガスの到達可能距離は大きくなる。
【0070】
また、「ハウジング20の外径と外筒40の内径との差である締め代」を表す締め代Tbが大きいほど、外周面210と内周面410との間を移動しようとする揮発ガスに対する拡散抵抗の値は大きくなる。そのため、締め代Tbが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は小さくなる。
【0071】
さらに、「外筒40の厚み」を表す厚みTcが大きいほど、溶接の際の熱は拡散しやすくなるため、揮発ガスの発生量は減少し、また、ハウジング20および外筒40の熱変形は小さくなる。そのため、厚みTcが大きいほど、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間を移動する揮発ガスの到達可能距離は、小さくなる。
【0072】
以上に説明したとおり、溶込深さDaが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は大きくなり、締め代Tbが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は小さくなり、厚みTcが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は小さくなる。溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcは、それぞれ、到達可能距離に対して、上述の関係を有するため、到達可能距離の最大値である基準距離Lrは、溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcの関数として表すことができる。すなわち、基準距離Lrは、「k」を比例定数として、以下の数式(1)によって算出される。
Lr=k×Da/(Tb×Tc) ・・・数式(1)
【0073】
(比例定数kの算出)
ここで、本件発明者らは、上述の数式(1)における比例定数kを以下のように算出した。先ず、本件発明者らは、溶込深さDaをDa(Ref)、締め代TbをTb(Ref)、外筒40の厚みTcをTc(Ref)、接触距離Lgを接触距離Lg(Ref)とするガスセンサ1(Ref)を製造した。係るガスセンサ1(Ref)について、本件発明者らは、基準距離Lrが大きくなるように、溶込深さDa、締め代Tb、および、外筒40の厚みTcの少なくとも1つを変更することで、溶融部分420におけるピンホールの発生数が減少することを確認した。言い換えれば、本件発明者らは、ガスセンサ1(Ref)について、揮発ガスの到達可能距離が大きくなるように、溶込深さDa、締め代Tb、および、外筒40の厚みTcの少なくとも1つを変更することで、ピンホールの発生数が減少することを確認した。また、本件発明者らは、ガスセンサ1(Ref)について、基準距離Lrが小さくなるように、溶込深さDa、締め代Tb、および、外筒40の厚みTcの少なくとも1つを変更することで、溶融部分420におけるピンホールの発生数が増大することを確認した。言い換えれば、本件発明者らは、ガスセンサ1(Ref)について、揮発ガスの到達可能距離が小さくなるように、溶込深さDa、締め代Tb、および、外筒40の厚みTcの少なくとも1つを変更することで、ピンホールの発生数が減少することを確認した。これらの確認により、本件発明者らは、ガスセンサ1(Ref)において、接触距離Lgは、基準距離Lrに等しいと判断した。すなわち、本件発明者らは、ガスセンサ1(Ref)における接触距離Lgである接触距離Lg(Ref)は、ガスセンサ1(Ref)における基準距離Lrに等しいと判断した。
【0074】
そこで、本件発明者らは、上述の数式(1)に対して、Da=Da(Ref)、Tb=Tb(Ref)、Tc=Tc(Ref)、Lr=Lg(Ref)を代入して、比例定数kを算出し、具体的には、比例定数kとしてk(Ref)を算出した。
【0075】
(基準距離Lrの特定、および、接触距離Lgの決定)
比例定数kを特定できた(すなわち、比例定数kがk(Ref)であることを特定できた)ので、ガスセンサ1について、溶込深さDa、締め代Tb、外筒40の厚みTc、および比例定数kから、数式(1)に基づいて、基準距離Lrを算出できる。そして、ガスセンサ1について、接触距離Lgを、算出した基準距離Lr以下とすることで、ガスセンサ1は、以下の効果を実現することができる。すなわち、ガスセンサ1は、「揮発ガスが外周面210と内周面410との間から抜け出せずに溶融部分420中に留められ、溶融部分420にピンホールを発生させる」可能性を抑制でき、つまり、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制できる。
【0076】
以上に説明してきたように、ガスセンサ1について、接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、ガスセンサ1は、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制できる。そして、本件発明者らはさらに、実験において、接触距離Lgを基準距離Lrよりも小さくすることが望ましく、特に、接触距離Lgを基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることがより望ましいことを確認した。具体的には、本件発明者らは、接触距離Lgを、基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることで、溶融部分420において発生するピンホールの数が急激に減少することを実験によって確認した。係る実験について、詳細は後述する。
【0077】
そこで、ガスセンサ1において、基準距離Lrは、接触距離Lgの1.2倍よりも大きくてもよく、つまり、接触距離Lgは、基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくてもよい。上述のとおり、接触距離Lgを、基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることで、溶融部分420において発生するピンホールの数は急激に減少する。そのため、ガスセンサ1は、接触距離Lgを、基準距離Lrの1.2分の1よりも小さくすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を極めて効果的に抑制することができる。
【0078】
(ハウジングの角部の形状)
上述のとおり、
図2に例示するハウジング20において、外周面210の後端側の端部(角部)には、面取り加工が施されており、具体的には、C面取り加工が施されている。すなわち、
図2には、ハウジング20の、外筒40の内周面410に面する角部(後端側の角部)が面取りされており、ハウジング20の外周面210とハウジング20の後端面220との間に、直線状の断面形状を有する角面Afが形成された例が示されている。
【0079】
ガスセンサ1において、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には、面取り加工が施されていてもよく、例えば
図2に例示するように、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には、直線状に、面取り加工が施されていてもよい。具体的には、
図2に例示するガスセンサ1において、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には、C面取り加工が施されている。ガスセンサ1は、面取り加工を施されたハウジング20の外周面210の後端側の端部を、ハウジング20を外筒40へと圧入する際のガイドとして利用することができ、ハウジング20を外筒40へと圧入しやすくなる。
【0080】
以上に説明してきたとおり、
図2には、ハウジング20の外周面210の後端側の端部にC面取り加工を施したガスセンサ1の例が示されている。すなわち、
図2に例示するガスセンサ1において、ハウジング20の外周面210の後端側の端部には、直線状に面取り加工が施されている。係る面取り加工によって、ハウジング20の後端側には、
