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特開2024-63612アレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キット
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  • 特開-アレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063612
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】アレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240502BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240502BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01N33/53 Q
G01N33/543 545A
G01N33/543 525W
G01N33/543 525U
C09K3/00 S
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171700
(22)【出願日】2022-10-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】507161983
【氏名又は名称】ITEA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】山野 裕美
(57)【要約】
【課題】試験材の被測定面に所望の量を供給することが可能で、測定面当たりのアレルゲンの量が不足する恐れもなく、測定面の状態の影響を受け難く、正確に測定でき、再現性も良好なアレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キットを提供する。
【解決手段】アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程と、を有することを特徴とするアレルゲン不活性化評価方法である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、
前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、
前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、
アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、
前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、
前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程と、
を有することを特徴とするアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、予め試験液供給工程前に前記試験液のアレルゲン活性をELISA法にて評価し、前記反応工程後に評価したアレルゲン活性と比較する請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項3】
前記反応工程は、前記2つの枠体の少なくとも小さい枠体上に蓋体を配置して一定時間放置する請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項4】
前記2つの枠体は樹脂製または金属製である請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項5】
前記2つの枠体はリング状である請求項1~4のいずれか1項に記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項6】
前記蓋体は樹脂製または金属製であって自重で変形しない強度を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項7】
前記樹脂は2液型シリコーン(silicone)樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項8】
アレルゲン不活化物質が付与された評価面を有する試験材のアレルゲン不活化効果を評価する測定キットであって、
前記評価面上に入れ子状にして設置可能な大小2つの枠体と、
前記2つの枠体間に充填して硬化させることが可能な樹脂材料と、
前記評価面に接触させる、アレルゲンを含有する試験液と、
前記試験液中のアレルゲン活性をELISA法にて測定可能な測定試薬と、
を含むことを特徴とするアレルゲン不活性化評価用測定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルゲン物質を付与した床材、壁材、壁紙などの建材、その他の製品の抗アレルゲン性の評価試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花粉症などのアレルギー物質によるアレルギー疾患を患っている人は依然として増加傾向にあり、国民の衛生上重要な問題になっている。アレルゲンの種類には食物・薬物・室内のゴミやホコリ(ハウスダスト=ペット類の毛やダニなど)・花粉などがあり、アレルギー疾患を患っている人がアレルゲンに接触すると、アレルギー反応が誘発され、じんましん・皮膚炎・喘息・発熱などを発症する。
