(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063840
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】避難誘導装置、避難誘導システム、及び、避難誘導方法
(51)【国際特許分類】
G08B 27/00 20060101AFI20240507BHJP
G08B 21/10 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G08B27/00 A
G08B21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171958
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100227455
【弁理士】
【氏名又は名称】莊司 英史
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 理映
【テーマコード(参考)】
5C086
5C087
【Fターム(参考)】
5C086AA13
5C086CA21
5C086CA23
5C086FA06
5C086FA18
5C087AA02
5C087AA03
5C087AA25
5C087AA37
5C087BB73
5C087DD02
5C087DD23
5C087DD24
5C087EE18
5C087FF01
5C087FF02
5C087FF04
5C087GG09
5C087GG82
(57)【要約】
【課題】 地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる避難誘導装置、避難誘導システム、及び、避難誘導方法を提供する。
【解決手段】 避難誘導装置3は、各部屋の加速度応答波形に基づき各部屋内の不安を感じる人の割合を算出する人感覚算出部311と、各部屋内に存在する人数に、人感覚算出部311が算出した不安を感じる人の割合をかけて、各部屋内の不安を感じる人の数を算出する不安人数算出部314と、不安人数算出部314が算出した不安を感じる人の数に応じて、各部屋の避難の優先度を算出する避難優先度算出部315と、避難優先度算出部315が算出した避難の優先度に応じて、各部屋に行動を指示する行動指示部316と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各部屋の加速度応答波形に基づき前記各部屋内の不安を感じる人の割合を算出する人感覚算出部と、
前記各部屋内に存在する人数に、前記人感覚算出部が算出した前記不安を感じる人の割合をかけて、前記各部屋内の不安を感じる人の数を算出する不安人数算出部と、
前記不安人数算出部が算出した前記不安を感じる人の数に応じて、前記各部屋の避難の優先度を算出する避難優先度算出部と、
前記避難優先度算出部が算出した前記避難の優先度に応じて、前記各部屋に行動を指示する行動指示部と、
を備える
ことを特徴とする避難誘導装置。
【請求項2】
前記各部屋の家具の数を記憶する記憶部と、
前記各部屋内の家具の転倒可能性を予測する家具転倒予測部と、
前記家具転倒予測部が予測した家具転倒可能性を考慮して前記人感覚算出部が算出した前記不安を感じる人の割合を補正する人感覚補正部と、
をさらに備え、
前記不安人数算出部は、前記各部屋内に存在する人数に、前記人感覚補正部が補正した不安を感じる人の補正割合をかけて、前記各部屋内の前記不安を感じる人の数を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の避難誘導装置。
【請求項3】
前記家具転倒予測部は、前記各部屋内の転倒可能性が高い家具の数を算出し、
前記避難優先度算出部は、前記不安人数算出部が算出した前記各部屋内の前記不安を感じる人の数が同じ部屋がある場合、前記家具転倒予測部が算出した前記転倒可能性が高い家具の数に応じて、前記不安を感じる人の数が同じ部屋の避難の優先度を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の避難誘導装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の避難誘導装置と、
前記各部屋の加速度応答波形を計測する加速度センサと、
前記各部屋の人の数を計測する人センサと、
前記行動指示部が指示する内容を前記各部屋の人に連絡する連絡装置と、
を備え、
前記人感覚算出部は、前記加速度センサから取得した加速度に基づき前記各部屋内の前記不安を感じる人の割合を算出し、
前記不安人数算出部は、前記人センサから取得した人数に基づき前記各部屋内の前記不安を感じる人の数を算出する
ことを特徴とする避難誘導システム。
【請求項5】
