(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000636
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】高浸透含浸材
(51)【国際特許分類】
C09D 1/04 20060101AFI20231226BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231226BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20231226BHJP
【FI】
C09D1/04
C09D7/63
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099435
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】506064083
【氏名又は名称】株式会社ディ・アンド・ディ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 善秋
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038HA441
4J038HA551
4J038JA03
4J038JA17
4J038JC30
4J038KA09
4J038KA10
4J038NA03
4J038NA08
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】深く含浸することで高い耐凍結融解性をもち、さらに上塗り塗装を実施できるようにして基材の保護性能を向上させ、作業性に優れた含浸材を得る。
【解決手段】アルキルアルコキシシラン化合物に、有機ベントナイト、非イオン性高分子界面活性剤、有機系揺変剤を組み合わせて用いて含浸材を作成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分を有し、全体を100重量部とし(B)から(G)成分を重量比で下記の範囲で含み得る初期粘度が50mPa・s以上800mPa・s以下の含浸材。
・(B)成分:(B)成分/(A)成分=0/100~10/90
・(C)成分:0.1重量部以上7重量部以下
・(D)成分:0.1重量部以上5重量部以下
・(E)成分:(E)成分/(C)成分=0.1/99.9~20/80
・(F)成分:0重量部以上2重量部以下
・(G)成分:(D)成分100重量部に対して10~200重量部、かつ前記含浸材100重量部中に0.1~5重量部
・(C)成分+(D)成分+(F)成分:8重量部以下、かつ(C)成分+(D)成分:7重量部以下
ここで、各成分とは以下のとおりである。
(A)成分とは、式(1)で示されるアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる1種類の化合物又は複数種の化合物の混合物。
R1
nSi(OR2)4-n (1)
(上記式(1)中、R1は炭素数1~10の炭化水素基を示す。R2は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R1とR2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。)
(B)成分とは、式(2)で示されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種類の化合物又は複数種の化合物の混合物。
R3
nSi(OR4)4-n (2)
(上記式(2)中、R3は炭素数1~10の芳香族基を含んでも良い炭化水素基を示す。R4は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R3とR4とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。)
(C)成分とは、粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトを、四級アンモニウム塩で表面処理した変性粘土の有機ベントナイトである。
(D)成分とは、無溶剤型の有機系揺変剤である。
(E)成分とは、非イオン性高分子界面活性剤である。
(F)成分とは、二酸化ケイ素粉である。
(G)成分とは、極性を有する有機溶媒である。
【請求項2】
上記(C)成分である有機ベントナイトの増粘に、上記(E)成分である非イオン性高分子界面活性剤を用いた請求項1に記載の含浸材。
【請求項3】
上記(F)成分である二酸化ケイ素粉を含有することで上塗り塗装性を発揮させた、請求項1又は2に記載の含浸材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性材料に塗布してその材料への水、空気、ガス、蒸気の透過を抑制又は防止する含浸材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル、セメント板、漆喰、煉瓦などといった多孔性材料は、屋外などで使用される場合、様々な外的要因を受け劣化することがある。例えば、寒冷地で見られる、細孔から浸入した水が内部で凍結膨張してひび割れを起こす凍結融解がある。また、コンクリートやモルタルなどのセメントを用いた材料に、空気中の二酸化炭素が反応して起こる中性化がある。さらに、海が近い地域においては飛来した海水塩分が水に溶解して多孔性材料内に浸入したり、排気ガスが多い環境では排気ガスに含まれる硫黄系ガスが水分と結びついて亜硫酸や硫酸を生じたりして、これらがコンクリート内部に浸透することにより材料内部の鉄筋を錆びさせてしまうことがある。その他、これらの多孔性材料をそのまま曝露環境に置いておくことによるデメリットは多々あるので、これらの有害成分が材料内部に浸入することを防ぐ塗布剤、含浸材が検討されている。
【0003】
その方法として、従来は、様々な有機樹脂を主体とした塗料を用いて多層・厚膜塗装する方法(1)や、ケイ酸アルカリ金属塩、コロイダルシリカ、アルキルアルコキシシランを含浸材とする方法(2)、さらに、前記方法(2)で含浸材を処理した後に前記方法(1)の塗装を行う複合方法などが行われている。
【0004】