図2に例示するように、断面形状が1本の直線状の角面Afが形成される。ただし、ガスセンサ1にとって、面取り加工を施すことで「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」(例、ハウジング20)の後端側に形成される角面Afについて、その断面形状が1本の直線状であることは必須ではない。すなわち、ガスセンサ1にとって、ハウジングの外周面の後端に施される面取り加工によって形成される角面Afについて、その断面形状が1本の直線状であることは必須ではない。詳細は後述するが、面取り加工を施すことで、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側には、
図6の(A)および(B)に例示するような角面Afが形成されてもよい。
図6の(A)および(B)には、断面形状が複数の直線部分を含む角面Afの例が示されている。すなわち、ガスセンサ1において、面取り加工が施されることで「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に形成される面(角面)は、断面形状において、複数の直線部分を含んでいてもよい。
【0081】
また、ガスセンサ1にとって、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」(例、ハウジング20)の外周面の後端側の端部に、面取り加工を施すことは必須ではない。係るハウジングの外周面の後端側の端部に面取り加工を施す場合であっても、ガスセンサ1にとって、係る面取り加工としてC面取り加工を採用することは必須ではない。
【0082】
上述のとおり、本実施形態においてガスセンサ1は、外筒40の溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触しているハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgを、基準距離Lr以下とすればよい。ガスセンサ1にとって、ハウジング20の外周面210の後端側の端部に面取り加工を施すか否か、施す場合であっても、どのような面取り加工を施すかは、ガスセンサ1の使用方法、使用箇所等に応じて適宜選択される。すなわち、接触距離Lgを基準距離Lr以下としたガスセンサ1において、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)の形状については種々のものがあり得る。以下、接触距離Lgを基準距離Lr以下としたガスセンサ1の備える、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側の角部の形状について、代表的な例を説明する。
【0083】
(変形例1に係るハウジング)
図3は、変形例1に係るハウジング20(1)について、溶接位置Wpの周辺における外筒40との関係を模式的に示す拡大断面図である。
図3において、紙面の左右方向が軸方向AXである。
図2に例示したハウジング20は、その後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)に、C面取り加工が施されていた。すなわち、ハウジング20の外周面210の後端側の端部(角部)には、C面取り加工が施され、外周面210とハウジング20の後端面220との間に、断面形状が1本の直線状の角面Afが形成されていた。これに対して、
図3に例示するハウジング20(1)は、その後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)に、R面取り加工が施されている。すなわち、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部(角部)には、R面取り加工が施され、外周面210(1)とハウジング20の後端面220(1)との間に、断面形状が1本の曲線状の丸面Rfが形成されている。
【0084】
後端側の角部に、C面取り加工に代えて、R面取り加工が施されている点を除いて、
図3に例示するハウジング20(1)は、
図2に例示したハウジング20と同様である。すなわち、ハウジング20(1)は、ハウジング20と同様に、円筒状であって金属製の部材であり、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している。
図3に例示するように、ハウジング20(1)の外周面210(1)には、金属製の外筒40が装着されている。外筒40は、ハウジング20(1)の後端側の一部が圧入され、圧入されたハウジング20(1)との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、ハウジング20(1)の外周面210(1)に装着されている。溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20(1)の外周面210(1)の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。
【0085】
図3に示す例において、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側にある、「溶融部分420がハウジング20(1)の外周面210(1)に接する端点」を示している。溶融部端Efは、「ハウジング20(1)に接する溶融部分420の、軸方向AXにおける後端」と言い換えてもよい。また、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(1)の外周面210(1)と、外筒40の内周面410と、溶融部分420との接触位置と言い換えてもよい。非接触位置Npは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(1)の外周面210(1)と外筒40の内周面410とが、非接触となる位置(両者が非接触となる、最も先端側の位置)を示している。非接触位置Npは、溶融部中心Cfよりも後端側において、ハウジング20(1)の外周面210(1)と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって、非接触となる位置と言い換えてもよい。また、非接触位置Npは、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端と言い換えてもよい。前述のとおり、
図3に示す例では、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部には面取り加工(R面取り加工)が施されている。そのため、非接触位置Npは、係る面取り加工を施した後のハウジング20(1)の外周面210(1)の後端と言い換えてもよい。溶込深さDaは、ハウジング20(1)の外周面210(1)から、ハウジング20(1)内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20(1)の径方向における深さを示している。また、
図3に示す例では、締め代Tbは、ハウジング20(1)の外径と外筒40の内径との差である締め代を表す。その他、
図3中の溶融部中心Cf、外筒40の厚みTcなどは、
図2に例示したのと同様であるため、説明は省略する。
【0086】
前述のとおり、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触している、ハウジング20(1)の外周面210(1)の、軸方向AXにおける長さである。そのため、
図3に示す例では、接触距離Lgは、溶融部端Efの位置と非接触位置Npとの間の距離と捉えることもできる。そして、接触距離Lgは、基準距離Lr以下となっている。ガスセンサ1は、接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、溶融部分420中の揮発ガスが、ハウジング20(1)の外周面210(1)と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようにし、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制する。
【0087】
これまでに
図3を用いて説明してきたとおり、ガスセンサ1において、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している、円筒状であって金属製のハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部には、R面取り加工が施されていてもよい。ガスセンサ1は、ハウジング20の外周面210の後端側の端部に施される面取り加工としてR面取り加工を採用することで、加工の際のバリ発生を抑制することができ、ハウジング20と外筒40との間のバリかみ込みを抑制することができる。
