(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063817
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】回折光学素子及びこれを製造する金型
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171918
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳
(72)【発明者】
【氏名】松井 崚
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA03
2H249AA13
2H249AA39
2H249AA60
2H249AA62
(57)【要約】
【課題】スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができる回折光学素子及びこれを製造する金型を提供する。
【解決手段】光透過性を有する基板111と、基板111に対して傾斜するように突設された光透過性を有する複数の畝部112bと、を備えた回折光学素子110であって、基板111の隣り合う畝部112bの間に位置する部分に曲面形状のラウンディング112dを有する溝部112cが形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、前記基板に対して傾斜するように突設された光透過性を有する複数の畝部と、を備えた回折光学素子であって、
前記基板の隣り合う前記畝部の間に位置する部分に曲面形状のラウンディングを有する溝部が形成されている
ことを特徴とする回折光学素子。
【請求項2】
前記溝部は、底に前記ラウンディングを有し、前記ラウンディングは、前記底が平坦のときの光回折効率の値と同じ値以上の光回折効率となる大きさをなしている
ことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記光回折効率は、二次光に対する値である
ことを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記ラウンディングは、深さ(D)が110nm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記基板に布設されて前記畝部を突設された基礎部を有し、
前記ラウンディングが前記基礎部に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項6】
請求項1に記載の回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、
基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部に対して傾斜するように突設された複数の凸部とを備え、
前記基体部の隣り合う前記凸部の間に位置する部分に曲面形状のラウンディングを有する凹部が形成されている
ことを特徴とする金型。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項に記載の回折光学素子を内蔵している
ことを特徴とする導光板。
【請求項8】
画像表示装置に用いられる
ことを特徴とする請求項7に記載の導光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及びこれを製造する金型に関する。
【背景技術】
【0002】
現実世界とディスプレイ表示とを重畳して表示する画像表示装置である拡張現実(AR)用グラスや複合現実(MR)用グラスは、現実世界を視認するための透明なレンズ部を有すると共に、つる部等に実装されたディスプレイの表示を瞳に導く導光板が装着されている。AR用グラスやMR用グラスに装着される導光板は、AR用グラスやMR用グラスの装着性やデザイン性の観点から、小さくて薄く軽量であることが求められている。
【0003】
このような導光板としては、回折光学素子(DOE)を利用したものが知られている。このDOEを利用した導光板は、
図16に示すように、光γを導波させる基板2と、光γを基板2内に導く入力格子(IG)3と、光γを拡大する射出瞳拡大格子(EPEG)4と、光γを基板2から外部へ導く出力格子(OG)5とを有している。
【0004】
このような導光板1においては、光γが、入力格子3に入射されると、基板2の内部を進行するように入力格子3で回折されて射出瞳拡大格子4へ案内される。射出瞳拡大格子4に入力した光γは、
図17に示すように、波長毎に拡大された後に出力格子5へ案内され、出力格子5から基板2の外部へ出射されるようになっている。
【0005】
このような上記格子3~5等の回折光学素子は、例えば、ナノインプリントを適用して製造することができる。具体的には、例えば、
図18に示すように、まず、シリコンや石英等の光透過性を有するリジッドな平板形状の金型材料21を用意して(
図18A参照)、これに電子線ビームを照射して目的とする形状のパターンを形成することにより、基体部21a上に凸部21b及び凹部21cを有する金型(原型)20を作製する(
図18B参照)。
