(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063647
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】チタン電析物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/28 20060101AFI20240502BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240502BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C7/06 302
C25C7/00 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171766
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 健人
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】持木 靖貴
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA11
4K058BA10
4K058BB03
4K058CB03
4K058DD02
4K058FA01
4K058FC02
4K058FC13
(57)【要約】
【課題】電解槽の材質に起因する汚染を抑制しつつ、Al含有量を良好に低減することができるチタン電析物の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のチタン電析物の製造方法は、溶融塩浴Bmにて陽極3aと陰極3bとの間に電圧を印加し、前記陽極3aに含まれる粗チタン系材料を溶解させるとともに、前記陰極3bに精製チタン系材料を析出させる電解精製により、チタン電析物を製造する方法であって、前記溶融塩浴Bmとして、MgCl
2含有量が50mоl%以上である塩化物浴を使用し、前記粗チタン系材料として、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を使用し、電解槽2内で前記溶融塩浴Bmを500℃以上として前記電解精製を行う電解工程を含み、前記電解槽2の少なくとも内面が鋼製であり、前記電解工程で、前記電解精製の際に前記陽極3aと前記電解槽2との間に電圧を印加し、前記陽極3a側よりも前記電解槽2側で電位を低くするというものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩浴にて陽極と陰極との間に電圧を印加し、前記陽極に含まれる粗チタン系材料を溶解させるとともに、前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製により、チタン電析物を製造する方法であって、
前記溶融塩浴として、MgCl2含有量が50mоl%以上である塩化物浴を使用し、前記粗チタン系材料として、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を使用し、電解槽内で前記溶融塩浴を500℃以上として前記電解精製を行う電解工程を含み、
前記電解槽の少なくとも内面が鋼製であり、前記電解工程で、前記電解精製の際に前記陽極と前記電解槽との間に電圧を印加し、前記陽極側よりも前記電解槽側で電位を低くする、チタン電析物の製造方法。
【請求項2】
前記電解槽の前記内面が炭素鋼を含む、請求項1に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項3】
前記電解工程で複数個の陽極及び陰極を使用し、前記陽極の少なくとも一個を前記電解槽と電気的に接続する、請求項1又は2に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項4】
前記電解工程で、前記陽極と前記電解槽との間への印加電圧を、前記陽極と前記陰極との間への印加電圧の1/2以下とする、請求項1又は2に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項5】
前記粗チタン系材料のAl含有量が1質量%以上かつ15質量%以下、O含有量が1質量%以上かつ15質量%以下である、請求項1又は2に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項6】
前記電解工程が複数段の電解精製を含み、前段の電解精製で前記陰極に析出した精製チタン系材料を、後段の電解精製で粗チタン系材料として使用する、請求項1又は2に記載のチタン電析物の製造方法。
【請求項7】