【0003】
特に、ダニは生活環境に普通に存在する布団等の寝具や、床材などに生息するが、生体のみならず、死骸片、排泄物もアレルゲンになることが知られている。
【0004】
アレルギー疾患は、アレルゲンの曝露の量や頻度等の増減によって症状の程度に変化が生じるという特徴を有するため、アレルギー疾患を有する者の生活する環境、すなわち周囲の自然 環境及び住居内の環境、そこでの生活の仕方並びに周囲の者の理解に基づく環境の管理等に大きく影響される。したがって、アレルギー疾患の発症や重症化を予防し、その症状を軽減するためには、アレルギー 疾患を有する者を取り巻く環境の改善を図ることが重要である。
【0005】
そこで近年、生活環境を形成する建材が注目され、これに抗アレルゲン物質を付与することで、生活環境に存在するアレルゲンを低減させる試みもなされている。このため、抗アレルゲン物質を付与した抗アレルゲン加工製品の性能を評価する試験方法もいくつか試みられている。
【0006】
文献1には、厚みのある抗アレルゲン加工製品や硬質の抗アレルゲン加工製品の抗アレルゲン性能を、実際の使用条件に近い量のアレルゲンを含有する試験液を用いて簡易かつ短時間に試験することができ、さらに再現性と測定感度の高い試験が可能な抗アレルゲン加工製品の抗アレルゲン性能の試験方法を提供することを目的として、以下の工程(a)~(c):(a)アレルゲンを含有する試験液を抗アレルゲン加工製品の被測定面に供給する工程、(b)試験液を供給した抗アレルゲン加工製品の被測定面に被覆フィルムを被せ、被覆フィルムと被測定面との間に試験液を広げた状態で、試験液のアレルゲンと抗アレルゲン加工製品の被測定面の抗アレルゲン剤とを反応させる工程、および(c)反応後の試験液を回収し、試験液中のアレルゲンの抗原性を測定する工程を含むことを特徴とする抗アレルゲン加工製品の抗アレルゲン性能の試験方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-047778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献1に記載された従来技術は、アレルゲンを含有する試験液を抗アレルゲン加工製品の被測定面に滴下して供給しているが、試験液は流動性を有するため、被測定面に広がって、一定以上の量を供給することが困難である。また、測定面の状態の影響を受けやすく、凹凸や溝があるものは正確に測定し難いという問題があった。
【0009】
さらに、試験液を供給した抗アレルゲン加工製品の被測定面に被覆フィルムを被せ、被覆フィルムと被測定面との間に試験液を広げた状態で、試験液のアレルゲンと抗アレルゲン加工製品の被測定面の抗アレルゲン剤とを反応させているが、試験液と被覆フィルムが接触しているため、アレルゲンに対する被覆フィルムの影響を排除できないばかりか、上記のように試験液が被測定面に広がることを助長して、被測定面に接する試験液の量が減少し、測定面当たりのアレルゲンの量が不足する恐れがある。また、被覆フィルムにも試験液が付着してしまい、回収できる試験液の量が少なくなってしまうという問題があった。被測定面に接する試験液の量が減少し、試験に供するアレルゲンの量が不足し、回収できる試験液の量が少なくなると、再現性にも影響が生じ、正確な評価が困難になる。
【0010】
本発明の目的は、試験材の被測定面にアレルゲンを含有する試験液を所望の量で供給することが可能で、測定面当たりのアレルゲンの量が不足する恐れもなく、測定面の状態の影響を受け難く、正確に測定でき、再現性も良好なアレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、アレルゲン不活性化物質が付与された試験材の評価面上に、大小2つの枠体を入れ子状に配置して、この枠体間に流動性を有する樹脂を導入して硬化させることで、小さい枠体内にアレルゲンを含有する試験液を所望の量だけ保持することが可能になり、反応後の試験液の回収も容易になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のアレルゲン不活性化評価方法は、アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程とを有するものである。
本発明のアレルゲン不活性化評価方法においては、前記評価工程は、予め試験液供給工程前に前記試験液のアレルゲン活性をELISA法にて評価し、前記反応工程後に評価したアレルゲン活性と比較することが好ましい
また、前記反応工程は、前記2つの枠体の少なくとも小さい枠体上に蓋体を配置して一定時間放置するとよい。
また、前記2つの枠体は樹脂製または金属製であることが好ましい。
また、前記2つの枠体はリング状であることが好ましい。
さらに、前記蓋体は樹脂製または金属製であって自重で変形しない強度を有することが好ましい。
また、前記樹脂は2液型シリコーン(silicone)樹脂が好ましい。
また、本発明方法は以下のアレルゲン不活性化評価用測定キットにより好ましく実施することができる。
本発明のアレルゲン不活性化評価用測定キットは、アレルゲン不活化物質が付与された評価面を有する試験材のアレルゲン不活化効果を評価する測定キットであって、
