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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063770
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】新規化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 231/26 20060101AFI20240502BHJP
   C07K 5/06 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C07D231/26 CSP
C07K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182303
(22)【出願日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2022171206
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、創薬基盤推進研究事業「先端的バイオ医薬品の最適な実用化促進のためのCMC分野における創薬基盤技術の高度化に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(71)【出願人】
【識別番号】512088316
【氏名又は名称】株式会社糖鎖工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正田 卓司
(72)【発明者】
【氏名】橋井 則貴
(72)【発明者】
【氏名】原園 景
(72)【発明者】
【氏名】出水 庸介
(72)【発明者】
【氏名】石井 明子
(72)【発明者】
【氏名】上松 亮平
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泉
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045EA50
4H045FA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡便な操作でO結合型糖鎖を高感度に検出できる誘導体化試薬を提供する。
【解決手段】下記化学式からなる。X及びXは、置換基若しくはヘテロ原子を有してもよい分岐可能な、C0~3アルキル基又はC0~3アルケニル基である。Zは、-(CH2)-(ここでnは1~15の整数を表す)、又はベンゼン環等である。Lは、-NHCO-又は-CONH-であり、Lは、化学結合、又は置換基若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、アルキル基等であり、Lは、化学結合、O、-OCH-、-NH-、-NHCO-等である。Aは、フェナレン、フェナントレン基、アントラセン、フルオランテン、又はピレンである。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式からなる新規化合物(
【化1】
式中、
及びXは、各々独立に、置換基(この置換基は、炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、エステル基、エステルアルキル基、又は、アミノ基、水酸基、チオール基である)若しくはヘテロ原子を有してもよい分岐可能な、C0~3アルキル基又はC0~3アルケニル基であり、
Zは、-(CH2)-(ここでnは1~15の整数を表す)、又は、下記構造式(Yは、C又はNである。)であり、
【化2】
は、-NHCO-、又は、-CONH-であり、
は、化学結合、又は、置換基(この置換基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基であり、
Lは、化学結合、O、-OCH-、-CH2O-、-(CH2OCH)-、-NH-、-NHCO-、-CONH-、若しくは、-NHCONH-(ここで、nは1~15の整数を表す)であり、
Aは、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、インダセン、アセナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、ジベンゾフルオレン、フェナレン、フェナントレン基、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ベンゾシロール、ジベンゾシロール、キノリン、イソキノリン、ベンゾイミダゾール、イミダゾピリジン又はイミダゾピリミジンである)。
【請求項2】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
【化3】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す)。
【請求項3】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
【化4】
式中、nは1~15の整数を表す)。
【請求項4】
下記化学式からなる請求項3に記載の新規化合物。
【化5】
【請求項5】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す)。
