(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063803
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】扉装置
(51)【国際特許分類】
E06B 7/28 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
E06B7/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171899
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岸上 昌史
(72)【発明者】
【氏名】山口 純一
(57)【要約】
【課題】防煙システムの作動時に開放障害が生じにくい扉装置を提供する。
【解決手段】扉装置10は、排煙設備によって排煙される第1室と第1室に隣接する第2室とを区画する壁部13に設けられる扉本体20と、第1室と第2室との間に設定圧以上の圧力差が生じたときに作動し、扉本体20の開放可能であることを示す開放可能情報を第1室11側へ出力する出力器30と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排煙設備によって排煙される第1室と前記第1室に隣接する第2室とを区画する壁部に設けられる扉本体と、
前記第1室と前記第2室との間に設定圧以上の圧力差が生じたときに作動し、前記扉本体が開放可能であることを示す開放可能情報を出力する出力器と、を有する
扉装置。
【請求項2】
前記第1室と前記第2室との間に設定圧以上の圧力差が生じたときに前記出力器に検知信号を出力する検知器をさらに備え、
前記出力器は、
前記検知信号の入力により前記開放可能情報を出力する
請求項1に記載の扉装置。
【請求項3】
前記出力器は、
前記開放可能情報を音声で案内する音声案内器である
請求項2に記載の扉装置。
【請求項4】
前記出力器は、
前記開放可能情報を表示する表示器である
請求項1または2に記載の扉装置。
【請求項5】
前記出力器は、
前記壁部と閉状態にある前記扉本体との間に形成される隙間を流れる隙間流れを動力として作動する
請求項1に記載の扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防煙区画に設けられる扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、火災時などに作動する防煙システムが知られている。防煙システムは、第1室での火災を検知すると作動する。作動中の防煙システムは、第1室の排煙を行う。これにより、第1室に隣接する第2室への煙の侵入が抑えられることから、第2室を拠点として消防活動を行うことができる。一方で、防煙システムにおいては、第1室と第2室との間に圧力差が生じる。そのため、第1室と第2室との間に設けられた扉を第1室側から開放する際に開放障害が生じるおそれがある。
【0003】
そこで、特許文献1では、ブレードとブレードを開閉する開閉機構とを有するダンパを扉に設けている。開閉機構は、扉に設けられた操作部材が操作されることによりブレードを開閉する。ブレードの開放により、第1室と第2室との圧力差、および、扉開放時の抵抗が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、操作部材の操作が必要であるとともに操作部材の操作方法がわからない場合には開放障害が生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する扉装置は、排煙設備によって排煙される第1室と前記第1室に隣接する第2室とを区画する壁部に設けられる扉本体と、前記第1室と前記第2室との間に設定圧以上の圧力差が生じたときに作動し、前記扉本体の開放に関する情報を出力する出力器と、を有する
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1室と第2室との間に圧力差が生じていたとしても扉本体の開放障害が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】扉装置の一実施形態の設置状況を模式的に示す図である。
【
図2】扉本体が閉状態にあるときの断面構造を模式的に示す図である。
【
図4】第1室側から見た扉装置を模式的に示す図である。
【
図7】(a)通常時における出力器の第3例を模式的に示す図であり、(b)作動条件の成立中における出力器の第3例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1~
図8を参照して、扉装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、扉装置10は、第1室11と第1室11に隣接する第2室12とを区画する壁部13に設けられている。
【0010】
