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特開2024-63633粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063633
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/68 20060101AFI20240502BHJP
   G01N 15/00 20240101ALI20240502BHJP
   G01N 15/10 20240101ALI20240502BHJP
【FI】
G01P3/68 Z
G01N15/00 A
G01N15/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171734
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100213436
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 直俊
(72)【発明者】
【氏名】梶原 美紀
(72)【発明者】
【氏名】米津 明生
(57)【要約】
【課題】撮像することなく粒子の移動速度を計測する粒子移動速度計測装置及び粒子速度計測方法を提供する。
【解決手段】粒子移動速度計測装置は、粒子Pを射出する射出部1と、射出部1と離間しており、粒子Pが衝突したときに発光強度が変化する衝突部2と発光強度を検知する検知部3と、を備え、射出部1と衝突部2との距離と、射出部1から粒子Pが射出された時から発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて粒子Pの移動速度を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を射出する射出部と、
前記射出部と離間しており、前記粒子が衝突したときに発光強度が変化する衝突部と
前記発光強度を検知する検知部と、を備え、
前記射出部と前記衝突部との距離と、前記射出部から前記粒子が射出された時から前記発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて前記粒子の移動速度を取得する粒子移動速度計測装置。
【請求項2】
前記衝突部は、応力発光体を含む発光部を有する請求項1に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項3】
前記衝突部は、
前記射出部に板面を対向させた板状に形成されており、
前記射出部に対向する面側に配置された遮蔽層と、
前記射出部に対向する側とは反対面側に配置され、層状に形成された前記発光部と、を有し、
前記検知部は、前記衝突部を挟んで前記射出部とは反対側に配置されている請求項2に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項4】
前記射出部と前記衝突部との間に配置された選択板を更に備え、
前記選択板は、板面に開口部が形成されており、
前記開口部は、前記射出部から前記衝突部に下した前記衝突部に対する垂線と重複する請求項3に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項5】
前記移動速度を算出する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記発光強度の変化量に基づいて前記移動速度を算出する請求項1に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項6】
前記検知部は、前記衝突部の発光を受光する光電子増倍管を有し、
前記制御部は、前記光電子増倍管で検知されている光子数の変化量に基づいて前記移動速度を算出する請求項5に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項7】
前記移動速度を算出する制御部と、更に備え、
前記射出部と前記衝突部との間に配置された選択板と、を更に備え、
前記衝突部は、
前記射出部に板面を対向させた板状に形成されており、
前記射出部に対向する面側に配置された遮蔽層と、
前記射出部に対向する側とは反対面側に配置され、応力発光体を含む発光層と、を有し、
前記検知部は、前記衝突部の発光を受光する光電子増倍管を有し、
前記選択板は、板面に開口部が形成されており、
前記開口部は、前記射出部から前記衝突部に下した前記衝突部に対する垂線と重複し、
前記制御部は、前記光電子増倍管で検知されている光子数の変化量に基づいて前記移動速度を算出する請求項1に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項8】
前記射出部は、前記粒子を保持する板状の保持部を有し、
前記保持部は、レーザ光を受光して衝撃波を発生するエネルギー吸収層を有する請求項1に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項9】
前記エネルギー吸収層にレーザ光を照射する光源を更に備え、
前記保持部は、光透過性の素材で形成された支持層を有し、
前記エネルギー吸収層は、前記支持層における前記衝突部に対向する側の面上に配置されており、
前記光源は、前記保持部における前記支持層側から前記エネルギー吸収層に前記レーザ光を照射する請求項8に記載の粒子移動速度計測装置。
【請求項10】
粒子を射出部から射出する射出工程と、