【化6】
【請求項6】
下記化学式からなる請求項5に記載の新規化合物。
【化7】
【請求項7】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
【化8】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表し、nは1~15の整数を表す)。
【請求項8】
下記化学式からなる請求項7に記載の新規化合物(
【化9】
式中、nは1~15の整数を表す)。
【請求項9】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
【化10】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す)。
【請求項10】
下記化学式からなる請求項1に記載の新規化合物(
【化11】
式中、nは1~15の整数を表す)。
【請求項11】
下記化学式からなる請求項10に記載の新規化合物。
【化12】
【請求項12】
O結合型糖鎖と結合しO結合型糖鎖誘導体を生成するO結合型糖鎖誘導体化試薬である請求項1乃至11の何れか1項に記載の新規化合物。
【請求項13】
前記O結合型糖鎖は、GlcNAc、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、フコース(Fuc)、マンノース(Man)、又は、キシロース(Xyl)である請求項12に記載の新規化合物。
【請求項14】
下記スキームにて合成することを特徴とする新規化合物の製造方法。
【化13】
【請求項15】
下記スキームにて合成することを特徴とする新規化合物の製造方法。
【化14】
【請求項16】
下記スキームにて合成することを特徴とする新規化合物の製造方法。
【化15】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O結合型糖鎖の定量解析に有益な新規化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は糖タンパク質の構造の安定化、体内動態、生物活性、免疫原性等に関与しており、糖タンパク質を有効成分とする医薬品において糖鎖構造は有効性・安全性に影響する重要な品質特性である。様々な糖タンパク質の構造・機能の解析や、糖タンパク質医薬品の品質管理のための様々な定性・定量分析法が開発されてきた(非特許文献1,2)。
【0003】
しかし、N結合型糖鎖の解析には多大な努力が払われている一方で、O結合型糖鎖(タンパク質のセリン又はスレオニン側鎖に結合した糖鎖)のハイスループット定量解析は十分に研究されているとは言い難い。これはタンパク質骨格からO結合型糖鎖を遊離させる普遍的な酵素が存在しないことに加え、従来の化学的な遊離法では副反応(Peeling反応)が強く、もとの糖鎖構造を正確に反映した解析結果を得ることが困難であり、また,煩雑なサンプル調製が必要であったからである(特許文献1,2,非特許文献3)。
【0004】
O結合型糖鎖の解析に用いられている3-Methyl-1-phenyl-5-pyrazolone(以下MPPと略することがある。)は、Peeling反応の抑制と誘導体化を同時に行うことが可能であることが知られているが、検出はUVで行うこと、過剰な試薬を取り除くための洗浄操作が必要等のことから、検出感度や定量性に課題があった(特許文献3,非特許文献4,5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-088391号公報
【特許文献2】特開2013-040771号公報
【特許文献3】特開2005-328782号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The O-linked fucose glycosylation pathway. Evidence for protein-specific elongation of O-linked fucose in Chinese hamster ovary cells. The Journal of Biological Chemistry 272 (30): 19046-50. July 1997.
【非特許文献2】Broad spectrum O-linked protein glycosylation in the human pathogen Neisseria gonorrhoeae. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 106 (11): 4447-52. March 2009.
【非特許文献3】Protein O-GlcNAcylation in diabetes and diabetic complications. Expert Review of Proteomics 10 (4): 365-80. August 2013.
【非特許文献4】Protein O-GlcNAcylation: emerging mechanisms and functions. Nature Reviews. Molecular Cell Biology 18 (7): 452-465. July 2017.
