(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063664
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】心拍数推定装置及びヘッドセットシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
A61B5/02 310N
A61B5/02 310G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171796
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日比野 陽
(72)【発明者】
【氏名】川部 智明
(72)【発明者】
【氏名】三保 秀仁
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA09
4C017AB08
4C017AC28
4C017AC31
4C017BC16
4C017FF15
(57)【要約】
【課題】本発明は、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することを目的とする。
【解決手段】心拍数推定装置は、密閉空間の圧力変動を表す波形から波形特徴点を抽出する特徴点抽出部と、前記波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成するパルス波形生成部と、前記パルス波形に対して周波数解析を実施する周波数解析部と、前記周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する心拍数推定部と、を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間の圧力変動を表す波形から波形特徴点を抽出する特徴点抽出部と、
前記波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成するパルス波形生成部と、
前記パルス波形に対して周波数解析を実施する周波数解析部と、
前記周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する心拍数推定部と、
を備える心拍数推定装置。
【請求項2】
前記特徴点抽出部は、密閉空間の圧力変動を表す波形から、閾値以上の変動幅を持つゼロクロス、ピーク点、又はボトム点を、前記波形特徴点として抽出する請求項1記載の心拍数推定装置。
【請求項3】
前記パルス波形生成部は、所定の振幅のパルスを形成した前記パルス波形を生成する請求項1記載の心拍数推定装置。
【請求項4】
前記周波数解析部は、離散フーリエ変換により、前記周波数解析を実施する請求項1記載の心拍数推定装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項記載の心拍数推定装置と、
使用者の耳に装着される中空のハウジング、
前記ハウジング内部に設けられた音信号出力用のドライバ、
前記ハウジング内部であって、前記ドライバより後方に設けられたマイクロフォン、及び
前記マイクロフォンから出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する出力部
を含むヘッドセットと、
を含むヘッドセットシステム。
【請求項6】
請求項1~請求項4の何れか1項記載の心拍数推定装置と、
使用者の耳に装着される中空のハウジング、
前記ハウジング内部に設けられた音信号出力用のドライバ、
前記ハウジング内部であって、前記ドライバより後方に設けられた光検出部、及び
前記光検出部から出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する出力部
を含むヘッドセットと、
を含むヘッドセットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心拍数推定装置及びヘッドセットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
イヤフォンを用いて人体の頭部から生体情報を収集する試みが活発に行われている。生体情報の中でも、頭部の動き、深部体温、及び心拍に対しては、特に精度の高い情報を収集することが要望されている。
【0003】
心拍数を推定する処理においては、体動により発生するノイズによる誤検出を排除することが重要となる。そこで、光学式の心拍数推定方式において、複数の光源やセンサーを用いて同一箇所を複数方向から観測し体動によるノイズを除去する手法を組み合わせた方式が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8,998,815号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、密閉空間の圧力変動から心拍数を推定する場合においては、同一空間内の圧力変動はほぼ均一であるため、複数の圧力センサーやマイクロフォンを用いてもノイズ削減のための効果は見込めない。
