(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063787
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】樹脂シート及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20240502BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20240502BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240502BHJP
C08J 9/04 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
B29C44/00 E
B29C44/36
B32B5/18
C08J9/04 CET
C08J9/04 CEZ
C08J9/04 CFD
C08J9/04 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131450
(22)【出願日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】 JP2021/037500
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 圭
(72)【発明者】
【氏名】山本 智史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 敏晴
(72)【発明者】
【氏名】谷口 聡生
【テーマコード(参考)】
4F074
4F100
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA32
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(57)【要約】
【課題】荷重たわみ温度が高い熱可塑性樹脂を用いて、軽量性と強度とを両立させることができる樹脂シートを提供する。
【解決手段】樹脂シート1は、熱可塑性樹脂からなり、発泡樹脂層であるコア層2と、コア層2の厚み方向外方に連続して形成されたスキン層3とを備えている。コア層2には領域A1と、領域A1と両スキン層3の間に位置付けられる領域A2とを含んでいる。領域A2は、領域A1よりも小さい50%未満の平均空孔率を有している。熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有している。樹脂シートは、1~40mmの厚みを有している。スキン層は、樹脂シートの厚みの5~50%の厚みを有している。このように、90℃以上の荷重たわみ温度を有する熱可塑性樹脂において、樹脂シートの厚み及びスキン層の厚みを適切に設定したことにより、軽量性と強度とを両立させることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる樹脂シートであって、
発泡樹脂層であるコア層と、
前記コア層の厚み方向外方に連続して形成されたスキン層とを備え、
前記コア層には第1領域と、前記第1領域と前記両スキン層の間に位置付けられる第2領域とを含み、
前記第2領域は、50%未満で、かつ、前記第1領域よりも小さい平均空孔率を有し、
前記熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有し、
前記樹脂シートは、1~40mmの厚みを有し、
前記スキン層は、前記樹脂シートの厚みの5~50%の厚みを有する、樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂シートであって、
前記第1領域は、50%~95%の平均空孔率を有する、樹脂シート。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂シートであって、
前記第1領域は、65%~90%の平均空孔率を有する、樹脂シート。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂シートであって、
前記第2領域の平均空孔率は、前記コア層の厚み方向中心から前記樹脂シートの表面に向かって減少する、樹脂シート。
【請求項5】
請求項1に記載の樹脂シートであって、
前記スキン層は、無機フィラーを含有する強化樹脂からなる、樹脂シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートであって、前記樹脂シートは、1.5GPa以上の曲げ弾性率と、1.0g/cm3以下の密度とを有し、
前記スキン層は、前記コア層の曲げ弾性率の1.5倍以上の曲げ弾性率を有する、樹脂シート。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートであって、
前記樹脂シートは、150℃以上の荷重たわみ温度と、3GPa以上の曲げ弾性率と、1.3g/cm3以下の密度とを有する、樹脂シート。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートであって、
前記熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、樹脂シート。
【請求項9】