【0088】
以上に説明してきたとおり、
図3には、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部にR面取り加工を施したガスセンサ1の例が示されている。すなわち、
図3に例示するガスセンサ1において、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部には、曲線状に面取り加工が施されている。係る面取り加工によって、
図3に例示するように、断面形状が1本の曲線状の丸面Rfが形成される。ただし、ガスセンサ1にとって、面取り加工を施すことで「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に形成される丸面Rfについて、その断面形状が1本の曲線状であることは必須ではない。すなわち、ガスセンサ1にとって、係るハウジングの外周面の後端に施される面取り加工によって形成される丸面Rfについて、その断面形状が1本の曲線状であることは必須ではない。詳細は後述するが、面取り加工を施すことで、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側には、
図6の(C)に例示するような丸面Rfが形成されてもよい。
図6の(C)には、断面形状が複数の曲線部分を含む丸面Rfの例が示されている。すなわち、ガスセンサ1において、面取り加工が施されることで「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に形成される面(丸面)は、断面形状において、複数の曲線部分を含んでいてもよい。
【0089】
ガスセンサ1において、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の外周面の後端側の端部には、断面形状が直線部分および曲線部分の少なくとも一方を含む面が形成されるように、面取り加工が施されてもよい。例えば、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の外周面の後端側の端部には、断面形状が直線部分および曲線部分の少なくとも一方を含む、角面Afまたは丸面Rfが形成されるように、面取り加工が施されてもよい。面取り加工を施すことで「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に形成される面は、断面形状において、1または複数の直線部分、および、1または複数の曲線部分の少なくとも一方を含んでいてもよい。例えば、後述する
図6の(D)には、面取り加工が施されることで「断面形状において1つの直線部分と2つの曲線部分とを含む面」が後端側に形成された、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の例が示されている。
【0090】
(変形例2に係るハウジング)
図4は、変形例2に係るハウジング20(2)について、溶接位置Wpの周辺における外筒40との関係を模式的に示す拡大断面図である。
図4において、紙面の左右方向が軸方向AXである。
図2および
図3に例示した「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」(つまり、ハウジング20、20(1))は、その後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)に、面取り加工が施されていた。すなわち、ハウジング20の外周面210の後端側の端部(角部)には、C面取り加工が施され、また、ハウジング20(1)の外周面210(1)の後端側の端部(角部)には、R面取り加工が施されていた。これに対して、
図4に例示するハウジング20(2)は、その後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)に、面取り加工が施されていない。
【0091】
後端側の角部に、面取り加工が施されていない点を除いて、
図4に例示するハウジング20(2)は、
図2に例示したハウジング20、および、
図3に例示したハウジング20(1)と同様である。すなわち、ハウジング20(2)は、ハウジング20、20(1)と同様に、円筒状であって金属製の部材であり、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している。
図4に例示するように、ハウジング20(2)の外周面210(2)には、金属製の外筒40が装着されている。外筒40は、ハウジング20(2)の後端側の一部が圧入され、圧入されたハウジング20(2)との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、ハウジング20(2)の外周面210(3)に装着されている。溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20(2)の外周面210(2)の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。
【0092】
図4に示す例において、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側にある、「溶融部分420がハウジング20(2)の外周面210(2)に接する端点」を示している。溶融部端Efは、「ハウジング20(2)に接する溶融部分420の、軸方向AXにおける後端」と言い換えてもよい。また、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(2)の外周面210(2)と、外筒40の内周面410と、溶融部分420との接触位置と言い換えてもよい。非接触位置Npは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(2)の外周面210(2)と外筒40の内周面410とが、非接触となる位置(両者が非接触となる、最も先端側の位置)を示している。非接触位置Npは、溶融部中心Cfよりも後端側において、ハウジング20(2)の外周面210(2)と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって、非接触となる位置と言い換えてもよい。また、非接触位置Npは、ハウジング20(2)の外周面210(2)の後端と言い換えてもよい。前述のとおり、
図4に示す例では、ハウジング20(2)の外周面210(2)の後端側の端部には面取り加工が施されていない。そのため、非接触位置Npは、ハウジング20(2)の外周面210(2)と後端面220(3)とが接する位置と言い換えてもよい。溶込深さDaは、ハウジング20(2)の外周面210(2)から、ハウジング20(2)内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20(2)の径方向における深さを示している。また、
図4に示す例では、締め代Tbは、ハウジング20(2)の外径と外筒40の内径との差である締め代を表す。その他、
図4中の溶融部中心Cf、外筒40の厚みTcなどは、
図2および
図3に例示したのと同様であるため、説明は省略する。
【0093】
前述のとおり、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触している、ハウジング20(2)の外周面210(2)の、軸方向AXにおける長さである。そのため、
図4に示す例では、接触距離Lgは、溶融部端Efの位置と非接触位置Npとの間の距離と捉えることもできる。そして、接触距離Lgは、基準距離Lr以下となっている。
【0094】
これまでに説明してきたように、本実施形態に係るガスセンサ1は、接触距離Lgを基準距離Lr以下とする。係る構成を採用することで、ガスセンサ1は、溶融部分420中の揮発ガスが、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の外周面と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようにしている。本実施形態に係るガスセンサ1にとって、
図4を用いて説明したとおり、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」(例、ハウジング20(2))の外周面の後端側の端部に、面取り加工を施すことは必須ではない。
