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特開2024-63768レーザ加工機、及びレーザ加工機の制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063768
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】レーザ加工機、及びレーザ加工機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240502BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20240502BHJP
【FI】
B23K26/00 N
B23K26/38
B23K26/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181764
(22)【出願日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2022171383
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】原 英夫
(72)【発明者】
【氏名】國廣 正人
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AA02
4E168AD07
4E168CB03
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA43
4E168EA17
4E168FB01
4E168FB02
4E168FB05
4E168JA02
(57)【要約】
【課題】ワークへの入熱過多又は入熱不足に起因する加工不良の発生を効果的に抑制する。
【解決手段】制御装置60は、ワークWの材質及び厚みに基づいて、標準平均出力及び標準速度を選択する加工条件選択部62と、加工経路上の基準点を中心に加工ヘッド30の加減速制御を行う加工速度制御部64と、材質及び厚みに対応する出力制御テーブルに基づいて、レーザ平均出力を標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御を行うレーザ平均出力制御部65と、を含む。レーザ平均出力制御部65は、加工経路における加工ヘッド30と基準点との間の距離がレーザ平均出力制御距離以下となる範囲においてレーザ平均出力制御が行われるように、係数を乗じて出力制御テーブルを補正する補正処理を行う。また、レーザ平均出力制御は、レーザ平均出力に起因するパルスデューティ及びパルス周波数を調整することにより行われる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工としてのレーザ切断加工又はレーザマーキング加工を行うレーザ加工機において、
レーザ発振器から射出されたレーザビームをワークに照射して、前記レーザビームによって前記ワークを加工する加工ヘッドと、
前記ワークに対して前記加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、
前記加工ヘッドから前記ワークに照射される前記レーザビームのレーザ平均出力、及び加工経路に沿って前記ワーク上を移動する前記加工ヘッドの加工速度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記ワークの材質及び厚みに基づいて、前記レーザ平均出力の標準値である標準平均出力と、前記加工ヘッドの加工速度の標準値である標準速度とを選択する加工条件選択部と、
前記加工経路上の基準点へと前記加工ヘッドが到達するときに前記加工ヘッドを減速させる、又は前記基準点から前記加工ヘッドが離れるときに前記加工ヘッドを加速させる加減速制御を行う加工速度制御部と、
前記加減速制御の実行に対応して、前記レーザ平均出力を前記標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御を行うレーザ平均出力制御部と、
前記材質及び前記厚みに基づいて、前記レーザ平均出力制御に必要な距離であるレーザ平均出力制御距離を決定するパラメータ決定部と、を含み、
前記レーザ平均出力制御部は、
前記標準速度から減速させた加工速度が前記標準速度に対する割合で表された速度割合と、前記標準平均出力から変化させた前記レーザ平均出力が前記標準平均出力に対する割合で表された出力割合とが対応付けられた出力制御テーブルに基づいて、前記レーザ平均出力制御を行い、
前記レーザ平均出力制御部は、
前記加工ヘッドの減速時においては前記加工ヘッドから前記基準点までの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、又は前記加工ヘッドの加速時においては前記基準点から前記加工ヘッドまでの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、係数を乗じて前記出力制御テーブルを補正する出力テーブル補正処理を行い、
前記レーザ平均出力制御は、
前記レーザ平均出力に起因するパルスデューティ及びパルス周波数を調整することにより行われる
レーザ加工機。
【請求項2】
前記加工速度制御部は、
前記移動機構が前記加工ヘッドを減速及び加速する際の加減速度を、前記加減速度の標準値から変更することで、前記加工ヘッドの加減速に要する距離である加減速移動距離を調整する
請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項3】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記基準点に近づく前記加工ヘッドが、前記基準点に対して前記レーザ平均出力制御距離だけ手前に位置する第1制御点から、前記基準点に至るまでの間、前記レーザ平均出力を前記標準平均出力から減少させる第1出力制御を行い、
前記基準点から離れる前記加工ヘッドが、前記基準点から、前記基準点に対して前記レーザ平均出力制御距離だけ離れた第2制御点に到達するまでの間、前記レーザ平均出力を前記標準平均出力に向けて増加させる第2出力制御を行う
請求項1又は2記載のレーザ加工機。
【請求項4】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記加工ヘッドの加工速度を監視し、
前記出力制御テーブルに基づいて、前記加工ヘッドの加工速度に応じた前記レーザ平均出力を特定することで、前記レーザ平均出力制御を行う
請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項5】
前記パラメータ決定部は、
前記材質及び前記厚みの組み合わせ毎に紐付けられた複数のレーザ平均出力制御距離を格納する第1データベースを参照し、前記材質及び前記厚みに対応する前記レーザ平均出力制御距離を決定する
請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項6】
前記パラメータ決定部は、
前記材質及び前記厚みの組み合わせ毎に紐付けられた複数の出力制御テーブルを格納する第2データベースを参照し、前記材質及び前記厚みに対応する前記出力制御テーブルを決定し、
前記レーザ平均出力制御部は、
前記パラメータ決定部が決定した前記出力制御テーブルに基づいて前記レーザ平均出力制御を行う
請求項5記載のレーザ加工機。
【請求項7】
前記パラメータ決定部は、
前記加減速度の標準値と、前記出力制御テーブルにおいて前記レーザ平均出力の出力変化が働き出す加工速度とに基づいて、前記出力制御テーブルに従った場合に前記レーザ平均出力の出力変化が働くテーブル作用距離を算出し、
前記レーザ平均出力制御部は、
前記レーザ平均出力制御距離と、前記テーブル作用距離とを比較して、前記レーザ平均出力制御の実行モードを決定する
請求項2記載のレーザ加工機。
【請求項8】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記テーブル作用距離が前記レーザ平均出力制御距離以上の場合、前記テーブル作用距離が前記レーザ平均出力制御距離まで減少するように、前記係数を乗じて前記出力制御テーブルを補正し、
補正した前記出力制御テーブルに基づいて、前記レーザ平均出力制御を行う
請求項7記載のレーザ加工機。
【請求項9】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記テーブル作用距離が前記レーザ平均出力制御距離よりも小さい場合、前記テーブル作用距離が前記レーザ平均出力制御距離まで増加するように、前記係数を乗じて前記出力制御テーブルを補正し、
補正した前記出力制御テーブルに基づいて、前記レーザ平均出力制御を行う
請求項7記載のレーザ加工機。
【請求項10】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記出力制御テーブルを補正しても、前記テーブル作用距離が前記レーザ平均出力制御距離よりも小さい場合には、前記加減速移動距離を変更する
請求項9記載のレーザ加工機。
【請求項11】
前記出力制御テーブルには、前記速度割合を定義する区間が3つ以上規定されている
請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項12】
前記レーザ平均出力制御部は、
前記レーザ平均出力の変化の微細遷移を計算し、前記区間毎に階段状の制御指令とならないように最適化した前記レーザ平均出力に係る制御指令を決定する
請求項11記載のレーザ加工機。
【請求項13】
前記出力制御テーブルは、
前記加工ヘッドが前記基準点に到達する減速時に対応する出力制御テーブルと、前記加工ヘッドが前記基準点から離れる加速時に対応する出力制御テーブルと含む
請求項3記載のレーザ加工機。
【請求項14】
前記パラメータ決定部は、前記材質及び前記厚みに基づいて決定した前記レーザ平均出力制御距離を、前記加工ヘッドから排出されるアシストガス流量に基づいて調整し、
前記レーザ平均出力制御部は、調整後の前記レーザ平均出力制御距離を用いて前記出力テーブル補正処理を行う
請求項1記載のレーザ加工機。
【請求項15】
レーザ発振器から射出されたレーザビームをワークに照射して、前記レーザビームによって前記ワークを加工する加工ヘッドと、
前記ワークに対して前記加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、を備え、レーザ加工としてのレーザ切断加工又はレーザマーキング加工を行うレーザ加工機の制御方法において、
前記加工ヘッドから前記ワークに照射される前記レーザビームのレーザ平均出力、及び加工経路に沿って前記ワーク上を移動する前記加工ヘッドの加工速度を制御する制御装置が、
前記ワークの材質及び厚みに基づいて、前記レーザ平均出力の標準値である標準平均出力と、前記加工ヘッドの加工速度の標準値である標準速度とを選択し、
前記加工経路上の基準点へと前記加工ヘッドが到達するときに前記加工ヘッドを減速させる、又は前記基準点から前記加工ヘッドが離れるときに前記加工ヘッドを加速させる加減速制御を行い、
前記加減速制御の実行に対応して、前記標準速度から減速させた加工速度が前記標準速度に対する割合で表された速度割合と前記標準平均出力から変化させた前記レーザ平均出力が前記標準平均出力に対する割合で表された出力割合とが対応付けられた出力制御テーブルに基づいて、前記レーザ平均出力を前記標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御を行い、
前記制御装置は、
前記材質及び前記厚みに基づいて、前記レーザ平均出力制御に必要な距離であるレーザ平均出力制御距離を決定し、
前記加工ヘッドの減速時においては前記加工ヘッドから前記基準点までの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、又は前記加工ヘッドの加速時においては前記基準点から前記加工ヘッドまでの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、係数を乗じて前記出力制御テーブルを補正する出力テーブル補正処理を行い、
前記レーザ平均出力制御は、
前記レーザ平均出力に起因するパルスデューティ及びパルス周波数を調整することにより行われる
レーザ加工機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機、及びレーザ加工機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工、例えばレーザ切断加工では、切断経路に沿ってワークを切断する際に、角部などにドロスが発生するなどといった切断不良が発生することが知られている。例えば特許文献1には、角部を切断する際に加工条件を変化させることで、角部の切断不良を防止するレーザ加工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-196254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、通常の切断加工条件と角部の切断加工条件との間における加工条件の変更は、レーザ出力(レーザパワー)、パルスデューティ、パルス周波数、アシストガス圧および切断加工速度のうちの少なくとも一つを変更することによって行われることが開示されている。また、特許文献1に拘らず、機械と制御装置の高性能化が進み、旧来と比較して加工ヘッドの急な加減速が可能になり、それに伴い、旧来と比較してレーザ出力、パルスデューティ、パルス周波数を急激に変化させることも可能となった。
