(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063619
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20240502BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240502BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
F16L59/065
B32B7/027
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171708
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】棟田 琢
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 誠
【テーマコード(参考)】
3H036
4F100
【Fターム(参考)】
3H036AB33
3H036AC03
3H036AE01
4F100AA01B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AB10B
4F100AK42A
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100DD32
4F100JJ02
4F100YY00A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを有する基材1と、基材の少なくとも一方の面に配置され、無機物から構成される無機層2と、を有するフィルムを有する真空断熱材用外包材10であって、ポリエチレンテレフタレート基材のラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下である、真空断熱材用外包材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを有する基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置され、無機物から構成される無機層と、を有するフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、
前記基材のラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下である、真空断熱材用外包材。
【請求項2】
前記無機層を構成する無機物が、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはケイ素酸化物である、請求項1に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項3】
芯材と、前記芯材が封入された外包材とを有する真空断熱材であって、
前記外包材が、請求項1または請求項2に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。
【請求項4】
熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、
前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材が封入された外包材とを有し、
前記外包材が、請求項1または請求項2に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の省エネルギー化を目的として、真空断熱材が用いられている。真空断熱材は、外包材の袋体内に芯材が配置され、上記袋体内が大気圧よりも圧力が低い真空状態に保持されている部材であり、内部の熱対流が抑制されるため、良好な断熱性能を発揮することができる。なお、真空断熱材に用いられる上記外包材のことを、真空断熱材用外包材、または単に外包材と称して説明する。
【0003】
真空断熱材が高温に曝される場合、初期熱伝導率が低い真空断熱材であっても、断熱性能が経時的に低下するという問題がある。このような問題に対し、例えば、特許文献1には、雰囲気の温度が20℃の際の真空断熱材用外包材の寸法を基準とした場合に、雰囲気の温度を20℃から145℃まで変化させ、雰囲気の温度を145℃に1時間保持した後に、雰囲気の温度を145℃から20℃まで変化させた際の真空断熱材用外包材の寸法変化率が1%以下である真空断熱材用外包材が開示されている。このように真空断熱材用外包材の寸法変化率が特定の範囲内であることにより、高温においても高いガスバリア性能を維持することができる外包材となり、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能となることが記載されている。一方、上記特許文献1には、寸法変化率が低い材料に関する指針は明確にされていない。
【0004】
特許文献2には、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成するために、真空断熱材用外包材の高温環境での寸法変化率を小さくすることを目的として、熱溶着可能なフィルムと、ガスバリアフィルムとを少なくとも有する真空断熱材用外包材であって、熱溶着可能なフィルムが、非晶性の共重合ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする真空断熱材用外包材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-180822号公報
【特許文献2】特開2017-210986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材等を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ポリエチレンテレフタレートを有する基材と、上記基材の少なくとも一方の面に配置され、無機物から構成される無機層と、を有するフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、上記基材のラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下である、真空断熱材用外包材を提供する。
【0008】
また、本開示は、芯材と、上記芯材が封入された外包材とを有する真空断熱材であって、上記外包材が、上述した真空断熱用外包材である、真空断熱材を提供する。
【0009】
また、本開示は、熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、上記真空断熱材は、芯材と、上記芯材が封入された外包材とを有し、上記外包材が、上述した真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の真空断熱材用外包材の一例を示す概略断面図である。