【0095】
(変形例3に係るハウジング)
図5は、変形例3に係るハウジング20(3)について、溶接位置Wpの周辺における外筒40との関係を模式的に示す拡大断面図である。
図5において、紙面の左右方向が軸方向AXである。これまでに
図2~
図4を用いて説明してきた「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」は、その外周面が、溶融部端Efと非接触位置Npとの間で、周方向の全体にわたって、外筒40の内周面410に接していた。すなわち、ハウジング20、20(1)、20(2)において、その外周面は、溶融部端Efと非接触位置Npとの間で、周方向の全体にわたって、外筒40の内周面410に接していた。これに対して、
図5に例示するハウジング20(3)において、その外周面210(3)には、非接触位置Npから先端側へと、軸方向AXに延びるスリットSlが形成されている。そのため、ハウジング20(3)の外周面210(3)の一部(具体的には、スリットSlが形成されている部分)は、溶融部端Efと非接触位置Npとの間で、外筒40の内周面410に接していない。
【0096】
具体的には、
図5に例示するハウジング20(3)の外周面210(3)には、溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側に、スリットSlが形成されている。
図5に示す例では、スリットSlは、非接触位置Npから先端側へと、軸方向AXに延びている。
【0097】
軸方向AXに延びるスリットSlが外周面に形成されている点を除いて、
図5に例示するハウジング20(3)は、
図2に例示したハウジング20と同様である。すなわち、ハウジング20(3)は、ハウジング20と同様に、円筒状であって金属製の部材であり、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している。
図5に例示するように、ハウジング20(3)の外周面210(3)には、金属製の外筒40が装着されている。外筒40は、ハウジング20(3)の後端側の一部が圧入され、圧入されたハウジング20(3)との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、ハウジング20(3)の外周面210(3)に装着されている。溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20(3)の外周面210(3)の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。すなわち、溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20(3)の外周面210(3)の、スリットSlが形成されていない部分における、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。
【0098】
また、ハウジング20(3)は、ハウジング20と同様に、その後端側の角部(外筒40の内周面410に面する角部)に、C面取り加工が施されている。すなわち、ハウジング20(3)の外周面210(3)の後端側の端部(角部)には、C面取り加工が施され、外周面210(3)とハウジング20(3)の後端面220(3)との間に、断面形状が1本の直線状の角面Afが形成されている。
【0099】
図5に示す例において、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側にある、「溶融部分420がハウジング20(3)の外周面210(3)に接する端点」を示している。溶融部端Efは、「ハウジング20(3)に接する溶融部分420の、軸方向AXにおける後端」と言い換えてもよい。また、溶融部端Efは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(3)の外周面210(3)と、外筒40の内周面410と、溶融部分420との接触位置と言い換えてもよい。
【0100】
非接触位置Npは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(3)の外周面210(3)と外筒40の内周面410とが非接触となる位置(両者が非接触となる、最も先端側の位置)を示している。ここで、前述のとおり、ハウジング20(3)の外周面210(3)には、溶融部分420よりも後端側に、スリットSlが形成されている。そのため、
図5に例示する非接触位置Npは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(3)の外周面210(3)の、スリットSlが形成されていない部分と、外筒40の内周面410とが非接触となる位置と言い換えてもよい。つまり、
図5に例示する非接触位置Npは、軸方向AXにおいて溶融部中心Cfよりも後端側における、ハウジング20(3)の外周面210(3)と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって、非接触となる位置と言い換えてもよい。また、非接触位置Npは、ハウジング20(3)の外周面210(3)の後端と言い換えてもよい。前述のとおり、
図5に示す例では、ハウジング20(3)の外周面210(3)の後端側の端部には面取り加工(C面取り加工)が施されている。そのため、非接触位置Npは、係る面取り加工を施した後のハウジング20(3)の外周面210(3)の後端と言い換えてもよい。
【0101】
溶込深さDaは、ハウジング20(3)の外周面210(3)から、ハウジング20(3)内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20(3)の径方向における深さを示している。また、
図5に示す例では、締め代Tbは、ハウジング20(3)の外径と外筒40の内径との差である締め代を表す。その他、
図5中の溶融部中心Cf、外筒40の厚みTcなどは、
図2~
図4に例示したのと同様であるため、説明は省略する。
【0102】
前述のとおり、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触している、ハウジング20(3)の外周面210(3)の、軸方向AXにおける長さである。特に、スリットSlの形成された外周面210(3)について、接触距離Lgは、溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触している外周面210(3)の、スリットSlが形成されていない部分における、軸方向AXにおける長さである。
図5に示す例では、接触距離Lgは、溶融部端Efの位置と、ハウジング20(3)の外周面210(3)と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって、非接触となる非接触位置Npとの間の距離と捉えることもできる。そして、接触距離Lgは、基準距離Lr以下となっている。ガスセンサ1は、接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、溶融部分420中の揮発ガスが、ハウジング20(3)の外周面210(3)と外筒40の内周面410との間から抜け出せるようにし、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制する。
【0103】
これまでに説明してきたように、ガスセンサ1において、軸方向AXにおいて溶融部分420よりも後端側の、ハウジング20(3)の外周面210(3)には、軸方向AXに延びるスリットSlが形成されている。ここで、詳細は後述するが、本件発明者らは、軸方向AXに延びるスリットSlを、ハウジング20(3)の外周面210(3)に形成することで、係るスリットSlを形成しない場合に比べて、ピンホール発生の抑制効果を向上できることを確認した。例えば、スリットSlによって、「揮発ガスが、自己の圧力により、ハウジング20(3)の外周面210(3)と外筒40の内周面410との間を移動できる距離」を長くすることができると考えられる。したがって、ガスセンサ1は、軸方向AXに延びるスリットSlによって、溶融部分420におけるピンホール発生の抑制効果を、スリットSlを形成しない場合に比べて、より向上させることができる。
【0104】
これまでに説明してきたように、
