(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063672
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】動脈血管の内皮機能検査装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171805
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】304008175
【氏名又は名称】株式会社ユネクス
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 親男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英範
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA07
4C017AA09
4C017AC03
4C017AC31
4C017AD01
4C017BC08
4C017BC16
4C017FF05
(57)【要約】
【課題】圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができ、信頼性の高い動脈血管の内皮機能検査装置を提供する。
【解決手段】血流振動判定部38により検出される血流振動が発生するように圧迫圧制御部32を制御するずり応力付与制御部36が、含まれる。これにより、ずり応力付与制御部36が、血流振動判定部38により検出される血流振動が発生するように圧迫圧制御部32を制御するので、圧迫帯12による圧迫下において、生体の動脈血管14aの内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができ、動脈血管14aの内皮機能検査装置の信頼性を高めることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部を巻回する圧迫帯と、前記圧迫帯の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫帯により圧迫される前記生体内の動脈血管から発生する血流振動を検出する血流振動判定部と、前記圧迫帯の圧迫圧を制御する圧迫圧制御部とを備え、前記圧迫帯による圧迫により前記生体の一部を阻血後に、前記圧迫圧の下降により前記生体内の動脈血管を緩やかに解放して前記動脈血管の内皮にずり応力を付与した後、前記圧迫帯の圧迫圧を予め定められた圧脈波採取圧力に保持した状態で、前記動脈血管に発生する脈波を前記圧迫帯内の圧迫圧の変動である圧脈波に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、
前記血流振動判定部により検出される前記血流振動が発生するように前記圧迫圧制御部を制御するずり応力付与制御部を、含む
ことを特徴とする動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項2】
前記血流振動判定部は、前記圧力センサにより検出された圧迫圧を表すカフ圧信号から、前記カフ圧信号に前記生体の脈拍に同期して重畳する圧力振動を抽出し、前記圧力振動に含まれる前記血流振動の周波数成分の大きさに基づいて前記血流振動を判定する
ことを特徴とする請求項1の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項3】
前記血流振動判定部は、前記圧力振動に含まれる脈波の基本周波数成分の大きさに対して前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であることに基づいて血流振動を判定する
ことを特徴とする請求項2の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項4】
前記血流振動判定部は、前記圧迫帯に設けられて前記動脈血管内に発生する血流音を検出するマイクロホンを備え、前記マイクロホンにより検出された前記血流振動の周波数成分の大きさに基づいて前記血流振動を判定する
ことを特徴とする請求項1の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項5】
前記圧迫帯による前記圧迫圧の下降に先立って、前記圧迫圧制御部に、前記圧迫帯による圧迫により前記生体の一部を30秒以上阻血させる阻血制御部を、備える
ことを特徴とする請求項1の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項6】
前記圧迫圧制御部は、前記血流振動判定部により前記圧迫帯による圧迫圧が一定である区間で得られた前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値を下まわると判定された場合は、前記圧迫帯による圧迫圧を下降させ、前記血流振動判定部により前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であると判定された場合は、前記圧迫帯による圧迫圧を所定脈拍数だけ維持する
ことを特徴とする請求項3の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項7】
前記所定の閾値は、前記生体の平均血圧値から離れるほど小さい値とされている
ことを特徴とする請求項6の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項8】
前記圧迫圧制御部は、前記圧迫圧を段階的に下降させ、
前記血流振動判定部は、前記圧迫帯による圧迫圧が一定である区間で得られた前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であることに基づいて血流振動を判定する