【非特許文献5】Protein O-fucosylation in Plasmodium falciparum ensures efficient infection of mosquito and vertebrate hosts. Nature Communications 8 (1): 561. September 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、簡便な操作でO結合型糖鎖を高感度に検出できる誘導体化試薬等に利用できる新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0009】
【化1】
【0010】
式中、X及びXは、各々独立に、置換基(この置換基は、炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、エステル基、エステルアルキル基、又は、アミノ基、水酸基、チオール基である)若しくはヘテロ原子を有してもよい分岐可能な、C0~3アルキル基又はC0~3アルケニル基であり、
Zは、-(CH2)-(ここでnは1~15の整数を表す)、又は、下記構造式(Yは、C又はNである。)であり、
【0011】
【化2】
【0012】
は、-NHCO-、又は、-CONH-であり、
は、化学結合、又は、置換基(この置換基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基であり、
Lは、化学結合、O、-OCH-、-CH2O-、-(CH2OCH)-、-NH-、-NHCO-、-CONH-、若しくは、-NHCONH-(ここで、nは1~15の整数を表す)であり、
Aは、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、インダセン、アセナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、ジベンゾフルオレン、フェナレン、フェナントレン基、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ベンゾシロール、ジベンゾシロール、キノリン、イソキノリン、ベンゾイミダゾール、イミダゾピリジン又はイミダゾピリミジンである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば簡便な操作でO結合型糖鎖を高感度に検出できる誘導体化試薬等に利用できる新規化合物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ピレンのモノマー蛍光とエキサイマー蛍光のスペクトルイメージを説明する図である。
図2】開発したMPPPとO結合型糖鎖との反応を説明する図である。
図3】MPPPの1H NMRスペクトルを示す図である。
図4】MPPPの13C NMRスペクトルを示す図である。
図5】MPPPとGalNAcの反応生成物のHPLC結果を示す図である。
図6】各種糖との反応生成物のHPLC結果を示す図である。
図7】反応条件の検討結果を示す図であり、そのうち(a)はNaOH濃度,(b)は反応時間,(c)はMPPP濃度,(d)は反応温度である。
図8】MPPP単体の蛍光スペクトルの溶媒依存性を示す図である。
図9】MPPPとGalNAcとの反応生成物のアセトニトリル中の蛍光スペクトルを示す図である。
図10】MPPPとGlcとの反応生成物のアセトニトリル中の蛍光スペクトルを示す図である。
図11】Galとの反応生成物の検量線を示す図である。
図12】MPPP-NMe2とGalNAcの反応生成物のHPLC結果を示す図である。
図13】MPPP(noPh)とGalNAcの反応生成物のHPLC結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明者は、新規蛍光性糖鎖誘導体化試薬を開発するにあたり、下記式に示されるPMPが有する利点を活かしつつ、複数の課題を一気に克服する方法を考案した。
【0017】
【化3】
【0018】
本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0019】
【化4】
【0020】
式中、X及びXは、各々独立に、置換基(この置換基は、炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、エステル基、エステルアルキル基、又は、アミノ基、水酸基、チオール基である)若しくはヘテロ原子を有してもよい分岐可能な、C0~3アルキル基又はC0~3アルケニル基である。
【0021】
Zは、-(CH2)-(ここでnは1~15の整数を表す)、又は、下記構造式(Yは、C又はNである。)である。
【0022】
【化5】
【0023】
は、-NHCO-、又は、-CONH-である。
【0024】
は、化学結合、又は、置換基(この置換基は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルバメート基、又はケトン基である)若しくはヘテロ原子を有しても良い分岐可能な、C1~8アルキル基若しくはC2~8アルケニル基である。
【0025】
Lは、化学結合、O、-OCH-、-CH2O-、-(CH2OCH)-、-NH-、-NHCO-、-CONH-、若しくは、-NHCONH-(ここで、nは1~15の整数を表す)である。
【0026】