【0005】
しかしながら、角部で単にワークへの入熱量を減少させても、ワークが過剰に溶けてしまったり、ワークが溶けきれなかったりすることがある。要するに、次のような現象が発生する。
【0006】
加工条件に定義される加工速度の標準値に従って加工ヘッドが移動し、一定の加工速度でワークを切断していたときはワークへの入熱が一定であるが、このときワークに入熱された熱エネルギは、金属の特性上、切断溝の周辺部へ熱伝導される。ここで、急激に加工ヘッドが減速し、レーザ出力等を制御して急激にワークへの入熱を減少させても、熱伝導で伝わった熱は急激に冷却されることはないから、板厚が厚いとワークが過剰に溶けてしまう場合が発生する。さらに、板厚が厚い場合は元々加工速度が遅くなるので、正常な切断であっても熱がワークにこもりやすくなり、切断速度に対して入熱量が少しでも過多になると、ワークが過剰に溶け落ちたり、ドロスが発生したりする場合がある。一方、板厚が薄ければ、入熱される熱エネルギが少なくても切断が可能である。伝導される熱エネルギが少ないので、急激な減速に伴ってワークへの入熱を減少させると、ワークが溶けきれない場合が発生する可能性がある。さらに、角部の切断加工では熱が拡散できるワークの容積が小さくなることに起因して、切断時に入熱される熱量は、逃げ場を失いワークにこもることで入熱量が過多となり、ワークが過剰に溶け落ちたり、ドロスを発生させたりしやすくなる。
【0007】
また、入熱量が過多になることで、切断面の焼け(酸化皮膜の状態)として褐色化又は黒色化が発生する。レーザ切断加工では、角部に到達する際に加工ヘッドが減速する工程で切断される切断面、すなわち角部を曲がる前の切断面よりも、角部を通過して加工ヘッドが加速する工程で切断される切断面、すなわち角部を曲がった後の切断面に焼けが発生しやすい。
【0008】
このような入熱量に起因する加工不良は、レーザ切断加工に限らず、レーザビームを照射してワークに凹状の有底の溝(条痕)を形成するレーザマーキング加工においても同様に発生する。レーザマーキング加工においては、ワークへの入熱過多又は入熱不足に起因して、マーキング深さの不均一さが発生する。
【0009】
また、レーザマーキング加工においても、入熱量が過多になることで、溝表面の焼け(酸化皮膜の状態)として褐色化又は黒色化が発生する。レーザマーキング加工における溝表面の焼けは、角部を曲がる前と、角部を曲がった後とでほぼ対称に発生する。
【0010】
レーザ切断加工時に発生する材料表面の焼けが、レーザマーキング加工時に発生する材料表面の焼けと相違するのは、以下の原因が考えられる。1つ目に考えられる原因としては、レーザ切断加工においては、角部を曲がった後の加速時に熱が拡散できるワークの容積が、角部を曲がる前の減速時のそれと比べて小さくなることが挙げられる。2つ目に考えられる原因としては、角部を曲がった直後は直線時の適切なカッティングフロントとは異なるカッティングフロントになっており、アシストガスの流れが不適切になり、アシストガスの冷却効果、ドロスの排出が適切になされていない可能性があるからである。
【0011】
このようにレーザ切断加工及びレーザマーキング加工のいずれのレーザ加工においても共通しているのは、加減速時に適切な出力制御ができておらず、入熱量が過大になり過燃焼が発生してしまう。一方、入熱量を少なくしすぎると、レーザ切断加工においてはワークが溶けきれない、レーザマーキング加工においてはマーキング深さの不均一さなどの不良が発生してしまう。よって、加減速時に適切な入熱量のコントロールが求められる。
【0012】
そして、角部のレーザ加工において発生する加工不良は、加工ヘッドの加減速に伴う箇所での加工、例えば円弧での加工においても同様に発生する現象である。つまり、加工ヘッドのベクトルを変更する変更位置、又は加工ヘッドの移動を停止させる停止位置といった基準点に向かってレーザビームを減速させる減速時には、角部のレーザ加工における加工不良と同様の加工不良が発生する。また、レーザビームによってワークへ入熱された位置といった基準点を起点としてレーザビームを加速させる加速時においても、角部のレーザ加工における加工不良と同様の加工不良に発生する。
【0013】
以上の課題点を整理すると、加工ヘッドを減速させる減速時、又は加工ヘッドを加速する加速時におけるレーザビームの出力パラメータ、及びその出力パラメータに係わるその他のパラメータについて、ワークへの入熱過多又は入熱不足に起因する加工不良の発生を効果的に抑制することができる制御方法が望まれている、ということである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様のレーザ加工機は、レーザ加工としてのレーザ切断加工又はレーザマーキング加工を行うレーザ加工機であり、レーザ発振器から射出されたレーザビームをワークに照射して、前記レーザビームによって前記ワークを加工する加工ヘッドと、前記ワークに対して前記加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、前記加工ヘッドから前記ワークに照射される前記レーザビームのレーザ平均出力、及び加工経路に沿って前記ワーク上を移動する前記加工ヘッドの加工速度を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、前記ワークの材質及び厚みに基づいて、前記レーザ平均出力の標準値である標準平均出力と、前記加工ヘッドの加工速度の標準値である標準速度とを選択する加工条件選択部と、前記加工経路上の基準点へと前記加工ヘッドが到達するときに前記加工ヘッドを減速させる、又は前記基準点から前記加工ヘッドが離れるときに前記加工ヘッドを加速させる加減速制御を行う加工速度制御部と、前記加減速制御の実行に対応して、前記レーザ平均出力を前記標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御を行うレーザ平均出力制御部と、前記材質及び前記厚みに基づいて、前記レーザ平均出力制御に必要な前記ワーク距離であるレーザ平均出力制御距離を決定するパラメータ決定部と、を含む。レーザ平均出力制御部は、前記標準速度から減速させた加工速度が前記標準速度に対する割合で表された速度割合と、前記標準平均出力から変化させた前記レーザ平均出力が前記標準平均出力に対する割合で表された出力割合とが対応付けられた出力制御テーブルに基づいて、前記レーザ平均出力制御を行う。前記レーザ平均出力制御部は、前記加工ヘッドの減速時においては前記加工ヘッドから前記基準点までの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、又は前記加工ヘッドの加速時においては前記基準点から前記加工ヘッドまでの距離が前記レーザ平均出力制御距離以下となる範囲で前記レーザ平均出力制御が行われるように、係数を乗じて前記出力制御テーブルを補正する出力テーブル補正処理を行う。レーザ平均出力制御は、前記レーザ平均出力に起因するパルスデューティ及びパルス周波数を調整することにより行われる。
【0015】
本発明の一態様のレーザ加工機は、加工ヘッドを減速させる減速時、又は加工ヘッドを加速する加速時に、基準点からレーザ平均出力制御距離の範囲でレーザ平均出力制御を行うことができる。これにより、基準点に到達するとき、又は基準点から離れる際の入熱量を最適化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、加工ヘッドを減速させる減速時、又は加工ヘッドを加速する加速時におけるレーザビームの出力パラメータやそれに係わるその他のパラメータを適切に制御することができる。これにより、レーザビームの移動区間におけるワークへの入熱過多又は入熱不足に起因する加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工機についての主要な構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の構成を模式的に示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るレーザ切断加工の概念を説明する図である。
図4A図4Aは、加工速度とレーザ平均出力との対応関係を規定する出力制御テーブルを示す図である。
図4B図4Bは、図4Aの出力制御テーブルの詳細を示す図である。
図5A図5Aは、係数を乗じて補正した出力制御テーブルを示す図である。
図5B図5Bは、図5Aの出力制御テーブルの詳細を示す図である。
図6図6は、レーザ平均出力に係る制御指令の微細遷移を説明する図である。
図7図7は、減速時のレーザ平均出力に係る制御指令と、加速時のレーザ平均出力に係る制御指令とを説明する図である。
図8図8は、出力制御距離DBに格納されるデータの一例を示す図である。
図9図9は、レーザ加工機の制御方法を示すフローチャートである。
図10A図10Aは、加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離の関係を示す図である。
図10B図10Bは、パラメータ決定部が決定した出力制御テーブルを示す図である。
図10C図10Cは、係数により補正した補正後の出力制御テーブルを示す図である。
図11A図11Aは、加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離の関係を示す図である。
図11B図11Bは、パラメータ決定部が決定した出力制御テーブルを示す図である。
図11C図11Cは、係数により補正した補正後の出力制御テーブルを示す図である。
図12A図12Aは、加減速補正処理前における加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離の関係を示す図である。
図12B図12Bは、加減速補正処理後おける加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離の関係を示す図である。
図13図13は、角穴のレーザ切断加工を説明する図である。
図14図14は、長穴のレーザ切断加工を説明する図である。
図15図15は、厚板の直線切断時におけるノズル径とワークの熱量との関係を示す図である。
図16図16は、厚板の角部切断時におけるノズル径とワークの熱量との関係を示す図である。
図17図17は、高レーザ出力且つ大径ノズルを用いた厚板の加工の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、実施形態に係るレーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法について説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工機についての主要な構成を示すブロック図である。図2は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の構成を模式的に示す図である。図1及び図2に示すように、レーザ加工機1は、レーザ加工としてのレーザ切断加工又はレーザマーキング加工を行う加工である。レーザ加工機1は、レーザ発振器10から射出されたレーザビームをワークWに照射して、レーザビームによってワークWを加工する加工ヘッド30と、ワークWに対して加工ヘッド30を相対的に移動させる移動機構22と、加工ヘッド30からワークWに照射されるレーザビームのレーザ平均出力、及び加工経路に沿ってワークW上を移動する加工ヘッド30の加工速度を制御する制御装置60と、を備えている。ここで、レーザ平均出力とは、単位時間当たりのレーザビームの出射に伴う平均出力を指し、具体的には、レーザ出力(レーザパワー)、パルスデューティ、パルス周波数によって決定される。
【0020】
制御装置60は、ワークWの材質及び板厚(厚み)に基づいて、レーザ平均出力の標準値である標準平均出力と、加工ヘッド30の加工速度の標準値である標準速度とを選択する加工条件選択部62と、加工経路上の基準点へと加工ヘッド30が到達するときに、加工ヘッド30を減速させる、又は基準点から離れるときに加工ヘッド30を加速させる加減速制御を行う加工速度制御部64と、加減速制御の実行に対応して、レーザ平均出力を標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御をレーザ平均出力制御部65と、材質及び板厚に基づいて、レーザ平均出力制御に必要な距離であるレーザ平均出力制御距離を決定するパラメータ決定部63と、を含む。ここで、レーザ平均出力制御部65は、標準速度から減速させた加工速度が標準速度に対する割合で表された速度割合と、標準平均出力から変化させたレーザ平均出力が標準平均出力に対する割合で表された出力割合とが対応付けられた出力制御テーブルに基づいて、レーザ平均出力制御を行う。このときに、レーザ平均出力制御部65は、加工ヘッド30の減速時においては加工ヘッド30から基準点までの距離がレーザ平均出力制御距離以下となる範囲でレーザ平均出力制御が行われるように、又は加工ヘッド30の加速時においては基準点から加工ヘッド30までの距離がレーザ平均出力制御距離以下となる範囲でレーザ平均出力制御が行われるように、係数を乗じて出力制御テーブルを補正する補正処理を行う。また、レーザ平均出力制御は、レーザ平均出力に起因するパルスデューティ及びパルス周波数を調整することにより行われる。