前記粒子が衝突したときに発光強度が変化する衝突部に前記粒子を衝突させる衝突工程と、
前記発光強度を検知する検知工程と、を含み、
前記射出部と前記衝突部との距離と、前記射出部から前記粒子が射出された時から前記発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて前記粒子の移動速度を取得する粒子移動速度計測方法。
【請求項11】
前記衝突部は、応力発光体を含む発光部を有する請求項10に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項12】
前記検知工程では、前記射出部の側から前記衝突部に入射する光は遮蔽しつつ、前記衝突部を挟んで前記射出部とは反対側から前記発光強度を検知する請求項11に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項13】
前記射出部から前記衝突部に下した前記衝突部に対する垂線に沿って移動する前記粒子を選択して前記衝突部に衝突させる選択工程を更に含む請求項12に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項14】
前記移動速度を算出する算出工程を更に含み、
前記算出工程では、前記発光強度の変化量に基づいて請求項10に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項15】
前記検知工程では、前記衝突部の発光を受光する光電子増倍管で光子数を計測し、
前記算出工程では、前記光子数の変化量に基づいて前記移動速度を算出する請求項14に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項16】
前記移動速度を算出する算出工程と、
前記射出部から前記衝突部に下した前記衝突部に対する垂線に沿って移動する前記粒子を選択して前記衝突部に衝突させる選択工程と、を更に含み、
前記検知工程では、前記射出部の側から前記衝突部に入射する光は遮蔽しつつ、前記衝突部を挟んで前記射出部とは反対側から光電子増倍管で前記衝突部の発光を受光して光子数を計測し、
前記算出工程では、前記光子数の変化量に基づいて前記移動速度を算出する請求項10に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項17】
前記射出工程では、前記粒子を保持する保持部のエネルギー吸収層にレーザ光を照射して衝撃波を発生させて、当該衝撃波により前記粒子を射出する請求項10に記載の粒子移動速度計測方法。
【請求項18】
前記射出工程では
光透過性の素材で形成された支持層における前記衝突部に対向する側の面上に前記保持部を配置し、
前記保持部における前記支持層側から前記エネルギー吸収層に前記レーザ光を照射する請求項17に記載の粒子移動速度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粒子測定装置などが開示されている。この粒子測定装置は、シート状のレーザ光を照射する照射部と、レーザ光の照射位置を移動させる走査光学系と、受光光学系および撮像素子を含み、粒子によるレーザ光の散乱光を撮影する撮像部と、撮像部によって撮影した画像から、移動している粒子の位置および速度を求める算出部と、を備えている。撮像部の一例として高速カメラが例示されている。
【0003】
特許文献2には、応力発光材料粉体及び樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、物質が外部からの刺激を与えられることによって、室温付近で可視光を発する発光材料が知られており、なかでも外部から印加された力(圧縮、変位、摩擦、衝撃など)の力学的刺激を受けて発光する材料が応力発光材料として知られていることが記載されている。また、応力発光材料粉体を他の無機材料又は有機材料との複合材料とした後、成形して応力発光体を製造できることが記載されている。応力発光体は、例えば、応力発光材料粉体を樹脂やプラスチックなどの有機材料に任意の割合で混合又は埋め込んで複合材料を形成することで得ることができ、この応力発光体に機械的な外力を加えると、機械的な変形によって発光するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-68641号公報
【特許文献2】特開2017-149844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術にあっては、特許文献1に記載のごとく、カメラなどで粒子を撮像して粒子の移動速度を取得する必要があった。そのため、例えば、対象となる粒子の粒子径が小さい場合、粒子の色調が背景と識別し難い場合、周囲の環境が撮像に適さない場合などのように、カメラで粒子を撮像しにくい場合には、粒子の移動速度を計測できない場合があった。そのため、撮像することなく粒子の移動速度を計測する粒子移動速度計測装置及び粒子速度計測方法の提供が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、撮像することなく粒子の移動速度を計測する粒子移動速度計測装置及び粒子速度計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る粒子移動速度計測装置は、
粒子を射出する射出部と、
前記射出部と離間しており、前記粒子が衝突したときに発光強度が変化する衝突部と
前記発光強度を検知する検知部と、を備え、