ことを特徴とする請求項6の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項9】
前記ずり応力付与制御部は、前記圧迫帯の圧迫圧の下降により最初の脈波が発生してから予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御部に前記圧迫帯による圧迫を解放させる
ことを特徴とする請求項6の動脈血管の内皮機能検査装置。
【請求項10】
前記ずり応力付与制御部が前記圧迫帯の直下の動脈血管に対してずり応力を付与した後に、前記圧迫帯の圧迫圧を予め定められた圧脈波採取圧力に所定の時間保持する圧迫圧保持制御部と、
前記圧迫帯の圧迫圧が前記圧脈波採取圧力に保持されている状態で圧脈波を所定期間連続的に採取する圧脈波採取制御部と、
前記圧脈波採取制御部で所定期間連続的に採取された圧脈波を容量変換することで前記動脈血管の拡張率を相当血管径換算で算出する血管拡張率算出部とを、含む
ことを特徴とする請求項1の動脈血管の内皮機能検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の一部に巻回された圧迫帯から生体の動脈の内皮にずり応力を付与することに基づいて、血管の内皮機能を検査することができる動脈血管の内皮機能検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の動脈硬化に先立って動脈血管の内皮機能の低下が発現するという研究があり、そのような内皮機能に関する評価装置が種々提案されている。この内皮機能とは、動脈の血管壁を構成する外皮、中皮、および内皮のうちの最内周に位置する内皮に作用する血流のずり応力に基づいてその内皮からNOが産生され、そのNOにより平滑筋が弛緩させられることで発生する血管拡張反応を言う。
【0003】
たとえば、特許文献1には、内皮機能検査装置が提案されている。これらの内皮機能検査装置は、被検者の腕を圧迫帯を用いて圧迫することにより動脈を止血してたとえば5分間維持し、その後に止血を解除したとき、超音波画像を用いて把握される動脈の断面形状の変化たとえば血管内腔径の止血前の内皮径に対する最大変化率を測定し、その血管内腔径の最大変化率に基づいて動脈血管の内皮機能を評価している。上記内皮機能検査装置によれば、圧迫帯による5分間の止血の後に、一挙に止血が解放されることで、動脈血管の内皮にずり応力が短時間内に加えられる。
【0004】
しかしながら、止血状態の圧迫帯を急解放することにより動脈血管内に血流を生じさせて動脈血管の内皮にずり応力を付与する場合には、被測定者に苦痛を与えるだけでなく、開放状態の動脈血管内を血流が通過させられるので、必ずしも充分な時間で充分な大きさのずり応力が付与される訳でなかった。
【0005】
これに対して、生体の一部に巻き受けられた圧迫帯(カフ)と、その圧迫帯による圧迫圧力を制御する圧迫圧制御部と、圧迫帯に接続され、圧迫帯による圧迫圧力を検出する圧力センサとを有し、前記圧迫圧制御部により制御される圧迫圧が生体の心拍に同期して前記圧迫圧に重畳する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって動脈血管の内皮にずり応力を付与するずり応力付与部と、前記ずり応力付与部によりずり応力が付与された後に、動脈血管の拡張関連値の継続を開始し、前記拡張関連値に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する評価値を算出する血管拡張反応評価部とを含む動脈血管の内皮機能検査装置が提案されている。たとえば、特許文献2に記載された圧迫帯カフ圧から抽出された脈波を用いた動脈血管の内皮機能評価装置がそれである。このような動脈血管の内皮機能評価装置によれば、圧迫圧制御部により制御される圧迫圧が生体の心拍に同期して前記圧迫圧に重畳する圧力振動である複数の脈波毎の血流によって動脈血管の内皮にずり応力を付与するので、圧迫帯による圧迫によって狭くされた動脈血管内を血流が通されるので、比較的短時間で充分なずり応力を動脈血管の内皮に付与されるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-061182号公報
【特許文献2】特開2018-192234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の動脈血管の内皮機能評価装置では、圧迫帯の圧迫圧を生体の最高血圧以上に上昇させてから大気圧まで下降させる圧迫圧下降過程で、脈波に同期して繰り返し発生する、圧迫帯の圧迫により狭くされた動脈血管内を通過する血流が、動脈血管の内皮に対するずり応力の付与に用いられる。しかしながら、そのように、単に、脈波に同期して圧迫帯の圧迫により狭くされた動脈血管内に血流を通過させる場合には、ずり応力の付与開始時点から血管拡張反応が開始するまでの18秒~20秒程度の比較的短い血管拡張反応時間内にずり応力の付与を完了させる必要があるので、必ずしも充分な大きさのずり応力を動脈血管の内皮に付与することにはならず、内皮機能の評価に十分な精度が得られなかった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができ、信頼性の高い動脈血管の内皮機能検査装置を提供することにある。
【0009】
本発明者等は、以上の事情を背景として、生体の一部たとえば上腕に巻回した圧迫帯の圧迫圧力下において狭くされた動脈血管内を、比較的短い血管拡張反応開始までの時間内の限られた回数でずり応力の限られた回数で脈拍に同期した血流を通過させることで、充分な大きさのずり応力を発生させるようとして、種々研究を重ねた。この結果、圧迫帯により圧迫された動脈血管内を通過する血流が層流であるときよりも渦流であるときの方が、動脈血管の内皮に付与されるずり応力が大きいという仮定に基づいて、生体の最高血圧よりも高い圧迫圧力から下降する間で圧迫帯の圧迫により動脈血管が狭くされた部位に血流が通過する状態で圧迫帯の圧力であるカフ圧信号を採取して周波数解析すると、脈波の基本周波数の他に、それよりも高い別の振動の基本周波数成分が生じることに気づいた。そして、その脈波の基本周波数の高い基本周波数成分の別の振動とは、圧迫帯の圧迫圧力下において狭くされた動脈血管内を血流が通過させられるときに発生する血液の渦流による振動(血流振動)であることが推定された。
