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特開2024-63671車いす動作推定装置、車いす動作推定システム、車いす動作推定方法、及び車いす動作推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063671
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】車いす動作推定装置、車いす動作推定システム、車いす動作推定方法、及び車いす動作推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20240502BHJP
   A61G 5/02 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G05B11/36 503A
A61G5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171804
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 和男
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 二弥
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA34
5H004GB11
5H004HB08
5H004HB09
5H004JB23
(57)【要約】
【課題】画像を撮影することなくことなく、車いすの動作を推定することが可能な車いす動作推定装置、車いす動作推定システム、車いす動作推定方法、及び車いす動作推定プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】車いすの位置及び速度を入力として、センサ値を推定するシミュレーション動作モデル40を予め作成する。また、実際の車いすにIMUを設置し、車いすを移動する実験を行って車いすの位置及び速度を計測する。そして、シミュレーション動作モデル40を用いて構築した非線形カルマンフィルタ42を、IMUの検出結果を観測信号として用いて解くことにより、車いすの動作を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得する取得部と、
予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、前記取得部が取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する推定部と、
を含む車いす動作推定装置。
【請求項2】
前記取得部は、車いすの本体に設けられて加速度及び角速度を検出する第3検出部の検出結果を更に取得する請求項1に記載の車いす動作推定装置。
【請求項3】
前記本体の水平座標、前記本体の鉛直回りの回転角、前記一対の車輪の各々の回転角、前記車いすの移動速度、前記本体の鉛直回りの角速度、前記一対の車輪の各々の角速度、及び前記本体の加速度を前記非線形カルマンフィルタの状態量として前記非線形カルマンフィルタを解くことにより、前記車いすの動作を推定する請求項2に記載の車いす動作推定装置。
【請求項4】
前記非線形カルマンフィルタの状態量として、前記一対の車輪のスリップ率を更に含む請求項3に記載の車いす動作推定装置。
【請求項5】
前記第1検出部、前記第2検出部、及び前記第3検出部を更に含む請求項2に記載の車いす動作推定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車いす動作推定装置と、
前記第1検出部が前記一方の車輪に設けられ、かつ前記第2検出部が前記他方の車輪に設けられた車いすと、
を含む車いす動作推定システム。
【請求項7】
コンピュータが、
車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得し、
予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する車いす動作推定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得し、
予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する処理を実行させるための車いす動作推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車いす動作推定装置、車いす動作推定システム、車いす動作推定方法、及び車いす動作推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車いす及び乗車者が撮像された複数の撮像画像と、複数の撮像画像のそれぞれに撮像されている車いす及び乗車者のそれぞれ一以上の部位の座標情報とに基づいて、車いす及び乗車者が撮像された撮像画像から車いす及び乗車者のそれぞれ一以上の部位の座標情報を推定する推定部、を備えた姿勢推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-77805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、座標情報を推定するために撮影画像を用いているが、画像を撮影することなく手法では、撮影するための機器自体が高価であり、機器を設置する労力も必要であった。