Aは、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、インダセン、アセナフタレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、ジベンゾフルオレン、フェナレン、フェナントレン基、アントラセン、フルオランテン、ピレン、クリセン、ナフタセン、ピセン、ペリレン、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、カルバゾール、ベンゾシロール、ジベンゾシロール、キノリン、イソキノリン、ベンゾイミダゾール、イミダゾピリジン又はイミダゾピリミジンである。
【0027】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0028】
【化6】
【0029】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す。
【0030】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0031】
【化7】
【0032】
式中、nは1~15の整数を表す。
【0033】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。なお前述の化学式においてn=3の場合であるためこの化合物をMPPP-C3と称することも可能である。
【0034】
【化8】
【0035】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0036】
【化9】
【0037】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す。
【0038】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。なおリンカー部分に-NMe2の官能基がついていることからこの化合物をMPPP-NMe2と称することも可能である。
【0039】
【化10】
【0040】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0041】
【化11】
【0042】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表し、nは1~15の整数を表す。
【0043】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。式中、nは1~15の整数を表す。
【0044】
【化12】
【0045】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0046】
【化13】
【0047】
式中、R1、R2、R3、R4、R5は、それぞれ独立に、置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していても良いアルキニル基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有していても良いシリル基、置換基を有していても良い複素環基、置換基を有していても良いアリールアミノ基、置換基を有していても良いアルコキシル基、置換基を有していてもよいアリールボリル基を表す。
【0048】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。式中、nは1~15の整数を表す。
【0049】
【化14】
【0050】
また本発明にかかる新規化合物は、下記化学式からなる。
【0051】
【化15】
【0052】
本発明にかかる新規化合物は、O結合型糖鎖と結合しO結合型糖鎖誘導体を生成するO結合型糖鎖誘導体化試薬として利用できる。
【0053】
本明細書において「O結合型糖鎖」は、酸素(O)原子を介して結合された糖鎖又はなんらかの修飾を受けた(例えば、アセチル化、脱アセチル化)糖鎖をいう。代表的には、セリン又はスレオニンのOH(水酸基)を介して結合することから、セリンスレオニン結合型糖鎖とも呼ばれる。
【0054】
O結合型糖鎖としては、セリン又はスレオニン残基へのN-アセチルガラクトサミンの付加反応によって生じるO-N-アセチルガラクトサミン(O-GalNAc)型糖鎖、O-GlcNAc(O-N-アセチルグルコサミン)型糖鎖、フコースの付加によって生じるO-フコース型糖鎖(Notchタンパク質のEGF様リピートのコンセンサス配列が-C-X-X-G-G-S/T-C-(Xは任意のタンパク質、フコースはS/Tに結合。)に付加するものが知られる。)、O-グルコース(Notchタンパク質のEGF様リピートのコンセンサス配列が-C-X-S-X-P-C-(Xは任意のタンパク質、グルコースはS/Tに結合。)に付加するものが知られる)、O-マンノース型糖鎖、O-キシロース型糖鎖等があげられる。即ち、簡易に記載すれば、O結合型糖鎖は、例えば、GlcNAc、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、フコース(Fuc)、マンノース(Man)、又は、キシロース(Xyl)であり,およびそれらの糖をタンパク質との結合点とした糖鎖である。
【0055】
本発明者はエキサイマー蛍光の利用を着想した(図1)。エキサイマー蛍光とはピレン等の平面性の高い蛍光物質が励起状態になったときにもう一つのピレン分子と相互作用することにより通常より長波長にシフトした蛍光のことである。