しかし、前記(1)の方法では、材料との付着性が悪い傾向の材料が多く、施工後にはがれやすいといった問題がある。この問題を解決するために、プライマー剤を塗布する工法もあるが、多層塗りとなるため施工時間の長期化、施工コストの上昇が課題となる。また、有機樹脂は一般的に耐候性に劣るため、屋外では風雨や太陽光からの紫外線の影響を受けて、経時的に塗膜が劣化して外観不良をきたす。さらに、着色塗料でもクリア塗料の場合でも無塗装とは見た目が変化するため、材料そのものの外観を生かしたい場合には不適である。
【0005】
また、前記(2)の方法を用いた場合、ケイ酸アルカリ金属塩やコロイダルシリカは溶媒として大量の水を含んでおり、多孔性材料への浸透性は良くとも、溶媒蒸発後に材料中の細孔空隙に残る含浸材成分は少なく、細孔が塞ぎ切れていないことから、外部からの水やガスの浸入を防ぐことはできない。
【0006】
さらに、前記(2)の方法のうち、アルキルアルコキシシランを用いた含浸材の場合、多孔性材料への浸透性が良く、材料表面および細孔表面にアルキルアルコキシシランが吸着し分子膜を形成するため、良好な撥水性を発現し、透水を抑制する。この透水抑制効果に関しては、非特許文献1にも詳細に記載されている。
【0007】
このアルキルアルコキシシランを用いた含浸材は、多孔性材料への浸透性が良いためコンクリート等の多孔性材料に数mm単位の深さまで浸透することができる。浸透した範囲が撥水性を持ち、透水抑制効果を持つため、非特許文献2に記載されているように、耐凍結融解性や塩素イオン浸入抑制に有効であるとされている。
【0008】
アルキルアルコキシシランを用いた含浸材としては、特許文献1のように、直鎖アルキル基を持つアルキルアルコキシシランを、有機ベントナイトで増粘して使用する方法がある。有機ベントナイトは、極めて薄い層状の粘土鉱物を四級アンモニウム塩で表面処理したもので、極性溶媒と合わせて分散することで増粘効果を発揮する。含浸材を増粘させることで、垂直面への付着量を確保することができ、さらに有機ベントナイトが含まれることで、アルキルアルコキシシランがコンクリートに深く含浸するとしている。
【0009】
また、特許文献2には、増粘剤として、有機ベントナイトに代えて有機系揺変剤を用いている例が記載されている。有機系揺変剤とは、有機樹脂からなる、液体の粘度を高くする増粘剤のことで、水素添加ひまし油系、アマイド系、酸化ポリエチレン系、植物油重合油系や界面活性剤系等が挙げられる。これらの多くは、極性溶媒中で膨潤して増粘効果を発揮し、垂直面への付着量を確保することができる。
【0010】
そして、特許文献3には、低粘度で、コンクリートに深く含浸することができる含浸材の例が記載されている。
【0011】
これら特許文献1~3に記載のアルキルアルコキシシランを使用した含浸材は、コンクリートに塗布し、液状成分が含浸し切ると、元のコンクリートと大差ない、濡れ色のない外観に仕上がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-291225号公報
【特許文献2】特開2012-241100号公報
【特許文献3】特開2019-214863号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】コンクリートライブラリー119号表面保護工法・設計施工指針(案),コンクリート委員会 表面保護公報研究小委員会,公益社団法人土木学会刊,2005年4月発行
【非特許文献2】平成30年度北海道開発局道路設計要領,国土交通省北海道開発局
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、非特許文献2では、含浸材を用いてコンクリートの耐凍結融解性を向上させるには、含浸深さが6mm以上あることが好ましいとされている。実際に、北海道のような寒冷地で使用されるコンクリート構造物向けの含浸材には、含浸深さ6mm以上という規定があり、こちらも非特許文献2中に記載がある。
【0015】
多孔性材料への含浸深さは、含浸材の塗布量に影響されるところが大きい。すなわち、含浸材の塗布量を多くすると、含浸深さは深くなる傾向になる。そのため、所定の含浸深さを達成するためには、相当量の含浸材を塗布することが必要になってくる。
【0016】
具体的には、特許文献1の有機ベントナイトにより増粘した含浸材は、塗布量400g/m2で含浸深さ11mmから13mmであり、特許文献2の有機系揺変剤で増粘した含浸材は、300g/m2の塗布量で、7mmから7.5mmの含浸深さであると記載されている。
【0017】
特許文献1と特許文献2では、1回の塗布で、最大500g/m2の塗布量が達成できる含浸材の例が記されている。これだけの塗布量を1回の塗布で確保するには、塗材である含浸材の粘度が高い必要がある。
【0018】
この塗布量を達成するために、特許文献1では有機ベントナイトを6重量部から7重量部配合して、B型粘度計での測定粘度を1000mPa・s以上にしていることが記載されている。しかし、これだけの配合量となると、含浸材中の液状成分がコンクリートに含浸した後に、多くの有機ベントナイトを含む充填剤が残渣としてコンクリート表面に残ることになる。
【0019】
例えば、有機ベントナイトを含む充填剤が7重量部の含浸材を300g/m2塗布した場合、液状成分が含浸した後には1m2あたり約21gの充填剤が残渣としてコンクリート表面に残る。これらの残渣は一見塗膜状であるが、一部がコンクリートの細孔に嵌まり込んでいる以外はコンクリートに固着しておらず、時間の経過とともに剥がれ落ちてくる。剥がれ落ちた残渣は排水溝に流れ込み排水機能を低下させたり、風で飛散して周辺環境を汚染させたりする可能性がある。
【0020】
さらに、前記方法(2)で含浸材を処理した後に前記方法(1)の塗装を行う複合方法を用いる場合、含浸材の残渣が塗料の付着を阻害し、上塗り塗膜が容易に剥離してしまうため、塗料を塗布する前に残渣を除去しなくてはならない。残渣の除去は工数が増大し、工事コストの上昇を招く。また、周辺環境への飛散も起こりやすくなり、環境対策も必要となる。
【0021】