【0005】
本開示は、画像を撮影することなくことなく、車いすの動作を推定することが可能な車いす動作推定装置、車いす動作推定システム、車いす動作推定方法、及び車いす動作推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1態様は、車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得する取得部と、予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、前記取得部が取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する推定部と、を含む車いす動作推定装置である。
【0007】
第2態様は、第1態様の車いす動作推定装置において、前記取得部は、車いすの本体に設けられて加速度及び角速度を検出する第3検出部の検出結果を更に取得する。
【0008】
第3態様は、第2態様の車いす動作推定装置において、前記本体の水平座標、前記本体の鉛直回りの回転角、前記一対の車輪の各々の回転角、前記車いすの移動速度、前記本体の鉛直回りの角速度、前記一対の車輪の各々の角速度、及び前記本体の加速度を前記非線形カルマンフィルタの状態量として前記非線形カルマンフィルタを解くことにより、前記車いすの動作を推定する。
【0009】
第4態様は、第3態様の車いす動作推定装置において、前記非線形カルマンフィルタの状態量として、前記一対の車輪のスリップ率を更に含む。
【0010】
第5態様は、第2態様~第4態様の何れか1の車いす動作推定装置において、前記第1検出部、前記第2検出部、及び前記第3検出部を更に含む。
【0011】
第6態様は、第1態様~第5態様の何れか1の態様の車いす動作推定装置と、前記第1検出部が前記一方の車輪に設けられ、かつ前記第2検出部が前記他方の車輪に設けられた車いすと、を含む車いす動作推定システムである。
【0012】
第7態様は、コンピュータが、車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得し、予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する車いす動作推定方法である。
【0013】
第8態様は、コンピュータに、車いすに設けられた一対の車輪のうちの一方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第1検出部、並びに、他方の車輪に設けられて加速度及び角速度を検出する第2検出部の各々の検出結果を取得し、予め作成した前記車いすの動作モデルを用いて構築した非線形カルマンフィルタを、取得した前記検出結果を観測信号として用いて解くことにより、前記車いすの動作を推定する処理を実行させるための車いす動作推定プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、画像を撮影することなくことなく、車いすの動作を推定できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る車いす動作推定装置の概略を説明するための図である。
図2】本実施形態に係る車いす動作推定装置の構成を示すブロック図である。
図3】本実施形態に係る車いす動作推定装置による車いすの動作の推定方法の一例を説明するための図である。
図4】拡張カルマンフィルタを実行するための事前準備の手順を示すフローチャートである。
図5】車いすにおける各状態量を示す図である。
図6】1つのIMUの3方向の加速度の検出値の一例を示す図である。
図7】観測方程式の設定の一例を示す図である。
図8】車輪が滑っていない場合の速度を説明するための図である。
図9】車輪が滑っている場合の速度を説明するための図である。
図10】車いすのローカル座標系を示す図である。
図11】本実施形態に係る車いす動作推定装置で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図12】本実施形態に係る車いす動作推定装置により推定した推定値と、実際に実験して測定した実験値を示す図である。
図13】本実施形態に係る車いす動作推定装置において、車いす本体のIMUを省略して一対の車輪に設けたIMUを用いて車いすの動作を推定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。また、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本実施形態では、車いすにセンサを設置して、車いすの動作を推定する車いす動作推定装置を説明する。図1は、本実施形態に係る車いす動作推定装置の概略を説明するための図である。また、図2は、本実施形態に係る車いす動作推定装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
本実施形態では、角速度及び加速度を計測する慣性計測装置(以下、IMU(Inertial Measurement Unit)14と称する。)をセンサとして用いて車いすの動作を推定する。
【0019】