図5に例示するハウジング20(3)の外周面210(3)において、溶融部分420よりも後端側には、非接触位置Npから先端側へと軸方向AXに延びるスリットSlが形成されている。また、ハウジング20(3)の外周面210(3)の後端側の端部にはC面取り加工が施されている。しかしながら、ガスセンサ1にとって、スリットSlが非接触位置Npから先端側へと延びていることは必須ではない。スリットSlは、溶融部分420よりも後端側で、軸方向AXに延びていればよい。スリットSlが非接触位置Npから延びていなかったとしても、軸方向AXに延びていれば、スリットSlによって、揮発ガスの到達可能距離を長くすることができると考えられ、つまり、ピンホール発生の抑制効果を向上できると考えられる。
【0105】
同様に、ガスセンサ1にとって、スリットSlがハウジング20(3)の外周面210(3)に形成されることは必須ではない。スリットSlは、外筒40の内周面410に形成されていてもよく、スリットSlは、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方に形成されていればよい。
【0106】
また、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方には、ハウジング20(3)および外筒40のそれぞれの周方向において互いに間隔を空けて設けられる複数のスリットSlが形成されていてもよい。
【0107】
さらに、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方にスリットSlを形成する場合、外周面210(3)の後端側の端部にC面取り加工が施されていることは必須ではない。外周面210(3)の後端側の端部にはR面取り加工が施されていてもよいし、また、面取り加工が施されていなくてもよい。例えば、ガスセンサ1は、
図3に例示するハウジング20(1)の外周面210(1)にスリットSlを形成してもよい。また、ガスセンサ1は、
図3に例示するハウジング20(1)の外周面210(1)と、内周面410にスリットSlが形成された外筒40とを備えていてもよい。同様に、ガスセンサ1は、
図4に例示するハウジング20(2)の外周面210(2)にスリットSlを形成してもよい。また、ガスセンサ1は、
図4に例示するハウジング20(2)の外周面210(2)と、内周面410にスリットSlが形成された外筒40とを備えていてもよい。
【0108】
すなわち、ガスセンサ1において、軸方向AXにおいて溶融部分420よりも後端側の、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方には、軸方向AXに延びるスリットSlが形成されていてもよい。ガスセンサ1において、スリットSlは、ハウジング20(3)の後端側の端面(後端面220(3))まで延びていてもよく、つまり、非接触位置Npまで延びていてもよい。また、ガスセンサ1において、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方には、周方向において互いに間隔を空けて設けられる複数のスリットSlが、形成されていてもよい。
【0109】
上述のとおり、本件発明者らは、軸方向AXに延びるスリットSlを、外周面210(3)および内周面410の少なくとも一方に形成することで、係るスリットSlを形成しない場合に比べて、ピンホール発生の抑制効果を向上できることを確認した。したがって、ガスセンサ1は、軸方向AXに延びるスリットSlによって、溶融部分420におけるピンホール発生の抑制効果を、スリットSlを形成しない場合に比べて、より向上させることができる。
【0110】
(ハウジングの角部に施される面取り加工のその他の例について)
図6は、ガスセンサ1の備える、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の角部(後端側の角部)に施される、種々の面取り加工の例を示す拡大断面図である。具体的には、
図6は、それぞれが「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の一例であるハウジング20(4)~20(7)について、その角部に施された面取り加工の例を示している。
図6において、紙面の左右方向が軸方向AXである。
【0111】
図6の(A)に例示するハウジング20(4)において、その角部(後端側の角部)に面取り加工が施されることで、ハウジング20(4)の後端側には、断面形状が複数の直線部分を含む角面Afが形成されている。具体的には、面取り加工が施されることでハウジング20(4)の後端側に形成された、断面形状が2つの直線部分を含む角面Afの例が示されている。接触距離Lgが基準距離Lr以下であるガスセンサ1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に、
図6の(A)に例示する角面Afが形成されていてもよい。
【0112】
図6の(B)に例示するハウジング20(5)において、その角部(後端側の角部)に面取り加工が施されることで、ハウジング20(5)の後端側には、断面形状が複数の直線部分を含む角面Afが形成されている。具体的には、面取り加工が施されることでハウジング20(5)の後端側に形成された、断面形状が3つの直線部分を含む角面Afの例が示されている。接触距離Lgが基準距離Lr以下であるガスセンサ1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に、
図6の(B)に例示する角面Afが形成されていてもよい。
【0113】
これまでに
図6の(A)および(B)を用いて説明してきたように、ガスセンサ1において、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側には、断面形状が複数の直線部分を含む角面Afが形成されていてもよい。
【0114】
図6の(C)に例示するハウジング20(6)において、その角部(後端側の角部)に面取り加工が施されることで、ハウジング20(6)の後端側には、断面形状が複数の曲線部分を含む丸面Rfが形成されている。具体的には、面取り加工が施されることでハウジング20(6)の後端側に形成された、断面形状が2つの曲線部分を含む丸面Rfの例が示されている。接触距離Lgが基準距離Lr以下であるガスセンサ1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に、
図6の(C)に例示する丸面Rfが形成されていてもよい。すなわち、ガスセンサ1において、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側には、断面形状が複数の曲線部分を含む丸面Rfが形成されていてもよい。
【0115】
図6の(D)に例示するハウジング20(7)において、その角部(後端側の角部)に面取り加工が施されることで、ハウジング20(7)の後端側には、断面形状において、直線部分と曲線部分とを含む面ARfが形成されている。具体的には、面取り加工が施されることでハウジング20(7)の後端側に形成された、断面形状が1つの直線部分と2つの曲線部分とを含む面ARfの例が示されている。接触距離Lgが基準距離Lr以下であるガスセンサ1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側に、
図6の(D)に例示する面ARfが形成されていてもよい。すなわち、ガスセンサ1において、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」の後端側には、断面形状において、1または複数の直線部分、および、1または複数の曲線部分の少なくとも一方を含む面が形成されてもよい。
【0116】
これまでに説明してきたように、ガスセンサ1は、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」と、係るハウジングの外周面に装着された金属製の外筒40と、を備える。そして、ガスセンサ1は、「溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触している、ハウジングの外周面の、軸方向AXにおける長さ」を、溶融部分420中の揮発ガスの到達可能距離以下とし、例えば、基準距離Lr以下とする。
【0117】