【0010】
そして、動脈血管が潰れるに十分な圧まで昇圧して駆血し、その後に圧迫圧力を下降させる過程で発生する脈波であって、前記血液の渦流による血流振動(血流音)を伴う脈波に伴う血流を用いて動脈の内皮にずり応力を付与するとき、圧迫帯により圧迫されたときに発生する血液の渦流による振動(血流音)を伴わない脈波(動脈血管内を通過する血流が層流である脈波)を用いるよりも、動脈血管の内皮に付与されるずり応力が大きく、ずり応力付与開始から比較的短い血管拡張反応開始までの時間内の限られた回数で動脈血管の内皮に効率よく充分なずり応力を付与することができ、信頼性の高い動脈血管の内皮機能検査装置が得られることを見いだした。本発明は、斯かる知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)生体の一部を巻回する圧迫帯と、前記圧迫帯の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫帯により圧迫される前記生体内の動脈血管から発生する血流振動を検出する血流振動判定部と、前記圧迫帯の圧迫圧を制御する圧迫圧制御部とを備え、前記圧迫帯による圧迫により前記生体の一部を阻血後に、前記圧迫圧の下降により前記生体内の動脈血管を緩やかに解放して前記動脈血管の内皮にずり応力を付与した後、前記圧迫帯の圧迫圧を予め定められた圧脈波採取圧力に保持した状態で、前記圧迫帯内の圧迫圧の変動である圧脈波の変化に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、(b)前記血流振動判定部により検出される前記血流振動が発生するように前記圧迫圧制御部を制御するずり応力付与制御部を、含むことにある。
【発明の効果】
【0012】
第1発明の動脈血管の内皮機能検査装置によれば、(a)生体の一部を巻回する圧迫帯と、前記圧迫帯の圧迫圧を検出する圧力センサと、前記圧迫帯により圧迫される前記生体内の動脈血管から発生する血流振動を検出する血流振動判定部と、前記圧迫帯の圧迫圧を制御する圧迫圧制御部とを備え、前記圧迫帯による圧迫により前記生体の一部を阻血後に、前記圧迫帯の圧迫圧の下降により前記生体内の動脈血管を緩やかに解放して前記動脈血管の内皮にずり応力を付与した後、前記圧迫帯の圧迫圧を予め定められた圧脈波採取圧力に保持した状態で、前記圧迫帯内の圧迫圧の変動である圧脈波に基づいて前記動脈血管の内皮機能を評価する動脈血管の内皮機能検査装置であって、(b)前記血流振動判定部により検出される前記血流振動が発生するように前記圧迫圧制御部を制御するずり応力付与制御部を、含む。これにより、ずり応力付与制御部が、前記血流振動判定部により検出される前記血流振動が発生するように前記圧迫圧制御部を制御するので、圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができ、動脈血管の内皮機能検査装置の信頼性を高めることができる。
【0013】
ここで、好適には、前記血流振動判定部は、前記圧力センサにより検出された圧迫圧を表す圧迫圧信号から、前記圧迫圧信号に前記生体の脈拍に同期して重畳する圧力振動を抽出し、前記圧力振動に含まれる前記血流振動の周波数成分の大きさに基づいて前記血流振動を判定する。これにより、前記カフ圧信号に前記生体の脈拍に同期して重畳する圧力振動に含まれる前記血流振動の周波数成分の大きさに基づいて前記血流振動が判定されるので、圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができる。
【0014】
また、好適には、前記血流振動判定部は、前記圧力振動に含まれる脈波の基本周波数成分の大きさに対して前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であることに基づいて血流振動を判定する。これにより、前記圧力振動に含まれる脈波の基本周波数成分の大きさと前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさとの相対的な比較に基づいて前記血流振動が判定されるので、ゲインの変化や個人差の影響が少なくなり、圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を確実に付与することができる。
【0015】
また、好適には、前記血流振動判定部は、前記圧迫帯に設けられて前記動脈血管内に発生する血流音を検出するマイクロホンを備え、前記マイクロホンにより検出された前記血流音の大きさに基づいて前記血流振動を判定する。このようすれば、バンドパスフィルタおよび周波数解析を用いなくても血流振動が得られ、圧迫帯による圧迫下において、生体の動脈血管の内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができる。
【0016】
また、好適には、前記内皮機能検査装置は、前記圧迫帯による前記圧迫圧の下降に先立って、前記圧迫圧制御部に、前記圧迫帯による圧迫により前記生体の一部を30秒以上阻血させる阻血制御部を備える。これにより、圧迫帯よりも下流側の動脈血管とそれに毛細血管を介して接続された静脈血管とが相互に充分に均圧化された状態で、圧迫帯による阻血が解放されるので、上記圧迫帯下流側の動脈血管への血液の流入量が確保され、ずり応力の付与効果が高められる。
【0017】