特許文献2でも、増粘剤として有機系揺変剤を7重量部から8重量部配合して、B型粘度計での測定粘度が700mPa・s以上になる例が記載されている。この有機系揺変剤を用いた含浸材でも、液状成分がコンクリートに含浸した後に、多くの有機系揺変剤を含む充填剤が残渣としてコンクリート表面に残ることになる。
【0022】
特許文献2に記載の例での残渣も一見塗膜状であるが、実際は粉末状で、一部がコンクリートの細孔に嵌まり込んでいる以外はコンクリート表面に固着しておらず、軽い衝撃や時間の経過とともに剥がれ落ちてくる。剥がれ落ちた残渣は排水溝に流れ込み排水機能を低下させたり、風で飛散して周辺環境を汚染させたりする可能性がある。
【0023】
さらに、特許文献2に記載の例を用いて、前記方法(2)で含浸材を処理した後に前記方法(1)の塗装を行う複合方法を用いる場合も、含浸材の残渣が塗料の付着を阻害し、上塗り塗膜が容易に剥離してしまうため、塗料を塗布する前に残渣を除去しなくてはならない。残渣の除去は工数が増大し、工事コストの上昇を招く。また、周辺環境への飛散も起こりやすくなり、環境対策も必要となる。
【0024】
また、特許文献1と特許文献2に示されるような、アルキルアルコキシシランを用いた含浸材を増粘させるためには、有機ベントナイトや有機系揺変剤以外では増粘効果が低く、また、塗布量を多くしても含浸深さが深くならない。そのため、増粘剤としては有機ベントナイトまたは有機系揺変剤を用いることになるが、増粘効果を得るためには含浸材100重量部に対して極性を有する有機溶媒を、1~8重量部程度添加しなくてはいけない。
【0025】
特許文献2でも、有機系揺変剤に加えてイソプロピルアルコールを1重量部から1.5重量部(全体を100重量部とする)ほど添加している。加えて、用いられている有機系揺変剤には、効果的に膨潤して増粘できるように、キシレンやアルコール類といった種々の有機溶媒が含まれている。これらもVOCとして大気中に放出されるため、できるだけ含有量を減らすようにした方が良い。
【0026】
上記までの増粘させた含浸材に対して、特許文献3に記載の含浸材は、好ましい粘度として10mPa・s以下を規定しているように粘度が低い。そのため、特許文献3内では、コンクリート構造物に注入孔を設けて含浸材を注入するようにしている。注入孔を設けない場合は、必要な含浸材の含浸深さを達成するために、液ダレを生じないレベルでの塗布量での塗布が複数回必要としている。注入孔を設ける場合でも、複数回の塗布をおこなう場合でも、工数の増大及び工事コストの上昇を招くことになる。
【0027】
これまでに述べた、アルキルアルコキシシランを主成分とした含浸材は、アルキルアルコキシシランが多孔性材料内の細孔表面に分子レベルの膜を形成し、その撥水性で液体水の浸入を抑制している。しかし、水圧が撥水力より大きくなるような条件下においてはその透水抑制は発現できない。
【0028】
また、アルキルアルコキシシランが多孔性材料内の細孔表面に分子レベルの膜を形成しているだけなので細孔も塞がれておらず、気体の多孔性材料内部への浸入は防ぐことができない。そのため、大気中の二酸化炭素によるコンクリートの中性化を抑制することができない。
【0029】
そこでこの発明は、コンクリートに対して十分な透水抑制を発現するために、工数の増加を抑えて少ない含有量で済む、使いやすいコンクリートへの含浸材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
この発明は、鋭意研究の結果、下記の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)の各成分を所定量含有し、合わせて増粘剤となる上記(C)成分、上記(D)成分および上記(F)成分の合計配合量を、全体の合計を100重量部としたうちの8重量部以下とし、かつ上記(C)成分及び上記(D)成分の合計配合量を、全体の合計を100重量部としたうちの7重量部以下とし、初期粘度が50mPa・s以上800mPa・s以下である含浸材を作製することにより、上記の課題を解決したのである。
【0031】
上記(A)成分とは、下記式(1)で示されるアルキルアルコキシシラン化合物から選ばれる1種類の化合物又は複数種の化合物の混合物である。
【0032】
R1
nSi(OR2)4-n (1)
【0033】
(上記式(1)中、R1は炭素数1~10の炭化水素基を示す。R2は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R1とR2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。)
【0034】
次に、(B)成分とは、下記式(2)で示されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種類の化合物又は複数種の化合物の混合物である。
【0035】
R3
nSi(OR4)4-n (2)
【0036】
(上記式(2)中、R3は炭素数1~10の芳香族基を含んでも良い炭化水素基を示す。R4は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R3とR4とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。)
【0037】
上記(C)成分とは、粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトを、四級アンモニウム塩で表面処理した変性粘土の有機ベントナイトである。
【0038】
上記(D)成分とは、無溶剤型の有機系揺変剤である。
【0039】
上記(E)成分とは、非イオン性高分子界面活性剤である。
【0040】
上記(F)成分とは、二酸化ケイ素粉である。
【0041】
上記(G)成分とは、極性を有する有機溶媒である。
【0042】
この、本発明における含浸材は、有機ベントナイトおよび有機系揺変剤を、非イオン性高分子界面活性剤および極性を有する有機溶媒を用いて膨潤させ、アルキルアルコキシシラン化合物、およびアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物を増粘させて得られるものである。有機ベントナイト、有機系揺変剤、および極性を有する溶媒の総配合量を少なくすることで、液状成分が含浸したあとの多孔性材料表面の残渣を少なくし周辺環境への残渣の飛散を抑制でき、VOCを削減することができる含浸材となる。また、多孔性材料表面の残渣が少ないため、含浸材塗布後、液状成分が多孔性材料に含浸してから上塗り塗装をしても、残渣が上塗り塗料の付着を阻害しなくなる。