【0021】
また、加工速度制御部64は、移動機構22が加工ヘッド30を減速させる際の減速度(負の加速度)を、その減速度の標準値から変更して、減速に要す時間を長く、言い換えれば、加工ヘッド30の減速に要す距離(加減速移動距離L1)を調整してもよい。この概念は、減速時に限らず、加工ヘッド30を、標準速度よりも遅い加工速度(角部における加工速度)から標準速度まで加速させるときであっても同様である。すなわち、加工速度制御部64は、移動機構22が加工ヘッド30を加速する際の加速度(正の加速度)を、その加速度の標準値から変更して、加速に要す時間を長く、言い換えれば、加工ヘッド30の加速に要す距離(加減速移動距離L1)を調整してもよい。
【0022】
なお、レーザ平均出力を制御すると考えれば、ワークWへの入熱量という観点で、(1)加工速度、(2)レーザ出力(レーザパワー)、(3)パルスデューティ及びパルス周波数が考えられる。少なくともこれらの制御パラメータは、ワークWから溶融された金属のメルト状態、ワークW内の熱伝導状態、及びカッティングフロントを含むカーフの様態を変化させる。しかしながら、これらの制御パラメータのうちレーザ出力は、レーザピークパワーとして、特に切断加工におけるカッティングフロントの先端部のワークWの金属溶解(金属融解)に直接関わる。そのため、レーザ出力は他のパラメータと比較して影響度が大きい分、レーザ出力を低下させるには限界がある。なお、レーザ平均出力を制御するという点では異なるが、ワークの熱量を制御すると考えれば、ワークWからの放熱という観点で、アシストガス圧が考えられる。ただし、加工中のアシストガス圧は加工ヘッド30内のアシストガス圧によって変化する。そのため、本実施形態のレーザ加工において想定する加工時間内の指令に即応することは難しい。したがって、本実施形態に係るレーザ平均出力制御は、制御パラメータのうち、パルスデューティ及びパルス周波数を調整することとした。
【0023】
図3は、第1の実施形態に係るレーザ加工の概念を説明する図である。レーザ加工機1及びレーザ加工機1の制御方法の説明に先立ち、本実施形態に係るレーザ加工の概念について説明する。以下の説明では、レーザ加工機1によるレーザ加工は、レーザビームによってワークWを切断するレーザ切断加工であるものとする。加工速度は切断速度ともいい、加工経路は切断経路ともいう。また、図3に示すように、直線Raを切断し、直線Raと直線Rbとが角度θで組み合わされた角部Cnで方向を転換した後に、直線Rbを切断するような切断経路を想定する。
【0024】
以下、角部Cnの切断は角部Cnの外側を切断することを前提に説明を行う。なお、角の内側(内角)を切断する場合には、工具となるレーザビームのビーム径(直径)を考慮して、角部Cnの手前で折り返し、製品外形をトレースしながら工具軌跡を形成する(工具径補正(Tool Radius Compensation)を行う)ことは周知の事実である。さらに角部Cnでレーザビームを停止させないために、つまり角部Cnをレーザビームが円弧補間しながら加工する方法も当業者に周知の技術である。したがって、内角を切断する場合の解釈において、角部Cnは、仮想点として読み替えることもできる。
【0025】
通常、レーザビームLBを射出する加工ヘッド30は、加工条件に定義される加工速度である標準速度で切断経路上を移動する。切断経路上の角部Cn(基準点の一例)へと加工ヘッド30が到達するとき、加工ヘッド30は最小速度まで減速する。そして、加工ヘッド30は、角部Cnへと到達した後に標準速度まで加速する。加工ヘッド30が減速を開始する減速開始位置P11、加工ヘッド30が加速を終了する加速終了位置P12は、移動機構22に設定される、加工ヘッド30の加減速度の標準値と、標準速度と、角部Cnにおける加工ヘッド30の最小速度とによって定まる、加工ヘッド30の加減速に要する距離(以下「加減速移動距離」という)L1によって定まる。角部Cnにおける加工ヘッド30の最小速度は、基本的にゼロとして扱うこともできる。
【0026】
角部Cnを通過するときに加工ヘッド30の減速及び加減が発生することで、角部Cnに対するワークWへの入熱量が最適値からずれてしまう。つまり、通常時の切断では、カーフの両側の金属にレーザビームのエネルギ、或いは酸化還元反応のエネルギが熱として溜まり、それが周囲の金属に熱伝導で伝わる。ワークWに入熱されるエネルギの位置及び熱伝導される位置は通常時の加工速度に伴い移動するが、通常時の加工速度から外れた加減速中は、そのワークWの入熱、蓄熱、及び放熱のバランスが変化する。さらに、角部Cnを曲がったときから、角部Cnの内側は熱伝導される金属の容積が小さくなる。ワークWへの入熱量を抑制しないと切断に必要なエネルギ以上の熱がワークWにこもることになる。ワークWへの入熱量とワークWの蓄熱量とのバランスの崩れが、ワークWの過剰な溶け落ち、ドロスの発生、切断面の焼けといった加工不良が発生する要因と考えられる。そこで、入熱量を制御するため、加工ヘッド30の減速中及び加速中に、加工ヘッド30の速度に応じてレーザ平均出力を標準平均出力から区間毎に段階的に変化させる方法を検討した。この方法によれば、角部Cnを切断する場合におけるワークWへの入熱量を制御することができ、加工不良の発生に対して一定の抑制効果を得ることができた。
【0027】
しかしながら、レーザ加工機1の機種によって加工ヘッド30を移動させる移動機構22の仕様も様々であり、加工ヘッド30の加減速度の標準値も機種によって相違する。加工ヘッド30の加減速度が大きくなると、加工ヘッド30の速度が変化する距離、すなわち、加減速移動距離L1が短くなる。したがって、角部Cnに対する入熱量の制御が難しくなり、加工不良の発生を十分に抑制することが困難となる。
【0028】
つまり、加減速の所要時間及び所要距離と、レーザ平均出力を標準平均出力から制御するレーザ平均出力制御でワークWへ入熱されて蓄熱されるエネルギとの関係は、板厚も考慮すれば線形的に計算できない。そのため、加減速の所要時間及び所要距離の変化に対応するレーザ平均出力制御方法が必要である。また、区間と区間との間の加工条件の差異(例えば、パルス周波数又はパルスデューティの差異)が大きいと、階段状の指令となり切断面(カーフ側面)の状態が急激に変化することになり、滑らかな切断面を得られない場合がある。さらに、ワークWに入熱された角部Cnの加熱状態によっては、既に熱がこもった状態にあるため、角部Cnへ到達するときの減速制御及びレーザ平均出力制御と同じように、角部Cnから離れるときの加速制御及びレーザ平均出力制御を行うと、加工不良を起こす場合がある。
【0029】
そこで、発明者らが鋭意検討したところ、以下の通り、角部Cnにおける加工不良の発生を抑制するための一つの解決策を導いた。
【0030】
加工条件には、本実施形態に関わる従来からある切断条件と、関連する従来からあるエッジ条件と、まったく関わらないピアス条件などがある。エッジ条件は、本実施形態のレーザ切断加工が開示する角部の加工条件と技術分野としては一致する。しかしながら、本実施形態は、切断条件をベースにその条件から滑らかに遷移する条件でもって角部を加工する目的なので、以降で説明する加工条件は切断条件となる。
【0031】
切断条件は、少なくとも発振器の種類、焦点レンズの仕様、ノズルの仕様、ワークWの材質、板厚(mm)、加工速度(mm/min)、レーザ出力(W)、パルス周波数(Hz)、パルスデューティ(%)、焦点位置(mm)などの情報が定義されている。この切断条件は、その情報が呼出し番号と共にデータテーブルにマッピングされ、制御装置60の何れかの場所に格納されている。切断条件は、加工プログラムに記載されたコードを制御装置60が解読したときデータテーブルから呼び出されて利用可能になる。なお、切断条件に規定される各パラメータの値は、そのパラメータの標準値に相当する。
【0032】
まず、角部Cnの減速時及び加速時における最適な切断条件は、直線を低速で切断した際の切断条件と同じになると考えた。そこで、所定の材質及び板厚の板金を基準ワークとし、標準速度に対して所定の割合A(A<100%)だけ減速した加工速度を幾つか設定し、個々の加工速度で基準ワークを直線切断した。また、加工速度毎に、レーザ平均出力を変更しながら直線切断を繰り返し行った。変更したレーザ平均出力のパラメータは、レーザ発振器10で制御されるパラメータのうちパルス周波数及びパルスデューティである。要するに、レーザピークパワー(レーザパワー)を変化させずに、単位時間当たりのワークWへのレーザビームの照射時間及び非照射時間(パルスデューティ)、並びに単位時間当たりのレーザビームの照射回数(パルス周波数)を調整した。これにより、ワークWが溶解するためのエネルギをワークWへ入熱しつつ、熱伝導する熱量を抑えるようにレーザ平均出力のパラメータを変更した。
【0033】
図4Aは、加工速度とレーザ平均出力との対応関係を規定する出力制御テーブルを示す図である。図4Bは、図4Aの出力制御テーブルの詳細を示す図である。予め基準ワークに対する切断結果を評価して、加工速度別に、加工不良の発生が最も小さくなるパルスデューティ及びパルス周波数の最適条件を求め、これを出力制御テーブルとして作成した。図4A及び図4Bに示すように、加工速度が50%以上の場合、パルスデューティ及びパルス周波数は、各々の標準値に対して100%の値が最適となる。一方で、加工速度が50%未満の場合、パルスデューティ及びパルス周波数は、各々の標準値に対して所定の割合だけ減少させた値が最適となる。この出力制御テーブルに従って、レーザ平均出力を制御すると、加工ヘッド30の減速中又は加速中に、加工速度が0%から50%未満の範囲で、レーザ平均出力の出力変化が働くこととなる。図4Aに示すように、本実施形態では、出力制御テーブルに、加工速度を定義する区間が3つ以上規定されている。
【0034】
図4A及び図4Bを更に説明する。例えば、ステンレス鋼板厚1.5mmの角部切断の場合に、加工速度32000mm/min、レーザ出力4000W、パルス周波数10000Hz、パルスデューティ100%が加工条件テーブルに設定されていたとする。図4Bの加工速度(%)は、加工速度32000mm/minを基準とする速度割合のことであり、100%が32000mm/min、50%が16000mm/minであることを示す。同様に出力(レーザパワー)(%)は、レーザ出力4000Wを基準とする出力割合のことであり、100%が4000W、50%が2000Wであることを示す。デューティ(%)は、パルスデューティ100%を基準とするパルスデューティ割合のことであり、100%が100%、50%が50%であることを示す。周波数(%)は、パルス周波数10000Hzを基準とする周波数割合のことであり、100%が10000Hzであり、50%が5000Hzであることを示す。
【0035】
図4A及び図4Bに示す出力制御テーブルを用いて、角部Cnの切断を行った。しかしながら、角部Cnにおける加工不良の発生を顕著に抑制することができない場合があった。出力制御テーブルは直線を切断したときの最適条件から作成されているため、例えば、高速で切断していた場合と低速で切断していた場合との違いを考えれば、同じ板厚であれば高速切断の方がワークWへのレーザ平均出力が大きいことになり、加工速度の時間を加味して、ワークWへの入熱が一定となることが想像されるであろう。熱伝導はそのワークWの容積に対して為される物理現象であるから、加工速度が高速であるのか、それとも低速であるのかの線形変化に対して、熱伝導のエネルギ量が線形で変化することがないことが想定される。つまり、角部Cnの切断の場合には入熱の環境が相違することが原因と考えられる。要するに、レーザパワーを変化させずに、パルスデューティ及びパルス周波数を調整し、さらに所望の加減速移動距離でワークWが溶解するエネルギをワークWへ入熱しつつ熱伝導する熱量を抑えるように、レーザ平均出力のパラメータと加減速に要す距離との双方を変更することを検討した。
【0036】
まず、角部Cnに差し掛かるとき、加工速度は減速し始める。図4A及び図4Bのような場合、X軸及びY軸で移動される加工ヘッド30は、X軸の方向及びY軸の方向の何れか一方、若しくは両方が反転する、すなわち一旦速度がゼロとなる。減速を伴う移動範囲が、通常の加工速度から変化している範囲となり、切断条件を変化させる範囲となる。つまり、以下の式1に示す加減速移動距離L1(加速移動距離又は減速移動距離)によって、角部Cnの加工軌跡においてXY軸の加減速制御の開始位置及びXY軸の加減速制御の終了位置が定まる。
加減速移動距離L1(mm)=1/2×加工速度(mm/min)^2/加減速度(mm/min^2)・・・(式1)
【0037】
また、図4A及び図4Bのような場合、XY軸が特定の加工速度(%)に到達すると、レーザ平均出力制御を開始し、XY軸が一旦速度ゼロとなった時にレーザ平均出力も最小となる。つまり、以下の式2に示す実効距離LXによって、角部Cnの加工軌跡においてレーザ平均出力制御の開始位置及びレーザ平均出力制御の終了位置が定まる。