【
図2】結晶性高分子の結晶部および非晶部の積層構造の概略図である。
【
図3】PET基材のラメラ周期と寸法変化の関係を示すグラフである。
【
図4】本開示の真空断熱材用外包材の別の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本開示の真空断熱材用外包材の別の一例を示す概略断面図である。
【
図6】本開示の真空断熱材の一例を示す概略斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品を実施態様に含む。以下、本開示の実施態様を、図面等を参照しながら説明する。但し、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に例示する実施の態様の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。また、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明する場合があるが、上下方向が逆転してもよい。
【0013】
また、本明細書において、ある部材又はある領域等のある構成が、他の部材又は他の領域等の他の構成の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限り、これは他の構成の直上(又は直下)にある場合のみでなく、他の構成の上方(又は下方)にある場合を含み、すなわち、他の構成の上方(又は下方)において間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0014】
外包材には、外部から水蒸気、酸素等のガスが断熱材内部へ透過することを防止するためのガスバリア性能、芯材を覆って密着封止するための熱接着性能等の種々の機能が要求される。したがって、上記外包材は、これらの各機能特性を有する複数のフィルムを有する積層体として構成されるものとなる。一般的な外包材の態様としては、熱溶着可能なフィルム、ガスバリアフィルムおよび保護フィルムが積層されてなるものである。また、外包材に用いられるガスバリアフィルムとして、樹脂基材と、樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置されるガスバリア層とから構成されるフィルムが用いられる場合がある。
【0015】
本願の発明者らは、外包材が高温に曝された場合において、外包材を構成する複数層の中でも、ガスバリアフィルムの樹脂基材の伸縮が、ガスバリア層の劣化に影響を及ぼし、外包材のガスバリア性能に直接影響を及ぼすことを知見した。例えば、上記樹脂基材の寸法が縮むと、上記ガスバリア層にも圧縮応力がかかり、また、上記樹脂基材の寸法が伸びると、ガスバリア層にも引張応力がかかるため、ガスバリア層にクラックが生じ、ガスバリアフィルムのガスバリア性能が低下する。このような樹脂基材の熱による伸縮が真空断熱材内部の真空度を低下させることに起因していると推測される。
【0016】
本願の発明者らは、温度変動に対する寸法変化を抑制できる樹脂基材の材料について検討した。その結果、特定のラメラ周期を有するポリエチレンテレフタレートを有する基材(以下、PET基材とする場合がある。)が、温度変動に対する寸法変化が小さいことを見出した。具体的には、後述する高温保持前後の寸法変化率、更には、昇温過程、恒温過程および降温過程の各工程における寸法変化率が小さいことを見出した。そして、特定のラメラ周期を有するPET基材をガスバリアフィルムの樹脂基材として用いることにより、高温においても高いガスバリア性能を維持することができ、長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材となることを見出した。
【0017】
以下、本開示の真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品についてそれぞれ説明する。
【0018】
A.真空断熱材用外包材
図1は、本開示の真空断熱材用外包材の一例を示す概略断面図である。本開示の真空断熱材用外包材10は、PET基材1と、上記PET基材1の少なくとも一方の面に配置され、無機物から構成される無機層2と、を有するフィルム3を有する。本開示においては、上記PET基材のラメラ周期(PET基材を構成するポリエチレンテレフタレートのラメラ周期、以下、同様の意味で用いる。)が13.0nm以上、16.0nm以下である。
【0019】
本開示によれば、上記フィルム(以下、ガスバリアフィルムとする場合がある。)の樹脂基材として、所定の範囲のラメラ周期を有するポリエチレンテレフタレート(以下、PETとする。)で構成されたPET基材を用いることにより、PET基材の温度変動に対する寸法変化が抑制され、高温に曝された際に上記無機層にクラックが発生することを抑制することができる。そのため、高温においても高いガスバリア性能を維持することができ、長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材となる。
【0020】
以下、本開示における真空断熱材用外包材の各構成及び特性について、詳細に説明する。
【0021】
1.ガスバリアフィルム
本開示におけるガスバリアフィルムは、PET基材と、上記PET基材の少なくとも一方の面に配置され、無機物で構成された無機層と、を有する。
【0022】
1-1.PET基材
本開示における真空断熱材用外包材は、後述する無機層を支持するための樹脂基材として、PET基材を含有する。PET基材は、PETを主体とする。ここで、「主体とする」とは、基材構成成分の中で最も含有割合が高い成分を意味する。
【0023】
(1)ラメラ周期
本開示におけるPET基材は、ラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下であり、13.0nm以上、15.0nm以下が好ましく、14.0nm以上、15.0nm以下がより好ましい。
【0024】
本開示におけるPET基材のラメラ周期は、小角X線測定(SAXS)により得られるX線プロファイルから求めることができる。
図2に示すように、一般的に、結晶性高分子は、結晶部21と非晶部22との繰り返しからなる規則的な積層構造(周期構造)を有する。ここで、結晶部21と非晶部22からなる繰り返し単位の大きさをラメラ周期L(長周期長)という。このラメラ周期Lは、小角X線散乱法により測定される長周期構造に由来する散乱ピーク位置から求めることができる。
【0025】
<結晶構造の測定>
(サンプルの作製)
PET基材を、1cm(MD方向)×1cm(TD方向)の矩形にカットする。
【0026】
(測定装置)
Xenocs社製 NANO-inXider
(測定条件)
・波長:Cu Kα1線(1.54Å)
・X線発生器出力:50kV-0.6mA
・観察モード:透過