前記電解工程の前に、チタン酸化物を含むチタン原料と、Alを含む還元剤とが含まれる混合物を加熱し、溶融状態の前記混合物から前記粗チタン系材料を抽出する抽出工程を含む、請求項1又は2に記載のチタン電析物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩浴にて陽極と陰極との間に電圧を印加し、陽極に含まれる粗チタン系材料を溶解させるとともに、陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製により、チタン電析物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンの製錬には、クロール法を用いる方法が広く採用されている。この方法では、チタン鉱石からの四塩化チタンの生成及び、金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元を順次に行ってチタンを取り出すが、その後のスポンジチタン塊の破砕や、還元で生じた塩化マグネシウムの電気分解等が必要になる他、バッチ生産になる多数の工程が含まれる。それ故に、この方法は、チタンの大量生産に適しているものの、低コストで効率的な製錬法であるとは言い難い。
【0003】
これに対し、溶融塩浴での電解精製によれば、クロール法を用いる上記の製錬法に比して、チタン鉱石からチタンを容易に取り出すことができる可能性がある。この種の技術としては、特許文献1及び2に記載されたもの等がある。
【0004】
特許文献1には、「下記の工程を含むことを特徴とする、チタン鉱からのチタン生産物の抽出方法:チタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程」で、「チタン生産物を、陽極、陰極および電解質を有する反応容器に入れる工程;前記反応容器を600℃~900℃の温度に加熱して溶融混合物を生成させ、前記陽極と陰極の間に電気的差動を適用してチタンイオンを前記陰極に付着させる工程;および、前記電気的差動を終了し、前記溶融混合物を冷却して精錬チタン生産物を生成させる工程;を含み、前記精錬チタン生産物の表面積が少なくとも0.1m2/gであること」が記載されている。
【0005】
特許文献2には、「チタン母合金を生産するためのチタン-アルミナイドを電解精錬する方法であって、a.10質量パーセントよりも多いアルミニウム、及び少なくとも10質量パーセントの酸素、を含むチタン-アルミナイドを反応槽に配置する工程であって、前記反応槽がアノード、カソード、及び電解質を備えて設計され、前記電解質がアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属又はそれらの組み合わせのハロゲン塩を含む、工程;b.前記電解質を、溶融電解質混合物を生産するのに十分な500℃-900℃の温度まで加熱する工程;c.電流を、前記アノードから前記溶融電解質混合物を通って前記カソードに導く工程;及びd.前記チタン-アルミナイドを前記アノードから溶解させて、チタンアルミニウム母合金を前記カソードに堆積させる工程、を含む、方法」が記載されている。
【0006】
なお、チタンの製錬技術ではないが、溶融塩浴での電解精製に関し、特許文献3には、「溶融塩電解法により原料チタンを電解精製する際に、陽極である原料チタンを充填した容器と陰極である電解容器との間に電圧を印加することを特徴とするチタンの製造方法」が提案されている。また、特許文献4及び5には、「本装置にはもう1つの電源20が備えられ、この電源20の+(プラス)が籠状容器2の突出端に接続され、電源20の-(マイナス)は電解容器1の容器本体1aに接続される。これにより、原料チタンTが陽極で電解容器1が陰極とされた不純物溶出防止用回路21が構成される。」との記載があり、特許文献6には、「不純物溶出防止回路として、電源28の陽極はスイッチ29を介して籠状容器14の端子14bに電気的に接続され、陰極は電解容器3の容器本体11に電気的に接続されている。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2015-507696号公報
【特許文献2】特表2020-507011号公報
【特許文献3】特開2000-87280号公報
【特許文献4】特開2000-345379号公報
【特許文献5】特開2001-115290号公報
【特許文献6】特開2001-11682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1及び2に記載されているような製錬法の抽出では、還元剤としてAlを使用することに起因して、それにより得られる粗チタン系材料に、Alがある程度多く含まれる。その後の電解精製では、粗チタン系材料から精製チタン系材料を生成させるに当たり、粗チタン系材料中のAl含有量を低減することが重要になる。
