(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063642
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171749
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】前地 洋明
(72)【発明者】
【氏名】清水 健介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS08
5H730BB27
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD31
5H730FD41
5H730FG12
5H730FG15
(57)【要約】
【課題】DC-DCコンバータにおけるスイッチング損失を低減する。
【解決手段】第1レグ(11)と第2レグ(12)とを有した1次側ブリッジ回路(10)と、第3レグ(21)と第4レグ(22)とを有した2次側ブリッジ回路(20)と、を備え、互いに位相差を有する第1仮想レグ(Q1)および第2仮想レグ(Q2)ならびに第3仮想レグ(Q3)および第4仮想レグ(Q4)を含み、各レグを制御する各仮想レグを切り替えたDC-DCコンバータ(1)は、1次側ブリッジ回路に印加される電圧である電圧に対する、2次側ブリッジ回路に印加される電圧の1次側換算電圧、の電圧差に応じて、1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路との位相差を決定し、輸送する電力に応じて、第1仮想レグと第2仮想レグの位相差と、第3仮想レグと第4仮想レグの位相差とを決定する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、
複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、
トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、
前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、
前記制御部は、
前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、
前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、
前記DC-DCコンバータの外部から前記1次側ブリッジ回路に印加される電圧である第1電圧に対する、前記DC-DCコンバータの外部から前記2次側ブリッジ回路に印加される電圧の1次側換算電圧である第2電圧の電圧差に応じて、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間のブリッジ間位相差を決定し、1次側から2次側または2次側から1次側に輸送する電力に応じて、前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間の第1レグ間位相差、および前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間の第2レグ間位相差を制御する、DC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記制御部は、基準電圧から前記電圧差を引いた値を前記基準電圧で除した変数を求め、
前記変数に応じて、前記第1レグ間位相差と、前記第2レグ間位相差とを決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項3】
前記制御部は、前記変数が0以下の場合に、前記ブリッジ間位相差を0とする、請求項2に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項4】
前記制御部は、前記変数が正の場合に、前記変数に、所定の位相差最大値を乗じて、前記ブリッジ間位相差を決定する、請求項2に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧に対する前記第2電圧の比を乗じて、前記第2レグ間位相差を決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項6】
複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、
複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、
トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、
前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、
前記制御部は、
前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、
前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、
前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間に第1レグ間位相差を設け、
前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間に第2レグ間位相差を設け、
前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間にブリッジ間位相差を設けるようにして、各前記1次側スイッチング素子および各前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする、DC-DCコンバータ。
【請求項7】
前記トランスの巻線比は、前記1次側ブリッジ回路の電圧の範囲のうちの最大値と、前記2次側ブリッジ回路の電圧の範囲のうちの最小値との比である、請求項1から5のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項8】
前記第1電圧の範囲のうちの最大値と、前記第2電圧の範囲のうちの最小値と、が等しい、請求項1から5のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項9】