【0043】
なお、上記の(A)乃至(G)成分の組み合わせは無限にあり、上記所定量の範囲であっても、構成要素のうちの一つが極端な性質であると、他の成分が好適なものであっても上記の条件を満たすことは困難であり、一方で、(A)~(G)成分のうちの一つが、ある組み合わせでは上記の条件を満たすものでなくても、別の組み合わせでは上記の条件を実現可能である場合がある。このため本発明では、成分とその配合量とともに初期粘度特性を規定することで発明を特定している。
【発明の効果】
【0044】
この発明にかかる含浸材により、多孔性材料に深く含浸し、液体水の浸入を抑制することで、凍結融解によるスケーリングを抑制又は防止できる。更に上塗り塗装を施し多孔性材料表面に剥離しない塗膜を形成させることにより、水や二酸化炭素等が多孔性材料の内部へ浸透することをより強く抑制でき、耐凍結融解性をさらに向上させ、中性化の抑制ができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】(a)多孔性材料上に有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤が密着して存在しており、細孔までの空隙が少なくなっている状態の概念図、(b)多孔性材料上の有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤の間に二酸化ケイ素が入り込み、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変材を密着させず、細孔までの空隙を確保している状態の概念図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、多孔性材料に塗工して用い、多孔性材料に撥水層を形成させて、液体水が多孔性材料に含浸することを遮る含浸材である。この発明で対象とする多孔性材料は、数十nmから数百μmの細孔を持つ材料であり、例えば、打放しコンクリート・軽量コンクリート・プレキャストコンクリート等のコンクリート、モルタル、石綿セメント板・パルプセメント板・木毛セメント板等のセメント板、ケイ酸カルシウム板、石膏ボード、ハードボード、しっくい、レンガ、タイル、瓦、天然石、人工石などの多孔性無機質材料、および木材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、樹脂を含浸させた木材などの有機質材料が例示される。
【0047】
この発明にかかる含浸材は、アルキルアルコキシシラン化合物および/又はその部分加水分解縮合物に、アルコキシシラン化合物および/又はその部分加水分解縮合物、又はその両方、有機ベントナイト、有機系揺変剤、非イオン性界面活性剤、二酸化ケイ素粉と極性を有する有機溶媒を含む。具体的には、少なくとも下記の(A)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分、(G)成分を有し、下記の(B)成分、(F)成分を含んでいてもよい。
【0048】
上記(A)成分は、下記式(1)で示されるアルキルアルコキシシラン化合物、又はその部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物又は複数種の化合物の混合物である。多孔性材料の細孔中へこの(A)成分が含浸することにより、高い撥水性を発揮することができる。
【0049】
R1
nSi(OR2)4-n (1)
【0050】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10の芳香族基を含まない炭化水素基を示す。R2は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R1とR2とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。
【0051】
上記R1としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基が挙げられる。
【0052】
このようなアルキルアルコキシシラン化合物の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。また、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジペンチルジメトキシシラン、ジペンチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、ジヘプチルジメトキシシラン、ジヘプチルジエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジノニルジメトキシシラン、ジノニルジエトキシシラン、ジデシルジメトキシシラン、ジデシルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシランが挙げられる。
【0053】
上記(B)成分は、下記式(2)で示されるアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる1種の化合物又は複数種の化合物の混合物である。この(B)成分は、上記(A)成分とOR基同士が空気中の水分などの水とが反応する加水分解反応で脱アルコール縮合を起こし、多孔性材料内部に存在する細孔の壁面に上記(A)成分が定着することを助ける。
【0054】
R3
nSi(OR4)4-n (2)
【0055】
上記式(2)中、R3は炭素数1~10の芳香族基を含んでも良い炭化水素基を示す。R4は、炭素数1~4のアルキル基を示す。上記R3とR4とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、nは1~3の整数を示す。
【0056】
上記R3としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基等、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基等の芳香族基等が挙げられる。