各部屋の加速度応答波形を取得するステップと、
前記各部屋の加速度応答波形に基づき前記各部屋内の不安を感じる人の割合を算出するステップと、
前記各部屋内に存在する人数に、前記不安を感じる人の割合をかけて、前記各部屋内の不安を感じる人の数を算出するステップと、
前記不安を感じる人の数に応じて、前記各部屋の避難の優先度を算出するステップと、
前記避難の優先度に応じて、前記各部屋に行動を指示するステップと、
を有する
ことを特徴とする避難誘導方法。
【請求項6】
前記各部屋内の家具の転倒可能性を予測するステップと、
前記家具の転倒可能性を考慮して前記不安を感じる人の割合を補正するステップと、
前記各部屋内に存在する人数に、補正した前記不安を感じる人の補正割合をかけて、前記各部屋内の前記不安を感じる人の数を算出するステップと、
を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の避難誘導方法。
【請求項7】
前記各部屋内の転倒可能性が高い家具の数を算出するステップと、
前記各部屋内の前記不安を感じる人の数が同じ部屋がある場合、前記転倒可能性が高い家具の数に応じて、前記不安を感じる人の数が同じ部屋の前記避難の優先度を算出するステップと、
を有する
ことを特徴とする請求項6に記載の避難誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物在館者の避難を誘導する避難誘導装置、避難誘導システム、及び、避難誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長時間揺れる地震に対して、高精度に揺れの大きさや継続時間の目安を建物在館者に知らせる地震情報提供システムが開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された地震情報提供システムは、発生した地震に関する情報発信を建物在館者が存在する階数、区画に応じて行うことで、建物館内の人の心理的な不安を払拭したり、適切な対応を促す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-120660号公報
【特許文献2】特開2021-188972号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡沢理映委、神原浩、猿田正明、「被験者実験による地震の揺れに対する人の感覚の定量化に関する研究」、日本建築学会技術報告集、No.56、pp81-86、2013年2月
【非特許文献2】日本建築学会、「長周期地震動と超高層建物の対応策-専門家として知っておきたいこと-」、pp254-255、2013年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された地震情報提供システムは、揺れの大きさ又は継続時間等をもとに、地震に関する情報及び注意喚起等を提供することに留まっている。そのため、地震発生時に建物在館者がどのような状況にあるかを把握するシステムにはなっていない。
【0006】
本発明は、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる避難誘導装置、避難誘導システム、及び、避難誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる避難誘導装置は、
各部屋の加速度応答波形に基づき前記各部屋内の不安を感じる人の割合を算出する人感覚算出部と、
前記各部屋内に存在する人数に、前記人感覚算出部が算出した前記不安を感じる人の割合をかけて、前記各部屋内の不安を感じる人の数を算出する不安人数算出部と、
前記不安人数算出部が算出した前記不安を感じる人の数に応じて、前記各部屋の避難の優先度を算出する避難優先度算出部と、
前記避難優先度算出部が算出した前記避難の優先度に応じて、前記各部屋に行動を指示する行動指示部と、
を備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる避難誘導装置、避難誘導システム、及び、避難誘導方法によれば、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の避難誘導システムのイメージの一例を示す。
【
図2】本実施形態の避難誘導装置の構成の一例を示す。
【
図3】本実施形態の家具転倒予測部が家具転倒判定に用いる建物のモデルの一例を示す。
【
図4】本実施形態の家具転倒予測部が用いる家具転倒判定の基準の一例を示す。
【
図5】本実施形態の家具転倒予測部が用いる家具滑り判定の基準の一例を示す。
【
図6】本実施形態の避難誘導方法の一例のフローチャートを示す。
【
図7】本実施形態の家具転倒判定の一例のフローチャートを示す。
【