樹脂成形体であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂シートを加熱賦形してなる樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジニアプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックを樹脂材料とする樹脂シート及び樹脂シートからなる樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発泡樹脂は、樹脂成形体を軽量化することによって二酸化炭素排出量を削減することができるとして注目されている。発泡樹脂の発泡成形方法として、物理発泡成形と化学発泡成形がある。化学発泡成形は、環境負荷が高く環境に与える影響が大きい。そのため、窒素又は二酸化炭素等の物理発泡剤を用いた物理発泡成形が検討されている。物理発泡成形には、耐熱性が高いエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックを発泡させる方法として、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックの溶融樹脂と高圧の超臨界流体とを剪断混錬して溶解させる方法がある。
【0003】
特許6139038号公報(特許文献1)は、超臨界流体を必要とせずに、比較的圧力の低い窒素や二酸化炭素等の物理発泡剤を用いて発泡成形体を製造する方法を開示している。この方法によれば、特別な高圧装置を用いることなく低圧の物理発泡剤により、比較的簡便なプロセスで樹脂成形体に微細な発泡セルを形成することができる。
【0004】
また、発泡樹脂の成形方法には、複雑な形状の樹脂成形体を得ることができる射出成形法と、単一形状の樹脂成形体を連続して得ることができる押出成形法とがある。射出成形法は、発泡樹脂を成形する場合、金型内を溶融樹脂の表層が冷却固化しながら流動するため、樹脂成形体の表層に非発泡のスキン層が形成される。一方、押出成形法は、射出成形法よりも金型の大きさや負荷の制限が少ないため単一厚みの樹脂成形体を製作するのに適しており、また、押出成形によりシート形状の樹脂成形体を得たのち、真空成形などにより、ある程度複雑な形状で大きな樹脂成形体を得ることもできる。ただし、押出成形法は、金型(ダイス)から吐出される際に溶融樹脂が発泡して膨張し、その後冷却固化されるものの、樹脂成形体の表層にスキン層が形成されにくい。
【0005】
特許第3654697号公報(特許文献2)は、押出成形によって熱可塑性樹脂発泡シートの表面にスキン層を容易に形成できる熱可塑性樹脂発泡シートの製造方法を開示している。また、特開2000-52370号公報(特許文献3)は、共押出成形によって発泡層及びスキン層を有する多層積層成形体の製造方法を開示している。特許文献2の熱可塑性樹脂発泡シートの製造方法及び特許文献3の多層積層成形体の製造方法は、主な樹脂材料としてポリプロピレン又はポリスチレン等の耐熱性及び強度が比較的小さい汎用プラスチックを用いており、耐熱性及び強度に優れたエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックを用いてはいない。また、特許文献2及び3の製造方法は、発泡成形体の製造の容易性又は安定性を目的としたものであり、耐熱性及び強度の向上を目的とするものではない。
【0006】
特許第3568655号公報(特許文献4)は、ポリカーボネート系樹脂押出発泡シートを複数貼り合わせたポリカーボネート系樹脂押出発泡積層シートを開示している。しかしながら、特許文献4のポリカーボネート系樹脂押出発泡積層シートは、ポリカーボネート系樹脂押出発泡シートを切断して積層することで比較的厚いポリカーボネート樹脂製の発泡シートであり、表層のスキン層を制御するものではない。
【0007】
特開平06-79816号公報(特許文献5)は、表層の重量平均分子量を他層のものより1.15倍以上高くした、多層高分子量ポリカーボネート樹脂発泡体を開示している。特許文献5の多層高分子量ポリカーボネート樹脂発泡体は、分子量を高くしたポリカーボネート樹脂発泡体の表層の発泡密度を低くすることにより表層の強度低下を抑制するものであり、表層の機械強度および発泡シートの機械物性を精密に制御するものではない。
【0008】
特開2020-138402号公報(特許文献6)は、発泡層の厚みが0.1~3.0mmであり、非発泡層の厚みが0.05~0.5mmである積層発泡シートを開示している。しかしながら、積層発泡シートの樹脂材料は、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、並びに、耐熱性及び機械強度が比較的小さい汎用プラスチックであり、耐熱性及び機械強度に優れたエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックではない。
【0009】
特開2014-172381号公報(特許文献7)は、発泡層の発泡倍率が1.15~6倍で厚みが1~30mmであり、非発泡層の厚みが0.15~1mmである発泡樹脂製プレートを開示している。これにより、発泡樹脂製プレートは、高い硬度及び優れた平滑性を得ている。しかしながら、発泡樹脂製プレートは、耐熱性及び衝撃強度の低下を抑制するためのものではない。
【0010】
特開平08-072628号公報(特許文献8)は、独立した扁平状の気泡形態であるがゆえの、熱的寸法安定性や保形性に優れた積層発泡樹脂シートからなる自動車内装材成形用基材を開示している。特許文献8の自動車内装材整形用基材は気泡形態を扁平状にすることで、熱賦形後の加熱寸法安定性や保形性を向上するものであり、基材そのものの機械強度の低下を抑制するものではない。通常、発泡成型品は密度の低下により衝撃強度は低下する傾向にある。そのため、モビリティ分野等における発泡成型品は軽量化と耐衝撃が求められる。すなわち、ポリカーボネートのような耐衝撃性に優れる樹脂であっても、発泡成型体にした場合、基材そのものの衝撃強度の評価が重要となる。特許文献8は加工性を特徴とするもので、シート厚みや密度、セル径の効果で衝撃強度の低下を抑制するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6139038号公報
【特許文献2】特許第3654697号公報
【特許文献3】特開2000-52370号公報
【特許文献4】特許第3568655号公報