【0006】
続いて、金型20に形成されたパターンに合わせて熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の押型材料31を金型20に設けて溶融固化させる(
図18C参照)。そして、金型20から離型することにより、金型20のパターンを転写した凸部31b及び凹部31cを基体部31a上に有する押型30を作製する(
図18D参照)。
【0007】
次に、ガラス等の基板11上に紫外線硬化性樹脂等の樹脂材料12を布設して(
図18E参照)、押型31を樹脂材料12に押し付けて押型31のパターンを転写すると共に紫外線照射等により樹脂材料12を固化させる(
図18F参照)。そして、押型31を離型することにより(
図18G参照)、回折光学素子10を作製することができる。
【0008】
このようにして製造される回折光学素子10は、
図19に示すように、基板11上の基礎部12a上に複数の畝部12bが設けられると共に、隣り合う畝部12bの間に溝部12cがそれぞれ形成される。そして、回折光学素子10は、入射された光γの方向と異なる方向へ光γを出射することができるように、その材料の屈折率が設定されると共に、ピッチ等の大きさが設定されている。
【0009】
なお、回折光学素子は、特定次数の回折強度を高めることができるように、
図20A~20Eに示すような各種の形状が考えられている。具体的には、その形状は、
図20Aが「バイナリ(2D)」、
図20B,20Cが「バイナリ(マルチ)」、
図20Dが「ブレイズド(3D)」、
図20Eが「スランテッド(3D)」と言われており、
図20A~20Eの順に回折強度が強くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図20Eに示すようなスランテッド形状の回折光学素子においては、基板の厚さ方向に対して畝部が傾斜するようにして突設されていることから、前述したようにナノインプリントで製造すると、以下のような問題があった。
【0012】
すなわち、上述したように、ナノインプリントの金型20に押型材料31を設けて押型30を形成して離型するときに、金型20や押型30の凸部21b,31bの先端部分に負荷が掛かり易く(
図21A参照)、先端部分が損傷し易くなっていた。同様に、基板11上の樹脂材料12に押型30を押し付けて回折光学素子10を形成して離型するときに、押型30の凸部31bや回折光学素子10の畝部12bの先端部分に負荷が掛かり易く(
図21B参照)、先端部分が損傷し易くなっていた。
【0013】
そのため、スランテッド形状の金型20や押型30は、他の形状よりも寿命が短くなり易くなると共に、スランテッド形状の回折光学素子10も、他の形状よりも歩留まりが低くなり易く、高コスト化の一因となっていた。
【0014】
このようなことから、本発明は、スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができる回折光学素子及びこれを製造する金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した課題を解決するための、本発明に係る回折光学素子は、光透過性を有する基板と、前記基板に対して傾斜するように突設された光透過性を有する複数の畝部と、を備えた回折光学素子であって、前記基板の隣り合う前記畝部の間に位置する部分に曲面形状のラウンディングを有する溝部が形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る回折光学素子は、上述した回折光学素子において、前記溝部が、底に前記ラウンディングを有し、前記ラウンディングは、前記底が平坦のときの光回折効率の値と同じ値以上の光回折効率となる大きさをなしていると好ましい。
【0017】
また、本発明に係る回折光学素子は、上述した回折光学素子において、前記光回折効率が、二次光に対する値であると好ましい。
【0018】
また、本発明に係る回折光学素子は、上述した回折光学素子において、前記ラウンディングの深さ(D)が110nm以下であると好ましい。
【0019】
また、本発明に係る回折光学素子は、上述した回折光学素子において、前記基板に布設されて前記畝部を突設された基礎部を有し、前記ラウンディングが前記基礎部に形成されていると好ましい。
【0020】
そして、本発明に係る金型は、本発明に係る回折光学素子のパターン形状が形成され、前記回折光学素子の前記パターンを形成する押型を製造する金型であって、基体部と、前記回折光学素子の前記パターンに対応して前記基体部に対して傾斜するように突設された複数の凸部とを備え、前記基体部の隣り合う前記凸部の間に位置する部分に曲面形状のラウンディングを有する凹部が形成されていることを特徴とする。
【0021】
くわえて、本発明に係る導光板は、本発明に係る回折光学素子を内蔵していることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る導光板は、上述した導光板において、画像表示装置に用いられると好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る回折光学素子によれば、製造するにあたって押型を引き離すときの、畝部や押型の凸部の先端部分に掛かる負荷を大幅に低減することができ、先端部分の損傷を大きく抑制することができる。そのため、歩留まりを高めることができると共に、スランテッド形状の押型の寿命を延ばすことができる。その結果、スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができる。
