IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人茨城大学の特許一覧 ▶ 独立行政法人日本原子力研究開発機構の特許一覧

特開2024-63607含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤
<>
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図1
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図2
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図3
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図4
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図5
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図6
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図7
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図8
  • 特開-含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063607
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、金属イオン用吸着剤
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/16 20060101AFI20240502BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C07C229/16 CSP
B01J20/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171691
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 友宏
(72)【発明者】
【氏名】福元 博基
(72)【発明者】
【氏名】藤川 寿治
(72)【発明者】
【氏名】武田 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】荒井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 創
(72)【発明者】
【氏名】新井 剛
【テーマコード(参考)】
4G066
4H006
【Fターム(参考)】
4G066AA22C
4G066AB05B
4G066AB07B
4G066AB09B
4G066AB19B
4G066AB21B
4G066BA03
4G066BA16
4G066CA01
4G066CA12
4G066CA45
4G066CA46
4G066DA08
4G066EA01
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB81
4H006AC52
4H006BJ20
4H006BJ50
4H006BM10
4H006BM71
4H006BP30
4H006BS10
4H006BU38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い薬品耐性を有すると共に、親フッ素性及び金属イオンを吸着する特性を有する含フッ素単環芳香族化合物を提供する。
【解決手段】ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、下記(3)式で表される含フッ素単環芳香族化合物。

【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、
下記(3)式で表される含フッ素単環芳香族化合物。
【化1】
【請求項2】
ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、
下記(7)式で表される含フッ素単環芳香族化合物。
【化2】
【請求項3】
ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、
下記(12)式で表される含フッ素単環芳香族化合物。
【化3】
【請求項4】
ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、
下記(17)式で表される含フッ素単環芳香族化合物。
【化4】
【請求項5】
下記(2)式で表される化合物を用いて、下記(3)式で表される化合物を合成することを特徴とする含フッ素単環芳香族化合物の製造方法。
【化5】
【化6】
【請求項6】
(a)下記(4)式で表される化合物を用いて、下記(5)式で表される化合物を合成する工程と、
(b)下記(5)式で表される化合物を用いて、下記(6)式で表される化合物を合成する工程と、
(c)下記(6)式で表される化合物を用いて、下記(7)式で表される化合物を合成する工程と、
を有することを特徴とする含フッ素単環芳香族化合物の製造方法。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【請求項7】
(a)下記(18)式で表される化合物および下記(8)式で表される化合物を用いて、下記(9)式で表される化合物を合成する工程と、
(b)下記(9)式で表される化合物を用いて、下記(10)式で表される化合物を合成する工程と、
(c)下記(10)式で表される化合物を用いて、下記(11)式で表される化合物を合成する工程と、
(d)下記(11)式で表される化合物を用いて、下記(12)式で表される化合物を合成する工程と、
を有することを特徴とする含フッ素単環芳香族化合物の製造方法。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【請求項8】
(a)下記(18)式で表される化合物および下記(13)式で表される化合物を用いて、下記(14)式で表される化合物を合成する工程と、
(b)下記(14)式で表される化合物を用いて、下記(15)式で表される化合物を合成する工程と、
(c)下記(15)式で表される化合物を用いて、下記(16)式で表される化合物を合成する工程と、
(d)下記(16)式で表される化合物を用いて、下記(17)式で表される化合物を合成する工程と、
を有することを特徴とする含フッ素単環芳香族化合物の製造方法。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【請求項9】
請求項1から4のいずれか1項に記載の含フッ素単環芳香族化合物を用いた金属イオン用吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素単環芳香族化合物の化学構造とその製造方法に係り、特に、金属イオン用吸着剤に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
C-F結合を主構造とするフルオラス化合物は化学的に安定であるため化学薬品耐性や放射線耐性に優れる特徴を有することから、一般産業界の他にも、原子力施設など、幅広い分野で利用されている。また、水や脂肪族系有機溶媒にも混和しない性質も有することから、溶媒抽出等の精製処理への利用が期待されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「3環以上の共役系多環芳香族基で両末端に位置する芳香族基の少なくとも一つがパーフルオロアルキル基核置換の含フッ素多環芳香族化合物」が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、多環芳香族化合物の合成方法とその物性が開示されている。
【0005】
また、非特許文献2,3には、イミノ二酢酸型フルオラス抽出剤やリン酸型フルオラス抽出剤等のフルオラス抽出剤の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7061804号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Synthesis and properties of perfluoroalkylated TIPS-pentacenes, T. Agou et al., Tetrahedron 2019, 75, 130678.