【特許文献5】特開平06-79816号公報
【特許文献6】特開2020-138402号公報
【特許文献7】特開2014-172381号公報
【特許文献8】特開平08-072628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示は、耐熱性が高い熱可塑性樹脂を用いて、軽量性と機械的強度とを両立させることができる樹脂シート及び樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本開示は次のような解決手段を講じた。すなわち、本開示に係る樹脂シートは、熱可塑性樹脂からなってよい。樹脂シートは、発泡樹脂層であるコア層と、コア層の厚み方向外方に連続して形成されたスキン層とを備えてよい。コア層には第1領域と、第1領域と両スキン層の間に位置付けられる第2領域とを含んでいてよい。第2領域は、前記第1領域よりも小さい平均空孔率を有し、熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有してよい。樹脂シートは、1~40mmの厚みを有してよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係る樹脂シート及び樹脂成形体によれば、耐熱性が高い熱可塑性樹脂を用いて、軽量性と強度とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る樹脂シートの構造を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の実施形態に係る樹脂シートは、熱可塑性樹脂からなってよい。樹脂シートは、発泡樹脂層であるコア層と、コア層の厚み方向外方に連続して形成されたスキン層とを備えてよい。コア層には第1領域と、第1領域と両スキン層の間に位置付けられる第2領域とを含んでいてよい。第2領域は、前記第1領域よりも小さい50%未満の平均空孔率を有し、熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有してよい。第2領域は、前記第1領域よりも小さい平均空孔率を有し、熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有してよい。樹脂シートは、1~40mmの厚みを有してよい。スキン層は、樹脂シートの厚みの5~50%の厚みを有してよい。当該樹脂シートは、より効果的に強度を向上させることができる。なお、平均空孔率の算出法等の詳細は後述する。
【0017】
このように、90℃以上の荷重たわみ温度を有する熱可塑性樹脂において、樹脂シートの厚み及びスキン層の厚み、コア層の平均空孔率を適切に設定したことにより、耐熱性が高い熱可塑性樹脂を用いて、軽量性と強度とを両立させることができる。
【0018】
樹脂シートは、コア層の厚み方向中心から樹脂シートの表面に向かって平均空孔率が減少してよい。樹脂シートは、コア層の厚み方向中心から樹脂シートの表面に向かって空孔率が徐々に減少してよい。これにより、樹脂シートに外力が生じた際にコア層とスキン層との界面における応力集中を避けることができる。その結果、樹脂シートの衝撃強度を向上させることができる。
【0019】
第1領域は、50%~95%の平均空孔率を有してよい。第2領域は、第1領域の平均空孔率よりも小さくてよい。第1領域からスキン層に向かって空孔率が徐々に減少するとさらによい。これにより、より効果的に強度を向上させることができる。
【0020】
第1領域は、65%~90%の平均空孔率を有してよい。第1領域からスキン層に向かって空孔率が減少するとさらによい。これにより、より一層効果的に強度を向上させることができる。
【0021】
樹脂シートは、1.5GPa以上の曲げ弾性率と、1.0g/cm3以下の密度とを有してよい。スキン層は、前記コア層の曲げ弾性率の1.5倍以上の曲げ弾性率を有してよい。スキン層は、コア層の曲げ弾性率の1.5倍以上の曲げ弾性率を有してよい。これにより、より効果的に軽量性と強度を両立させることができる。
【0022】
樹脂シートは、150℃以上の荷重たわみ温度と、3GPa以上の曲げ弾性率と、1.3g/cm3以下の密度とを有してよい。これにより、より一層効果的に軽量性と強度を両立させることができる。
【0023】
スキン層は、無機フィラーを含有する強化樹脂からなってよい。これにより、効率よく強度を向上させながら、軽量化と強度の向上を図ることができる。
【0024】
熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、液晶ポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでよい。
【0025】
本開示の実施形態に係る樹脂成形体は、上述のいずれかの樹脂シートを加熱賦形してなる樹脂成形体であってよい。
【0026】
以下、本開示の樹脂シート1の実施形態について、
図1及び2を用いて具体的に説明する。なお、図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。
【0027】
図1及び2に示すように、樹脂シート1は、コア層2と、コア層2の厚み方向外方の両方に形成されたスキン層3とを備える。すなわち、スキン層3は、コア層2の厚み方向外方に連続して形成されている。ここで、「コア層2の厚み方向外方に連続して」とは、コア層2とスキン層3とを別個に作製して互いを固着させたような界面が明確であるものではなく、共押出成形法を用いてコア層2とスキン層3とを一体的に成形し、明確な界面が表れないものをいう。
【0028】
コア層2は、発泡樹脂層からなる。コア層2の樹脂材料は、熱可塑性樹脂である。本開示で用いられる熱可塑性樹脂は、90℃以上の荷重たわみ温度を有する。ここで、荷重たわみ温度は、1.81MPa荷重、ISO075-2Bで定義される。
【0029】
