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特開2024-63676シルクフィブロイン含有多孔質部材及びその製造方法
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  • 特開-シルクフィブロイン含有多孔質部材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063676
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】シルクフィブロイン含有多孔質部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A45D 24/00 20060101AFI20240502BHJP
   A46B 15/00 20060101ALI20240502BHJP
   A61H 7/00 20060101ALI20240502BHJP
   A46D 1/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A45D24/00 U
A46B15/00 Z
A61H7/00 300D
A46D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171823
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】591024904
【氏名又は名称】株式会社徳安
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】高谷 勝
【テーマコード(参考)】
3B202
4C100
【Fターム(参考)】
3B202AA11
3B202AB02
3B202EB19
4C100AA04
4C100AA31
4C100AA40
4C100BB01
4C100CA01
4C100DA02
(57)【要約】
【課題】ソフトな肌触りであって、適度な吸湿性を有し、生体安全性や生体親和性に優れており、且つ、耐久性に優れた表面を有するシルクフィブロイン含有多孔質部材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材10は、多孔質部材11の表面から内部方向に向かってシルクフィブロインが充填された、シルクフィブロイン含有部12を有している。製造方法としては、多孔質部材11の表面からシルクフィブロイン溶液を充填させ(充填工程S1)、充填したシルクフィブロイン溶液中の溶媒を蒸発させる(蒸発工程S2)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質部材の表面から内部に向かってシルクフィブロインが充填されているシルクフィブロイン含有多孔質部材。
【請求項2】
前記多孔質部材は皮膚に接触させて使用する理美容用品である請求項1に記載のシルクフィブロイン含有多孔質部材。
【請求項3】
前記多孔質部材は皮膚に接触する部分が木製である請求項2に記載のシルクフィブロイン含有多孔質部材。
【請求項4】
前記多孔質部材はブラシ、櫛、マッサー用具及び軽石のいずれかである請求項2に記載のシルクフィブロイン含有多孔質部材。
【請求項5】
前記多孔質部材の表面から内部に向かってシルクフィブロインとともに防カビ剤及び/又は防腐剤が充填されている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシルクフィブロイン含有多孔質部材。
【請求項6】
多孔質部材の表面からシルクフィブロイン溶液を充填させる充填工程と、
充填したシルクフィブロイン溶液中の溶媒を蒸発させる蒸発工程と、
を備えることを特徴とするシルクフィブロイン含有多孔質部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面から内部に向かってシルクフィブロインが充填されている多孔質部材、及びその製造方法に関し、櫛や軽石等、皮膚に直接触れる理美容用品に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
シルクは手触り、光沢、保湿性、及び強度等、優れた物理特性を有しているとともに、手術用の縫合糸に利用されるなど、生体親和性にも優れている。こうしたシルクの優れた特性を利用する研究が盛んにおこなわれている。
【0003】
シルクの原料となる蚕の繭糸は、図1に示すように、繊維状のシルクフィブロイン1をセリシン2が取り囲む構造となっており、セリシン2はシルクフィブロイン1からなる繊維を結合する接着剤の役割を担っている。繭糸の製糸工程においてセリシン2は取り除かれ、シルクフィブロイン1からなる繊維が絹糸として利用される。
【0004】
シルクフィブロインは水に不溶であるが,高濃度塩水溶液により分子間の水素結合を破壊することで溶解することが可能である。また、シルクフィブロインの塩溶液を水に対して透析することで、シルクフィブロイン水溶液を調製することができる(特許文献1)。
【0005】
こうして得られたシルクフィブロイン水溶液を基材に塗布して乾燥させることによって、基材の表面にシルクフィブロインからなるコーティング層を形成させれば、ソフトな肌触りであって、適度な吸湿性を有し、生体安全性や生体親和性に優れた表面とすることができる。
【0006】
しかし、シルクフィブロイン水溶液を基材に塗布して乾燥させたコーティング層は、摩擦によって剥がれるため、耐久性に欠けるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007-515391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ソフトな肌触りであって、適度な吸湿性を有し、生体安全性や生体親和性に優れており、且つ、耐久性に優れた表面を有するシルクフィブロイン含有多孔質部材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材は、多孔質部材の表面から内部に向かってシルクフィブロインが充填されていることを特徴とする。
