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特開2024-63853工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063853
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 25/06 20060101AFI20240507BHJP
   B23B 13/00 20060101ALI20240507BHJP
   B23Q 15/22 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B23B25/06
B23B13/00 Z
B23Q15/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171999
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】厚原 昌太
【テーマコード(参考)】
3C001
3C045
【Fターム(参考)】
3C001KB01
3C001TA01
3C001TB01
3C045FC04
3C045FC38
3C045HA05
(57)【要約】
【課題】無駄な加工を削減した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供する。
【解決手段】把持解除可能に棒材Wを把持してZ1軸方向に移動する主軸25が棒材Wの加工途中に棒材Wの掴みかえを実行することで棒材Wから主軸25の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な旋盤システム1において、棒材WとともにZ1軸方向に移動する送り矢44と、送り矢44が、加工途中に実行する掴みかえが可能な位置に位置しているか否かを長尺製品を製造するための加工開始以前に判定する途中材欠判定部20bとを備えた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持解除可能に棒材を把持して該棒材の軸心方向に移動する主軸が該棒材の加工途中に該棒材の掴みかえを実行することで該棒材から該主軸の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な工作機械システムにおいて、
前記棒材とともに前記軸心方向に移動する送り矢と、
前記送り矢が、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に位置しているか否かを前記長尺製品を製造するための加工開始以前に判定する途中材欠判定部とを備えたことを特徴とする工作機械システム。
【請求項2】
前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを、加工プログラムにおいて指定された指定距離に基づいて判定するものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械システム。
【請求項3】
前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを、加工プログラムにおける前記主軸の移動距離を演算することで得られる演算距離に基づいて判定するものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械システム。
【請求項4】
把持解除可能に棒材を把持して該棒材の軸心方向に移動する主軸が該棒材の加工途中に該棒材の掴みかえを実行することで該棒材から該主軸の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な工作機械システムの制御方法において、
前記棒材とともに前記軸心方向に移動する送り矢が、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に位置しているか否かを前記長尺製品を製造するための加工開始以前に判定する途中材欠判定工程と、
加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置していると前記途中材欠判定工程において判定した場合に開始される加工工程とを有することを特徴とする工作機械システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持解除可能に棒材を把持して該棒材の軸心方向に移動する主軸が該棒材の加工途中に該棒材の掴みかえを実行することで該棒材から該主軸の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械システムには、主軸や刃物台が設けられた加工装置と、加工装置に長尺状の棒材を供給する給材機とを備えたものがある(例えば特許文献1参照)。加工装置の主軸は、把持解除可能に棒材を把持して回転する。主軸は、棒材を把持した状態および把持解除した状態の何れの状態においても棒材の軸心方向に移動可能に構成されている。加工装置には第1制御装置が組み込まれている。第1制御装置は、工作機械システムのオペレータなどが作成した加工プログラム(NCプログラム)や加工装置に設けられた操作パネルを用いた入力操作に従って加工工具が取り付けられた刃物台や主軸などの動作を制御する。第1制御装置が加工プログラムに従って刃物台や主軸の動作を制御することで、棒材の先端部分が所望の形状に加工され、加工された加工済み部分が切り離される。
【0003】
給材機は、加工装置と並んで加工装置よりも棒材の後端側に設置される。給材機は、送り矢と、送り矢を棒材の軸心方向に移動させる送り矢駆動機構と、送り矢駆動機構の動作を制御する第2制御装置とを備えている。送り矢は、先端にフィンガーチャックを備えている。そのフィンガーチャックが棒材の後端部分を掴むことで、送り矢は棒材と連結される。そして、送り矢駆動機構によって送り矢が棒材の先端側に向かって送り出されることで給材機に投入された棒材が加工装置に供給される。送り矢は、加工装置が加工を行っているときには所定の荷重で棒材の後端側から棒材の先端側に向かって棒材を付勢している。この荷重は、主軸が棒材を把持しているときに棒材と主軸の間に滑りが生じない比較的弱い荷重に設定されている。また、給材機は、加工によって短くなった棒材である残材を加工装置から引き抜いて排出する。