上述のガスセンサ1において、ハウジングの外周面の後端側の端部には、面取り加工が施されていてもよく、例えば、ハウジングの外周面の後端側の端部には、直線状に、または、曲線状に、面取り加工が施されていてもよい。具体的には、ガスセンサ1において、ハウジングの外周面の後端側の端部には、C面取り加工およびR面取り加工の少なくとも一方が施されていてもよい。ガスセンサ1は、係る面取り加工を施されたハウジングの外周面の後端側の端部を、ハウジングを外筒40へと圧入する際のガイドとして利用することができ、ハウジングを外筒40へと圧入しやすくなる。
【0118】
[特徴]
これまで説明してきたように、本実施形態に係るガスセンサ1は、長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している、円筒状であって金属製のハウジングと、係るハウジングの外周面210に装着された金属製の外筒40と、を備える。ガスセンサ1の備える、「長尺状のセンサ素子10が内部を軸方向AXに貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」は、これまでに説明してきたハウジング20、20(1)~20(7)の何れかであり、例えば、ハウジング20である。外筒40は、軸方向AXにおける、ハウジング20の後端側の一部が圧入され、圧入されたハウジング20との重なり部分において周方向に溶接がなされることで、ハウジング20の外周面210に装着されている。例えば、ハウジング20と外筒40との重なり部分において(一例を挙げれば、
図1における溶接位置Wpにおいて)、周方向にレーザー溶接がなされることで、外筒40は、ハウジング20の外周面210に装着される。
【0119】
ガスセンサ1において、溶接により形成される外筒40の溶融部分420よりも後端側で、外筒40の内周面410に接触しているハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さである接触距離Lgは、基準距離Lr以下である。基準距離Lrは、比例定数k、溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcを用いて、以下の数式(1)によって算出される。
Lr=k×Da/(Tb×Tc) ・・・数式(1)
【0120】
前述のとおり、溶込深さDaは、ハウジング20の外周面210から、ハウジング20内に溶け込んだ溶融部分420の最深部Dpまでの、ハウジング20の径方向における深さを表す。締め代Tbは、ハウジング20の外径と外筒40の内径との差である締め代を表す。厚みTcは、外筒40の厚みを表す。溶融部分420は、外筒40の、溶融により組織変更している部分と言い換えてもよい。
【0121】
そして、基準距離Lrは、例えば、揮発ガスが、自己の圧力により到達することのできる距離(到達可能距離)のうち、最大の距離を示しており、つまり、到達可能距離の最大値である。すなわち、基準距離Lrは、例えば、揮発ガスが、自己の圧力により、互いに接するハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410と間を移動できる距離(到達可能距離)の最大値である。また、揮発ガスの到達可能距離は、溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcのそれぞれと、以下の関係を有する。すなわち、溶込深さDaが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は大きくなり、締め代Tbが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は小さくなり、厚みTcが大きいほど、揮発ガスの到達可能距離は小さくなる。そのため、到達可能距離の最大値である基準距離Lrは、溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcの関数として表すことができる。また、試験等によって、比例定数であるkを求めることができる。したがって、基準距離Lrは、比例定数であるkと、溶込深さDa、締め代Tb、および、厚みTcとの関数である上述の数式(1)によって、算出される。
【0122】
ガスセンサ1において、接触距離Lgは、基準距離Lr以下であり、つまり、「溶融部分420よりも後端側で外筒40の内周面410に接触しているハウジング20の外周面210の、軸方向AXにおける長さ」は、基準距離Lr以下である。接触距離Lgは、溶融部端Efの位置から非接触位置Npまでの、軸方向AXにおける長さと言い換えてもよい。前述のとおり、溶融部端Efは、軸方向AXにおける溶融部分420の中心(溶融部中心Cf)よりも後端側にある、溶融部分420がハウジング20の外周面210に接する端点である。また、非接触位置Npは、溶融部中心Cfよりも後端側にある、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが、周方向の全体にわたって非接触となる位置であり、例えば、ハウジング20の外周面210の後端である。
【0123】
ガスセンサ1において、接触距離Lgは基準距離Lr以下であるため、互いに接するハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410との間に溶接の際に発生した揮発ガスは、自己の圧力により、非接触位置Npまで移動することができる。つまり、ガスセンサ1において、係る揮発ガスは、自己の圧力により、ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが周方向の全体にわたって非接触となる位置(例えば、ハウジング20の外周面210の後端)まで移動することができる。溶接の際、例えば、溶融部分420中の揮発ガスは、自己の圧力により、「ハウジング20の外周面210と外筒40の内周面410とが周方向の全体にわたって非接触となる位置」まで、移動することができる。つまり、ガスセンサ1において、溶接の際に発生した揮発ガスは、自己の圧力により非接触位置Npへと移動することができ、非接触位置Npにおいて解放(放出)される。そのため、ガスセンサ1は、揮発ガスが溶融部分420中に留められて溶融部分420にピンホールを発生させる可能性を低減することができ、つまり、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制することができる。
【0124】
したがって、ガスセンサ1は、センサ素子10を挿通する金属製のハウジング20と、ハウジング20の外周に溶接された金属製の外筒40とを備え、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制することができる。
【0125】
また、ガスセンサ1は、接触距離Lgを、数式(1)によって算出される基準距離Lr以下とすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制することができる。そして、前述のとおり、数式(1)における比例定数であるkは、試験等によって予め求めておくことができる。したがって、ガスセンサ1は、ピンホールの発生を抑制する構造を、設計段階において決定することができ、例えば、接触距離Lgの値を、設計段階において、基準距離Lr以下となるよう決定しておくことができる。さらに、ガスセンサ1は、ピンホールの発生を抑制することで、該ピンホールに起因する、腐食の発生、シール性の低下といった不具合の発生する可能性を抑制することができる。加えて、ガスセンサ1は、設計段階でピンホールの発生を抑制する構造を実現できるため、溶接条件などを従前のものから変更することなく、ピンホールの発生を抑制することができる。また、ガスセンサ1は、ハウジング20と外筒40との接触面に油分等が残留しないようにハウジング20と外筒40とをそれぞれ十分に洗浄するなどの工程を必要としないため、製造に際して必要となる管理、工程における、工数を抑制することができる。
【0126】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0127】
(ガスセンサの備える構成について)
これまで、本実施形態に係るガスセンサ1が、センサ素子保持部材30および外側保護カバー50を備える例について説明してきた。しかしながら、本実施形態に係るガスセンサ1にとって、センサ素子保持部材30および外側保護カバー50を備えることは必須ではなく、ガスセンサ1は、センサ素子保持部材30および外側保護カバー50の少なくとも一方を備えていなくてもよい。また、ガスセンサ1は、センサ素子10、ハウジング20、センサ素子保持部材30、外筒40、および、外側保護カバー50以外の構成を備えていてもよい。