前記第1仮想レグ、前記第2仮想レグ、前記第3仮想レグ、および前記第4仮想レグのデューティ比は0.5である、請求項1から6のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項10】
前記第1動作と前記第2動作とを1周期毎に切り替えることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項11】
前記第1動作と前記第2動作とをN周期(Nは2以上の自然数)毎に切り替えることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、デュアルアクティブブリッジ方式のDC-DCコンバータにおいて、ブリッジ間の位相差、レグ間の位相差、およびデューティ比を制御して、双方向に電力伝送および昇圧・降圧する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、特定のレグにおいて熱損失が発生する。そのために、特定のレグのみに熱損失が偏ることになり、当該レグを集中的に放熱する必要が生じ、熱設計が容易ではない。
【0005】
本発明の一態様は、DC-DCコンバータにおいて発生する熱損失をブリッジ内で平準化し、DC-DCコンバータの放熱を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDC-DCコンバータは、複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、前記DC-DCコンバータの外部から前記1次側ブリッジ回路に印加される電圧である第1電圧に対する、前記DC-DCコンバータの外部から前記2次側ブリッジ回路に印加される電圧の1次側換算電圧である第2電圧の電圧差に応じて、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間のブリッジ間位相差を決定し、1次側から2次側または2次側から1次側に輸送する電力に応じて、前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間の第1レグ間位相差、および前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間の第2レグ間位相差を制御する。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDC-DCコンバータは、複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間に第1レグ間位相差を設け、前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間に第2レグ間位相差を設け、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間にブリッジ間位相差を設けるようにして、各前記1次側スイッチング素子および各前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、DC-DCコンバータにおける熱損失をブリッジ内で平準化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】参考動作例に係るDC-DCコンバータ1の回路図およびブロック図である。
【
図2】変数aについて、a=1の場合における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図3】変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図4】変数aについて、a=1の場合における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図5】変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図6】第1レグ間位相差φL1と電力Poutとの関係を示すグラフである。
【
図7】変数aについて、a=1における低出力領域の定格電圧動作(回生)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図8】変数aについて、a=1における高出力領域の定格電圧動作(回生)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図9】昇圧動作での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図10】降圧動作での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図11】参考動作例での変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示す別のタイミングチャートである。
【
図12】実施形態1での変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図13】参考動作例での変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示す別のタイミングチャートである。
【
図14】実施形態1での変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
【
図15】実施形態1に係るDC-DCコンバータ1の回路図およびブロック図である。
【
図16】第1仮想レグ、第2仮想レグ、および切替信号によって、第1レグおよび第2レグを制御するタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔参考動作例〕
実施形態1の説明に先立ち、まず、
図1~10を用いて本発明の参考動作例について詳細に説明する。
図1は、参考動作例に係るDC-DCコンバータ1の回路図およびブロック図である。DC-DCコンバータ1は、1次側ブリッジ回路10と、2次側ブリッジ回路20と、変換部30と、制御部40と、を備える。
【0011】
(DC-DCコンバータ1の構成)