【0004】
主軸の移動可能距離を超えた長尺製品を製造する場合、1つの長尺製品を製造する1サイクルの加工途中に棒材を掴みかえることがある。掴みかえでは、主軸による棒材の把持を解除して主軸が棒材の後端側に後退した後、主軸が棒材を再把持する。また、掴みかえは、1サイクルの加工の最初にも行われる。なお、1サイクルとは、電源投入後や段取り後に棒材の先端が切り落とされた後や前のサイクルにおいて棒材の加工済み部分が切り離された後の、最初の掴みかえの動作から棒材の加工済み部分を切り離すまでの動作を指す。加工装置が1サイクルの動作を実行するごとに1つの製品が製造される。
【0005】
図7は、従来の工作機械システムで長尺製品を製造する動作を示すフローチャートである。
【0006】
図7に示すように、従来の工作機械システムでは、まず最初の掴みかえが実行される(ステップS101)。そして、掴みかえ後に加工が開始される(ステップS102)。次の掴みかえが必要になるまでの加工が完了していなければ(ステップS103でNO)、ステップS107に進む。次の掴みかえが必要になるまでの加工が完了したら(ステップS103でYES)。送り矢が所定の材欠位置に到達していないかを判定する(ステップS104)。材欠位置は、掴みかえにおいて主軸が後退したときに送り矢と主軸とが干渉しない位置に設定されている。なお、ここでいう主軸には主軸とともに後退する構成部材も含んでいる。
【0007】
送り矢が材欠位置に到達していなければ(ステップS104でYES)、次の掴みかえが実行される(ステップS105)。そして、次の掴みかえ後に加工が再開され(ステップS106)、ステップS107に進む。1サイクルの加工が全て完了していなければ(ステップS107でNO)、ステップS103に戻る。1サイクルの加工が全て完了したら(ステップS107でYES)、指定されたサイクル数の加工が完了したか判定し(ステップS108)、指定されたサイクル数の加工が完了していれば(ステップS108でYES)動作を終了する。指定されたサイクル数の加工が完了していなければ(ステップS108でNO)、ステップS101に戻る。なお、ステップS101の前にステップS104と同様に送り矢が材欠位置に到達していないか判定し、到達している場合は棒材を交換しているがここでは説明を省略している。
【0008】
ステップS104で、送り矢が材欠位置に到達していたら(ステップS104でNO)、次の掴みかえの前に、それまで加工していた加工途中の棒材の加工済み部分を切り離して廃棄する途中材欠処理が実行される(ステップS109)。その後、残った残材を引き抜いて新しい棒材を供給する棒材交換が実行される(ステップS110)。棒材交換が完了したら、棒材の先端を切り落としてステップS101に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-313267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の工作機械システムでは、長尺製品を製造する1サイクルの加工途中で棒材を掴みかえる際に送り矢が材欠位置に到達していると判定されると、それまで加工していた加工途中の棒材の加工済み部分を切り離して廃棄する材欠処理が実行されて加工途中の棒材は排出される。この加工済み部分は製品としては使用できないものであり廃材となってしまうため、従来の工作機械システムでは、それまでの加工に要した動力や時間が無駄になるといった問題があった。
【0011】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、無駄な加工を削減した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムは、
把持解除可能に棒材を把持して該棒材の軸心方向に移動する主軸が該棒材の加工途中に該棒材の掴みかえを実行することで該棒材から該主軸の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な工作機械システムにおいて、
前記棒材とともに前記軸心方向に移動する送り矢と、
前記送り矢が、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に位置しているか否かを前記長尺製品を製造するための加工開始以前に判定する途中材欠判定部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この工作機械システムによれば、前記途中材欠判定部が、加工途中に前記掴みかえが実行できなくなるか否かを長尺製品の加工開始以前に判定するので、無駄な加工を削減することができる。
【0014】
ここで、前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえにおいて該掴みかえが不可能な位置に前記送り矢が到達することになるか否かに基づいて判定するものであってもよい。換言すれば、前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえまでに前記送り矢が材欠位置に到達することになるか否かに基づいて判定するものであってもよい。また、前記途中材欠判定部は、1サイクルにおける最初の掴みかえの開始以前に判定を行うものであってもよい。さらに、前記途中材欠判定部は、前のサイクルの加工が終了した時から次のサイクルにおける最初の掴みかえの開始までの間に判定を行うものであってもよい。さらに、前記途中材欠判定部が、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置していないと判定した場合、前記棒材をあらたな棒材に交換させる機械制御部を備えていてもよい。
【0015】
この工作機械システムにおいて、
前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを、加工プログラムにおいて指定された指定距離に基づいて判定するものであってもよい。