前記射出部と前記衝突部との距離と、前記射出部から前記粒子が射出された時から前記発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて前記粒子の移動速度を取得する。
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る粒子移動速度計測方法は、
粒子を射出部から射出する射出工程と、
前記粒子が衝突したときに発光強度が変化する衝突部に前記粒子を衝突させる衝突工程と、
前記発光強度を検知する検知工程と、を含み、
前記射出部と前記衝突部との距離と、前記射出部から前記粒子が射出された時から前記発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて前記粒子の移動速度を取得する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撮像することなく粒子の移動速度を計測する粒子移動速度計測装置及び粒子速度計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る粒子移動速度計測装置の構成及び粒子移動速度計測方法を説明する概念図である。
図2】本実施形態に係る粒子移動速度計測方法を説明する図である。
図3】衝突部の発光強度と経過時間の関係のグラフの一例である。
図4】30μmのジルコニア粒子を射出した場合における、発光強度と経過時間の関係のグラフである。
図5】15μmのジルコニア粒子を射出した場合における、発光強度と経過時間の関係のグラフである。
図6】ジルコニア粒子の移動速度を示すグラフである。
図7】高速度カメラによる粒子移動速度の計測方法を説明する図である。
図8】保持板と衝突板との距離を1.9mmとして計測した場合の射出時のグラフと、バックグランドのグラフである。
図9】粒子の移動速度を算出する別の手順の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面に基づいて、本発明の実施形態に係る粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法について説明する。
【0012】
図1には、本実施形態に係る粒子移動速度計測装置(以下、計測装置100と称する)の構成及びこれにより実現される粒子移動速度計測方法(以下、計測方法と称する場合がある)を説明する概念図を示している。まず、計測装置100及びこれにより実現される計測方法の概要を説明する。
【0013】
計測装置100は、粒子Pを射出する射出部1と、射出部1と離間しており、粒子Pが衝突したときに発光強度が変化する衝突部2と発光強度を検知する検知部3と、を備えている。
【0014】
計測装置100では、射出部1と衝突部2との距離と、射出部1から粒子Pが射出された時から発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて粒子Pの移動速度を取得する。
【0015】
計測装置100では、粒子Pを射出部1から射出する射出工程と、粒子Pが衝突したときに発光強度が変化する衝突部2に粒子Pを衝突させる衝突工程と、発光強度を検知する検知工程と、を含み、射出部1と衝突部2との距離と、射出部1から粒子Pが射出された時から発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて粒子Pの移動速度を取得する粒子移動速度計測方法を実現することができる。
【0016】
計測装置100及びこれにより実現される粒子移動速度計測方法では、粒子の移動速度の計測において粒子や粒子の軌跡を撮像することを要しない。すなわち、計測装置100及びこれにより実現される粒子移動速度計測方法では、撮像することなく粒子の移動速度を計測することができる。
【0017】
以下、計測装置100及び計測方法について詳述する。
【0018】
本実施形態に係る計測装置100は、上述のごとく、粒子Pを射出する射出部1と、射出部1と離間しており、粒子Pが衝突したときに発光強度が変化する衝突部2と発光強度を検知する検知部3と、に加えて、更に、射出部1と衝突部2との間に配置された選択板4と、レーザ光を出射する光源5と、粒子P移動速度を算出する制御部8と、射出部1、衝突部2及び選択板4を収容するケーシング9と備えている。
【0019】
本実施形態において、射出部1、衝突部2及び選択板4は、後述するように平板状に形成されている。射出部1、衝突部2及び選択板4は、一例として、射出部1、選択板4及び衝突部2の順に平行に配置されており、射出部1の一方の面は、選択板4を介して衝突部2の一方の面に対向している。
【0020】
射出部1は、平板状に形成されており、粒子を保持する平板状の保持板10(保持部の一例)と、保持板10を支持し、ケーシング9の内壁に支持され、且つ、保持板10を支持する支持部19とを有する。
【0021】
保持板10は、光透過性の素材で形成された支持層11と、レーザ光を受光して衝撃波を発生するエネルギー吸収層12とを有する。
【0022】
支持層11は、レーザ光の透過を許容し、エネルギー吸収層12が担持される基板である。支持層11は、平板状に形成されている。支持層11は、例えば石英ガラスやサファイヤのような、光透過性の素材で形成されている。支持層11の厚みは、特に問わない。支持層11の厚みは、例えば、500μm以上2000μm以下とされる。
【0023】