1次側ブリッジ回路10は、入力端子で直流電源に接続されている。2次側ブリッジ回路20は、出力端子で直流電源に接続されている。1次側ブリッジ回路10の入力端子間の電圧、つまりDC-DCコンバータ1の外部から1次側ブリッジ回路10に印加される電圧は1次側電圧E1であり、1次側ブリッジ回路10の入力端子を流れる電流は1次側電流I1である。2次側ブリッジ回路20の出力端子間の電圧、つまりDC-DCコンバータ1の外部から2次側ブリッジ回路20に印加される電圧は2次側電圧E2であり、2次側ブリッジ回路20の出力端子を流れる電流は2次側電流I2である。ここで、1次側電圧E1、1次側電流I1、2次側電圧E2、2次側電流I2のそれぞれは、制御部40が取得する時間平均値であり、後述する制御に用いる。
【0012】
ここで、「入力」、「出力」とは、1次側ブリッジ回路10から2次側ブリッジ回路20へと電力が伝送されることを想定した表現である。しかし、これは便宜上の表現であって、以下でも同様である。実施形態1のDC-DCコンバータ1は、双方向なデュアルアクティブブリッジ方式のDC-DCコンバータであり、2次側から1次側への電力の伝送も可能である。また、本明細書においては、1次側から2次側への電力Poutの伝送を力行(Pout>0)と呼称し、2次側から1次側への電力Poutの伝送を回生(Pout<0)と呼称する。
【0013】
1次側ブリッジ回路10は、4つの1次側スイッチング素子S1~S4が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C1が並列に接続されている回路である。1次側ブリッジ回路10は、第1レグ11と、第2レグ12と、コンデンサ素子C1とにより構成されている。第1レグ11は、1次側スイッチング素子S1と1次側スイッチング素子S2とが直列に接続されて構成される。第2レグ12は、1次側スイッチング素子S3と1次側スイッチング素子S4とが直列に接続されて構成される。
【0014】
2次側ブリッジ回路20は、4つの2次側スイッチング素子S5~S8が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C2が並列に接続されている回路である。2次側ブリッジ回路20は、第3レグ21と、第4レグ22と、コンデンサ素子C2とにより構成されている。第3レグ21は、2次側スイッチング素子S5と2次側スイッチング素子S6とが直列に接続されて構成される。第4レグ22は、2次側スイッチング素子S7と2次側スイッチング素子S8とが直列に接続されて構成される。
【0015】
1次側スイッチング素子S1~S4および2次側スイッチング素子S5~S8(以降、まとめてスイッチング素子S1~S8と称する)は、それぞれ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはその他のFET(Field Effect Transistor)で構成できる。あるいは、スイッチング素子S1~S8は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、その他のトランジスタで構成されてもよい。
【0016】
変換部30は、巻線比nのトランスTrと、リアクトルLとを備え、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との間に接続される。
図1の回路図においては、変換部30のインダクタンス成分が、1次側に設けられたリアクトルLとして等価的に表されている。ここで、リアクトルLは、1次側スイッチング素子S1と1次側スイッチング素子S2との接続点と、トランスTrの1次巻線の一端に接続されているように表されている。また、トランスTrの1次巻線の他端は、1次側スイッチング素子S3と1次側スイッチング素子S4との接続点に接続されているように表されている。
【0017】
ここでは、リアクトルLをトランスTrの1次巻線に接続するように記載したが、これに限定されない。また、リアクトルLはトランスLに含まれないインダクタンスを含めて表すために記載してあり、つまり、現実のリアクトル素子は回路上に存在しなくても構わない。変換部30に現実の素子としてのリアクトル素子が設けられる場合には、リアクトル素子は、トランスTrの1次側に配置されても、2次側に配置されても、あるいは両方に配置されてもよい。
【0018】
リアクトルLは、トランスTrの漏れインダクタンスを含んでもよい。
図1の回路図においては、トランスTrの2次巻線は、2次側スイッチング素子S5と2次側スイッチング素子S6との接続点および2次側スイッチング素子S7と2次側スイッチング素子S8との接続点に接続されているように表されている。
【0019】
変換部30の1次側の電圧、すなわち、1次側スイッチング素子S3と1次側スイッチング素子S4との接続点から、1次側スイッチング素子S1と1次側スイッチング素子S2との接続点までの電圧を、1次側交流電圧Vac1とする。また、変換部30の1次側の電流、すなわち、変換部30と1次側ブリッジ回路10との間に流れる電流を、1次側交流電流Iac1とする。
【0020】
変換部30の2次側の電圧、すなわち、2次側スイッチング素子S7と2次側スイッチング素子S8との接続点から、2次側スイッチング素子S5と2次側スイッチング素子S6との接続点までの電圧を、2次側交流電圧Vac2とする。また、変換部30の2次側の電流、すなわち、変換部30と2次側ブリッジ回路20との間に流れる電流を、2次側交流電流Iac2とする。
【0021】
ここで、1次側電圧E1を第1電圧(=E1)とも呼称し、2次側電圧E2に巻線比nを乗じた電圧を第2電圧(=nE2)とも呼称する。つまり、第2電圧は2次側電圧E2の1次側換算電圧である。
【0022】
(比較例:従来技術によるDC-DCコンバータ)
特許文献1に係る発明では、上述した各制御パラメータを同時に制御することで、電力の伝送および昇圧・降圧を行っている。また、その際における各スイッチング素子は、スイッチング時に電圧または電流を0にすることで、損失を低減している。しかしながら、こうして損失が低減されるスイッチング素子は、制御モードに依存して変化するために、全スイッチング素子に対して同レベルの熱対策を行う必要がある。
【0023】
さらに、1次側電圧と2次側電圧とが電圧平衡している状態または、2次側電圧が1次側電圧よりも大きい状態(昇圧動作:特許文献1の
図12、
図16)では、大きな出力を得ることができるが、損失も大きい欠点がある。電圧平衡時において、特許文献1では1つのレグにおいてZCSによるスイッチング損失の低減が実現されている。また、1次側電圧よりも2次側電圧が小さい状態(降圧動作:特許文献1の
