(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063585
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】情報処理装置、射出成形機およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171659
(22)【出願日】2022-10-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVASCRIPT
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】中園 真修
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM04
4F206AM19
4F206AM23
4F206AP20
4F206AR20
4F206JA07
4F206JL02
4F206JP11
4F206JP17
4F206JP22
4F206JP23
4F206JQ88
(57)【要約】
【課題】ユーザによる操作を受け付け、多様な状況に対応して調整条件の設定を行うことができるユーザインターフェイスを提供する。
【解決手段】成形条件を自動調整可能な射出成形機における自動調整機能の調整条件の設定操作を受け付ける情報処理装置において、調整条件を設定する調整条件設定部230を有し、この調整条件設定部230は、成形品の品質の保持に関わる調整項目の入力を受け付ける品質情報設定部231と、調整条件の設定として、成形品の品質を保持するための調整対象としての成形条件項目の入力を受け付ける調整情報設定部232と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形条件を自動調整可能な射出成形機における自動調整機能の調整条件の設定操作を受け付ける情報処理装置であって、
前記調整条件の設定として、成形品の品質の保持に関わる品質項目の入力を受け付ける第1入力受け付け部と、
前記調整条件の設定として、成形品の品質を保持するための調整対象としての調整項目の入力を受け付ける第2入力受け付け部と、
を備えることを特徴とする、情報処理装置。
【請求項2】
前記第1入力受け付け部は、前記品質項目の識別情報の入力と、当該品質項目における調整値の取り得る範囲の入力と、を受け付けることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1入力受け付け部は、前記調整値の取り得る範囲の入力において、目標値および当該目標値に対する許容範囲の指定を受け付けることを特徴とする、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第2入力受け付け部は、前記調整項目の識別情報の入力と、当該調整項目における制御値の取り得る範囲の入力と、を受け付けることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第2入力受け付け部は、前記制御値の取り得る範囲の入力において、当該制御値として許容される最小値および最大値の指定を受け付けることを特徴とする、請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第1入力受け付け部に対する入力が行われる第1入力部および前記第2入力受け付け部に対する入力が行われる第2入力部の少なくとも一方を有する操作画面を表示装置に表示させる表示制御部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記操作画面は、
前記第1入力部および前記第2入力部の両方を有し、
前記第1入力部への入力が行われた場合に、入力された前記品質項目に関連する前記調整項目を前記第2入力部に表示することを特徴とする、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記操作画面は、
前記第1入力部への入力に応じて表示した前記第2入力部の前記調整項目において、
成形実績に基づいて特定される制御値の取り得る範囲の参考値を表示することを特徴とする、請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記操作画面は、入力された項目ごとに、前記射出成形機の前記自動調整機能において入力された値および範囲に基づく調整を行うか否かを設定する有効設定部を有することを特徴とする、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記操作画面は、入力された項目ごとに、入力された値および範囲を固定値とする入力固定部を有することを特徴とする、請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項11】
射出装置と、
型締装置と、
成形条件の自動調整機能を有し、前記射出装置および前記型締装置を制御する制御装置と、
前記自動調整機能の調整条件の設定操作を受け付ける処理装置と、を備え、
前記制御装置は、前記処理装置により受け付けた前記調整条件の設定に従って前記成形条件の自動調整を行い、
前記処理装置は、
前記調整条件の設定として、成形品の品質の保持に関わる品質項目の入力を受け付ける第1入力受け付け部と、
前記調整条件の設定として、成形品の品質を保持するための調整対象としての調整項目の入力を受け付ける第2入力受け付け部と、
を備えることを特徴とする、射出成形機。
【請求項12】
前記制御装置は、前記自動調整機能による調整内容が、前記処理装置により受け付けた前記調整条件の設定に対して予め定められた報知条件を満たす場合に、ユーザに報知する報知手段を備えることを特徴とする、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項13】
前記制御装置は、前記自動調整機能による調整内容が、前記処理装置により受け付けた前記調整条件の設定に対して予め定められた停止条件を満たす場合に、前記射出装置および前記型締装置の動作を停止させることを特徴とする、請求項11または請求項12に記載の射出成形機。
【請求項14】
前記処理装置の前記第1入力受け付け部に対する入力が行われる第1入力部および前記第2入力受け付け部に対する入力が行われる第2入力部の少なくとも一方を有する操作画面を表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする、請求項11に記載の射出成形機。
【請求項15】
コンピュータを、
成形品の品質の保持に関わる品質項目の入力を受け付ける第1入力受け付け手段と、
成形品の品質を保持するための調整対象としての調整項目の入力を受け付ける第2入力受け付け手段と、
成形条件を自動調整可能な制御装置を備える射出成形機における自動調整機能の調整条件の設定であって、前記品質項目および前記調整項目の少なくとも一方を含む設定の情報を、当該制御装置に送信する送信手段として、
機能させることを特徴とする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、射出成形機およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第一学習モデルを用いて、センサにより検出された成形時状態データと成形時状態データ目標値との差分に相当する値である成形時状態データ調整量を取得する成形時状態データ調整量取得部と、第二学習モデルを用いて、成形時状態データ調整量に対応する成形条件要素の調整量を取得する成形条件要素調整量取得部とを備え、取得した調整量に基づいて成形条件要素を調整する成形条件決定支援装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、データ処理部に、入力パラメータ及び出力パラメータに係わる成形データに対して、制約条件としての成形工程時の成形データ及び成形品質に係わる評価情報と、目的関数としてのニューラルネットワークの学習に基づく予測関数と、当該制約条件及び目的関数を満たす入力パラメータに係わる最適化した成形条件を求める最適化処理プログラムとを設定し、生産稼働時に、データ処理部により成形工程中の出力パラメータに係わる成形データを検出し、当該出力パラメータに係わる成形データに基づいて最適化処理プログラムにより最適化した成形条件を求め、求めた成形条件により既設の成形条件を変更する成形最適化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-49929号公報
