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特開2024-63819非水二次電池の製造方法及び非水二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063819
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】非水二次電池の製造方法及び非水二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20240507BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240507BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240507BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/66 A
H01M50/403 B
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171922
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 諒平
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 舜也
【テーマコード(参考)】
5H017
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017AS10
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE05
5H017HH00
5H017HH05
5H021BB05
5H021HH00
5H029AJ11
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029CJ01
5H029CJ07
5H029CJ28
5H029DJ07
5H029HJ00
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】捲回体の状態の電極体において、ヤング率が大きい金属箔を有する極板が備える合剤層のうち内周側に面する合剤層とセパレータとの密着性を向上可能とした非水二次電池の製造方法及び非水二次電池を提供する。
【解決手段】正極基材を備える正極板21と、正極基材よりもヤング率が大きい負極基材を備える負極板24と、第1セパレータ27Aと、第2セパレータ27Bと、に対して張力T1~T4を付与しながら捲回することで電極体20を製造する工程を含み、電極体20を製造する工程では、負極板24が備える負極合剤層のうち内周側に面する負極合剤層と接するように第1セパレータ27Aを配置し、外周側に面する負極合剤層と接するように第2セパレータ27Bを配置し、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bに対して張力T3、T4を付与する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属箔を備える第1極板と、前記第1金属箔よりもヤング率が大きい第2金属箔を備える第2極板と、第1セパレータと、第2セパレータと、に対して張力を付与しながら積層した状態で捲回することで電極体を製造する工程を含み、
前記電極体を製造する工程では、
前記第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する前記合剤層と接するように前記第1セパレータを配置し、
前記第2極板が備える合剤層のうち外周側に面する前記合剤層と接するように前記第2セパレータを配置し、
前記第1セパレータの歪みが前記第2セパレータの歪みよりも大きくなるように、前記第1セパレータ及び前記第2セパレータの各々に対して張力を付与する
非水二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1極板は、正極板であり、
前記第2極板は、負極板である
請求項1に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成され、
前記第2金属箔は、銅または銅を主成分とする合金から構成される
請求項2に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1セパレータのヤング率は、前記第2セパレータのヤング率よりも小さい
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記電極体を製造する工程において、前記第1セパレータに対する張力が、前記第2セパレータに対する張力よりも大きくなるように、前記第1セパレータに張力を付与する
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項6】
第1金属箔を備える第1極板と、前記第1金属箔よりもヤング率が大きい第2金属箔を備える第2極板と、が第1セパレータ及び第2セパレータを介して積層された状態で捲回された電極体を備え、
前記第1セパレータは、前記第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する前記合剤層と接し、
前記第2セパレータは、前記第2極板が備える合剤層のうち外周側に面する前記合剤層と接し、
前記第1セパレータの歪みは、前記第2セパレータの歪みよりも大きい
非水二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板と負極板との間にセパレータが介在された状態で捲回された電極体をケースに収容した非水二次電池の製造方法及び非水二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水二次電池では、正極板と負極板との間にセパレータが介在されて構成される電極体を備える。電極体は、一例として、正極板と負極板とがセパレータを介して積層された状態で捲回された捲回体である(例えば、特許文献1)。電極体の製造方法の一例は、正極板、負極板、及びセパレータの各層に張力を付与しつつ、各層を積層しながら巻芯に対して巻き付ける。巻き付けが完了した後には、各層が切断されることで張力が解消される。このとき、電極体は、電極体を構成する各層の歪みがわずかに緩和されるものの、張力が解消された後の内部応力が内周側の層を巻き締める拘束力として作用することで捲回体の状態が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/007015号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