実効距離LX(mm)=1/2×レーザ平均出力制御の開始時加工速度(mm/min)^2/加減速度(mm/min^2)・・・(式2)
【0038】
次いで、前述したように予備実験では「加工速度が50%未満の場合、パルスデューティ及びパルス周波数は、各々の標準値に対して所定の割合だけ減少させた値が最適となる」ことが分かっている。しかしながら、この予備実験は、他の加工環境において万能でないことが分かった。加工速度が50%のときから本実施形態のレーザ平均出力制御が開始されることを基準として、これが係数1となるように、補正値算定方法を検討した。
【0039】
補正値算定の考え方は、以下の通りである。例えば、板厚1.5mmのステンレス鋼を用いた角部Cnのレーザ切断の場合、32000mm/minの加工速度が50%となるのは、16000mm/minのときである。そして、加工速度が16000mm/minからゼロに至るまでの間に、加工ヘッド30が移動する移動距離を基準の移動距離とする。これと異なる条件のときの加速度(減速度)で加工ヘッド30が移動する距離が基準の移動距離を上回る場合は、加工速度が50%になる以前からレーザ平均出力制御を開始する必要がある。一方、基準の移動距離を下回る場合は、加工速度が50%になってからレーザ平均出力制御を開始すればよいということである。すなわち、以下の式3、式4によって算定された係数を用いて、所望の加工速度(%)時からレーザ平均出力制御を開始すればよいということである。
最大速度割合R=レーザ平均出力制御が行われる所望の最大の加工速度(%)/100・・・(式3)
係数=最大速度割合R÷0.5・・・(式4)
【0040】
そこで、図4A及び図4Bに示す出力制御テーブルに係数を乗じ、補正した出力制御テーブルを作成した。
【0041】
図5Aは、係数を乗じて補正した出力制御テーブルを示す図である。図5Bは、図5Aの出力制御テーブルの詳細を示す図である。図5A及び図5Bに示す出力制御テーブルは、図4A及び図4Bにおいてレーザ平均出力の出力変化が働く範囲の加工速度(0%~50%)に対して係数である「1.5」を乗じ、係数を乗じた後の加工速度(0%~75%)によって出力制御テーブルを更新したものである。補正後の出力制御テーブルによれば、加工ヘッド30の減速中に、加工速度が75%から0%となる距離の範囲で、レーザ平均出力の出力変化が働くこととなる。このため、レーザ平均出力の出力変化が働く距離(実効距離LX)を伸ばすことができ、角部Cnに対する入熱量を減少させることができる。すなわち、レーザ平均出力の出力変化が働く距離(実効距離LX)に応じて、角部Cnの入熱量を制御することができる。
【0042】
しかしながら、式4で計算される係数が2を超える場合が発生する。係数が1の場合は、加工速度が50%から0%となる距離の範囲で、レーザ平均出力の出力変化が働く。係数が2の場合は、加工速度が100%から0%となる距離の範囲で、レーザ平均出力の出力変化が働く。しかし、係数が2を超えるという状況は、加工速度100%からレーザ平均出力制御を開始してもレーザ平均出力制御に必要な距離が足りず、減速の移動距離がもっと必要ということである。
【0043】
つまり、加減速移動距離L1を延ばす必要があり、言い換えれば、減速度を変更する、具体的には減速の時間を長くする必要があるということである。そこで、発明者は係数が2を超えた場合に、必要な減速度を、以下の式5に示す変更減速度と計算した。なお、レーザ平均出力制御に要す距離は、計算された係数で必要とされる距離であり、XY軸に要す加減速移動距離L1に等しい。
変更減速度=元の速度^2/(2×レーザ平均出力制御に要す距離)・・・(式5)
【0044】
係数が2を超えた場合は、XY軸の減速に要する距離を伸ばし、XY軸の減速開始と同時にレーザ平均出力制御を開始することで、実効距離LXが伸びるため、角部Cnに対する入熱量を減少させることができる。なお、この内容は、減速時のみならず、加速時においても同様であり、加速時における説明は省略する。
【0045】
図4A及び図5Aを見るに、角部Cnに対して特定の距離(上述の実効距離LX)からパルスデューティ及びパルス周波数を変化させることでレーザ平均出力を変化させている。レーザ出力は変化させず、パルスデューティ及びパルス周波数を変化させているのは、平均出力(単位時間当たりのワークWへの入熱量)を少なくする狙いである。一方で、1回の照射で与えるエネルギ量は大きいままにして、ワークWが融解する条件を変化させない意図がある。さらに、パルスデューティ及びパルス周波数の変化のさせ方は、パルス周波数が放物線のような2次関数的な変化をさせ、パルスデューティはハイパボリックタンジェントのような変化をさせるということである。なお、図4A及び図5Aの各曲線はステンレス鋼の条件を例示したものであり、ワークWの材質や板厚の変化に伴って最適化されてよい。
【0046】
発明者らは、種々の係数を乗じた複数の出力制御テーブルを用意し、個々の出力制御テーブルに従ってレーザ平均出力を変化させる実験を種々の角度の角部Cnに対して行った。また、係数が2を超えた場合は、加工ヘッド30の加減速度を変更して加減速に要する距離を伸ばし、レーザ平均出力を変化させる実験を種々の角度の角部Cnに対して行った。そして、発明者らは、係数及び加減速の変更を通じて得られた個々の実効距離LXをその切断結果によって評価した。そうすると、レーザ平均出力の出力変化が必要な距離には、ワークWの材質及び板厚に応じて、ワークへの入熱過多又は入熱不足の抑制に有効な値があることを確認した。この値がレーザ平均出力制御距離L2である。そして、レーザ平均出力制御距離L2に応じて、レーザ平均出力を標準平均出力から変化させることで、ワークへの入熱過多又は入熱不足を効果的に抑制することができる。
【0047】
このように、ワークWの材質及び板厚に応じた最適なレーザ平均出力制御距離L2を利用することで、角部Cnに対する入熱量を最適化することができる。また、発明者らが実験を重ねた結果、ワークWの材質及び板厚に応じて定められるレーザ平均出力制御距離L2の範囲でレーザ平均出力制御を行うことで、角部Cnの角度θの大きさ、加工ヘッドの加速度及び減速度、並びに加工ヘッドの加工速度(標準速度)に拘わらず、加工不良の発生を抑制できることを確認した。
【0048】
したがって、角部Cnの形状、加工ヘッドの加速度及び減速度、並びに標準速度に拘わらず、ワークWの材質及び板厚に応じてレーザ平均出力制御距離L2を定め、そのレーザ平均出力制御距離L2に基づいてレーザ平均出力を変化させる出力制御を行うことで、加工不良の発生を効果的に抑制することができるのである。このレーザ平均出力制御距離L2は、ワークWの材質及び板厚に応じた値であり、レーザ加工機1の機種に応じた固有の値である加減速移動距離L1とは相違する。また、所望のレーザ平均出力制御距離L2が加減速移動距離L1以上必要な係数2を超える場合には、加減速度を変更することで加減速移動距離L1を延長し、レーザ平均出力制御距離L2を維持することができる。本実施形態に係るレーザ加工機1及びレーザ加工機1の制御方法は、ワークWの材質及び板厚に応じたレーザ平均出力制御距離L2という考えに基づいてなされたものである。
【0049】
次に、加減速移動距離L1とレーザ平均出力制御距離L2とに対応し、レーザ平均出力制御を行う際、前述したとおり、区間と区間との間の加工条件の差異が影響する。すなわち、区間と区間との間の加工条件の差異、例えばパルス周波数及びパルスデューティの差異が大きいと、階段状の指令となり切断面(カーフ側面)の状態が急激に変化することになる。これにより、滑らかな切断面を得られない場合がある。この課題に対応するために、区間の数を増やすことが考えられる。
【0050】
図6は、レーザ平均出力に係る制御指令の微細遷移を説明する図である。しかし、いくら区間の数を増やしても、区間と区間との間の加工条件の差異が大きければ階段状の制御指令となることは避けられない。そこで、発明者は区間と区間との間を補間する、要するに、XY軸の加減速度とレーザ平均出力とに係る各パラメータの要求に基づいて、レーザ平均出力の変化の微細遷移を計算する計算部によって、最適化したレーザ平均出力に係る制御指令を決定し制御することにした。
【0051】
これによって、区間と区間との間の加工条件の差異(例えば、パルス周波数やパルスデューティの差異)が大きい場合であっても、階段状の制御指令とならずに切断面(カーフ側面)の状態が急激に変化することを抑制することができる。
【0052】
図7は、減速時のレーザ平均出力に係る制御指令と、加速時のレーザ平均出力に係る制御指令とを説明する図である。さらに、角部Cnに至る減速時のレーザ平均出力に係る制御指令と、角部Cnを通過した後の加速時のレーザ平均出力に係る制御指令と個別に設定することも可能である。例えば、レーザ切断加工では、減速時と加速時とでは、ワークWに入熱され蓄積された熱の伝導できる方向と金属の容積とが異なる。また、角部Cnが鋭角か鈍角かの違いによっても熱のこもる範囲が相違するので、ワークWに入熱され蓄積された熱の伝導できる方向と金属の容積とが異なる。そのため、減速時と加速時とで、レーザ平均出力に係る制御指令の設定を変化させることで、より繊細な制御を行うことも可能である。
【0053】
なお、上述した説明では、切断経路の1つの角部Cnを示したが、角部Cnの数は複数であってよく、この場合、角部Cnのそれぞれにおいてレーザ平均出力制御距離L2を定めることができる。また、レーザ平均出力制御距離L2に応じてレーザ平均出力を変化させる出力制御の概念は、角部Cnを起点として所定距離だけ手前にある地点から加工ヘッド30を減速させるシーンであって、角部Cnを起点として所定距離だけ離れた地点まで、加工ヘッド30を加速させるシーンであっても、それぞれ適用することができる。
【0054】
また、上述の説明によれば、レーザ平均出力制御が行われる加工速度が50%から0%の範囲で移動する距離を実効距離LXとして、これを係数1と暫定的に定めたものである。また式4の0.5もその仮定に準じた定数である。これを一般化した場合、式2及び式4は、それぞれ以下の式6及び式7ようになる。
実効距離LX(mm)=1/2×(加工速度(mm/min)×N(%))^2/加減速度(mm/min^2)・・・(式6)
係数=最大速度割合R÷ N(%)・・・(式7)
【0055】
再び図1及び図2を参照し、第1の実施形態に係るレーザ加工機1の構成について説明する。レーザ加工機1は、レーザビームによってワークWをレーザ切断加工する加工機である。加工対象となるワークWは、シート上の材料であり、代表的には板金である。
【0056】
レーザ加工機1は、レーザ発振器10と、プロセスファイバ12と、レーザ加工ユニット20と、アシストガス供給装置40と、操作表示部50と、制御装置60とを備えている。
【0057】
レーザ発振器10は、レーザビームを生成し、レーザビームを射出する。レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、又はレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。なお、レーザ発振器10は、CO2レーザ発振器であっても構わない。
【0058】
レーザ発振器10は、波長900nm~1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm~1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm~950nmのレーザビームを射出する。
【0059】
プロセスファイバ12は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送する。
【0060】
レーザ加工ユニット20は、プロセスファイバ12によって伝送されたレーザビームを用いて、ワークWを切断する。レーザ加工ユニット20は、ワークWを載せる加工テーブル21と、移動機構22と、加工ヘッド30とを有している。
【0061】
移動機構22は、門型のX軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ24とを含んでいる。X軸キャリッジ23は、加工テーブル21上でX軸方向に沿って移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ24は、X軸キャリッジ23上でX軸に垂直なY軸方向に沿って移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ24は、X軸方向に移動自在のX軸キャリッジ23に設けられている。
【0062】
X軸キャリッジ23及びY軸キャリッジ24は、例えば、サーボモータ、ラック・ピニオン機構などの駆動機構によって駆動され、X軸方向及びY軸方向に移動する。X軸キャリッジ23及びY軸キャリッジ24は、リニアモータによって駆動されてもよく、X軸キャリッジ23及びY軸キャリッジ24を駆動する駆動機構は、レーザ加工機1の機種によって相違してもよい。また、ラック・ピニオン機構の代わりにボールねじとナットの機構であっても構わない。
【0063】