【特許文献2】特開2017-119425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形条件を自動的に調整する機能を使用するには、所望の調整を行うための調整条件の設定を行うことが必要である。かかる調整条件の設定の内容は、金型や成形機の種類等に応じて多岐にわたる。そのため、ユーザによる調整条件の設定操作を受け付ける手段として、多様な状況に対応可能な利便性の高いユーザインターフェイスの実現が求められる。
【0006】
本発明は、ユーザによる操作を受け付け、多様な状況に対応して調整条件の設定を行うことができるユーザインターフェイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、成形条件を自動調整可能な射出成形機における自動調整機能の調整条件の設定操作を受け付ける情報処理装置であって、調整条件の設定として、成形品の品質の保持に関わる品質項目の入力を受け付ける第1入力受け付け部と、調整条件の設定として、成形品の品質を保持するための調整対象としての調整項目の入力を受け付ける第2入力受け付け部と、を備えることを特徴とする、情報処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ユーザによる操作を受け付け、多様な状況に対応して調整条件の設定を行うことができるユーザインターフェイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。
【
図4】制御装置およびデータ処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図5】調整条件を設定するための操作画面の構成例を示す図である。
【
図6】調整条件のデータファイルの例を示す図である。
【
図7】監視部による成形条件の調整の監視動作を示すフローチャートである。
【
図8】詳細調整情報の設定用の操作画面の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<装置構成>
図1は、本実施形態が適用される射出成形機の構成を示す図である。射出成形機10は、射出装置20と、型締装置30と、制御装置100と、データ処理装置200と、表示装置300とを備える。以下の説明では、射出装置20から型締装置30へ向かう方向を前方と呼ぶ場合がある。
【0011】
射出装置20は、成形材料を加熱するシリンダ、このシリンダ内で回転可能であると共に軸方向に進退可能に設けられているスクリュー、このスクリューを回転方向に駆動する回転モータ、このスクリューを軸方向に駆動するモータ等を備えて構成される。成形材料は、例えば、樹脂等である。射出装置20は、スクリューを回転させながら前方へ進出させることにより、シリンダ内で加熱されて液状となった成形材料を射出し、射出装置20の前方に配置された型締装置30の金型内へ充填する。射出装置20は、成形品の製造工程において、例えば、計量工程、充填工程、保圧工程などを行う。充填工程と保圧工程とをまとめて射出工程とも呼ぶ。
【0012】
型締装置30は、金型と、金型を締め付ける締め付け機構、この締め付け機構を駆動するモータ等を備えて構成される。型締装置30は、金型を閉じて射出装置20から射出された成形材料を金型内部へ受ける。このとき、型締装置30は、成形材料が充填されることによって金型が開かないように締め付け機構により金型を締め付ける(型締め)。金型に充填された成形材料が固化することにより成形品が生成される。この後、型締装置30は、金型を開いて、生成された成形品を送り出す。型締装置30は、成形品の製造工程において、例えば、型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、型開工程などを行う。
【0013】
制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する装置である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が動作するのに伴って得られるデータを処理する装置である。表示装置300は、制御装置100による射出装置20および型締装置30の制御に関する情報、データ処理装置200が取得したデータやデータ処理装置200の処理結果等を表示する。また、表示装置300は、制御装置100やデータ処理装置200に命令やデータを入力する操作を行うための操作画面を表示する。
【0014】
<制御装置100の構成>
図2は、制御装置100の構成を示す図である。制御装置100は、射出装置20および型締装置30の動作を制御する。制御装置100は、例えば、コンピュータにより実現される。制御装置100は、制御部110と、成形条件調整部120と、監視部130と、記憶部140とを備える。制御装置100は、射出装置20および型締装置30を制御して、成形品の製造に係る工程を繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。成形品の製造に係る工程には、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、突き出し工程などが含まれる。以下、これらの製造に係る工程をまとめて「製造工程」と呼ぶことがある。また、成形品を得るための一連の動作、例えば、上記の製造工程における計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」、「成形サイクル」等と呼ぶ。なお、成形品を製造する上記の各工程は例示に過ぎない。例えば、1ショットで実行される工程として、上記に含まれない、他の工程を含んでも良い。
【0015】
制御部110は、制御情報に基づいて、射出装置20および型締装置30を制御する。制御情報は、ユーザが設定する条件であり、例えば、図示しない入力装置を用いてユーザが入力する。制御情報には、例えば、樹脂温度、金型温度(シリンダ温度)、射出保圧時間、計量値、V-P切り替え位置、保圧圧力、射出速度(充填速度)、スクリュー回転数、スクリュー背圧、型締力等の成形条件が含まれる。これらの成形条件は、成形品や金型に応じて複数の組み合わせが決められる。この成形条件の組み合わせデータを、以下、成形条件データセットとも呼ぶ。制御部110は、取得した制御情報を、成形条件データセットとして記憶部140に格納する。
【0016】
制御部110は、上記の成形条件データセットを用いて射出装置20および型締装置30を制御し、上記の各工程等を含む成形品の製造(ショット)に係る工程を実施する。制御部110は、成形品の製造開始時などに、製造しようとする成形品に対応する成形条件データセットを記憶部140から読み出す。そして、制御部110は、読み出した制御情報に基づいて射出装置20および型締装置30の動作を制御する。具体的には、制御部110は、製造工程において射出装置20および型締装置30から得られるデータが、成形条件データセットの設定値と一致するように、射出装置20および型締装置30を制御する。また、制御部110は、記憶部140から読み込んだ成形条件データセットを表示装置300に表示させても良い。ユーザは、表示装置300に表示された成形条件のデータを参照し、必要に応じて値の修正等の操作を行っても良い。
【0017】