本開示のコア層2に用いられる熱可塑性樹脂は、エンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックを含むことができる。エンジニアリングプラスチックは、100℃以上の荷重たわみ温度を有する熱可塑性樹脂である。本開示のコア層2に用いられるエンジニアリングプラスチックは、例えば、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などである。スーパーエンジニアリングプラスチックは、150℃以上の荷重たわみ温度を有する熱可塑性樹脂である。本開示のコア層2に用いられるスーパーエンジニアリングプラスチックは、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)などである。本開示のコア層2に用いられる熱可塑性樹脂は、これらエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことができる。
【0030】
コア層2の発泡倍率が比較的大きいと軽量化を図れるが強度は低下し、発泡倍率(比重低減率)が比較的小さいと強度を向上させることができるが軽量化を図れない。そのため、軽量化と強度の向上との両立を図るという観点から、コア層2の発泡倍率(比重低減率)は、好ましくは1.2倍(17%)以上とするのがよく、好ましくは5倍(80%)以下、真空成型等の熱賦形加工時の破れ等の加工性の低下を抑制する観点からより好ましくは3倍(67%)以下とするのがよい。
【0031】
スキン層3は、コア層2の主面の少なくともいずれか一方に積層される。すなわち、スキン層3は、コア層2の主面の一方又は両方に積層される。スキン層3は、強度向上の観点から、コア層2の主面の両方に積層された方が好ましい。スキン層3の樹脂材料は、90℃以上の荷重たわみ温度を有する熱可塑性樹脂である。スキン層3に用いられる熱可塑性樹脂は、上述のコア層2に用いられるエンジニアリングプラスチック及びスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことができる。スキン層3は、コア層2と同じ1つの熱可塑性樹脂又は同じ複数の樹脂材料を組み合わせた熱可塑性樹脂によって形成されてもよく、コア層2とは異なる1つの熱可塑性樹脂又は異なる複数の樹脂材料を組み合わせた熱可塑性樹脂によって形成されてもよい。
【0032】
樹脂シート1は、厚み方向中心Cから樹脂シート1の表面に向かって平均空孔率(%)が減少する傾斜構造からなる。言い換えれば、樹脂シート1に形成される気泡の気泡径は、厚み方向中心から表面に向かうにつれて小さくなる。平均空孔率は、樹脂シート1における単位断面積あたりの発泡セルの断面積比率から求めることができる。平均空孔率の算出方法の詳細は、後述する。
【0033】
コア層2は、発泡樹脂からなる。コア層2は、5%~95%の平均空孔率を有する領域である。
図2に示すように、コア層2は、コア層2の総厚を100%としたとき、コア層2の厚み方向中心Cからスキン層3に向かって0%以上40%未満の範囲に位置付けられた領域A1と、領域A1とスキン層3との間に位置付けられる領域A2とを有している。なお、
図2において、1点鎖線は各々の層又は各々の領域の境界を示し、2点鎖線は厚み方向中心Cを示す中心線である。領域A1は、50%~95%の平均空孔率を有している。樹脂シート1の総厚に対して領域A1を中心Cから厚み方向に40%までの範囲にすることにより、真空成形等の熱賦形時に樹脂シート1の表面付近に大きな気泡が形成されにくくなるため、樹脂シート1の表面における膨れや破れ等の加工性の悪化を低減することができる。領域A2は、領域A1よりも小さい平均空孔率を有し、かつ、領域A1からスキン層3に向かって平均空孔率が減少している。領域A2の平均空孔率を下げること、すなわち、気泡と気泡との間の壁(以下、気泡壁ともいう。)を厚くすることで発泡による衝撃強度の低下を抑制することができる。また、領域A1の平均空孔率を領域A2の平均空孔率より大きくすることで、軽量化の効果を担保できる。領域A1の平均空孔率が50%以下である場合、コア層2の発泡倍率が1.2倍以下となるおそれがある。そのため、軽量化を図るために好ましい1.3倍~3倍の発泡倍率となるコア層2を形成するには、平均空孔率を50%以上とするのが好ましく、耐衝撃材等の用途に用いる場合は総厚みが大きいシートが好ましい為、領域A1の平均空孔率を65%以上がするのがより好ましい。領域A1の平均空孔率が96%以上である場合、十分な軽量化効果は見込まれるが、気泡と気泡の壁が極端に薄くなり衝撃が加わる際にシートが割れる可能性がある。そのため、領域A1の平均空孔率は、95%以下とするのが良く、より好ましくは、真空成型等の熱賦形時にシートが延ばされることで気泡と気泡の壁の断裂を抑制する観点から90%以下とするのがよい。一例として、領域A1の平均空孔率が80%である場合、領域A2の平均空孔率は、領域A1よりも小さい80%未満の平均空孔率からスキン層3に向かって減少する。すなわち、領域A1は、厚み方向中心Cから厚み方向にスキン層3に向かって0%以上40%未満の範囲において、50~95%、好ましくは65%~90%の範囲で決まる所定の平均空孔率を有し、領域A2は、領域A1とスキン層3との間の範囲において、上述の所定の平均空孔率よりも小さくてよく、スキン層3に向かって減少する平均空孔率を有していてよい。ただし、領域A2の平均空孔率が50%以上である場合は、樹脂シート1の耐衝撃性が低下する。そのため、領域A2の平均空孔率は、50%未満とするのがよい。スキン層3は、非発泡樹脂からなる。すなわち、スキン層3は、任意に抽出された同じ厚み領域にある、3か所の区画において、0%以上5%未満の平均空孔率を有する領域をいう。
【0034】