加工ヘッド30は、プロセスファイバ12によって伝送されたレーザビームをワークWに照射する。加工ヘッド30は、プロセスファイバ12の射出端より射出したレーザビームが入射されるコリメータレンズ31と、コリメータレンズ31より射出したレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33とを有している。また、加工ヘッド30は、ベンドミラー33で反射したレーザビームを集束させる集束レンズ34を有している。コリメータレンズ31、ベンドミラー33及び集束レンズ34は、予め光軸が調整された状態で配置されている。
【0064】
加工ヘッド30は、加工ヘッド本体部35を有している。加工ヘッド本体部35の先端には、レーザビームを射出するノズル36が着脱自在に取り付けられている。ノズル36の先端部には、円形の開口が設けられており、集束レンズ34で集束されたレーザビームは、ノズル36の先端部の開口からワークWに照射される。
【0065】
加工ヘッド30は、Y軸方向に移動自在のY軸キャリッジ24に固定されている。よって、加工ヘッド30は、移動機構22を駆動させることにより、ワークWの面に沿って、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ移動することができる。
【0066】
なお、レーザ加工機1は、加工ヘッド30をワークWの面に沿って移動させる構成に代えて、加工ヘッド30の位置を固定したまま、ワークWを移動する構成であってもよい。レーザ加工機1は、ワークWの面に対して加工ヘッド30を相対的に移動させる移動機構を備えていればよい。
【0067】
アシストガス供給装置40は、アシストガスとして窒素、酸素、窒素と酸素との混合気体、又は空気を加工ヘッド30に供給する。ワークWの加工時、アシストガスはノズル36の開口より排出され、ワークWへと吹き付けられる。アシストガスは、ワークWが溶融したカーフ幅内の溶融金属を排出し、又はワークWや切断カーフ(切断溝)やカッティングフロントおよび溶融金属を冷却する。
【0068】
操作表示部50は、制御装置60に対して情報の入力を行うために利用者が操作する操作部と、制御装置60から出力される情報を表示する表示部とが一体に構成されている。利用者は、操作表示部50を操作することで、様々な情報を制御装置60に対して入力することができる。また、利用者は、操作表示部50に表示される情報から、加工条件などを把握することができる。
【0069】
操作表示部50は、操作部と表示部とが別体に構成されていてもよい。また、操作部は、別に設置された図示していないコンピュータによって生成された所定のデータを、通信により制御装置60に入力する構成でもよい。
【0070】
制御装置60は、レーザ加工機1の各部を制御する装置である。制御装置60は、例えばNC(数値制御(Numerical Control))装置などのコンピュータである。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサと、メモリと、各種のインターフェースとを主体に構成されている。メモリ、各種のインターフェースは、バスを介してハードウェアプロセッサに接続されている。
【0071】
コンピュータには、所定のコンピュータプログラムがインストールされている。ハードウェアプロセッサがコンピュータプログラムを実行することにより、コンピュータは、後述する様に、制御装置60が備える複数の情報処理回路として機能する。
【0072】
制御装置60には、各種のデータベースが接続されている。
【0073】
加工プログラムデータベース(加工プログラムDB)71は、種々のワークWの加工に必要な加工プログラムを格納している。
【0074】
加工条件データベース(加工条件DB)72は、ワークWとして利用される材料の材質及び板厚毎に、その材料を加工するための加工条件を格納している。加工条件には、ワークWをレーザビームによって切断するときの加工ヘッド30の加工速度、加工ヘッド30からワークWに照射されるレーザビームのレーザ平均出力が含まれている。レーザ平均出力は、レーザ発振器10のレーザ出力(レーザパワー)、パルス周波数、及びパルスデューティによって構成される。加工条件選択部62によって選択される加工速度及びレーザ平均出力は、加工速度の標準値である標準速度、及びレーザ平均出力の標準値である標準平均出力に相当する。加工条件には、加工速度及びレーザ平均出力以外にも、アシストガスの種類及び圧力、集束レンズ34の焦点距離などが含まれる。
【0075】
出力制御距離データベース(出力制御距離DB)73は、ワークWとして利用される材料の材質及び板厚毎に、レーザ平均出力制御距離L2を格納している。図8は、出力制御距離DBに格納されるデータの一例を示す図である。例えば、出力制御距離DB73は、材料の材質毎に、板厚とレーザ平均出力制御距離L2との対応関係を示すデータを格納している。材料の材質及び板厚に対応付けられるレーザ平均出力制御距離L2は、予め実験又はシミュレーションを通じて取得されている。図8において、線A1は、本実施形態に係るレーザ平均出力制御を行ったときの効果が最も顕著に現れる板厚とレーザ平均出力制御距離L2との対応関係を示している。ただし、線A1に規定される板厚毎のレーザ平均出力制御距離L2を50%増とした線A2と、線A1に規定される板厚毎のレーザ平均出力制御距離L2を50%減とした線A3との範囲においても、本実施形態に係るレーザ平均出力制御の効果が発生することが、実験結果より明らかとなっている。したがって、板厚毎のレーザ平均出力制御距離L2は、線A2と線A3との範囲から選択されればよい。
【0076】
なお、出力制御距離DB73に格納されるレーザ平均出力制御距離L2と、加工条件DB72に格納される加工条件は、対応する材質及び板厚同士で相互に紐付けられている。また、出力制御距離DB73は、材質及び板厚の他、アシストガスの種類と対応付けてレーザ平均出力制御距離L2を格納してもよい。
【0077】
出力制御テーブルデータベース(出力制御テーブルDB)74は、ワークWとして利用される材料の材質及び板厚毎に、出力制御テーブルを格納している。図4A及び4Bに示すように、出力制御テーブルは、加工速度とレーザ平均出力との対応関係を規定するテーブルである。出力制御テーブルに記述される加工速度は、標準速度に対して所定の割合A(A<100%)だけ減速した加工速度が、標準速度に対する割合(速度割合)として表されている。同様に、出力制御テーブルに記述されるレーザ平均出力は、標準平均出力に対して所定の割合B(B<100%)だけ減少させたレーザ平均出力が、標準平均出力に対する割合(出力割合)として表されている。出力制御テーブルは、例えば次のように作成される。具体的には、ワークWとして利用される材料の材質及び板厚毎に、加工速度、パルス周波数、及びパルスデューティをそれぞれ相違させながら、材料を直線切断する。そして、加工速度別に、加工不良の発生が最も小さくなるレーザ平均出力(具体的には、パルス周波数、及びパルスデューティ)の最適条件を求めることで、出力制御テーブルが作成される。なお、出力制御テーブルDB74に格納される出力制御テーブルと、加工条件DB72に格納される加工条件は、対応する材質及び板厚同士で相互に紐付けられている。また、出力制御距離DB73は、材質及び板厚の他、アシストガスの種類と対応付けて出力制御テーブルを格納してもよい。
【0078】
図1に示すように、制御装置60は、複数の情報処理回路として、加工プログラム選択部61、加工条件選択部62、パラメータ決定部63、加工速度制御部64、レーザ平均出力制御部65、及びアシストガス制御部66を有している。
【0079】
加工プログラム選択部61は、加工プログラムDB71から、ワークWの加工に必要な加工プログラムを選択する。
【0080】
加工条件選択部62は、加工条件DB72から、加工プログラム選択部61が選択した加工プログラムに記載される情報に従って、ワークWの材質及び板厚に対応する加工条件を選択する。この加工条件の選択により、レーザ平均出力の標準値である標準平均出力と、加工ヘッド30の加工速度の標準値である標準速度が選択される。
【0081】
パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚に基づいて、レーザ平均出力制御に必要なレーザ平均出力制御距離L2を決定する。また、パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚に基づいて、ワークWの加工に利用する出力制御テーブルを決定する。
【0082】
加工速度制御部64は、加工プログラム選択部61が選択した加工プログラム、及び加工条件選択部62が選択した加工条件に基づいて移動機構22を制御する。加工速度制御部64は、移動機構22を制御することで、加工ヘッド30を切断経路に沿って移動させるとともに、切断経路に沿って移動する加工ヘッド30の加工速度を制御する。本実施形態との関係において、加工速度制御部64は、切断経路上の角部Cnへと加工ヘッド30が到達するときに加工ヘッド30を最小速度(ゼロ)まで減速させ、角部Cnへと到達した後に加工ヘッド30を標準速度まで加速させる加減速度制御を行う。
【0083】
レーザ平均出力制御部65は、加工プログラム選択部61が選択した加工プログラム、及び加工条件選択部62が選択した加工条件に基づいてレーザ発振器10を制御する。レーザ平均出力制御部65は、レーザ発振器10を制御することで、加工ヘッド30からワークWに照射されるレーザビームLBのレーザ平均出力を制御する。本実施形態との関係において、レーザ平均出力制御部65は、切断経路における加工ヘッド30と角部Cnとの距離がレーザ平均出力制御距離L2以下である場合に、レーザ平均出力を標準平均出力から変化(減少)させるレーザ平均出力制御を行う。
【0084】
アシストガス制御部66は、加工プログラム選択部61が選択した加工プログラム、及び加工条件選択部62が選択した加工条件に基づいてアシストガス供給装置40を制御する。アシストガス制御部66は、アシストガス供給装置40を制御することで、加工ヘッド30に供給されるアシストガスの圧力を制御する。
【0085】
図9は、第1の実施形態に係るレーザ加工機の制御方法を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、制御装置60によって実行される。
【0086】
まず、ステップS10において、加工プログラム選択部61は、加工プログラムDB71からワークWの加工に必要な加工プログラムを選択する。
【0087】
ステップS11において、加工条件選択部62は、加工プログラム選択部61が選択した加工プログラムに記載される情報に基づいて、加工条件DB72から、ワークWの材質及び板厚に対応する加工条件を選択する。
【0088】
ステップS12において、加工条件選択部62は、選択した加工条件に基づいて、標準平均出力及び標準速度を選択する。
【0089】
また、パラメータ決定部63は、出力制御距離DB73を検索し、選択した加工条件に紐付けられたレーザ平均出力制御距離L2を決定する。パラメータ決定部63は、出力制御テーブルDB74を検索し、加工条件に紐付けられた出力制御テーブルを決定する。
【0090】
ステップS13において、パラメータ決定部63は、標準速度から、角部Cnにおいてとるべき最小速度(ゼロ)まで加工ヘッド30が減速するために必要な距離を加減速移動距離L1として算出する。パラメータ決定部63は、移動機構22に設定されている加減速度の標準値と、標準速度とに基づいて、加減速移動距離L1を算出する。
【0091】
また、パラメータ決定部63は、出力制御テーブルを参照し、出力制御テーブルに従った場合にレーザ平均出力の出力変化が働くテーブル作用距離L3を算出する。例えば、図4A及び図4Bに示す出力制御テーブルでは、レーザ平均出力の出力変化が働き出す加工速度は、標準速度に対して50%の加工速度となる。この場合、パラメータ決定部63は、標準速度に対して50%となる加工速度から、角部Cnにおける最小速度まで加工ヘッド30が減速するのに必要な距離を算出する。そして、パラメータ決定部63は、算出した距離をテーブル作用距離L3として決定する。
【0092】
ステップS14において、レーザ平均出力制御部65は、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2以上であるか否かを判断する。テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2以上である場合、ステップS15の処理に進み、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2未満である場合、ステップS16の処理に進む。
【0093】
ステップS15において、レーザ平均出力制御部65は、パラメータ決定部63が決定した出力制御テーブルを補正する第1の出力制御テーブル補正処理を行う。図10Aは、加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離との関係を示す図である。図10Bは、パラメータ決定部が決定した出力制御テーブルを示す図である。図10Cは、係数により補正した補正後の出力制御テーブルを示す図である。
【0094】