また、好適には、前記圧迫圧制御部は、前記血流振動判定部により前記圧迫帯による圧迫圧が一定である区間で得られた前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値を下まわると判定された場合は、前記圧迫帯による圧迫圧を下降させ、前記血流振動判定部により前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であると判定された場合は、前記圧迫帯による圧迫圧を所定脈拍数だけ維持する。これにより、前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上である血流がずり応力の付与に多く用いられるので、ずり応力の付与効果が高められる。
【0018】
また、好適には、前記所定の閾値は、前記生体の平均血圧値から離れるほど小さい値とされている。これにより、ずり応力の付与効果の高い血流が用いられるので、一層、ずり応力の付与効果が高められる。
【0019】
また、好適には、前記圧迫圧制御部は、前記圧迫圧を段階的に下降させ、前記血流振動判定部は、前記圧迫帯による圧迫圧が一定である区間で得られた前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値以上であることに基づいて血流振動を判定するものである。このようにすれば、圧迫圧が連続的に変化する区間で得られた圧力振動を用いる場合に比較して、圧迫圧の周波数成分による影響がなく、圧力振動が正確に得られる。
【0020】
また、好適には、前記ずり応力付与制御部は、前記圧迫帯の圧迫圧の下降により最初の血流が発生してから予め設定されたずり応力付与時間が経過すると、前記圧迫圧制御部に前記圧迫帯による圧迫を解放させる。このようにすれば、ずり応力の付与と血管拡張反応の開始との重複が回避することができ、動脈血管の内皮機能検査装置の信頼性を高めることができる。上記予め設定されたずり応力付与時間は、最初の血流が発生してから血管拡張反応開始するまでの血管拡張反応開始時間たとえば18秒を下まわる範囲で可及的に長くなるように設定される。
【0021】
また、好適には、前記内皮機能検査装置は、ずり応力付与制御部が前記圧迫帯の直下の動脈血管に対してずり応力を付与した後に、前記圧迫帯の圧迫圧を予め定められた圧脈波採取圧力に所定の時間保持する圧迫圧保持制御部と、前記圧迫帯の圧迫圧が前記圧脈波採取圧力に保持されている状態で圧脈波を所定期間連続的に採取する圧脈波採取制御部と、前記圧脈波採取制御部で所定期間連続的に採取された圧脈波を容量変換することで前記動脈血管の拡張率を相当血管径換算で算出する血管拡張率算出部とを、含む。これにより、超音波プローブおよびそれを支持して最適位置を探索するプローブ支持装置、超音波プローブからの信号を処理して超音波画像を生成する超音波画像生成装置などが不要となるため、装置が簡単且つ小型となる。しかも、前記血管拡張率算出部において、前記圧脈波採取制御部で所定期間連続的に採取された圧脈波を容量変換することで前記動脈血管の拡張率が相当血管径換算を用いて算出されることから、前記動脈血管に作用したずり応力に起因する血管拡張反応により血管径(血管容積)が最大となるタイミングと所定時間連続的に採取される圧脈波のいずれかの検出タイミングとがほぼ一致するので、信頼性の高い血管の内皮機能検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明が好適に適用された動脈血管の内皮機能検査装置の一例を概略的に説明する図である。
【
図2】
図1の内皮機能検査装置に備えられた電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【
図3】
図2の圧迫圧制御部により制御される圧迫帯の圧迫圧の変化を説明するタイムチャートである。
【
図4】
図2の血流振動判定部による血流振動の検出作動を説明する図であって、血流振動の基本波成分の大きさが閾値を下回る場合を示す図である。
【
図5】
図2の血流振動判定部による血流振動の検出作動を説明する図であって、血流振動の基本波成分の大きさが閾値以上となる場合を示す図である。
【
図6】
図1の内皮機能検査装置に備えられた電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図7】本発明の他の実施例において用いられる3つの判定閾値のうち、最も小さい第1判定閾値を示す図である。
図7、
図8、および
図9は、血流振動判定部38が血流振動の基本周波数成分が超えたことを判定する判定閾値Thとして、3種類の判定閾値Th1、Th2、およびTh3を示している。
【
図8】
図7の実施例において用いられる3つの判定閾値のうち、最も大きい第2判定閾値を示す図である。
【
図9】
図7の実施例において用いられる3つの判定閾値のうち、第1判定閾値よりも大きく第2判定閾値よりも小さい第3判定閾値を示す図である。
【
図10】本発明の他の実施例において血流振動判定部が圧迫帯による圧迫下の動脈血管から発生する血流振動の有無を判定するために、マイクロホンが圧迫帯12に設けられた構成を示している。
【
図11】本発明の他の実施例における圧迫帯12の圧迫圧Pcの変化を示す、
図3に相当する図である。
【
図12】本発明の他の実施例における圧迫帯12の圧迫圧Pcの変化を示す、
図3に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0024】
図1は、本発明の一例である動脈血管の内皮機能検査装置10を説明する略図である。
図1において、圧迫帯12は、血圧測定においても用いられるカフと同様に膨張袋を有し、生体の一部たとえば上腕14に巻回されるものである。圧迫帯12には、配管20が接続されており、その配管20を介して圧迫帯12への空気の供給と圧迫帯12からの空気の排出とにより圧迫帯12内の圧力或いは排出流量を調節する制御弁16および空気ポンプ18が直列的に接続されている。また、圧迫帯12には、配管20を介して圧力センサ22が接続されており、圧迫帯12直下の動脈血管14aに対する圧迫圧Pcが検出されるようになっている。