【0057】
このようなアルコキシシラン化合物の例としては、メチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランやジアルキルジアルコキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のフェニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
【0058】
また、上記アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物とは、上記アルコキシシラン化合物の単一物又は混合物に水を加え、塩酸、酢酸、蟻酸等の触媒の存在下で撹拌しながら昇温することにより、部分的に加水分解を生じさせて縮合させることにより得られた化合物をいう。
【0059】
上記の複数種の化合物の混合物とは、上記アルコキシシラン化合物である複数種の化合物の混合物、上記アルコキシシラン化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と上記アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種の化合物との混合物、上記部分加水分解縮合物である複数種の化合物の混合物をいう。上記のうち、上記部分加水分解縮合物から選ばれる化合物を複数種用いて混合する場合、上記の各アルコキシシラン化合物を、別々に加水分解縮合してから混合してもよく、複数種の上記アルコキシシラン化合物を混合してから加水分解縮合してもよい。
【0060】
上記の部分的な加水分解縮合を行う際に必要に応じて溶剤を用いることができる。溶剤としては、上記混合物を溶解して均一な溶液を与えるものであれば特に制限はないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素化合物、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類等が用いられる。なお、ここで用いた溶剤は、加水分解後に除去しておくと好ましい。溶剤が残存していると、含浸材の有効成分が減少し、さらに、VOCが増大してしまう。
【0061】
上記(A)成分および(B)成分の好ましい配合量は、重量比で上記(B)成分/上記(A)成分=0/100~10/90がよく、0/100~5/95が好ましい。上記(B)成分が上記(A)成分に比して10/90より多くなると、多孔性材料中への含浸材の浸透性が悪くなり、所望する浸透深さを得られなくなる。
【0062】
上記(C)成分は、粘土鉱物の一種であるモンモリロナイトを、四級アンモニウム塩で表面処理した変性粘土の有機ベントナイトである。
【0063】
上記の四級アンモニウム塩としては,トリアルキルベンジルアンモニウム、ジメチルジアルキルアンモニウム、トリメチルアルキルアンモニウム、トリメチルステアリルアンモニウム、ジメチルステアリルベンジルアンモニウムやジメチルジオクタデシルアンモニウム等が挙げられる。
【0064】
さらに、上記(C)成分は、溶媒を含有していないことが好ましい。しかし、前以って有機ベントナイトを膨潤させる目的で添加された溶媒を含む場合はこの限りではない。
【0065】
上記(C)成分の好ましい配合量は、含浸材全体を100重量部としたときに0.1重量部以上7重量部以下がよく、0.1重量部以上5重量部以下が好ましい。上記(C)成分が7重量部より多いと、液状成分含浸後、有機ベントナイトが多孔性材料表面に塗膜状の残渣として多く残り、外観の悪化や残渣の剥落が起きやすくなる。
【0066】
上記(D)成分は、有機系揺変剤である。この有機系揺変剤としては水素添加ひまし油系、脂肪酸アマイド系、酸化ポリエチレンワックス系、植物油重合油系、界面活性剤系や、これらを2種以上併用した複合系がある。
【0067】
さらに、上記(D)成分は、溶媒を含有していないことが好ましい。しかし、前以って有機系揺変剤を膨潤させる目的で添加された溶媒を含む場合はこの限りではない。
【0068】
上記(D)成分の好ましい配合量は、含浸材全体を100重量部としたときに0.1重量部以上5重量部以下がよく、0.1重量部以上3重量部以下が好ましい。上記(D)成分が5重量部より多いと、液状成分含浸後、有機系揺変剤が多孔性材料表面に塗膜状の残渣が多く残り、外観の悪化や残渣の剥落が起きやすくなる。
【0069】
次に、上記(E)成分は、非イオン性高分子界面活性剤である。この非イオン性高分子界面活性剤は、主骨格がポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系等の高分子鎖等からなり、吸着基としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基等の極性基を有しているものが好ましい。
【0070】
上記(E)成分である非イオン性高分子界面活性剤は、上記(C)成分である有機ベントナイトの層間に浸入し、有機ベントナイトを膨潤させ、含浸材の粘度を上昇させる。
【0071】
上記(E)成分は、溶媒を含有していないことが好ましい。しかし、非イオン性高分子界面活性剤が上記(A)成分に溶解又は分散しない時に、溶解又は分散のために用いる溶媒を含む場合はこの限りではない。
【0072】
上記(C)成分および(E)成分の好ましい配合量は、重量比で(E)成分/(C)成分=0.1/99.9~20/80がよく、0.1/99.9~10/90が好ましい。上記(E)成分が(C)成分100重量部に対し20重量部より多くなっても、(E)成分による増粘効果は向上しない。
【0073】
上記(F)成分は、二酸化ケイ素粉である。
【0074】
上記(F)成分を有しない場合、含浸材を多孔性材料に塗布すると、上記(A)成分および/又は上記(B)成分が多孔性材料に含浸していく。その時、含浸材中で膨潤して存在している上記(C)成分および/又は上記(D)成分は乾燥して収縮していく。そのまま乾燥してしまうと、上記(C)成分および/又は上記(D)成分は密着し、塗膜状になり多孔性材料表面に残る。密着して塗膜状になった上記(C)成分および/又は上記(D)成分は空隙が少なく、塗料や溶媒が浸透しづらい。また、強度も低いため、上塗り塗装をおこなった場合、塗膜状の(C)成分および/又は(D)成分の層を境に容易に剥離してしまう。