正極板は、正極基材の一例としてアルミニウム箔を備える。負極板は、負極基材の一例として銅箔を備える。負極板が備える銅箔は、正極板が備えるアルミニウム箔よりもヤング率が大きい。したがって、電極体の製造過程において張力が解消された際には、負極板の歪みがわずかに緩和された場合でも負極板の内部応力(内周側の層を巻き締める拘束力)が大きく減少する。そのため、電極体の製造過程において張力が解消されると、負極板が備える負極合剤層のうち内周側に面する負極合剤層と接するセパレータに対する拘束力が減少し易いことから当該セパレータに緩みが生じる場合がある。
【0005】
この場合、負極板が備える負極合剤層のうち内周側に面する負極合剤層では、セパレータとの接触が不十分な箇所が生じる。負極合剤層のうちセパレータとの接触が不十分な箇所では、非水電解液に含まれる被膜形成剤と負極合剤層との反応による生成物である被膜の形成不良が生じる。結果として、負極合剤層の表面に形成される被膜の厚さにムラができる。被膜形成剤は、例えば、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)である。負極合剤層のなかで被膜が厚い部分は、相対的に抵抗が高い部分になるため金属リチウムの析出を招く。
【0006】
なお、例えば、正極基材のヤング率が負極基材のヤング率よりも大きい場合、正極板が備える正極合剤層のうち内周側に面する正極合剤層と接するセパレータに緩みが生じ易くなる。その結果、正極合剤層とセパレータとの接触が不十分な箇所が生じることで、正極板における局所的な抵抗の増加、ひいては電池性能の悪化を招く。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための非水二次電池の製造方法は、第1金属箔を備える第1極板と、前記第1金属箔よりもヤング率が大きい第2金属箔を備える第2極板と、第1セパレータと、第2セパレータと、に対して張力を付与しながら積層した状態で捲回することで電極体を製造する工程を含み、前記電極体を製造する工程では、前記第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する前記合剤層と接するように前記第1セパレータを配置し、前記第2極板が備える合剤層のうち外周側に面する前記合剤層と接するように前記第2セパレータを配置し、前記第1セパレータの歪みが前記第2セパレータの歪みよりも大きくなるように、前記第1セパレータ及び前記第2セパレータの各々に対して張力を付与する。
【0008】
上記課題を解決するための非水二次電池は、第1金属箔を備える第1極板と、前記第1金属箔よりもヤング率が大きい第2金属箔を備える第2極板と、が第1セパレータ及び第2セパレータを介して積層された状態で捲回された電極体を備え、前記第1セパレータは、前記第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する前記合剤層と接し、前記第2セパレータは、前記第2極板が備える合剤層のうち外周側に面する前記合剤層と接し、前記第1セパレータの歪みは、前記第2セパレータの歪みよりも大きい。
【0009】
上記製造方法もしくは上記構成によれば、第2金属箔のヤング率が相対的に大きいことから、第2極板に対する張力が解消された状態では第2金属箔のわずかな歪みの緩和量であっても、第2極板が内周側の層を巻き締める内部応力が減少し易い。そのため、第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する合剤層と接する第1セパレータには緩みが生じ易い。第1セパレータの歪みが相対的に大きくなるように張力を付与することで、第1セパレータがより薄く引き延ばされた状態で捲回される。この状態から仮に第2金属箔の内部応力が減少した場合であっても、第1セパレータの歪みが緩和された際の厚さの復元量が大きいため、第2極板が備える合剤層と第1セパレータとが接触した状態が維持される。結果として、第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する合剤層と第1セパレータとの密着性を向上できる。
【0010】
上記製造方法において、前記第1極板は、正極板であり、前記第2極板は、負極板であってもよい。第2極板が負極板である場合、仮に負極板が備える負極合剤層のうち内周側に面する負極合剤層と第1セパレータとの接触が不十分な箇所が存在すると、被膜の厚さにムラができる場合がある。このような場合には、負極合剤層のなかで被膜が厚い部分の抵抗が高い状態となるため金属リチウムの析出を招く。この点、第1セパレータの歪みが相対的に大きくなるように張力を付与することで、内周側に面する負極合剤層と第1セパレータとの密着性が向上されるため、金属リチウムの析出を抑制できる。
【0011】
上記製造方法において、前記第1金属箔は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成され、前記第2金属箔は、銅または銅を主成分とする合金から構成されてもよい。第1金属箔がアルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成されるとともに、第2金属箔が銅または銅を主成分とする合金から構成される場合、第1金属箔と第2金属箔とのヤング率の差異によって、第1セパレータが緩み易くなる。このような場合であっても、第1セパレータの歪みを第2セパレータの歪みよりも大きくすることで、第2極板が備える合剤層のうち内周側に面する合剤層と第1セパレータとの密着性を向上できる。
【0012】
上記製造方法において、前記第1セパレータのヤング率は、前記第2セパレータのヤング率よりも小さくてもよい。上記製造方法によれば、電極体の製造時において、仮に第1セパレータ及び第2セパレータに同じ張力を付与しながら捲回した場合にも、ヤング率の差異によって第1セパレータの歪みを第2セパレータの歪みよりも大きくすることができる。