【0128】
例えば、ガスセンサ1は、センサ素子10の先端を囲繞する有底筒状の外側保護カバー50に加えて、センサ素子10の先端を覆う有底筒状の内側保護カバーをさらに備えていてもよい。すなわち、ガスセンサ1は、センサ素子10の先端を覆う内側保護カバーを、さらに外側保護カバー50によって覆う構成としてもよい。係る内側保護カバーは、金属で形成されていてもよい。ガスセンサ1は、上述の内側保護カバーおよび外側保護カバー50に加え、さらに別の保護カバーを備えていてもよい。例えば、ガスセンサ1は、内側保護カバーおよび外側保護カバー50の他に、両者の間に配置される中間保護カバーをさらに備えていてもよい。すなわち、ガスセンサ1は、複数の保護カバー(外側保護カバー50に加えて、例えば、上述の内側カバー)によって、センサ素子10の先端近傍を保護してもよい。
【0129】
(スリットについて)
図5を用いて、軸方向AXにおいて溶融部分420よりも後端側の、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方に、軸方向AXに延びるスリットSlが形成されたガスセンサ1の例について説明した。しかしながら、軸方向AXにおいて溶融部分420よりも後端側において、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方に形成されるスリットSlは、軸方向AXに延びていなくてもよい。例えば、軸方向AXにおいて溶融部分420よりも後端側において、ハウジング20(3)の外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方には、周方向に延びるスリットSlが形成されていてもよい。すなわち、溶融部端Efと非接触位置Np(ハウジング20(3)の外周面210(3)の後端)との間の、外周面210(3)および外筒40の内周面410の少なくとも一方に、周方向に延びるスリットSlが形成されていてもよい。周方向に延びるスリットSlによっても、「揮発ガスが、自己の圧力により、外周面210(3)と内周面410との間を移動できる距離」を長くすることができると考えられ、つまり、ピンホールの発生を抑制できると考えられる。
【0130】
[実施例]
本発明の効果を検証するため、以下の水準1~7に係るガスセンサ、およびRefに係るガスセンサを作製した。ただし、本発明は、以下の各水準に係るガスセンサ、およびRefに係るガスセンサに限定されるものではない。
【表1】
【0131】
表1において、水準1~2に係るガスセンサは、接触距離Lgが基準距離Lrよりも大きい点を除いて、
図1に例示したガスセンサ1と同様の構成を備える。Refに係るガスセンサは、本発明の効果の検証の際に基準としたガスセンサであり、
図1に例示したガスセンサ1と同様の構成を備え、接触距離Lgが基準距離Lrに等しい。水準3~7に係るガスセンサは、
図1に例示したガスセンサ1と同様の構成を備え、接触距離Lgが基準距離Lrよりも小さい。
【0132】
表1中、「Lr/Lg」は、接触距離Lgに対する基準距離Lrの比率を示している。例えば、水準1に係るガスセンサにおいて、接触距離Lgに対する基準距離Lrの比率は「0.37」であり、つまり、基準距離Lrは接触距離Lgの0.37倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも大きい。同様に、水準2に係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgの0.71倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも大きい。また、Refに係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgに等しい。水準3に係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgの1.11倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも小さい。水準4および水準5に係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgの1.23倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも小さい。水準6に係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgの1.35倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも小さい。水準7に係るガスセンサにおいて、基準距離Lrは接触距離Lgの1.92倍であって、接触距離Lgは基準距離Lrよりも小さい。
【0133】
表1中、「スリット構造」は、水準1~7に係るガスセンサのそれぞれについて、
図5に例示するスリットSlがハウジング20の外周面210および外筒40の内周面410の少なくとも一方に形成されているか否かを示している。スリット構造が「有り」とは、例えば、軸方向AXに延びるスリットSlがハウジング20の外周面210に形成されていることを示している。また、スリット構造が「無し」とは、ハウジング20の外周面210および外筒40の内周面410の何れにも、スリットSlが形成されていないことを示している。
【0134】
表1中、「ピンホール発生数の比」は、Refに係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」に対する、各水準に係るガスセンサについて確認された「ピンホールの発生数」の比率を示している。すなわち、「ピンホール発生数の比」は、各水準に係るガスセンサについて確認されたピンホールの発生数が、接触距離Lgが基準距離Lrに等しいRefに係るガスセンサについて確認されたピンホールの発生数の、何倍であったかを示している。
【0135】
表1中、「ピンホール低減効果」は、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール発生の抑制効果に対して、各水準に係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果の程度を示している。「ピンホール発生の抑制効果」は、「ピンホールの発生数を低減させる効果」と言い換えてもよい。ピンホール低減効果が「×(不良)」とは、各水準に係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果が、接触距離Lgが基準距離Lrに等しいRefに係るガスセンサのピンホール低減効果よりも劣っていることを示している。ピンホール低減効果が「〇(良好)」とは、各水準に係るガスセンサについて、接触距離Lgが基準距離Lrに等しいRefに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果と同様のピンホール低減効果が確認されたことを示している。ピンホール低減効果が「◎(著しく良好)」とは、各水準に係るガスセンサについて、接触距離Lgが基準距離Lrに等しいRefに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果よりもさらに良好なピンホール低減効果が確認されたことを示している。
【0136】
すなわち、水準1に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「1.07」であり、水準1に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも多い。そのため、水準1に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「×(不良)」となっている。
【0137】
水準2に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「1.08」であり、水準2に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも多い。そのため、水準2に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「×(不良)」となっている。
【0138】