【0006】
そのため、圧力センサーやマイクロフォンでセンシングした圧力変動について、ノイズを含む状態のまま解析し心拍数を推定する必要がある。しかし、密閉空間の圧力変動においては、血流に伴う血管の膨張収縮よりも体動に起因する変動の方が著しく大きなものとなることが多い。
【0007】
そのため、密閉空間の圧力変動に対して一般的な周波数解析(スペクトラム解析)を行っても、体動やアーチファクト等に起因する特性が支配的となり、血管の膨張収縮に起因する周期特徴点は埋もれてしまうことが課題となる。
【0008】
本発明は、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる心拍数推定装置及びヘッドセットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る心拍数推定装置は、密閉空間の圧力変動を表す波形から波形特徴点を抽出する特徴点抽出部と、前記波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成するパルス波形生成部と、前記パルス波形に対して周波数解析を実施する周波数解析部と、前記周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する心拍数推定部と、を含んで構成されている。
【0010】
本発明によれば、特徴点抽出部によって、密閉空間の圧力変動を表す波形から波形特徴点を抽出する。パルス波形生成部によって、前記波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成する。周波数解析部によって、前記パルス波形に対して周波数解析を実施する。心拍数推定部によって、前記周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。
【0011】
このように、密閉空間の圧力変動を表す波形から波形特徴点を抽出して、波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成し、パルス波形に対して周波数解析を実施した結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。これにより、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。
【0012】
本発明に係る特徴点抽出部は、密閉空間の圧力変動を表す波形から、閾値以上の変動幅を持つゼロクロス、ピーク点、又はボトム点を、前記波形特徴点として抽出することができる。
【0013】
本発明に係るパルス波形生成部は、所定の振幅のパルスを形成した前記パルス波形を生成することができる。
【0014】
本発明に係る周波数解析部は、離散フーリエ変換により、前記周波数解析を実施することができる。
【0015】
本発明に係るヘッドセットシステムは、上記の心拍数推定装置と、使用者の耳に装着される中空のハウジング、前記ハウジング内部に設けられた音信号出力用のドライバ、前記ハウジング内部であって、前記ドライバより後方に設けられたマイクロフォン、及び前記マイクロフォンから出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する出力部を含むヘッドセットと、を含んで構成されている。
【0016】
本発明によれば、ヘッドセットにおいて、出力部によって、前記マイクロフォンから出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する。
【0017】
そして、心拍数推定装置によって、マイクロフォンから出力された信号から、心拍数を推定する。
【0018】
このように、マイクロフォンから出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。
【0019】
本発明に係るヘッドセットシステムは、上記の心拍数推定装置と、使用者の耳に装着される中空のハウジング、前記ハウジング内部に設けられた音信号出力用のドライバ、前記ハウジング内部であって、前記ドライバより後方に設けられた光検出部、及び前記光検出部から出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する出力部を含むヘッドセットと、を含んで構成されている。
【0020】
本発明によれば、ヘッドセットにおいて、出力部によって、前記光検出部から出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として前記心拍数推定装置へ出力する。
【0021】
そして、心拍数推定装置によって、光検出部から出力された信号から、心拍数を推定する。
【0022】