防煙システム15は、第1室11の排煙を行う排煙設備16を有する。防煙システム15は、第1室11での火災を検知すると、排煙設備16を駆動して第1室11の排煙を行う。これにより、第2室12への煙の侵入が抑えられることから、第2室12を拠点として消火活動を行うことができる。
【0011】
なお、防煙システム15は、第1室11に隣接する第2室12の給気を行う給気設備を有していてもよい。この場合、防煙システム15は、第1室11での火災を検知すると給気設備を駆動して第2室12への給気を行う。
【0012】
扉装置10は、扉本体20を備える。扉本体20は、壁部13に形成された開口部21を開閉可能に設置されている。扉本体20は、閉状態において第1室11に臨む第1面20aと閉状態において第2室12に臨む第2面20bとを有する。扉本体20には、ドアノブ22が設けられている。扉本体20は、ドアノブ22が回転操作された状態で第2室12側へと押されることで開口部21を開放する。
【0013】
図2に示すように、扉装置10は、戸当たり25と戸止め26とを有する。
戸当たり25は、第2室12側から第1室11側への扉本体20の開放を防止する。戸当たり25は、壁部13に取り付けられる部材であってもよいし、壁部13の一部であってもよい。
【0014】
戸止め26は、戸当たり25に取り付けられている。戸止め26は、戸当たり25と閉状態にある扉本体20との間に配置される。戸止め26は、戸当たり25と閉状態にある扉本体20との間に所定の隙間27を形成する。この隙間27においては、第1室11と第2室12との間に圧力差が形成されると、その圧力差に基づく風速の隙間風28が流れる。
【0015】
ここで、本発明らが行った実験について説明する。本発明者らは、複数の被験者を対象として扉本体20を開放する際の力である可能開放力を測定する実験を行った。具体的には、第1室11と第2室12との間に圧力差を形成したうえで、扉本体20が開放可能かどうか不明なことを被験者に伝えた場合(条件1)の可能開放力と、扉本体20が確実に開放可能であることを被験者に伝えた場合(条件2)の可能開放力と、を測定した。
【0016】
図3に実験結果を示す。
図3に示すように、条件1の場合は可能開放力Fが約75N~約125Nであるのに対し、条件2の場合は可能開放力Fが約250N~約350Nであった。この実験結果から、扉本体20が確実に開放可能であることが伝えられた場合、より大きな可能開放力Fで扉本体20を開放しようとすることが実証された。なお、
図3において、同じ模様の棒グラフは、同じ被験者であることを示している。
【0017】
こうした実験結果から、第1室11と第2室12との間の圧力差により扉本体20が開放しづらくなったとしても、その扉本体20が確実に開放可能であることを周知することができれば開放障害が生じにくくなることが判明した。
【0018】
図4に示すように、扉装置10は、出力器30を有する。出力器30は、第1室11と第2室12との間に設定圧以上の圧力差が生じたことを作動条件として作動する。作動状態にある出力器30は、扉本体20が開放可能であることを示す開放可能情報を出力する。出力器30は、低圧となる第1室11に向けて開放可能情報を出力する。なお、
図3においては、出力器30の位置の一例を示している。
【0019】
(出力器の第1例)
図5に示すように、第1例の出力器35は、扉本体20が開放可能であることを表す音声を繰り返し発する音声案内器である。出力器35は、例えば「この扉は開けることができます。」といった音声案内を繰り返す。
【0020】
この場合、扉装置10は、検知器36を有する。検知器36は、作動条件の成立、すなわち第1室11と第2室12との圧力差が設定圧以上になったことを検知する。検知器36は、作動条件の成立を検知すると検知信号を出力器35に出力する。出力器35は、検知器36から検知信号が入力されているときに音声案内を繰り返す。
【0021】
図2に示したように、例えば、検知器36は、壁部13と扉本体20との間に形成される隙間27を流れる隙間流れ28の速度が設定速度以上になると出力器35に検知信号を出力する。
【0022】
こうした構成においては、電源が内蔵されるかたちで出力器35と検知器36とが一体化されていることが好ましい。これにより、出力器35および検知器36を扉本体20に後付けで容易に設置することができる。また、音声案内が流れることにより、第1室11の在室者を扉装置10へと誘導することができる。
【0023】
なお、出力器35は、扉本体20に内蔵されてもよい。また、検知器36は、第1室11の圧力を計測する第1圧力センサの計測値と第2室12の圧力を計測する第2圧力センサの計測値とに基づいて、作動条件の成立を検知してもよい。
【0024】
(出力器の第2例)
図6に示すように、第2例の出力器38は、扉本体20が開放可能であることを示す文字列を表示する表示器である。出力器38は、扉本体20の第1面20aに取り付けられる。出力器38は、例えば「この扉は開きます。」といった文字列を表示する。この場合、扉装置10は、第1例と同様に検知器36を有する。出力器38は、検知器36から検知信号が入力されているときに文字列を表示する。