【非特許文献2】E. Kiyokawa et al., J. Chromatogr. B 2018, 1074, 86.
【非特許文献3】Ueda, Y. et al., Solvent Extraction and Ion Exchange,37, 5, (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フルオラス化合物の利用には、処理対象液の液性や対象元素の価数や錯形成を考慮して、官能基を含めたフルオラス化合物全体の設計が必要であるが、フルオラス化合物の持つ親フッ素性の制御と共に、任意の官能基を導入する方法が課題である。
【0009】
パーフルオロアルキル基の構造部を任意に変化させることは困難であり、親フッ素性の制御は容易ではない。また、パーフルオロアルキル基の反応性に由来して、導入可能な官能基が制限されるという問題もある。
【0010】
上記非特許文献2,3のように、フルオラス抽出剤の報告例は多数あるが、溶媒抽出の実験例しかなく、様々な媒体への導入に関する報告はない。
【0011】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、高い薬品耐性を有すると共に、親フッ素性及び金属イオンを吸着する特性を有する含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、それを用いた金属イオン用吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、下記(3)式で表されることを特徴とする。
【0013】
【化1】
【0014】
また、本発明は、ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、下記(7)式で表されることを特徴とする。
【0015】
【化2】
【0016】
また、本発明は、ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、下記(12)式で表されることを特徴とする。
【0017】
【化3】
【0018】
また、本発明は、ベンゼン環の構造の一部にフルオラス性構造と官能基とを有し、
下記(17)式で表されることを特徴とする。
【0019】
【化4】
【0020】
また、本発明は、下記(2)式で表される化合物を用いて、下記(3)式で表される化合物を合成することを特徴とする。
【0021】
【化5】
【0022】
【化6】
【0023】
また、本発明は、(a)下記(4)式で表される化合物を用いて、下記(5)式で表される化合物を合成する工程と、(b)下記(5)式で表される化合物を用いて、下記(6)式で表される化合物を合成する工程と、(c)下記(6)式で表される化合物を用いて、下記(7)式で表される化合物を合成する工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
【化7】
【0025】
【化8】
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
【0028】
また、本発明は、(a)下記(18)式で表される化合物および下記(8)式で表される化合物を用いて、下記(9)式で表される化合物を合成する工程と、(b)下記(9)式で表される化合物を用いて、下記(10)式で表される化合物を合成する工程と、(c)下記(10)式で表される化合物を用いて、下記(11)式で表される化合物を合成する工程と、(d)下記(11)式で表される化合物を用いて、下記(12)式で表される化合物を合成する工程と、を有することを特徴とする。
【0029】
【化11】
【0030】
【化12】
【0031】
【化13】
【0032】
【化14】
【0033】
【化15】
【0034】
【化16】
【0035】
また、本発明は、(a)下記(18)式で表される化合物および下記(13)式で表される化合物を用いて、下記(14)式で表される化合物を合成する工程と、(b)下記(14)式で表される化合物を用いて、下記(15)式で表される化合物を合成する工程と、(c)下記(15)式で表される化合物を用いて、下記(16)式で表される化合物を合成する工程と、(d)下記(16)式で表される化合物を用いて、下記(17)式で表される化合物を合成する工程と、を有することを特徴とする。
【0036】
【化17】
【0037】
【化18】
【0038】
【化19】
【0039】
【化20】
【0040】
【化21】
【0041】
【化22】
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、高い薬品耐性を有すると共に、親フッ素性及び金属イオンを吸着する特性を有する含フッ素単環芳香族化合物及びその製造方法、それを用いた金属イオン用吸着剤を実現することができる。
【0043】
具体的には、フルオラス化合物の種類を変えることで、親フッ素性の制御が可能であり、様々な媒体にリガンドしての機能を付与することが可能になる。また、官能基を任意に選択することができるため、レアアースや貴金属などの有用な金属の他、カドミウムやクロムなどの重金属類、ウランやプルトニウムなどの放射性物質など、幅広い金属を対象とした金属イオン用吸着剤として利用することが可能であり、リサイクルや一般産業界で発生した廃液処理や医療や原子力施設における放射性物質の回収など、幅広い分野での利用が期待できる。