前記評価面上に入れ子状にして設置可能な大小2つの枠体と、
前記2つの枠体間に充填して硬化させることが可能な樹脂材料と、
前記評価面に接触させる、アレルゲンを含有する試験液と、
前記試験液中のアレルゲン活性をELISA法にて測定可能な測定試薬と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試験材の被測定面にアレルゲンを含有する試験液を所望の量で供給することが可能であり、測定面当たりのアレルゲンの量が不足する恐れもなく、測定面の状態の影響を受け難く、正確に測定でき、再現性も良好なアレルゲン不活性化評価方法およびアレルゲン不活性化評価用測定キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明方法に用いられる枠体の構成を示す模式図である。
図2図2は本発明方法に用いられる2つの枠体が入れ子状に配置された構成を示す模式図である。
図3図3は本発明方法の試験手順を示した模式図である。
図4図4は試験材上に枠体を配置して試験液を供給した状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアレルゲン不活性化評価方法は、アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程とを有するものである。
【0016】
試験材としては、アレルゲン不活性化物質が付与されたものであれば、板状でもフィルム状でも、ブロック状であってもよいが、本発明を適用できる評価面を有することが必要である。また、その表面は平坦であることが望ましいが、最低部位と最高部位の高低差が好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは1mm以下の凹凸を有していてもよい。
【0017】
試験材の材質としては、一定の表面積を有し、アレルゲン不活性化物質が付与可能なものであれば、木質材料、紙質材料、金属材料、樹脂材料、ガラス材、セラミック材料などの中から好適なものを選択して用いることができる。これらのなかでも、建材など居住空間に用いられるような壁材、床材、天井材などに用いられる木質材料、壁紙、障子紙、襖紙などの紙質材料、壁紙として用いられる樹脂フィルム材料などが好ましい。
【0018】
試験材が建築用内装材である場合には、例えばコーティング剤、塗料等によって建築用内装材の表面加工を行い、表面にアレルゲン不活性化物質を付与すればよい。建築用内装材としては、塩ビ等の樹脂を用いた壁紙、天井材、合板等の木質材料、床材等が挙げられる。アレルゲン不活性化物質を付与する表面加工は、例えば水溶性または水性のコーティング剤や塗料に、アレルゲン不活性化物質を添加した表面加工剤を用いて、建築用内装材の表面にコーティングすることによって、容易かつ効果的に行うことができる。
【0019】
建築用内装材等の被加工材の表面にアレルゲン不活性化物質を付与する手段としては、付与するアレルゲン不活性化物質の特性に適合した付与手段を用いればよいが、例えばアレルゲン不活性化物質を溶解ないし分散した塗料を塗布して塗膜を形成してもよいし、アレルゲン不活性化物質を溶解ないし分散した溶剤に被加工材を浸漬して表面に塗布してもよい。また、被加工材が樹脂材料であれば、樹脂材料中に直接アレルゲン不活性化物質を分散させてもよい。さらに、樹脂フィルム材料であれば、多層積層体の一層にアレルゲン不活性化物質を含有する層を設けてもよい。
【0020】
アレルゲン不活性化物質としては、特に限定されるものではなく、アレルゲン抑制作用を有する成分として公知の物質等を用いることができ、その種類は特に限定されないが、例えば、アレルゲン物質を抑制する極性部位を化学構造として有するものを用いることができる。アレルゲン不活性化物質として具体的には、例えば、フェノール性水酸基を有する非水溶性高分子、あるいは、アニオン系界面活性剤、水酸基を有する化合物または高分子、金属塩等を無機担体に担持した微粒子等が挙げられる。具体的には、柿渋等の天然抽出物、タンニン酸、カテキンおよびメチル化カテキン、ジヒドロキシ安息香酸や2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシ安息香酸系化合物またはその塩、パラヒドロキシポリスチレンやポリスチレンスルホン酸塩等のポリスチレン系化合物、非水溶性亜鉛化合物あるいは非水溶性亜鉛・金属酸化物の複合粒子、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、光触媒酸化チタン、カルシウム塩やストロンチウム塩等の無機塩系化合物などが挙げられる。
【0021】
本発明方法に用いられる枠体としては、所定の高さと強度を有し、入れ子状に配置可能な大小2つの枠体であれば、材質、形状、大きさなどは特に限定されるものではない。しかしながら、試験液の供給、回収が容易な形状を考慮すると、平面視において角の無い円形(環状)ないし円形に近い形状(例えば楕円形など)が好ましいい。枠体の高さや大きさは、試験液の量により決定すればよいが、例えば大きい枠で高さ:5~50mm程度、直径:10~100mm程度の間で調整するとよい。枠体を板状部材で形成する場合、その厚みは形状を保てる程度であればよく、たとえばSUSなどの金属材料では厚さ0.2~1.5mm程度にすればよい。また、材質としては、金属、樹脂等が好ましく採用され、特に金属板を環状に丸めたものや、環状に成形された樹脂材料などが好ましく採用される。