図6、
図15)では、電圧差が小さいと出力を大きくすることができない欠点もある。特許文献1における降圧動作は、インダクタに両側の電源の電位差が印加されエネルギが蓄積されることを利用するためである。
【0024】
(巻線比nの設定)
トランスTrの巻線比nは、1次巻線の巻き数n1と2次巻線の巻き数n2とでもって、次のように表せる。
【数1】
…(1)。
【0025】
制御部40は、2次側電圧E2、および2次側電流I2を適宜参照して、スイッチング素子S1~S8のスイッチングを制御する。
【0026】
参考動作例のDC-DCコンバータ1が適用される1次側電圧E1の範囲のうちの最大値E1maxと2次側電圧E2の範囲のうちの最小値E2minによって、次の関係を満たすようにして、トランスTrの巻線比nが設定される。
【数2】
…(2)。
【0027】
ただし、巻線比nは1より大きい場合に、参考動作例のDC-DCコンバータ1が適用されるものとする。
【0028】
なお、上述の通りDC-DCコンバータ1は双方向デュアルアクティブブリッジ方式のDC-DCコンバータであるため、1次側及び2次側との呼称は便宜的なものである。2次側電圧E2の最大値E2maxと1次側電圧E1の最小値E1minとの大小関係がE2max>E1minを満たす場合には、2次側ブリッジ回路を1次側ブリッジ回路と読み替え、1次側ブリッジ回路を2次側ブリッジ回路と読み替えて、参考動作例のDC-DCコンバータ1を適用すればよい。
【0029】
(ブロック図)
制御部40は、
図1に示すブロック図に従って各スイッチング素子S1~S8を制御する。ブロック図では、各スイッチング素子同士の位相差を決定している。
図1に示すブロック図は、大きくわけてブロック
図41、ブロック
図42およびブロック
図43にわかれる。なお、各スイッチング素子S1~S8のデューティ比は例えば0.5として固定である。そのため、デューティ比を制御する必要がないため、制御が容易である。
【0030】
(第1レグ間位相差φL1および第2レグ間位相差φL2の決定)
次に各ブロック図の詳細を説明していく。まず、ブロック
図41およびブロック
図42に関して説明する。
【0031】
ブロック
図41は、制御部40が、DC-DCコンバータ1の電力Poutに応じて1次側ブリッジ回路10におけるレグ間の位相差(第1レグ間位相差φL1)を決定することを表している。第1レグ間位相差φL1は、第1レグ11と第2レグ12との位相差であり、この値の正負は制御モードに応じて変化する。
【0032】
制御部40は、DC-DCコンバータ1の電力Poutを、2次側電圧E2および2次側電流I2から求め、当該電力Poutと目標電力Pref_nとの偏差をPI制御によってフィードバックする。制御部40は、PI制御によって求めた制御量の絶対値が飽和しない適正値となるように制限するリミッタを通して、第1レグ間位相差φL1を決定する。
【0033】
ブロック
図42は、制御部40が、第1レグ間位相差φL1ならびに1次側電圧E1および2次側電圧E2に応じて、2次側ブリッジ回路20におけるレグ間の位相差(第2レグ間位相差φL2)を決定することを表している。第2レグ間位相差φL2は、第3レグ21と第4レグ22との位相差であり、この値の正負は制御モードに応じて変化する。
【0034】
制御部40は、第1レグ間位相差φL1に対して、第1電圧に対する第2電圧の比(=E1/nE2)を乗じて、第2レグ間位相差φL2とする。
【0035】
したがって、1次側ブリッジ回路10から2次側ブリッジ回路20へと、または2次側ブリッジ回路20から1次側ブリッジ回路10へと、輸送する電力に応じて、第1レグ11と第2レグ12の位相差である第1レグ間位相差φL1を決定するとともに、第3レグ21と第4レグ22の位相差である第2レグ間位相差φL2を決定し、制御する。
【0036】
なお、参考動作例では、第1レグ間位相差φL1および第2レグ間位相差φL2をフィードバック制御で決定したが、これに限定されない。つまり、制御部40は、第1レグ11と第2レグ12の位相差である第1レグ間位相差φL1に、第1電圧に対する第2電圧の比を乗じて、第3レグ21と第4レグ22の位相差である第2レグ間位相差φL2を決定すればよい。
【0037】
(ブリッジ間位相差φB)
ブロック
図43は、制御部40が、1次側電圧E1および2次側電圧E2に応じて1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との間の位相差(ブリッジ間位相差φB)を決定することを表している。ブリッジ間位相差φBは、1次側ブリッジ回路10が2次側ブリッジ回路20に対して進んでいる場合に正値となる。
【0038】
制御部40は、次式によって変数aを決定する。
【数3】
…(3)。
ここで、Diffは基準電圧であり、ユーザがDC-DCコンバータ1の特性に応じて設定する定数である。基準電圧Diffの値によって、変数aが決定し、ブリッジ間位相差φBが決定する。そのために、基準電圧Diffの値によって、DC-DCコンバータ1の応答性や制御性が決定される。変数aは、第1電圧および第2電圧の電圧差に応じて決定される値であり、基準電圧から、第1電圧に対する第2電圧の電圧差を引いた値を基準電圧で除した値である。
【0039】
その後、制御部40は、変数aが0以下ではないかを確認し、0以下の場合に変数aを0とするリミット処理を行う。つまり、変数aが0以下の場合に、ブリッジ間位相差を0とする。また、変数aが1を超す場合は、変数aを1とするリミット処理を行う。さらに、制御部40は、DC-DCコンバータ1固有の定数であるブリッジ間位相差最大値φB_maxを変数aに乗じることで、ブリッジ間位相差φBを決定する。
【0040】
つまり、ブリッジ間位相差φBは、第1電圧に対する第2電圧の電圧差に応じて決定される、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との位相差である。出力電力にブリッジ間位相差φBは依存しない。なお、変数aが1の場合では、第1電圧と第2電圧とは等しい。
【0041】
(制御モード)
参考動作例に係るDC-DCコンバータ1は3種類の制御モードで動作する。3種類の制御モードは、定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作である。このうち、昇圧動作および降圧動作は、1次側電圧E1と2次側電圧E2との関係が、トランスTrの巻線比nから定まるバランスした状況から大きく離れた場合での動作モードである。この場合に、昇圧動作の電力は力行となり、降圧動作の電力は回生となるように、DC-DCコンバータ1の参考動作例に係る動作は制限される。