このように、光検出部から出力された信号を、密閉空間の圧力変動を表す波形として、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の心拍数推定装置及びヘッドセットシステムによれば、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】マイクロフォンから出力された信号の波形の例を示す図である。
【
図1B】マイクロフォンから出力された信号の波形から抽出される波形特徴点の例を示す図である。
【
図1C】波形特徴点と同じタイミングの例を示す図である。
【
図1D】パルス波形を生成する方法を説明するための図である。
【
図1F】パルス波形に対する周波数解析の結果の例を示す図である。
【
図1G】周波数解析の結果から得られる周期特徴点の例を示す図である。
【
図2A】静止時での密閉空間の圧力変動の波形から抽出される波形特徴点の例を示す図である。
【
図2B】周波数解析の結果から得られる周期特徴点の例を示す図である。
【
図3A】体動時での密閉空間の圧力変動の波形から抽出される波形特徴点の例を示す図である。
【
図3B】周波数解析の結果から得られる周期特徴点の例を示す図である。
【
図4A】離散フーリエ変換による周波数解析の結果の例を示す図である。
【
図4B】高速フーリエ変換による周波数解析の結果の例を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係るヘッドセットの全体構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る情報処理部の構成を示すブロック図である。
【
図7】ゼロクロスポイントを波形特徴点として抽出する方法を説明するための図である。
【
図8】信号の波形から検出された仮ピーク及び仮ボトムの例を示す図である。
【
図9】誤検出と推定される仮ピーク及び仮ボトムを除去した後の仮ピーク及び仮ボトムの例を示す図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態に係る情報処理部による心拍数推定処理の内容を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の第2の実施の形態に係るヘッドセットの全体構成を示す断面図である。
【
図12】実施例に係るヘッドセットの全体構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
[第1の実施の形態]
<本発明の第1の実施の形態の概要>
心拍数を推定する処理においては、体動やアーチファクト等により発生するノイズによる心拍の誤検出を排除することが重要となる。
【0027】
本実施の形態では、密閉空間の圧力変動の波形について、そのまま周波数解析を実施するのではなく、その波形の特徴点である波形特徴点を抽出し、その波形特徴点と同じタイミングでパルスを形成したパルス波形を生成し、そのパルス波形に対して周波数解析を実施し、周波数解析の特徴点である周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。
【0028】
具体的には、
図1Aに示すような密閉空間の圧力変動の波形を取得し、
図1Bに示すように、波形特徴点を抽出する(
図1Bの×マーク参照)。そして、
図1C、
図1Dに示すように、波形特徴点と同じタイミングでパルスを形成したパルス波形を生成する。そして、
図1Eに示すようなパルス波形に対し、周波数解析を実施し、
図1Fに示す周波数解析結果を得る。そして、
図1Gの矢印マークが示す周期特徴点から心拍数を推定する。
【0029】
体動などによる、密閉空間の大きな圧力変化による波形特徴点と、血管の膨張収縮による、密閉空間の微細な圧力変化による波形特徴点とを同じ変動レベルに変換して周波数解析する。このため、従来の方式では体動の周波数特性に埋もれてしまうようなケースであっても、血管の膨張収縮により発現した周期特徴点を判別することが容易となり、体動が発生する状態であっても精度よく心拍数の推定を行う事が可能となる。
【0030】
ここで、静止時での密閉空間の圧力変動の波形から抽出される波形特徴点の例を
図2Aに示す。この例では、血管の膨張収縮の波形間隔から脈拍は64ppm(1.07Hz)と推定される。このとき、本実施の形態では、
図2Bに示すような周波数解析の結果が得られ、波形間隔から算出した帯域にピーク(
図2Bの矢印マーク参照)が明確に現れ、周期特徴点として抽出される。この周期特徴点は、64ppm(1.07Hz)に対応するものであることが分かる。
【0031】
また、体動時での密閉空間の圧力変動の波形から抽出される波形特徴点の例を
図3Aに示す。この例では、血管の膨張収縮の波形間隔から脈拍は68ppm(1.13Hz)と推定される。このとき、本実施の形態では、
図3Bに示すような周波数解析の結果が得られ、波形間隔から算出した帯域にピーク(
図3Bの矢印マーク参照)が明確に現れ、周期特徴点として抽出される。この周期特徴点は、68ppm(1.13Hz)に対応するものであることが分かる。
【0032】
また、パルス波形の振幅については任意の値を用いて変化させても良いが、一定の値に固定しても良い。また、周波数解析については高速フーリエ変換を用いても良いが、離散フーリエ変換(DFT)を用いることが好ましい。