【0009】
そのような電解精製で、Al2O3を含む煉瓦製の電解槽を使用すると、かかる煉瓦中のAlが精製チタン系材料に混入し、Al含有量が十分に低減されないことが懸念される。このため、上記の電解精製では、少なくとも内面が鋼製である電解槽を使用することが、電解槽からのAlの混入を避けるとの観点から望ましい。
【0010】
この一方で、内面が鋼製の電解槽は、鋼に含まれるFeやCr等の金属が溶融塩浴中に溶出し、精製チタン系材料の汚染を招くという問題があった。
【0011】
この発明の目的は、電解槽の材質に起因する汚染を抑制しつつ、Al含有量を良好に低減することができるチタン電析物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のチタン電析物の製造方法は、溶融塩浴にて陽極と陰極との間に電圧を印加し、前記陽極に含まれる粗チタン系材料を溶解させるとともに、前記陰極に精製チタン系材料を析出させる電解精製により、チタン電析物を製造する方法であって、前記溶融塩浴として、MgCl2含有量が50mоl%以上である塩化物浴を使用し、前記粗チタン系材料として、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を使用し、電解槽内で前記溶融塩浴を500℃以上として前記電解精製を行う電解工程を含み、前記電解槽の少なくとも内面が鋼製であり、前記電解工程で、前記電解精製の際に前記陽極と前記電解槽との間に電圧を印加し、前記陽極側よりも前記電解槽側で電位を低くするというものである。
【0013】
前記電解槽の前記内面は、炭素鋼を含むことが好ましい。
【0014】
前記電解工程では、複数個の陽極及び陰極を使用する場合、前記陽極の少なくとも一個を前記電解槽と電気的に接続することができる。
【0015】
前記電解工程では、前記陽極と前記電解槽との間への印加電圧を、前記陽極と前記陰極との間への印加電圧の1/2以下とすることが好ましい。
【0016】
前記粗チタン系材料のAl含有量は1質量%以上かつ15質量%以下、O含有量が1質量%以上かつ15質量%以下である場合がある。
【0017】
前記電解工程は複数段の電解精製を含むことがあり、この場合、前段の電解精製で前記陰極に析出した精製チタン系材料を、後段の電解精製で粗チタン系材料として使用する。
【0018】
前記電解工程の前には、チタン酸化物を含むチタン原料と、Alを含む還元剤とが含まれる混合物を加熱し、溶融状態の前記混合物から前記粗チタン系材料を抽出する抽出工程を含む場合がある。
【発明の効果】
【0019】
この発明のチタン電析物の製造方法によれば、電解槽の材質に起因する汚染を抑制しつつ、Al含有量を良好に低減することができるチタン電析物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一の実施形態に係るチタン電析物の製造方法を実施することができる電解槽の一例を模式的に示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う鉛直方向の断面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿う水平方向の断面図である。
【
図3】電解槽の他の例を模式的に示す、溶融塩浴の深さ方向に沿う鉛直方向の断面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う水平方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るチタン電析物の製造方法では、必要に応じて抽出工程を経た後、電解工程が行われる。電解工程では、電解精製により粗チタン系材料を精製チタン系材料に精製する。より詳細には、溶融塩浴にて陽極と陰極との間に電圧を印加することにより、陽極に含まれる粗チタン系材料を溶解させるとともに、陰極に精製チタン系材料を析出させる。
【0022】
電解工程では、溶融塩浴として、MgCl2含有量が50mоl%以上である塩化物浴を使用する。また、粗チタン系材料としては、Ti、Al及びOを含有して導電性を有するものを使用する。そしてここでは、電解精製を行うに際し、電解槽内で溶融塩浴を500℃以上とする。
【0023】
この実施形態では、電解工程で使用する電解槽は、少なくとも内面が鋼製であるものとする。その上で、電解槽の内面の鋼に含まれ得るFeやCrその他の金属の溶出を抑制するため、電解精製の際に、陽極と電解槽との間にも電圧を印加し、陽極側よりも電解槽側で電位を低くする。それにより、電解槽の内面の材質による精製チタン系材料の汚染を抑制することができる。また、電解槽の内面は、Al2O3を含む煉瓦製ではなく鋼製であることから、電解精製では、精製チタン系材料への煉瓦由来のAlの混入が生じない。それらの結果として、不純物含有量が少なく、Al含有量が良好に低減された精製チタン系材料が得られる。