【0013】
上記製造方法において、前記電極体を製造する工程において、前記第1セパレータに対する張力が、前記第2セパレータに対する張力よりも大きくなるように、前記第1セパレータに張力を付与してもよい。上記製造方法によれば、仮に第1セパレータのヤング率と第2セパレータのヤング率とが同じ場合にも、張力の差異によって第1セパレータの歪みを第2セパレータの歪みよりも大きくすることができる。したがって、第1セパレータと第2セパレータとを同一の材料で構成することも可能になるため、製造コストを削減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、捲回体の状態の電極体において、ヤング率が大きい金属箔を有する極板が備える合剤層のうち内周側に面する合剤層とセパレータとの密着性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の斜視図である。
図2図2は、電極体を展開した状態を示す斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線から見た断面図である。
図4図4は、正極板、負極板、及びセパレータを捲回して電極体を製造する際の構成を示す模式図である。
図5図5は、電極体の断面構造を示す模式的に示す断面図である。
図6図6は、捲回時における第1セパレータの歪みが第2セパレータの歪みと同等以下の場合の電極体の断面構造を表す模式的に示す断面図である。
図7図7は、捲回時における第1セパレータの歪みが第2セパレータの歪みよりも大きい場合の電極体の断面構造を表す模式的に示す断面図である。
図8図8は、図7に示す第1セパレータを拡大して示す模式図である。
図9図9は、正極板、負極板、及びセパレータを捲回して電極体を製造する際の構成の変更例を示す模式図である。
図10図10は、実施例1及び比較例1において、負極合剤層の抵抗値を測定した位置を示す模式図である。
図11図11は、実施例1において、負極合剤層の抵抗値を測定した結果を示すグラフである。
図12図12は、比較例1において、負極合剤層の抵抗値を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図1図9を参照して説明する。
[リチウムイオン二次電池]
図1に示すように、非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池10は、ケース11と電極体20とを備える。ケース11は、上側に開口を有した偏平な有底角型の外形を有する。ケース11は、電極体20と非水電解液とを収容する。蓋体12は、ケース11の開口を閉塞する。ケース11は、蓋体12を取り付けることで直方体形状の密閉された電槽を構成する。
【0017】
蓋体12には、正極の外部端子13Aと負極の外部端子13Bとが設けられる。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bに電気的に接続される。蓋体12は、非水電解液を注入するための注入口15を備える。なお、外部端子13A,13Bの形状は、図1に示す形状に限定されず、任意の形状でよい。
【0018】
[電極体]
図2に示すように、電極体20は、第1極板の一例である正極板21と第2極板の一例である負極板24とがセパレータ27を介して積層された積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極板21、負極板24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。電極体20は、セパレータ27を挟んで積層された正極板21と負極板24とが、その帯形状の幅方向D2に沿って延びる捲回軸L1の周りに捲回された構造を有している。
【0019】
図3に示すように、電極体20は、捲回前の積層体の状態では、積層方向D3において、正極板21、セパレータ27、負極板24、及びセパレータ27が、この順に積層される。なお、積層方向D3は、長手方向D1と幅方向D2とを含む面に対して直交する方向である。
【0020】
[正極板]
正極板21は、正極基材22と、正極合剤層23とを備える。正極基材22は、長尺な箔状の部材であって、第1金属箔の一例である。正極合剤層23は、正極基材22の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。正極基材22は、幅方向D2の一端に、正極合剤層23が形成されずに正極基材22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0021】
正極基材22は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極基材22のヤング率は、例えば、60GPa以上80GPa以下である。正極基材22の厚さは、例えば、10μm以上20μm以下である。
【0022】
正極合剤層23は、正極活物質、正極導電剤、及び正極結着剤を含む。また、正極合剤層23の前駆体となる正極合剤ペーストは、さらに正極溶媒を含む。正極溶媒は、例えば、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液である。
【0023】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0024】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物(NCM)であって、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)である。
【0025】
正極導電剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びスチレンブタジエンラバー(SBR)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0026】
なお、正極板21は、正極側未塗工部22Aと正極合剤層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0027】
[負極板]