図10Bに示す出力制御テーブルでは、加工速度が50%未満となる範囲において、レーザ平均出力の出力変化が働く。一方で、レーザ加工機1の機種によっては、移動機構22における加減速度の標準値が小さいことがある。そのため、出力制御テーブルに応じたテーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2よりも大きくなってしまうことがある(図10A参照)。この場合、角部Cnからレーザ平均出力制御距離L2よりも遠い位置を加工ヘッド30が移動するときに、レーザ平均出力の出力変化が働いてしまう。そこで、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力の出力変化が働く範囲の加工速度(0%~50%)に対して、1未満となる所定の係数を乗じ、係数を乗じた後の加工速度によって出力制御テーブルを補正する。具体的には、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力制御距離L2をテーブル作用距離L3で除算した値を係数として、この係数によって出力制御テーブルを補正する。これにより、図10Cに示すように、補正された出力制御テーブルでは、レーザ平均出力の出力変化が働き始める加工速度が相対的に小さくなるので、補正後の出力制御テーブルから導かれるテーブル作用距離L3をレーザ平均出力制御距離L2と一致させることができる。
【0095】
ステップS16において、レーザ平均出力制御部65は、パラメータ決定部63が決定した出力制御テーブルを補正する第2の出力制御テーブル補正処理を行う。図11Aは、加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離との関係を示す図である。図11Bは、パラメータ決定部が決定した出力制御テーブルを示す図である。図11Cは、係数により補正した補正後の出力制御テーブルを示す図である。
【0096】
図11Bに示す出力制御テーブルでは、加工速度が50%未満となる範囲において、レーザ平均出力の出力変化が働く。一方で、レーザ加工機1の機種によっては、移動機構22における加減速度の標準値が大きいことがある。そのため、出力制御テーブルに応じたテーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2よりも小さくなってしまうことがある(図11A参照)。この場合、角部Cnからレーザ平均出力制御距離L2の範囲を加工ヘッド30が移動しているにも係わらず、レーザ平均出力の出力変化が働かないという事態が発生する。そこで、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力の出力変化が働く範囲の加工速度(0%~50%)に対して、1よりも大きい所定の係数を乗じ、係数を乗じた後の加工速度によって出力制御テーブルを補正する。具体的には、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力制御距離L2をテーブル作用距離L3で除算した値を係数として、この係数によって出力制御テーブルを補正する。これにより、図11Cに示すように、補正された出力制御テーブルでは、レーザ平均出力の出力変化が働き始める加工速度が相対的に大きくなるので、補正後の出力制御テーブルから導かれるテーブル作用距離L3とレーザ平均出力制御距離L2とを一致させることができる。なお、本実施形態の出力制御テーブルでは、レーザ平均出力の出力変化が働くのが加工速度の50%未満となる範囲を例示しているので、係数の上限は最大でも2である。
【0097】
ステップS17において、レーザ平均出力制御部65は、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2以上であるか否かを判断する。ステップS17の判断は、第2の出力制御テーブル補正処理により補正された出力制御テーブルから定められるテーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2に到達したか否かを判断するために行われる。テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2以上である場合、ステップS19の処理に進み、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2未満である場合、ステップS18の処理に進む。
【0098】
ステップS18において、レーザ平均出力制御部65は、移動機構22の加減速度を、その標準値から補正する加減速補正処理を行う。図12Aは、加減速補正処理前における加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離との関係を示す図である。図12Bは、加減速補正処理後おける加減速移動距離、レーザ平均出力制御距離、テーブル作用距離との関係を示す図である。
【0099】
ステップS16の第2の出力制御テーブル補正処理を行うことで、テーブル作用距離L3の範囲を拡大することができる。しかしながら、図12Aに示すように、第2の出力制御テーブル補正処理は、係数2、すなわち、加減速移動距離L1の範囲内でしか、テーブル作用距離L3を拡大することができない。そこで、レーザ平均出力制御部65は、移動機構22の加減速度の標準値に1未満の係数を乗じることで移動機構22の加減速度を補正し、移動機構22による加工ヘッド30の加減速度の絶対値を小さくすることできる。その結果、加減速移動距離L1、ひいてはテーブル作用距離L3を延ばすことできる。これにより、図12Bに示すように、テーブル作用距離L3とレーザ平均出力制御距離L2とを一致させることができる。加減速補正処理を行うと、ステップS19に進む。
【0100】
ステップS19において、加工速度制御部64、レーザ平均出力制御部65及びアシストガス制御部66は、加工プログラム及び加工条件に従って切断加工を開始する。
【0101】
ステップS20において、レーザ平均出力制御部65は、切断経路における角部Cnと加工ヘッド30との距離がレーザ平均出力制御距離L2以下であるか否を判断する。角部Cnと加工ヘッド30との距離がレーザ平均出力制御距離L2以下である場合には、ステップS21の処理に進み、角部Cnと加工ヘッド30との距離がレーザ平均出力制御距離L2よりも大きい場合には、ステップS22の処理に進む。
【0102】
ステップS21において、レーザ平均出力制御部65は、加工ヘッド30の加工速度を監視する。そして、レーザ平均出力制御部65は、加工ヘッド30の加工速度に応じてレーザ発振器10を制御して、レーザ平均出力、具体的にはパルスデューティ及びパルス周波数を変化させる(レーザ平均出力制御)。この制御において、レーザ平均出力制御部65は、出力制御テーブルを参照することで、そのときの加工ヘッド30の加工速度(区間)に応じて、目標となるパルスデューティ及びパルス周波数を特定することができる。
【0103】
なお、図6に示すように、区間と区間との間の加工条件の差異が大きい場合、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力の変化の微細遷移を計算する(計算部)。そして、レーザ平均出力制御部65は、計算結果に基づいて、階段状の制御指令とならないように最適化したレーザ平均出力に係る制御指令を決定し、決定した制御指令に基づいて、パルスデューティ及びパルス周波数を制御する。
【0104】
また、上述の説明では、出力制御テーブルDB74に格納される出力制御テーブルは、角部Cnに至る減速時と、角部Cnを通過した後の加速時とで共通している。しかしながら、角部Cnに至る減速時に対応する出力制御テーブルと、角部Cnを通過した後の加速時に対応する出力制御テーブルとをそれぞれ格納していてもよい。これにより、レーザ平均出力制御部65は、角部Cnに至る減速時と、角部Cnを通過した後の加速時とで出力制御テーブルを使い分けることができる。これにより、図7に示すように、レーザ平均出力制御部65は、減速時と加速時とで、レーザ平均出力に係る制御指令の設定を変化させることができるので、より繊細な制御を行うことができる。
【0105】
図9に示すように、ステップS22において、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力の通常制御を行う。具体的には、レーザ平均出力制御部65は、標準平均出力に基づいてレーザ発振器10を制御して、レーザ平均出力を制御する。
【0106】
ステップS23は、レーザ平均出力制御部65は、切断加工が終了したか否かを判断する。切断加工が終了していない場合には、ステップS20の処理に戻り、レーザ切断加工が終了した場合には、本処理を終了する。
【0107】
このように本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、切断経路における角部Cnと加工ヘッド30との距離がレーザ平均出力制御距離L2以下である場合に、レーザ平均出力を標準平均出力から変化させるレーザ平均出力制御を行っている。これにより、ワークWの材質及び板厚に応じた距離(レーザ平均出力制御距離L2)の範囲で出力制御を行うことができる。加工ヘッド30が角部Cnに到達するとき、又は加工ヘッド30が角部Cnから離れるときの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。その結果、角部Cnの角度θの大きさ、加工ヘッド30の加速度及び減速度、並びに標準速度に関係なく、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0108】
すなわち、本実施形態に係るレーザ加工機1によれば、角部Cnの角度θの大きさ、加工ヘッド30の加速度及び減速度、並びに標準速度に関係なく、レーザ平均出力制御距離L2の範囲でレーザ平均出力が変化するように、加工プログラム及び加工条件に対して補正をかけることができる。これにより、複数の機種のレーザ加工機1で同一の加工プログラムを使い回すような場合であっても、機種の違いに拘わらず、ワークWの材質及び板厚に応じた距離(レーザ平均出力制御距離L2)の範囲で出力制御を行うことができる。これにより、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0109】
また、本実施形態において、加工速度制御部64は、移動機構22が加工ヘッド30を減速及び加速する際の加減速度を、加減速度の標準値から変更することで、標準速度から角部Cnにおける加工速度まで減速するのに必要な加減速移動距離L1を調整している。これにより、加減速移動距離L1がレーザ平均出力制御距離L2よりも短いような場合であっても、加減速移動距離L1を延ばすことできるので、レーザ平均出力制御距離L2の範囲内でレーザ平均出力を適切に変化させることができる。したがって、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0110】
図13は、角穴のレーザ切断加工を説明する図である。ワークWの材質及び板厚に応じたレーザ平均出力制御距離L2に基づいてレーザ平均出力を変化させる出力制御を用い、ワークWに対して角穴を加工した。角穴の形状を評価するため、角部Cn近傍、及び中央部のそれぞれで、角穴の幅D1、D2を比較した。この比較によれば、角部Cn近傍の幅D1と、中央部の幅D2との差が小さく、角穴の形状を精度よく加工できることが確認できた。上述したように、レーザ平均出力制御距離L2に基づいてレーザ平均出力を変化させる出力制御を行うことで、角部Cnの入熱量を最適化することができる。この出力制御により、加工不良の抑制効果のみならず、角部Cnの形状不良について抑制でき、加工精度の向上という効果を得ることができる。
【0111】
図3に示すように、本実施形態に係るレーザ平均出力制御部65は、角部Cnに近づく加工ヘッド30が、角部Cnに対してレーザ平均出力制御距離L2だけ手前に位置する第1制御点P21から角部Cnへと至る間に、レーザ平均出力を標準平均出力から減少させる第1出力制御を行う。また、レーザ平均出力制御部65は、角部Cnから離れる加工ヘッド30が、角部Cnから、角部Cnに対してレーザ平均出力制御距離L2だけ離れた第2制御点P22へと至る間に、レーザ平均出力を標準平均出力に向けて増加させる第2出力制御を行う。これにより、加工ヘッド30が角部Cnに近づくときの入熱量、及び加工ヘッド30が角部Cnから離れるときの入熱量をそれぞれ最適化することができる。これにより、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0112】
本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、加工ヘッド30の加工速度を監視し、出力制御テーブルに基づいて、加工ヘッド30の加工速度に応じたレーザ平均出力を特定することで、レーザ平均出力制御を行っている。このため、レーザ加工機1の機種に係わらず、レーザ平均出力制御距離L2内におけるレーザ平均出力の出力変化を同じにすることができる。これにより、角部Cnに対する入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0113】