【0024】
(抽出工程)
抽出工程では、TiO2等のチタン酸化物を含むチタン原料と、Alを含む還元剤とを含む混合物を加熱する。必要に応じて混合物には分離剤を含ませてもよい。このときの反応は複雑だが、総じて3TiO2+4Al→3Ti+2Al2O3が起こると考えられる。この反応式中のTiはある程度の量のAlとOが固溶しており、これが粗チタン系材料に相当する。加熱温度は1500℃~1800℃とする場合がある。混合物は加熱により溶融状態になった後、密度差で粗チタン系材料(液体または固体)とスラグとが分離するので、粗チタン系材料を抽出することができる。なお、この抽出は反応に炭素を必要としない。このため、抽出工程でのチタン酸化物の脱酸には、炭素原料を使用することを要しない。
【0025】
チタン原料は、チタン酸化物を含むものであればよく、たとえば、必要に応じてリーチング等のアップグレート処理その他の処理が施されたチタン鉱石を挙げることができる。チタン原料として用いるチタン鉱石中のTiO2の含有量は、たとえば50質量%以上、典型的には80質量%以上、特に90質量%以上とすることがある。
【0026】
分離剤は、加熱後にスラグから粗チタン系材料を分離しやすくするために使用される。分離剤として具体的には、CaF2、AlF3、KF、MgF2、CaCl2、CaO及びNaFからなる群から選択される一種以上とすることが好ましい。なかでもCaF2は、混合物からの粗チタン系材料の優れた分離性をもたらすとともに、当該分離以外に及ぼす影響が少ないことから特に好適である。還元剤は、実質的にAlを単独で含むものとすることができる他、さらにCaやNa等を含むものであってもよい。たとえば、混合物は、TiO2:Al:CaF2がモル比で3:4~7:2~6になるように調整して作製する場合がある。
【0027】
抽出工程で得られる粗チタン系材料は、Ti、Al及びO(酸素)が含まれ、たとえば、Ti含有量が60質量%以上、Al含有量が20質量%以下、O含有量が20質量%以下となることがある。典型的には、粗チタン系材料は、Ti含有量が70質量%以上かつ95質量%以下、Al含有量が1質量%以上かつ15質量%以下、O含有量が1質量%以上かつ15質量%以下、Fe含有量が0.2質量%以上かつ5質量%以下となる場合がある。通常、粗チタン系材料の残部は、抽出工程の原料および抽出工程の処理に起因する比較的微量の不可避的な不純物である。なお、抽出工程においてチタン酸化物以外にも脱酸される金属酸化物等が含まれる場合、当該金属が粗チタン系材料に含まれることがある。
【0028】
このような粗チタン系材料は導電性を有するものであり、後述する電解工程で陽極に含ませて電解精製に供することができる。粗チタン系材料の室温での比抵抗は、たとえば1×10-8Ω・m~1×10-4Ω・m、典型的には1×10-7Ω・m~5×10-5Ω・mである。なお、粗チタン系材料を別途入手することができれば、抽出工程は省略してもよい。
【0029】
(電解工程)
電解工程では、種々の電解装置を使用可能であるが、ここでは一例として
図1に示す電解装置1を用いて説明する。
【0030】
図示の電解装置1は、内部にて溶融塩を貯留させて溶融塩浴Bmを形成する電解槽2と、少なくとも一部が溶融塩浴Bmに浸漬させて配置される陽極3a及び陰極3bを有する電極3とを含んで構成されている。
【0031】
ここで、電解槽2は、図示は省略するが、容器状の槽本体及び、その槽本体の上方側の開口部を開閉可能な蓋体を有することがある。電解槽2は、少なくとも、内部の溶融塩浴Bmに接触する槽本体等の内面が鋼製であるものとする。これにより、Al2O3を含む煉瓦製の電解槽を用いた場合における精製チタン系材料への当該Alの混入を回避することができる。電解槽2は、少なくとも内面が鋼製であればよく、たとえば、内面のみならず全体を、炭素鋼又はステンレス鋼等の鋼製とすることや、内面を含む内側部分が炭素鋼であって、外面を含む外側部分がステンレス鋼であるクラッド鋼とすること等が可能である。即ち、前記鋼としては、例えば炭素鋼、ステンレス鋼、またはこれらのクラッド材を使用できる。鋼製の電解槽2は、大型のものであっても作製及び設置が比較的容易である他、準備及びメンテナンスにそれほど手間を要しない。ステンレス鋼は、電解槽2の機械的強度を高くすることができる。炭素鋼は、ステンレス鋼のようにCrを含むものではないので、溶融塩浴BmへのCrの溶出が生じない。なお、電解槽2は、内部には、アルゴンガス等の不活性ガスの供給や気体の排出に用いる配管が接続されることがあり、内部及び/又は外部には、内部を加熱するためのヒーター等が配置され得る。