IMU14は、車いす12に設置して、IMU14の検出結果を車いす動作推定装置10に送信し、車いす動作推定装置10が、IMU14の検出結果に基づいて、車いすの動作を推定する。車いす動作推定装置10は、図1に示すように、パーソナルコンピュータ等のコンピュータが一例として適用される。
【0020】
また、本実施形態では、IMU14は、図1に示すように、車いす12の一対の車輪12Sの回転軸と、車いす12の本体に設けられている。すなわち、3つのIMU14を車いす12に設置し、3つのIMU14の検出結果に基づいて車いす12の動作を推定する。なお、一対の車輪12Sの一方の車輪12Sに設けたIMU14が第1検出部に対応し、他方の車輪12Sに設けたIMU14が第2検出部に対応し、車いす12本体に設けたIMU14が第3検出部に対応する。
【0021】
3つのIMU14はそれぞれ、図2に示すように、加速度センサ16、角速度センサ18、及び通信部20を備えている。
【0022】
加速度センサ16は、車いす12に発生する3方向の加速度を検出し、検出結果を通信部20に出力する。詳細には、一対の車輪12Sに設けた2つのIMU14の加速度センサ16はそれぞれ、車輪12Sの回転軸に発生する加速度を検出し、車いす本体12Hに設けたIMU14の加速度センサ16は、車いす本体12Hに発生する加速度を検出する。
【0023】
角速度センサ18は、車いす12に発生する3方向の角速度を検出し、検出結果を通信部20に出力する。詳細には、一対の車輪12Sに設けた2つのIMU14の角速度センサ18は、一対の車輪12Sそれぞれの回転軸の角速度を検出し、車いす本体12Hに設けたIMU14の角速度センサ18は、車いす本体12Hの鉛直回りの角速度を検出する。
【0024】
通信部20は、車いす動作推定装置10と無線通信可能とされ、加速度センサ16及び角速度センサ18の各々の検出結果を無線通信により車いす動作推定装置10に送信する。無線通信の一例としては、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の近距離無線通信が一例として適用される。
【0025】
一方、車いす動作推定装置10は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)22、ROM(Read Only Memory)24、揮発性メモリ等のRAM(Random Access Memory)26、ハードディスク装置(HDD)等の補助記憶装置34、操作部28、表示部30、及び通信部32を備えている。これらのCPU22、RAM26、ROM24、補助記憶装置34、操作部28、表示部30、及び通信部32は、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス36を介して接続された構成である。
【0026】
操作部28はキーボード等が適用されて各種情報の入力が可能とされている。また、表示部30は車いす12の動作の推定結果等の各種情報が表示される。また、通信部32は、IMU14の通信部20と通信してIMU14の検出結果を受信する。
【0027】
補助記憶装置34には、コンピュータを本開示の車いす動作推定装置10として機能させるための車いす動作推定プログラム等の制御プログラム34Aや各種データ34Bが記憶される。CPU22は、制御プログラム34Aを補助記憶装置34から読み出してRAM26に展開して処理を実行することにより、車いす動作推定装置10として機能する。
【0028】
続いて、本実施形態に係る車いす動作推定装置10による車いすの動作の推定方法について説明する。図3は、本実施形態に係る車いす動作推定装置10による車いすの動作の推定方法の一例を説明するための図である。
【0029】
本実施形態では、車いす12の状態量としての位置及び速度を入力として、観測量としてのセンサ値を推定するシミュレーション動作モデル40を予め作成する。シミュレーション動作モデル40は、動作モデルの一例に対応し、着座する椅子部及びキャンバ角度を含む一対の車輪の3つの剛体で構成される車いすの幾何学モデルを作成し、シミュレーション動作モデル40内に慣性センサを配置した。
【0030】
また、実際の車いす12にIMU14を設置し、車いす12を移動する実験を行って車いす12の位置及び速度を計測する。実験時の車いす12の位置及び速度の計測は、例えば、モーションカメラで撮影して求めてもよいし、ロータリーエンコーダ等を用いて車いす12の位置及び速度を計測してもよい。
【0031】
そして、シミュレーション動作モデル40を用いて構築した非線形カルマンフィルタ42を、IMU14の検出結果を観測信号として用いて解くことにより、車いす12の動作を推定する。
【0032】
本実施形態では、非線形カルマンフィルタ42として拡張カルマンフィルタを用いて車いす12の動作を推定する。ここで、車いす12の動作推定に用いる拡張カルマンフィルタについて説明する。
【0033】
拡張カルマンフィルタは、非線形な状態方程式、観測方程式を持つプラントに対しても対応可能なカルマンフィルタである。拡張カルマンフィルタの状態方程式は、以下に示す状態方程式と環境方程式からなる。
【0034】
【数1】
【0035】
拡張カルマンフィルタを解くために、F(x)とH(x)の偏微分f(x)とh(x)をそれぞれ計算する。
【0036】
【数2】
【0037】
そして、以下の式を計算することで、拡張カルマンフィルタから補正した角度を算出する。
【0038】
【数3】