・積算時間:10分
・検出器:PILATUS 200K
・サンプルサイズ:1cm×1cmの矩形
・サンプルはMD方向が検出器の子午線方向となるよう設置
【0027】
上記測定装置により、Cu Kα1線をサンプルに照射し、検出器において2次元散乱パターンを得る。得られた2次元散乱パターンから散乱ベクトルq=0.1/nm-1以上の領域にある散乱ピーク強度の極大点とビーム中心とを結んだ直線と子午線方向がなす角を主方位角方向とし、主方位角から方位角±5度の領域内にあるスペクトルを方位角方向に積分して1次元散乱スペクトルを抽出する。1次元散乱スペクトルのピーク位置をqLとすると、主方位角方向におけるラメラの繰り返し構造のラメラ周期(長周期長)LはL=2π/qLと求まる。
【0028】
ここで、
図3(a)は、ラメラ周期が長いPET基材1、およびラメラ周期が短いPET基材2を、高温に曝した際のPET基材の寸法変化(伸縮)を示すグラフである。また、
図3(b)はPET基材1のラメラ構造の概略図、
図3(c)はPET基材2のラメラ構造の概略図である。
図3(a)に示すように、PET基材1は、昇温過程および降温過程における寸法変化が大きい。これは、後述するように、同程度の結晶化度のフィルム間の比較においては、ラメラ周期が長いことは、ガラス転移以上および融点以下の高温に曝された場合に大きく流動する領域が大きいことを意味し、これにより熱膨張係数が大きくなるためであると推察される。なお、PET基材1は、昇温過程、恒温過程および降温過程を経た高温保持前後の寸法変化率は比較的小さい。
【0029】
図3(a)に示すように、PET基材2は、昇温過程および降温過程における寸法変化が小さい。また、昇温過程、恒温過程および降温過程を経た場合(高温保持前後)における寸法変化が大きい。具体的には、昇温すると寸法が伸びるものの、その後昇温中に収縮し、恒温過程においても収縮する。更にその後、降温過程において収縮する。同程度の結晶化度のフィルム間の比較においては、ラメラ周期が短いことはガラス転移以上および融点以下の高温に曝された場合に大きく流動する領域が小さいことを意味する。これは、ガラス転移以上および融点以下の高温において大きく流動できるのは非晶部の中でも特に結晶部に近接した領域を除く非晶部に限られるため、ラメラ周期が短いものほど結晶部に近接した非晶部の領域が多くなり、ガラス転移温度以上融点以下の高温域において大きく流動する領域が小さくなるためである。PET基材2が昇温過程および降温過程における寸法変化が小さくなるのは、ガラス転移温度以上および融点以下の高温に曝された場合に、大きく流動できる領域が小さいため、熱膨張係数が小さくなることが理由と推察される。また、PET基材2が昇温過程、恒温過程および降温過程を経た場合(高温保持前後)における寸法変化が大きいのは、PET基材2が製造される過程のガラス転移以上の温度域において大きく流動できる領域が少ないために、構造の歪みが解消されず残存することになり、それが、例えば室温のように全領域が流動性を失う低温域においても残存していることが理由と推察される。
【0030】
なお、PET基材1のようにラメラ周期が長い場合には、元々が歪みが少ない構造を有しているため、昇温過程では伸長し、降温過程では収縮するような復元性を示し、高温保持前後の寸法変化率は比較的小さくなる。
【0031】
一方、本開示においては、PET基材のラメラ周期が上記範囲内であることにより、温度変動に対する寸法変化が抑制される。具体的には、PET基材の高温保持前後の寸法変化率、および昇温過程、恒温過程および降温過程の各工程における寸法変化率を低減できる。従って、このような特定のPET基材をガスバリアフィルムの樹脂基材として用いることにより、高温においても高いガスバリア性能を維持することができ、長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材となる。
【0032】
本開示におけるPET基材は、未延伸であってもよく、一軸または二軸延伸されたものであってもよいが、二軸延伸されたものであることが好ましい。二軸延伸PET基材の延伸方向は特には限定されない。例えば、MD方向及びTD方向において延伸されていてもよい。
【0033】
PET基材のラメラ周期を上記範囲とする方法としては、アニーリングする温度を調整する方法や、溶融状態から結晶化させるときの冷却速度を調整する方法がある。例えばアニーリングする温度を高温にするとラメラ周期は長くなり、低温にするとラメラ周期は短くなる傾向にある。また溶融状態から結晶化させるときの冷却速度を遅くするとラメラ周期は長くなり、速くするとラメラ周期は短くなる傾向にある。
【0034】
また、ラメラ周期が上記範囲内である市販のPETを入手し、これをPET基材として使用してもよい。ラメラ周期が上記範囲内であるPETとしては、例えば、PT10(中国三房巷社製)が挙げられる。一方、市販のPETの多くは、ラメラ周期が上記範囲よりも小さい。例えば、CB981(KOLON社製)はラメラ周期が12.3nmである。
【0035】
本開示におけるPET基材の結晶化度は、特に限定されないが、例えば、20%以上、40%以下であり、25%以上、35%以下であってもよい。
【0036】
(2)寸法変化率
本開示におけるPET基材は、温度変動に対する寸法変化が小さい。具体的には、雰囲気の温度が20℃の際の上記PET基材の寸法を基準とした場合に、上記雰囲気の温度を20℃から145℃まで変化させ、上記雰囲気の温度を145℃に1時間保持した後に、上記雰囲気の温度を145℃から20℃まで変化させた際の上記PET基材の寸法変化率(以下、「高温保持前後のPET基材の寸法変化率」とする場合がある。)が、例えば、1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。
【0037】
ここで、特許文献1には、高温保持前後の外包材の寸法変化率が1%以下、好ましくは0.5%以下であることにより、外包材が熱に曝された場合でも、ガスバリア層にかかる応力を抑制することができるため、ガスバリア層へのクラックの発生を抑制することができることが開示されている。従って、上記高温保持前後のPET基材の寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が熱に曝された場合でも、無機層(ガスバリア層)にかかる応力を抑制することができ、無機層(ガスバリア層)へのクラックの発生を抑制することができ、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な外包材とすることができると考えられる。中でも、ガスバリア性能の中でも水蒸気バリア性能は、主に、ガスバリアフィルムを構成するガスバリア層により発揮されるところ、PET基材の寸法変化に起因して無機層(ガスバリア層)が劣化することで、上記物性が低下しやすい傾向にある。本開示においては、上記高温保持前後のPET基材の寸法変化率を上記範囲内とすることができ、高温保持前後での無機層(ガスバリア層)の劣化および水蒸気透過度の劣化を抑制することができるため、温度変化によらず高ガスバリア性能、特に高水蒸気バリア性能を発揮することが可能となる。