エネルギー吸収層12は、レーザ光の受光により粒子Pを飛翔させる運動エネルギーを発生するエネルギー変換機構である。エネルギー吸収層12は、支持層11における、衝突部2に対向する側の面上に配置されている。エネルギー吸収層12は、一例として、レーザ光を受光し、このレーザ光によって供給されたエネルギーを熱に変換し、当該熱により自己を急激に蒸散させて急激な膨張をすることにより衝撃波を発生させる。エネルギー吸収層12は、この衝撃波によって粒子Pを射出(飛翔)させる。エネルギー吸収層12は、例えば黒鉛と油分とを含む粘性流体を支持層11の表面に塗布することにより、支持層11の表面上に積層させて形成することができる。エネルギー吸収層12の厚みは、例えば、5μm以上200μm以下とされる。
【0024】
衝突部2は、射出部1に板面を(本実施形態では平行に)対向させた平板状に形成された衝突板20と、ケーシング9の壁部に支持され、衝突板20を支持する支持部29とを有する。
【0025】
衝突板20は、射出部1に対向する面側に配置された遮蔽層21と、射出部1に対向する側とは反対面側に配置され、層状に形成された発光部(以下、発光層22と称する)とを有する。
【0026】
発光層22は、粒子Pが衝突したときに発光強度が変化(例えば、発光強度が増大)する応力発光材料又はこれを含む応力発光体を含む。本実施形態では、発光層22は、粒子Pが衝突したときに発光層22に生じたひずみによる応力で発光強度が変化する応力発光体で形成されている。発光層22は、例えば、発光強度が変化する応力発光材料の粉体をエポキシ樹脂に練り込んで分散したコンポジットを平板状に成形したものである。発光層22の厚みは、例えば、50μm以上1000μm以下とされる。
【0027】
発光層22が含む応力発光体は、紫外線を照射されてエネルギーを蓄積し、その後、蓄積されたエネルギーを所定の波長の光として放出するものであってよい。応力発光体は、紫外線を照射された後、その蓄積したエネルギーを消費し尽くすまで発光し続けるものであってよく、発光層22に生じたひずみによる応力によって刺激を受けた時に、一時的に発光強度を増大又は減少させるものであればよい。以下では、発光層22が応力によって刺激を受けた時に、一時的に発光強度を増大する場合を例示して説明する。
【0028】
遮蔽層21は、光を透過しない、薄い板状又は薄膜状の層である。遮蔽層21は、発光層22における、射出部1に対向する側の面上に形成されている。遮蔽層21は、射出部1の側から発光層22に入射する光は遮蔽を遮蔽する。
【0029】
遮蔽層21は、例えば、アルミホイルのようなアルミ薄膜である。遮蔽層21の厚みは、例えば、7μm以上20μm以下とされる。衝突部2は、例えば、アルミ薄膜とした遮蔽層21上に、応力発光材料の粉体をエポキシ樹脂に練り込んだ、硬化前のエポキシ樹脂を塗布して形成することができる。
【0030】
選択板4は、射出部1と衝突部2との間に配置された平板状の部材である。選択板4には、その板面を貫通する開口部41が形成されており、ケーシング9の内壁に支持される支持部49を有する。開口部41は、射出部1から衝突部2に下した衝突部2に対する垂線Vと重複するように形成されており、開口部41の開口の中心を通る軸心Gは、この垂線と平行である。なお、本実施形態では、射出部1から衝突部2に下した衝突部2に対する垂線Vは、衝突部2から射出部1に下した射出部1に対する垂線と平行である。
【0031】
検知部3は、衝突部2の発光を受光する光電子増倍管30を有し、衝突部2の発光強度を検知するセンサ装置である。なお、光電子増倍管30とは、光電効果により放出された電子を増幅することにより、高い感度での光の検知を実現する光センサである。
【0032】
検知部3は、衝突部2を挟んで射出部1とは反対側に配置されている。すなわち、検知部3は、衝突部2を挟んで射出部1とは反対側から衝突部2の発光強度を検知する。上述のごとく、衝突部2では、遮蔽層21が発光層22における射出部1に対向する側の面上に形成されているため、検知部3は、射出部1の側から衝突部2を介して検知部3に向かう光が遮蔽層21で遮蔽される。そのため、検知部3には発光層22の発光のみが入射し、外乱となる他の光の入射が防止される。これにより、検知部3での発光層22の発光強度の検知の精度が向上する。
【0033】
本実施形態において検知部3は、光電子増倍管30の光電面31で衝突部2の発光を受光し、この受光によって生じた光電子を増幅して電気信号(パルス信号)に変換して制御部8に送出する。光電子増倍管30は、光電面31が軸心Gと重複し、且つ、光電面31が発光層22と平行となるように配置されるとよい。
【0034】
本実施形態において検知部3は、光電子増倍管30の光電面31がケーシング9の内部に収容されている。これにより、ケーシング9の外部の光が光電子増倍管30の外乱となることを防止している。
【0035】
光源5は、保持板10における支持層11の側からレーザ光Lをエネルギー吸収層12に照射する。光源5は、所定の強度のレーザ光Lを所定時間照射できるものであれればよい。光源5は、例えば、Nd-Yagレーザの光源であり、所定強度及び所定時間のレーザ光Lとしてのレーザーパルスを照射可能なものである。光源5は、レーザ光Lとして、パルスのエネルギーが50mJ以上の出力が可能であり、パルス幅が5nm以上7nm以下の範囲で調整可能であるとよい。レーザ光Lの光軸は、軸心Gと重複するように配置するとよい。
【0036】