【0056】
即ち、本発明者は、例えば、PMPにピレンを導入した新規化合物であるMPPPを着想した(図2)。MPPPはPMP構造を有していることからO結合型糖鎖誘導体化時のPeeling反応を抑制しつつ糖に付加する。さらに反応生成物にはピレンが2分子存在することからエキサイマー蛍光が検出されるため、未反応の試薬に由来するピレン単体の蛍光と区別することができる。即ち未反応の試薬を除去する操作を省略できる利点を有する。
【実施例0057】
(1)新規糖鎖誘導体化試薬MPPPの合成
下記反応式に示されるように、化合物1(261.3 mg, 1 mmol (2HCl salt))、2(144.8mg, 0.5mmol)、HBTU(568.5 mg, 1.50 mmol)、DIPEA(193.5 mg,1.5 mmol)をDMF(10 ml)に溶かし、室温で一晩撹拌した。溶媒を減圧濃縮し、酢酸エチルを加え、0.2 N HCl及び飽和食塩水で洗浄した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH3OH:CH2Cl2= 99:1)によって精製し、化合物3(MPPP(前述のようにMPPP-C3と称することも可能である。))を黄色固体として得た(162.7 mg, 71%)。
【0058】
【化16】
【0059】
NMRスペクトルを図3図4に示す。図3はMPPPの1H NMR スペクトル図である。図4はMPPPの13C NMR スペクトル図である。
1H NMR (600 MHz, CDCl3) δ 8.42 (d, J = 9.0 Hz, 1H), 8.18-8.20 (m, 2H), 8.12-8.15 (m, 2H), 8.05 (s, 2H), 8.06-8.03 (m, 1H), 7.91 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 7.82 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.04 (s, 1H), 3.492 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 3.44 (s, 2H), 2.45 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.35 (m, 2H), 2.21 (s, 3H). 13C-NMR (150 MHz, CDCl3) δ 170.78, 170.43, 156.42, 135.71, 134.88, 134.37, 131.48, 130.97, 130.08, 128.92, 127.51, 126.86, 125.98, 125.18, 125.05, 124.90, 123.43, 120.14, 119.54, 43.13, 36.85, 32.60, 27.20, 17.04 ESI-HRMS calcd C30H26N3O2 +, [M+H]+: 460.2020, found : 460.2020
【0060】
(2)MPPPによる誘導体化及びそのHPLC解析
50 mM MPPP(DMSO溶液)50 μL、20 mM 糖水溶液 25 μL、60mM NaOH 25 μL(終濃度25 mM MPPP、5 mM GalNAc、12 mM NaOH、 50% DMSO)を混和し、70℃、30 minで加熱した後、氷浴で2 min冷却した。下記式に示されるようにMPPPによる糖の誘導体化が行われた。
【0061】
【化17】
【0062】
冷却後10 mLとり、90 mLのDMSOで10倍希釈し、蛍光検出器を装備したLCMSで測定した。LCMSの測定条件は下記であった。
【0063】
〈測定条件〉
カラム:ODS(CapcelPak MGII)3 μm 2.0 mm I. D. x 35 mm
流速:0.4 mL/ min
注入量:1 μL
カラム温度:40℃
検出波長:UV 254 nm
FL:Ex 340 nm / Em 390 nm又はEx 340 nm / Em 490 nm
移動相:A)0.1% HCOOH/H2O,移動相:B)0.1% HCOOH/CH3CN,
溶出条件:B 0% to 100%(0.01-10 min),100% hold(10-10.5 min),100% to 0%(10.5-10.51 min),controller(10.51-12 min)
【0064】
蛍光スペクトルは下記にて測定された。即ち、50 mMの化合物溶液を調製し、分光蛍光光度計F-7000(Hitachi)にて蛍光スペクトルを測定した。励起波長は340nmを用い、必要に応じ、得られたスペクトル全蛍光強度を積算し、規格化した。
【0065】
定量NMRは下記にて測定された。即ち、HPLC解析に用いた溶液を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した(クロロホルム:メタノール=1:1)。得られた2.81mgを定量NMRにて定量した。
【0066】
(3)実験結果
(3-1)HPLC解析