【0016】
こうすることで、前記指定距離として任意の距離を設定することができる。
【0017】
ここで、前記途中材欠判定部は、前記棒材の残有効加工長と前記指定距離とを比較することで加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを判定するものであってもよい。
【0018】
この工作機械システムにおいて、
前記途中材欠判定部は、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを、加工プログラムにおける前記主軸の移動距離を演算することで得られる演算距離に基づいて判定するものであってもよい。
【0019】
前記途中材欠判定部が演算距離に基づいて判定することで、正確な判定を行うことができる。なお、加工プログラムにおける前記主軸の移動距離とは、加工途中に前記掴みかえが複数実行される場合には最後の掴みかえ後を除く、加工動作における該主軸の移動距離を合算した距離であってもよい。
【0020】
ここで、前記途中材欠判定部は、前記棒材の残有効加工長と前記演算距離とを比較することで加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置しているか否かを判定するものであってもよい。
【0021】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムの制御方法は、
把持解除可能に棒材を把持して該棒材の軸心方向に移動する主軸が該棒材の加工途中に該棒材の掴みかえを実行することで該棒材から該主軸の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造可能な工作機械システムの制御方法において、
前記棒材とともに前記軸心方向に移動する送り矢が、加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に位置しているか否かを前記長尺製品を製造するための加工開始以前に判定する途中材欠判定工程と、
加工途中に実行する前記掴みかえが可能な位置に前記送り矢が位置していると前記途中材欠判定工程において判定した場合に開始される加工工程とを有することを特徴とする。
【0022】
この工作機械システムの制御方法によれば、前記途中材欠判定工程により、加工途中に実行する前記掴みかえが実行できなくなるか否かが長尺製品の加工開始以前に判定されるので、無駄な加工を削減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、無駄な加工を削減した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
図2図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
図3図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
図4図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。
図5図1に示した旋盤システムで長尺製品を製造する動作を示すフローチャートである。
図6図5に示したフローチャートの動作に用いられる位置関係を説明するための平面図である。
図7】従来の工作機械システムで長尺製品を製造する動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、本発明をNC旋盤と給材機とを備えた旋盤システムに適用した例を用いて説明する。
【0026】
図1は、本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の旋盤システム1は、加工装置であるNC旋盤2と、材料供給装置である給材機4とを備えている。この旋盤システム1が、工作機械システムの一例に相当する。本実施形態のNC旋盤2は、いわゆるスイス型旋盤である。NC旋盤2は、切削室22と、主軸室23と、旋盤操作パネル24とを備えている。切削室22は、棒材W(図2参照)の先端部分を加工する空間が形成された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の右側に配置されている。主軸室23は、主軸25(図2参照)が配置された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の左側に配置されている。
【0028】
旋盤操作パネル24は、旋盤操作部241と旋盤表示画面242とを有している。旋盤操作部241は、旋盤システム1のオペレータによる入力操作を受け付ける複数のボタンやキー等からなる。なお、旋盤操作部241は、旋盤表示画面242と一体化されたタッチパネルであってもよい。旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241や外部コンピューターを用いて作成した加工プログラムを後述する記憶部203(図3参照)に記憶させることができる。また、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて加工プログラムの修正を行い、修正した加工プログラムを記憶部203に記憶させることもできる。さらに、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて旋盤システム1の各構成要素を個別または連携して動作させることもできる。旋盤表示画面242は、記憶部203に記憶された加工プログラム、旋盤システム1の各種設定値およびエラー内容などの旋盤システム1に関する各種情報を表示するディスプレイである。
【0029】
給材機4は、長尺な棒材W(図2参照)をNC旋盤2に供給する。給材機4は、NC旋盤2と並んで設置される。給材機4には、複数の棒材Wが格納されている。給材機4は、格納された棒材Wのうちの1本をNC旋盤2に向かって送り出す。また、給材機4は、加工によって短くなった棒材Wである残材をNC旋盤2から引き抜いて排出する。残材を排出した後、給材機4は、格納された棒材Wからあらたに1本をNC旋盤2に向かって送り出す。給材機4には、給材機4を操作するための入力装置である給材機操作パネル42が設けられている。