成形条件調整部120は、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御において用いられる成形条件を調整する。成形品の製造工程が繰り返されると、射出装置20および型締装置30の状態が変化し、この装置20、30の状態変化が成形品の品質に影響する。そこで、成形品を量産する際の動作(以下、「量産時の動作」と呼ぶ)において成形品の品質を維持するため、成形条件調整部120が成形条件を自動調整する。成形条件調整部120は、機械学習やその他の数理最適化手法を用い、量産時における射出装置20および型締装置30の状態変化に応じて成形条件を調整する。成形条件調整部120が用いる数理最適化手法としては、既存の種々の手法を用いることができる。成形条件調整部120は、例えば、後述するデータ処理装置200のデータ取得部210による取得データを入力し、最適化した制御情報を出力して制御部110による射出装置20および型締装置30の制御条件を調整する。
【0018】
監視部130は、成形条件調整部120による成形条件の調整内容を監視し、調整内容が予め定められた条件を満たしているか否かを判定する。具体的には、監視部130は、成形条件調整部120による成形条件の調整内容が、後述するデータ処理装置200の調整条件設定部230により設定された調整条件を逸脱するか否かを判断する。そして、調整内容が調整条件を逸脱する場合、監視部130は、制御部110に通知し、例えば、射出装置20および型締装置30の動作を停止させる。また、監視部130は、成形条件調整部120により調整された成形条件が上記の調整条件に基づいて定められる閾値を超えるか否かを判断する。そして、調整された成形条件が閾値を超える場合、監視部130は、例えば、射出成形機10のユーザに対して警報(アラート)を発する。
【0019】
記憶部140は、射出装置20および型締装置30の制御に用いられる制御情報141を保持する。制御情報141に含まれる成形条件データセットは、製造対象の成形品や金型に対応付けられて用意されている。記憶部140は、製造対象の成形品や金型ごとの成形条件データセットを保持する。また、記憶部140は、監視部130による成形条件の調整内容の監視に用いられる調整条件142を保持する。調整条件142は、データ処理装置200の調整条件設定部230により設定され、データ処理装置200から制御装置100へ送られて記憶部140に格納される。
【0020】
また、図示しないが、記憶部140は、制御部110が射出装置20および型締装置30を制御するためのプログラム、成形条件調整部120が成形条件を調整するためのプログラム、監視部130が成形条件調整部120による成形条件の調整内容を監視するためのプログラムを保持している。詳しくは後述するが、制御装置100においてプロセッサが記憶部140に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、制御部110、成形条件調整部120および監視部130の機能が実現される。
【0021】
<データ処理装置200の構成>
図3は、データ処理装置200の構成を示す図である。データ処理装置200は、射出装置20および型締装置30が上記の成形品の製造に係る工程における動作を実行するのに伴って得られるデータを取得し、処理する。また、データ処理装置200は、ユーザによる設定操作を受け付けて、制御装置100の制御部110による製造工程の成形条件に対する調整条件を設定する。データ処理装置200は、例えば、コンピュータにより実現される。データ処理装置200は、データ取得部210と、処理部220と、調整条件設定部230と、記憶部240と、表示制御部250と、受け付け部260とを備える。
【0022】
データ取得部210は、射出装置20および型締装置30から処理対象のデータを取得する。射出装置20および型締装置30には、種々のセンサや検出器が取り付けられている。また、射出成型装置には計測機器が接続されることもある。これらのセンサや検出器や計測機器により取得されるデータ(以下、「取得データ」と呼ぶ)は、射出装置20および型締装置30による成形結果を表す情報であり、成形品の品質管理に用いられる。具体的には、例えば、成形品の重量、成形品の寸法、型内圧、最小クッション位置、充填圧力の波形の特徴量などが含まれる。これらの取得データは、成形品の製造工程において得られる実績値である。データ取得部210は、センサや検出器や計測機器から送信された取得データを受信し、記憶部240に格納する。
【0023】
処理部220は、記憶部240に格納された取得データを処理する。具体的には、処理部220は、各工程における取得データの代表値の抽出、各工程における取得データを時系列化した時系列データの生成等の処理を行う。処理部220は、代表値の抽出において、取得データに対し、平均値の算出、値の取り得る範囲の特定、最大値や最小値の特定等の統計処理を行う。
【0024】
調整条件設定部230は、制御装置100における成形条件の自動調整機能に対して適用される調整条件を設定する。
図2を参照して説明したように、制御装置100は成形条件調整部120を有しており、成形条件調整部120は、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御において用いられる成形条件を調整する。調整条件設定部230は、この成形条件調整部120による成形条件の調整における調整条件を設定する。調整条件には、成形品の品質の保持に関わる情報(以下、「品質情報」と呼ぶ)と、成形品の品質を保持するための調整内容を特定する情報(以下、「調整情報」と呼ぶ)とが含まれる。品質情報は、例えば、データ取得部210により取得される取得データに対応する。調整情報は、例えば、制御装置100の制御部110が射出装置20および型締装置30を制御する際に用いる制御情報に対応する。
【0025】
調整条件設定部230は、品質情報の設定を受け付ける品質情報設定部231と、調整情報の設定を受け付ける調整情報設定部232とを有する。品質情報設定部231は、品質情報として、成形品の製造に係る成形条件のうち、成形品の品質を表す項目(以下、「品質項目」と呼ぶ)についての調整条件の設定を行う。この調整条件は、例えば、各品質項目における調整値の範囲として設定される。調整情報設定部232は、調整情報として、成形品の製造に係る成形条件のうち、成形品の品質を保つために調整が行われる項目(以下、「調整項目」と呼ぶ)についての調整条件の設定を行う。この調整条件は、例えば、各項目における制御値の範囲として設定される。これらの調整条件の設定は、後述する操作画面に対するユーザの設定操作を受け付けて、
図2を参照して説明した記憶部140に格納される調整条件142のデータファイルを作成し、データ処理装置200から制御装置100へ送ることにより行われる。操作画面および設定操作の詳細については後述する。
【0026】
記憶部240は、データ取得部210により取得された取得データや調整条件設定部230により作成された調整条件のデータファイルを保持する。調整条件のデータファイルのデータ形式としては、例えば、バイナリ、テキスト、CSV(Comma Separated Values)、INI、YAML(“YAML Ain’t Markup Language)、JSON(JavaScript Object Notation)等を用い得る。これらの汎用的なデータ形式によるデータファイルとすることで、調整条件のデータファイルを他の情報処理装置とデータ交換したり、外部装置から取得した調整条件のデータファイルを編集したりすることが可能となる。
【0027】
また、図示しないが、記憶部240は、処理部220がデータ処理を実行するためのプログラム、調整条件設定部230が調整条件のデータファイルを作成するためのプログラム、表示制御部250が表示装置300に画面を表示させるためのプログラム、受け付け部260が操作画面に対して行われたユーザの操作を受け付けるためのプログラムを保持している。詳しくは後述するが、データ処理装置200においてプロセッサが記憶部240に保持されたプログラムを読み込んで実行することにより、処理部220、調整条件設定部230、表示制御部250および受け付け部260の機能が実現される。