【0044】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての効果を示す図である。
図2】本発明の含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての効果を示す図である。
図3】金属イオン用吸着剤としての第1の用途例を示す図である。
図4】金属イオン用吸着剤としての第2の用途例を示す図である。
図5】金属イオン用吸着剤としての第2の用途例を示す図である。
図6】金属イオン用吸着剤としての第2の用途例を示す図である。
図7】金属イオン用吸着剤としての第3の用途例を示す図である。
図8】金属イオン用吸着剤としての第4の用途例を示す図である。
図9】金属イオン用吸着剤としての第5の用途例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面も参照しつつ、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分については繰り返しとなる説明を一部省略する。
【0047】
本発明の含フッ素単環芳香族化合物は、具体的に、下記の(3)式,(7)式,(12)式及び(17)式のいずれかで表される含フッ素単環芳香族化合物である。
【0048】
【化23】
【0049】
【化24】
【0050】
【化25】
【0051】
【化26】
【0052】
なお、パーフルオロヘキシル基(C6F13基)は、C3F7~C8F17の任意のパーフルオロカーボン基に置き換えが可能である。
【0053】
図1及び図2を参照して、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を金属イオン用吸着剤として使用した場合の吸着性能について説明する。図1及び図2は、ポリマーを被覆した多孔質シリカに本発明の含フッ素単環芳香族化合物(フルオラス抽出剤;イミノ二酢酸を官能基とした化合物)を含浸処理し、固体吸着剤としての吸着性能を調査した結果を示している。図1はイミノ二酢酸型吸着剤のpH依存性の一例を示し、図2は模擬PUERX廃溶媒に装荷したジルコウム(Zr)に対する吸着性能評価の一例を示している。模擬PUERX廃溶媒は、リン酸トリブチル濃度が1.0 mol/L、リン酸ジブチル濃度が150 mmol/Lになるようにドデカンで希釈した溶媒に、Zrを10mmol/L装荷した溶媒である。
【0054】
図1に示すように、本発明の含フッ素単環芳香族化合物は、ジルコウム(Zr)及びニッケル(Ni)ともに、中性域で高い吸着反応となり、一般的なイミノ二酢酸の吸着挙動を示した。本発明の含フッ素単環芳香族化合物は、吸着材の機能を果たすことを確認した。
【0055】
また、図2に示すように、本発明の含フッ素単環芳香族化合物は、市販品の吸着剤よりも高い吸着性能を示した。
【0056】
以下、実施例1から実施例4において、(3)式,(7)式,(12)式及び(17)式の各含フッ素単環芳香族化合物の製造方法をそれぞれ説明し、実施例5から実施例9において、本発明の含フッ素単環芳香族化合物の用途例を説明する。
【実施例0057】
≪(3)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法≫
(3)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法について説明する。なお、1H NMR及び19F NMRスペクトルの測定には、ブルカー・バイオスピン株式会社製のAVANCE III NMR分光計を用いた。
【0058】
先ず、(3)式の含フッ素単環芳香族化合物の原料となる(2)式の化合物を合成するための(1)式の化合物を、上記非特許文献1を参考に合成した。
【0059】
次に、(1)式の化合物を原料として、以下の反応により(2)式の化合物を得た。なお、(2)式の化合物は、上記特許文献1により公知である。
【0060】
【化27】
【0061】
50 mL三ツ口フラスコに化合物(1)(2.0 g, 2.7 mmol)、N-ブロモスクシンイミド(NBS) (0.96 g, 5.4 mmol)、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide, BPO) (0.066 g, 0.27 mmol)、及び四塩化炭素 (20 mL) を加え、24時間80 ℃で撹拌した。反応溶液を0 ℃に冷却し、スクシンイミドをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、黄色液体化合物(2)を2.4 g (2.7 mmol)得た。収率は100 %であった。
【0062】
生成物のNMRの結果を以下に示す。
【0063】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.76 (s, 2H), 4.66 (s, 4H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.77 (t, 6F), -103.53 (s, 4F), -118.00 (s, 4F), -121.89 (s, 4F), -122.70 (s, 4F), -126.06 (s, 4F).