【0024】
また、本発明に係る金型によれば、製造するにあたって押型を引き離すときの、押型も含めた凸部の先端部分に掛かる負荷を大幅に低減することができ、先端部分の損傷を大幅に抑制することができる。そのため、スランテッド形状であっても寿命を延ばすことができると共に、スランテッド形状の押型の歩留まりを高めることができる。その結果、スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る回折光学素子の主な実施形態の概略構造を表す斜視図である。
【
図3】
図2のIII-III線断面矢線視図である。
【
図4】本発明に係る金型の主な実施形態の概略構造を表す斜視図である。
【
図7】
図4の金型の製造方法及び
図1の回折光学素子の製造方法の説明図である。
【
図8】
図7の製造方法における離型時の説明図である
【
図9】電子線スポットビームを説明する概略図である。
【
図10】電子線可変成形ビームを説明する概略図である。
【
図11】回折光学素子の主要部のサイズを説明する一部抽出拡大断面図である。
【
図12】回折光学素子の内部へ入射した光を説明するモデル図である。
【
図13】本発明に係る回折光学素子の実施例におけるラウンディングの深さDとTM偏光のときの+2次回折光の光回折効率との関係を表すグラフである。
【
図14】本発明に係る回折光学素子の実施例におけるラウンディングの深さDとTE偏光のときの+2次回折光の光回折効率との関係を表すグラフである。
【
図15】本発明に係る回折光学素子の実施例におけるラウンディングの深さDとTM偏光のときの+2次回折光の光回折効率及びTE偏光のときの+2次回折光の光回折効率の平均値との関係を表すグラフである。
【
図16】導光板の一例の概略構造を説明する斜視図である。
【
図18】回折光学素子の製造方法の一例の説明図である。
【
図19】回折光学素子の一例の概略構造を表す断面図である。
【
図20】回折光学素子の他の例の概略構造を表す断面図である。
【
図21】スランテッド形状のときの
図18の製造方法における離型時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型の実施形態を図面に基づいて以下に説明する。なお、本発明は、図面に基づいて説明する以下の実施形態のみに限定されるものではなく、各実施形態でそれぞれ説明している技術的事項を必要に応じて適宜組み合わせることが可能なものである。また、図面においては、理解を容易にするために回折光学素子の概略構成を記載しており、適宜、寸法や縮尺等を実際と変えて記載している場合がある。
【0027】
[主な実施形態]
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型の主な実施形態を
図1~10に基づいて以下に説明する。
【0028】
本実施形態に係る回折光学素子は、
図1~3に示すように、光透過性を有する無色透明なガラス等からなる基板111上に、光透過性を有する無色透明な樹脂等からなる基礎部112aが布設されている。基礎部112a上には、光透過性を有する無色透明な樹脂等からなる複数の畝部112bが基板111の面111a(
図1~3中、X-Y平面)に対して傾斜するように(
図1~3中、Z軸に対して傾くように)それぞれ突設されており、スランテッド形状となっている。
【0029】
隣り合う畝部112bの間には、溝部112cがそれぞれ形成されている。溝部112cの底、すなわち、隣り合う畝部112bの間の基礎部112aの面上には、溝部112cの長手方向(
図1~3中、X軸方向)に直交する方向に沿った断面形状(
図1~3中、Y-Z断面形状)で凹型の曲面をなすラウンディング112dが夫々形成されている。
【0030】
言い換えると、基板111の隣り合う畝部112bの間に位置する部分に、曲面形状のラウンディング112dを底に有する溝部112cがそれぞれ形成されている。これらラウンディング112dは、溝部112cの底が平坦、すなわち、基板111の面111aに沿って形成されているときの光回折効率の値と同じ値以上の光回折効率となる大きさの曲面(曲率)をなしている。
【0031】
なお、「光回折効率」とは、入射光量に対する回折光量の割合のことである。ここで、回折光量として、1次回折の光量や3次回折の光量を用いることもできるが、ここでは2次回折の光量を用いた。
【0032】
他方、回折光学素子110の製造に使用する本実施形態に係る金型(原型)は、
図4~6に示すように、シリコンや石英等の光透過性を有する平板形状の基体部121a上に、回折光学素子110のパターンに対応した凸部121bが一体的に複数突設されている。これら凸部121bは、基体部121aに対して(
図4~6中、X-Y平面に対して)傾斜するように(