【0025】
こうした構成においては、電源が内蔵されるかたちで出力器38と検知器36とが一体化されていることが好ましい。これにより、出力器35および検知器36を扉本体20に後付けで容易に設置することができる。
【0026】
(出力器の第3例)
図7に示すように、第3例の出力器40は、出力器40は、作動条件の成立中に扉本体20が開放可能であることを示す文字列が表示される表示器である。出力器40は、扉本体20の第1面20aに取り付けられる。
【0027】
具体的には、第2室12に連通して出力器40の裏面側に第2室12の圧力を作用させる圧力通路が扉本体20に設けられる。そして、
図7(a)に示すように、通常時、出力器40は、文字列が非表示状態に維持する。一方、
図7(b)に示すように、作動条件の成立中、出力器40は、高圧の第2室12の圧力が裏面側から作用することによって「この扉は開きます」という文字列を浮かび上がらせる。こうした構成によれば、電源を用いることなく出力器40を作動させることができる。
【0028】
(出力器の第4例)
図8に示すように、第4例の出力器42は、第1室11と第2室12との間に圧力差に基づく隙間流れ28の影響を受ける場所に取り付けられる。出力器42は、壁部13と扉本体20との間に形成される隙間27を流れる隙間流れ28を動力として作動する。
【0029】
出力器42は、第1室11と第2室12との圧力差が設定圧以上であるときに生じる隙間流れ28の影響を受けたときに、第1室11の在室者に扉本体20が開放可能であることを通知できるものであればよい。例えば、出力器42は、振動体、笛、羽根車などである。この場合、扉本体20の第1面20aに、出力器42の作動中は扉本体20が開放可能であることを表示する表示板が取り付けられていることが好ましい。
【0030】
こうした構成によれば、出力器42に電源が不要であるとともに出力器42を扉本体20に後付けで設置することができる。また、出力器42が笛などの音を発生させるものである場合、第1室11の在室者を扉装置10へと誘導することができる。
【0031】
(作用)
扉装置10は、第1室11と第2室12との間に設定圧以上の圧力差が生じたとき、出力器30を通じて、第1室11の在室者に対して開放可能情報を通知する。これにより、第1室11と第2室12との間に圧力差が形成された状態であっても扉本体20が確実に開放可能であることを第1室11の在室者に通知することにより、より大きな開放力を出すためのモチベーションを在室者に与えることができる。
【0032】
本実施形態の効果について説明する。
(1)第1室11の在室者に対して扉本体20の開放可能情報が出力器30から出力されることで、在室者による扉本体20の可能開放力Fを高めることができる。その結果、扉本体20の開放障害が生じにくくなる。
【0033】
(2)出力器35,38は、検知器36からの検知信号の入力によって作動する。これにより、第1室11と第2室12との間の圧力差が設定圧未満であるときの誤作動を防止することができる。
【0034】
(3)出力器30が音声案内を行う出力器35であることにより、音声案内の内容を自由に設定することができる。これにより、第1室11の在室者に対して、開放可能情報をより確実に通知することができる。また、その音声案内によって第1室11の在室者を扉本体20へと誘導することができる。
【0035】
(4)出力器30が文字列を表示する出力器38,40であることにより、その文字列の内容を自由に設定することができる。
(5)出力器30が隙間流れ28を利用して作動する出力器40であることにより、隙間流れ28の影響を受ける場所に出力器40を設置するだけでよい。これにより、既存の扉に対しても容易に出力器40を設置することができる。また、出力器40が笛などの音を発生させるものである場合には、その音によって第1室11の在室者を扉本体20へと誘導することができる。
【0036】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・出力器30は、防煙システム15からの作動信号を受けて作動する構成であってもよい。この場合、防煙システム15は、第1室11と第2室12との間の圧力差が設定圧以上となるタイミングで出力器30に作動信号を出力する。
【0037】
・出力器30は、扉本体20に設けられる構成に限らず、例えば開口部21付近の壁部13に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0038】
10…扉装置、11…第1室、12…第2室、13…壁部、15…防煙システム、16…排煙設備、20…扉本体、20a…第1面、20b…第2面、21…開口部、22…ドアノブ、25…戸当たり、26…戸止め、27…隙間、28…隙間風、30…出力器、35…第1例の出力器、36…検知器、38…第2例の出力器、40…第3例の出力器、42…第4例の出力器。