【0022】
本発明方法に用いる枠体は大小2つの枠体が必要であり、大きい枠体に対する小さい枠体の大きさは、直径の比に換算して50~80%、あるいは入れ子状に配置したときに2つの枠体間の間隙が5~30mm程度になるようにするとよい。また、枠体間の間隙は後述する導入する流動性を有する樹脂材料の粘性などの特性によって決定してもよい。枠体間の間隔は部位によって多少偏倚していてもよく、間隙間の偏りが30%以内程度であれば許容される。
【0023】
具体的な枠体の大きさとしては、特に限定されるものではないが、環状の枠体の場合小さい枠体が直径:30~80mm、大きい枠体が直径:45~100mm程度、高さ:5~30mm程度である。
【0024】
上記枠体間に供給する樹脂としては、反応前の状態で流動性を有して枠体間の間隙内で流動して拡散し、反応後に硬化する樹脂であれば特に限定されるものではないが、使用する枠体を腐食することなく、試験液のアレルゲンや試験片のアレルゲン不活性化物質に悪影響を与えないものが望ましいい。
【0025】
具体的にはフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン(PUR)等の熱硬化性樹脂が好ましく、これらの単量体(プレポリマー)に硬化剤(架橋剤・重合開始剤)を添加して硬化させるタイプのものが好ましい。また、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などをUV等の光により硬化するタイプの樹脂を使用することも可能であるが、枠体の影の部分が硬化し難く、試験液の液漏れなどを生じる懸念がある。
【0026】
上記樹脂の中でも主剤と硬化剤(架橋剤、重合開始剤)との2液を混合して硬化させるエポキシ樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、特にシリコーン樹脂は枠体を腐食する作用が少なく、試験液のアレルゲンや試験片のアレルゲン不活性化物質に悪影響を与え難い点でより好ましい。
【0027】
アレルゲン不活性化物質の評価に使用するアレルゲンとしては、食物・薬物・室内のゴミやホコリ(ハウスダスト=ペット類の毛やダニなど)・花粉などが挙げられるが、入手の容易性や再現性の点で市販されている花粉やダニのアレルゲンが好ましい。また、ダニ類の中でも、ヒョウヒダニ類が好ましく、特にコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)とヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)は代表的な種であり、これら由来のアレルゲンは住環境中に存在するため、建材などに付与されたアレルゲン不活性化物質の評価に適している。コナヒョウヒダニおよびヤケヒョウヒダニの具体的なアレルゲンとしては、Der f1/Der p1がアレルギー性疾患に主要なアレルゲンである。また、これら以外にも、死骸由来のDer f2/Der p2もアレルゲンとなる。また、スギ花粉アレルゲン:Cry j1、Cry j2、犬アレルゲン:Can f1、ネコアレルゲン:Fel d1なども使用できる。
【0028】
これらのアレルゲンは市販されているものがあり、例えばダニ抽出物(製品No.10102、ITEA製)、スギ花粉抽出物(製品No.10103、ITEA製)、イヌ被毛・上皮粗抽出物(製品No.10105、ITEA製)、ネコ被毛・上皮粗抽出物(製品No.10109、ITEA製)等があるので、これらの市販品を用いることもできる。
【0029】
アレルゲンは液体中に分散されて試験液として評価試験に供される。アレルゲンを分散する液体としては、アレルゲンを失活又は変性させないものであればよく、精製水、イオン交換水などの水や生理食塩水を用いることも可能であるが、タンパク質を安定に保存可能な公知の緩衝液を用いるとよい。具体的にはリン酸緩衝液(pH7.2~7.4)などが挙げられる。また、吸着の影響を防ぐ目的で、界面活性剤を添加してもよい。
【0030】
前記試験液に含まれるアレルゲン含量については、特に制限されないが、例えば、0.5~1000ng/ml、好ましくは1~200ng/mlが挙げられる。
【0031】
次に、本発明方法についてより詳細に説明する。本発明のアレルゲン不活性化評価方法は、アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程とを有するものである。
【0032】
(枠体配置工程)
アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する。試験材としては上記で挙げたものを用いることができ、その大きさや厚みに関しては特に制限はなく、枠体を配置できる大きさ以上であればよい。大小2つの枠体は入れ子状に配置するが、枠体が環形状のものであれば、同心状に配置すればよい。
【0033】
(樹脂硬化工程)
前記入れ子状に配置された大小2つの枠体に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる。硬化させる樹脂は、枠体間の間隙に導入するときには流動性を有し、所定時間経過後に硬化するように調整する。このため、2液型(主剤と架橋剤ないし硬化剤)の樹脂が好ましく用いられる。2液型の樹脂は、2液を混合した時点から反応が開始するので、効果までの時間を考慮して、間隙内に均一に樹脂が供給されるようにして、間隙内に樹脂が存在しない部位が生じないようにしなければならない。間隙内に供給する樹脂の量としては、枠体内の試験液が漏れない程度であればよいが、好ましくは枠体の高さ1/4以上、より好ましくは1/3以上が埋まる量を供給すればよく、その上限は枠体の高さ未満である。