【0025】
圧力センサ22により検出された圧迫帯12の圧迫圧Pcを表すカフ圧信号SPcは、ローパスフィルタ24およびバンドパスフィルタ26へ供給される。ローパスフィルタ24は、カフ圧信号SPcから静圧成分を分離し、カフ圧信号SPcを出力する。バンドパスフィルタ26は、カフ圧信号SPcから生体の心拍に同期してカフ圧信号SPcに重畳する振動成分を分離し、脈波信号SPmを出力する。それらカフ圧信号SPcおよび脈波信号SPmは、A/D変換器28を介して電子制御装置30へ供給される。電子制御装置30は、CPU30a、RAM30c、ROM30b等を備え、予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、処理結果を表示器30dへ出力する所謂マイクロコンピュータから構成されている。
【0026】
図2は、電子制御装置30の制御機能を説明する機能ブロック線図である。
図2において、圧迫圧制御部32は、阻血制御部34、ずり応力付与制御部36、或いは圧迫圧保持制御部42からの指令にしたがって、制御弁16又は空気ポンプ18を制御することにより、圧迫帯12の圧迫圧Pcを制御する。
【0027】
阻血制御部34は、内皮機能検査装置10の起動に応答して、上腕14に巻回された圧迫帯12直下の動脈血管14aを阻血するために、圧迫圧制御部32に圧迫帯12の圧迫圧Pcを生体の最高血圧よりも高いたとえば180mmHg程度に予め設定された阻血圧である目標昇圧値P1まで昇圧させ、その目標書圧値P1をたとえば30秒程度以上の所定の阻血期間T1の間維持させる。この阻血期間T1は、圧迫帯12よりも下流側の動脈血管14aとそれに毛細血管を介して接続された静脈血管とが相互に充分に均圧化させられる予め設定された均圧時間である。上記阻血圧の維持が阻血期間Tsよりも短い場合は、阻血解放後に圧迫帯12よりも下流側の動脈血管14aに流入する血液量が減少する。上記阻血圧の維持が阻血期間Tsよりも長い場合は、阻血解放後に圧迫帯12よりも下流側の動脈血管14aに流入する血液量が飽和し、測定時間を無用に長くすることになる。
【0028】
ずり応力付与制御部36は、上記阻血圧の維持が阻血期間T1を超えると、血流振動判定部38により血流振動が検出されるように、圧迫圧制御部32に圧迫帯12の圧迫圧Pcを所定の降圧速度で下降させる。血流振動判定部38は、バンドパスフィルタ26から出力された脈波信号SPmについて、フーリエ変換FFTを用いて周波数解析を実行し、カフ圧信号SPcに重畳する振動成分である脈波信号SPmに含まれる脈波の基本周波数成分および血流振動の基本周波数成分を抽出し、抽出された脈波の基本周波数成分の大きさに対して所定の割合に設定された判定閾値Thを血流振動の基本周波数成分が超えたことに基づいて、血流振動の発生を検出する。この血流振動(血流音)は、動脈血管14aのうち圧迫帯12の圧迫により狭くされた部分を血液が通過するときに発生する渦流に起因して発生するものである。
【0029】
図3は、ずり応力付与制御部36が、圧迫帯12による圧迫圧を制御してカフ圧信号SPcを段階的に下降させる例を示し、
図4は、このカフ圧信号SPcの下降過程でカフ圧信号SPcが一定であるときに得られた脈波信号SPmの周波数解析結果の一例を示している。
図4において、信号の大きさの相対値が1であって1Hz付近を中心とするピーク波形は、脈波の基本波であり、信号の大きさの相対値が1より小さく且つ6Hz付近を中心とするピーク波形は、周波数血流振動の基本波である。
【0030】
図3において、阻血制御部34は、圧迫圧制御部32に最高血圧よりも高く設定された目標昇圧値P1まで上昇させ(t0時点)、阻血期間T1の間保持させる。ずり応力付与制御部36は、圧迫圧制御部32に、下降開始点(t1時点)以後にたとえば3~4mmHg程度の一定の降圧幅で段階的に圧迫帯12による圧迫圧を示すカフ圧信号SPcを下降させ、その過程で血流振動が発生しても(t2時点)、血流振動の基本波の大きさが判定閾値Thを下まわる場合(
図4)は、一脈拍毎にカフ圧信号SPcを下降させ、血流振動の基本波の大きさが判定閾値Th以上となる場合(
図5、t3時点)は、所定脈拍数(
図3では3拍)となるまでカフ圧信号SPcを一定に維持させる。そして、ずり応力付与制御部36は、最初の血流が発生してから血管拡張反応開始するまでの血管拡張反応開始時間(たとえば18秒~20秒)が経過する前に設定された急速降下開始点(t4時点)に到達した時点、或いは、血流振動の基本波の大きさが判定閾値Thを下まわった時点(t4時点)において、圧迫帯12による圧迫圧の速やかな低下を開始させる。
図3に示されるずり応力付与時間Tzは、の場合には、最初の血流が発生してから血管拡張反応開始するまでの血管拡張反応開始時間(たとえば18-20秒)より少し短く設定された期間である。
【0031】
この圧迫帯12による圧迫圧の速やかな低下は、圧迫帯12による圧迫圧を直接開放させるものであってもよいが、
図3の場合には、t4時点以後、6~8mmHg程度の一定の降圧幅で段階的にカフ圧信号SPcを速やかに低下させる。ずり応力付与制御部36におけるずり応力付与時間は、最初の血流が発生してから血管拡張反応が開始するまでの血管拡張反応開始時間たとえば18秒を下まわる範囲で可及的に長くなるように設定される。
【0032】
図3では、カフ圧信号SPcを一定に維持される状態で発生する血流振動がその発生順の数字を示す符号が付されており、1番目の血流振動が発生したt2時点のカフ圧信号SPcが表す圧力が最高血圧値を、最終の12番面の血流振動が発生したt4時点のカフ圧信号SPcが表す圧力が最低血圧値をそれぞれ示している。血圧測定部40は、
図3に示す圧迫帯12による圧迫の下降過程において、血流振動が最初に発生したt2時点のカフ圧信号SPcが表す圧力を最高血圧値SBPとして決定し、最終の血流振動が発生したt4時点のカフ圧信号SPcが表す圧力を最低血圧値DBPとして決定する。