図4~6中、Z軸に対して傾くように)基体部121a上に複数突設されたスランテッド形状となっている。
【0033】
隣り合う凸部121bの間には、凹部121cがそれぞれ形成されている。凹部121cの底、すなわち、隣り合う凸部121bの間の基体部121aの面上には、凹部121cの長手方向(
図4~6中、X軸方向)に直交する方向に沿った断面形状(
図4~6中、Y-Z断面形状)で凹型の曲面をなすラウンディング121dが夫々形成されている。
【0034】
言い換えると、基体部121aの隣り合う凸部121bの間に位置する部分に、曲面形状のラウンディング121dを底に有する凹部121cがそれぞれ形成されている。これらラウンディング121dは、回折光学素子110の溝部112cの底のラウンディング112dと同じ大きさの曲面(曲率)をなしている。
【0035】
このような本実施形態に係る金型120の製造方法及び金型120を使用したナノインプリントによる本実施形態に係る回折光学素子110の製造方法を次に説明する。
【0036】
まず、シリコンや石英等の光透過性を有するリジッドな平板形状の金型材料121を用意して(
図7A参照)、これにレンズLを介して光源Sからの電子線ビームである電子線スポットビームBsを照射して(
図9参照)、目的とするスランテッド形状に形成する。これにより、傾斜した凸部121b及び凹部121cを基体部121a上に有すると共にラウンディング121dを形成された金型(原型)120を作製する(
図7B参照)。
【0037】
続いて、金型120に形成された上述のパターンに合わせて熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等の押型材料131を金型120に設けて溶融固化させる(
図7C参照)。そして、金型120から離型することにより、金型120のパターンを転写した凸部131b及び凹部131cを基体部131a上に有する押型130を作製する(
図7D参照)。このようにして作製された押型130の凸部131bの先端(
図7D中、下端)は、金型120のラウンディング121dの曲面に対応した形状のラウンディング131dが転写されて形成されている。
【0038】
そのため、
図8Aに示すように、金型120から押型130を引き離すとき、押型130の凸部131bの先端のラウンディング131dが、金型120のラウンディング121dや凹部121cの開口部周辺で引っ掛かってしまうことを防止することができる。これにより、金型120や押型130の凸部121b,131bの先端部分に掛かる負荷を大幅に低減することができ、金型120や押型130の凸部121b,131bの損傷を大きく抑制することができる。
【0039】
次に、ガラス等の基板111上に紫外線硬化性樹脂等の光透過性を有する樹脂材料(屈折率:1.7~2.2程度)112を布設して(
図7E参照)、押型131を樹脂材料112に押し付けて押型131のパターンを転写すると共に紫外線照射等により樹脂材料112を固化させる(
図7F参照)。
【0040】
そして、押型131を離型することにより(
図7G参照)、回折光学素子110を作製することができる。このようにして作製された回折光学素子110の溝部112cの底には、押型130の凸部131bの先端(
図7G中、下端)の形状が転写、すなわち、金型120のラウンディング121dの曲面に対応したラウンディング112dが形成されている。
【0041】
そのため、
図8Bに示すように、回折光学素子110から押型130を引き離すとき、押型130の凸部131bの先端のラウンディング131dが、回折光学素子110のラウンディング112dや溝112cの開口部周辺で引っ掛かってしまうことを防止することができる。これにより、回折光学素子110の畝部112bや押型130の凸部131bの先端部分に掛かる負荷を大幅に低減することができ、回折光学素子110の畝部112bや押型130の凸部131bの損傷を大きく抑制することができる。
【0042】
そして、このようにして得られた回折光学素子120を内蔵する導光板は、画像表示装置であるAR用グラスやMR用グラスに装着され、つる部等に実装されたディスプレイの表示を瞳に導いて、透明なレンズ部から視認された現実世界に合成することができるようになる。
【0043】
このような本実施形態に係る金型120においては、先に説明したように、金型120から押型130を引き離すときの、金型120や押型130の凸部121b,131bの先端部分の損傷を大きく抑制することができる。そのため、スランテッド形状の金型120の寿命を延ばすことができると共に、スランテッド形状の押型130の歩留まりを高めることができ、コストの上昇を抑えることができる。
【0044】
また、本実施形態に係る回折光学素子120においては、先に説明したように、回折光学素子120から押型130を引き離すときの、回折光学素子110の畝部112bや押型130の凸部131bの先端部分の損傷を大きく抑制することができる。そのため、スランテッド形状の押型130の寿命を延ばすことができると共に、スランテッド形状の回折光学素子120の歩留まりを高めることができ、コストの上昇を抑えることができる。
【0045】