【0032】
またここで、陽極3aとしては、たとえば上述した抽出工程で得られる粗チタン系材料が含まれるものを用いる。一例として、陽極3aは、Tiよりもイオン化傾向が小さいNi等の金属製であって多数の貫通孔を有する籠状容器を有し、この場合、その籠状容器内に粒状もしくは粉状等の粗チタン系材料を配置することができる。籠状容器は、銅又は鉄その他の金属の表面を、Ni等でコーティングしたものであってもよい。但し、陽極3aの形態はこれに限らず、たとえば、粗チタン系材料から溶解及び鋳造等により作製した棒状ないし柱状又は板状その他の任意の形状のものとしてもよい。陰極3bはTi製のものを使用可能であり、その形状は特に問わず、たとえば陽極3aの形状に合わせて適宜決定され得る。陽極3a及び陰極3bの外観形状も任意に決定することができるが、図示の例は、
図2に示すように、いずれも板状のものとしている。なお電極3は、陽極3a及び陰極3bの他、陽極3aと陰極3bとの間に配置される複極をさらに有するものであってもよい。
【0033】
このような電解装置1において、陽極3aと陰極3bは電源4に接続されて、電解用回路5が構成されている。これとは別に、図示の電解装置1は、陽極3aと電解槽2とが、上記の電源4とは異なる電源6に接続されており、それにより汚染抑制用回路7を設けたものである。電解槽2の、電源6への接続箇所は、電解槽2の鋼製の内面に通電可能であれば特に問わない。
【0034】
電解精製の間に、汚染抑制用回路7を用いて陽極3aと電解槽2との間に電圧を印加すれば、電解槽2側の電位が陽極3a側の電位よりも低くなり、電解槽2の内面を構成する鋼の成分(Tiよりも電気化学的に貴なFeやCr等)の、溶融塩浴Bmへの溶出を抑えることができる。その結果、陰極3bに析出する精製チタン系材料が当該鋼の成分で汚染されることが抑制されるので、純度の高い精製チタン系材料を得ることができる。
【0035】
なお、鋼製の電解槽の成分溶出を抑制するには、その内面にTi又はNiコーティングを施すことも考えられるが、そのようなコーティングは設備コストの大幅な上昇を招く場合がある。これに対し、この実施形態は、比較的安価に実施できる点で有用である。
【0036】
図3及び4に示すように、それぞれ複数個の陽極13a及び陰極13bを使用する場合は、それらのうちの少なくとも一個の陽極13aが、汚染抑制用回路17内で電解槽12と電気的に接続されていればよい。少なくとも一個の陽極13aと電解槽12との間に電圧を印加すれば、電解槽12は陽極13aよりも電位が低くなって、内面からの鋼の成分の溶出が抑えられるからである。
図3及び4の例では、三個ずつの陽極13a及び陰極13bを交互に並べて配置している。この場合、両側に陽極13aがある陰極13bでは、各陽極13a側を向くその両面のそれぞれに、精製チタン系材料が析出するので、生産性を高めることができる。電解槽12の大きさにもよるが、多数個の陽極13a及び陰極13bを配置すれば、それらの個数に応じて、多くの精製チタン系材料を析出させることができる。
図3及び4の例では陽極13aと陰極13bの個数が同じであるが、これらの個数は異なっていてもよい。
【0037】
陽極3aと電解槽2との間への電圧の印加は、上述したように、電解槽2側の電位を低くすることで、電解槽2の内面のFeやCr等の溶出を抑制することを目的として行うものであり、電解槽2に積極的に電流を流すためのものではない。そのような目的が達成できれば、陽極3aと電解槽2との間への印加電圧の大きさは適宜決定することができる。たとえば、陽極3aと電解槽2との間の印加電圧は、陽極3aと陰極3bとの間の印加電圧よりも小さくすることがあり、さらに、陽極3aと陰極3bとの間の印加電圧の1/2以下(半分以下)とする場合がある。このようにして電解精製の際に、陽極3aと電解槽2との間に電圧を印加すると、電解槽2の内面に精製チタン系材料が薄く析出することがあるが、精製チタン系材料は、主として陰極3b上に析出する。
【0038】
上述したような陽極3aと電解槽2との間への電圧の印加は、電解精製の間の少なくとも一時期に行っていれば、その時期における鋼の成分の溶出を抑制することができる。精製チタン系材料の汚染をより一層抑制するため、電解精製の間は全期間にわたって継続して、陽極3aと電解槽2との間に電圧を印加し続けることが好ましい。
【0039】