さらに、(2)式の化合物を原料として、以下の反応により本発明の実施例1に係る(3)式の含フッ素単環芳香族化合物を得た。以下の反応では、2つのブロモメチル基(CH2Br)を、それぞれイミノメチルジカルボン基(CH2N(CH2COOH)2)で置換する。
【0064】
【化28】
【0065】
100 mL三ツ口フラスコに化合物(2)(1.8 g, 2.0 mmol) 、イミノ二酢酸 (0.8 g, 6 mmol)、水酸化カリウム (1.1 g, 20 mmol) 及び無水メタノール (20 mL) を加え、窒素雰囲気下65 ℃で15時間撹拌した。反応物を室温に冷却し、ろ紙を用いてメタノールで濾過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮して得た粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:ジクロロメタン=8:2)により精製し、化合物(3)を黄色液体として1.7 g (1.7mmol)得た。収率は85%であった。
【0066】
生成物のNMRの結果を以下に示す。
【0067】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.83 (s, 2H), 4.57 (s, 4H), 3.48 (s, 8H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -81.02 (t, 6F), -103.93 (s, 4F), -118.11 (s, 4F), -122.03 (s, 4F), -122.87 (s, 4F), -126.28 (s, 4F).
なお、上記の反応において、水酸化カリウム(KOH)をトリエチルアミン(NEt3)に、無水メタノール(MeOH)をクロロホルム(CH2Cl2)にそれぞれ変更し、窒素雰囲気下室温(rt)で12時間撹拌することでも、(2)式の化合物から、(3)式の含フッ素単環芳香族化合物を得られた。
【0068】
上記のように、特許文献1により公知である(2)式の化合物を原料として、1工程で本発明の(3)式の含フッ素単環芳香族化合物を合成することができる。
【実施例0069】
≪(7)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法≫
(7)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法について説明する。(7)式の含フッ素単環芳香族化合物は、以下の3工程を経て得ることができる。
【0070】
先ず、(4)式の化合物を原料として、以下の反応により(5)式の化合物を得た。以下の反応では、ブロモ基(Br)を、パーフルオロヘキシル基(C6F13基)で置換する。
【0071】
【化29】
【0072】
150 ℃、0.1 mmHgで1時間乾燥した銅 (27 g, 0.40 mol) を300 mL三ツ口フラスコに入れ、4-ブロモ-ベンジルアルコール (化合物(4)) (7.6 g, 40 mmol)、C6F13I (26 mL, 0.12 mol)、無水ジメチルスルホキシド(DMSO) (200 mL) を加え、窒素雰囲気下110 ℃で22時間攪拌した。反応混合物に水を加えた後、クロロホルムを溶媒としてセライトろ過を行った。ろ液の水層をクロロホルムで3回抽出し、有機層を水で5回洗浄することでDMSOを除去し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、化合物(5)を黄色液体として19 g (45 mmol) 得た。粗収率は112%であった。
【0073】
生成物のNMRの結果を以下に示す。
【0074】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.61 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 4.79 (s, 2H), 3.34 (s, 1H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.75 (t, 3F), -110.78 (s, 2F), -121.47 (s, 2F), -121.81 (s, 2F), -122.81 (s, 2F), -126.13 (s, 2F)
次に、(5)式の化合物を原料として、以下の反応により(6)式の化合物を得た。以下の反応では、ヒドロキシメチル基(CH2OH)を、ブロモメチル基(CH2Br)で置換する。
【0075】
【化30】
【0076】
100 mL三ツ口フラスコに化合物(5)(1.5 g, 3.0 mmol) 、三臭化リン (3.0 g, 30 mmol)、及びクロロホルム (60 mL) を加え、室温下0 ℃で3時間撹拌した。反応物に0 ℃に冷やした炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、その後クロロホルムで3回抽出し、有機層を水で5回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮して得た粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:ジクロロメタン=8:2)により精製し、化合物(6)を茶色液体として0.82 g (1.7 mmol)得た。収率 56 %であった。
【0077】
生成物のNMRの結果を以下に示す。