【0033】
心拍数を推定するという目的においては、強度の強い周波数を抽出できれば良いことから、パルス波X(n)の周波数特性Ffを求める離散フーリエ変換は、二乗平均の平方根算出などの出力を正規化するための演算を省略して、以下のように簡略化することができる。
【0034】
【0035】
式(1)においてNはパルス波X(n)のサンプル数を示し、fsはX(n)のサンプリング周波数を示し、fは解析する周波数を示す。
【0036】
なお、X(n)はパルス波であるため、パルスの存在するパルスポイントn以外はゼロであるため演算を行う必要がなく、また、振幅が固定値の場合はsin値/cos値はテーブル参照のみで求まるため、周波数fごとにN回のALU/MUX演算(テーブル参照、乗算および加算の複合処理)の演算を行うことで強度を得られる。それに加えて、心拍数推定に要する周波数fについてのみ限定して演算することが可能となる。このため、高速フーリエ変換を実施した場合(計算量:Nlog2N)と比較して大幅な計算量の削減が実現される。
【0037】
式(1)を上記
図1Eのパルス波形に適用した場合の実施例を以下に示す。
【0038】
サンプリング周波数fs=100Hz
サンプル長N=2048
パルスポイント数45point
解析周波数0.5≦f≦3.0(30ppm~180ppmに相当)
【0039】
上記
図1Eのパルス波形における周波数特性Xfの算出に要するコストは以下であった。
【0040】
テーブルメモリの容量は、2048×16bitである。ALU/MUX演算の回数は、4500回(=45(パルスポイント数)×50(解析帯域数)×2(実数部+虚数部))である。ここで、「45」はパルスポイント数であり、「50」は解析帯域数であり、「2」は、実数部と虚数部の2つであることを示す。
【0041】
高速フーリエ変換で求めた場合に要するコストは下記である。
【0042】
テーブルメモリの容量は、2048×16bitである。ALU/MUX演算の回数は、40960回(=2048×log2(2048)×2)である。
【0043】
このように、高速フーリエ変換で求めた場合に要するコストと比較すると、本実施形態での効果を確認できる。
【0044】
求めた周波数特性を
図4A、
図4Bに示す。
図4Aは、離散フーリエ変換による周波数解析の結果の例を示す図であり、解析周波数fが、0.5Hzから3.0Hzである例を示している。
図4Bは、高速フーリエ変換による周波数解析の結果の例を示す図である。
【0045】
離散フーリエ変換による周波数解析の結果は、Y軸のスケールが、高速フーリエ変換による周波数解析の結果と異なるが、形状は一致していることから、離散フーリエ変換により簡略化しても問題ないことが確認できる。
【0046】
<本発明の第1の実施の形態のヘッドセットシステムの構成>
本発明の第1の実施の形態に係るヘッドセットシステムは、
図5に示すヘッドセット100を有する。
【0047】
図5に示すように、ヘッドセット100は、内部に各種の機能部品を収容する、使用者の耳に装着される中空のハウジング10を有する。また、ヘッドセット100は、ハウジング10の一部分であって、使用者の耳に装着されたときのハウジング10の外耳道側の部分に設けられた、中空部を有する筒状の外耳道挿入部12を有する。
【0048】
また、ヘッドセット100は、ハウジング10内部に設けられた音信号出力用のドライバ14を有する。
【0049】
また、ヘッドセット100は、外耳道挿入部12の中空部に伝播する信号を収集するように設けられたマイクロフォン16と、ドライバ14から音信号を出力させる再生部20と、マイクロフォン16の出力を情報処理部50へ送信する通信部23と、を備えている。
【0050】
再生部20及び通信部23は、ハウジング10内に配置されたメイン基板(図示省略)上に実装されている。
【0051】
ドライバ14から音信号が出力されていないときにマイクロフォン16から出力された信号を、通信部23により情報処理部50へ送信する。ここで、ドライバ14から音信号が出力されていないときにマイクロフォン16から出力された信号は、ハウジング10の中空部と使用者の外耳道とで形成される密閉空間の圧力変動を表す波形であり、例えば、上記
図1Aに示す波形である。
【0052】
本発明の第1の実施の形態に係るヘッドセットシステムは、
図6に示す情報処理部50を有する。なお、情報処理部50は、心拍数推定装置の一例である。
【0053】
情報処理部50は、携帯端末、あるいはコンピュータ端末等からなり、もしくは情報処理部50はヘッドセットシステムに内蔵される。ここで、携帯端末には、スマートフォン端末、携帯電話、PDA(Personal Digital Assistants)端末が含まれる。コンピュータ端末には、ノート型・ブック型コンピュータ端末、デスクトップ型コンピュータ端末が含まれる。情報処理部50は、ヘッドセット100のハウジング10内に設けられてもよいし、ヘッドセット100とは別に設けられてもよい。