したがって、本実施形態に係る回折光学素子120及び金型110によれば、スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができる。
【0046】
また、回折光学素子120は、ラウンディング112dが、溝部112cの底が平坦のときの光回折効率の値と同じ値以上の光回折効率となる大きさの曲面(曲率)をなしているので、光学特性の向上も併せて図ることができる。
【0047】
また、従来は、金型材料に電子線ビームを照射してエッチングにより溝部の底に角部を形成するために、エッチングレートの小さい金型材料(例えば、Si等)上にエッチングレートの大きい金型材料(例えば、SiO2等)を設けてエッチングレートの相違を利用していた。
【0048】
しかしながら、本実施形態に係る金型110は、凹部121cの底にラウンディング121dが形成されている、すなわち、凹部121cの底に角部を形成する必要がない。そのため、エッチングレートの異なる二種類の金型材料を重ね合わせて適用する必要がなく、材料費及び製作に要する手間を削減することができ、低コスト化をさらに図ることができる。
【0049】
また、電子線スポットビームBsにより円形パターンを並べるように金型120を加工することができるので、スランテッド形状の金型120を製造する際の金型材料121の加工を容易に行うことができる。
【0050】
[他の実施形態]
なお、前述した実施形態においては、先端部が円形状の電子線スポットビームBsを金型材料121に照射して金型120を加工するようにしたが、本発明はこれに限らない。他の実施形態として、例えば、
図10に示すように、光源Sから複数の成形スリットF1,F2及びレンズLを介することにより、先端部を四角形状とした電子線ビームである電子線可変成形ビームBvを金型材料121に照射して金型120を加工することも可能である。
【0051】
しかしながら、前述した実施形態のように、先端部が円形状の電子線スポットビームBsを金型材料121に照射して金型120を加工すると、スランテッド形状の金型120の加工を容易に行うことができるようになるので、好ましい。
【0052】
また、前述した実施形態においては、断面半円形状や半楕円形状のラウンディング112dを底に有する溝部112cが形成された回折光学素子110について説明した。しかしながら、本発明は、これに限らず、曲面形状のラウンディングを少なくとも一部に有する溝部が形成された回折光学素子であればよい。
【0053】
また、前述した実施形態において、畝部のピッチや傾斜の角度等の各種数値は一例であり、本発明は、これらの数値に限定されるものではなく、他の数値とすることも可能である。
【実施例0054】
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型並びに金型の製造方法の実施例を以下に具体的に説明する。なお、本発明は、具体的に説明する以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
〈光学シミュレーションモデルの構築〉
例として、青色(波長450nm)の入射光向けにシミュレーションモデルを構築した。回折光学素子の構造モデルは、
図11に示すように、ピッチPを350nm、線幅Wを150nm、高さHを300nm、角度θを60°、材料屈折率nを1.9とした。また、ラウンディングの形状モデルは、スランテッド形状をなす底面の深さDで表して、ラウンディングの深さDの増加に伴って、高さHの値を減少させることによって、溝部の深さを一定に保持するようにした(H+D=const.)。そして、上記構造モデルと上記形状モデルとを重ね合わせることにより、光学シミュレーションモデルを構築した。
【0056】
〈光学シミュレーションモデルの実施〉
シミュレーションソフトとして、米国RSoft Design Group社製「DiffractMOD」を使用し、シミュレーション方法として、厳密結合波理論(RCWA)を適用した。また、
図12に示すように、回折光学素子に入射する光γは、基板に対して垂直方向(入射角0°)としTM偏光及びTE偏光をそれぞれ適用した。そして、ラウンディングの深さDを変化させたときの、+2次回折した光の回折効率(入射光量に対する回折光量の割合)をそれぞれ求めて、その平均値を算出した。
【0057】
〈光学シミュレーションの結果〉
その結果を下記の表1及び
図13~15に示す。
【0058】
【0059】
表1及び
図13~15からわかるように、ラウンディングの深さDが増加すると、TM偏光の光回折効率が減少するものの、TE偏光の光回折効率が増加することにより、深さDが0のとき、すなわち、溝部の底が平坦のときと比べて、光回折効率は平均値が大きくなった。具体的には、ラウンディングの深さDが110nm以下であると、光回折効率の平均値(54%)を、溝部の底が平坦のときの光回折効率の平均値以上とすることができる。
【0060】
これらのことから、回折光学素子は、スランテッド形状であるとき、溝部の底にラウンディングを有すると、光学特性が向上することを確認できた。
本発明に係る回折光学素子及びこれを製造する金型は、スランテッド形状であってもコストの上昇を抑えることができるので、各種産業において、極めて有益に利用することができる。