平均空孔率は、より具体的に、以下のようにして算出される。まず、樹脂シート1の一部を切り出し、平面視において20mm×20mmの正方形となるシート片を作製する。高出力マイクロX線CTシステム(株式会社島津製作所製、型番「inspeXio SMX-225CTS」)を用いて、シート片をCTスキャンし、平面視においてシート片の中心点と所定の一辺の中点とを通る線に沿って厚み方向に切断したCT断面画像を得る。詳細な測定条件は、印加160kV、pixelサイズ0.105mm/voxel、pixel数512×512×512、ビュー数1200、XY方向の視野53.5mm、及び、Z方向の視野48.9mmである。樹脂シート1の断面視において、多数存在する気泡のうち、樹脂シート1の断面を幅方向に16等分した際の各々の仮想境界線上における、樹脂シート1の表面に近い気泡を15個選定し、そのうち樹脂シート1の表面に最も近い気泡を確認する。この最も近い気泡の上端を通り、かつ、厚み方向に直交する仮想線を引く。仮想線よりも厚み方向内方をコア層2とし、厚み方向外方をスキン層3として、スキン層3の厚みt2を測定した。続いてコア層2の断面を撮影したCT断面画像において、コア層2を厚み方向に20等分するように正方形の区画(よって、1区画の1辺の長さは樹脂シート1の厚みに依存する。)を規定し、コア層2の厚み方向に沿って20個の区画が並ぶ列を、5列抽出する。したがって、各列は、コア層2の厚み方向に沿って領域A1及び領域A2を通っている。次に、画像処理ソフト「Image J(アメリカ国立衛生研究所製)」を用いて気泡と気泡壁を二値化する。このとき、二値化処理の閾値は、大津法によって得られた濃度ヒストグラムから求められる。そして、得られた二値化画像の白色部分を気泡壁、黒色部分を気泡とし、各列の各々の区画に含まれる独立気泡の断面積を算出する。このようにして各々の区画に含まれる独立気泡の断面積を算出し、各々の区画の断面積で除することにより、各列に含まれる各々の区画の空孔率を算出する。最後に、領域A1に含まれる全ての区画における空孔率の平均値、及び、領域A2に含まれる全ての区画における空孔率の平均値を算出する。このように領域A1及び領域A2に含まれる区画における空孔率の平均値を平均空孔率という。なお、厚み方向により詳細な平均空孔率を算出するために、コア層2を21等分以上に分割してもよい。また、領域A1と領域A2との境界を含む区画は、平均空孔率の算出から除外される。また、抽出された5つの列は各々、コア層2の断面画像において、幅方向の中央、幅方向の一方の端部、幅方向の他方の端部、幅方向の中央と幅方向の一方の端部との間における中央、及び、幅方向の中央と幅方向の他方の端部との間における中央に位置付けて抽出されている。
【0035】
図1に示すように、樹脂シート1は、1~40mmの厚みt1を有する。スキン層3は、前記樹脂シート1の厚みt1の5~50%の厚みt2を有する。上述の通り、スキン層3は、コア層2の主面の一方又は両方のいずれかに積層されてよい。スキン層3がコア層2の主面の両方に積層されている場合、スキン層3の厚みt2は、一方のスキン層3の厚みと他方のスキン層3の厚みの和である。
【0036】
樹脂シート1の厚みt1が1~5mmである場合、すなわち、厚みt1が小さい場合、スキン層3の厚みt2が比較的小さくても強度向上の効果は大きくなり、スキン層3の厚みt2が比較的大きくなると軽量化の効果が低減しやすい。そのため、樹脂シート1が1mm以上5mm未満の厚みt1を有する場合、スキン層3の厚みt2は、樹脂シート1の厚みt1の5%以上、高い剛性、衝撃強度、真空成型等の熱賦形時における破れや剥離の抑制を考慮して好ましくは、10%以上とするのがよく、50%以下、軽量化の効果を考慮して好ましくは40%以下とするのがよい。厚みが5mm未満の場合、真空成形等による後加工で任意の形状に加工ができるので、軽量な構造用部材やパネル部材などへの応用が期待できる。また、樹脂シート1の厚みt1が5mm以上である場合、すなわち、厚みt1が大きい場合、厚みt1が小さい場合に比べると、スキン層3の厚みが比較的小さいと強度の向上を図りにくい。そのため、樹脂シート1が5~40mmの厚みt1を有する場合、スキン層の厚みt2は、比較的厚くする必要があり、10%以上、また、軽量化を図る観点から、50%以下、軽量化をさらに考慮して40%以下とするのがよい。このような厚い板は、断熱性も高くなり真空成形等の後加工による賦形加工は難しいが、シート剛性が非常に高いため、建材や合板などへの応用が可能である。
【0037】
以上のように、樹脂シート1によれば、樹脂シート1の厚みとスキン層3の厚みを適切に設定し、かつ、コア層2の平均空孔率を適切に設定したことにより、耐熱性が高い熱可塑性樹脂を用いて、軽量性と強度とを両立させることができる。
【0038】
樹脂シート1がエンジニアリングプラスチックからなる場合、樹脂シート1は、1.5GPa以上の曲げ弾性率及び1.0g/cm3以下の密度を有する。本開示において、曲げ弾性率は、3点曲げ試験にて評価した値と定義する(ISO178)。樹脂シート1がエンジニアリングプラスチックからなる場合、発泡成形されたコア層2による軽量化、及び、非発泡のスキン層3による強度向上により、密度の低減(軽量化)と強度の向上を両立させることができる。
【0039】
樹脂シート1がスーパーエンジニアリングプラスチックからなる場合、樹脂シート1は、3GPa以上の曲げ弾性率及び1.3g/cm3以下の密度を有する。スーパーエンジニアリングプラスチックは、一般的に他の熱可塑性樹脂(汎用プラスチック等)に比べて硬いため、延伸しにくい。そのため、スーパーエンジニアリングプラスチックは、発泡成形において発泡倍率を高くすると破泡が生じて機械強度が著しく低下し得る。したがって、樹脂シート1がスーパーエンジニアリングプラスチックからなる場合、コア層2の発泡倍率は、1.2~2倍であることが好ましい。
【0040】