【0039】
なお、上記の1式目は、事前予測値を示し、5式目は事後確率ヘイズ推定を示す。また、Pは誤差分散行列初期値、Qは状態方程式がどの程度曖昧なのかを示すプロセスノイズ、Rは観測ノイズである。
【0040】
続いて、拡張カルマンフィルタを実行するための事前準備について説明する。図4は、拡張カルマンフィルタを実行するための事前準備の手順を示すフローチャートである。
【0041】
まず、ステップ100において、拡張カルマンフィルタで用いる状態量を設定する。具体的には、車いす12の位置(水平座標)、車いす本体12Hの鉛直回りの回転角、車輪12Sの回転角、車いす12の移動速度、車いす本体12Hの角速度、車輪12Sの角速度、車いす12の加速度、車輪12Sのスリップ率を状態量として以下のように設定する。なお、車いす12における各状態量は図5に示す通りである。すなわち、車いす12の位置は[X(t),Y(t)]、車いす本体12Hの回転角はψ(t)、各車輪12Sの回転角はθ(t)、θ(t)で示す。図5は、車いす12における各状態量を示す図である。
【0042】
【数4】
【0043】
次に、ステップ102では、初期の誤差共分散行列Pを設定する。誤差共分散行列Pは、14×14の単位行列として、一例として以下のように設定する。誤差共分散行列Pの値としては、フィルタが収束する場合は問題にならないので、便宜上、以下の値を用いる。
【0044】
【数5】
【0045】
次に、ステップ104では、プロセスノイズQを設定する。本実施形態では、一例として以下に示す値を設定する。なお、以下に示す、「diag」は、対角行列の作成と行列の対角要素の取得を示す。
【0046】
【数6】
【0047】
次に、ステップ106では、状態方程式を設定する。本実施形態では、一例として、以下に示す状態方程式を設定する。
【0048】
【数7】
【0049】
次に、ステップ108では、観測方程式を設定する。本実施形態では、一例として、以下に示す観測方程式を設定する。以下の観測方程式では、運動の拘束式を観測方程式に追加して考慮した。以下の状態量xの時のシミュレーション結果は、3つのIMU14に対応するセンサ情報である。具体的には、3×6種類のセンサ情報は、右の車輪12SのIMU14における角速度X、右の車輪12SのIMU14における角速度Y、及び右の車輪12SのIMU14における角速度Z、左の車輪12SのIMU14の角速度X、左の車輪12SのIMU14の角速度Y、左の車輪12SのIMU14の角速度Z、車いす本体12HのIMU14の角速度X、車いす本体12HのIMU14の角速度Y、車いす本体12HのIMU14の角速度Z、右の車輪12SのIMU14の加速度X、右の車輪12SのIMU14の加速度Y、右の車輪12SのIMU14の加速度Z、左の車輪12SのIMU14の加速度X、左の車輪12SのIMU14の加速度Y、左の車輪12SのIMU14の加速度Z、車いす本体12HのIMU14の加速度X、左の車輪12SのIMU14の加速度Y、及び左の車輪12SのIMU14の加速度Zである。
【0050】
【数8】
【0051】
次に、ステップ110では、観測ノイズRを設定する。観測ノイズRは、以下の式を用いて、先頭の1秒間で標準偏差を計算する。X方向角速度、Y方向角速度、Z方向角速度、X方向加速度、Y方向加速度、及びZ方向加速度を3つのIMU14のそれぞれ(全18個)について標準偏差を計算する。例えば、図6に示すように、観測開始の先頭の1秒間で標準偏差を計算する。図6は、1つのIMU14の3方向の加速度の検出値の一例を示す図である。
【0052】
【数9】
【0053】
なお、最後の3個は、疑似観測量3個の観測ノイズを示す。この値が小さいほど拘束式が厳密に満たされる。
【0054】
ここで、上述のステップ108において設定する観測方程式、及び拘束式について説明する。
【0055】
観測方程式は、図7に示すように、シミュレーション動作モデル中に、IMU14を配置し、状態量を入力として、センサ値をシミュレーションした結果を得る観測関数を設定する。図7は、観測方程式の設定の一例を示す図である。
【0056】
また、幾何学的拘束式(基本的な方程式)として「経路の未来情報を利用した車輪型自立移動ロボットの経路追従制御」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj1983/12/4/12_4_630/_pdf/-char/ja)を参考に以下の3つの拘束式を得る。
【0057】
【数10】
【0058】
上記の3つの拘束式は、理論式であって、タイヤのスリップ率を考慮していない。実際には、タイヤのスリップ率が存在しているため、スリップ率を考慮する。なお、上記拘束式のrは車輪の半径を示し、Lは車輪間の距離を示す。
【0059】
図8に示すように、車輪12Sが滑っていないとすると、スリップしていない場合の速度は、Vcontact=rωとなる。図8は、車輪12Sが滑っていない場合の速度を説明するための図である。
【0060】
一方、図9に示すように、車輪12Sがωだけ回っているけど、そのうちsは滑っている場合、ω-sしか前に進まない。すなわち、滑っていると、sだけ余計に回るのでその分を補正して、速度は、Vcontact=r(ω-s)となる。図9は、車輪12Sが滑っている場合の速度を説明するための図である。
【0061】
すなわち、上述の3つの拘束式に対して、回転速度にスリップによる効果を追加する。ωをω-S、ωをω-Sとすると、以下のようになる。