【0042】
対して、定格電圧動作はトランスTrの巻線比nに適合した1次側電圧E1と2次側電圧E2との関係における動作モードであり、その電力は力行および回生どちらもが可能である。定格電圧動作は、1次側電圧E1と2次側電圧E2とが電圧平衡している状態である。
【0043】
(定格電圧動作)
定格電圧動作は、変数aが正の値の場合である。つまり、第1電圧(=E1)に対する第2電圧(=nE2)の電圧差が基準電圧Diff未満の場合である。定格電圧動作では、第1レグ間位相差φL1は第2レグ12が第1レグ11に対して進んでいる場合が正であり、第2レグ間位相差φL2は第4レグ22が第3レグ21に対して進んでいる場合が正である。また、定格電圧動作は、低出力領域と高出力領域とに大別される。
【0044】
図2は、変数aについて、a=1の場合(第1電圧(=E1)および第2電圧(=nE2)が等しい場合)における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図3は、変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図2および3に示すように、低出力領域の定格電圧動作では、第2レグ12および第3レグ21がスイッチングする際に、第2レグ12および第3レグ21の電流が0になっている。そのため、第2レグ12および第3レグ21のスイッチングに伴う電力損失はなく、ZCS(Zero Current Switching:ゼロ電流スイッチング)可能である。
【0045】
低出力領域は、第1電圧(E1)および第2電圧(nE2)の電圧差が基準電圧Diff未満の場合であり(変数a>0)、ブリッジ間位相差φB>第1レグ間位相差φL1または、ブリッジ間位相差φB>第2レグ間位相差φL2が成立する場合である。
【0046】
低出力領域での出力電力は、次式で表せる。
【数4】
…(4)。
上式より、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2のパルス幅のみが電力Poutに影響する。
【0047】
図4は、変数aについて、a=1の場合における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図5は、変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図4および
図5に示すように、高出力領域の定格電圧動作では、第2レグ12および第3レグ21がZCS可能である。
【0048】
なお、
図4および
図5では、各レグから代表として奇数番目のスイッチング素子(アッパーアーム)のみの状態を記載したが、偶数番目のスイッチング素子(ロワーアーム)の状態は、同一レグ内の奇数番目のスイッチング素子の状態に対し位相が180°ずれたものである。なお、この関係性は他の図面においても同様である。
【0049】
高出力領域は、第1電圧(=E1)および第2電圧(=nE2)の電圧差が基準電圧Diff未満の場合であり(変数a>0)、ブリッジ間位相差φB<第1レグ間位相差φL1または、ブリッジ間位相差φB<第2レグ間位相差φL2が成立する場合である。
【0050】
高出力領域での出力電力は、次式で表せる。
【数5】
…(5)。
【0051】
なお、
図6は、第1レグ間位相差φL1と電力Poutとの関係を示すグラフである。
図6に示すように、定格電圧動作の場合、低出力領域と高出力領域とは連続しており、シームレスなモード切換が可能である。
【0052】
低出力領域および高出力領域いずれの場合であっても、上述の手順により、ブリッジ間位相差φB、第1レグ間位相差φL1、および第2レグ間位相差φL2が決定される。そのため、ブリッジ間位相差φB、第1レグ間位相差φL1、および第2レグ間位相差φL2の変化はそれぞれが連続的であり、不連続に値が変動することはない。その結果として、電力の変化も連続となっている。
【0053】
また、上述した定格電圧動作の事例は、力行(Pout>0)のものに関してだが、回生(Pout<0)であっても同様の傾向が得られる。
図7は、変数aについて、a=1における低出力領域の定格電圧動作(回生)での動作例を示すタイミングチャートである。
図8は、変数aについて、a=1における高出力領域の定格電圧動作(回生)での動作例を示すタイミングチャートである。なお、回生では、第1レグ間位相差φL1および第2レグ間位相差φL2は負数となる。
【0054】
図7および8に示すように、力行だけではなく回生でも、第2レグ12および第3レグ21はZCSが可能である。つまり、定格電圧動作(電圧平衡時)では、2つのレグにおいてZCSによるスイッチング損失の低減が実現されるため、特許文献1の手法よりも高いスイッチング損失の低減効果が得られる。
【0055】
(昇圧動作)
昇圧動作は、変数aについて、aが負の値の場合である。つまり、第1電圧(E1)および第2電圧(nE2)の電圧差が基準電圧Diff以上の場合である。昇圧動作では、第1レグ間位相差φL1は第2レグ12が第1レグ11に対して進んでいる場合が正であり、第2レグ間位相差φL2は第4レグ22が第3レグ21に対して進んでいる場合が正である。
【0056】
図9は、昇圧動作での動作例を示すタイミングチャートである。昇圧動作では、変数aがリミット処理により0となるため、ブリッジ間位相差φBも0となる。そのため、昇圧動作では、第1レグ間位相差φL1および第2レグ間位相差φL2によって、電力、電圧および電流を制御する。
【0057】
なお、昇圧動作においても、第1レグ間位相差φL1をまず求め、その値を用いて第2レグ間位相差φL2を求める処理の流れを行う。これは、変換部30のトランスTrに印加される交流電圧の時間積を等しくする意味をもつ。1次側および2次側の交流電圧の時間積が等しいことによって、無効電流を回路内に流さない効果が得られる。
【0058】
図9に示すように、昇圧動作では、第1レグ11、第2レグ12、および第3レグ21において、それぞれのレグのスイッチング素子がスイッチングする際の電流が0であるため、ZCS可能である。つまり、昇圧動作では、第4レグ22のみでスイッチング損失が発生するだけである。そのため、低損失で電力を力行することができ、冷却機構の縮小が可能である。