【0028】
表示制御部250は、調整条件設定部230が調整条件の設定を行うための操作画面を生成し、表示装置300に表示させる。詳しくは後述するが、調整条件の設定を行うための操作画面には、品質情報の入力を行う入力部と、調整情報の入力を行う入力部とが設けられる。
【0029】
受け付け部260は、表示装置300に表示された操作画面に対してユーザが行った操作を受け付ける。具体的には、例えば、操作画面の入力欄に対して行われたデータの入力や、画面の切り替え操作等を受け付ける。表示制御部250により表示装置300に表示される操作画面、受け付け部260、調整条件設定部230の品質情報設定部231は、第1入力受け付け部の一例である。表示制御部250により表示装置300に表示される操作画面、受け付け部260、調整条件設定部230の調整情報設定部232は、第2入力受け付け部の一例である。また、受け付け部260は、操作画面を介して行われた操作による入力の他、記憶媒体に記憶された調整条件のデータファイルを読み取って受け付けたり、ネットワークを介して外部装置より受信した調整条件のデータファイルを受け付けたりしても良い。
【0030】
<制御装置100およびデータ処理装置200のハードウェア構成>
図4は、制御装置100およびデータ処理装置200を実現するコンピュータ400のハードウェア構成例を示す図である。
図4に示すコンピュータは、演算手段であるプロセッサ401と、記憶手段である主記憶装置(メイン・メモリ)402および補助記憶装置403を備える。プロセッサ401としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の種々の演算回路が用い得る。プロセッサ401は、補助記憶装置403に格納されたプログラムを主記憶装置402に読み込んで実行する。主記憶装置402としては、例えば、RAM(Random Access Memory)が用いられる。補助記憶装置403としては、例えば、磁気ディスク装置やSSD(Solid State Drive)等が用いられる。また、コンピュータは、表示装置(ディスプレイ)300に表示出力を行うための表示機構404と、コンピュータのユーザによる入力操作が行われる入力デバイス405とを備える。入力デバイス405としては、例えば、キーボードやマウス等が用いられる。なお、
図4に示すコンピュータの構成は一例に過ぎず、本実施形態で用いられるコンピュータは
図4の構成例に限定されるものではない。例えば、記憶装置としてフラッシュ・メモリ等の不揮発性メモリやROM(Read Only Memory)を備える構成としても良い。
【0031】
制御装置100が
図4に示すコンピュータにより実現される場合、制御部110、成形条件調整部120および監視部130の各機能は、例えば、プロセッサ401がプログラムを読み込んで実行することにより実現される。記憶部140は、例えば、補助記憶装置403により実現される。
【0032】
データ処理装置200が
図4に示すコンピュータにより実現される場合、データ取得部210、処理部220および調整条件設定部230の各機能は、例えば、プロセッサ401がプログラムを読み込んで実行することにより実現される。記憶部240は、例えば、補助記憶装置403により実現される。表示制御部250は、例えば、プログラムを読み込んで実行するプロセッサ401および表示機構404により実現される。受け付け部260は、例えば、プログラムを読み込んで実行するプロセッサ401および入力デバイス405により実現される。
【0033】
<操作画面>
・構成例
図5は、調整条件を設定するための操作画面の構成例を示す図である。データ処理装置200の表示制御部250は、
図5に示すような操作画面310を生成して表示装置300に表示させる。ユーザは、例えば、
図4を参照して説明した入力デバイス405を用いて操作画面310に調整条件の設定情報を入力する。データ処理装置200の受け付け部260は、操作画面上で入力された設定情報を受け付ける。データ処理装置200の調整条件設定部230は、受け付け部260により受け付けた設定情報に基づいて調整条件のデータファイルを作成し、制御装置100へ送信する。
【0034】
図5に示す操作画面310には、品質情報を入力するための品質情報入力部311と、調整情報を入力するための調整情報入力部312とが設けられている。品質情報入力部311には、少なくとも一つの単品質情報入力部311aが表示される。単品質情報入力部311aは、一つの品質項目に係る品質情報を入力するための入力部であり、第1入力部の一例である。また、調整情報入力部312には、少なくとも一つの単調整情報入力部312aが表示される。単調整情報入力部312aは、一つの調整項目に係る調整情報を入力するための入力部であり、第2入力部の一例である。
【0035】
図5に示す例では、品質情報入力部311に二つの単品質情報入力部311aが表示されており、調整情報入力部312に二つの単調整情報入力部312aが表示されている。品質情報入力部311および調整情報入力部312に表示される単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aの数は、例えば、表示装置300の表示画面の大きさに応じてデータ処理装置200の表示制御部250が制御しても良い。例えば、大きい画面を有する表示装置300に操作画面310を表示する場合は、三つ以上の単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aを表示しても良いし、スマートフォン等のように小さい画面を有する表示装置300に操作画面を表示する場合は、単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aを一つずつ表示しても良い。また、操作画面310に表示される単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aの数を、ユーザの手動操作により設定可能としても良い。入力する品質情報および調整情報の項目数が操作画面310に表示されている単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aの数よりも多い場合は、画面のスクロールや切り替え表示により入力可能となるように操作画面310を構成しても良い。
【0036】
図5に示す操作画面310において、単品質情報入力部311aには、品質項目を特定する情報の入力欄と、品質項目における調整値の取り得る範囲の入力欄とが含まれる。図示の例では、品質項目を特定する情報の入力欄は、識別情報(図では、「ID」と記載)と項目名(図では、「name」と記載)とを入力するように構成されている。ここで、識別情報と項目名とは、どちらも品質項目を特定する情報であるので、ユーザが何れか一方を入力すると他方が自動入力されるようにしても良い。また、ユーザにより入力された識別情報および項目名の各々により特定される品質項目が一致する場合に入力が有効となるようにしても良い。この場合、一致しない場合は警告メッセージ等を出力する構成としても良い。また、入力操作は、図示のような入力欄に文字入力を行う方法の他、ドロップダウンや別画面(ポップアウト)のリストから選択することで入力する方法を用いても良い。
【0037】
品質項目における調整値の取り得る範囲の入力欄は、目標値(図では、「target」と記載)と許容範囲の値(図では、「delta」と記載)とを入力するように構成されている。ここで、許容範囲の値は、目標値に対して許容されるずれ量で示される。例えば、ある品質項目について、目標値の入力が6mm、許容範囲の値の入力が1mmである場合、5mm~7mm(=6mm±1mm)が、この品質項目における調整値の取り得る範囲となる。
【0038】
また、