図3の実施例では、生体の血圧値を測定しつつ、ずり応力を付与する例を示すものである。
【0033】
圧迫圧保持制御部42は、ずり応力付与制御部36によるずり応力の付与が終了して、圧迫帯12による圧迫圧が速やかに低下させられると、圧迫帯12の圧迫圧Pcをその圧脈波採取のための保持圧P2に保持する。この圧迫圧Pcの保持圧P2は、内皮機能の計測終了点(t4時点)まで継続される。保持圧P2は、平均血圧値よりも低い値、好適には最低血圧値よりも低い値であり、さらに好適には静脈血圧値と同様の値たとえば30mmHg程度の値、または静脈血圧値より大きく最低血圧値以下の値である。
【0034】
圧脈波採取制御部44は、圧迫帯12の圧迫圧Pcが保持圧P2に保持されている状態で圧迫帯12の圧迫圧Pcに重畳する圧脈波を、予め定められた保持期間T2の間、連続的に採取する。この保持期間T2は、圧迫帯12を用いて上腕14を圧迫して所定時間Hだけ駆血した後に上腕14に対する圧迫が解放されたt5時点から、その駆血解放によりずり応力が付与されることで生じる血管拡張反応により動脈血管14aの容積が最大となるタイミングを十分にカバーする期間、たとえば250~300秒の間の期間が終了するt6時点まである。
【0035】
脈波処理制御部46は、圧脈波採取制御部44で所定期間T2の間連続的に採取された圧脈波を容量(容積)変換することで、動脈血管の拡張率を相当血管径換算で算出する。以下、詳細に説明する。
【0036】
圧迫帯12の圧迫圧をPcとし、圧迫帯12の内容量(容積)をVcとし、圧迫帯12による圧迫下の計測部位(圧迫帯12により巻回された部位)の容積変化をΔVc、この容積変化に伴う圧迫圧変化をΔPcとする。但し、圧迫帯12の変形により媒体容量は変化しないと過程し、温度も一定であると仮定すると、ボイルの法則により(1)式が成立する。
Pc×Vc=一定 ・・・ (1)
【0037】
このとき、動脈血管14aの脈波の発生による上腕14のふくらみによって圧迫帯12の変形によりその容量にΔVcの減少があったときに、圧迫帯12内の圧力上昇がΔPcであったとすると、次式(2)が得られる。
Pc×Vc=(Pc+ΔPc)×(Vc-ΔVc)
=Pc×Vc+Vc×ΔPc-Pc×ΔVc-ΔPc×ΔVc ・・・(2)
ここで、ΔPc×ΔVcは微小量であるので省略すると、
Vc×ΔPc-Pc×ΔVc=0 ・・・ (3)
より Vc×ΔPc=Pc×ΔVc ・・・ (4)
従って、ΔVc=(Vc/Pc)×ΔPc ・・・(5)
(5)式において、常時、圧迫帯12内の圧迫圧Pcが計測されている場合、Vcが判れば、ΔPcを計測することで、ΔVcが求まり、これが測定対象の容量変化となる。
【0038】
一方、上記容量変化ΔVcを、圧迫帯12による圧迫対象の上腕14の元の容積Vcと比較した変化率ΔVc/Vcは、圧迫帯12による圧迫対象領域内の複合的な血管径をD、対象領域の長さをLとし、容量の変化は血管の容積変化と過程したとき、以下のようになる。ここで、複合的な血管径Dは、圧迫対象領域内で容量変化を生じると考えられる動脈血管の複合的な容量を有する円柱の断面積である。
ΔVc/V=π((D+ΔD)2-D2)L/πD2L ・・・(6)
(6)式の変形により(7)式が得られる。この(7)式は、圧脈波の振幅比である圧力変化比を血管径変化比に換算するために用いられる。
ΔVc/Vc=(2DΔD+ΔD2)/D2≒(2DΔD)/D2
=2ΔD/D ・・・(7)
【0039】
ここで、(5)式を(7)式に代入すると、
ΔD/D=(Vc×ΔPc)/(2×Vc×Pc) ・・・(8)
【0040】
このとき、圧迫帯12が圧迫する測定対象(上腕14)の容積Vの増加と圧迫圧Pcの増加との関係は、実験的に示されるものであるので、圧迫帯12の容積Vcは、(9)式で示されるものとなる。ここで、Vhold は容積変化計測時の圧迫帯12の容量(容積)、Voは圧迫帯12の圧迫圧に寄与しない容量(容積)である。
Vc=Vhold -Vo
【0041】
圧迫帯12内の圧迫圧Pc(mmHg)とその圧迫帯12の容積Vとの関係は、流量計を用いて圧迫帯12内に流入する流量を用いると、実験的には
図5に示すものである。この関係は、以下の多次元の近似式(9)により表される。(9)式の定数cが前記Voに相当する。
V=a
1×Pc
2+b
1×Pc+c
1 ・・・(9)
【0042】
上記(9)式の関係は、圧迫帯12の圧迫圧Pcを降圧させるときに利用される。(9)式を時間微分すると、
dV/dt=2a×Pc×dPc/dt+b×dPc/dt
=(2a×Pc+b)×dPc/dt ・・・(10)
ここで、排気流量Q=dV/dt ・・・(11)
降圧速度K=dPc/dt ・・・(12)
であるので、排気流量Qと降圧速度Kとの関係は、(13)式に示されるものとなる。
Q=K×(2a1×Pc+b1) ・・・(13)
(13)式より、排気流量Qは、設定された降圧速度Kと圧迫帯12内の圧迫圧力Pc(計測値)で決定される。降圧速度Kは、降圧開始時の圧力Pcsと降圧終了時の圧力Pceと降圧時間ΔTから、以下のように設定される。
K=(Pcs-Pce)/ΔT ・・・ (14)
【0043】
血管拡張率算出部48は、圧脈波採取制御部44で所定の保持期間T2の間でたとえば1拍毎に連続的に採取された複数個の圧脈波のうちの最大振幅の圧脈波を決定し、その最大振幅の圧脈波の振幅(mmHg又はmV)と、たとえば阻血期間T1の最初の圧脈波、終端の圧脈波、または最小振幅の圧脈波の振幅(mmHg又はmV)との振幅比ΔPc/Pcを算出し、(7)式の関係を用いてその振幅比ΔPc/Pcから血管径変化比、すなわち、動脈血管径の拡張率ΔD/Dを算出し、それを表示器30dに表示させることで、生体の内皮機能の評価に供する。
【0044】
図6は、電子制御装置30の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、動脈血管の内皮機能検査装置10の起動操作により開始される血管拡張率測定ルーチンを示している。