【0075】
上記(F)成分としてこの二酸化ケイ素粉が含浸材に含まれていると、上記(C)成分および/又は上記(D)成分は乾燥して収縮していくときに、空隙にスペーサー的に入り込むことで上記(C)成分および/又は上記(D)成分が密着することを防ぎ空隙を確保する。空隙が確保されることで、含浸材を塗布した後に上塗り塗装をした場合、上塗り塗料が空隙を通って十分に多孔性材料まで到達し、上記(C)成分および/又は上記(D)成分の層も含んだ強固な根付きの塗膜を形成することができるようになる。そのため、従来のアルキルアルコキシシラン系含浸材では困難だった上塗り塗装が可能となり、耐凍結融解性や中性化防止の能力向上や意匠性といった機能を付与することができるようになる。すなわち、上記(F)成分を適切に含有することで上塗り塗装性を確保できる。
【0076】
ここで、上記(F)成分が(C)成分および/又は(D)成分の乾燥収縮時に、スペーサー的に空隙を形成する状況について説明する。多孔性材料11に塗布した含浸剤は、液状成分が含浸しきると、多孔性材料表面に塗膜状の残渣が残る。これを
図1に詳細に示す。二酸化ケイ素を含まない場合、
図1(a)のように、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12が多孔性材料上に密着している。この時、密着した有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12内に空隙は少ない。そのため、上塗り塗装を施しても、細孔13まで上塗り塗料の樹脂成分が到達せず、根付きの塗膜を形成できない。加えて、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12の層は脆いため、上塗り塗膜は容易に剥離してしまう。対して、二酸化ケイ素粉14を含む場合、
図1(b)のように、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12の間に二酸化ケイ素粉14が入り込み、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12同士が密着せず、空隙15が形成される。この空隙15の存在により、上塗り塗料が多孔性材料まで到達し根付きの塗膜を形成し、さらに、有機ベントナイトおよび/又は有機系揺変剤12の層も上塗り塗料で強化されるため、強固な塗膜を形成することが可能になる。
【0077】
二酸化ケイ素粉としては、気相法合成二酸化ケイ素、液相法合成二酸化ケイ素、結晶質合成二酸化ケイ素、粉砕天然二酸化ケイ素等がある。二酸化ケイ素は親水性で、用途に応じてシロキサン処理等の疎水化表面処理をおこなうこともある。
【0078】
二酸化ケイ素粉の平均粒子サイズは、数ナノメートルから数十マイクロメートルと幅広い製品が存在するが、上記(F)成分としては、平均一次粒子径が5ナノメートル以上50ナノメートル以下がよく、10ナノメートル以上30ナノメートル以下が好ましい。
【0079】
上記(F)成分の好ましい配合量は、含浸材全体を100重量部としたときに0重量部以上2重量部以下がよく、0.5重量部以上1重量部以下が好ましい。上記(F)成分が2重量部より多いと、液状成分含浸後、二酸化ケイ素粉が多孔性材料表面に白い残渣として残り、外観の悪化や残渣の剥落が起きやすくなる。
【0080】
上記(C)成分、上記(D)成分および上記(F)成分は併用することができる。その時の混合比は任意でよいが、上記(C)成分、上記(D)成分及び上記(F)成分の合計は含浸材全体を100重量部としたときに8重量部以下である必要があり、かつ、上記(C)成分と上記(D)成分に限った合計は7重量部以下である必要がある。また、上記(C)成分+上記(D)成分+上記(F)成分は、2重量部以上7重量部以下が好ましく、3重量部以上5重量部以下がより好ましい。上記(C)成分、上記(D)成分及び上記(F)成分の合計が8重量部より多くなるか、または上記(C)成分と上記(D)成分とで7重量部より多くなると、液状成分含浸後、これらの成分が多孔性材料表面に塗膜状の残渣として多く残り、外観の悪化や残渣の剥落が起きやすくなる。また、上記(C)成分+上記(D)成分+上記(F)成分が2重量部より少ないと、含浸材の粘度が十分に高くならず、必要量塗布することが困難になる。
【0081】
本発明の含浸材には、一回での塗布量を十分に確保できるように粘度を高くする目的で、上記(G)成分の有機溶媒を加えることができる。この有機溶媒は、有機系揺変剤を膨潤させ、含浸材自体を増粘させる働きをもつ。有機系揺変剤を効果的に膨潤させるには、極性が大きい有機溶媒が適している。
【0082】
極性が大きい有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類や、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
【0083】
上記(G)成分の好ましい配合量は、上記(D)成分100重量部に対して10重量部以上500重量部以下がよく、50重量部以上200重量部以下が好ましい。そして、含浸材総量100重量部に対し、上記(G)成分の好ましい配合量は0.1重量部以上5重量部以下がよく、0.1重量部以上2重量部以下が好ましい。上記(G)成分が含浸材総量100重量部に対し5重量部より多くなっても、増粘効果は向上せず、ただVOCが多くなることになる。
【0084】
この発明に係る含浸材は、温度25℃において、初期粘度は50mPa・s以上800mPa・s以下である必要があり、100mPa・s以上500mPa・s以下が好ましい。50mPa・s未満だと、粘度が低すぎて一回での塗布量が少なくなり、また、垂直面や天井面へ塗布しても、粘度が低いため垂れてしまう。一方で、800mPa・sを超えると粘度が高すぎて塗布の作業性が悪くなり、均一な塗布が困難となる。なお、この粘度の範囲は、東機産業(株)製:TVE-22H型粘度計を用い、含浸材調製24時間後に、コーン:1°34′(R:24)、20rpmの条件下で測定した値で評価したものである。この粘度を「初期粘度」という。