図8】本実施形態の避難誘導方法の一例で用いる建物内の状況の一例を示す。
【
図9】本実施形態の避難誘導方法の一例における避難優先度の計算例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明を実施するための実施形態について説明する。以下では、本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0011】
図1は、本実施形態の避難誘導システム1のイメージの一例を示す。避難誘導システム1は、センサ2と、センサ2から取得した計測データに基づいて避難誘導結果を算出する避難誘導装置3と、避難誘導装置3から取得した避難誘導結果に基づいて避難指示を行う連絡装置4と、を備える。本実施形態の避難誘導システム1は、4階の建物10において、1階のロビーを避難場所として設定している。なお、本実施形態の避難誘導装置3は、1階に設置しているが、必ずしも1階に設置する必要はなく、2階以上に設置してもよい。
【0012】
本実施形態のセンサ2は、加速度を計測する加速度センサ21と、部屋内の人数を計測する人センサ22と、を含む。本実施形態の加速度センサ21は、建物10の振動の加速度を計測する。例えば、地震発生時の揺れに対する加速度を計測する。加速度センサ21は、各階に少なくとも1つ設置することが好ましいが、全ての階に設置する必要はない。本実施形態の人センサ22は、部屋内の人数を計測する。人数の計測は、例えば、無線タグを用いたもの、カメラによる画像解析を用いたもの、光電センサと電子カウンタを用いたもの、又は測域センサを用いたもの等で行うとよい。
【0013】
図2は、本実施形態の避難誘導装置3の構成の一例を示す。避難誘導装置3は、汎用又は専用のコンピュータにより構成される。コンピュータは、例えば、据置型コンピュータや携帯型コンピュータで構成され、任意の形態の電子機器である。コンピュータは、クライアント型コンピュータでもよいし、サーバ型コンピュータやクラウド型コンピュータでもよいし、例えば、制御盤、コントローラ(マイコン、プログラマブルロジックコントローラ、シーケンサを含む)等と呼ばれる組込型コンピュータでもよい。
【0014】
本実施形態の避難誘導装置3は、センサ2から取得した計測データに基づいて避難誘導結果を算出する制御部31と、計測データに基づいて避難誘導結果を算出するデータ管理プログラム321及び各部屋内の家具11の数等の設定情報322を記憶する記憶部32と、センサ2又は連絡装置4と通信する通信部33と、プログラム又は各種情報等をユーザが入力可能な入力部34と、各種情報等を表示画面又は音声を介して出力する出力部35と、を有する。
【0015】
制御部31は、プロセッサであって、1つ又は複数の演算処理装置(CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)、NPU(Neural Processing Unit)等)で構成される。
【0016】
制御部31は、加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合を算出する人感覚算出部311、家具11の転倒可能性を予測する家具転倒予測部312、不安を感じる人の数を算出する不安人数算出部314、各部屋の避難の優先度を算出する避難優先度算出部315、及び、人に行動を指示する行動指示部316を有する。
【0017】
人感覚算出部311は、地震発生時の建物10の各階の揺れに対応する加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiを算出する。本実施形態では、加速度応答波形は、各階に設置した加速度センサ21から取得すればよい。人感覚算出部311は、特許文献2に記載された人の感覚の算出方法を用いればよい。例えば、地震時の最大加速度を性能評価曲線に当てはめて、揺れに対する人の感覚を求める。性能評価曲線は、非特許文献1に記載されたものを用いればよい。
【0018】
家具転倒予測部312は、各部屋に設置された家具11の転倒可能性及び家具滑り可能性を予測する。各部屋の家具11の数、大きさ及び設置位置等は、予め記憶部32の設定情報322に記憶すればよい。家具11の転倒可能性は、非特許文献2に記載された簡易予測手法を参考に行うとよい。また、家具転倒予測部312は、転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11の数Nikを算出する。なお、本実施形態では、転倒可能性が非常に高いこと及び転倒可能性が高いことをあわせて、転倒可能性が高いと表現してもよい。
【0019】
図3は、本実施形態の家具転倒予測部312が各家具転倒判定に用いる建物10のモデルの一例を示す。
図4は、本実施形態の家具転倒予測部312が用いる家具転倒判定の基準の一例を示す。