図6において、ステップS1( 以下、ステップを省略する)では、空気ポンプ18が駆動され且つ制御弁16が制御されることにより、生体の一部すなわち上腕14に巻回された圧迫帯12の内圧である圧迫圧Pcが上昇させられる。次いで、S2において、圧迫帯12の内圧である圧迫圧Pcが予め設定された目標昇圧値P1に到達したか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合はS1以下が繰り返し実行されるが、肯定される場合は阻血制御部34に対応するS3が開始される。
図3のt0時点はこの状態を示している。
【0045】
S3では、圧迫帯12の内圧である圧迫圧Pcが目標昇圧値P1に維持されて上腕14のうちの圧迫帯12が巻回された部分の阻血が予め設定された阻血期間T1の間行なわれる。続くS4では、阻血終了時点すなわち下降開始点(t1時点)以後にたとえば3~4mmHg程度の一定の降圧幅で一脈拍毎に段階的な圧迫圧Pcの下降が開始される。
図3のt1時点はこの状態を示している。
【0046】
次いで、ずり応力付与制御部に対応するS4では、血流振動の基本波の大きさが判定閾値Th以上となる場合(
図5、t3時点)には、そのような血流振動が可及的に多く発生するように圧迫圧Pcが制御されて、ずり応力が動脈血管14aの内皮に付与される。このような動脈血管14aの内皮に対するずり応力の付与は、最初の血流が発生してから血管拡張反応開始するまでの血管拡張反応開始時間(たとえば18秒~20秒)よりも少し短く設定されたずり応力付与時間Tzを超える急速降下開始点(t4時点)に到達した時点、或いは、血流振動の基本波の大きさが判定閾値Thを下まわった時点(t4時点)まで続行されるが、その時点を超えると、圧迫帯12による圧迫圧の速やかな低下が開始される。
【0047】
S6では、圧迫帯12による圧迫圧Pcが、保持圧P2以下に低下したか否かが判断される。このS6の判断が否定されるうちはS4以下が繰り返し実行されるが、肯定されると、血圧測定部40に対応するS7において、たとえば
図3に示す圧迫帯12による圧迫の下降過程において、血流振動が最初に発生したt2時点のカフ圧信号SPcが表す圧力が最高血圧値SBPとして決定し、最終の血流振動が発生したt4時点のカフ圧信号SPcが表す圧力が最低血圧値DBPとして決定される。
【0048】
続いて、圧迫圧保持制御部42に対応するS8では、圧迫帯12の圧迫圧Pcが予め設定された保持圧P2に保持される。次に、圧脈波採取制御部44に対応するS9では、圧迫帯12の圧迫圧Pcが比較的低い値である保持圧P2に保持されている保持期間T2において、圧力センサ22により検出される圧迫帯12の圧迫圧Pcに1拍毎に重畳する圧力振動である圧脈波が、逐次採取される。この採取は、t3時点のずり応力が付与されることで生じる血管拡張反応により動脈血管の容積が最大となるタイミングを十分にカバーする期間、たとえば250~300秒の間の期間である。
【0049】
次いで、血管拡張率算出部48に対応するS9において、所定期間T2の間でたとえば1拍毎に連続的に採取された複数個の圧脈波のうちの最大振幅の圧脈波を決定し、その最大振幅の圧脈波の振幅(mmHg又はmV)と、たとえば所定期間T2の最初の圧脈波、終端の圧脈波、または最小振幅の圧脈波の振幅(mmHg又はmV)との振幅比ΔPc/Pcを算出し、(7)式の関係を用いてその振幅比ΔPc/Pcから血管径拡張率(血管径変化比)ΔD/Dを算出し、それを表示器30dに表示させる。この血管径拡張率ΔD/Dにより、生体の内皮機能の評価に供する。
【0050】
そして、S11では、圧迫帯12の圧迫が解放されるとともに、各レジスタのリセット等の終了処理が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
【0051】
上述のように、本実施例の内皮機能検査装置10によれば、生体の一部を巻回する圧迫帯12と、圧迫おび12の圧迫圧Pcを検出する圧力センサ22と、圧迫帯12により圧迫される生体内の動脈血管14aから発生する血流振動を検出する血流振動判定部38と、圧迫帯12の圧迫圧Pcを制御する圧迫圧制御部32とを備え、圧迫帯12による圧迫圧Pcにより生体の一部を阻血後に、圧迫圧Pcの下降により生体内の動脈血管14aを緩やかに解放して動脈血管14aの内皮にずり応力を付与した後、圧迫帯12の圧迫圧Pcを予め定められた保持圧P2に保持した状態で、動脈血管14aに発生する脈波を圧迫帯12内の圧迫圧Pcの変動である圧脈波に基づいて動脈血管14aの内皮機能を評価する動脈血管14aの内皮機能検査装置10であって、血流振動判定部38により検出される血流振動が発生するように圧迫圧制御部32を制御するずり応力付与制御部36が、備えられる。
【0052】
これにより、ずり応力付与制御部36が、血流振動判定部38により検出される血流振動が発生するように圧迫圧制御部32を制御するので、圧迫帯12による圧迫下において、生体の動脈血管14aの内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができ、動脈血管14aの内皮機能検査装置の信頼性を高めることができる。
【0053】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、圧力センサ22により検出された圧迫圧Pcに対応するカフ圧信号SPcから、カフ圧信号SPcに生体の脈拍に同期して重畳する圧力振動を抽出し、その圧力振動に含まれる血流振動の周波数成分の大きさに基づいて血流振動を判定する血流振動判定部38が備えられる。このように、血流振動判定部38により、カフ圧信号SPcに生体の脈拍に同期して重畳する圧力振動に含まれる血流振動の周波数成分の大きさに基づいて血流振動が判定されるので、圧迫帯12による圧迫下において、生体の動脈血管14aの内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を付与することができる。