【0085】
この発明に係る含浸材は、粘度のみではなく、下記式(3)で示されるチクソトロピックインデックス(TI値)も重要となる。TI値とは、塗材の粘度特性の一つであるチクソトロピー性を示す値である。チクソトロピーは、速いズリ速度では粘度が低く、遅いズリ速度では粘度が高くなる性質で、TI値が大きい塗材は、塗布時のズリ速度が速いときは粘度が低くなる。そして、塗布が終わり、ズリ速度が無くなると粘度が高くなって流動性が低くなる。すなわち、塗布時は粘度が低く塗布性がよく、塗布後は粘度が高いため塗材が垂れずにその場に保持されることになる。TI値が低いと、粘度が高くても垂れを生じる場合があり、逆に高すぎると、ズリ速度が無くなった途端に粘度が急激に高くなるため、塗材が基材上を滑るようになるため塗布作業が困難となる。
【0086】
TI値=η2/η1 (3)
【0087】
ここで、η1は速いズリ速度での粘度(mPa・s)で、η2は遅いズリ速度での粘度(mPa・s)である。一般的に、TI値を算出する場合の速いズリ速度と遅いズリ速度の比は10対1である。これは、回転式粘度計での回転数も同様である。
【0088】
この発明に係る含浸材は、温度25℃において上記粘度範囲にある時のTI値が2以上10以下がよく、4以上8以下が好ましい。TI値が2未満だと、垂直面や天井面に塗布した時に、含浸材が垂れてしまい、必要な塗布量が保持できない。一方、TI値が10を超えると、含浸材の伸び性が低くなり、塗材が滑ってしまい塗布量が確保しにくくなる。なお、この粘度の範囲は、東機産業(株)製:TVE-22H型粘度計を用い、含浸材調製24時間後に、コーン:1°34′(R:24)、20rpmおよび2rpmの条件下で測定した値であり、TI値は、2rpmの条件下で測定した値を、20rpmの条件下で測定した値で除したものである。
【0089】
この発明にかかる含浸材は、刷毛塗り、ローラー塗り、吹きつけ、浸漬等の方法によって多孔性材料の表面全体に塗布することができる。
【0090】
多孔性材料表面への上記含浸材の塗布量は、300g/m2以上が好ましい。300g/m2未満の塗布量では、上記(A)成分および/又は上記(B)成分の量が少なく、十分な含浸深さが得られない。ここで言う十分な含浸深さとは、非特許文献2に記載されている、寒冷地でコンクリートの耐凍結融解性を向上させるのに必要とされる6mm以上のことをいう。一方、多孔性材料表面への上記含浸材の塗布量は、600g/m2以下が好ましい。600g/m2より多く塗布すると、塗着量が多すぎて塗材が垂れてしまう。加えて、液状成分含浸後、増粘剤成分が多孔性材料表面に塗膜状の残渣として多く残り、外観の悪化や残渣の剥落が起きやすくなる。
【0091】
また、上記多孔性材料への上記含浸材の塗布回数は、1回が好ましい。塗布回数が2回以上だと、工数が増大し、工事コストの上昇を招く。さらに、塗り重ねの時に多孔性材料表面に残っている増粘剤成分をかき回すことになり、仕上がり外観が悪くなる。
【0092】
多孔性材料に本発明の含浸材を塗布した後、より耐凍結融解性や外因からの保護性能を向上させる目的で上塗り塗装をすることができる。上塗り塗装に用いる塗料は、含浸材と馴染みの良いアルコキシシランをバインダーとしたものが好ましい。さらに、有機溶媒を含有しない塗料であることも好ましい条件として挙げられる。
【0093】
本発明に係る含浸材は、多孔性材料に塗布して液状成分が含浸した後、多孔性材料表面には、含有する範囲で、上記(A)成分および/又は上記(B)成分が吸着した上記(C)成分および/又は上記(D)成分とともに薄い層を形成している。この薄い層は、アルコキシシラン以外の樹脂類、例えば有機樹脂とは馴染みにくく、塗膜の付着性が悪くなる。馴染みをよくするために有機溶媒を添加すると、上記の薄い層が溶媒により膨潤し、外観の悪化につながる。
【0094】
さらに、多孔性材料の細孔内には上記(A)成分および/又は上記(B)成分が存在しており、アルコキシシラン以外の樹脂類とは馴染みにくいため一般的な有機樹脂塗料の浸入を拒む。そのため、有機樹脂系の塗料では根付きの塗膜を形成できず、付着力が低くなり剥離しやすくなる。
【実施例0095】
以下、この発明について具体的な実施例を示す。まず、用いる原材料と評価方法について説明する。
【0096】
<(A)成分>
・ヘキシルトリエトキシシラン……信越化学工業(株)製:KBE-3063
・デシルトリメトキシシラン……信越化学工業(株)製:KBM-3103C
【0097】
<(B)成分>
・メチルトリメトキシシランオリゴマー……信越化学工業(株)製:KC-89S、メチルトリメトキシシランを部分加水分解縮合した約2量体。
・メチルシリケート……コルコート(株)製:メチルシリケート51、テトラメトキシシランを部分加水分解縮合した約4量体。
【0098】
<(C)成分>
・有機ベントナイト……(株)ホージュン製:エスベンNX
・有機ベントナイト……(株)ホージュン製:エスベンN-400
【0099】
<(D)成分>
・脂肪酸アマイド……伊藤製油(株)製:A-S-A T-1700
・水素添加ひまし油……楠本化成工業(株)製:ディスパロン308
【0100】
<(E)成分>
・高分子界面活性剤……日本ルーブリゾール(株)製:ソルスパースM387
・高分子界面活性剤……楠本化成工業(株)製:ディスパロンDA-325
【0101】
<(F)成分>
・二酸化ケイ素粉末……日本アエロジル(株)製:アエロジルR-972
【0102】
<(G)成分>
・エタノール…富士フイルム和光純薬(株)製:エタノール(特級)
・イソプロパノール……富士フイルム和光純薬(株)製:エタノール(特級)
【0103】
<液粘度測定方法>
東機産業(株)製:TVE-22H型粘度計を用い、測定試料量1mL、コーン:1°34′(R:24)、20rpmおよび2rpmの条件下で測定した。測定に用いたサンプルは、作製から24時間後、1mLのシリンジで採取した。
【0104】
<塗布面外観評価方法>
JSCE-K571-2013に規定する「表面含浸材の試験方法6.1外観観察試験」により評価した。コンクリート供試体(水セメント比:55%)10cm×10cm×厚さ5cmの切断面1面に、各例の試料含浸性防水材を刷毛にて300g/m2塗布し、室温(約20℃)にて24時間養生後、塗布面を目視観察して、下記の基準により外観変化を「変化無し」、「濡れ色」、「白化」、「残渣浮き」の四段階に分類した。