負極板24は、負極基材25と、負極合剤層26とを備える。負極基材25は、長尺な箔状の部材であって、第2金属箔の一例である。負極合剤層26は、負極基材25の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。負極基材25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合剤層26が形成されずに負極基材25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0028】
負極基材25は、銅または銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極基材25のヤング率は、正極基材22のヤング率よりも大きい。負極基材25のヤング率は、例えば100GPa以上120GPa以下である。負極基材25の厚さは、例えば、5μm以上20μm以下である。
【0029】
負極合剤層26は、負極活物質、負極導電剤、負極増粘剤、及び負極結着剤を含む。また、負極合剤層26の前駆体となる負極合剤ペーストは、さらに負極溶媒を含む。負極溶媒は、一例として、水である。
【0030】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極活物質は、黒鉛粒子を非晶質炭素層で被覆した複合化粒子であってもよい。
【0031】
負極導電剤は、例えば、正極導電剤と同様のものを用いることができる。負極増粘剤は、一例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。なお、CMCは、ナトリウム塩を含む添加剤の一例である。また、CMCは、負極合剤ペーストの粘度を高めるための増粘剤としても機能する。負極結着剤は、PVDF、PVA、及びSBRからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0032】
[セパレータ]
セパレータ27は、正極板21と負極板24との接触を防ぐとともに、正極板21及び負極板24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0033】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の多孔性の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及びイオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0034】
セパレータ27の断面積は、例えば、2つのセパレータ27の断面積が同程度になるように構成されている。セパレータ27の断面積は、例えば、2つのセパレータ27の断面積の差が、2つのセパレータ27のうち断面積が大きい方のセパレータ27の断面積に対して2%以下である。セパレータ27のヤング率は、正極基材22のヤング率、及び、負極基材25のヤング率よりも小さく、例えば、500MPa以上2000MPa以下である。なお、2つのセパレータ27のヤング率が互いに異なっていてもよい。
【0035】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートからなる群から選択される一種または二種以上の材料である。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)である。
【0036】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、添加剤として被膜形成剤が添加される。被膜形成剤は、例えば、リチウム塩の一例であるリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)である。
【0037】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
リチウムイオン二次電池10の製造方法は、源泉工程において、正極板21、負極板24、及びセパレータ27の各々を製造する。その後、正極板21、負極板24、及び2つのセパレータ27を積層した状態で捲回することで電極体20を製造する。
【0038】
図4に示すように、電極体20の製造には、正極板原反21Rと、負極板原反24Rと、2つのセパレータ原反27Rとを用いる。正極板原反21Rは、正極板21がロール状に捲回された原反である。負極板原反24Rは、負極板24がロール状に捲回された原反である。セパレータ原反27Rは、セパレータ27がロール状に捲回された原反である。
【0039】
電極体20を製造する工程では、正極板原反21Rから供給される正極板21と、負極板原反24Rから供給される負極板24と、2つのセパレータ原反27Rから供給されるセパレータ27との計4層を巻芯Cに対して巻き付ける。巻芯Cの形状は、一例として円筒形状であるが、外周面の一部に平坦面を有してもよいし、角筒状であってもよいし、断面視で楕円形状であってもよい。
【0040】
電極体20を製造する工程では、正極板21及び負極板24の何れか一方が電極体20の最内周に配置される。2つのセパレータ27は、それぞれ正極板21と負極板24との間に挟み込まれるように配置される。
【0041】
2つのセパレータ27の一方は、第1セパレータ27Aである。第1セパレータ27Aは、正極板21において外周側に面する正極合剤層23と接するとともに、負極板24において内周側に面する負極合剤層26と接する。2つのセパレータ27の他方は、第2セパレータ27Bである。第2セパレータ27Bは、正極板21において内周側に面する正極合剤層23と接するとともに、負極板24において外周側に面する負極合剤層26と接する。なお、以下では、第1セパレータ27Aと第2セパレータ27Bとを区別しない場合には、単にセパレータ27として記載する。
【0042】
図4では、一例として、正極板21が電極体20の最内周に配置される場合を図示している。この場合、電極体20の中心部では、巻芯Cに対して正極板21、第1セパレータ27A、負極板24、及び第2セパレータ27Bの積層順で捲回される。
【0043】