【0054】
情報処理部50は、CPUと、RAMと、後述する心拍数推定処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備えたコンピュータで構成され、機能的には次に示すように構成されている。
【0055】
図6に示すように、情報処理部50は、入力部60、演算部70、及び出力部80を備えている。演算部70は、特徴点抽出部72、パルス波形生成部74、周波数解析部76、及び心拍数推定部78を備えている。
【0056】
入力部60は、ヘッドセット100から受信した、マイクロフォン16から出力された信号の入力を受け付ける。
【0057】
特徴点抽出部72は、マイクロフォン16から出力された信号から、上記
図1Bに示すように、波形特徴点を抽出する。
【0058】
具体的には、特徴点抽出部72は、密閉空間の圧力変動を表す波形である、マイクロフォン16から出力された信号から、閾値以上の変動幅を持つゼロクロスを、波形特徴点として抽出する(
図7の×印参照)。
【0059】
図7下図は、
図7上図の矩形枠部分の拡大図である。
図7下図では、ゼロクロスの前後で閾値以上の変動幅を持つゼロクロスポイントのうち、矢印マークで示すゼロクロスポイントが、心拍によると推定されるゼロクロスポイントであり、それ以外のゼロクロスポイントが、体動によると推定されるゼロクロスポイントである。
【0060】
ここで、ゼロクロスポイント抽出における変動幅の閾値を状況に応じて変動させても良い。なお、閾値以上の変動幅を持つゼロクロスとして抽出されたゼロクロスポイント全ての周期性が周波数特性に現れることから、心拍と体動によるゼロクロスポイントが混在していても心拍の周期に周期特徴点は発現する。ただし、体動による波形特徴点が多ければその分だけ体動による周期特徴点も発現するため、可能な限り体動による波形特徴点は少ない方が良いが、体動による波形特徴点を除外することは必須ではない。
【0061】
また、心拍に連動する点を含めて波形特徴点を抽出できる手法であれば、ゼロクロス以外を、波形特徴点として抽出しても良い。例えば、密閉空間の圧力変動を表す波形から、ピーク点及びボトム点を、波形特徴点として抽出してもよい。この場合、密閉空間の圧力変動を表す波形から、ピーク点及びボトム点を検出し(
図8)、検出されたピーク点及びボトム点のうち、誤検出と推定されるピーク点及びボトム点を除去する(
図9)。より具体的には、
図8に示すように、密閉空間の圧力変動を表す波形から、上極限それぞれの移動平均を超えているポイントを仮のピーク点(白丸部分を参照)として抽出する。また、下極限それぞれの移動平均を下回るポイントを仮のボトム点(黒丸部分を参照)として抽出する。そして、仮のボトム点から仮のピーク点までの時間差と振幅量、有効な仮のピーク点の間隔、及び有効な仮のボトム点の間隔を考慮し、誤検出と推定される仮のピーク点及び仮のボトム点を除去する。
【0062】
また、機械学習を用いて、密閉空間の圧力変動を表す波形からピーク点及びボトム点を抽出し、波形特徴点としてもよい。例えば、参考文献1に記載の手法を用いて、ピーク点及びボトム点を抽出すればよい。
【0063】
[参考文献1]:"Robust ECG R-peak Detection Using LSTM", Juho Laitala et al., SAC ‘20: Proceedings of the 35th Annual ACM Symposium on Applied Computing. March 2020Pages 1104-1111, https://doi.org/10.1145/3341105.3373945
【0064】
パルス波形生成部74は、波形特徴点と同じタイミングに所定の振幅のパルスを形成したパルス波形を生成する。例えば、上記
図1Dに示すように、波形特徴点と同じタイミングに一定の振幅のパルスを形成したパルス波形を生成する。なお、パルス波形のパルスは、一定の振幅でなくてもよく、任意の値を用いて変化させてもよい。
【0065】
周波数解析部76は、パルス波形に対して周波数解析を実施する。具体的には、周波数解析部76は、離散フーリエ変換により、周波数解析を実施し、
図1Fに示すような周波数特性を得る。なお、離散フーリエ変換ではなく、高速フーリエ変換を用いてもよい。
【0066】
心拍数推定部78は、周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。
【0067】
具体的には、心拍数推定部78は、上記
図1Gに示すように、周波数解析の結果から、周波数成分が閾値より大きい周波数に対応する周期を、周期特徴点として抽出し、抽出した周期特徴点のうち、心拍間隔に対応する周期特徴点を特定し、特定した周期特徴点から、単位時間当たりの心拍数を推定する。
【0068】
<本発明の第1の実施の形態のヘッドセットシステムの動作>
ヘッドセット100のハウジング10が、使用者の耳に装着されているときであって、使用者の情報処理部50から、心拍数の推定指示が無線通信により受信されると、ヘッドセット100は、ドライバ14から音信号が出力されていないときにマイクロフォン16から出力された信号を、通信部23により情報処理部50へ送信する。