【0078】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.58 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.54 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 4.51 (s, 2H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.75 (t, 3F), -110.78 (s, 2F), -121.47 (s, 2F), -121.81 (s, 2F), -122.81 (s, 2F), -126.13 (s, 2F)
さらに、(6)式の化合物を原料として、以下の反応により本発明の実施例2に係る(7)式の含フッ素単環芳香族化合物を得た。以下の反応では、ブロモメチル基(CH2Br)を、イミノメチルジカルボン基(CH2N(CH2COOH)2)で置換する。
【0079】
【化31】
【0080】
100 mL三ツ口フラスコに化合物(6)(0.82 g, 1.7 mmol) 、イミノ二酢酸 (0.48 g, 3.4 mmol)、水酸化カリウム (2.8 g, 34 mmol) 及び無水メタノール (50 mL) を加え、窒素雰囲気下65 ℃で15時間撹拌した。反応物を室温に冷却し、希塩酸を加えた後、メタノールを溶媒としてろ紙で濾過した。ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮して、化合物(7)を白色固体として0.33 g (0.61 mmol)得た。収率 は36 %であった。
【0081】
生成物のNMRの結果を以下に示す。
【0082】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.59 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.48 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 4.53 (s, 2H), 3.43 (s, 4H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.75 (t, 3F), -110.78 (s, 2F), -121.47 (s, 2F), -121.81 (s, 2F), -122.81 (s, 2F), -126.13 (s, 2F).
【実施例0083】
≪(12)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法≫
(12)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法について説明する。(12)式の含フッ素単環芳香族化合物は、以下の4工程を経て得ることができる。
【0084】
先ず、(18)式の化合物及び(8)式の化合物を原料として、以下の反応により(9)式の化合物を得た。
【0085】
【化32】
【0086】
50 mLシュレンクフラスコに化合物(18)(C6F13CH2O3SCF3 (C6F13CH2OTf)) 5.0 g (10 mmol)、没食子酸メチル(化合物(8)) 0.50 g(2.9 mmol)、炭酸カリウム1.6 g (11 mmol)、ジメチルアセトアミド(DMAc)25 mLを加え、アルゴン雰囲気下90 ℃で2時間撹拌した。反応混合物に塩化アンモニウム水溶液を加えた後、吸引ろ過を行い、化合物(9)を無色固体として2.5 g(2.1 mmol)得た。粗収率は74 %であった。
【0087】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0088】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.42 (s, 2H), 4.55 (q, J = 13Hz, 4H), 3.94 (s, 3H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.84 (t, 9F), -119.43 (s, 6F), -121.12 (s, 6F), -121.14 (s, 6F), -122.97 (s, 6F), -126.13 (s, 6F).
次に、(9)式の化合物を原料として、以下の反応により(10)式の化合物を得た。
【0089】
【化33】
【0090】
50 mL三つ口フラスコに、化合物(9) 1.1 g (1.0 mmol)、テトラヒドロフラン3.0 mLを加え氷冷した後、水素化リチウムアルミニウム0.10 g(23 mmol)を加え室温で24時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチル、メタノール、塩酸を順次加えた後、クロロホルムを溶媒としてセライトろ過を行った。ろ液の水層をクロロホルムで3回抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し化合物(10)を無色固体として0.76 g (0.66 mmol)得た。粗収率は66 %であった。
【0091】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0092】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.75 (s, 2H), 4.67 (s, 2H), 4.55-4.41 (m, 6H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.84 (t, 9F), -119.60 (s, 4F), -21.13 (s, 6F), -122.19 (s, 6F), -123.09 (s, 6F), -126.17 (s, 6F).