本実施形態において、パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚の組み合わせ毎に紐付けられた複数のレーザ平均出力制御距離L2を格納する出力制御距離DB73を参照し、ワークWの材質及び板厚に対応するレーザ平均出力制御距離L2を決定している。このため、パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚に対応するレーザ平均出力制御距離L2を適切に決定することができる。
【0114】
本実施形態において、パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚の組み合わせ毎に紐付けられた複数の出力制御テーブルを格納する出力制御テーブルDB74を参照し、ワークWの材質及び板厚に対応する出力制御テーブルを決定している。レーザ平均出力制御部65は、パラメータ決定部63が決定した出力制御テーブルに基づいて出力制御を行っている。この構成によれば、パラメータ決定部63は、ワークWの材質及び板厚に対応する出力制御テーブルを適切に決定することができる。このため、ワークWの材質及び板厚に対して、レーザ平均出力制御距離L2内におけるレーザ平均出力の出力変化を最適化することができる。これにより、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0115】
本実施形態において、パラメータ決定部63は、加減速度の標準値と、出力制御テーブルにおいてレーザ平均出力の出力変化が働き出す加工速度とに基づいて、出力制御テーブルに従った場合にレーザ平均出力の出力変化が働くテーブル作用距離L3を算出する。レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力制御距離L2と、テーブル作用距離L3とを比較して出力制御の実行モードを決定している。これにより、レーザ加工機1にとって最適な実行モードを用いて出力制御を行うことができる。したがって、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0116】
本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2以上の場合、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2まで減少するように、出力制御テーブルを補正している(第1の出力テーブル補正処理)。そして、レーザ平均出力制御部65は、補正した出力制御テーブルに基づいて、出力制御を行っている。これにより、レーザ平均出力制御距離L2の範囲内でレーザ平均出力を適切に変化させることができる。したがって、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0117】
本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2よりも小さい場合、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2まで増加するように、出力制御テーブルを補正している。そして、レーザ平均出力制御部65は、補正した出力制御テーブルに基づいて、出力制御を行っている。これにより、レーザ平均出力制御距離L2の範囲内でレーザ平均出力を適切に変化させることができる。したがって、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0118】
本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、出力制御テーブルを補正しても、テーブル作用距離L3がレーザ平均出力制御距離L2よりも小さい場合には、加減速移動距離L1を変更している。これにより、加減速移動距離L1がレーザ平均出力制御距離L2よりも短いような機種であっても、加減速移動距離L1を延ばすことできる。テーブル作用距離L3とレーザ平均出力制御距離L2とを一致させることができるので、レーザ平均出力制御距離L2の範囲内でレーザ平均出力を適切に変化させることができる。したがって、角部Cnの入熱量を最適化することができるので、加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0119】
本実施形態において、出力制御テーブルには、速度割合を定義する区間が3つ以上規定されている。このため、レーザ平均出力制御距離L2の範囲において、レーザ平均出力の出力変化が生じる変曲点の数を増やすことができる。これにより、レーザ平均出力の出力変化をきめ細かく行うことができるので、角部Cnの入熱量を最適化することができる。
【0120】
本実施形態において、レーザ平均出力制御部65は、レーザ平均出力の変化の微細遷移を計算し、区間毎に階段状の制御指令とならないように最適化した前記レーザ平均出力に係る制御指令を決定してもよい。この構成によれば、切断面(カーフ側面)の状態が急激に変化することを抑制することができるので、滑らかな切断面を得ることができる。
【0121】
本実施形態において、出力制御テーブルは、加工ヘッド30が角部Cnに至る減速時に対応する出力制御テーブルと、加工ヘッド30が角部Cnを通過した後の加速時に対応する出力制御テーブルと含んでもよい。これにより、減速時と加速時とで、レーザ平均出力に係る制御指令の設定を変化させることができるので、より繊細な制御を行うことが可能となる。
【0122】
本実施形態では、レーザ平均出力制御距離L2に基づいてレーザ平均出力を変化させる出力制御を、角部Cnのレーザ切断加工に対して適用し、角部Cnにおいてとるべき加工ヘッドの加工速度をゼロとして説明した。しかしながら、レーザ切断加工を実際に場合、角部Cnの角度θによっては、加工品質に影響がない範囲で、角部Cnで円弧を描くように加工ヘッド30を移動させる場合がある。この場合、角部Cnにおける加工ヘッド30の加工速度はゼロよりも大きな値となる。しかしながら、本実施形態に係る出力制御は、角部Cnにおいて最小速度をとるように減速及び加速する加工態様に対して広く適用することができ、最小速度はゼロであることに限定されない。
【0123】
また、本実施形態では、直線と直線との組み合わせからなる切断経路(角部Cnを含む切断経路)での加減速制御に対応して、レーザ平均出力を変化させる出力制御を説明した。しかしながら、本実施形態の出力制御は、加工ヘッド30を減速させながら基準点まで移動させ、基準点へと到達した後に加工ヘッド30を加速させる加減速制御を行うような切断加工に対して広く適用することできる。例えば、円弧から直線へと至る切断経路、円弧から円弧へと至る切断経路のように、減速及び加速を伴う加減速制御が発生する切断加工に適用可能である。また、加工ヘッド30が減速しながら到達する基準点と、加工ヘッド30が加速を開始する基準点とは、切断経路上において一致する点であっても、加工ヘッド30が最小速度で一定の距離だけ移動する場合のように、一定の距離だけ離れた点同士であってもよい。
【0124】
図14は、長穴のレーザ切断加工を説明する図である。一般的に、円弧部分の加工は指定された円弧補間を指令通りにレーザビームが移動するようにXY軸の各軸速度が変化する。このとき、小さな半径の円弧補間と、大きな半径の円弧補間との合成された切断速度を比較すれば、大きな半径の円弧補間の方が直線補間の切断速度に近い。本実施形態において、ワークWの材質及び板厚に応じたレーザ平均出力制御距離L2に基づいてレーザ平均出力を変化させる出力制御を用い、ワークWに対して長穴を加工した。具体的には、直線補間から円弧補間に制御が遷移する基準点の手前でレーザ平均出力制御が働き、円弧補間から直線補間に制御が遷移する基準点を超えてレーザ平均出力制御が働く。その他に、円弧補間中は、レーザビームが移動する各軸の速度が常に変化し、極点で軸の正転又は逆転が入れ替わるので、円弧補間中は常にそれぞれの基準点(極点)の前後でレーザ平均出力制御が働く。つまり、各軸の加速時又は減速時にレーザ平均出力制御が機能する。
【0125】
レーザ平均出力制御が機能した結果を、長穴の形状を用いて評価するため、円弧部分の直径D3と、直線部分の幅D4とを比較した。この比較によれば、円弧部分の直径D3と、直線部分の幅D4との差が小さく、長穴の形状を精度よく加工できることが確認できた。また、円弧部分Ptにおける加工不良の発生を評価したところ、加工不良の発生が効果的に抑制されていることが確認された。このように、角部Cn以外であっても、減速及び加速を伴う加減速制御が発生する切断加工であれば、本実施形態に係る出力制御を行うことで、加減速制御が生じる部分における入熱量を最適化することができる。これにより、加工不良の発生を抑制することができ、併せて加工精度を向上させることができた。
【0126】
このように、本実施形態によれば、加工ヘッドを減速させる減速時、又は加工ヘッドを加速する加速時におけるレーザビームの出力パラメータやそれに係わるその他のパラメータを適切に制御することができる。これにより、レーザビームの移動区間におけるワークへの入熱過多又は入熱不足に起因する加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0127】
加えて、本発明者は、本実施形態に係るレーザ平均出力制御が、レーザ加工の一つであるレーザマーキング加工についても効果的に機能することを確認した。レーザマーキング加工がレーザ切断加工と異なる点は、ワークWを貫通せずに底を残して掘る加工ということである。本実施形態に係るレーザ加工の課題は、加工ヘッド30を一定の速度から減速させる減速時、又は加工ヘッド30を一定の速度まで加速させる加速時における、ワークWへの入熱過多又は入熱不足に起因する加工不良の発生を効果的に抑制することであり、この課題はレーザマーキング加工にも共通する。
【0128】
レーザマーキングでのワークへの入熱過多や入熱不足に起因する切断不良とは、レーザビームによるワーク表面の焼け(酸化皮膜の状態)として褐色化又は黒色化、若しくはマーキング深さの不均一さである。
【0129】
レーザマーキング加工においては、材料表面の焼けは、角部を中心に、角部を曲がる前と、角部を曲がった後とでほぼ対称に発生する。一方、レーザ切断加工における材料表面の焼けは、角部を曲がる前の切断面よりも、角部を曲がった後の切断面に焼けが発生しやすい。レーザ切断加工においては、角部を曲がった後の加速時には、熱が拡散できるワークの容積が小さくなる可能性があるからである。また、角部を曲がった直後は直線時の適切なカッティングフロントとは異なるカッティングフロントになっており、アシストガスの流れが不適切になり、アシストガスの冷却効果、ドロスの排出が適切になされていない可能性があるからである。
【0130】
このように、レーザ切断加工と、レーザマーキング加工とでは材料表面の焼けが現れる部位が相違するものの、この違いは加工形態の相違に伴うものであり、材料表面の焼けという加工不良は、いずれのレーザ加工においても加減速時に適切な出力制御ができていないことに起因している。
【0131】
そして、マーキング加工についてもレーザ平均出力制御を適用する実験を行い、角部、円弧部を含む種々の形状について加工品質を確認した。その実験結果よれば、鋭角、直角及び鈍角といった角部の種類に限らず、また角部以外の円弧部といった形状についても、ワーク表面の焼け(酸化皮膜の状態)が発生しづらく、マーキング深さの均一化が図れることが確認された。
【0132】
このように、加工ヘッド30の加速時又は減速時にレーザ平均出力制御が機能することで、ワークWへの入熱過多又は入熱不足が発生しづらくなる。これにより、材料表面の焼け(酸化皮膜の状態)の発生を抑制し、マーキング深さの均一化を図ることができるので、レーザマーキング加工においても加工不良の発生を抑制することができる。
【0133】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るレーザ加工機及びレーザ加工機の制御方法について説明する。ワークWの熱量を制御すると考えた場合、レーザビームによる入熱以外にも、加工ヘッド30から排出されるアシストガスによる放熱(冷却)も考慮する必要がある。第1の実施形態では、ワークWの材質及び板厚が同じであれば、レーザ発振器1の出力、すなわちレーザ出力(レーザパワー)が異なってもワークWに供給されるアシストガス流量は同じとしている。そのため、第1の実施形態では、レーザ出力(レーザパワー)に違いがあっても、アシストガスによる放熱の影響を無視することができた。
【0134】
ところで、発明者が研究を重ねたところ、板厚が所定値以上となる厚板を直線加工する場合、同一の板厚であっても、高レーザ出力による加工では、低レーザ出力の場合と比べて加工速度を向上させることができることが分かった。また、加工速度が速くなると、それに伴ってアシストガス流量を増加させないと、入熱過多に起因する加工不良が発生することが判明した。これは、加工速度が速い程、単位距離あたりに供給されるアシストガスの量が少なくなることに起因していると考えられる。つまり、レーザビームによる入熱に対して、冷却に必要なアシストガス流量が不足し、入熱過多な状態となってしまう。そこで、加工速度が速くなる程アシストガス流量を増加させることで、単位距離あたりに供給されるアシストガス量を概ね一定にすることができる。これにより、ワークWへの入熱過多に起因する加工不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0135】