図5に示す操作画面310において、単調整情報入力部312aには、調整項目を特定する情報の入力欄と、調整項目における制御値の取り得る範囲の入力欄とが含まれる。図示の例では、調整項目を特定する情報の入力欄は、識別情報(図では、「ID」と記載)と項目名(図では、「name」と記載)とを入力するように構成されている。調整項目における制御値の取り得る範囲の入力欄は、最小値(図では、「minimum」と記載)と最大値(図では、「maximum」と記載)とを入力するように構成されている。
【0039】
以下の説明において、単品質情報入力部311aにおいて品質項目を特定する情報の入力欄に識別情報および項目名を入力することを、「品質項目を設定する」または「項目を設定する」ということがある。そして、単品質情報入力部311aにおいて品質項目における調整値の取り得る範囲の入力欄に目標値および許容範囲の値を入力することを、「調整値を設定する」ということがある。また、単調整情報入力部312aにおいて調整項目を特定する情報の入力欄に識別情報および項目名を入力することを、「調整項目を設定する」または「項目を設定する」ということがある。そして、単調整情報入力部312aにおいて調整項目における制御値の取り得る範囲の入力欄に最小値および最大値を入力することを、「制御値を設定する」ということがある。
【0040】
ユーザは、表示装置300に表示された操作画面310において、単品質情報入力部311aに、調整条件を設定しようとする品質項目を特定する情報として識別情報および項目名を入力し、特定した品質項目の目標値および許容範囲を入力する。また、単調整情報入力部312aに、調整条件を設定しようとする調整項目の識別情報、項目名、最小値および最大値を入力する。データ処理装置200において、受け付け部260は、操作画面310上で入力されたデータを受け付け、調整条件設定部230は、受け付け部260が受け付けたデータを用いて調整条件のデータファイルを作成する。
【0041】
図5に示す操作画面310において、各単品質情報入力部311aおよび各単調整情報入力部312aには、それぞれ二つのチェックボックスが設けられている。単品質情報入力部311aに設けられた「Enable」と記されたチェックボックス311bは、単品質情報入力部311aに入力された品質情報を有効にするか否かを設定するチェックボックスである。単調整情報入力部312aに設けられた「Enable」と記されたチェックボックス312bは、単調整情報入力部312aに入力された調整情報を有効にするか否かを設定するチェックボックスである。チェックボックス311b、312bは、有効設定部の一例である。
【0042】
単品質情報入力部311aに入力された品質情報を有効にするとは、入力された品質情報に基づいて制御装置100の成形条件調整部120による成形条件の調整を行うことを意味する。より詳細には、成形条件調整部120によって行われる成形条件の調整が、単品質情報入力部311aに入力された品質情報により設定される調整値の取り得る範囲を超えないように、監視部130により制御されることを意味する。チェックボックス311bがチェックされている場合、その単品質情報入力部311aに入力された品質情報が有効となり、制御装置100において、この品質情報を調整条件とする成形条件の調整が行われる。一方、チェックボックス311bがチェックされていない場合、その単品質情報入力部311aに入力された品質情報は無効となり、制御装置100において、この品質情報を調整条件とする成形条件の調整は行われない。
【0043】
同様に、単調整情報入力部312aに入力された調整情報を有効にするとは、入力された調整情報に基づいて制御装置100の成形条件調整部120による成形条件の調整を行うことを意味する。より詳細には、成形条件調整部120によって行われる成形条件の調整が、単調整情報入力部312aに入力された調整情報により設定される制御値の取り得る範囲を超えないように、監視部130により制御されることを意味する。チェックボックス312bがチェックされている場合、その単調整情報入力部312aに入力された調整情報が有効となり、制御装置100において、この調整情報を調整条件とする成形条件の調整が行われる。一方、チェックボックス312bがチェックされていない場合、その単調整情報入力部312aに入力された調整情報は無効となり、制御装置100において、この調整情報を調整条件とする成形条件の調整は行われない。
【0044】
単品質情報入力部311aに設けられた「Lock」と記されたチェックボックス311cは、単品質情報入力部311aに入力された品質情報の変更を可能とするか否かを設定するチェックボックスである。単調整情報入力部312aに設けられた「Lock」と記されたチェックボックス312cは、単調整情報入力部312aに入力された調整情報の変更を可能とするか否かを設定するチェックボックスである。チェックボックス311c、312cは、入力固定部の一例である。
【0045】
チェックボックス311cがチェックされている場合、ユーザは、その単品質情報入力部311aに対して再入力の操作を行い、入力されている品質情報を変更することができない。一方、チェックボックス311cがチェックされていない場合、ユーザは、その単品質情報入力部311aに対して再入力の操作を行って、入力されている品質情報を変更することができる。同様に、チェックボックス312cがチェックされている場合、ユーザは、その単調整情報入力部312aに対して再入力の操作を行い、入力されている調整情報を変更することができない。一方、チェックボックス312cがチェックされていない場合、ユーザは、その単調整情報入力部312aに対して再入力の操作を行って、入力されている調整情報を変更することができる。
【0046】
・推奨調整項目および推奨制御値の表示
ところで、単品質情報入力部311aにおいて設定される項目と、単調整情報入力部312aにおいて設定される項目とが関連する場合がある。このため、品質項目が設定されると、設定すべき調整項目(以下、「推奨調整項目」と呼ぶ)が一般的な知見から決まることも多い。そこで、単品質情報入力部311aにおいて品質項目が設定された場合に、設定された品質項目に応じて特定される推奨調整項目を、単調整情報入力部312aの調整項目を特定する情報の入力欄に表示しても良い。
【0047】
例えば、成形品の品質に関する情報の一つである最小クッション位置は、制御装置100の制御部110が射出装置20および型締装置30の制御に用いる制御情報である保圧圧力の影響を受ける。そこで、単品質情報入力部311aの品質項目として最小クッション位置が入力された場合、調整情報入力部312の一つの単調整情報入力部312aに、推奨調整項目として保圧圧力を表示する。
【0048】
また、成形品の品質に関する情報である金型内圧力ピーク値は、制御情報である保圧圧力およびV-P切り替え位置の影響を受ける。そこで、単品質情報入力部311aの品質項目として金型内圧力ピーク値が入力された場合、調整情報入力部312の一つの単調整情報入力部312aに、推奨調整項目として保圧圧力を表示し、他の一つの単調整情報入力部312aに、推奨調整項目としてV-P切り替え位置を表示する。
【0049】
また、成形品の品質に関する情報であるノズル部圧力ピーク値は、制御情報である射出速度およびV-P切り替え位置の影響を受ける。そこで、単品質情報入力部311aの品質項目としてノズル部圧力ピーク値が入力された場合、調整情報入力部312の一つの単調整情報入力部312aに、推奨調整項目として射出速度を表示し、他の一つの単調整情報入力部312aに、推奨調整項目としてV-P切り替え位置を表示する。
【0050】
上記のように関連する品質項目と調整項目との間では、品質項目の調整値が設定されると、関連する調整項目の制御値の範囲が概ね特定される場合がある(以下、この制御値の範囲を「推奨制御値」と呼ぶ)。推奨制御値は、これまでの成形実績、もしくは、射出成形機メーカーまたはエンドユーザ等が予め用意した情報に基づいて特定することができる。成形実績や情報は、データ処理装置200の記憶部240に格納しておいても良いし、ネットワークを介して外部装置より受信して取得しても良い。調整値の設定に応じて推奨制御値が特定されるならば、単品質情報入力部311aにおいて品質項目の調整値が設定された場合に、推奨調整項目が表示された単調整情報入力部312aにおいて、設定された調整値に応じて特定される推奨制御値を、単調整情報入力部312aの制御値の取り得る範囲の入力欄に表示しても良い。推奨制御値は、参考値の一例である。