スキン層3は、コア層2の樹脂材料である熱可塑性樹脂の曲げ弾性率の1.5倍以上の熱可塑性樹脂を用いて形成してもよい。スキン層3は、コア層2と良好に接着できる熱可塑性樹脂を用いればよい。また、スキン層3は、スキン層3を強化するために、無機フィラーを含有する強化樹脂から構成することができる。これらスキン層3の構成により、効率よく強度を向上させながら、軽量化と強度の向上を図ることができる。無機フィラーは、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、タルク及びマイカ等である。本開示において、スキン層3の熱可塑性樹脂の機械特性は、コア層2及びスキン層3を機械的に分離したのち、再溶融して試験体を作製することにより評価することができる。コア層2の機械特性は、スキン層3を機械的に剥離することにより測定することができる。
【0041】
樹脂シート1は、コア層2とスキン層3とを別個に作製し、各層を熱溶着により製造することができる。すなわち、樹脂シート1は、コア層2とスキン層3とを別個に作製してから互いの主面を対向させて固着させてもよい。また、共押出成形法によってコア層2とスキン層3とを一体的に形成することもできる。この場合、上述の溶融樹脂と高圧の超臨界流体とを剪断混錬して溶解させる方法によって発泡させてもよく、比較的圧力に低い物理発泡剤、例えば、窒素、二酸化炭素、空気又はアルゴン等の不活性ガスを用いて発泡させてもよい。なお、コア層2に形成される気泡の制御の容易性、並びに、樹脂シート1の厚みt1及びスキン層3の厚みt2の制御の容易性という観点からすれば、コア層2とスキン層3と溶着させて樹脂シート1を製造するのが好ましい。また一方で、上述のように樹脂シート1を共押出成形法によって成形することにより、コア層2とスキン層3との間に明確な界面をなくし、かつ、領域A1とスキン層3との間に平均空孔率が減少する領域A2を形成することができる。その結果、樹脂シート1は、衝撃強度を高めることができる。すなわち、共押出成形法において、コア層2が発泡する前もしくは発泡させながらダイス内部等においてコア層2とスキン層3と一体化させることが望ましい。
【0042】
このように製造された樹脂シート1は、熱成形によって所望の形に賦形することができる。ここでいう熱成形とは、一般に、加熱軟化させたプラスチックシートを所望の型に押しあてて成形することを意味する。熱成形のなかでも、型と樹脂シート1の隙間にある空気を排除し、大気圧により型に樹脂シート1を密着させて成形する真空成形を用いることが好ましい。また、別の例として、大気圧以上の圧縮空気を利用して成形する圧空成形、及び、真空成形および圧空成形を併用した真空圧空成形が挙げられる。さらに、別の例として、凹形状を有する金型及び凸形状を有する金型の間に設けられた樹脂シート1の厚みよりも大きな空間に樹脂シート1を配置した後、樹脂シート1を金型の両側から真空引きする両面真空成形が挙げられる。熱成形法は、特に制限されるものではなく、例えば、プラグ成形、マッチモールド成形及びプラグアシスト成形などの方法を例示することができる。また、成形後の形状は、特に制限されるものではない。熱成形されたことにより次のような用途で用いることができる。例えば、このような樹脂シート1を加熱賦形してなる樹脂成形体は、比較的強度が求められる看板又は自動車外装材等のモビリティ材料等といった幅広の製品及び部品、バッテリ又は加熱工程を伴う製造工程に用いられる発熱部材用トレー等といった耐熱性が求められる製品及び部品、或いは、軽量化が求められる製品及び部品等である。樹脂シート1は、熱可塑性樹脂を含むことから、これら製品及び部品等の樹脂成形体を成形する材料として適している。
【0043】
樹脂シート1により作製された製品及び部品等は、樹脂使用量を削減することができる。その結果、本実施形態に係る樹脂シート1は、資源利用効率の向上、運送負担の軽減、エネルギー使用量の削減及びCO2排出量の削減に寄与することができる。樹脂シート1を社会へ提供することにより、国際連合が制定する持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のうち、目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)、目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)及び目標11(住み続けられるまちづくりを)の達成に貢献することができる。また、本実施形態に係る樹脂シート1を溶融させて再利用することが可能であることから、目標12(つくる責任、つかう責任)の達成に貢献することができる。
【0044】
以上、実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0045】
(実施例)
下記表1に示すように、種々の樹脂シートの試験体を作製し、各試験体の比曲げ弾性率を算出することにより、各試験体の軽量性と強度とを確認した。表1において、試験体1~4、11、12、17、21、27は比較例であり、その他の試験体は実施例である。なお、各コア層及びスキン層の両者を含む試験体(試験体27を除く。)は、コア層と同じ主原料の樹脂材料をスキン層に用いて共押出成形法により樹脂シートを作製した。コア層は、発泡押出成形により公知の物理発泡剤を高圧にてスクリュシリンダにてせん断混錬する方法にて作成した。試験体27の作製方法について後述する。ここで用いたポリカーボネート樹脂は、帝人製パンライトL―1250Yであり、1.2g/cm3の密度と、143℃の荷重たわみ温度と、2.2~2.3GPaの曲げ弾性率を有する。この前提の樹脂シートの比曲げ弾性率(曲げ弾性率を密度で除した値)は1.83GPaであった。この比曲げ弾性率が大きいほど、軽くて剛性が高いといえる。なお、表1の「スキン層厚み比率(%)」とは、樹脂シートの厚みt1に対するスキン層の厚みt2の比率である。
【0046】
【0047】
作製した各々の試験体を厚さ方向にカットした試験片の断面に関し、上述した方法で各々の断面の平均空孔率を算出し、スキン層及びコア層を決定した。コア層の領域A1および領域A2の平均空孔率を表1に示す。