・変化無し :全面的に濡れ色なく、含浸材塗布前と大差ない外観が観察される
・濡れ色 :塗面の全面的もしくは部分的に濡れ色が観察される
・白化 :全面的もしくは部分的に塗面の白い部分が観察される
・残渣浮き :塗面の全面的もしくは部分的に残渣が浮いているのが観察される
【0105】
<含浸深さ評価方法>
JSCE-K571-2013に規定する「表面含浸材の試験方法6.1含浸深さ試験」により評価した。コンクリート供試体(水セメント比:55%)10cm×10cm×厚さ10cmの切断面1面に、各例の試料含浸材をそれぞれの規定量刷毛にて塗布し、室温(約20℃)にて14日間養生した。養生が完了した試験体の含浸面を2分割するように試験体を割裂し、2分割した試験体を1分間水に浸せきして取り出した。割裂面の、撥水して濡れ色が出ていない部分の含浸面からの深さを、ノギスを用いて0.1mmの単位まで測定した。測定箇所は、試験体の割裂面の中心、およびその中心から左右それぞれ25mmの3箇所とした。3点の平均値を四捨五入して小数点以下1けたの値として算出した。
【0106】
<上塗り塗装性評価方法>
コンクリート供試体(水セメント比:55%)10cm×10cm×厚さ5cmの切断面1面に、各例の試料含浸材を300g/m2刷毛にて塗布し、24時間後、パーミエイトHS-300クリアを100g/m2刷毛塗りで塗布した。室温(約20℃)にて7日間養生し、JIS K5600-2014に記載の下記基準に従い、塗膜の剥離性試験(クロスカット法)を行い、付着強さを評価した。
・0:カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない。
・1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
・2:塗膜がカットの縁に沿って、および/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
・3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており,および/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
・4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、および/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
・5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0107】
<中性化に対する抵抗性評価方法>
JSCE-K571-2013に規定する「表面含浸材の試験方法6.6中性化に対する抵抗性試験」により評価した。コンクリート供試体(水セメント比:55%)10cm×10cm×厚さ10cmの切断面1面に、各例の試料含浸材をそれぞれの規定量刷毛にて塗布し、もう1面の切断面は無塗布とし、残りの4面はエポキシ塗料(大日本塗料製:エポオールスマイル)でシールした。室温(約20℃)にて14日間養生後、温度20℃、相対湿度60%、二酸化炭素濃度5%の条件下で、28日間の促進中性化試験を行なった。促進中性化試験後、試験体の含浸面を2分割するように試験体を割裂し、割裂面の含浸面およびそれに対向する面(無塗布面)からの中性化深さを、ノギスを用いて0.1mmまで測定した。測定箇所は、試験体の割裂面の中心、およびその中心から左右それぞれ25mmの3箇所とした。3点の平均値を四捨五入して小数点以下1けたの値として算出し、中性化深さ比(%)=含浸材塗布面の中性化深さ(mm)/無塗布面の中性化深さ(mm)とした。
【0108】
<含浸材作製>
表1及び表2に記載の組成で、プライミクス(株)高速乳化分散機(俗称ホモミクサーMARKII2.5型)を用い、容器300mL、溶液150g 、回転数8000rpmの条件で30分混合した。
【0109】
(上塗り塗装なし)
実施例1~42、比較例1~12にあるように、(A)~(G)成分(ただし(F)成分を含まず)を調製して含浸材を作製し、上記の評価を行った。評価結果を表1~4に示す。このうち、比較例1は、(C)成分が多くなったため、塗面に残渣が多く残って外観が悪くなった。比較例2、比較例9と比較例10は、(B)成分が多くなったため液状成分の含浸性が悪くなり、塗面に残渣が多く残り、さらに十分な浸透深さが得られなかった。比較例3は増粘剤成分が多く粘度が高くなり施工性が悪くなった。また、有機系揺変剤が多いため液状成分が含浸しにくく濡れ色を呈した。比較例4から比較例8は、増粘剤が多いため、塗面に残渣が多く残って外観が悪くなった。比較例11は(E)成分がないため増粘効果が乏しく粘度が低くなった。比較例12は(G)成分がないため増粘効果が乏しく粘度が低くなった。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
(上塗り塗装あり)
実施例43~84、比較例13~25にあるように、(A)~(G)成分を調製して含浸材を作製し、上記の評価を行った。評価結果を表5~8に示す。このうち、上塗り塗膜の付着性は、比較例23と比較例24が強固であったが、他の比較例は容易に上塗り塗膜が剥離した。比較例13は、(C)成分が多くなったため、塗面に残渣が多く残って外観が悪くなった。比較例14、比較例21と比較例22は、(B)成分が多くなったため液状成分の含浸性が悪くなり、塗面に残渣が多く残り、さらに十分な浸透深さが得られなかった。比較例15は増粘剤成分が多く粘度が高くなり施工性が悪くなった。また、有機系揺変剤が多いため液状成分が含浸しにくく濡れ色を呈した。比較例16から比較例20は、増粘剤の成分のいずれか又は合計が多いため、塗面に残渣が多く残って外観が悪くなった。比較例23は(E)成分がないため増粘効果が乏しく粘度が低くなった。比較例24は(G)成分がないため増粘効果が乏しく粘度が低くなった。比較例25は二酸化ケイ素粉が多く、粘度が高くなり、塗面外観が悪くなった。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】