電解工程で用いる溶融塩浴Bmは、主として金属塩化物を含む塩化物浴とし、たとえば、アルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物を、たとえば70mol%以上、さらに80mol%以上、さらに90mol%以上含有することがある。このような塩化物浴は、フッ化物浴や臭化物浴、ヨウ化物浴に比して、低腐食性、低環境負荷及び低コストであることから好ましい。なかでも、高濃度のMgCl2を含む塩化物浴を用いたときは、O含有量のみならずAl含有量をも十分に低減された精製チタン系材料を得ることができる。このため、塩化物浴中のMgCl2含有量は、50mol%以上とし、好ましくは80mol%以上、さらに好ましくは85mol%以上、特に好ましくは90mol%以上である。塩化物浴には、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、BeCl2、CaCl2、SrCl2及びBaCl2から選択される1種以上の金属塩化物を、たとえば70mol%以下、さらに50mol%以下、さらに20mol%以下、さらに10mol%以下、さらに5mol%以下で含むものとしてもよい。
【0040】
溶融塩浴Bm中には、チタンイオンを予め含ませておくことができる。たとえば、電解精製の開始に先立ち、チタンスクラップやスポンジチタン等を溶解させることにより、溶融塩浴Bmはチタンイオンを含むものになる。より詳細には、チタンスクラップやスポンジチタンとTiCl4を接触させて、TiCl4よりも低級のTiCl2やTiCl3等の塩化チタン(低級塩化チタン)を生成させ、それを溶解させてチタンイオンを含む溶融塩浴Bmとすることがある。溶融塩浴Bm中のチタンイオンの含有量は、好ましくは1mol%以上、より好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、特に好ましくは10mol%以上であり、20mоl%以下である。溶融塩浴Bm中の金属塩化物や金属イオンの含有量は、ICP発光分光分析や原子吸光分析により測定することができる。チタンイオンの含有量は、溶融塩浴Bm中の金属イオンの合計含有量に対する百分率として求められる。
【0041】
電解工程では、電源4から陽極3a及び陰極3bに通電し、陽極3aと陰極3bとの間に電圧を印加する。これにより、陽極3aに含まれる粗チタン系材料からTiがチタンイオンとして溶融塩浴Bm中に溶出し、チタンイオンが陰極3b上に精製チタン系材料として析出する。
【0042】
このとき、溶融塩浴Bmは、上記のようにMgCl2をある程度多く含むので、比較的高温とする。具体的には溶融塩浴Bmの温度は500℃以上とし、750℃以上としてもよく、また900℃以下とすることがある。溶融塩浴Bmを高温にすれば、電解槽2の内面の成分が溶出しやすくなるが、この実施形態では、先述したように陽極3aと電解槽2との間への電圧の印加により、電解槽2の内面の成分溶出を抑制することができる。また、溶融塩浴Bmを高温とすると、精製チタン系材料のAl含有量が低減される傾向がある。
【0043】
また、陰極3bでの電流密度は0.01A/cm2~5A/cm2とする場合がある。電流密度は、式:電流密度(A/cm2)=電流(A)÷電解面積(cm2)により算出することができる。陽極3a及び陰極3bには、電流を連続的に流すことができる他、電流値をゼロにする通電停止期間が設けられて通電期間と通電停止期間とが交互に繰り返されるパルス電流を流してもよい。陽極3a及び陰極3b間の最大電圧は、たとえば0.2~20Vになることがある。電解工程の間、電解槽2の内部は、アルゴン等の不活性雰囲気に維持することが好適である。
【0044】
電解精製により陰極3b上に析出した精製チタン系材料は、切削工具等を用いて陰極3b上から物理的に引き剥がすこと等により回収することができる。精製チタン系材料は、それが電着している陰極3bとともに、又は陰極3bから引き剥がした後に、溶融塩成分を除去するための酸洗浄及び/又は水洗浄が行われ得る。その後、必要に応じて真空乾燥を行うことがある。また、上記の洗浄や乾燥でなく、高温減圧条件により溶融塩成分を除去する真空分離を行ってもよい。
【0045】
更なる精製のため、上述したような電解精製を複数段行うことも可能である。複数段の電解精製を行う場合は、前段の電解精製で陰極3b上に析出した精製チタン系材料を、後段の電解精製で粗チタン系材料として使用する。すなわち、後段の電解精製では、前段の電解精製で陰極3b上に析出した精製チタン系材料を、粗チタン系材料として陽極3aに含ませて使用する。これにより、後段の電解精製では、その粗チタン系材料から不純物がさらに除去された精製チタン系材料が、陰極3b上に析出する。電解精製の段数を増やすほど、精製チタン系材料中のチタン純度が高くなる。所望の純度に応じて電解精製の段数を適宜決定すればよい。複数段の電解精製を行うと、不純物がほぼ含まれないチタン電析物を製造することも可能である。
【0046】
複数段の電解精製は、同じ電解槽2及び溶融塩浴Bmを使用して連続的に行うことも可能である。この場合、前段の電解精製の陽極3aと陰極3bの極性を逆転させ、精製チタン系材料が析出した陰極3bを、後段の電解精製で陽極3aとして引き続き使用してもよい。この際に、前段の電解精製で陽極3aを配置していた場所には新たな陰極3bを配置することができる。