【0048】
作製した試験体はISO178に基づき3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率、比曲げ弾性率を算出し表1に示した。
【0049】
シャルピー衝撃試験(ISO179-1に準拠)にて、各々の試験片についてノッチ無しの条件でフラットワイズ垂直試験を行い、4J振り子を用いて破壊の有無を評価した。一つの試験体で10本のサンプル試験片を評価し、完全破壊、ヒンジ破壊又は部分破壊の確率が0%の場合「A」、1%から30%以下の場合「B」、31%から50%以下の場合「C」51%から100%の場合を「D」とし、表1に示した。
【0050】
まず、試験体1は、発泡樹脂層からなるコア層のみを備える樹脂シートであった。すなわち、試験体1は、スキン層が形成されていない。試験体1は、ポリカーボネート樹脂をスクリュシリンダ内で270℃で溶融して溶融樹脂とし、この溶融樹脂に物理発泡剤としての窒素を公知の高圧装置を用いて溶融樹脂に対して0.3%混合し、ダイス出口温度を215℃で開度を2mmの厚みになるようにし、シート状に0.7m/分の引取速度で押出成形することにより作製した。試験体1の発泡倍率は、2倍(比重低減率50%)であった。また、試験体1の密度は0.6g/cm3であり、曲げ弾性率は1GPaであった。これらの物性から算出された比曲げ弾性率は、1.66GPa・g/cm3であった。
【0051】
試験体2も同様にコア層のみを備える樹脂シートであった。すなわち試験体2は、スキン層が形成されていない。試験体2は、ポリカーボネート樹脂をスクリュシリンダ内で270℃で溶融して溶融樹脂とし、この溶融樹脂に物理発泡剤としてのイソペンタンを公知の高圧装置を用いて溶融樹脂に対して0.53mol/kg樹脂として混合し、ダイス出口温度を215℃で開度を2mmの厚みになるようにし、シート状に0.7m/分の引取速度で押出成形することにより作製した。試験体1の発泡倍率は、6倍(比重低減率84%)であった。また、試験体2の密度は0.2g/cm3であり、曲げ弾性率は0.7Gpaであった。これらの物性から算出された比曲げ弾性率は、3.5GPa・g/cm3であった。
【0052】
次に、試験体4~12を作製した。試験体4~12は、夫々ポリカーボネート樹脂からなるコア層に同じポリカーボネート樹脂からなるスキン層を形成した樹脂シートであった。これらの樹脂シートは、共押出成形にてコア層の厚み方向外方の両方にスキン層が形成されていた。主押出機及び副押出機で構成されており、主押出から成型される発泡コア層は前述し通りに成形した。副押出機のスキン層樹脂は、副押出機のスクリュシリンダにポリカーボネート樹脂を投入し、270℃で加熱混錬させ、ダイス出口温度を215℃としてコア層の両側に押出成形した。このとき、スキン層の厚みは主押出機同様に、出口開度を任意の厚みに調節し表1に記載の厚みとした。さらにスクリュシリンダからダイスまでの単管の温度を増減させることで平均空孔率の調節を行った。具体的にはコア層の領域A1の平均空孔率を上昇させるには単管の温度を上昇方向に調節し、領域A1の平均空孔率を下げるには単管の温度を下降させる方向に調節した。
【0053】
試験体2は、試験体1に比べてシート密度が低下している。そのため、試験体2の比曲げ弾性率は、試験体1の比曲げ弾性率に比べて大幅に向上している。したがって、試験体2は、試験体1に比べて大幅な軽量化を図れたが、試験体1と同様にシャルピー衝撃試験において「D」を示し、試験体1に比べて曲げ弾性率が低下した。すなわち、ポリカーボネート樹脂からなる樹脂シートにおいて、単に発泡倍率を向上させて軽量化を図ると、樹脂シート自体の耐衝撃性が劣化することがわかった。
【0054】
試験体4は、4%、すなわち、5%未満のスキン層厚み比率を有する。試験体4は、試験体1よりも曲げ弾性率が向上しておらず、シャルピー衝撃試験においても「C」の結果を示した。
【0055】
試験体5~10は、5%以上のスキン層厚み比率を有する。これにより、試験体5~10の曲げ弾性率は、試験体1の曲げ弾性率に比べて向上していた。そして、スキン層厚み比率(%)が5%以上であるとき、試験体5~10の比曲げ弾性率は、試験体1の比曲げ弾性率よりも向上していた。試験体6のシャルピー衝撃試験の結果によれば、スキン層厚み比率が10%以上であるとき、シャルピー衝撃試験における試験片の破壊確率が0%、すなわち、「A」の評価となり、より耐衝撃性に優れることが分かった。試験体7及び8においても同様に、優れた耐衝撃性を得ることができた。試験体9及び10のシャルピー衝撃試験の結果によれば、コア層の領域A1の平均空孔率が64%以下になる場合、「B」の評価という結果を示し、耐衝撃性にやや優れた結果となった。ここで、試験片9と試験体10とを比較すると、スキン層厚み比率が50%になると、試験体9及び10の各々比曲げ弾性率はほぼ同じであり、軽量化及び強度向上の効果が飽和した。
【0056】
試験体4~10において、最も高い比曲げ弾性率は、試験体9の2.09GPaであった。試験体7は、0.85g/cm3の密度でありながら、試験体1に比べて比曲げ弾性率が増加した。一方、試験体11によれば、コア層の領域A2における平均空孔率が50%を上回る、すなわち、スキン層付近における樹脂の割合が減少していくことで耐衝撃性が劣化した。さらに、試験体12の試験結果によれば、コア層の領域A1及びA2は共に平均空孔率が高くなることで、衝撃によるスキン層とコア層の界面の応力緩和効果が生じず、耐衝撃性が著しく低下する結果となった。したがって、試験体4~11の比曲げ弾性率及びシャルピー衝撃試験の結果によれば、スキン層厚み比率を5~50%とし、かつ、領域A2の平均空孔率を50%未満とすれば、軽量化と強度向上の両立を図ることができた。さらに、領域A1の平均空孔率を65%以上とすれば、より優れた耐衝撃性を得ることが分かった。
【0057】