既存のPMPの反応条件(Honda, et al, Anal Chem, 1989, 180, 351-357)を参考に、MPPPとGalNAcの反応を検討した。反応終了後の溶液を、蛍光検出器を装備したLCMS(LC-Fl-MS)で直接解析した。図5はMPPPとGalNAcとの反応生成物の解析結果を示す図である。UVクロマトグラム上に2つのピーク(A,B)が確認される。MSの結果からそれぞれ、化合物3及び目的生成物(4)であることが確認できた。また3にはピレンのモノマー蛍光(ex340nm/em390nm)が、4にはエキサイマー蛍光(ex340nm/em490nm)が観察された。この結果は本研究のデザインコンセプトが十分機能していることを示している。
【0067】
続いて、Glc、Galactose(Gal),Gal-GalNAcに対する反応性を検討した。反応生成物をLC-Fl-MSにて解析した。図6はMPPPとGlc、Gal又はGal-GalNAcとの反応生成物の解析結果を示す図である。各糖もUVクロマトグラム上で2本のピークが検出され、MSクロマトグラムで同定した反応生成物のピークにエキサイマー蛍光が観察された(図6)。反応生成物の保持時間は、GalNAcが8.25min,Glcが8.3minとGalが8.2minであったことから、糖の構造異性体を識別可能であることが示された。また、二糖であるGal-GalNAcとの反応生成物は7.9min付近にピークが観察された。
【0068】
さらに反応条件の検討を行った(図7)。GalNAcとの反応生成物の蛍光ピーク面積を用いてグラフ化した。NaOH濃度の検討は5, 10, 15, 20, 25 mMとし、5 mM GalNAc、25 mM MPPP(いずれも終濃度)、100 μL(50% DMSO)とした。MPPP濃度の検討は20, 25, 30, 35, 40, 45 mMとし、5 mM GalNAc、15 mM NaOH(いずれも終濃度)、100 μl(50% DMSO)とした。反応温度、反応時間については5 mM GalNAc、25mM MPPP、15mM NaOH、total 100 μL(50% DMSO)で行った。各条件で反応後,NaOH濃度は15mM付近が最大となった。反応時間は時間を追って生成物が増加した.MPPP濃度は過剰であれば良いことがわかった。反応の温度は70℃が最大となり,80℃は70℃と大きな違いはなかった。
【0069】
(3-2)蛍光スペクトルの環境依存性
MPPP単体の溶液状態での蛍光特性を検討するため、化合物のH2Oあるいはアセトニトリルにおける蛍光スペクトルを測定した。一般的にピレンのエキサイマー蛍光は溶媒の環境に強く依存する。アセトニトリルは水に比べて極性が低いため、ピレン同士の相互作用が起こらずエキサイマーの蛍光は観察されない。一方で、H2O中ではピレン同士の疎水性相互作用が起こりやすく、分子間でエキサイマー蛍光が観察されると考えた。
【0070】
図8は、溶媒環境が異なる場合におけるMPPP単体の蛍光スペクトルを示す図である。測定の結果、MPPPのアセトニトリル中のスペクトルには380,400,420nmに極大蛍光が観察された(図8 実線)。これはピレンのモノマー蛍光の特徴と一致する。H2O中のスペクトルは480 nmに極大蛍光が観察された(図8点線)。これはピレンのエキサイマー蛍光の特徴と一致する。スペクトルの形状が全く異なることから、アセトニトリル中では100%単体で存在し、一方でH2O中では分子間で相互作用しエキサイマー蛍光を発すると考えられる。
【0071】
(3-3)単離した反応生成物の環境依存的蛍光スペクトルの変化
LCのクロマトグラム(図5図6)において糖との反応生成物にエキサイマー蛍光が観察されたことから、GalNAcとの反応生成物を単離し、蛍光スペクトルを測定した。溶媒にはアセトニトリルを用いた。測定の結果(図9)、MPPP単体には480nmの極大蛍光が観察されなかったのに対し、反応生成物には480nmの極大蛍光が観察された。アセトニトリル中では分子間エキサイマーは検出されない(図8)ことから、ここで検出された480nmの蛍光は分子内エキサイマー蛍光であることがわかった。また、Glucoseとの反応生成物も同様の結果を得た(図10)。
【0072】
(3-4)検量線
ガラクトースとの反応生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。生成物を定量NMRにて定量し、溶液濃度2.89 mMに調整した。この溶液を下記の測定条件にてLCに供し、検量線を作成した(図11)。
【0073】
〈測定条件〉
カラム:AQUITY UPLC BEH C18, 130A, 1.7um, 2.1 mm x 50 mm
流速:0.3 mL/ min
カラム温度:60℃
検出波長:UV 254 nm
FL: Ex 340 nm / Em 490 nm
移動相:A)0.1% HCOOH/H2O,移動相:B)0.1% HCOOH/CH3CN,
溶出条件:A/B 40:60 (0 min) - 40/60 (1 min) - 10:90 (6 min)
【0074】
その結果、蛍光による検出限界は5.13 fmolであった。PMPのUVによる定量限界が1 pmol(Honda, et al, Anal Chem, 1989, 180, 351-357)であることから、MPPPはPMPに比べて194倍の感度が向上した。
【0075】
(4)新規糖鎖誘導体化試薬MPPP-NMe2の合成
下記反応式にて、化合物(MPPP-NMe2)を固体として得た。