制御部8は、光源5の動作を制御し、また、光源5や検知部3の動作状況や検知結果に基づいて、粒子Pの移動速度を算出する機能部である。制御部8は、プロセッサ、プロセッサを動作させるプログラブを記憶する記憶部、光源5や検知部3と通信する通信インタフェースを含み得る。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、SoC(System on a Chip)などであり、同種又は異種の複数のプロセッサにより構成されてもよい。プロセッサは、記憶部からプログラムを読み出して実行することで、光源5の動作の制御や、粒子Pの移動速度の算出を行う。なお、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェアで実現することとしてもよい。
【0037】
制御部8は、射出部1と衝突部2との距離と、射出部1から粒子Pが射出された時から発光強度の変化が検知されるまでの時間とに基づいて粒子Pの移動速度を算出する(算出工程の一例)。本実施形態における射出部1と衝突部2との距離とは、保持板10と衝突板20との二つの平板間の最短距離である。
【0038】
本実施形態において、制御部8は、射出部1と衝突部2との距離と、射出部1から粒子Pが射出された時から発光強度の変化が検知されるまでの時間と、衝突部2の発光強度の変化量とに基づいて粒子Pの移動速度を算出する。制御部8は、衝突部2の発光強度の変化を、光電子増倍管30で検知(計測)されている光子数の変化量に基づいて検知してよい。
【0039】
計測装置100による粒子移動速度の計測は、以下のように行う。
【0040】
図1に示すように、粒子Pを保持板10における、衝突部2に対向する側の表面(本実施形態では、エネルギー吸収層12の表面)上に付着させる。粒子Pは、保持板10における、レーザ光Lが照射される予定の領域に配置する。本実施形態では、保持板10における、レーザ光Lが照射される予定の領域は、軸心Gと重複する位置に定められる。図1では、図示サイズの都合上、レーザ光Lが照射される予定の領域に粒子Pが一つのみ描いているが、この領域中には粒子Pは複数個配置するとよい。
【0041】
粒子Pを保持板10上に配置した状態で、制御部8が光源5を作動させてレーザ光Lを照射すると、エネルギー吸収層12で衝撃波が生じて粒子Pが衝突部2に向けて射出される。衝突部2に向けて射出される粒子Pは、複数個であってもよい。
【0042】
粒子Pが衝突部2(本実施形態では、遮蔽層21)に衝突すると、この衝突のエネルギーにより発光層22にひずみが生じる。このひずみにより、発光層22の発光強度が一時的に大きく増大する。すなわち、粒子Pの衝突に対応して発光層22が発光する。この際の発光強度の変化(粒子Pの衝突に対応して生じた発光F)を、検知部3が検知する。なお、レーザ光Lは、遮蔽層21で遮蔽されるため、検知部3での検知の外乱とならない。検知部3が検知した発光強度の変化を制御部8が取得する。本実施形態では、検知部3から送出されたパルス信号を制御部8が受信して、制御部8が発光強度の変化を取得する。
【0043】
制御部8は、レーザ光Lを照射した時から検知部3が発光層22の発光強度の大きな増大を検知した時までの経過時間を計時する。本実施形態では、制御部8は、レーザ光Lの照射を光源5に指令した時から、検知部3から送出されたパルス信号の送出回数が大きく増大した時までの経過時間を計時する。そして、射出部1と衝突部2との距離を、この経過時間で割って、射出部1から射出された粒子Pの移動速度を算出する。
【0044】
複数の粒子Pが衝突部2に衝突すると、発光層22の発光強度の大きな増大が重畳的に生ずる。この場合、制御部8は、最初に発光層22の発光強度の大きな増大を検知したタイミングを、最初に粒子Pが衝突部2に衝突したタイミングとみなしてよい。この場合、制御部8は、レーザ光Lを照射した時から検知部3が発光層22の発光強度の大きな増大を最初に検知した時までの経過時間を計時し、この経過時間と射出部1と衝突部2との距離とに基づいて、最も移動速度が速い粒子Pの移動速度を算出することができる。
【0045】
粒子Pの移動速度をより正確に計測するためには、射出部1から衝突部2まで最短距離で移動した粒子Pの速度を計測するとよい。換言すると、射出部1から衝突部2まで、射出部1から衝突部2に下した衝突部2に対する垂線V(図2参照)に沿って飛翔する粒子Pを衝突部2に衝突させて粒子Pの速度を計測するとよい。本実施形態では、選択板4の開口部41を通過した粒子Pを衝突部2に衝突させている。換言すると、本実施形態では、射出部1から衝突部2に下した衝突部2に対する垂線Vに沿って移動する粒子Pを選択して衝突部2に衝突させている(選択工程の一例)。本実施形態では、これにより正確な粒子Pの移動速度を計測可能とされている。なお、垂線Vから反れて飛翔した粒子Pは、選択板4に衝突するため、衝突部2への衝突を防止される。
【0046】
さて、レーザ光Lを照射してエネルギー吸収層12で衝撃波が生じる際、エネルギー吸収層12の破片dが衝突部2に向けて射出される場合がある。破片dは一つ以上生じる場合がある。
【0047】
破片dが衝突部2に向けて射出される場合、選択板4が射出部1と衝突部2との間に配置されていれば、一部の破片dは選択板4に衝突し、衝突部2への衝突を免れる。
【0048】
開口部41を通過した破片dは、そのまま衝突部2に衝突する場合がある。この場合、破片dの衝突によって、衝突部2で発光強度が変化(増大)する場合がある。すなわち、破片dの衝突に対応して発光層22が発光する。これにより、破片dが衝突部2に衝突したことによる衝突部2での発光強度の変化と、粒子Pが衝突部2に衝突したことによる衝突部2での発光強度の変化とが、所定期間内に重畳して生じる場合がある。この場合、破片dが衝突部2に衝突したことによる発光強度の変化も含めて、検知部3が検知する。すなわち、粒子Pの衝突に対応して生じた発光Fと共に破片dの衝突に対応して生じた発光Fdも検知部3が検知する。