【0051】
以上説明した品質項目と推奨調整項目との関係および品質項目において設定される調整値と推奨制御値との関係の情報は、例えば、データ処理装置200の記憶部240に保持される。表示制御部250は、操作画面310において品質項目やその調整値が設定された場合に、記憶部240を検索する。そして、設定された品質項目および調整値に対応する推奨調整項目や推奨制御値の情報がある場合、表示制御部250は、該当する情報を取得して操作画面310の単調整情報入力部312aに表示する。推奨制御値の情報は、予め用意して記憶部240に格納しておいても良いし、データ処理装置200のデータ取得部210により取得された取得データに基づき処理部220の処理により生成して記憶部240に格納しても良い。
【0052】
なお、調整値と推奨制御値との関係に関しては、入力され得る全ての調整値に応じた推奨制御値を特定して記憶部240に保持しておくことは現実的ではない。そこで、いくつかの具体的な調整値に関して、調整値と推奨制御値との関係の情報を記憶部240に保持しておき、入力された調整値Aと、記憶部240に保持されている情報における一つの調整値Bとの差分が予め定められた範囲内である場合に、表示制御部250は、この調整値Bに関する記憶部240に保持されている情報を入力された調整値Aに対応する推奨制御値の情報として適用し、得られた推奨制御値を操作画面310の単調整情報入力部312aに表示しても良い。さらに、表示制御部250は、この調整値Aと調整値Bとの差分に応じて、予め定められた計算式に基づいて入力された調整値Aに対する推奨制御値を算出し、操作画面310の単調整情報入力部312aに表示しても良い。
【0053】
さらに、推奨制御値を算出するにあたって幅を持たせる設定をしても良い。例えば、記憶部240に保持されている推奨制御値と調整値の組み合わせ(推奨制御値,調整値)として、(1,10)、(3,30)、(5,50)…という組があり、それらに相関関係があることが分かっている場合を考える。そして、推奨制御値の算出に用いられる成形実績などのデータが少なく裏付けが確かでないときは、例えば±50%程度に広めの幅を持たせた推奨制御値を表示し、データが潤沢にあり確かな裏付けがあるときは、例えば±0~10%程度の幅を持たせた推奨制御値を表示するといった操作を行うものとする。例えば具体的な値として、調整値の範囲を20~30としたときに、成形実績などのデータの裏付けが確かであれば、推奨制御値として2(「2」から「2」の0%を差し引いた値)~3(「3」に「3」の0%を加算した値)の値が単調整情報入力部312aに表示され、データの裏付けが不確かであれば、推奨制御値として1(「2」から「2」の50%を差し引いた値)~4.5(「3」に「3」の50%を加算した値)の値が単調整情報入力部312aに表示されるようにしても良い。
【0054】
また、設定された調整値が、記憶部240に保持されている推奨制御値と調整値の組における調整値に近い値である場合には推奨制御値の幅を小さくし、調整値から遠い値である場合には推奨制御値の幅を大きくしても良い。具体的な値として、記憶部240に保持されている推奨制御値と調整値の組が(1,10)、(3,30)、(5,50)…であり、調整値が10、30、50…のように20刻みである場合を考える。ここで、設定された調整値の範囲が10~30であれば、この範囲の最小値10および最大値30が記憶部240に保持されているので、推奨制御値も高い確度で1~3となる。したがって、推奨制御値の幅を0%として、1~3の値が単調整情報入力部312aに表示される。一方、設定された調整値の範囲が15~20であれば、この範囲の最小値15および最大値20は、記憶部240に保持されている調整値10と30の間であって、上記の範囲10~30の場合と比較して記憶部240に保持されている調整値から遠い値である。そこで、例えば推奨制御値の幅を1.2(「1.5」から「1.5」の20%を差し引いた値)~2.4(「2.0」に「2.0」の20%を加算した値)の値が単調整情報入力部312aに表示されるようにしても良い。
【0055】
図5に示した操作画面310では、品質情報における調整値の取り得る範囲を、目標値と許容範囲の値とで設定する構成とした。また、調整情報における制御値の取り得る範囲を、最小値および最大値で設定する構成とした。これらの入力欄の構成は、一例に過ぎず、図示の構成には限定されない。品質情報における調整値の取り得る範囲として最小値および最大値で設定する入力欄を用いても良いし、調整情報における制御値の取り得る範囲として目標値および許容範囲の値を設定する入力欄を用いても良い。また、単品質情報入力部311aおよび単調整情報入力部312aにおける入力欄の構成を、ユーザの選択により切り替え可能としても良い。
【0056】
<調整条件のデータファイルの構成例>
上記のようにして操作画面310を用いて入力された調整条件(品質情報および調整情報)は、データ処理装置200の受け付け部260により受け付けられ、調整条件設定部230により調整条件のデータファイルが作成される。
【0057】
図6は、調整条件のデータファイルの例を示す図である。
図6には、YAMLファイルとして作成された調整条件のデータファイル500の例が示されている。
図6に示すデータファイル500には、「Targets:」と記載された品質情報510の記述部分と、「Controls:」と記載された調整情報520の記述部分とが含まれる。品質情報510は、調整条件設定部230の品質情報設定部231により作成される。調整情報520は、調整条件設定部230の調整情報設定部232により作成される。
【0058】
品質情報510には、品質項目ごとの品質情報記録部511が記載される。個々の品質情報記録部511は、
図5に示した操作画面310の単品質情報入力部311aに対応する。
図6に示す例では、「QUALITY1:」および「QUALITY2:」と記載された二つの品質情報記録部511が記載されている。品質情報記録部511において、「QUALITY1:」および「QUALITY2:」は、品質項目を特定する品質項目特定部511aである。図示はしていないが、「QUALITY1:」および「QUALITY2:」の記載は、操作画面310で入力された品質項目の識別情報および項目名に紐づけられている。
【0059】
品質情報記録部511において、「enable:」と記載された部分は、有効設定情報511bである。有効設定情報511bには、操作画面310のチェックボックス311bのチェックに応じて、単品質情報入力部311aに入力された品質情報を有効にするか否かの設定情報が記録される。図示の例では、「QUALITY1:」の品質情報は有効(図では、「True」と記載)に設定され、「QUALITY2:」の品質情報は無効(図では、「False」と記載)に設定されている。
【0060】
品質情報記録部511において、「target」および「delta」と記載された部分、「minimum」および「maximum」と記載された部分は、調整値情報511cである。調整値情報511cには、操作画面310における調整値の取り得る範囲の入力欄に入力された情報が記録される。図示の例では、「QUALITY1:」の品質情報記録部511において、「target」に目標値「6」、「delta」に許容範囲の値「1」が設定されている。また、「QUALITY2:」の品質情報記録部511において、「minimum」に最小値「30」、「maximum」に最大値「25」が設定されている。
【0061】
調整情報520には、調整項目ごとの調整情報記録部521が記載される。個々の調整情報記録部521は、