【0069】
そして、情報処理部50は、マイクロフォン16から出力された信号を受信したときに、
図10に示すような心拍数推定処理を実行する。
【0070】
まず、ステップS100において、入力部60は、ヘッドセット100から受信した、マイクロフォン16から出力された信号を取得する。
【0071】
ステップS102において、特徴点抽出部72は、マイクロフォン16から出力された信号から、波形特徴点を抽出する。
【0072】
ステップS104において、パルス波形生成部74は、波形特徴点と同じタイミングに所定の振幅のパルスを形成したパルス波形を生成する。
【0073】
ステップS106において、周波数解析部76は、パルス波形に対して周波数解析を実施する。
【0074】
ステップS108において、心拍数推定部78は、周波数解析の結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定して、出力部80により表示し、心拍数推定処理を終了する。
【0075】
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係るヘッドセットシステムによれば、心拍数推定装置が、ヘッドセットのマイクロフォンから出力された、密閉空間の圧力変動を表す波形の信号から波形特徴点を抽出して、波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成し、パルス波形に対して周波数解析を実施した結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。これにより、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。特に、体動が発生する状態であっても心拍数の推定を行う事が可能となる。
【0076】
また、密閉空間の圧力変動を表す波形の信号から、閾値以上の変動幅を持つゼロクロスポイントを、波形特徴点として抽出することにより、心拍数の推定精度を向上させる。
【0077】
また、パルス波形に対する周波数解析において、離散フーリエ変換を使用することにより、高速フーリエ変換を用いた場合と比較して大幅な計算量の削減が実現される。
【0078】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態のヘッドセットシステムについて説明する。第1の実施の形態と同様の構成となる部分につては、同一符号を付して説明を省略する。
【0079】
第2の実施の形態では、光電脈波を用いて、生体情報を取得する点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0080】
<本発明の第2の実施の形態のヘッドセットシステムの構成>
本発明の第2の実施の形態に係るヘッドセットシステムは、
図11に示すヘッドセット200を有する。ヘッドセット200は、上記第1の実施の形態に係るヘッドセット100と同様の構成の他、光電脈波を計測する光電脈波計測器216を備えている。光電脈波計測器216は、光検出部の一例である。
【0081】
光電脈波計測器216は、近赤外LEDなどの発光部及びフォトトランジスタなどの光検出部を含み、外耳道内の光電脈波を計測し、計測された光電脈波を示す信号を出力する。光電脈波計測器216から出力された信号が、通信部23により情報処理部50へ送信される。ここで、光電脈波計測器216から出力された信号は、ハウジング10の中空部と使用者の耳とで形成される密閉空間の圧力変動を表す波形であり、例えば、上記
図1Aに示す波形と同様の波形である。
【0082】
情報処理部50の入力部60は、ヘッドセット200から受信した、光電脈波計測器216から出力された信号の入力を受け付ける。
【0083】
特徴点抽出部72は、光電脈波計測器216から出力された信号から、波形特徴点を抽出する。
【0084】
なお、第2の実施の形態に係るヘッドセットシステムの他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態に係るヘッドセットシステムによれば、心拍数推定装置が、ヘッドセットの光電脈波計測器から出力された、密閉空間の圧力変動を表す波形の信号から波形特徴点を抽出して、波形特徴点と同じタイミングにパルスを形成したパルス波形を生成し、パルス波形に対して周波数解析を実施した結果から得られる周期特徴点を分析することにより心拍数を推定する。これにより、密閉空間の圧力変動から精度よく心拍数を推定することができる。特に、体動が発生する状態であっても心拍数の推定を行う事が可能となる。
【0086】
<実施例>
上記第1の実施の形態のヘッドセットの実施例について説明する。
図12に示すように、本実施例のヘッドセットのハウジング10は、メインハウジング1aとフロントハウジング1bが嵌合して形成される。
【0087】