また、正極板21は、張力T1が作用された状態で巻芯Cに巻き付けられる。負極板24は、張力T2が作用された状態で巻芯Cに巻き付けられる。第1セパレータ27Aは、張力T3が作用された状態で巻芯Cに巻き付けられる。第2セパレータ27Bは、張力T4が作用された状態で巻芯Cに巻き付けられる。一例として、正極板21に対する張力T1及び負極板24に対する張力T2は、正極板21の歪みと負極板24の歪みとが等しくなるように適宜決定される。
【0044】
正極板21、負極板24、及び2つのセパレータ27の各層について必要な長さを巻き付けた後には、各層が切断されて終端が形成される。電極体20は、例えば、第1セパレータ27Aまたは第2セパレータ27Bが最外周に位置するように各層の長さが決定される。そして、第1セパレータ27Aまたは第2セパレータ27Bのうち最外周に位置するセパレータ27がテープ28(図5参照)によって固定される。
【0045】
電極体20を製造する工程では、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように、第1セパレータ27Aに対して張力T3を付与するとともに、第2セパレータ27Bに対して張力T4を付与する。
【0046】
セパレータ27の歪みは、セパレータ27に対して張力T3,T4が付与されていない状態の長さLと、セパレータ27に対して張力T3,T4が付与されることによる伸び量(長さの増加量)ΔLとを用いて(ΔL+L)/Lとして表すことができる。セパレータ27の歪みが大きいことは、セパレータ27が長手方向D1により薄く引き延ばされた状態であることを意味する。第1セパレータ27Aの歪みは、一例として、0.1%以上0.2%以下である。第2セパレータ27Bの歪みは、一例として、0.05%以上0.1%以下である。
【0047】
図5に示すように、巻芯Cに各層を捲回した後には、電極体20に対して偏平プレス工程が行われる。偏平プレス工程では、巻芯Cに捲回された電極体20を巻芯Cから取り外した後、電極体20が偏平になるように押圧される。このとき、第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bには、厚さが減少するような荷重が作用することになる。なお、図5では、第1セパレータ27Aが電極体20の最外周に位置する構成を図示している。また、図5では、電極体20の中心部分の層構造を省略して図示するとともに、第2セパレータ27Bの外周面を太線で図示している。
【0048】
例えば、第1セパレータ27Aは、正極板21、負極板24、及び第2セパレータ27Bのそれぞれよりも1周分以上長くなるように構成される。第2セパレータ27Bは、負極板24よりも長くなるように構成される。正極板21の長さは、一例として負極板24の長さよりも短いが、負極板24の長さと同程度でもよいし、負極板24の長さよりも長くてもよい。第1セパレータ27Aは、正極板21の終端を覆うとともに、第2セパレータ27Bの外周面を覆う。第1セパレータ27Aの終端は、第1セパレータ27Aの外周面にテープ28によって固定される。テープ28は、一例として、1つの面が粘着面で構成された樹脂製の粘着テープである。
【0049】
その後、正極側未塗工部22Aを圧接して正極側集電部20Aを形成する。同様に、負極側未塗工部25Aを圧接して負極側集電部20Bを形成する。以上の手順により、電極体20が製造される。
【0050】
続いて、電極体20をケース11内に収容する。このとき、正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aと電気的に接続される。負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bと電気的に接続される。ケース11の上部の開口は、蓋体12によって塞がれる。次いで、加熱処理によって電極体20の水分を除去した後、ケース11内に非水電解液を注入する。以上の手順により、リチウムイオン二次電池10が組み立てられる。
【0051】
[セパレータの緩み]
電極体20を製造する工程において、正極板21と負極板24と2つのセパレータ27との計4層を巻芯Cに巻き付けた後に各層が切断されると、各層に付与された張力T1~T4が解消される。このとき、電極体20を構成する各層では、張力T1~T4が解消された後の内部応力が内周側の層を巻き締める拘束力として作用することで、電極体20が捲回体の状態で維持される。
【0052】
負極板24が備える負極基材25は、正極板21が備える正極基材22やセパレータ27と比較してヤング率が大きいことから、張力T1~T4が解消された状態ではわずかな歪みの緩和量であっても内部応力が減少し易い。すなわち、負極板24は、張力T1~T4が解消された際の歪みの緩和や電極体20を偏平に押圧する際の変形によって、他の層と比較して内部応力が相対的に減少し易い。そのため、内周側に面する負極合剤層26と接する第1セパレータ27Aには、負極板24からの拘束量が減少し易い分だけ他の層と比較して緩みが生じ易い。
【0053】
ここで、図6を参照して、仮に捲回時における第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みと同等、もしくはそれよりも小さい場合について説明する。図6に示すように、負極板24の歪みが緩和されると、負極板24が図6中に太い矢印で示す外周側に向かって動き易くなる。言い換えれば、第1セパレータ27Aが位置する正極板21と負極板24との極間距離が増加し易くなる。
【0054】
この状態で第1セパレータ27Aに緩みが生じると、第1セパレータ27Aが薄く引き延ばされた状態から厚さが増加する方向に歪みが緩和される。このとき、捲回時における第1セパレータ27Aの歪みが不十分な場合では、歪みが緩和に伴う厚さの復元量が小さいため、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの接触が不十分な箇所が生じる。
【0055】
負極合剤層26のうち第1セパレータ27Aとの接触が不十分な箇所では、非水電解液に含まれる被膜形成剤(LiBOB)と負極合剤層26との反応による生成物である被膜の形成不良が生じる。その結果、負極合剤層26の表面における被膜の厚さにムラができる。負極合剤層26のなかで被膜が厚い部分は、相対的に抵抗が高い部分になるため金属リチウムの析出を招く。負極合剤層26に金属リチウムが析出した場合、充放電反応に寄与するリチウムの量が減少するため電池性能の低下に繋がる。
【0056】
[実施形態の作用]