【0049】
この場合であって、粒子Pの質量が破片dの質量よりも十分に大きい場合(例えば、2倍以上の場合)、制御部8は、最初に発光層22の発光強度の大きな増大を検知したタイミングを、最初に粒子Pが衝突部2に衝突したタイミングとみなしてよい。粒子Pの質量が破片dの質量よりも十分に大きい場合は、破片dの衝突によって衝突部2で生じる発光強度が変化の程度(増大の程度)は、粒子Pが衝突部2に衝突したことによる衝突部2での発光強度の変化の程度(増大の程度)に比べて有意に小さいため、両者は区別可能である。
【0050】
破片dよりも十分に質量の大きい粒子Pの移動速度は、破片dの移動速度よりも遅くなる。そのため、レーザ光Lをエネルギー吸収層12に照射した後、破片dは粒子Pよりも先に衝突部2に衝突する。
【0051】
また、粒子Pの質量が破片dの質量よりも十分に大きい場合、粒子Pが衝突部2に衝突した時のひずみは、破片dが衝突部2に衝突した時のひずみよりも十分に大きくなる。そのため、粒子Pが衝突部2に衝突した時のひずみは、破片dが衝突部2に衝突した時のひずみよりも十分に大きくなるから、発光強度の増加量も大きくなる。
【0052】
また、衝突部2に衝突する粒子Pの個数が十分に多い場合、最も移動速度の速い粒子Pが衝突部2に衝突した以降、他の粒子Pが引き続いて衝突部2に衝突していく。
【0053】
すなわち、最も移動速度の速い粒子Pが衝突部2に衝突した以降の発光強度の増加は、粒子Pの衝突に起因するものが支配的となる。したがって、制御部8は、発光層22の発光強度がやや増加した後、最初に発光層22の発光強度の大きな増大を検知したタイミングを、最初に粒子Pが衝突部2に衝突したタイミングとみなしてよい。
【0054】
以上説明したような粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法は、例えば、コールドスプレー、ショットピーニング、表面改質技術、衝突シールド性などの、粒子の飛翔、移動などが関連し、粒子の駆動力を評価する必要のある技術分野での粒子速度の計測に有益である。
【実施例0055】
上記で説明した構成の計測装置を用いてジルコニア粒子の移動速度を計測した。
【0056】
(実施例1)
ジルコニア粒子として、単分散で粒子径(直径)が30μmのジルコニア粒子と、単分散で粒子径(直径)が15μmのジルコニア粒子とを用いた。
【0057】
射出部の保持板のエネルギー吸収層は、黒色のアクリル系粘着剤と透明PETで構成されるテープ(厚さ:30μm)を、ガラスで形成した支持層(厚さ:1.3mm)の表面に形成した。
【0058】
上記ジルコニア粒子を、上記のエネルギー吸収層の表面上に分散して付着させた後、板状の保持板をケーシング内に収容して固定した。なお、レーザ光の照射を予定した領域におけるジルコニア粒子の付着量は、約500個/mmから約1000個/mmであった。本実施例では、30μmのジルコニア粒子を用いる場合と、15μmのジルコニア粒子を用いる場合とで、保持板と衝突板との距離はそれぞれ2.7mm及び2.5mmである。
【0059】
粒子を射出するための光源は、Nd-Yagレーザ(波長は、1064nm)を照射可能なものを用いた。レーザ光の出力は、6nmのパルス幅で50mJとした。レーザ光は、エネルギー吸収層12の表面で直径が400μmになるように収束させて照射した。
【0060】
衝突部の衝突板の発光層には、エポキシ樹脂中に応力発光粉体(堺化学工業株式会社製、製品名:ML-200、ロット番号は、Lot.OS108-2、ユウロピウムをドープしたアルミン酸ストロンチウムの粉体)を練り込んで分散させたものを用いた。エポキシ樹脂中における応力発光粉体の濃度は、0.017mg/1gである。なお、発光層の発光波長は520nmである。
【0061】
衝突板の遮蔽層には、アルミホイル(厚さ:10μm)を用いた。
【0062】
30μmのジルコニア粒子を用いる場合において、選択板は、保持板から0.5mm離れた位置に設置した。選択板の厚みは0.2mmとし、開口部の開口径は300μmとした。また、15μmのジルコニア粒子を用いる場合において、選択板は、保持板から0.5mm離れた位置に設置した。選択板の厚みは0.2mmとし、開口部の開口径は300μmとした。
【0063】
図3には、衝突部の発光強度と経過時間の関係のグラフの一例を示している。図3のグラフでは、発光強度を、検知部の光電子増倍管において単位時間(10ms)あたりに計測された光子数(計測光子数)として縦軸に示し、経過時間を横軸で示している。
【0064】
図3に示す例では、光子数の計測は、衝突部の発光層に発光が飽和するまで紫外線を照射した後に開始した。図3に示すように、発光層の発光強度は、時間の経過とともに減少していく。図3の例では、時刻t(約32秒)の位置でレーザ光を照射して粒子(この例では、上述の30μmのジルコニア粒子)を衝突部に衝突させている。時刻tの直後に、光子数の増大が観察できる(図3中のQ部参照)。
【0065】
図4には、レーザ光の照射により30μmのジルコニア粒子を射出した場合における、発光強度と経過時間の関係のグラフを実線で示している。図4のグラフでは、レーザ光を照射した時の経過時間を0(s)としている。以下では、このグラフのことを射出時のグラフと称する。図4のグラフにおいて、縦軸には、発光強度として、検出された光子数の累積(積算光子数)を示している。横軸には、レーザ光を照射した時点からの経過時間を示している。