図5は、本実施形態の家具転倒予測部312が用いる家具滑り判定の基準の一例を示す。
【0020】
図3に示すように、家具転倒判定及び家具滑り判定に用いる建物10は、高さが2h、幅が2bとする。転倒限界加速度A0は、
図4に示すように、以下の式(1)で表せる。
Fe<Fbのとき、A0=bg/h
Fe≧Fbのとき、A0=2πFeV0=(Fe/Fb)・(bg/h) (1)
ここで、
Fe=Amax/2πVmax、
Fb=11√h、
A0は、転倒限界加速度、
V0は、転倒限界速度、
Amaxは、床応答の最大加速度、
Vmaxは、床応答の最大速度、
である。
【0021】
また、AR50は、以下の式(2)で表せる。
Fe<Fb’のとき、AR50=bg/h・(1+b/h)
Fe≧Fb’のとき、AR50=2πFeVR50=(Fe/Fb’)・(bg/h)・(1+b/h) (2)
ここで、
Fb’=(11/√h)・(1+b/h)-1.5、
AR50は、転倒率50%の加速度、
VR50は、転倒率50%の速度、
である。
【0022】
したがって、家具転倒予測部312は、各床応答の最大加速度Amaxが転倒率50%の加速度AR50より大きい場合に、転倒の可能性が非常に高いと判定する。また、家具転倒予測部312は、床応答の最大加速度Amaxが転倒率50%の加速度AR50より小さく、転倒限界加速度A0より大きい場合に、転倒の可能性が高いと判定する。さらに、家具転倒予測部312は、床応答の最大加速度Amaxが転倒限界加速度A0より小さい場合に、転倒の可能性が低いと判定する。
【0023】
また、家具転倒予測部312は、家具11の滑り可能性を以下の式(3)から判定する。
Amax>As=μg (3)
ここで、
Amaxは、床応答の最大加速度、
As=μgは、移動限界加速度、
である。
【0024】
家具転倒予測部312は、床応答の最大加速度Amaxが移動限界加速度Asより大きい場合、家具11の滑りの可能性が高く、床応答の最大加速度Amaxが移動限界加速度Asより小さい場合、家具11の滑りの可能性が低いと判定する。
【0025】
人感覚補正部313は、家具転倒予測部312が予測した転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11のある各部屋内において、人感覚算出部311が算出した加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiを補正係数によって補正する。例えば、家具転倒可能性を考慮した不安を感じる人の割合としての不安を感じる人の補正割合Yikは、不安を感じる人の割合yiに補正係数γを足すことで求める。
【0026】
不安人数算出部314は、各部屋内で不安を感じている人及び身の危険を感じている人数Pikを算出する。不安人数算出部314は、各部屋内に存在する人数に人感覚算出部311が算出した加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiをかけて、各部屋内で不安を感じている人数Pikを求める。また、不安人数算出部314は、家具転倒予測部312が予測した転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11のある各部屋内において、各部屋内に存在する人数に不安を感じる人の補正割合Yikをかけて、各部屋内で不安を感じている人数Pikを求めてもよい。
【0027】
避難優先度算出部315は、家具転倒予測部312が算出した転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11の数Nik及び各部屋内で不安を感じている人数Pikに基づき、建物10の各部屋の避難の優先順位を算出する。優先順位は、例えば、部屋内で不安を感じている人数Pikが多い部屋から順位を高くすればよい。なお、部屋内で不安を感じている人数Pikが同じ場合には、転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11の数Nikが多い部屋の優先順位を高くすればよい。
【0028】
行動指示部316は、避難優先度算出部315が算出した優先順位に基づいて、個人の連絡装置4に避難行動を指示する。例えば、部屋内で不安を感じている人数Pikが多く、優先順位の高い部屋には「避難」と連絡し、その他の部屋には「待機」と連絡すればよい。行動指示部316は、避難対象者が部屋から避難をしたこと、又は、避難対象者が避難を完了したことが確認された場合、次の優先順位の部屋に「避難」と連絡すればよい。行動指示部316は、全ての部屋の避難が完了するまで、この連絡を繰り返す。なお、避難経路又は避難時間に余裕がある場合には、部屋内にいる人数に応じて、2つ以上の部屋に「避難」を指示してもよい。