以上で説明した第1セパレータ27Aの緩みのメカニズムに対して、本実施形態のように第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように張力T3,T4を付与した場合の作用を図7及び図8を参照して説明する。
【0057】
図7に示すように、本実施形態では、負極基材25の内部応力が減少すると、第1セパレータ27Aが長手方向D1に沿って収縮しながら厚さが増加するように第1セパレータ27Aの歪みが緩和される。
【0058】
このとき、捲回時の第1セパレータ27Aの歪みが相対的に大きい分だけ第1セパレータ27Aの厚さの復元量が大きくなる。すなわち、仮に負極基材25の内部応力が減少した場合であっても、第1セパレータ27Aにおける厚さの復元量が大きいため、負極合剤層26と第1セパレータ27Aとが接触した状態が維持される。言い換えれば、負極基材25の内部応力が減少した際に、負極板24の変形に追従して第1セパレータ27Aが変形するよう第1セパレータ27Aの歪みが緩和される。したがって、第1セパレータ27Aの歪みが緩和された際の変形量(厚さの復元量)を大きくすることで、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの密着性を向上できる。
【0059】
なお、第1セパレータ27Aが電極体20の最外周に位置する場合、第1セパレータ27Aのうち電極体20の最外周を構成する部分が電極体20を構成する他の層によって外周側から支持されない。そのため、第1セパレータ27Aに対する張力T3が解消されたときに、捲回時に付与した第1セパレータ27Aの歪み及び内部応力が減少し易くなる。その結果、図6に示すような第1セパレータ27Aの歪みが解消される際の厚さの復元量の不足を招く一因となる。したがって、第1セパレータ27Aが電極体20の最外周に位置することは、負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの接触が不十分になることを助長する一因となり得る。このような場合であっても、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることで、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとが接触した状態を好適に維持できる。
【0060】
図8に示すように、セパレータ27は、多数の細孔Pを備える。細孔Pは、セパレータ27が捲回される際には、長手方向D1に沿って引き延ばされた状態となる。負極基材25における内部応力の減少に伴って第1セパレータ27Aの歪みが緩和されると、第1セパレータ27Aの厚さが増加しながら細孔Pが長手方向D1に沿って収縮する。このとき、第1セパレータ27Aにおける外周側の表面に位置する細孔Pは、内周側に面する負極合剤層26の表面上の微細な凸部を包み込むように収縮する。第1セパレータ27Aの歪みが緩和された際の変形量を大きくすることで、上記の作用によっても、負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの密着性が向上すると考えられる。
【0061】
同様に、第1セパレータ27Aにおける内周側の表面に位置する細孔Pは、外周側に面する正極合剤層23の表面上の微細な凸部を包み込むように収縮する。そのため、外周側に面する正極合剤層23と第1セパレータ27Aとの密着性の向上にも繋がる。
【0062】
[セパレータの歪みとその制御手段]
第1セパレータ27Aの歪みは、一例として、第2セパレータ27Bの歪みに対して1.05倍以上2.05倍以下が好ましい。第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みに対して1.05倍以上であれば、第1セパレータ27Aが十分な内部応力を有した状態で捲回することができる。これにより、仮に負極基材25の内部応力が減少した場合でも、第1セパレータ27Aの厚さが復元することで負極合剤層26と第1セパレータ27Aとが接触した状態を維持できる。また、第1セパレータ27Aと第2セパレータ27Bとの歪みの差異が過剰に大きくなると、電極体20を構成する各層を捲回する際の捲回体の形状の制御が困難になる。この点、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みに対して2.05倍以下であれば、捲回体の形状の制御が容易となる。
【0063】
例えば、第1セパレータ27Aにおける長手方向D1のヤング率と、第2セパレータ27Bにおける長手方向D1のヤング率とが同等の場合、第1セパレータ27Aに対する張力T3を第2セパレータ27Bに対する張力T4よりも大きくしてもよい。これにより、第1セパレータ27Aに対する張力T3と第2セパレータ27Bに対する張力T4との差異によって、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることができる。この場合、第1セパレータ27Aと第2セパレータ27Bとを同一の材料で構成することも可能になるため、製造コスト及び保管コストを削減できる。
【0064】
なお、張力T3及び張力T4の各々の大きさは、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みに対して1.05倍以上2.05倍以下になるように適宜決定すればよい。例えば、第1セパレータ27Aと第2セパレータ27Bとで長手方向D1のヤング率が同等の場合、張力T3は、一例として、張力T4に対して1.05倍以上2.05倍以下である。
【0065】
また、例えば、第1セパレータ27Aに対する張力T3と、第2セパレータ27Bに対する張力T4とが同等の場合、第1セパレータ27Aのヤング率を、第2セパレータ27Bのヤング率よりも小さくすればよい。これにより、第1セパレータ27Aのヤング率と第2セパレータ27Bのヤング率との差異によって、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることができる。
【0066】
なお、第1セパレータ27Aのヤング率及び第2セパレータ27Bのヤング率は、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みに対して1.05倍以上2.05倍以下になるように適宜決定すればよい。例えば、張力T3と張力T4とが同等の場合、第1セパレータ27Aのヤング率は、一例として、第2セパレータ27Bのヤング率に対して1.05倍以上2.05倍以下である。