【0066】
また、図4には、保持板における、エネルギー吸収層の表面上にジルコニア粒子が分散されていない部分にレーザ光を照射した場合における発光強度と経過時間の関係のグラフを破線で示している。このグラフは、30μmのジルコニア粒子を射出した場合のバックグランドに対応する。以下では、このグラフのことをバックグランドのグラフと称する。
【0067】
図5には、レーザ光の照射により15μmのジルコニア粒子を射出した場合における、発光強度と経過時間の関係のグラフを実線で示している。図5のグラフでは、レーザ光を照射した時の経過時間を0(s)としている。図5の場合と同様に、以下では、このグラフのことを射出時のグラフと称する。図5のグラフにおいて、縦軸には、発光強度として、検出された光子数の累積(積算光子数)を示している。図5のグラフにおいて、横軸には、レーザ光を照射した時点からの経過時間を示している。
【0068】
また、図5には、保持板における、エネルギー吸収層の表面上にジルコニア粒子が分散されていない部分にレーザ光を照射した場合における発光強度と経過時間の関係のグラフを破線で示している。このグラフは、15μmのジルコニア粒子を射出した場合のバックグランドに対応する。図4の場合と同様に、以下では、このグラフのことをバックグランドのグラフと称する。
【0069】
図4及び図5に示すように、バックグランドのグラフにおいても、レーザ光の照射後に、積算光子数の増大が観察される。これは、エネルギー吸収層の破片が衝突板に衝突したことによるものである。
【0070】
図4及び図5に示すように、射出時のグラフには、バックグランドのグラフから乖離する乖離点Dが観察される。換言すると、積算光子数の増加量(変化量)が急増するタイミング(発光層の発光強度の大きな増大を最初に検知した時)として乖離点Dが観察される。
【0071】
この乖離点D以降では、積算光子数が急増していることから、エネルギー吸収層の破片が衝突板に衝突したことによる発光ではなく、ジルコニア粒子の衝突に起因する発光が支配的になっていると考えられる。すなわち、乖離点Dが観察された経過時間(時刻)が、最初にジルコニア粒子が衝突板に衝突したタイミングである。
【0072】
したがって、図4及び図5において、レーザ光が照射された時から乖離点Dが観察された時までの経過時間が、最も移動速度の速いジルコニア粒子が保持板と衝突板との二つの平板間の距離の移動に費やした移動時間である。なお、保持板と衝突板との二つの平板間の距離は、図4に示す30μmのジルコニア粒子を用いた場合で2.7mm、図5に示す15μmのジルコニア粒子を用いた場合で2.5mmである。すなわち、この保持板10と衝突板20(それぞれ図1参照)との二つの平板間の距離を、レーザ光が照射された時から乖離点Dが観察された時までの経過時間で割ると、最も移動速度が速いジルコニア粒子の移動速度を算出することができる。
【0073】
図6には、上記のようにして本実施形態に係る計測装置及び計測方法で計測したジルコニア粒子の移動速度と、参考例として、高速度カメラでの撮像によって計測したジルコニア粒子の移動速度とを対比した棒グラフを示している。図6中、30μmのジルコニア粒子を「30ZrO2」との系列名として示し、15μmのジルコニア粒子を「15ZrO2」との系列名として示している。図6中、黒塗りの棒グラフは高速度カメラでの撮像によって計測したジルコニア粒子の移動速度(30μmのジルコニア粒子の場合に6個、15μmのジルコニア粒子の場合に2個の粒子を計測した場合の平均値)を示している。また、斜線で塗りつぶした(ハッチングした)棒グラフは本実施形態に係る計測装置で計測したジルコニア粒子の移動速度(3個の粒子を計測した場合の平均値)を示している。なお、高速度カメラでの撮像は、解像度が1280×512の画像を11万フレーム/秒のフレームレートとして行った。この撮像時における倍率は12.5倍とし、撮像された画像中における1ピクセルの幅は1.5μmに相当させた。
【0074】
高速度カメラによる粒子移動速度の計測において、粒子の射出方法は上述の場合と同様としている。参考に示す高速度カメラによる計測は、図7に示すように、高速度カメラとしての撮像装置6で移動(飛翔)する粒子を撮像することにより行った。撮像装置6による撮像は、粒子の移動方向に直交する方向から行った。
【0075】
図6に示すように、高速度カメラによる計測と、本実施形態に係る計測装置及び計測方法で計測した結果は一致している。例えば30μmのジルコニア粒子を計測した場合を見ると、高速度カメラによる計測結果も、本実施形態に係る計測装置及び計測方法で計測した結果も、粒子の速度は約400m/sと計測されている。この結果より、本実施形態に係る本実施形態に係る計測装置及び計測方法においても粒子の移動速度は正確に計測可能であることがわかる。本実施例で示したようなジルコニア粒子の場合は高速度カメラでの計測が依然として可能であるが、例えば、本実施例で示したようなジルコニア粒子よりも更に粒子径が小さい粒子を計測する場合、粒子の色調が背景と識別し難い場合、周囲の環境が撮像に適さない場合などにおいては、高速度カメラでの計測に比べて、実施形態に係る計測装置及び計測方法による計測が有利であることは明らかである。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と異なり、30μmのジルコニア粒子について、保持板と衝突板との距離を1.9mmとして粒子の速度を計測した。図8には、図4と同様に、計測時の射出時のグラフ(実線)と、バックグランドのグラフ(破線)と、を示している。