水準3に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「0.92」であり、水準3に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも僅かに少ない。つまり、水準3に係るガスセンサは、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果と同様のピンホール低減効果を実現することができており、水準3に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「〇(良好)」となっている。
【0139】
水準4に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「0.89」であり、水準4に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも僅かに少ない。つまり、水準4に係るガスセンサは、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果と同様のピンホール低減効果を実現することができており、水準4に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「〇(良好)」となっている。
【0140】
水準5に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「0.80」であり、水準5に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも僅かに少ない。つまり、水準5に係るガスセンサは、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果と同様のピンホール低減効果を実現することができており、水準5に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「〇(良好)」となっている。
【0141】
水準6に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「0.60」であり、水準6に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも極めて少ない。つまり、水準6に係るガスセンサは、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果よりもさらに良好なピンホール低減効果を実現することができており、水準6に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「◎(著しく良好)」となっている。
【0142】
水準7に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は「0.25」であり、水準7に係るガスセンサについて確認された「溶融部分420におけるピンホールの発生数」は、Refに係るガスセンサについて確認された発生数よりも極めて少ない。つまり、水準7に係るガスセンサは、Refに係るガスセンサについて確認されたピンホール低減効果よりもさらに良好なピンホール低減効果を実現することができており、水準7に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「◎(著しく良好)」となっている。
【0143】
(表1から確認できた事項1)
表1に示されるとおり、接触距離Lgが基準距離Lrよりも大きい水準1~2に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「×(不良)」である。これに対して、接触距離Lgが基準距離Lrよりも小さい水準3~7に係るガスセンサの「ピンホール低減効果」は、「〇(良好)」または「◎(著しく良好)」である。また、接触距離Lgと基準距離Lrとが等しいRefに係るガスセンサについて、「ピンホール低減効果」は「〇」である。そのため、本件発明者らは、センサ素子10を挿通するハウジング20と、ハウジング20の外周面に溶接された外筒40とを備えるガスセンサ1について、接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、以下の効果を実現できることを確認した。すなわち、本件発明者らは、ガスセンサ1について、接触距離Lgを基準距離Lr以下とすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を抑制することができることを確認した。
【0144】
また、接触距離Lgが基準距離Lrよりも小さい水準3~7に係るガスセンサの「ピンホール発生数の比」は、何れも、「1.00」未満である。つまり、接触距離Lgと基準距離Lrとが等しいRefに係るガスセンサよりも、接触距離Lgが基準距離Lrよりも小さい水準3~7に係るガスセンサの方が、ピンホールの発生を抑制することができている。そのため、センサ素子10を挿通するハウジング20と、ハウジング20の外周面に溶接された外筒40とを備えるガスセンサ1について、接触距離Lgを基準距離Lrよりも短くすることが、より望ましい。
【0145】
(表1から確認できた事項2)
本件発明者らは、表1に示される「ピンホール発生数の比」と、「Lr/Lg(接触距離Lgに対する基準距離Lrの比率)」との関係から、接触距離Lgに対する基準距離Lrの比率について、以下の傾向がみられることを確認した。すなわち、本件発明者らは、基準距離Lrが接触距離Lgの1.2倍よりも大きくなるよう接触距離Lgの大きさを調整することで、ピンホール低減効果(ピンホール発生の抑制効果)が急激に向上することを確認した。例えば、横軸を「Lr/Lg」、縦軸を「ピンホール発生数の比」とするグラフ上に、表1の結果をプロットして、水準1~7およびRefのそれぞれに相当する点から求めた近似曲線について、本件発明者らは、以下の傾向を確認した。すなわち、本件発明者らは、基準距離Lrが接触距離Lgの1.2倍よりも大きくなる辺りで、係る近似曲線の傾きが急激に大きくなることを確認した。
【0146】
したがって、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」と、係るハウジングの外周面に溶接された外筒40とを備えるガスセンサ1について、以下の傾向を確認することができた。すなわち、係るガスセンサ1について、基準距離Lrを接触距離Lgの1.2倍よりも大きくすることで、溶融部分420におけるピンホールの発生を、極めて効果的に、抑制することができることを確認できた。
【0147】
(表1から確認できた事項3)
水準4に係るガスセンサと水準5に係るガスセンサとは、「Lr/Lg」が共に「1.23」である点において共通しているが、水準4に係るガスセンサはスリット構造が「無し」であるのに対して、水準5に係るガスセンサはスリット構造が「有り」である。つまり、水準4に係るガスセンサと水準5に係るガスセンサとは、スリットSlがハウジング20の外周面210および外筒40の内周面410の少なくとも一方に形成されているか否かを除いて、同様の構成を備えている。そして、水準4に係るガスセンサのピンホール発生数の比は「0.89」であるのに対して、水準5に係るガスセンサのピンホール発生数の比は「0.80」である。つまり、水準4に係るガスセンサよりも水準5に係るガスセンサの方が、ピンホールの発生を抑制することができている。そのため、本件発明者らは、ガスセンサ1について、スリットSlをハウジング20の外周面210および外筒40の内周面410の少なくとも一方に形成することで、係るスリットSlを形成しない場合に比べて、ピンホール発生の抑制効果を向上できることを確認した。したがって、「センサ素子が内部を軸方向に貫通している、円筒状であって金属製のハウジング」と、係るハウジングの外周面に溶接された外筒40とを備えるガスセンサ1について、以下の傾向を確認することができた。すなわち、係るハウジングの外周面および外筒40の内周面410の少なくとも一方にスリットSlを形成することで、スリットSlを形成しない場合に比べて、溶融部分420におけるピンホールの発生の抑制効果を向上させることができることを確認した。
【符号の説明】
【0148】
1…ガスセンサ、10…センサ素子、20…ハウジング、40…外筒、
210…外周面、410…内周面、420…溶融部分、AX…軸方向、Lg…接触距離、Lr…基準距離、Da…溶込深さ、Dp…最深部(溶融部分の最深部)、k…比例定数、Tb…締め代、Tc…厚み、Sl…スリット