なお、アシストガス流量は、ノズル36のノズル径、ノズル36とワークWとの間の距離であるノズルギャップ、加工ヘッド30内のアシストガス圧に依存する。以下の説明では、ノズル径を変更することによりアシストガス流量を変更するものとする。また、レーザ加工の対象となるワークは主として板金である。レーザ加工の分野においては、例えば板厚が6mm以上の板金を厚板と定義することができるが、これに限定されるものではない。
【0136】
図15は、厚板の直線切断時におけるノズル径とワークの熱量との関係を示す図である。同図において、円Ca1はワークWの熱量を概念的に示している。円Ca1の径が大きいほど入熱過多であることを示し、円Ca1の径が小さいほど入熱不足であることを示している。なお、円Ca2は、入熱と放熱とのバランスが保たれている状態を示している。円Ntは、ノズル36のノズル径を示している。
【0137】
低レーザ出力の場合には加工速度が遅いため、小さいノズル径を用いることで入熱と放熱とのバランスを保つことができる(状態a)。一方、高レーザ出力の場合には加工速度が速くなる。そのため、小さいノズル径の場合には、単位距離あたりのアシストガスの供給量が少なくなり、入熱過多となる(状態b)。一方、低レーザ出力で加工速度が遅い状態で、ノズル径が大きくなると、単位距離あたりのアシストガスの供給量が多くなり、入熱不足となる(状態c)。ところが、高レーザ出力で加工速度が速い場合に、ノズル径を大きくすると熱量バランスが適正となる(状態d)。
【0138】
図16は、厚板の角部切断時におけるノズル径とワークの熱量との関係を示す図である。同図において、円Cc1は角部Cnにおける熱量を概念的に示している。円Cc1の径が大きいほど入熱過多であることを示し、円Cc1の径が小さいほど入熱不足であることを示している。なお、円Cc2は、入熱と放熱とのバランスが保たれている状態を示している。円Ntは、ノズル36のノズル径を示している。
【0139】
図16の状態a2は、図15の状態aと同じ加工条件を用いて厚板の角部を切断した状態を示している。すなわち、図16の状態a2は、低レーザ出力で加工速度が遅い場合の直線切断において入熱と放熱のバランスを保つことができる、小さなノズル径のノズル36を用いた角部の切断の状態を示している。ノズル径の小さなノズル36を用いた加工では、減速中及び加速中の冷却範囲が狭いため、角部Cnを曲がる前後に、角部Cnに必要な熱量が保たれている。
【0140】
一方、図16の状態d2は、図15の状態dと同じ加工条件を用いて厚板の角部を切断した状態を示している。すなわち、図16の状態d2は、高レーザ出力で加工速度が速い場合の直線切断において入熱と放熱のバランスを保つことができる、大きなノズル径のノズル36を用いた角部の切断の状態を示している。ノズル径の大きなノズル36を用いた加工の場合、減速中と加速中に広範囲を冷却し続けるため、角部Cnを曲がる前後に冷却過多になり、角部Cnに必要な熱量を保つことができない。また、角部Cnを加工する際には減速中及び加速中の過渡状態が発生する。ノズル径が異なっているにも拘わらず、減速中及び加速中の過渡状態においては同じ加工速度の状態が発生する。そのため、ノズル径が大きい程、アシストガスによる冷却の影響が強く現れ、角部Cnに必要な熱量を保つことができない。
【0141】
このように、ノズル径が相違する場合においては、ワークWの放熱量の違いを加味する必要がある。そこで、本実施形態では、ノズル径に応じてレーザ平均出力制御距離L2を調整することで、調整後レーザ平均出力制御距離L4を新たに定めることとした。調整後レーザ平均出力制御距離L4は、調整前のレーザ平均出力制御距離L2と比べて、ノズル径が大きくなるにつれて短くなる関係を有している。すなわち、冷却作用が強まる場面ではレーザ平均出力制御が行われる範囲を狭くすることで、ワークWへの入熱量を多くすることができる。これにより、入熱不足を防ぐことができ、加工品質の低下を抑制することができるのである。
【0142】
図17は、高レーザ出力且つ大径ノズルを用いた厚板の加工の概要を示す図である。例えば、レーザ出力は9000W、ノズル径は2.5mmである。図17の状態e1から状態e4は、第1の実施形態に示すレーザ平均出力制御距離L2にしたがって、レーザ平均出力制御を行うときの加工の概要を示している。図17の状態f1から状態f4は、調整後レーザ平均出力制御距離L4にしたがって、レーザ平均出力制御を行うときの加工の概要を示している。
【0143】
図17の状態e1に示すように、レーザビームが、角部Cnを起点としてレーザ平均出力制御距離L2だけ手前にある地点を通過すると、レーザ平均出力制御が開始され、加工ヘッド30の減速に応じてレーザ平均出力が低下させられる。これにより、ワークWへの入熱量が低下する。状態e2に示すように、レーザビームが角部Cnに近づくと、レーザ平均出力が低下しているので、入熱不足傾向となる。
【0144】
このような状態は、角部Cnから加速する状況でも同じである。すなわち、角部Cnからレーザビームが加速すると、レーザ平均出力も徐々に増加する。しかしながら、角部Cnからレーザ平均距離L2だけ離れた地点にレーザビームが到達するまでは、レーザ平均出力が100%よりも低下している。よって、状態e3に示すように、ワークWへの入熱量が不足傾向となる。そして、状態e4に示すように、レーザビームが角部Cnからレーザ平均距離L2だけ離れた地点を過ぎると、レーザ平均出力が100%に保たれる。このように、レーザ平均出力制御距離L2を調整しない場合には、角部Cnの加工にいて入熱不足が発生する。
【0145】
次に、調整後レーザ平均出力制御距離L4にしたがってレーザ平均出力制御を行う状況を説明する。状態f1で示すように、角部Cnを起点としてレーザ平均出力制御距離L2だけ手前にある地点をレーザビームが通過しても、レーザ平均出力制御は開始されない。よって、調整後レーザ平均出力制御距離L4まではレーザ平均出力は100%が維持される。状態f2で示すように、レーザビームが、角部Cnから調整後レーザ平均出力制御距離L4だけ手前にある地点を通過すると、レーザ平均出力制御が開始され、加工ヘッド30の減速に応じてレーザ平均出力が低下させられる。このため、角部Cnに至る狭い範囲においてレーザ平均出力が低下するので、必要な熱量が保たれている。
【0146】
このような状態は、角部Cnから加速する状況でも同じである。すなわち、角部Cnから加工ヘッド30が加速を開始すると、レーザ平均出力も徐々に増加する。このとき、角部Cnから調整後レーザ平均出力制御距離L4だけ離れた地点に至るまでの間に、レーザ平均出力が100%まで増加する。これにより、状態f3で示すように、ワークWに必要な熱量が保たれている。また、状態f4に示すように、レーザビームが角部Cnからレーザ平均距離L4よりも遠ざかると、レーザ平均出力が100%に保たれる。よって、その後もワークWに必要な熱量も保たれる。
【0147】
このような観点から、第2の実施形態においては、パラメータ決定部63が、ワークWの材質及び板厚に応じて定まるレーザ平均出力制御距離L2を、ノズル36のノズル径に基づいて調整することとしている。この調整を通じて、パラメータ決定部63は、ワークWの材質、板厚、ノズル径に応じた調整後レーザ平均出力制御距離L4を決定する。レーザ平均出力制御距離L4には、ワークWの材質、板厚、ノズル径に応じた最適な距離が、切断実験又はシミュレーションを通して決定されている。
【0148】
パラメータ決定部63が、レーザ平均出力制御距離L2をノズル36のノズル径に基づいて調整する方法としては、例えば2つの方法が考えられる。第1の方法は、以下の通りである。すなわち、パラメータ決定部63は、出力制御距離DB73から、材料の材質及び板厚に応じたレーザ平均出力制御距離L2を読み出す。パラメータ決定部63は、加工条件に規定されたノズル径が、予め定められた所定条件のノズル径、すなわち、調整後レーザ平均出力制御距離L4の適用が必要なノズル径であるかどうか判断する。パラメータ決定部63は、加工条件に規定されたノズル径が所定条件に合致する場合には、調整後レーザ平均出力制御距離L4が予め定義されたテーブルなどを参照し、レーザ平均出力制御距離L2を、ノズル径に応じた調整後レーザ平均出力制御距離L4へと調整する。これにより、パラメータ決定部63は、レーザ平均出力制御距離L2をノズル36のノズル径に基づいて調整することができる。
【0149】
第2の方法としては、ワークWの材質及び板厚に応じて定まるレーザ平均出力制御距離L2をノズル36のノズル径に基づいて予め調整し、材料の材質、板厚、ノズル36のノズル径の組み合わせ毎に、調整後レーザ平均出力制御距離L4を決定しておく。そして、出力制御距離DB73に、材料の材質、板厚、ノズル36のノズル径毎に、調整後レーザ平均出力制御距離L4を格納しておく。これにより、パラメータ決定部63は、出力制御距離DB73から、材料の材質及び板厚並びにノズル36のノズル径に応じた調整後レーザ平均出力制御距離L4を読み出すことで、レーザ平均出力制御距離L2をノズル36のノズル径に基づいて調整することができる。
【0150】
このようにして、調整後レーザ平均出力制御距離L4が決定されると、レーザ平均出力制御部65は、調整後レーザ平均出力制御距離L4を用いて出力テーブル補正処理を行うこととなる。
【0151】
このように第2の実施形態によれば、レーザ平均出力制御距離L2を調整することで、ノズル径に応じた適切な範囲でレーザ平均出力制御を行うことができる。これにより、ノズル36のノズル径が相違するような場合であっても、入熱不足を抑制することができ、加工品質の悪化を抑制することができる。
【0152】
上述した通り、ワークWの放熱量は、アシストガス流量に依存する。そこで、アシストガス流量の制御をアシストガス圧の制御によって行う場合には、アシストガス圧に応じてレーザ平均出力制御距離L2を調整してもよい。また、ノズルギャップが大きくなると、アシストガスの当たる範囲が広がるので、アシストガス流量が相対的に増加することなる。そこで、アシストガス流量の制御をノズルギャップの制御によって行う場合には、ノズルギャップに応じてレーザ平均出力制御距離L2を調整してもよい。このように、レーザ平均出力制御距離L2の調整は、アシストガス流量に応じて行われればよい。
【0153】
なお、レーザ出力に起因する加工速度の差違によって冷却能力が変わることは、第1の実施形態のレーザ平均出力制御であっても同様である。しかしながら、加工速度の差による冷却能力の相違は、許容できる範囲であり、材質及び板厚が同じであれば、共通のレーザ平均出力制御距離L2を用いることができる。一方、アシストガス流量の違いによっても冷却能力が変わるが、このときの冷却能力の違いは顕著となる。そのため、アシストガスに起因して冷却能力が著しく相違するような状況において、第2の実施形態に示す、レーザ平均出力制御距離L2の調整が有効となる。
【0154】
また、ワークWの板厚が薄い場合には、レーザ出力の向上に伴って加工速度が上がったとしても、アシストガス流量を変えなくても良好な加工を行うことが可能である。高レーザ出力で加工するときの加工速度と、低レーザ出力で加工するときの加工高速との速度比に着目すると、薄板の場合には、速度比は小さい。一方、板厚が厚くなると、レーザ出力の向上に伴い速度比が増加する傾向にある。したがって、速度比が小さい薄板ではノズル径を大きくすることなく良好な加工ができる。一方、速度比が大きい厚板では、溶融物を排出できるアシストガス流量が必要となり、アシストガス流量を大きくする必要があると考えられる。例えば、速度比が250%よりも大きくなるような厚板を加工する場合には、アシストガス流量を大きくすることが好ましい。
【0155】
また、レーザ加工において、板厚が薄い場合、切断面は平滑となり、板厚が厚くなる程、凸凹が生じる。つまり、切断時、アシストガスの流路となる切断カーフの粗さの違いによってアシストガスの流れやすさが変わるといえる。また、例えば1.0mmの板厚と、3.2mmの板厚とを流路の長さで比較すると、溶融物は3.2倍の長さを流れることになる。長い流路を通り、且つ切断カーフの粗さの影響をより顕著に受けるため、板厚が厚くなるとより多くのアシストガス流量が求められると考えられる。
【0156】
また、第2の実施形態のレーザ平均出力制御は、角部Cnの加工に限らず、加工ヘッド30を減速させながら基準点まで移動させ、基準点へと到達した後に加工ヘッド30を加速させる加減速制御を行うような切断加工に対して広く適用することできる。また、第2の実施形態のレーザ平均出力制御は、レーザ加工の一つであるレーザマーキング加工についても同様に適用することができる。
【0157】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0158】
1 レーザ加工機
10 レーザ発振器
20 レーザ加工ユニット
22 移動機構
30 加工ヘッド
60 制御装置
61 加工プログラム選択部
62 加工条件選択部
63 パラメータ決定部
64 加工速度制御部
65 レーザ平均出力制御部
66 アシストガス制御部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17