【0038】
また、本開示においては、上記雰囲気の温度を20℃から145℃まで変化させた際(以下、「昇温過程」とする場合がある。)の上記PET基材の寸法変化率は、例えば1%以下であり、中でも0.5%以下が好ましく、特には0.3%以下であることが好ましい。また、上記PET基材の、上記雰囲気の温度を145℃に1時間保持した際(以下、「恒温過程」とする場合がある。)の上記PET基材の寸法変化率は、例えば0.5%以下であり、中でも0.3%以下であることが好ましい。さらに、上記PET基材の、雰囲気の温度を145℃から20℃まで変化させた際(以下、「降温過程」とする場合がある。)の上記PET基材の寸法変化率は、0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下であることが特に好ましい。
【0039】
特許文献1では、昇温過程の上記外包材の寸法変化率が1%以下であることが好ましく、恒温過程の上記外包材の寸法変化率は、0.5%以下であることが好ましく、さらに、降温過程の上記外包材の寸法変化率は、1%以下であることが好ましいことが開示されている。各過程における寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が熱に曝された場合でも、ガスバリア層にかかる応力を抑制することができるため、ガスバリア層へのクラックの発生を抑制することができることが開示されている。本開示においても、PET基材の上記各過程における寸法変化率が上記範囲内であれば、外包材が熱に曝された場合でも、無機層(ガスバリア層)にかかる応力を抑制することができ、無機層(ガスバリア層)へのクラックの発生を抑制することができ、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な外包材とすることができると考えられる。
【0040】
なお、雰囲気の温度を20℃から145℃まで変化させた際の上記PET基材の寸法変化率のことを、「昇温過程におけるPET基材の寸法変化率」と称する場合がある。また、上記雰囲気の温度を145℃に1時間保持した際の上記PET基材の寸法変化率のことを、「恒温過程におけるPET基材の寸法変化率」と称する場合がある。さらに、雰囲気の温度を145℃から20℃まで変化させた際の上記PET基材の寸法変化率のことを、「降温過程におけるPET基材の寸法変化率」と称する場合がある。
【0041】
昇温過程、恒温過程、降温過程の各過程における上記PET基材の寸法変化率とは、測定試料を熱機械的分析装置(TMA:Thermo mechanical Analyzer)により、下記の条件で、20℃から145℃の昇温過程と、それに続く145℃で1時間における恒温過程と、それに続く145℃から20℃の降温過程と、の各過程において、連続製膜方向(MD方向)であるPET基材の長手方向の初期値(昇温前の20℃での寸法)に対する寸法変化率およびPET基材の幅方向の初期値(昇温前の20℃での寸法)に対する寸法変化率の平均値を測定したものである。高温保持前後のPET基材の寸法変化率とは、測定試料を熱機械的分析装置により、下記の条件で、昇温過程、恒温過程および降温過程を経た、連続製膜方向(MD方向)であるPET基材の長手方向の初期値(昇温前の20℃での寸法)に対する寸法変化率およびPET基材の幅方向の初期値(昇温前の20℃での寸法)に対する寸法変化率の平均値を測定したものである。
【0042】
熱機械的分析装置:日立ハイテクサイエンス社製 TMA/SS6100
測定モード:引張モード、荷重15mN
測定試料:13mm(長手方向)×5mm(短手方向)の矩形
チャック間距離:10mm
昇温開始温度:20℃
昇温終了温度:145℃(145℃での保持時間:1時間)
降温終了温度:20℃
昇温および降温速度:10℃/min
測定雰囲気:窒素パージ下
寸法測定頻度:0.16分刻み
【0043】
なお、上記方法による上記高温保持前後の寸法変化率は、下記式(3)で定義されるものである。ただし、昇温前の20℃でのPET基材の寸法を式(3)のL0とし、昇温過程、恒温過程および降温過程を経たPET基材の寸法を式(3)のL1とする。
高温保持前後の寸法変化率(%)=|L0-L1|/L0×100…式(3)
【0044】
また、上記方法による昇温過程、恒温過程、降温過程の各過程における寸法変化率は、下記式(4)で定義されるものである。ただし、昇温前の20℃でのPET基材の寸法を式(4)のL0とし、測定する過程において得られる外包材の最小寸法を式(4)のLminとし、当該過程において得られるPET基材の最大寸法を式(4)のLmaxとする。
各過程における寸法変化率(%)=(Lmax-Lmin)/L0×100…式(4)
【0045】
(3)その他
PET基材は透明性を有していてもよく有さなくてもよい。PET基材には、種々のプラスチック配合剤や添加剤等が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、改質用樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記PET基材は、表面処理が施されていてもよい。無機層との密着性を向上させることができるからである。上記表面処理としては、例えば、プラズマ処理、特開2014-180837号公報に開示される酸化処理、凹凸化処理(粗面化処理)、易接着コート処理等を挙げることができる。
【0047】
PET基材の厚みは、特に限定されないが、例えば6μm~200μmの範囲内であり、好ましくは9μm~100μmであり、より好ましくは10μm~50μmである。
【0048】
1-2.無機層
本開示における無機層は、無機物から構成される薄膜であり、上記PET基材の少なくとも一方の面側に配置される。上記無機層は、PET基材の一方の面に形成されることによりガスバリア性を発揮するガスバリア層として機能する。
【0049】
無機層としては、無機物で構成され、所望のガスバリア性を発揮できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、金属で構成された金属層、無機化合物を主成分とする層などを用いることができる。無機層は、透明性を有していてもよく、有さなくてもよい。
【0050】
上記金属層を構成する金属としては、アルミニウム、ステンレス、チタン、ニッケル、鉄、銅等の金属またはこれらを含む合金から構成される金属蒸着膜等を挙げることができる。
【0051】