次に、(10)式の化合物を原料として、以下の反応により(11)式の化合物を得た。
【0093】
【化34】
【0094】
50 mL三つ口フラスコに、化合物(10) 0.66 g(0.57 mmol)、クロロホルム20 mLを加え氷冷した後、三臭化リン1.0 mLを加え3時間攪拌した。反応混合物に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、水層をクロロホルムで5回抽出し、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、蒸留水で4回洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、硫酸ナトリウムをろ別し、ロータリーエバポレーターで濃縮することで化合物(11)を茶色の固体として0.73 g(0.60 mmol)得た。粗収率は91%であった。
【0095】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0096】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.76 (s, 2H), 4.55-4.46 (m, 6H), 4.41 (s, 2H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.85 (t, 9F), -19.58 (s, 6F), -21.17 (s, 6F), -122.21 (s, 6F), -123.05 (s, 6F), -126.20 (s, 6F).
さらに、(11)式の化合物を原料として、以下の反応により本発明の実施例3に係る(12)式の含フッ素単環芳香族化合物を得た。
【0097】
【化35】
【0098】
100 mL三つ口フラスコに、化合物(11) 0.73 g(0.60 mmol)、イミノ二酢酸0.16 g(1.2 mmol)、水酸化カリウム0.96 g(12 mmol)、メタノール20 mLを加え65 ℃で12時間還流した。反応混合物に塩酸を加え、水層をクロロホルムで3回抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、化合物(12)を無色の固体として0.62 g(0.49 mmol)得た。粗収率は82%であった。
【0099】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0100】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.71 (s, 2H), 4.50-4.44 (m, 6H), 4.39 (s, 2H), 3.41(s, 2H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.84 (t, 9F), -119.60 (s, 6F), -121.13 (s, 6F), -122.20 (s, 6F), -123.90 (s, 6F), -126.17 (s, 6F).
【実施例0101】
≪(17)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法≫
(17)式の含フッ素単環芳香族化合物の製造方法について説明する。(17)式の含フッ素単環芳香族化合物は、以下の4工程を経て得ることができる。
【0102】
先ず、(18)式の化合物及び(13)式の化合物を原料として、以下の反応により(14)式の化合物を得た。
【0103】
【化36】
【0104】
50 mL三つ口フラスコに化合物(18)(C6F13CH2OTf) 6.6 g(14 mmol)、化合物(13)(3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル) 1.1 g (6.0 mmol)、炭酸カリウム2.9 g (15 mmol)、DMAc 50 mLを加え、90 ℃で2時間撹拌した。反応混合物に塩化アンモニウム水溶液を加えた後、吸引濾過することで化合物(14)を無色の固体として3.7 g(4.4 mmol)得た。粗収率は74%であった。
【0105】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0106】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.31 (s, 2H), 6.77(s, 1H), 4.55 (t, J = 12 Hz, 6H), 3.94 (s, 3H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.75 (t, 6F), -119.33 (s, 4F), -122.10 (s, 4F), -122.75 (s, 4F), -123.03 (s, 4F), -126.07 (s, 4F).
次に、(14)式の化合物を原料として、以下の反応により(15)式の化合物を得た。
【0107】
【化37】
【0108】
50 mL三つ口フラスコに、化合物(14) 1.2 g (1.5 mmol)、テトラヒドロフラン5.0 mLを加え氷冷し、水素化リチウムアルミニウムを0.15 g (3.8 mmol)加え24時間攪拌した。反応混合物に酢酸エチル、メタノール、塩酸を順次加えた後、クロロホルムを溶媒としてセライトろ過を行った。ろ液の水層をクロロホルムで3回抽出し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、化合物(15)を黄色の液体として1.1 g (1.3 mmol)得た。粗収率は89 %であった。
【0109】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0110】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.65 (s, 2H), 6.47(s, 1H), 4.68(s, 2H), 4.46 (t, J = 13 Hz, 6H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.81 (t, 6F), -119.43 (s, 4F), -122.13 (s, 4F), -122.78 (s, 4F), -123.11 (s, 4F), -126.12 (s, 4F).