【0059】
なお、この際の出力電力Poutは、次式で表せる。
【数6】
…(6)。
式(5)および式(6)を比較すると、式(6)は、式(5)においてブリッジ間位相差φBを0とした数式であることがわかる。そのため、定格電圧動作と昇圧動作とを遷移する際に、各位相差を不連続に変動させる必要がなく、シームレスな制御が実現できる。
【0060】
(降圧動作)
降圧動作は、変数aについて、aが負の値の場合である。つまり、第1電圧(=E1)に対する第2電圧(=nE2)の電圧差が基準電圧Diff以上の場合である。降圧動作では、第1レグ間位相差φL1は第1レグ11が第2レグ12に対して進んでいる場合が正であり、第2レグ間位相差φL2は第3レグ21が第4レグ22に対して進んでいる場合が正である。
【0061】
図10は、降圧動作での動作例を示すタイミングチャートである。降圧動作では、変数aがリミット処理により0となるため、ブリッジ間位相差φBも0となる。そのため、降圧動作では、第1レグ間位相差φL1および第2レグ間位相差φL2によって、電力、電圧および電流を制御する。
【0062】
なお、降圧動作においても、昇圧動作と同様に、無効電流を回路内に流さないようにしている。
【0063】
図10に示すように、降圧動作では、第1レグ11、第2レグ12、および第3レグ21において、それぞれのレグのスイッチング素子がスイッチングする際の電流が0であるため、ZCS可能である。つまり、降圧動作では、第4レグ22のみでスイッチング損失が発生するだけである。そのため、低損失で電力を回生することができ、冷却機構の縮小が可能である。
【0064】
なお、この際の出力電力Poutは、式(6)と同一である。そのため、定格電圧動作と降圧動作とを遷移する際に、各位相差を不連続に変動させる必要がなく、シームレスな制御が実現できる。
【0065】
(小括)
定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作の制御モードをシームレスに変更することができる。この際、スイッチング素子S1~S8の一部に関してだけZCSができないことによる大きな熱損失が発生するために、当該一部のスイッチング素子のみ冷却を強化すればよい。そのため、一部のスイッチング素子S1~S8のみに対して、十分な放熱を行えばよくなり、熱設計が容易になり、コストを低減することができる。また、各制御パラメータが連続しているために、トランスが偏磁することがない。
【0066】
また、昇圧動作および降圧動作において動作の種類によらず、第1電圧に対する第2電圧の電圧差が小さい場合であっても、大きな出力を取り出すことができる。さらに、特許文献1における制御手法よりも損失を低減することができる。
【0067】
〔実施形態1〕
次に、実施形態1に係るDC-DCコンバータ1における熱損失を平準化した動作に関して説明する。実施形態1に係るDC-DCコンバータ1は、参考動作例に係るDC-DCコンバータ1と同様の回路を有する。
【0068】
まず、実施形態1の概要を説明する。参考動作例では、定格電圧動作では、第2レグ12および第3レグ21においてZCSが可能であった。すなわち、定格電圧動作では第1レグ11および第4レグ22において熱損失が発生する。
【0069】
これに対し、実施形態1では、熱損失が発生するレグを平準化(均一化)するように動作する。そのために、参考動作例における各レグの動作をスイッチングの周期毎に第1レグ11と第2レグ12間および第3レグ21と第4レグ22間で入れ替えることで、各レグの発熱を平準化し、熱損失を平準化する。熱損失が平準化することによって、DC-DCコンバータ1を均一に放熱すればよいため、熱設計が容易になる。
【0070】
具体的には、実施形態1では、第1仮想レグQ1、第2仮想レグQ2、第3仮想レグQ3、および第4仮想レグQ4を定義し、制御部が第1仮想レグQ1、第2仮想レグQ2、第3仮想レグQ3、第4仮想レグQ4を、それぞれ参考動作例における第1レグ11、第2レグ12、第3レグ21、および第4レグ22と同様に制御するものとする。その上で、更に、第1レグ11を第1仮想レグQ1、第2レグ12を第2仮想レグQ2、第3レグ21を第3仮想レグQ3、および第4レグ22を第4仮想レグQ4と見なす第1動作と、第2レグ12を第1仮想レグQ1、第1レグ11を第2仮想レグQ2、第4レグ22を第3仮想レグQ3、および第3レグ21を第4仮想レグQ4と見なす第2動作と、をスイッチング周期毎に交互に実行するように各スイッチング素子を制御する。
【0071】
(定格電圧動作におけるタイミングチャートの変化)
図11は、参考動作例での変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示す別のタイミングチャートである。
図12は、実施形態1での変数aについて、1>a>0における低出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図13は、参考動作例での変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示す別のタイミングチャートである。
図14は、実施形態1での変数aについて、1>a>0における高出力領域の定格電圧動作(力行)での動作例を示すタイミングチャートである。
図11は
図3に対応し、
図13は
図5に対応し、それぞれのタイミングチャートは、タイミングチャートに示す範囲を増やしている。
【0072】
図11では、1次側スイッチング素子S3が、1次側スイッチング素子S1に対して常に進んでいることがわかる。また、2次側スイッチング素子S7が、2次側スイッチング素子S5に対して常に進んでいることがわかる。対して、
図12では、1次側スイッチング素子S3が、1次側スイッチング素子S1に対して、進んでいる場合と遅れている場合とがスイッチング周期毎に交互になっていることがわかる。また、2次側スイッチング素子S7が、2次側スイッチング素子S5に対して、進んでいる場合と遅れている場合とがスイッチング周期毎に交互になっていることがわかる。
【0073】
また、
図13では、1次側スイッチング素子S3が、1次側スイッチング素子S1に対して常に進んでいることがわかる。また、2次側スイッチング素子S7が、2次側スイッチング素子S5に対して常に進んでいることがわかる。対して、