また、上記無機化合物を主成分とする層の無機化合物としては、所望のガスバリア性を発揮できる材料であればよく、例えば、無機酸化物、無機酸化窒化物、無機窒化物、無機酸化炭化物、無機酸化炭化窒化物および酸化珪素亜鉛等から選ばれる1または2以上の無機化合物等が挙げられる。具体的には、珪素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、チタン、ホウ素、イットリウム、ジルコニウム、セリウム、および亜鉛から選ばれる1種または2種以上の原子を含有する無機化合物を挙げることができる。より具体的には、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、珪素亜鉛合金酸化物、インジウム合金酸化物、珪素窒化物、アルミニウム窒化物、チタン窒化物、酸化窒化珪素等を挙げることができる。特に、アルミニウム酸化物(アルミナ)、ケイ素酸化物(シリカ)が好ましい。上記無機化合物は、単独で用いてもよいし、上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0052】
本開示においては、無機層を構成する無機物としては、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはケイ素酸化物であることが好ましい。無機層は、蒸着法により形成される蒸着膜であってもよく、コーティング等の塗布法により形成されるコート膜であってもよい。中でもPET基材との密着性が高く、高ガスバリア性能を発揮することができる観点から蒸着膜であることが好ましい。蒸着膜である場合、1回蒸着等により形成されていてもよく、複数回蒸着により形成されていてもよい。すなわち、1つの無機層は、1回蒸着により形成された単膜であってもよく、複数回蒸着により形成され積層構造を有していてもよい。
【0053】
無機層の厚みは特に限定されないが、10nm~300nmの範囲内であることが好ましい。無機層の厚みを上記範囲内とすることで、バリア性を維持し、かつ可撓性を十分に保つことができ、バリア破壊が生じにくくなる。
【0054】
1-3.他の層構成
本開示におけるフィルムは、上記無機層の、上記PET基材と反対側の面側を覆うように、オーバーコート層を有していてもよい。上記オーバーコート層を有することにより、上記ガスバリアフィルムのガスバリア性能を向上させることができるからである。このようなオーバーコート層は、特に限定されるものではなく、一般にオーバーコート剤として用いられているものを用いることができる。例えば、上記オーバーコート層の主成分として、有機部分および無機部分を含む混合化合物を用いることができる。具体的には、特開2017-180822号公報に記載のオーバーコート層を採用することができるため、ここでの説明は省略する。
【0055】
1-4.その他
本開示におけるガスバリアフィルム単独(1つ)のガスバリア性能としては、酸素透過度が0.1cc/(m2・day・atm)以下であることが好ましく、中でも0.05cc/(m2・day・atm)以下であることが好ましい。また、水蒸気透過度が0.1g/(m2・day)以下であることが好ましく、中でも0.05g/(m2・day)以下であることが好ましい。上記ガスバリアフィルムの酸素および水蒸気透過度が上述の範囲内であることにより、外部より浸透した水分やガス等を真空断熱材の内部の芯材まで浸透しにくくすることができる。また、このようなガスバリア性能を有するガスバリアフィルムを複数用いること等により、外包材としてのガスバリア性能をより向上させることができる。なお、上記酸素透過度および水蒸気透過度は、後述する「3.真空断熱材用外包材の特性」の項で説明する方法と同様の方法により測定することができる。
【0056】
2.真空断熱材用外包材の層構成
2-1.ガスバリアフィルム
本開示における真空断熱材用外包材は、上述した特定のPET基材および無機層を有するガスバリアフィルムを少なくとも1つ有していればよいが、2つ以上有することが好ましい。外包材のガスバリア性能をより向上させることができるからである。
【0057】
外包材が2つ以上の上述した特定のPET基材および無機層を有するガスバリアフィルムを有する場合、ガスバリアフィルムの無機層の材質、オーバーコート層の有無等、それぞれのガスバリアフィルムの構成は同じでも、異なっていてもよい。同じ機能や特性を有するフィルムを複数使用してもよく、また、異なる機能や特性を有するフィルムを、それぞれの機能や特性に応じた配置において使用することにより、各フィルムの機能や特性を発揮させることができる。
【0058】
また、本開示における真空断熱材用外包材は、上述した特定のPET基材を有するガスバリアフィルム以外の、ガスバリア性を有する他のフィルムを1つ以上有していてもよい。
【0059】
ガスバリア性を有する他のフィルムとしては、樹脂基材と、上記樹脂基材の少なくとも一方の面側に配置される無機層とを有するものが挙げられる。樹脂基材としては、上述した特定のPET基材以外の樹脂基材が挙げられる。樹脂基材に用いられる樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン-ビニルエステル共重合体およびそのケン化物、各種のナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アセタール樹脂、セルロース樹脂等の各種の樹脂を使用することができる。
【0060】
樹脂基材の厚みは、特に限定されないが、例えば6μm~200μmの範囲内、より好ましくは9μm~100μmである。また、樹脂基材は、単層であってもよく、複数の樹脂層が積層されて成る多層体であってもよい。上記多層体において各樹脂層は、異なる樹脂で構成されていてもよく、同一の樹脂で構成されていてもよい。
【0061】
他のフィルムにおける無機層としては、上述した特定のPET基材を有するガスバリアフィルムにおける無機層と同様のものが挙げられる。
【0062】
2-2.熱溶着可能なフィルム
本開示における真空断熱材用外包材は、通常、一方の主面側に熱溶着可能なフィルムが配置されている。このような熱溶着可能なフィルムは、加熱により溶着可能なフィルムである。上記熱溶着可能なフィルムは、真空断熱材用外包材の厚み方向の一方の表面を担う部材であり、本開示の真空断熱材用外包材を用いて真空断熱材を作製する際に芯材と接し、また、芯材を封止する際に、対向する真空断熱材用外包材同士の端部を接合する部材である。
【0063】
上記熱溶着可能なフィルムの材料としては、加熱によって溶融し、融着することが可能であることから熱可塑性樹脂が好ましく、例えば直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレンや未延伸ポリプロピレン(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、テトラフルオロエチレン(C2F4)・エチレン(C2H4)共重合体(ETFE)樹脂等が挙げられる。
【0064】
本開示においては、熱溶着可能なフィルムの設定融点に応じて、上記の樹脂から適宜選