メインハウジング1aは、全体として円筒形をした中空状の部材であり、後方の開口部はカバー2によって塞がれている。メインハウジング1aの内部には、その開口部に対向してメイン基板3が配置される。メイン基板3は、再生部20、及び通信部23として機能する電子部品を実装した基板である。
【0088】
メイン基板3の前方には、電池6が電池クッション7及び電池キャップ8を介して配置される。
【0089】
メインハウジング1aの外周には、ハウジングラバー9が設けられる。ハウジングラバー9は、メインハウジング1aの外周に嵌め込まれた円筒状の弾性部材であり、耳との接触を緩和するとともに、ハウジング10内への水の進入を防止する。
【0090】
フロントハウジング1bは、円筒状をしたメインハウジング1aの前方の開口部を塞ぐように配置される。フロントハウジング1bは、全体として斜円錐台の形状をしており、周縁の一部が鼓膜側に向かってやや盛り上がっている。
【0091】
フロントハウジング1bの前方には、斜円錐台の頂部から鼓膜側に向かって突出した外耳道挿入部12が設けられる。外耳道挿入部12は、フロントハウジング1bの一部に設けられた円筒状の形状であり、前方及び後方とも開口し、フロントハウジング1bの内外を連通させている。外耳道挿入部12の内部には、円筒状のケースを備えたドライバ14が設置される。そのため、外耳道挿入部12の前方開口部に近接して、ドライバ14の位置決め部11が設けられ、ドライバ14の前端部がこの位置決め部11に係合することにより、ドライバ14は外耳道挿入部12の内側面に固定される。ドライバ14の後端部は、フロントハウジング1bの前端部付近に来るよう配置される。ドライバ14は、円筒状のケース内に出力信号を生成するための磁気回路、振動板などを備え、適宜の周知構造のものが用いられる。
【0092】
本実施例のヘッドセットは、マイクロフォン16を有する。マイクロフォン16は、フロントハウジング1b内の外耳道挿入部12の近傍、すなわちドライバ14の後方に設けられる。
【0093】
マイクロフォン16は、マイクロフォン用基板15に実装される。マイクロフォン用基板15は、ブロック416に固定される。ブロック416は、マイクロフォン16とマイクロフォン用基板15を支持するブロック状の部材である。マイクロフォン用基板15及びブロック416には、マイクロフォン16に外耳道内の音響信号が到達することができるように開口部15a,16aが設けられている。
【0094】
外耳道挿入部12の内面には、外耳道挿入部12の軸方向に沿って形成された溝である中空部16Aが設けられる。中空部16Aは、ドライバ14の側面との間に形成された角溝型の空間であって、外耳道挿入部12の前端部からフロントハウジング1bに固定されたブロック416の開口部16aにまで連通している。
【0095】
外耳道挿入部12の外周には、イヤピース13が固定される。イヤピース13は、イヤチップ、イヤパッド、イヤキャップとも呼ばれており、例えばシリコーンゴムなどの弾性部材からなる。イヤピース13は、外耳道挿入部12の外周に嵌め込まれる円筒部13bの先端に、半球に形成された外耳道壁面への密着部13aを有する。外耳道挿入部12の外周には、イヤピース取付溝412が設けられ、一方、イヤピース13の円筒部13bの内周に嵌合部13cが設けられており、嵌合部13cがイヤピース取付溝412に噛み合うことにより、イヤピース13が外耳道挿入部12に固定される。
【0096】
上記の実施例で説明したように、マイクロフォンをドライバ後方に配置した構造にすることにより、必要とされる構成部品を内蔵したヘッドセットのハウジングと外耳道とにより構成される密閉空間の体積について、マイクロフォンをドライバ前方に配置した場合よりも小さくすることが可能となる。
【0097】
なお、このヘッドセットのハウジングと外耳道とにより構成される密閉空間については、密閉空間の体積が小さいほうが血流に伴う血管の膨張収縮を含めた圧力変動がより大きくなるとされている(参考文献2参照)。そのため、上記の実施例で説明した構造により密閉空間の体積を小さくすることで、密閉空間の圧力変動をより正確に取得することが可能となり、精度よく心拍数を推定することができる。
【0098】
[参考文献2]:特許第6082131号
【0099】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0100】
例えば、上述した各実施形態では、ヘッドセットに本発明を適用した場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。ヘッドセット以外に本発明を適用してもよく、例えば電子聴診器に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0101】
10 ハウジング
14 ドライバ
16 マイクロフォン
50 情報処理部
60 入力部
70 演算部
72 特徴点抽出部
74 パルス波形生成部
76 周波数解析部
78 心拍数推定部
80 出力部
100、200 ヘッドセット
216 光電脈波計測器