図14では、1次側スイッチング素子S3が、1次側スイッチング素子S1に対して、進んでいる場合と遅れている場合とがスイッチング周期毎に交互になっていることがわかる。また、2次側スイッチング素子S7が、2次側スイッチング素子S5に対して、進んでいる場合と遅れている場合とがスイッチング周期毎に交互になっていることがわかる。
【0074】
つまり、実施形態1では、参考動作例における第1レグ11の動作を、本実施形態では第1レグ11が実行する場合と第2レグ12が実行する場合とがある。同様に、実施形態1では、参考動作例における第3レグ21の動作を、本実施形態では第3レグ21が実行する場合と第4レグ22が実行する場合とがある。参考動作例における第1レグ11~第4レグ22の動作をそれぞれ実施形態1では第1仮想レグQ1~第4仮想レグQ4とし、第1仮想レグQ1~第4仮想レグQ4が制御するレグを第1レグ11~第4レグ22の中において適宜切り替えるようにして制御する。
【0075】
その結果、定格電圧動作においては、第2仮想レグQ2および第3仮想レグQ3においてZCSが可能となっている。つまり、第1動作においては、第2レグ12および第3レグ21においてZCSが可能であり、第2動作においては、第1レグ11および第4レグ22においてZCSが可能である。ZCSできるレグがスイッチング周期毎に変化することによって、熱損失が平準化されることになる。そのため、各スイッチング素子でZCSが実現できないことによって発生する熱も平準化されることになり、DC-DCコンバータ1を均一に放熱すればよいことになる。
【0076】
図11および
図12ならびに
図13および
図14を比較すると、参考動作例(
図11および
図13)では、1次側交流電圧Vac1、2次側交流電圧Vac2、1次側交流電流Iac1、および2次側交流電流Iac2がそれぞれ半周期毎に正負が反転するような振動波形になっている。
【0077】
対して、実施形態1(
図12および
図14)では、1次側交流電圧Vac1、2次側交流電圧Vac2、1次側交流電流Iac1および2次側交流電流Iac2がそれぞれ1周期毎に正負が反転するような振動波形になっている。ただし、当該振動波形は、半周期毎に正負が反転しない範囲で振動しており、その結果、1周期において、正負が反転しない範囲において2度の振動を成している。
【0078】
なお、第1動作および第2動作を切り替えた場合であっても、出力電力Poutは変化しない。つまり、2次側電圧E2および2次側電流I2は実施形態1と参考動作例では変わらない。
【0079】
(ブロック図)
図15は、実施形態1に係るDC-DCコンバータ1の回路図およびブロック図である。実施形態1に係る
図15は、参考動作例に係る
図1と異なり、ブロック
図44、ブロック
図45、ブロック
図46の処理が追加されている。
【0080】
ブロック
図44は、デューティ比が0.5における第1仮想レグQ1~第4仮想レグQ4を決定するロジックである。ブロック
図44では、第1レグ間位相差φL1、第2レグ間位相差φL2、およびブリッジ間位相差φBによって、第1仮想レグQ1~第4仮想レグQ4を生成する。
【0081】
(切替信号SEL)
ブロック
図45は、切替信号SELを作る処理である。切替信号SELは、第1動作と第2動作とを切り替える処理を行う。切替信号SELは1周期毎にスイッチングする信号である。
【0082】
ブロック
図46では、切替信号SELおよび第1仮想レグQ1~第4仮想レグQ4によって、実際に第1レグ11~第4レグ22を制御する処理を行っており、論理回路によって各スイッチング素子S1~S8の制御信号が決定される。
【0083】
図16は、第1仮想レグQ1、第2仮想レグQ2、および切替信号SELによって、第1レグ11および第2レグ12を制御するタイミングチャートの一例である。
【0084】
また、第3仮想レグQ3、第4仮想レグQ4、および切替信号SELによって、第3レグ21および第4レグ22を制御するタイミングチャートは、
図16において、第1仮想レグQ1を第3仮想レグQ3に、第2仮想レグQ2を第4仮想レグQ4に、制御信号S1を制御信号S5に、制御信号S3を制御信号S7に読み替えたものである。なお、制御信号S2、S4、S6、S8に関しては、それぞれ制御信号S1、S3、S5、S7の逆論理である。
【0085】
(小括)
したがって、DC-DCコンバータ1において電力を伝送する際に、ZCSを行うスイッチング素子を定期的に入れ替えることで平準化し、DC-DCコンバータ1の出力を維持したまま、ZCSが実現されないスイッチング素子S1~S8における大きな発熱を平準化することができる。そのため、DC-DCコンバータ1を構成するスイッチング素子S1~S8の放熱効率が改善する。
【0086】
〔変形例〕
(昇圧動作・降圧動作)
実施形態1では、定格電圧動作に関してのみ記載したが、これに限定されない。すなわち、参考動作例に示した昇圧動作および降圧動作を実施形態1に示した制御方法で実現してもよい。
【0087】
すなわち、昇圧動作および降圧動作において、第4レグ22のみでZCSが実現されないことによる発熱を、第3レグ21および第4レグ22に平準化することによって、両者それぞれの発熱量を低減することができる。その結果、DC-DCコンバータ1全体で考えた場合における熱設計が容易になる。
【0088】
(切替信号SELについて)
実施形態1では、切替信号SELは1周期毎に切り替えるものとしたが、これに限定されない。例えば整数周期毎に切り替えてもよい。また、各スイッチング素子の温度を計測し、温度が低いスイッチング素子で発熱が生じるように、切替信号SELを制御してもよい。
【0089】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るDC-DCコンバータは、複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、前記DC-DCコンバータの外部から前記1次側ブリッジ回路に印加される電圧である第1電圧に対する、前記DC-DCコンバータの外部から前記2次側ブリッジ回路に印加される電圧の1次側換算電圧である第2電圧の電圧差に応じて、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間のブリッジ間位相差を決定し、1次側から2次側または2次側から1次側に輸送する電力に応じて、前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間の第1レグ間位相差、および前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間の第2レグ間位相差を制御する。