択することができる。例えば、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)は、汎用性が高く、また、比較的低温において熱溶着することができる。ただし、LLDPEは融点が低い為、温度変化により熱溶着可能なフィルムの寸法が変化しやすい。しかしながら、本開示における外包材は、上述した特定のPET基材を含むフィルムを有することにより、熱溶着可能なフィルムとしてLLDPEを用いた場合における外包材全体としての寸法変化が抑制され、外包材のガスバリア性能の低減を抑制できる。
【0065】
上記熱溶着可能なフィルムの融点は、50℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、特に好ましくは145℃以上である。また、上記融点は、300℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下である。また、上記熱溶着可能なフィルムは、上記融点を145℃以上とすることで、本開示の外包材が高温環境下に長時間曝されても、熱溶着可能なフィルム自体の熱劣化および寸法変化を抑制することができ、熱溶着可能なフィルムの寸法変化に起因した外包材全体での寸法変化の抑制を図ることが可能となる。さらに、熱溶着可能なフィルムの融点が高い程、本態様の外包材を真空断熱材の製造に用いた際に、周囲の環境温度に晒されることによる封止面の剥離を抑えることができる。このため、より高温環境下での使用に耐え得る真空断熱材を得ることができる。このような観点から設定される上記熱溶着可能なフィルムの融点としては、例えば145℃~300℃の範囲内とすることができ、145℃~290℃の範囲内、145℃~280℃の範囲内とすることができる。
【0066】
外包材における上記熱溶着可能なフィルムの融点は、下記の方法により測定することができる。まず、外包材から熱溶着可能なフィルムを剥離して約10mgの測定試料を得る。この測定試料をアルミニウム製のセルに入れ、示差走査熱量計(NETZSCH社製 DSC204)を用いて、窒素雰囲気下で20℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、その温度で10分間保持する。さらに降温速度10℃/分で20℃まで冷却し、その温度で10分間保持した後、昇温速度10℃/分で300℃まで再度昇温する(2度目の昇温)。2度目の昇温の際に観測される融点での接線と、上記融点より低温側のDSC曲線の基線との交点を、熱溶着可能なフィルムの融点とすることができる。
【0067】
上記熱溶着可能なフィルムには、アンチブロッキング剤、滑剤、難燃化剤、充填剤等の
他の材料が含まれていてもよい。
【0068】
上記熱溶着可能なフィルムの厚みは、例えば20μm~100μmの範囲内が好ましく、中でも25μm~90μmの範囲内が好ましく、特に30μm~80μmの範囲内が好ましい。熱溶着可能なフィルムの厚みが上記範囲よりも大きいと、外包材のガスバリア性能が低下する場合等があり、厚みが上記範囲よりも小さいと、所望の接着力が得られない場合がある。
【0069】
2-3.保護フィルム
本態様の外包材は、熱溶着可能なフィルムおよびガスバリアフィルムの他に保護フィルムを有することが好ましい。上記保護フィルムの外包材における配置位置は特に限定されるものではないが、上記ガスバリアフィルムの上記熱溶着可能なフィルムとは反対側の面側など、真空断熱材を形成する際に最外層(最表層)となる位置に、保護フィルムが配置されていることが好ましい。
【0070】
上記保護フィルムとしては、熱溶着可能なフィルムよりも高融点の樹脂を用いたものであればよく、シート状でもフィルム状でもよい。このような保護フィルムとして、具体的には、特開2017-180822号公報に記載の保護フィルムを採用することができるため、ここでの説明は省略する。
【0071】
2-4.層構成について
本開示における真空断熱材用外包材は、上述した特定のPET基材および上記無機層を有するガスバリアフィルムを少なくとも1つ有する。上記PET基材および上記無機層の順序は特に限定されるものではなく、外包材に共に用いられる、ガスバリアフィルム以外の各層の層構成や、ガスバリアフィルムの数などに応じて適宜設定することができる。例えば、
図1に例示されているように、上述した特定のPET基1および上記無機層2を有するガスバリアフィルム3を備える外包材10を用いて真空断熱材を形成した際に、無機層2がPET基材1の内側になるように配置されてもよい。すなわち、本開示の外包材10は、熱溶着可能なフィルム4と上記ガスバリアフィルム3とを有し、上記ガスバリアフィルム3が熱溶着可能なフィルム4側から無機層2とPET基材1とをこの順に有していても良い。
【0072】
また、
図4(a)に例示されているように、外包材10が保護フィルム5を有する場合などは、上記ガスバリアフィルム3は、無機層2がPET基材1の外側になるように配置されてもよい。すなわち、本開示の外包材10は、熱溶着可能なフィルム4と、熱溶着可能なフィルム4の一方の面に配置された上記ガスバリアフィルム3と、上記ガスバリアフィルム3の熱溶着可能なフィルム1とは反対側の面に配置された保護フィルム5と、を有し、上記ガスバリアフィルム3が熱溶着可能なフィルム4側からPET基材1と無機層2とをこの順に有していても良い。
【0073】
上記外包材10が2つの上記ガスバリアフィルムを有する場合は、
図4(b)に例示されているように、隣接する2つのガスバリアフィルム3a,3bのそれぞれの無機層2が向き合うように配置されてもよく、
図4(c)に例示されているように、隣接する2つのガスバリアフィルム3a,3bの両方の無機層2がPET基材1の内側になるように配置されてもよく、
図5(a)に例示されているように、隣接する2つのガスバリアフィルム3a,3bの両方の無機層2がPET基材1の外側になるように配置されてもよい。
【0074】
本開示の外包材は、
図5(b)および
図5(c)に例示されているように、真空断熱材の最外層に上記ガスバリアフィルムフィルム3が配置される場合は、無機層2を保護する観点から、最外層のガスバリアフィルム3aは、無機層2がPET基材1の内側になるように配置されることが好ましい。
【0075】
また、本開示の外包材は、上記の特定のPET基材を有するガスバリアフィルムに加え、他のガスバリア性を有するフィルムを有していてもよい。例えば、
図4(b)、
図4(c)、
図5(a)において、2つのガスバリアフィルム3のうち1つは、他のガスバリア性を有するフィルムであってもよい。また、
図5(b)および
図5(c)において、3つのガスバリアフィルム3のうち1つまたは2つは、他のガスバリア性を有するフィルムであってもよい。
【0076】
上記外包材の厚みとしては、所望のガスバリア性能や強度を得ることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、30μm~200μmの範囲内であることが好ましく、中でも50μm~150μmの範囲内であることが好ましい。