【0067】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるようにセパレータ27に対して張力T3,T4を付与することで、第1セパレータ27Aが薄く引き延ばされた状態で捲回される。この状態から仮に負極基材25の内部応力が減少した場合であっても、第1セパレータ27Aの歪みが緩和された際の厚さの復元量が大きいため、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとが接触した状態が維持される。これにより、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの密着性を向上できる。結果として、負極合剤層26の表面における被膜の形成不良の抑制、ひいては金属リチウムの析出の抑制につながる。
【0068】
(2)正極基材22がアルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されるとともに、負極基材25が銅または銅合金から構成される場合、正極基材22と負極基材25とのヤング率の差異によって、第1セパレータ27Aが緩み易くなる。このような場合であっても、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることで、内周側に面する負極合剤層26と第1セパレータ27Aとの密着性を向上できる。
【0069】
(3)第1セパレータ27Aのヤング率を第2セパレータ27Bのヤング率よりも小さくすることで、電極体20の製造時において、ヤング率の差異によって第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることができる。この場合、第1セパレータ27Aに対する張力T3及び第2セパレータ27Bに対する張力T4を同じ大きさにすることができる。
【0070】
(4)張力T3を張力T4よりも大きくすることで、電極体20の製造時において、第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bのヤング率が同じ場合にも、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることができる。したがって、第1セパレータ27Aと第2セパレータ27Bとを同一の材料で構成することも可能になるため、製造コスト及び保管コストを削減できる。
【0071】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、以下に示す変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0072】
図9に示すように、負極板24が電極体20の最内周に配置されてもよい。この場合、電極体20の中心部では、巻芯Cに対して負極板24、第2セパレータ27B、正極板21、及び第1セパレータ27Aの積層順で捲回される。このとき、第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bの各々の長さを調整することで、第1セパレータ27Aが電極体20の最外周に位置する構成としてもよく、第2セパレータ27Bが電極体20の最外周に位置する構成としてもよい。
【0073】
図5では、第1セパレータ27Aが電極体20の最外周に位置する構成を例示したが、第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bの各々の長さ(切断位置)を調整することで、第2セパレータ27Bが電極体20の最外周に位置する構成としてもよい。
【0074】
・第1セパレータ27Aのヤング率を第2セパレータ27Bのヤング率よりも小さくすることで第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくする場合であっても、張力T3及び張力T4の大きさは限定されない。第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように、張力T3と張力T4とを適宜決定すればよい。例えば、張力T3が張力T4よりも大きくてもよいし、張力T3が張力T4よりも小さくてもよい。
【0075】
・張力T3を張力T4よりも大きくすることで第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくする場合であっても、第1セパレータ27Aのヤング率及び第2セパレータ27Bのヤング率は限定されない。第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように、第1セパレータ27Aのヤング率と第2セパレータ27Bのヤング率とを適宜決定すればよい。例えば、第1セパレータ27Aのヤング率が第2セパレータ27Bのヤング率よりも大きくてもよいし、第1セパレータ27Aのヤング率が第2セパレータ27Bのヤング率よりも小さくてもよい。
【0076】
・負極基材25は、銅または銅合金に限定されず、アルミニウムやアルミニウム合金、もしくはステンレス鋼であってもよい。この場合、正極基材22及び負極基材25のうちヤング率が高い方が第2金属箔であって、正極板21及び負極板24のうち第2金属箔を備える極板が第2極板である。
【0077】
・正極基材22のヤング率が負極基材25のヤング率よりも大きくてもよい。この場合、負極板24が第1極板であって、負極基材25が第1金属箔である。正極板21が第2極板であって、正極基材22が第2金属箔である。この場合、内周側に面する正極合剤層23と接するセパレータ27の歪みを、外周側に面する正極合剤層23と接するセパレータ27の歪みよりも大きくすればよい。これにより、内周側に面する正極合剤層23とセパレータ27との接触が不十分な箇所が生じることを抑制できる。結果として、正極板21における局所的な抵抗の増加の抑制、ひいては電池性能の悪化を抑制できる。
【0078】