【0062】
【数11】
【0063】
なお、上記の拘束式において、V及びVは、ローカル座標系であり、状態量はグローバルな速度V、Vなので変換する必要があるので、上記の拘束式のグローバルな速度をローカル座標系に変換する。
【0064】
図10に示すように、車いす12のローカル座標系を示すベクトルは、以下のようになる。図10は、車いす12のローカル座標系を示す図である。
【0065】
【数12】
【0066】
グローバル速度を、ローカル座標系ベクトルと内積を計算することでローカル速度に変換すると、以下の式となる。
【0067】
【数13】
【0068】
従って、上記の3つの拘束式は、以下に示すようになる。
【0069】
【数14】
【0070】
また、これらの式を「=0」の形に揃えると、以下に示すようになる。
【0071】
【数15】
【0072】
すなわち、これらが疑似観測量となり、常にゼロを出力すべきセンサとして考える。これにより、上述のステップ108で設定する観測方程式及び拘束式を得ることができる。
【0073】
続いて、上述のように構成された車いす動作推定装置10で行われる具体的な処理について説明する。図11は、本実施形態に係る車いす動作推定装置10で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、図11の処理は、例えば、操作部28が操作されて車いす12の動作推定を開始する指示が行われた場合に開始する。
【0074】
ステップ200では、CPU22が、車いす初期位置を設定してステップ202へ移行する。例えば、車いす12の現在の位置を初期位置に設定する。
【0075】
ステップ202では、CPU22が、各センサ値を取得してステップ204へ移行する。すなわち、一対の車輪12Sに設けたIMU14及び車いす本体12Hに設けたIMU14の3つのIMU14のそれぞれの加速度センサ16、及び角速度センサ18の検出結果を通信部20、32を介して取得する。なお、ステップ202の処理は取得部に対応する。
【0076】
ステップ204では、CPU22が、車いす12の動作を推定する処理を行ってステップ206へ移行する。車いす12の動作の推定は、拡張カルマンフィルタのステップに従って計算する。すなわち、シミュレーション動作モデル40を用いて構築した非線形カルマンフィルタ42を、IMU14の検出結果を観測信号として用いて解くことにより、車いす12の動作を推定する。なお、ステップ204の処理は推定部に対応する。
【0077】
ステップ206では、CPU22が、推定結果を補助記憶装置34等に記憶してステップ208へ移行する。
【0078】
ステップ208では、CPU22が、推定を終了するか否かを判定する。該判定は、例えば、操作部28が操作されて車いす12の動作推定を終了する指示が行われたか否かを判定する。該判定が否定された場合にはステップ202に戻って上述の処理を繰り返し、判定が肯定されたところで一連の処理を終了する。
【0079】
図12は、本実施形態に係る車いす動作推定装置10により推定した推定値と、実際に実験して測定した実験値を示す図である。なお、実験値は、精度検証用に光学式モーションキャプチャを用いて計測した結果を示す。
【0080】
図12に示すように、X位置、Y位置、ψ角度、X速度、及びY速度のそれぞれについて、推定値と実験値が概ね一致し、良好な推定結果を得られることが分かる。
【0081】
なお、上記の実施形態では、IMU14を3つ用いる例を説明したが、車いす本体12HのIMU14を省略してもよい。すなわち、上記の実施形態と同様に、シミュレーション動作モデル40を用いて構築した非線形カルマンフィルタ42を、2つのIMU14の検出結果を観測信号として用いて解くことにより、車いす12の動作を推定してもよい。図13は、本実施形態に係る車いす動作推定装置10において、車いす本体12HのIMU14を省略して一対の車輪12Sに設けたIMU14を用いて車いす12の動作を推定した結果を示す図である。図13に示すように、3つのIMU14を用いる場合よりも精度は低下するが、2つのIMU14でも車いす12の動作を推定できることが分かる。
【0082】
また、上記の実施形態では、車輪12Sのスリップ率を考慮して車いす12の動作を推定したが、これに限るものではない。車いす12の車輪12Sがスリップした場合には、推定精度が低下するものの、スリップ率を考慮せずに、車いす12の動作を推定する形態としてもよい。
【0083】
また、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0084】
また、上記実施形態では、車いす12の動作を推定する処理を、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば各処理をハードウェア構成により実現する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10 車いす動作推定装置
12 車いす
12S 車輪
12H 車いす本体
14 IMU
16 加速度センサ
18 角速度センサ
20、32 通信部
40 シミュレーション動作モデル
42 非線形カルマンフィルタ
図1
図2
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図13