【0077】
上記外包材の積層方法としては、所望の構成の外包材を得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、予め成膜した各層を上述した層間接着剤を使用して貼り合せるドライラミネーション法や、熱溶融させたガスバリアフィルムの各材料をTダイ等を用いて押出しして貼り合せ、得られた積層体に層間接着剤を介して熱溶着可能なフィルムを貼り合せる方法等が挙げられる。
【0078】
3.真空断熱材用外包材の特性
本開示の真空断熱材用外包材は、優れたガスバリア性能を有する。具体的に、温度40℃、湿度90%RHの雰囲気での上記真空断熱材用外包材の水蒸気透過度が0.01g/(m2・day)以下であることが好ましい。また、温度100℃、湿度0%RHの雰囲気での上記真空断熱材用外包材の酸素透過度が0.05cc/(m2・day・atm)以下であることが好ましい。さらに、温度145℃の雰囲気で500時間保管した後の上記真空断熱材用外包材の水蒸気透過度の劣化量が0.01g/(m2・day)以下であることが好ましい。高温においても高いガスバリア性能を維持することができる外包材とすることができるためである。したがって、上記外包材を、高温においても長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能なものとすることができる。
【0079】
上記外包材の水蒸気透過度は、測定温度40℃、湿度90%RHの雰囲気下で、水蒸気透過度測定装置(英国Technolox社製、DELTAPERM)を使用して、ISO-15106-5:2015(差圧法)に準拠して測定することができる。測定は、外包材の表面のうち、上記外包材の厚み方向において熱溶着可能なフィルムに対してガスバリアフィルム側に位置する上記表面が高湿度側(水蒸気供給側)となるようにして、上記装置の上室と下室との間に装着し、透過面積64cm2の条件で行う。1つの条件で少なくとも3つのサンプルを測定し、それらの測定値の平均をその条件での水蒸気透過度の値とする。以下、本明細書において説明する水蒸気透過度は、上述の方法と同様の方法を用いて測定することができる。
【0080】
上記外包材の酸素透過度は、JIS K 7126-2A:2006(プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法、付属書A:電解センサ法による酸素ガス透過度の試験方法)を参考に、測定温度100℃、湿度0%RHの条件下で、酸素ガス透過度測定装置(米国MOCON社製、OXTRAN)を使用し、測定することができる。測定は、外包材の表面のうち、上記外包材の厚み方向において熱溶着可能なフィルムに対してガスバリアフィルム側に位置する上記表面が酸素ガスに接するようにして上記装置内に装着し、透過面積50cm2の条件で行う。上記測定は、以下の手順で行う。まず、上記装置内にキャリアガスを流量10cc/分で60分以上供給してパージする。上記キャリアガスは5%程度水素を含む窒素ガスを用いることができる。パージ後、上記装置内に試験ガスを流し、流し始めてから平衡状態に達するまでの時間として12時間を確保した後に上記測定を開始する。上記試験ガスは少なくとも99.5%の乾燥酸素を用いる。1つの条件では少なくとも3つのサンプルを測定し、それらの測定値の平均をその条件の酸素透過度の値とする。
【0081】
4.その他
本開示の真空断熱材用外包材は、透明性を有していてもよく、有さなくてもよく、本開示の真空断熱材用外包材が用いられる真空断熱材の用途に応じて適宜設定することができる。上記真空断熱材用外包材の透明性については、厳密な透過率で規定されず、用途等に応じて適宜決定することができる。
【0082】
本開示の真空断熱材用外包材が透明性を有する場合、上記真空断熱材用外包材を用いた真空断熱材は、その内部の視認が可能となる。このため、真空断熱材の内部に芯材と共に検知剤を入れることで、検知剤の変化から内部の真空状態を目視で確認することが可能となる。
【0083】
本開示の真空断熱材用外包材の製造方法としては、例えば、予め製造した各フィルムを上述した接着層を介して貼り合せる方法が挙げられる。また、熱溶融させた各フィルムの原材料をTダイ等で順次押出しして積層することで、本開示の真空断熱材用外包材を製造してもよい。
【0084】
本開示の真空断熱材用外包材は、真空断熱材に用いることができる。真空断熱材において、本開示の真空断熱材用外包材は、熱溶着可能なフィルムが芯材側となるようにして、芯材を介して対向して配置して用いることができる。
【0085】
B.真空断熱材
本開示の真空断熱材は、芯材と、上記芯材を封入する外包材とを有する真空断熱材であって、上記外包材が上述した「A.真空断熱材用外包材」の項で説明したものであることを特徴とするものである。
【0086】
図6(a)は本開示の真空断熱材の一例を示す概略斜視図、
図6(b)は
図6(a)のX-X断面図である。
図6に例示する真空断熱材50は、芯材11と、芯材11を封入する外包材10とを有し、外包材10が、
図1で説明した真空断熱材用外包材である。真空断熱材50は、2枚の外包材10が、それぞれの熱溶着可能なフィルムが向き合うように対向し、端部12が熱溶着により接合された袋体となっており、袋体の中に芯材11が封入され、袋体内部が減圧されている。
【0087】
本開示によれば、芯材を封入する外包材が、上述した「A.真空断熱材用外包材」の項で説明した真空断熱材用外包材であることで、高温においても良好な断熱性能を維持することができる真空断熱材となる。以下、本開示の真空断熱材について、構成ごとに説明する。
【0088】
1.真空断熱材用外包材
本開示における真空断熱材用外包材は、芯材を封入する部材であり、上述の「A.真空断熱材用外包材」の項で説明した真空断熱材用外包材と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0089】
2.芯材
本開示における芯材は、真空断熱材用外包材により封入される部材である。なお、封入されるとは、真空断熱材用外包材を用いて形成された袋体の内部に密封されることをいうものである。
【0090】
芯材は、熱伝導率が低いことが好ましい。また、芯材は、空隙率が50%以上、特に90%以上の多孔質材とすることができる。
【0091】
芯材を構成する材料としては、粉体、発泡体、繊維体等を用いることができる。上記粉体は、無機系、有機系のいずれでもよく、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ、凝集シリカ粉末、導電性粉体、炭酸カルシウム粉末、パーライト、クレー、タルク等を用いることができる。なかでも乾式シリカと導電性粉体との混合物は、真空断熱材の内圧上昇に伴う断熱性能の低下が小さいため、内圧上昇が生じる温度範囲で使用する際に有利である。さらに、上述の材料に酸化チタンや酸化アルミニウムやインジウムドープ酸化錫等の赤外線吸収率が小さい物質を輻射抑制材として添加すると、芯材の赤外線吸収率を小さくすることができる。