・電極体20は、第1セパレータ27Aの全体における歪みが第2セパレータ27Bの全体における歪みよりも大きくなるように構成されていればよい。したがって、例えば、巻芯Cに対して最内周に位置する状態を1巻き目としたときに、巻芯Cに対する各層の巻き数をnとすると、n巻き目の第1セパレータ27Aの歪みがn巻き目の第2セパレータ27Bの歪みよりも常に大きくなるように各層を捲回してもよい。すなわち、各巻き数で第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように各層を捲回してもよい。例えば、第1セパレータ27Aの全体の歪みが第2セパレータ27Bの全体の歪みよりも大きいのであれば、最外周よりも内側の任意の巻き数nにおいて、第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みと同じ、またはそれよりも小さくてもよい。例えば、第1セパレータ27Aが備える所定の長さの一部分の歪みが、第2セパレータ27Bが備える所定の長さの一部分の歪みと同じ、もしくはそれよりも小さくてもよい。
【0079】
・非水電解液に含まれる被膜形成剤は、リチウム塩を含有するものであればLiBOB以外のものであってもよいし、LiBOB以外の成分を含んでいてもよい。
・リチウムイオン二次電池10は、他の非水二次電池であってもよく、例えば、ニッケル水素蓄電池であってもよい。
【0080】
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0081】
[実施例]
以下、図10図12を参照して、実施例1及び比較例1について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。
【0082】
[実施例1]
実施例1では、負極基材25として、正極基材22として用いたアルミニウム箔よりもヤング率が大きい銅箔を用いた。また、第1セパレータ27A及び第2セパレータ27Bとして、同一のヤング率かつ同一の断面積を有したセパレータ27を用いた。第1セパレータ27Aの歪みが第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくなるように第1セパレータ27Aに対して張力T3を付与するとともに第2セパレータ27Bに対して張力T4を付与した。張力T3は、張力T4に対して1.05倍であった。この状態で各層を捲回した電極体20をケース11に配置した後、非水電解液を注入することでリチウムイオン二次電池10を製造した。その後、初充電することで負極合剤層26の表面に被膜を形成させた。
【0083】
図10に示すように、次いで、リチウムイオン二次電池10から電極体20を取り出した後、各層が捲回された状態の電極体20を開いて負極板24を取り出した。そして、負極合剤層26のうち電極体20の状態で内周側に面していた負極合剤層26の表面における幅方向D2の抵抗の分布を測定した。抵抗の測定は、負極合剤層26のうち負極側未塗工部25A側の第1端部E1から反対側の第2端部E2までの間において、幅方向D2に沿って延びる3つの矢印A1,A2,A3上で所定の間隔を空けた複数の測定位置にて行った。また、抵抗の測定は、3つの矢印A1,A2,A3が長手方向D1に沿って並ぶように、長手方向D1における複数の位置で行った。
【0084】
図11に示すグラフ30は、実施例1における負極合剤層26の表面における幅方向D2の抵抗の分布を示す。グラフ30中の曲線31は、矢印A1に沿って測定した抵抗値を示す。グラフ30中の曲線32は、矢印A2に沿って測定した抵抗値を示す。グラフ30中の曲線33は、矢印A3に沿って測定した抵抗値を示す。
【0085】
[比較例1]
比較例1では、張力T3を張力T4と同等にした点、すなわち、第1セパレータ27Aの歪みと第2セパレータ27Bの歪みとを同等とした点を除き、実施例1と同様にリチウムイオン二次電池10を製造した。その後、初充電することで負極合剤層26の表面に被膜を形成させた。続いて、実施例1と同様に負極板24を取り出した後、実施例1と同様の手順で電極体20の状態で内周側に面していた負極合剤層26の表面における幅方向D2の抵抗の分布を測定した。
【0086】
図12に示すグラフ40は、比較例1における負極合剤層26の表面における幅方向D2の抵抗の分布を示す。グラフ40中の曲線41は、図10に示す矢印A1に沿って測定した抵抗値を示す。グラフ40中の曲線42は、図10に示す矢印A2に沿って測定した抵抗値を示す。グラフ40中の曲線43は、図10に示す矢印A3に沿って測定した抵抗値を示す。
【0087】
[評価]
図11に示すグラフ30中の曲線31~33が示すように、実施例1では、負極合剤層26における幅方向D2の中央近傍で抵抗値の増加が確認された。また、長手方向D1の位置によらず、曲線31~33の何れにおいても同様の傾向が確認された。
【0088】
図12に示すグラフ40中の曲線41~43が示すように、比較例1では、長手方向D1の位置によって異なる傾向が確認された。曲線41,曲線42では、負極合剤層26における幅方向D2の中央近傍で抵抗値の増加が確認されたものの、抵抗が増加したピーク位置が互いに異なっていた。また、曲線41,曲線42では、曲線31~33と比較して抵抗が増加した範囲が大きくなっていた。すなわち、比較例1では、負極合剤層26の抵抗値が大きい部分の面積が実施例1よりも大きくなっていた。一方、曲線43では、抵抗値の大きな増加は確認されなかった。したがって、比較例1では、負極合剤層26の中での抵抗値のばらつきが大きくなっていた。
【0089】
以上より、第1セパレータ27Aの歪みを第2セパレータ27Bの歪みよりも大きくすることで、負極合剤層26の表面における被膜の形成不良が抑制されるため、負極合剤層26のなかで抵抗が増加した部分の面積が低減された。結果として、金属リチウムの析出を抑制できることが確認された。なお、グラフ30及びグラフ40において、第1端部E1の近傍及び第2端部E2の近傍で高い抵抗値が確認されたが、これは、測定方法に起因するものであって、金属リチウムの析出に影響を及ぼすものでは無い。
【符号の説明】
【0090】
C…巻芯
P…細孔
10…リチウムイオン二次電池
20…電極体
21…正極板
22…正極基材
23…正極合剤層
24…負極板
25…負極基材
26…負極合剤層
27…セパレータ
27A…第1セパレータ
27B…第2セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12