次に、(15)式の化合物を原料として、以下の反応により(16)式の化合物を得た。
【0111】
【化38】
【0112】
50 mL三つ口フラスコに、化合物(15) 1.1 g (1.3 mmol)、クロロホルム44 mLを加え氷冷した後、三臭化リンを2.2 mLを加え3時間攪拌した。反応混合物に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、水層をクロロホルムで5回抽出し、有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、蒸留水で4回洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮して、化合物(16)を茶色の固体として0.99 g (1.2 mmol)得た。粗収率は91%であった。
【0113】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0114】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.67 (s, 2H), 6.49(s, 1H), 4.46 (t, J = 12 Hz, 6H), 4.41 (s, 2H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.76 (t, 6F), -119.35 (s, 4F), -122.09 (s, 4F), -122.75 (s, 4F), -123.05 (s, 4F), -126.08 (s, 4F).
さらに、(16)式の化合物を原料として、以下の反応により本発明の実施例4に係る(17)式の含フッ素単環芳香族化合物を得た。
【0115】
【化39】
【0116】
100 mL三つ口フラスコに、化合物(16) 0.99 g(1.2 mmol)、イミノ二酢酸0.32 g (2.4 mmol)、水酸化カリウム1.9 g (24 mmol)、メタノール40 mLを加え65 ℃で12時間還流した。反応混合物に濃塩酸を加え、水層をクロロホルムで3回抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターで濃縮して、化合物(17)を茶色の液体として0.80 g (0.87 mmol)得た。粗収率は72%であった。
【0117】
生成物のNMR測定の結果を以下に示す。
【0118】
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 6.61 (d, J=2.5Hz, 2H), 6.47(t, J = 2.3Hz, 1H), 4.46 (t, J = 14 Hz, 6H), 4.42 (s, 2H), 3.41(s, 2H).
19F NMR (376 MHz, CDCl3): δ -80.77 (t, 6F), -119.45 (s, 4F), -122.17 (s, 4F), -122.81 (s, 4F), -123.12 (s, 4F), -126.15 (s, 4F).
【実施例0119】
≪含フッ素単環芳香族化合物の用途例1≫
図3を参照して、本発明の実施例1から実施例4に係る含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての用途例について説明する。
【0120】
図3は、フルオラス溶媒抽出分離の抽出剤への利用を模式的に示す図である。
【0121】
例えばウラン(U)等の金属イオンMを含む汚染水に、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を含むフルオラス溶媒(C6F14等)を投入することで、金属イオン吸着部位が金属イオンMを吸着し、汚染水から効率良く金属イオンMを分離することができる。
【実施例0122】
≪含フッ素単環芳香族化合物の用途例2≫
図4から図6を参照して、本発明の実施例1から実施例4に係る含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての用途例について説明する。
【0123】
図4から図6は、カラムクロマトグラフィー分離固定相への利用を模式的に示す図である。
【0124】
図4に示すように、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を、不織布やシリカビーズ等に含浸させることで、例えばウラン(U)等の金属イオンMを吸着する吸着材として利用することができる。
【0125】
図5に示すように、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を含浸させた不織布やシリカビーズ等をフッ素系吸着材充填カラム1内に充填することで、二酸化ウランイオン(UO2 2+)や核分裂生成物(FP:Fission Product)等の放射性物質を選択的に吸着して、再利用可能な金属イオンMを分離することができる。
【0126】