【0090】
上記の構成によれば、ZCSを実現することができず、スイッチング損失が発生するレグを各ブリッジ回路内で平準化することができる。そのために、DC-DCコンバータ全体においてスイッチング素子における発熱を分散することができ、熱設計が容易になる。
【0091】
本発明の態様2に係るDC-DCコンバータは、上記態様1において、前記制御部は、基準電圧から前記電圧差を引いた値を前記基準電圧で除した変数を求め、前記変数に応じて、前記第1レグ間位相差と、前記第2レグ間位相差とを決定してもよい。
【0092】
上記の構成によれば、定格電圧動作において、定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作をそれぞれ適切に選択して制御することができる。
【0093】
本発明の態様3に係るDC-DCコンバータは、上記態様2において、前記制御部は、前記変数が0以下の場合に、前記ブリッジ間位相差を0としてもよい。
【0094】
上記の構成によれば、定格電圧動作から、昇圧動作または降圧動作に遷移する、またはその逆の際に、各制御パラメータである位相差がシームレスに連続した制御を実現することができる。そのため、各制御パラメータが連続しているために、トランスが偏磁することがない。
【0095】
本発明の態様4に係るDC-DCコンバータは、上記態様2において、前記制御部は、前記変数が正の場合に、前記変数に、所定の位相差最大値を乗じて、前記ブリッジ間位相差を決定してもよい。
【0096】
上記の構成によれば、ブリッジ間位相差をDC-DCコンバータで制御可能な範囲に収めることができ、安定した制御を実現することができる。
【0097】
本発明の態様5に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から4のいずれかにおいて、前記制御部は、前記第1レグ間位相差に、前記第1電圧に対する前記第2電圧の比を乗じて、前記第2レグ間位相差を決定してもよい。
【0098】
上記の構成によれば、定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作において、出力電力に対して、各制御パラメータである位相差がシームレスに連続した制御を実現することができる。そのため、各制御パラメータが連続しているために、トランスが偏磁することがない。
【0099】
上記の課題を解決するために、本発明の態様6に係るDC-DCコンバータは、複数の1次側スイッチング素子を含み、第1レグと第2レグとを有した1次側ブリッジ回路と、複数の2次側スイッチング素子を含み、第3レグと第4レグとを有した2次側ブリッジ回路と、トランスを有し、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間に接続される変換部と、前記1次側スイッチング素子および前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記第1レグを第1仮想レグ、前記第2レグを第2仮想レグ、前記第3レグを第3仮想レグ、前記第4レグを第4仮想レグと見なす第1動作と、前記第2レグを前記第1仮想レグ、前記第1レグを前記第2仮想レグ、前記第4レグを前記第3仮想レグ、前記第3レグを前記第4仮想レグと見なす第2動作とを、交互に実行するとともに、前記第1仮想レグと前記第2仮想レグとの間に第1レグ間位相差を設け、前記第3仮想レグと前記第4仮想レグとの間に第2レグ間位相差を設け、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路との間にブリッジ間位相差を設けるようにして、各前記1次側スイッチング素子および各前記2次側スイッチング素子のスイッチングを制御することを特徴とする。
【0100】
上記の構成によれば、各レグの役割をブリッジ内で平準化することができる。そのため、熱損失を平準化することができる。
【0101】
本発明の態様7に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記トランスの巻線比は、前記1次側ブリッジ回路の電圧の範囲のうちの最大値と、前記2次側ブリッジ回路の電圧の範囲のうちの最小値との比としてもよい。
【0102】
本発明の態様8に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から5のいずれかにおいて、前記第1電圧の範囲のうちの最大値と、前記第2電圧の範囲のうちの最小値と、が等しくてもよい。
【0103】
上記の構成によれば、第1電圧と第2電圧とが異なる場合であっても、ブリッジ間位相差をシームレスに連続させた制御が実現できる。
【0104】
本発明の態様9に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から8のいずれかにおいて、前記第1仮想レグ、前記第2仮想レグ、前記第3仮想レグ、および前記第4仮想レグのデューティ比は0.5でもよい。
【0105】
上記の構成によれば、デューティ比を制御する必要がないため、DC-DCコンバータの制御が容易である。
【0106】
本発明の態様10に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から9のいずれかにおいて、前記第1動作と前記第2動作とを1周期毎に切り替えてもよい。
【0107】
上記の構成によれば、ZCSするレグを1周期毎で切り替えることができる。
【0108】
本発明の態様11に係るDC-DCコンバータは、上記態様1から9のいずれかにおいて、前記第1動作と前記第2動作とをN周期(Nは2以上の自然数)毎に切り替えてもよい。
【0109】
上記の構成によれば、ZCSするレグを周期のN倍の期間で切り替えることができる。
【0110】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
1 DC-DCコンバータ
10 1次側ブリッジ回路
11 第1レグ
12 第2レグ
20 2次側ブリッジ回路
21 第3レグ
22 第4レグ
30 変換部
40 制御部
S1~4 1次側スイッチング素子
S5~8 2次側スイッチング素子