【0034】
(試験液供給工程)
アレルゲンを含有する試験液を前記小さい枠体内に供給する。試験液の供給量としては、特に限定されるものではなく、評価に必要なアレルゲンを供給できる量であればよく、評価対象となる試験材の使用環境中のアレルゲン存在量や、試験液に含まれるアレルゲン量等に応じて適宜設定すればよい。
【0035】
具体的には、評価面1cm2当たり、アレルゲン量が0.05~50ng、好ましくは0.08~20ngとなるように設定すればよい。また、小さい枠体内の評価面が試験液で覆われる量に設定することが重要である。例えば内径45~50mmの枠体の場合、2~3ml以上であればよい。
【0036】
評価面に、試験液を供給する方法については、特に制限されず、例えば、評価面に試験液を滴下又は噴霧すればよい。また、試験液を供給した後に、必要に応じて、軽い振動を与えて、試験液が評価面でより均一になるようにしてもよい。
【0037】
(反応工程)
前記小さい枠体内に供給された試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる。反応のための反応温度は特に限定されるものではなく、アレルゲンであるタンパク質が変性する温度以下であればよく、例えば5℃~30℃、好ましく10℃~25℃の範囲で調整すればよい。反応時間も特に限定されるものではなく、例えば5分から24時間の間で調整すればよい。
【0038】
本発明では反応工程において、試験液の蒸発を防ぎ、外部環境の影響を排除する目的から、少なくとも小さい枠体上に蓋体を配置してもよい。蓋体は、金属、樹脂、ガラスなどにより形成することができるが、少なくとも自重で変形して枠内に垂れ下がり、試験液と接触しない程度の強度を有する材質と形状であることが必要である。蓋体の大きさは、少なくとも小さい枠体の上部を覆うことができる大きさ以上であればよい。ここで重要なのは、枠体により蓋体が試験液面より高い位置に保持され、試験液と接触して、試験液に悪影響を与えることがなく、試験液が付着して回収される試験液の量が減少することがないという点である。
【0039】
(評価工程)
前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する。試験液の回収方法については、小さい枠体内の試験液を回収できる方法であれば、特に限定されるものではない、例えば、溶液洗浄法、吸引による回収法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0040】
溶液洗浄法とは、アレルゲンを変性させない溶液で、試験材の評価面を洗い流して、試験液を回収する方法である。アレルゲンを変性させない溶液としては、例えば、リン酸緩衝液等の各種緩衝液、精製水、イオン交換水、水道水、生理食塩水等が挙げられるが、前記試験液の溶媒と同じ組成の溶媒を使用することが望ましい。
【0041】
また、吸引による回収法は、ピペット、シリンジ等を使用して吸引により試験液を回収する方法である。これらの回収法の中でも、再現性をより高めるという観点から、吸引による回収法が好ましい。
【0042】
回収された試験液中のアレルゲン活性(抗原性)の評価方法については、特に制限されないが、例えば、酵素免疫法(ELISA;Enzyme-linked immunosorbent assay)、イムノクロマト法等が挙げられる。これらの中でも、アレルゲン活性を高精度に定量するという観点から、酵素免疫法が好ましい。なお、使用するアレルゲンに応じてELISAキットやイムノクロマトキットが市販されており、これらの市販品を使用して、アレルゲン活性を測定、評価することができる。酵素免疫法による試験方法は公知の手法に従えばよい。
【0043】
測定されたアレルゲン活性(抗原性)により、残存しているアレルゲン量を算定することができ、試験材に付与されたアレルゲン不活性化物質の抗アレルゲン性能が評価できる。つまり、残存しているアレルゲン量が少ない程、アレルゲン不活性化物質の抗アレルゲン性能が高いと評価できる。
【0044】
このとき、使用した試験液中のアレルゲン量に対して試験後に減少したアレルゲン量の割合を不活化率(%)として算出することにより、試験材が備えるアレルゲン不活性化性能を客観的に数値化することもできる。
【0045】
本発明では、上記で示した機材、試験薬品を一まとめにして、アレルゲン不活化物質が付与された評価面を有する試験材のアレルゲン不活性化評価用測定キットとして実施してもよい。すなわち、前記評価面上に入れ子状にして設置可能な大小2つの枠体と、前記2つの枠体間に充填して硬化させることが可能な樹脂材料と、前記評価面に接触させる、アレルゲンを含有する試験液と、前記試験液中のアレルゲン活性をELISA法にて測定可能な測定試薬と、を含むキットとしてもよい。
【実施例0046】
次に実施例を示して本発明方法をより具体的に説明する。
(1)樹脂の作成
2液型樹脂としてPROSIRICONE PLATINUM(エングレービングジャパン社製)HTV-2000の(A)剤と(B)剤とを1:1の割合で、一つのリングの間隙につき約2g(A2g+B2g)となるよう配合して、約2分間混合した。