【0047】
(チタン電析物)
電解工程の終了後により得られる精製チタン系材としてのチタン電析物は、Ti以外の不純物の合計の含有量が、例えば40000質量ppm以下、好ましくは7000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらに好ましくは1000質量ppm以下、特に好ましくは200質量ppm以下である。
【0048】
チタン電析物は金属チタン製であり、たとえば、Al含有量が4000質量ppm以下、Fe含有量が500質量ppm以下、Cr含有量が1000質量ppm以下、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。なお、前記Al含有量は2000質量ppm以下、また1000質量ppm以下であってよい。前記Fe含有量は300質量ppm以下であってよい。前記Cr含有量は800質量ppm以下であってよい。Tiの純度が4N5以上、さらに5N以上、さらに5N5以上であるチタン電析物が製造できることもある。
【実施例0049】
次に、この発明のチタン電析物の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0050】
図1及び2に示すような電解装置で電解精製を行った。電解槽は、容積は5m
3であって、材質が炭素鋼又はステンレス鋼であるものとした。陽極としては、溶融塩が浸入可能であるNi製の籠状容器の内部に粗チタン系材料を配置したものを使用し、陰極はチタン製のものとした。粗チタン系材料は、Al含有量が9質量%、O含有量が13質量%、Fe含有量が2質量%、Cr含有量が50質量ppm、Ti含有量が70質量%以上、残部が抽出工程に起因する不可避的不純物であり、鶴賀電機株式会社製の低抵抗計3566-RYを用いて2端子測定法により測定した比抵抗が5×10
-5Ω・mであった。粗チタン系材料中のCrは、抽出工程以外の工程もしくは原料等に由来する不可避的不純物であると推測される。
【0051】
塩化物浴である溶融塩浴の組成は、実施例1~3、5及び6並びに比較例1~3ではMgCl2-NaCl-KCl-4mol%低級塩化チタンとし、実施例4ではMgCl2-4mol%低級塩化チタンとし、比較例4ではNaCl-KCl-4mol%低級塩化チタンとした。溶融塩浴のMgCl2含有量及び浴温を、表1に示す。なお、実施例4を除いて、NaClとKClは等モルで溶融塩浴に含まれるものとした。電解精製の間は、電解槽の内部をAr雰囲気とした。
【0052】
電解精製の間、陽極と陰極との間に3.5~4.0Vの範囲内の電圧を印加した。また、実施例1~6並びに比較例1、2及び4では、電解精製の間に、陽極と電解槽とを電気的に接続する汚染抑制用回路に、電圧:1.5V、電流:0.6Aで通電した。比較例3では、陽極と電解槽との間に電圧を印加しなかった。
【0053】
電解精製の終了後、陰極を、そこに電着した精製チタン系材料とともに電解槽から取り出し、希塩酸で洗浄した後に、減圧雰囲気下で乾燥させ、精製チタン系材料を陰極から剥がした。これにより得られたチタン電析物のAl含有量、Fe含有量及びCr含有量を、表1に示す。なお、チタン電析物や上記の粗チタン系材料の金属成分は、ICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製のPS3520UVDDII)を用いて測定した。
【0054】
【0055】
表1からわかるように、実施例1~6では、所定の電解条件とし、さらに陽極と電解槽との間に電圧を印加したことにより、チタン電析物のAl含有量、Fe含有量及びCr含有量はいずれも十分に少なくなった。
【0056】
比較例1及び2は溶融塩浴のMgCl2含有量が少なく、また比較例4はMgCl2を含まない溶融塩浴を用いたことにより、それらの比較例1、2及び4ではチタン電析物のAl含有量が増大した。比較例3では、陽極と電解槽との間に電圧を印加しなかったことから、Fe含有量及びCr含有量が多いチタン電析物が得られた。
【0057】
また比較例3のチタン電析物は、Al含有量も多かった。これは、実施例1~6並びに比較例1及び2では、陽極と電解槽との間に電圧を印加したことにより、Alが電解槽に移行し、チタン電析物のAl含有量が低減されたことによるものと推測される。なお、比較例4では、陽極と電解槽との間に電圧を印加したが、溶融塩浴がMgCl2を含まなかったことから、チタン電析物のAl含有量が多くなったと考えられる。
【0058】
以上より、この発明のチタン電析物の製造方法によれば、電解槽の材質に起因する汚染を抑制しつつ、Al含有量を良好に低減できることがわかった。