【0029】
本実施形態の記憶部32は、計測データに基づいて避難誘導結果を算出するデータ管理プログラム321及び各部屋内の家具11の数等の設定情報322等を記憶し、例えば、メインメモリとして機能する揮発性メモリ(DRAM、SRAM等)と、不揮発性メモリ(ROM)、フラッシュメモリ等と、HDD、SSD等のストレージ装置と、で構成される。
【0030】
本実施形態の通信部33は、インターネットやイントラネット等のネットワーク5に、有線又は無線により接続され、所定の通信規格に従って他のコンピュータとの間でデータの送受信を行う。本実施形態の入力部34は、例えば、キーボード、マウス、テンキー、電子ペン等で構成される入力デバイスでよい。本実施形態の出力部35は、例えば、音(音声)出力装置、バイブレーション装置等で構成される出力デバイスでよい。
【0031】
連絡装置4は、タブレット又はスマートフォン等の携帯端末、及び、コンピュータ等の情報機器でよい。また、部屋に設置され表示可能なディスプレイ、又は、音声で避難誘導を伝えるスピーカー等でもよい。
【0032】
ネットワーク5は、任意の通信規格に従って有線通信又は無線通信、あるいは、有線通信と無線通信の組合せにより構成される。具体的には、例えば、インターネット等の標準化された通信網、又はローカルネットワーク等の建物内で管理される通信網、あるいは、これらの通信網の組合せを利用することができる。また、無線通信の通信規格としては、典型的には国際規格が用いられる。国際規格の通信手段として、IEEE802.15.4、IEEE802.15.1、IEEE802.15.11a、11b、11g、11n、11ac、11ad、ISO/IEC14513-3-10、IEEE802.15.4g等の方式がある。また、Bluetooth(登録商標)、BluetoothLowEnergy、Wi-Fi、ZigBee(登録商標)、Sub-GHz、EnOcean(登録商標)、LTE等の方式を用いることもできる。
【0033】
このような避難誘導装置3、及び、避難誘導システム1によれば、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる。
【0034】
次に、本実施形態の避難誘導方法を説明する。
【0035】
図6は、本実施形態の避難誘導方法の一例のフローチャートを示す。
図7は、本実施形態の家具転倒判定の一例のフローチャートを示す。
図8は、本実施形態の避難誘導方法の一例で用いる建物内の状況の一例を示す。
図9は、本実施形態の避難誘導方法における避難優先度の計算例を示す。
【0036】
本実施形態の避難誘導方法の説明で用いる建物10は、
図8に示すように、1階にロビー、2階に4部屋、3階に3部屋、4階に1部屋を持つ。避難誘導方法は、2階乃至4階の各部屋から1階のロビーを避難場所として避難する場合で説明する。各部屋内の丸印は人を示し、各部屋内の長方形は家具11を示す。
【0037】
図9に示すように、各部屋の家具数は、予め記憶部32に記憶されている。各部屋内の人数は、人センサ22により計測される。地震が発生すると、加速度センサ21が最大応答加速度を計測する。
【0038】
本実施形態の避難誘導方法は、まず、ステップ1で、制御部31が通信部33を介して加速度センサ21からi階の加速度応答波形を取得し、記憶部32に記憶する(ST1)。
【0039】
続いて、ステップ2で、取得した最大応答加速度から避難が必要か否かを判定する(ST2)。避難が必要か否かの判定は、取得した最大加速度と予め定めた閾値を比較して、最大加速度が閾値よりも大きい場合に避難が必要と判定すればよい。
図9に示す例では、2階の最大応答加速度が250cm/s
2、3階の最大応答加速度が350cm/s
2、4階の最大応答加速度が420cm/s
2、であり、閾値を200 cm/s
2とする。ステップ2において、避難が必要でないと判定された場合、ステップ1に戻る。ステップ2において、避難が必要であると判定された場合、ステップ3に進む。この例では、2階から4階の人がロビーに避難する場合について説明する。
【0040】
次に、ステップ3で、人感覚算出部311が、地震発生時の建物10の各階の揺れに対応する加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiを算出する(ST3)。加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiの算出は、特許文献2を参考にすればよい。
図9に示す例では、加速度応答波形に基づき不安を感じる人の割合yiは、2階が0.70、3階が0.89、4階が0.95である。
【0041】
次に、ステップ4で、家具転倒予測部312は、各部屋の家具11の転倒可能性を算出する(ST4)。家具11の転倒可能性の算出は、