図5に示した操作画面310の単調整情報入力部312aに対応する。
図6に示す例では、「PARAM1:」と記載された一つの調整情報記録部521が記載されている。調整情報記録部521において、「PARAM1:」は、調整項目を特定する調整項目特定部521aである。図示はしていないが、「PARAM1:」の記載は、操作画面310で入力された調整項目の識別情報および項目名に紐づけられている。
【0062】
調整情報記録部521において、「enable:」と記載された部分は、有効設定情報521bである。有効設定情報521bには、操作画面310のチェックボックス312bのチェックに応じて、単調整情報入力部312aに入力された調整情報を有効にするか否かの設定情報が記録される。図示の例では、「PARAM1:」の調整情報は有効(図では、「True」と記載)に設定されている。
【0063】
調整情報記録部521において、「minimum」および「maximum」と記載された部分は、調整値情報521cである。調整値情報521cには、操作画面310における調整値の取り得る範囲の入力欄に入力された情報が記録される。図示の例では、「PARAM1:」の調整情報記録部521において、「minimum」に最小値「30」、「maximum」に最大値「40」が設定されている。
【0064】
<成形条件の調整の監視>
次に、制御装置100の監視部130による成形条件の調整の監視動作について説明する。射出成形機10による成形品の量産時の製造工程において、制御装置100の制御部110による制御で用いられる成形条件は、必要に応じて成形条件調整部120により調整される。そして、監視部130は、成形条件調整部120による成形条件の調整の内容を監視する。
【0065】
図7は、監視部130による成形条件の調整の監視動作を示すフローチャートである。監視部130は、成形条件調整部120により調整内容としての成形条件が算出されると(S701)、算出された成形条件に該当する調整条件142を、記憶部140から読み出す(S702)。そして、監視部130は、読み出した調整条件142とS701で成形条件調整部120により算出された成形条件とを比較し(S703)、算出された成形条件が報知条件および停止条件を満足するか否かを判断する(S704、S705)。
【0066】
ここで、報知条件は、例えば、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲に対して設定された閾値に基づいて設定し得る。監視部130は、S701で算出された成形条件が閾値を超える場合に、報知条件を満たすと判断する。具体的には、例えば、調整条件142が
図6に示した「QUALITY1:」の品質情報記録部511に示す品質情報であり、許容範囲の値「1」に対して閾値を「0.8」に設定したものとする。この場合、S701で算出された成形条件が、「QUALITY1:」の品質情報に対応する成形条件を6.8(=6+0.8)よりも大きい値または5.2(=6-0.8)よりも小さい値に調整するものである場合、監視部130は、
図7のS704において、この成形条件は報知条件を満足すると判断する。
【0067】
また、調整条件142が
図6に示した「PARAM1:」の調整情報記録部521に示す調整情報であり、最小値「30」に対して閾値を「32」、最大値「40」に対して閾値を「38」に設定したものとする。この場合、S701で算出された成形条件が、「PARAM1:」の調整情報に対応する成形条件を32よりも小さい値または38よりも大きい値に調整するものである場合、監視部130は、
図7のS704において、この成形条件は報知条件を満足すると判断する。
【0068】
さらに、停止条件は、例えば、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲に基づいて設定し得る。監視部130は、成形条件調整部120により算出された成形条件(S701参照)による調整を行うと、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲内で調整ができないと判断した場合に、停止条件を満たすと判断する。また、監視部130は、S701で算出された成形条件に基づく調整では調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲内で調整ができない場合であっても、停止条件を満たすと判断しない場合があっても良い。例えば、調整対象となる成形条件の種類によっては、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲を超えて成形条件の調整が行われても直ちに問題が発生しない場合がある。このような場合、監視部130は、直ちに停止条件を満たすと判断せず、成形条件調整部120による調整が1または複数回行われ、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲内に収まるのを待っても良い。さらにこの場合、監視部130は、成形条件調整部120による調整が予め定められた回数行われてもS701で算出された成形条件が調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲内に収まらない場合に、停止条件を満たすと判断しても良い。
【0069】
図7のフローチャートに戻り、S701で成形条件調整部120により算出された成形条件が報知条件を満足しない場合(S704でNO)、算出された成形条件は調整条件である調整値または制御値の取り得る範囲内である。したがって、成形条件調整部120において、S701で算出された成形条件が制御部110に適用され(S708)、制御部110は、この成形条件に基づいて制御部110による射出装置20および型締装置30の制御を実施する。
【0070】
S701で成形条件調整部120により算出された成形条件が報知条件を満足し(S704でYES)、停止条件を満足しない場合(S705でNO)、算出された成形条件は、調整条件である調整値または制御値の取り得る範囲内であるが、この範囲の境界に近い値である。したがって、監視部130は、成形条件が調整値または制御値の取り得る範囲の境界に近いことをユーザに報知する(S706)。
【0071】
また、S701で成形条件調整部120により算出された成形条件が停止条件を満足する場合(S704、S705でYES)、算出された成形条件は調整条件である調整値または制御値の取り得る範囲を超えている。したがって、算出された成形条件(S701参照)による調整を行うと、調整条件142における調整値または制御値の取り得る範囲内で調整ができない。そこで、監視部130は、制御部110に、射出装置20および型締装置30の動作を停止させる(S707)。
【0072】
制御装置100の成形条件調整部120において用いられる機械学習やその他の数理最適化手法のモデルによっては、成形条件の調整を過剰に行うことによって、成形品の品質を低下させてしまうことが起こり得る。上記のように、データ処理装置200の調整条件設定部230により設定された調整条件を用い、この調整条件に基づいて監視部130が制御することにより、成形条件調整部120による成形条件の調整が過剰に行われることを抑制し得る。
【0073】
この他、データ処理装置200の調整条件設定部230により設定された調整条件を用いて、制御装置100の成形条件調整部120による成形条件の調整や、制御部110による射出装置20および型締装置30の動作の制御に対する制御を行うことができる。例えば、成形条件調整部120による成形条件の調整において、1回の調整で変化させることができる成形条件の調整幅を、調整条件設定部230により設定された調整条件に基づいて制限しても良い。具体的には、1回の調整幅を、調整条件で設定された許容範囲の1/n倍等のように制限することができる。
【0074】