【0047】
(2)試験器材の用意
試験材としてアレルゲン不活化物質が付与されたフローリング材を、6枚用意した。
(ア)図1に示すような大きさの大小2つのリング状の枠体2a、2bを各6個用意し、図2に示すような入れ子状になるように各試験材(図示せず)の上に載置した。このとき小さい枠体の大きさは内径φ1:45~50mm、高さH:18mm、厚さW:0.5mm、大きい枠体の大きさは内径φ2:60~65mm、高さH:18mm、厚さW:0.5mmとした。各枠体の材質はステンレス鋼とした。
(イ)次に、図2に示すように大小2つのリング状の枠体2a、2bの間隙3に上記(1)で作成した樹脂材料であるシリコーン(A剤とB剤を混ぜたものを約4g/リング)を、枠体の1/3以上が埋まるように均一に流し込んだ。
(3)その後、樹脂材料が導入された枠体を8時間放置し、樹脂材料を硬化させた。
【0048】
(3)アレルゲン試験
(a)Derf1(ITEA製、ダニ(Df)培地抽出物(製品No.10102、))アレルゲンをリン酸緩衝液PBS-Tに溶解し、100ng/mlの試験液となるアレルゲン溶液を調整した。
(b)得られた試験液を、マイクロピペット(図示せず)を用いて一つの枠体につき2~3mlずつ小さい枠体内の評価面上に供給し(図3)、図4に示すように6枚の試験材全てに供給した。
(c)前記枠体2a、2b上に蓋体としてプラスチックシャーレ(図示せず)を被せ、溶液の蒸発を防ぎ、周囲環境から保護した。
(d)その後、室温にて6時間静置し、反応させた。
(e)反応後の試験液を、マイクロピペット(図示せず)を用いてLoBind(登録商標) tubeに回収した。
(f)回収した試験液を図3に示すように遠心分離機にセットし、4℃ 8000rpmで10分遠心分離させた。
(g)遠心分離処理後の試験液の上清を、マイクロピペットを用いて回収した。
(h)回収した試験液を1%BSA-PBS-Tにて5倍に希釈した。
(i) 希釈後の試験液をサンプル1とし、ダニアレルゲン(Der f 1)ELISAキット(製品No.10205、ITEA製)を用いてアレルゲン量(ng)を測定した。同様にして調整した試験前の試験液を比較サンプルとしてアレルゲン量(ng)を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
表1から明らかなように本発明方法によりアレルゲン不活性化物質の効果が確認できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の方法は、アレルゲン不活性化物質が付与された、木質材料、紙質材料、金属材料、樹脂材料、ガラス材、セラミック材料などの建材その他の試験材のアレルゲン活性評価に有効である。
【符号の説明】
【0051】
1 試験材
2a 枠体(小)
2a 枠体(大)
3 間隙
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン不活性化物質が付与された評価面を有する試験材を用意し、
前記評価面上に大小2つの枠体を入れ子状に配置する枠体配置工程と、
前記2つの枠体間に流動性を有する樹脂材料を導入して硬化させる樹脂硬化工程と、
アレルゲンを含有する試験液を前記大小2つの枠体の小さい枠体内に供給する試験液供給工程と、
前記小さい枠体内に供給された前記試験液を一定時間放置して前記アレルゲン不活性化物質と反応させる反応工程と、
前記試験液を回収してELISA法にてアレルゲン活性を評価する評価工程と、
を有することを特徴とするアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項2】
前記評価工程は、予め試験液供給工程前に前記試験液のアレルゲン活性をELISA法にて評価し、前記反応工程後に評価したアレルゲン活性と比較する請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項3】
前記反応工程は、前記2つの枠体の少なくとも小さい枠体上に蓋体を配置して一定時間放置する請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項4】
前記2つの枠体は樹脂製または金属製である請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項5】
前記2つの枠体はリング状である請求項1~4のいずれか1項に記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項6】
前記蓋体は樹脂製または金属製であって自重で変形しない強度を有する請求項記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項7】
前記樹脂材料は2液型シリコーン(silicone)樹脂である請求項1記載のアレルゲン不活性化評価方法。
【請求項8】
アレルゲン不活化物質が付与された評価面を有する試験材のアレルゲン不活化効果を評価する測定キットであって、
前記評価面上に入れ子状にして設置可能な大小2つの枠体と、
前記2つの枠体間に充填して硬化させることが可能な樹脂材料と、
前記評価面に接触させる、アレルゲンを含有する試験液と、
前記試験液中のアレルゲン活性をELISA法にて測定可能な測定試薬と、
を含むことを特徴とするアレルゲン不活性化評価用測定キット。