図7に示すサブルーチンで説明する。
【0042】
家具11の転倒可能性の算出は、まず、ステップ41で、転倒限界加速度A0<移動限界加速度Asを満足するか否かを判定する(ST41)。ステップ41において、転倒限界加速度A0<移動限界加速度Asを満足する場合、ステップ42で、床応答の最大加速度Amax>転倒率50%の加速度AR50を満足するか否かを判定する(ST41)。ステップ42において、床応答の最大加速度Amax>転倒率50%の加速度AR50を満足する場合、ステップ43で、転倒可能性が非常に高いと判定する(ST43)。
【0043】
ステップ42において、床応答の最大加速度Amax>転倒率50%の加速度AR50を満足しない場合、ステップ44で、床応答の最大加速度Amax>転倒限界加速度A0を満足するか否かを判定する(ST44)。ステップ44において、床応答の最大加速度Amax>転倒限界加速度A0を満足する場合、ステップ45で、転倒可能性が高いと判定する(ST45)。ステップ44において、床応答の最大加速度Amax>転倒限界加速度A0を満足しない場合、ステップ46で、転倒可能性が低いと判定する(ST46)。
【0044】
ステップ41において、転倒限界加速度A0<移動限界加速度Asを満足しない場合、ステップ47で、床応答の最大加速度Amax>移動限界加速度Asを満足するか否かを判定する(ST47)。ステップ47において、床応答の最大加速度Amax>移動限界加速度Asを満足する場合、ステップ48で、家具11が滑ると判定し、移動量を推定する(ST48)。ステップ47において、床応答の最大加速度Amax>移動限界加速度Asを満足しない場合、ステップ49で、家具11が滑らないと判定する。
【0045】
次に、ステップ5で、ステップ4において判定した結果、部屋に転倒可能性が非常に高い又は高い家具11が有るか否か判定する(ST5)。ステップ5において、部屋に転倒可能性が非常に高い又は高い家具11が有る場合、ステップ6で、不安を感じる人の割合を補正した補正割合Yikを算出する(ST6)。ステップ5において、部屋に転倒可能性が非常に高い又は高い家具11がない場合、ステップ7に進む。
【0046】
不安を感じる人の補正割合Yikの算出は、不安を感じる人の割合yiに補正係数γ=0.2を足せばよい。ただし、補正割合Yikが1を超える場合はYik=1とする。例えば、
図9に示す例では、部屋2-1は、転倒可能性が非常に高い又は高い家具11が存在しないので、不安を感じる人の割合yi=0.7がそのまま補正割合Yik=0.7となる。部屋2-2は、転倒可能性が非常に高い又は高い家具11が存在するので、不安を感じる人の割合yi=0.7に0.2を足すと補正割合Yik=0.9となる。部屋3-3は、転倒可能性が高い家具11が存在するので、不安を感じる人の割合yi=0.89に0.2を足すと補正割合Yik=1.09となるが、1を超えてしまうので、補正割合Yik=1となる。
【0047】
次に、ステップ7で、不安人数算出部314が各部屋内で不安を感じている人数Pikを算出する(ST7)。各部屋内で不安を感じている人数Pikは、各部屋内に存在する人数に補正割合Yikをかけて求める。
図9に示す例では、部屋2-1で不安を感じている人数Pikは、部屋内の人数3人に補正割合Yik=0.7をかけた2.1となる。また、部屋4-1で不安を感じている人数Pikは、部屋内の人数12人に補正割合Yik=0.95をかけた11.4となる。
【0048】
次に、ステップ8で、家具転倒予測部312は、転倒可能性が非常に高い又は高い家具11の数Nikを算出する(ST8)。転倒可能性が非常に高い又は高い家具11の数Nikは、非特許文献2に記載された簡易予測手法によりもとめればよい。
図9に示す例では、部屋2-1の家具数は1で、転倒可能性が非常に高い又は高い家具11の数Nikは0である。また、部屋3-3の家具数は5で、転倒可能性が非常に高い又は高い家具11の数Nikは4である。
【0049】
次に、ステップ9で、避難優先度算出部315は、避難の優先度を決定する(ST9)。避難優先度算出部315は、部屋内で不安を感じている人数Pikが多い部屋から避難の優先順位を高く決定すればよい。なお、部屋内で不安を感じている人数Pikが同じ場合には、転倒可能性が非常に高い又は高いと判定された家具11の数Nikが多い部屋の避難優先順位を高くすればよい。
図9に示す例では、部屋4-1において不安を感じている人数Pik=11.4が一番多いので、避難優先順位を1番とする。続いて、部屋3-3が2番、部屋3-1が3番という様に避難優先順位を決定する。
【0050】
次に、ステップ10で、行動指示部316は、避難行動を指示する(ST10)。行動指示部316は、避難優先度算出部315が算出した優先順位に基づいて、個人の連絡装置4等に避難行動を指示する。例えば、