本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材では、多孔質部材の表面から内部に向かってシルクフィブロインが充填されているため、表面が摩擦によって削れたとしても、絶えず表面にシルクフィブロインが存在することとなる。このため、シルクフィブロインの有する優れた表面特性が長期間維持される。
【0010】
本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材は、次のようにして製造することができる。すなわち、本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材の製造方法は、多孔質部材の表面からシルクフィブロイン溶液を充填させる充填工程と、
充填したシルクフィブロイン溶液中の溶媒を蒸発させる蒸発工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
多孔質部材は皮膚に接触させて使用する理美容用品とすることができる。シルクフィブロインはは肌触りが良く、肌に対して適度な保湿性も有しており、生体に対して安全であるため、使用感に優れ、安全な理美容用品となる。このため、多孔質部材としては、皮膚に接触する部分が木製のものに好適に用いることができる。また、理美容品としては、例えばブラシ、櫛、マッサー用具、軽石等に好適に用いることができる。
【0012】
さらには、多孔質部材の表面から内部に向かってシルクフィブロインとともに防カビ剤及び/又は防腐剤が充填されていることも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】蚕の繭糸の断面模式図である。
図2】本発明のシルクフィブロイン含有多孔質部材の模式断面図である。
図3】実施形態のシルクフィブロイン含有多孔質部材の製造方法を示す工程図である。
図4】ニンヒドリンによる呈色試験を行った後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態のシルクフィブロイン含有多孔質部材10は、図2に示すように、多孔質部材11の表面から内部に向かってシルクフィブロインが充填された、シルクフィブロイン含有部12を有している。このため、たとえシルクフィブロイン含有部12が多少削れても、新たに露出した表面には常にシルクフィブロインが存在することとなる。このため、表面は絶えずソフトな肌触りであって、適度な吸湿性を有し、生体安全性や生体親和性に優れた表面を保つことができる。
【0015】
多孔質部材11としては、例えば木材、無機物多孔体等の多孔性部材を用いることができる。特に、皮膚に直接触れる木製の櫛やブラシやマッサー用具等の理美容用品に好適に用いることができる。
【0016】
実施形態のシルクフィブロイン含有多孔質部材10は、図3に示す方法によって製造することができる。
(充填工程S1)
まず、シルクフィブロイン溶液を用意する。シルクフィブロイン溶液は、市販のシルクフィブロインを水-有機溶媒(例えば水-エタノール等)の混合溶媒に溶解することによって得ることができる。シルクファイブロイン溶液を容器に入れ、その中に多孔質部材11を浸漬し、減圧室に入れ減圧することにより、シルクフィブロイン溶液を多孔質部材11に充填させる。
【0017】
(蒸発工程S2)
充填工程S1終了後、減圧室からシルクファイブロイン溶液が浸透した多孔質部材11を取り出し、軽く表面を拭きとった後、乾燥機で乾燥させる。この時、乾燥は減圧下で行ってもよい。こうして多孔質部材11の表面から浸透したシルクファイブロイン溶液中の溶媒を蒸発させることにより、実施形態のシルクフィブロイン含有多孔質部材10を得ることができる。
【実施例0018】
以下に、実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
実施例1では、多孔質部材として柘植の木からなる櫛のピンを用意し、これにシルクフィブロインを表面から充填させた。
・充填工程S1
市販のシルクフィブロイン(株式会社シルク工芸製)に水-エタノール混合溶媒(容量比で4:1)に加えて溶解することにより、シルクフィブロイン溶液(10質量%)を得た。このシルクファイブロイン溶液を容器に入れ、その中にピンを浸漬し、減圧室に入れ減圧することにより、シルクファイブロイン溶液をピンに充填させた。
【0020】
・蒸発工程S2
充填工程S1終了後、減圧室からシルクファイブロイン溶液が浸透したピンを取り出し、乾燥機に入れ、減圧下70℃で乾燥させた。こうして溶媒を蒸発させて、実施例1のシルクフィブロイン含有ピンを得た。
【0021】
(比較例1)
実施例1を製造するときに用いた、柘植の木からなる櫛の未処理ピンを比較例1とした。
【0022】
<評 価>
(ニンヒドリンによる呈色試験)
実施例1のシルクフィブロイン含有ピン、及び、比較例1の未処理ピンについて、ニンヒドリンによる呈色反応によってタンパク質の存在確認を行った。
すなわち、実施例1及び比較例1のピンの表面に対し、0.5%ニンヒドリン水溶液を噴霧器で噴霧した後、軽くティッシュで拭き取ってから、ドライヤーで乾燥させたものについて、写真撮影を行った。その結果、実施例1では青紫色に着色したのに対し、比較例1ではほとんど着色せず、変化はほとんど認められなかった(図4参照)。また、実施例1の呈色試験後の表面を1000♯のサンドペーパーで3分間磨いた後においても青紫色の着色は認められた。
以上の結果から、実施例1ではシクロフィブロインが表面から内部に向かって充填されていることが分かった。
【0023】
(表面触感の官能試験)
表面触感についての官能試験を行った結果を表1に示す。
【表1】
【0024】
その結果実施例1では、極めて滑らかで心地よい肌触りを有するのに対し、比較例1では、ザラザラした肌触りであった。また、実施例1では、表面研磨後においても極めて滑らかな肌触りが維持された。
【0025】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1…シルクフィブロイン,2…セリシン,
10…シルクフィブロイン含有多孔質部材,11…多孔質部材,
12…シルクフィブロイン含有部
S1…充填工程、S2…蒸発工程
図1
図2
図3
図4