また、成形条件調整部120として機械学習を用いる場合、入出力のスケールを揃えるためのデータの前処理において、調整条件設定部230により設定された調整条件を用い得る。例えば、調整条件設定部230の品質情報設定部231によりi番目の品質項目に対する調整値の取り得る範囲として、下限値がli、上限値がmiと設定されているものとする。最適化を行う際の目的関数となる機械学習モデルで取り扱うデータとして、下記の数1式のような変換を施した値を用いる。
【0075】
【数1】
上記の数1式において、y
iは、着目している成形品の品質に関する情報の現在の値(以下、「成形品質値」と呼ぶ)である。
【0076】
成形条件に対しても、調整情報設定部232により品質項目(単調整情報設定部232a)に対する調整値の取りうる範囲の下限値および上限値の情報を用いて同様の処理を行う。機械学習モデルの多くでは、取り扱う入出力のスケールをそろえる前処理が必要である。この前処理として、上記に例示した処理を施すと、取り扱う入出力のスケールが凡そ±1の範囲に収まるように変換することができる。
【0077】
また、最適化を行う際の目的関数としての成形条件の組を選択するために、調整条件設定部230により設定された調整条件を用い得る。例えば、調整条件設定部230の品質情報設定部231によりN種類の品質情報が設定され、そのi番目の品質項目に対する調整値の取り得る範囲として、下限値がli、上限値がmiと設定されているものとする。最適化を行う際の目的関数として、下記の数2式のLを最小とするような調整情報の組xを選択する。
【0078】
【数2】
このようにして成形条件の組を選択することにより、各品質項目に対して調整を行う際の優先度の設定を行うことができる。
【0079】
<操作画面310の他の表示例>
データ処理装置200の調整条件設定部230において、品質情報および調整情報に関して調整条件の設定を行うことについて説明したが、制御部110による射出装置20および型締装置30の制御に関するさらに詳細な調整条件(以下、この調整条件を「詳細調整条件」と呼ぶ)の設定を行っても良い。設定対象としては、例えば、成形条件調整部120による調整手法自体を変化させる条件等がある。具体的には、成形条件調整部120が制御条件の調整を行うために用いるアルゴリズムの選択、データ処理装置200のデータ取得部210によって得られた取得データを制御装置100の成形条件調整部120にフィードバックする際のフィードバックゲイン、成形条件調整部120による制御条件の調整の最適化終了条件等が挙げられる。
【0080】
詳細調整条件の設定は、制御部110による制御に対する影響が大きいため、品質情報および調整情報の設定と区別可能な設定方法により行われる。具体的には、例えば、操作画面310(
図5参照)において、品質情報および調整情報と詳細調整情報とを異なる背景色で表示する等のように表示態様を異ならせて視覚的に区別可能としても良い。また、品質情報および調整情報を設定するための操作画面310とは別の操作画面を用いて詳細調整情報を設定するようにしても良い。詳細調整情報を設定するために操作画面310とは別の操作画面を用いる場合、詳細調整情報の設定用の操作画面の表示条件としてユーザ認証を設ける等の手段により、一般ユーザの操作によっては詳細調整情報の設定用の操作画面を表示しないようにデータ処理装置200の表示制御部250による制御を行っても良い。
【0081】
図8は、詳細調整情報の設定用の操作画面の構成例を示す図である。データ処理装置200の表示制御部250は、詳細調整情報の入力を受け付ける場合、
図8に示すような操作画面320を生成して表示装置300に表示させる。
図8に示す操作画面320は、入力項目として、「アルゴリズム」、「ゲイン」、「学習率」、「反復上限回数」が設けられている。「アルゴリズム」は、成形条件調整部120が制御条件の調整を行うために用いるアルゴリズムを選択するための項目であり、図示の例では、ラジオボタンで「I制御」(積分制御)と機械学習の2種類のアルゴリズムを選択できるように構成されている。「ゲイン」は、制御装置100の成形条件調整部120に用いられる機械学習においてデータ処理装置200の取得データをフィードバックする際のフィードバックゲインを設定する項目である。「学習率」は、制御装置100の成形条件調整部120に用いられる機械学習における学習率を設定する項目である。「反復上限回数」は、制御装置100の成形条件調整部120に用いられる機械学習の学習において学習データを反復する回数の上限を設定する項目である。なお、
図8に示す操作画面320は、詳細調整情報を設定するための操作画面の一例に過ぎず、詳細調整情報の設定手段は、
図8に示す操作画面320には限定されない。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。例えば、上記の実施形態では、操作画面310に品質情報入力部311および調整情報入力部312を設ける構成としたが、これに加え、製造対象の成形品に対応する金型の金型名、現在の成形条件やロギング値など、ユーザが調整情報入力部312に入力する調整項目を決定する際の参考となる情報を操作画面310に表示しても良い。
【0083】
また、上記の実施形態では、射出成形機10が制御装置100、データ処理装置200および表示装置300を備える構成として説明したが、かかる構成には限定されない。例えば、表示装置300としてデータ処理装置200に接続された外部装置のディスプレイを用い、このディスプレイに操作画面310、320を表示する構成としても良い。また、データ処理装置200の表示制御部250の機能と表示装置300の機能をパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等の情報処理装置で実現し、この情報処理装置がデータ処理装置200から取得データ等のデータを取得して操作画面310、320を表示する構成としても良い。この場合、操作画面310、320をウェブコンテンツとして作成し、情報処理装置においてウェブブラウザを介して表示する構成としても良い。
【0084】
さらに、データ処理装置200および表示装置300をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置で実現し、射出装置20および型締装置30から実績値、情報処理装置のディスプレイに操作画面310、320を表示して受け付けた調整条件等の情報を制御装置100に送信する構成としても良い。同様に、制御装置100をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置で実現し、データ処理装置200から取得データや調整条件等の情報を受信して射出装置20および型締装置30を制御する構成としても良い。
【0085】
さらに、制御装置100の成形条件調整部120および監視部130の機能をパーソナルコンピュータ等の情報処理装置で実現し、データ処理装置200から取得データや調整条件等の情報を取得して、制御装置100の制御部110による制御に用いられる成形条件を調整し、この成形条件の調整がデータ処理装置200で設定された調整条件を超えないように監視する構成としても良い。その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
10…射出成形機、20…射出装置、30…型締装置、100…制御装置、110…制御部、120…成形条件調整部、130…監視部、140…記憶部、141…制御情報、142…調整条件、200…データ処理装置、210…データ取得部、220…処理部、230…調整条件設定部、231…品質情報設定部、232…調整情報設定部、240…記憶部、250…表示制御部、260…受け付け部、300…表示装置、310、320…操作画面、311…品質情報入力部、311a…単品質情報入力部、312…調整情報入力部、312a…単調整情報入力部、500…データファイル、510…品質情報、511…品質情報記録部、511a…品質項目特定部、511b…有効設定情報、511c…調整値情報、520…調整情報、521…調整情報記録部、521a…調整項目特定部、521b…有効設定情報、521c…調整値情報