【0054】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、血流振動判定部38は、前記圧力振動に含まれる脈波の基本周波数成分の大きさに対して前記圧力振動に含まれる前記血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の判定閾値Th以上であることに基づいて血流振動を判定するので、ゲインの変化や個人差の影響が少なくなり、圧迫帯12による圧迫下において、生体の動脈血管14aの内皮に効率よく充分な大きさのずり応力を確実に付与することができる。
【0055】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、圧迫帯12による圧迫圧の下降に先立って、圧迫圧制御部32に、圧迫帯12による圧迫により上腕14を30秒以上阻血させる阻血制御部34が、備えられる。これにより、圧迫帯12よりも下流側の動脈血管14aとそれに毛細血管を介して接続された静脈血管とが相互に充分に均圧化された状態で、圧迫帯12による阻血が解放されるので、圧迫帯12の下流側の動脈血管14aへの血液の流入量が確保され、ずり応力の付与効果が高められる。
【0056】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、圧迫圧制御部32は、血流振動判定部38により血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の閾値を下まわると判定された場合は、圧迫帯12による圧迫圧を下降させ、血流振動判定部に38より、圧迫帯12による圧迫圧が一定である区間で得られた圧力振動に含まれる血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の判定閾値Th以上であると判定された場合は、圧迫帯12による圧迫圧を所定脈拍数だけ維持するものである。これにより、カフ圧信号SPcに含まれる血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の判定閾値Th以上である血流がずり応力付与に多く用いられるので、ずり応力の付与効果が高められる。
【0057】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、圧迫圧制御部32は、圧迫圧を段階的に下降させ、血流振動判定部38は、圧迫帯12による圧迫圧が一定である区間で得られた圧力振動に含まれる血流振動の基本周波数成分の大きさの割合が所定の判定閾値Th以上であることに基づいて血流振動を判定するものである。このようにすれば、圧迫圧が連続的に変化する区間で得られた圧力振動を用いる場合に比較して、下降する圧迫圧の周波数成分による影響がなく、圧力振動が正確に得られる。
【0058】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10によれば、ずり応力付与制御部36は、圧迫帯12の圧迫圧の下降により最初の血流が発生してから予め設定されたずり応力付与時間Tzが経過すると、圧迫圧制御部32に圧迫帯12による圧迫を解放させる。このため、ずり応力の付与と血管拡張反応の開始との重複が回避することができ、動脈血管14aの内皮機能検査装置の信頼性を高めることができる。上記予め設定されたずり応力付与時間Tzは、最初の血流が発生してから血管拡張反応開始するまでの血管拡張反応開始時間たとえば18秒を下まわる範囲で可及的に長くなるように設定される。
【0059】
本実施例の動脈血管の内皮機能検査装置10は、ずり応力付与制御部36が圧迫帯12の直下の動脈血管14aに対してずり応力を付与した後に、圧迫帯12の圧迫圧を予め定められた保持圧P2に所定の保持期間T2を保持する圧迫圧保持制御部42と、圧迫帯12の圧迫圧が保持圧P2に保持されている状態で圧脈波を所定期間連続的に採取する圧脈波採取制御部44と、圧脈波採取制御部44で所定期間連続的に採取された圧脈波を容量変換することで動脈血管14aの拡張率を相当血管径換算で算出する血管拡張率算出部48とを、含む。
【0060】
これにより、超音波プローブおよびそれを支持して最適位置を探索するプローブ支持装置、超音波プローブからの信号を処理して超音波画像を生成する超音波画像生成装置などが不要となるため、装置が簡単且つ小型となる。しかも、血管拡張率算出部48において、圧脈波採取制御部44で所定期間連続的に採取された圧脈波を容量変換することで動脈血管14aの拡張率が相当血管径換算を用いて算出されることから、動脈血管14aに作用したずり応力に起因する血管拡張反応により血管径(血管容積)が最大となるタイミングと所定時間連続的に採取される圧脈波のいずれかの検出タイミングとがほぼ一致するので、信頼性の高い血管の内皮機能検査が可能となる。
第1判定閾値Th1は、第2判定閾値Th2および第3判定閾値Th3よりも小さく、脈波の基本の周波数成分の大きさに対してたとえば20%程度に設定される。また、第3判定閾値Th3は第2判定閾値Th2よりも小さく、脈波の基本数の周波数成分の大きさに対してたとえば40%程度に設定される。また、第3判定閾値Th3は、第1判定閾値Th1および第3判定閾値Th3よりも大きく、脈波の基本数の周波数成分の大きさに対してたとえば60%程度に設定される。本実施例の判定閾値Thは、圧迫帯12による圧迫圧が平均血圧値からから離れるほど小さい値とされている。
本実施例によれば、血流振動の判定に基づくずり応力の付与という作用について圧迫帯12による圧迫圧の影響を可及的に抑制するために、血流通過によるずり応力付与効果が相対的に大きい圧迫圧下降期間の前期には、血流振動の判定のために相対的に小さい第1判定閾値Th1が用いられる。しかし、血流通過によるずり応力効果の相対的に小さい圧迫圧下降期間の中期には、血流振動の判定のために相対的に大きい第2判定閾値Th2が用いられる。