化合物1(43.0 mg,0.16 mmol(2HCl salt),5(74.0 mg,0.23 mmol),HBTU(208.6 mg,0.55 mmol),DIPEA(141.5 mg,1.1.1 mol)をDMF(5ml)に溶かし、室温で一晩撹拌した。溶媒を減圧濃縮し、酢酸エチルを加え、NaHCO3及び飽和食塩水で洗浄した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:MeOH=94:6)によって精製し、化合物6(MPPP-NMe2)を黄色固体として得た(49.2 mg,63%)。
【0076】
【化18】
【0077】
1H NMR (600 MHz, CDCl3)δ9.10 (s, 1H), 8.41 (d, J = 9.3 Hz, 1H), 8.15 - 8.17 (m, 2H), 8.12 (d, J = 9.3 Hz, 1H), 8.10 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 8.04 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 8.02 (s, 2H), 7.98 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.80 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 7.55 (d, J = 8.9 Hz, 2H), 4.17 (dd, J= 14.5 and 7.4 Hz, 1H), 3.87 (dd, J = 7.4 and 5.9 Hz, 1H), 3.71 (dd, J= 14.5 and 7.4 Hz, 1H), 3.41 (s, 2H), 2.04 (s, 6H), 2.19 (s, 3H)
【0078】
(5)実験結果
MPPP-NMe2とGalNAcの反応を検討した。反応終了後の溶液を、蛍光検出器を装備したLCMS(LC-Fl-MS)で直接解析した。図12はMPPP-NMe2とGalNAcとの反応生成物の解析結果を示す図である。UVクロマトグラム上に2つのピーク(C,D)が確認される。MSの結果からCはMPPP-NMe2、DはGalNAcとの反応生成物であることが確認できた。またCにはピレンのモノマー蛍光(ex340nm/em390nm)が、Dにはエキサイマー蛍光(ex340nm/em490nm)が観察された。
【0079】
(6)新規糖鎖誘導体化試薬MPPP(noPh)の合成
化合物7(30.7 mg, 0.159 mmol(HCl salt)),8(47.5 mg, 0.177 mmol(HCl salt)),HBTU(242.9 mg, 0.640 mmol),DIPEA(168.5 mg, 1.30 mol)をDMF(5 ml)に溶かし、室温で100分間撹拌した。溶媒を減圧濃縮し、酢酸エチルを加え、0.2N HCl及び飽和食塩水で洗浄した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2: MeOH)によって精製し、化合物9(MPPP(noPh))を黄褐色固体として得た(21.3 mg, 36%)。
【0080】
【化19】
【0081】
1H NMR (600 MHz, CHLOROFORM-D) δ 8.24 - 8.18 (m, 3H), 8.18 - 8.12 (m, 2H), 8.06 (q, J = 8.9 Hz, 2H), 8.02 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 6.28 (s, 1H), 5.19 (d, J = 5.4 Hz, 2H), 4.38 (s, 2H), 3.13 (s, J = 0.8 Hz, 2H), 2.00 (s, J = 0.9 Hz, 3H).
13C NMR (151 MHz, CHLOROFORM-D) δ 172.87, 166.97, 156.97, 131.42, 131.33, 130.82, 130.51, 129.13, 128.44, 127.76, 127.44, 127.29, 126.27, 125.59, 125.53, 125.11, 124.91, 124.76, 122.81, 47.85, 42.23, 41.22, 17.09.
【0082】
(7)実験結果
MPPP(noPh)とGalNAcの反応を検討した。反応終了後の溶液を、蛍光検出器を装備したLCMS(LC-Fl-MS)で直接解析した。図13はMPPP(noPh)とGalNAcとの反応生成物の解析結果を示す図である。UVクロマトグラム上に2つのピーク(E,F)が確認される。MSの結果からEはMPPP(noPh)、FはGalNAcとの反応生成物であることが確認できた。またEにはピレンのモノマー蛍光(ex340nm/em390nm)が、Fにはエキサイマー蛍光(ex340nm/em490nm)が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
O結合型糖鎖の検出試薬等に利用できる。
図1
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図5
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