【0077】
図8より、距離1.9mmの場合の粒子の移動速度は、約390m/sと算出された。この計測結果は、実施例1で示した30μmのジルコニア粒子の場合の粒子の移動速度(約400m/s)と一致している。このように、保持板と衝突板との距離が変化しても、粒子の速度は計測することができる。なお、図8に示す乖離点Dは、図4に示す乖離点Dよりも経過時間において早い側に移動している。これは、実施例2の場合(図8参照)が、実施例1における30μmのジルコニア粒子の場合(図4参照)の場合に対して、保持板と衝突板との距離が短いためである。すなわち、実施例1における30μmのジルコニア粒子の場合と比べて、実施例2の場合にはジルコニア粒子がより短時間で衝突板に衝突したのである。
【0078】
以上のようにして、粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法を提供することができる。
【0079】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、射出時のグラフにおけるバックグランドのグラフから乖離する乖離点D(図4など参照)が観察された場合に、保持板10と衝突板20(それぞれ図1参照)との二つの平板間の距離を、レーザ光が照射された時から乖離点Dが観察された時までの経過時間で割って、最も移動速度が速いジルコニア粒子(粒子の一例)の移動速度を算出(測定)する手順を例示して説明した。しかし、最も移動速度が速い粒子の移動速度を算出する手順は、上記手順に限られない。最も移動速度が速い粒子の移動速度は、最も移動速度が速い粒子が衝突部2に衝突したタイミングを特定できれば算出可能である。
【0080】
図9には、図4と同じ射出時のグラフ及び粒子の移動速度を算出する別の手順の一例を示している。このグラフでは、レーザ光Lを照射した時(グラフ中における、経過時間0(s))以降の経過時間の範囲において、明かに積算光子数が増加している区間Aと、この区間Aよりも後の区間であって、この区間よりも明らかに積算光子数の増加量が増大している区間Bとを観察することができる。乖離点Dはこの区間Aと区間Bとの間に存在している。
【0081】
そこで、まず、区間Aの中間部分に、区間αを定める。区間αは、一例として、区間Aの半分程度の範囲に定めるとよい。なお、区間αは、乖離点Dと予測される部分を含まないように定める。
【0082】
次に、区間B内であって、区間Aに近い部分に区間βを定める。区間βも、乖離点Dと予測される部分を含まないように定める。区間βの範囲は、一例として、区間αの範囲と同じ幅で設定するとよい。区間αと区間βとの間の区間は、区間αの範囲の幅の50%以上100%以下程度に定めるとよい。
【0083】
次に、区間αと区間βとのそれぞれの区間内の値について、例えば最小二乗法で直線近似(一次関数で近似)したグラフLα及びグラフLβを引く。
【0084】
そして、グラフLα及びグラフLβについて、それぞれ近づく方向に外挿して交点Xを求める。この交点Xは乖離点Dに近似した位置に位置することになる。乖離点Dを利用した場合と同様に、保持板10と衝突板20(それぞれ図1参照)との二つの平板間の距離を、レーザ光が照射された時から交点Xまでの経過時間で割れば、最も移動速度が速い粒子の移動速度を算出することができる。
【0085】
本実施形態では、その他の方法として、射出時のグラフを微分してグラフの傾きを求め、この傾きが大きく変化した点を特定して粒子の移動速度を算出してもよい。図9に示す射出時のグラフの例では、レーザ光が照射された後、二回目に傾きが大きく変化した点が交点X又は乖離点Dに対応する。
【0086】
(2)上記実施形態では、粒子Pを保持板10上に配置した状態で、レーザ光Lを照射するとエネルギー吸収層12で衝撃波が生じて粒子Pが衝突部2に向けて射出され、レーザ光が照射された時から乖離点Dが観察された時までの経過時間で割って、最も移動速度が速いジルコニア粒子(粒子の一例)の移動速度を算出(測定)する手順を例示して説明した。
【0087】
しかし、本実施形態に係る計測装置及び計測方法において、粒子の射出は、レーザ光や衝撃波によるものに限られない。他の方法で射出された粒子であっても、粒子の移動時間の計測開始のタイミング(上記実施形態での例示では、レーザ光Lを照射した時)を特定することができれば、その移動速度の算出は可能である。
【0088】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、粒子移動速度計測装置及び粒子移動速度計測方法に適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 :射出部
10 :保持板
100 :計測装置
11 :支持層
12 :エネルギー吸収層
19 :支持部
2 :衝突部
20 :衝突板
21 :遮蔽層
22 :発光層
29 :支持部
3 :検知部
30 :光電子増倍管
31 :光電面
4 :選択板
41 :開口部
49 :支持部
5 :光源
6 :撮像装置
8 :制御部
9 :ケーシング
A :区間
B :区間
D :乖離点
F :発光
Fd :発光
G :軸心
L :レーザ光
Lα :グラフ
Lβ :グラフ
P :粒子
V :垂線
X :交点
d :破片
t :時刻
α :区間
β :区間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9