図9に示す例では、部屋内で不安を感じている人数Pikが一番多い部屋4-1の連絡装置4等に一番最初に「避難」を指示し、その他の部屋には「待機」を指示する。続いて、部屋内で不安を感じている人数Pikが二番目に多い部屋3-3の連絡装置4等に「避難」を指示し、その他の部屋には「待機」を指示する。全ての部屋が「避難」を完了するまでこの指示を行う。なお、避難経路又は避難時間に余裕がある場合には、部屋内にいる人数に応じて、2つ以上の部屋に「避難」を指示してもよい。例えば、
図9に示す例では、最初に部屋4-1の連絡装置4等に対して、「避難」を指示し、続いて部屋3-3と部屋3-1の連絡装置4等に同時に「避難」を指示し、最後に部屋2-4、部屋2-1、部屋3-2、部屋2-3の連絡装置4等に同時に「避難」を指示してもよい。
【0051】
このような避難誘導方法によれば、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる。
【0052】
以上、本実施形態の避難誘導装置3は、各部屋の加速度応答波形に基づき各部屋内の不安を感じる人の割合を算出する人感覚算出部311と、各部屋内に存在する人数に、人感覚算出部311が算出した不安を感じる人の割合をかけて、各部屋内の不安を感じる人の数を算出する不安人数算出部314と、不安人数算出部314が算出した不安を感じる人の数に応じて、各部屋の避難の優先度を算出する避難優先度算出部315と、避難優先度算出部315が算出した避難の優先度に応じて、各部屋に行動を指示する行動指示部316と、を備える。したがって、本実施形態の避難誘導装置3によれば、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる。
【0053】
また、本実施形態の避難誘導装置3は、各部屋の家具11の数を記憶する記憶部32と、各部屋内の家具11の転倒可能性を予測する家具転倒予測部312と、家具転倒予測部312が予測した家具転倒可能性を考慮して人感覚算出部311が算出した不安を感じる人の割合を補正する人感覚補正部313と、をさらに備え、不安人数算出部314は、各部屋内に存在する人数に、人感覚補正部313が補正した不安を感じる人の補正割合をかけて、各部屋内の不安を感じる人の数を算出する。したがって、本実施形態の避難誘導装置3によれば、家具転倒可能性を考慮した、より適切な避難行動を促すことができる。
【0054】
また、本実施形態の避難誘導装置3では、家具転倒予測部312は、各部屋内の転倒可能性が高い家具11の数を算出し、避難優先度算出部315は、不安人数算出部314が算出した各部屋内の不安を感じる人の数が同じ部屋がある場合、家具転倒予測部312が算出した転倒可能性が高い家具11の数に応じて、不安を感じる人の数が同じ部屋の避難の優先度を算出する。したがって、本実施形態の避難誘導装置3によれば、家具転倒可能性を考慮した、より適切な避難行動を促すことができる。
【0055】
さらに、本実施形態の避難誘導システム1は、前記避難誘導装置3と、各部屋の加速度応答波形を計測する加速度センサ21と、各部屋の人の数を計測する人センサ22と、行動指示部316が指示する内容を各部屋の人に連絡する連絡装置4と、を備え、人感覚算出部311は、加速度センサ21から取得した加速度に基づき各部屋内の不安を感じる人の割合を算出し、不安人数算出部314は、人センサ22から取得した人数に基づき各部屋内の不安を感じる人の数を算出する。したがって、本実施形態の避難誘導システム1によれば、地震発生時に建物在館者の所在、心理状態、部屋内の状況を把握した上で、各在館者に最適な避難行動を促すことができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に制約されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本発明の技術思想に含まれるものである。
【0057】
上記実施形態では、各実施形態の避難誘導システム1及び避難誘導装置3が有する特徴をそれぞれ説明したが、各実施形態の特徴を適宜組み合わせてもよく、例えば、任意の2つ以上を適宜組み合わせてもよいし、全てを組み合わせてもよい。
【0058】
上記実施形態では、避難誘導システム1が備える各部の機能は、1つの装置で実現されるものとして説明したが、各部の機能が複数の装置に分散されることで複数の装置で実現されてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…避難誘導システム、2…センサ、21…加速度センサ、22…人センサ、
3…避難誘導装置、31…人感覚算出部、32…家具転倒予測部、33…不安感算出部、34…避難優先度算出部、35…行動指示部、
4…連絡装置、5…ネットワーク、10…建物、11…家具