また、図6に示すように、本発明の含フッ素単環芳香族化合物の官能基を変えることで、吸着できる金属イオンの種類を選択することができる。例えばアミド系配位子等を官能基に導入した含フッ素単環芳香族化合物を担持したフッ素系吸着材充填カラム1を用いて、ウラン(U),プルトニウム(Pu),マイナーアクチノイド(MA),核分裂生成物(FP)を含む使用済燃料溶解液から、U及びPuを選択的に分離できる。さらに、リン系配位子等を官能基に導入した含フッ素単環芳香族化合物を担持したフッ素系吸着材充填カラム1を用いて、U及びPuが除去された後のMA及びFPを含む使用済燃料溶解液から、MA,FPをそれぞれ選択的に分離できる。
【実施例0127】
≪含フッ素単環芳香族化合物の用途例3≫
図7を参照して、本発明の実施例1から実施例4に係る含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての用途例について説明する。
【0128】
図7は、放射性物質を含む汚染水から各放射性物質を選択的に分離する例を模式的に示す図である。実施例6(図6)の変形例である。
【0129】
図7に示すように、例えばアミド系配位子等を官能基に導入した含フッ素単環芳香族化合物を担持したフッ素系吸着材充填カラム1を用いて、U,Pu,α核種(MA),FPを含む汚染水から、U及びPuを選択的に分離できる。また、リン系配位子等を官能基に導入した含フッ素単環芳香族化合物を担持したフッ素系吸着材充填カラム1を用いて、U及びPuが除去された後のα核種(MA)及びFPを含む汚染水から、α核種(MA)を選択的に分離できる。さらに、イミノ二酢酸系配位子等を官能基に導入した含フッ素単環芳香族化合物を担持したフッ素系吸着材充填カラム1を用いて、U,Pu,α核種(MA)が除去された後のFPを含む汚染水から、トリチウム(3H)と、ストロンチウム(Sr),セシウム(Cs),コバルト(Co),ニッケル(Ni)とをそれぞれ選択的に分離できる。
【0130】
本発明の含フッ素単環芳香族化合物は、官能基を自由に配位することが可能であり、上記のように核種に対応した吸着剤の設計が可能である。
【実施例0131】
≪含フッ素単環芳香族化合物の用途例4≫
図8を参照して、本発明の実施例1から実施例4に係る含フッ素単環芳香族化合物の金属イオン用吸着剤としての用途例について説明する。
【0132】
図8は、電子基板2に代表される、いわゆる都市鉱山からの有用金属や希少金属5の取り出しへの利用を模式的に示す図である。
【0133】
図8に示すように、都市鉱山からの有用金属の再生では、例えば電子基板2を容器3内の王水や硝酸4に漬け込むことで、金や白金族やリチウム、イリジウムなどの有用な金属類を溶解させる。そのため、王水や硝酸4中に溶解した金属資源を効率的に回収する手法が長年の課題となっている。酸化力が極端に強い王水や硝酸を利用するため、強酸に対して耐久性のある吸着剤が必要であり、抽出に対応できる吸着剤が限られる。
【0134】
そこで、本実施例では、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を有用金属・希少金属5が溶解した王水や硝酸4中に投入して、吸着剤として利用する。フルオラス化合物は、王水や硝酸4中においても化学的安定性を示し、また、抽出反応を示すことが知られている。
【0135】
本発明の含フッ素単環芳香族化合物では、官能基を選定することで、有用金属・希少金属の効率的な回収が可能となる。また、吸着剤自体が王水や硝酸に耐性を有するため、吸着・溶離の繰り返し利用が可能である。
【実施例0136】
≪含フッ素単環芳香族化合物の用途例5≫
図9を参照して、本発明の実施例1から実施例4に係る含フッ素単環芳香族化合物の使用済み金属イオン用吸着剤としての再資源化について説明する。
【0137】
図9は、使用済吸着材の再資源化のイメージを模式的に示す図である。
【0138】
亜臨界水等の水熱反応を利用することで、官能基を付加したフッ素系配位子の無機化が可能であるとの知見が得られている。そこで、本発明の含フッ素単環芳香族化合物を用いた使用済み金属イオン用吸着剤を、亜臨界水等の水熱反応によって分解し、無機化したフッ素を蛍石(CaF2)として回収することで再資源化することができる。吸着剤の再資源化により、廃棄物発生量の低減と吸着剤の低コスト化に貢献できる。
【0139】
なお、上記した実施例5から実施例9以外にも、例えば水銀の吸着剤として利用することができる。石炭火力発電所において石炭を燃焼することで、微量に含まれた水銀が大気中に放出されるという環境問題が表面化している。水銀の化学種は、イオン化や合金(アマルガム)化と共に、有機水銀も知られている。ジチオカルバミン酸のキレート反応による水銀吸着反応が知られており、フッ素系配位子と組み合わせることで、より効率的な抽出剤開発への応用が期待できる。
【0140】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0141】
1…フッ素系吸着材充填カラム、2…電子基板(都市鉱山)、3…容器、4…王水・硝酸、5…有用金属・希少金属。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9