また、試験体5~10は、樹脂シートの曲げ弾性率が1.5GPa以上であり、樹脂シートの密度が1.0g/cm3以下であり、かつ、スキン層の曲げ弾性率がコア層の曲げ弾性率の1.5倍以上であった。そのため、試験体5~10は、コア層が形成されずスキン層からなるソリッドシートである試験体3よりも比曲げ弾性率をより一層向上させることができた。
【0058】
次に、試験体13~16を作製した。試験体13~16の作製において、押出機条件は、試験体4~12と同様であるが、各々の平均空孔率を調節するために副押出機の単管の温度を適宜調節した。表1に示す通り、試験体13~16において、コア層の厚み方向外方の一方に積層されたスキン層の厚みは各々、0.1mm(試験体13)、0.2mm(試験体14)、0.3mm(試験体15)及び0.5mm(試験体16)であった。すなわち、コア層の厚み方向外方の両方に形成されたスキン層の厚みの和(厚みt2)は、0.2mm(試験体13)、0.4mm(試験体14)、0.6mm(試験体15)及び1.0mm(試験体16)であった。試験体13~16のスキン層は、試験体4~12とは異なり、ガラスフィラ入りポリカーボネート樹脂(帝人製パンライトG-3330M、密度:1.44g/cm3、荷重たわみ温度:138℃、曲げ弾性率:3.8GPa)を用いて作製した。
【0059】
試験体13~16の試験結果によれば、スキン層厚み比率が5%以上となるように曲げ弾性率が高いスキン層をコア層に形成すれば、効率よく剛性を向上させ、比曲げ弾性率をソリッドシートである試験体3よりも高くすることができた。試験体16の試験結果によれば、スキン層厚み比率を33.3%とすることにより、密度を1g/cm3以下にすることができ、試験体3よりも曲げ弾性率及び比曲げ弾性率を向上させることできた。なお、試験体16の比曲げ弾性比率は、試験体3の比曲げ弾性率よりも60%以上も向上していた。このように、試験体13~16においても、軽量性及び強度の向上を両立できることがわかった。
【0060】
次に、試験体18~20を作製した。試験体18~20は、PPS樹脂(DIC製 Z230、密度:1.53g/cm3、荷重たわみ温度:260℃(1.8MPa荷重)、曲げ弾性率:10GPa)を用いて、共押出成形法によりコア層の厚み方向外方の両方にスキン層を形成した樹脂シートを作製した。コア層の厚みは、2.0mmであり、コア層の発泡倍率は1.5倍(比重低減率33%)であった。表1には表示しないが、試験体18~20におけるコア層単体の物性は、密度:1.0g/cm3、曲げ弾性率:0.6GPaであった。これにより算出されるコア層単体の比曲げ弾性率は、6GPaであり、ソリッドシートである試験体17の6.54GPaよりも低下していた。コア層の厚み方向外方の一方に形成されたスキン層の厚みは各々、0.2mm(試験体18)、0.3mm(試験体19)及び0.5mm(試験体20)であった。すなわち、コア層の厚み方向外方の両方に形成されたスキン層の厚みの和(厚みt2)は、0.4mm(試験体18)、0.6mm(試験体19)及び1.0mm(試験体20)であった。試験体18~20の試験結果によれば、試験体17よりも軽量化を図ることができ、かつ、比曲げ剛性を向上させることができた。
【0061】
次に、試験体21~26を作製した。試験体21~26のコア層は、24mmの厚みを有するポリカーボネート発泡樹脂層である。このようにコア層を比較的厚く形成した場合においても、スキン層厚み比率が5%以上となるようにスキン層を形成すれば、効率よく剛性を向上させることができ、比曲げ弾性率を試験体3よりも高くすることができた。このように、本樹脂シートは厚み1~40mmの範囲において、スキン層の厚みが樹脂シートの厚みに対して5~50%の比率となるようにコア層の厚み方向外方にスキン層を形成することで、試験体1よりも比曲げ弾性率よりも向上することを可能とした。さらに、スキン層厚み比率が10%を超えると、比曲げ弾性率が著しく向上し、より軽量で高剛性な樹脂シートを得ることができた。
【0062】
さらに、試験体1、試験体8及び試験体27を用いて強度試験を行った。強度試験は、具体的には、各試験体の表面の上方1mの高さから1kgの鉄球を自由落下させたときに、各試験体に生じる割れを確認することにより行った。試験体27は、試験体8と同等の層構成ではあるが、コア層とスキン層とをメチルエチルケトンの有機溶剤を用いて接着して作製した。すなわち、試験体27の断面には、スキン層とコア層との間に明確な界面が存在していた。一方、試験体8は、上記の通り、共押出成形法により作製されており、樹脂シートの厚み方向中心から樹脂シートの表面に向かって上述の平均空孔率が減少することでコア層とスキン層とが形成されていた。試験体8の厚み方向断面を確認すると、コア層の総厚を100%としたときコア層の厚み方向中心から両スキン層に向かって夫々0%以上20%未満の範囲(領域A1)において平均空孔率が72%であり、スキン層の平均空孔率は2%であった。また、コア層の領域A1とスキン層との間に位置する領域A2では、領域A1からスキン層に向かって平均空孔率が72%から23%に減少しており、上述した傾斜構造を有していた。試験体1は、上述の通り、コア層のみから形成されていた。
【0063】
これら試験体1、試験体8及び試験体27に対して、1mの高さから鉄球を自由落下させたところ、試験体1は完全に破壊されが、試験体8及び試験体27には割れが生じずに破壊されなかった。
【0064】
次に、試験体8及び試験体27に対して、1.25mの高さから鉄球を自由落下させたところ、試験体27は、一部に割れが生じたものの完全に破壊されなかった。また、試験体8は、割れが生じずに破壊されなかった。これは、試験体8においては、コア層とスキン層とを一体的に形成し、平均空孔率を厚み方向中心から表面に向かって減少させたことによって外力に対する応力集中を避けることができたためと考えられる。
【符号の説明】
【0065】
1 樹脂シート、2 コア層、3 スキン層、t1 厚み、t2 厚み、A1 領域、A2 領域、C 厚み方向中心