【0092】
上記発泡体としては、ウレタンフォーム、スチレンフォーム、フェノールフォーム等を用いることができる。中でも連続気泡を形成する発泡体が好ましい。
【0093】
上記繊維体は、無機繊維でもよく有機繊維でもよいが、断熱性能の観点から無機繊維を用いることが好ましい。このような無機繊維としては、グラスウールやグラスファイバー等のガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、ロックウール等を挙げることができる。これらの無機繊維は、熱伝導率が低く、粉体よりも取り扱いが容易である点で好ましい。
【0094】
芯材は、上述した材料を単独で使用してもよく、2種以上の材料を混合した複合材であってもよい。
【0095】
3.その他
本開示の真空断熱材は、真空断熱材用外包材の内部に芯材が封入され、上記内部が減圧されて真空状態となっている。真空断熱材内部の真空度は、例えば5Pa以下であることが好ましい。内部に残存する空気の対流による熱伝導を低くすることができ、優れた断熱性を発揮することが可能となるからである。
【0096】
真空断熱材の熱伝導率は低い程好ましく、例えば熱伝導率(初期熱伝導率)が5mW/(mK)以下であることが好ましい。真空断熱材が熱を外部に伝導しにくくなり、高い断熱効果を奏することができるからである。中でも上記初期熱伝導率は、4mW/(mK)以下であることがより好ましい。熱伝導率は、JIS A1412-2:1999に準拠し、高温側30℃、低温側10℃、平均温度20℃の条件で測定した値とすることができる。
【0097】
また、本開示の真空断熱材は、上述の真空断熱材用外包材を用いたものであるため、断熱性能の劣化が抑制される。
【0098】
本開示の真空断熱材の製造方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、上述した「A.真空断熱材用外包材」の項で説明した真空断熱材用外包材を2枚準備し、それぞれの熱溶着可能なフィルム同士を向き合わせて重ね、三辺の外縁を熱溶着し、一辺が開口する袋体を得る。この袋体に、開口から芯材を入れた後、上記開口から空気を吸引し、袋体の内部が減圧された状態で開口を封止することで、真空断熱材を得ることができる。
【0099】
本開示の真空断熱材は、例えば、熱絶縁性を要する物品に用いることができる。上記物品については後述する。
【0100】
C.真空断熱材付き物品
本開示の真空断熱材付き物品は、熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、上記真空断熱材が、芯材と、芯材が封入された外包材とを有し、上記外包材が、上述の「A.真空断熱材用外包材」の項で説明した真空断熱材用外包材である。
【0101】
本開示によれば、物品に用いられる真空断熱材が「A.真空断熱材用外包材」の項で説明した外包材により構成されているため、真空断熱材が、長期間、良好な断熱性能を発揮することができる。物品がこのような真空断熱材を備えることで、高温環境または高温高湿環境となる物品や物品が用いられる対象物の省エネルギー化を達成することができる。
【0102】
本開示における真空断熱材、およびそれに用いられる真空断熱材用外包材については、上述した「B.真空断熱材」および「A.真空断熱材用外包材」の項で詳細に説明したため、ここでの説明は省略する。
【0103】
本開示における物品は、熱絶縁領域を有する。ここで上記熱絶縁領域とは、真空断熱材により熱絶縁された領域であり、例えば、保温や保冷された領域、熱源や冷却源を取り囲んでいる領域、熱源や冷却源から隔離されている領域である。これらの領域は、空間であっても物体であってもよい。
【0104】
上記物品として、例えば、冷蔵庫、冷凍庫、保温器、保冷器等の電気機器、保温容器、保冷容器、輸送容器、コンテナ、貯蔵容器等の容器、車両、航空機、船舶等の乗り物、家屋、倉庫等の建築物、壁材、床材等の建築資材等が挙げられる。
【0105】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例0106】
以下に実施例および比較例を示し、本開示をさらに詳細に説明する。
【0107】
表1に示すラメラ周期を有するPET基材を準備した。PET基材のラメラ周期は、上述した方法で求めた値である。PET基材の高温保持前後でのPET基材の寸法変化率、ならびに昇温過程、恒温過程、および降温過程の各過程におけるPET基材の寸法変化率を求めた。寸法変化率は上述した方法で求めた値である。結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
表1の結果から、ラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下である、実施例1~実施例3のPET基材は、高温保持前後の寸法変化率、昇温過程、恒温過程および降温過程の各過程における寸法変化率が小さいことが確認された。従って、ガスバリアフィルムの樹脂基材として用いることにより、高温においても高いガスバリア性能を維持することができ、長期間断熱性能を維持することができる真空断熱材を形成可能な真空断熱材用外包材となると考えられる。一方、比較例2~4はラメラ周期が小さいため、製造過程における歪みが残存しているため、昇温過程において収縮し、寸法変化率が大きくなり、さらには降温過程においても歪みが修復されず残存し、高温保持前後の寸法変化率が大きいことが確認された。一方、比較例1は、ラメラ周期が大きいため、特に降温過程において寸法変化率が大きいことが確認された。
【0110】
このように、本開示においては、例えば、以下の発明が提供される。
【0111】
[1]
ポリエチレンテレフタレートを有する基材と、上記基材の少なくとも一方の面に配置され、無機物で構成される無機層と、を有するフィルムを有する真空断熱材用外包材であって、上記基材のラメラ周期が13.0nm以上、16.0nm以下である、真空断熱材用外包材。
【0112】
[2]
上記無機層を構成する無機物が、アルミニウム、アルミニウム酸化物またはケイ素酸化物である、[1]に記載の真空断熱材用外包材。
【0113】
[3]
芯材と、上記芯材が封入された外包材とを有する真空断熱材であって、
上記外包材が、[1]または[2]に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。
【0114】
[4]
熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、
上記真空断熱材は、芯材と、上記芯材が封入された外包材とを有し、
上記外包材が、[1]または[2]に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。