【0030】
図2は、図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
【0031】
図2に示すように、NC旋盤2は、主軸25と、ガイドブッシュ26と、第1刃物台27と、背面主軸28と、第2刃物台29とを備えている。主軸25、ガイドブッシュ26、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、土台である脚の上に配置されている。主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、加工動作や掴みかえ動作が記述された加工プログラムや旋盤操作パネル24(図1参照)からの入力に従って動作する。
【0032】
主軸25は、Z1軸方向に移動可能である。主軸25は、主軸台によって主軸台とともにZ1軸方向に移動するが、主軸台は図示省略し説明も省略する。Z1軸方向は、水平方向であり、図2においては左右方向である。このZ1軸方向は、棒材Wの軸心方向の一例に相当する。主軸25は、その内部を貫通している棒材Wを把持解除可能に把持するためのコレットチャック251を先端部分に有している。主軸25は、棒材Wを把持して主軸中心線CLを中心として回転可能である。主軸中心線CLの方向はZ1軸方向と一致している。以下、主軸25が棒材Wの先端側に移動することを前進と称し、主軸25が棒材Wの後端側に移動することを後退と称することがある。図2においては、右方向が前進方向であり、左方向が後退方向である。
【0033】
ガイドブッシュ26は、土台である脚に固定されている。ガイドブッシュ26の、主軸25が配置された側とは反対側の端面は、切削室22(図1参照)内に露出している。ガイドブッシュ26は、主軸25の内部を貫通した棒材Wの先端側部分をZ1軸方向へ摺動自在に支持する。このガイドブッシュ26の、棒材Wを支持している部分は、主軸25と同期して主軸中心線CLを中心にして回転可能である。ガイドブッシュ26から切削室22内に突出した棒材Wの先端部分が第1刃物台27に取り付けられた第1工具T1によって加工される。この第1工具T1が、加工工具の一例に相当する。このNC旋盤2では、ガイドブッシュ26により加工時の棒材Wの撓みが抑制されるので、特に細長い棒材WをNC旋盤2によって高精度に加工できる。
【0034】
第1刃物台27は、Z1軸方向と直交しかつ水平方向を向いたX1軸方向と、垂直方向を向いたY1軸方向に移動可能である。この第1刃物台27が、刃物台の一例に相当する。図2では、上下方向がX1軸方向であり、紙面に直交する方向がY1軸方向である。第1刃物台27には、切削工具、突切工具などを含む複数種類の第1工具T1がY1軸方向に並んで櫛歯状に取り付けられている。また、第1工具T1として、エンドミルやドリルなどの回転工具を第1刃物台27に取り付けることもできる。第1刃物台27がY1軸方向に移動することで、これらの複数種類の第1工具T1から任意の第1工具T1が選択される。そして、第1刃物台27がX1軸方向に移動することで、主軸25に把持されガイドブッシュ26に支持された棒材Wの先端部分に、選択されている第1工具T1が切り込んで加工したり棒材Wの加工済み部分を切り離したりする。なお、加工済み部分を切り離すための工具が突切工具である。
【0035】
背面主軸28は、X2軸方向およびZ2軸方向に移動可能である。背面主軸28は、背面主軸台によって背面主軸台とともにX2軸方向およびZ2軸方向に移動するが、背面主軸台は図示省略し説明も省略する。X2軸方向は上述したX1軸方向と同一の方向であり、Z2軸方向は上述したZ1軸方向と同一の方向である。また、Z2軸方向は、背面主軸28の軸線方向に相当する。図2には、背面主軸28が、ガイドブッシュ26を挟んで主軸25に対向した位置にある様子が示されている。この位置では背面主軸28の回転中心である背面主軸中心線は、主軸中心線CLと同一線上に配置されている。背面主軸中心線の方向はZ2軸方向と一致している。背面主軸28には、主軸25を用いた加工が完了した棒材Wの加工済み部分が、突切工具によって切り離されて受け渡される。以下、切り離された加工済み部分を切断済み部分と称する。背面主軸28には、先端のチャックから後端までZ2軸方向に貫通した排出用貫通孔281が形成されている。棒材Wの加工途中に棒材Wの掴みかえを実行するような長尺製品を棒材Wから製造する場合、棒材Wの加工が施された部分は、主軸25に対向した位置にある背面主軸28の排出用貫通孔281に順次挿入されていく。背面主軸28は、主軸25から受け渡された切断済み部分や主軸25を用いた加工の途中における棒材Wの加工が施された部分を把持解除可能に把持する。また、主軸25を用いた加工途中で主軸25が棒材Wの掴みかえを実行する間、背面主軸28は、主軸25に対向した位置で、排出用貫通孔281に挿入された棒材Wの先端部分を把持して停止している。その状態で主軸25が棒材Wの把持を解除して後退し棒材Wを再把持することで、加工途中の掴みかえが行われる。その後、主軸25を用いた加工が完了し背面主軸28に受け渡された切断済み部分は、排出用貫通孔281内を通って背面主軸28の後ろ側に排出される。なお、背面主軸28の後ろ側は、図2における右側になる。
【0036】
第2刃物台29は、Y2軸方向へ移動可能である。なお、第2刃物台29は、X2軸方向に移動可能に構成されていてもよい。Y2軸方向は上述したY1軸方向と同一の方向である。第2刃物台29には、切断済み部分を加工するドリルやエンドミル等の第2工具T2が取り付けられている。なお、第2工具T2は、Y2軸方向に並んで第2刃物台29に複数取り付けられている。第2刃物台29のY2軸方向への移動によって、これらの複数の第2工具T2から任意の第2工具T2が選択される。そして、背面主軸28がX2軸方向やZ2軸方向に移動することで、背面主軸28に把持された切断済み部分の切断端側が加工される。この切断端側の加工が完了した切断済み部分が旋盤システム1によって製造された製品になる。なお、背面主軸28を用いた加工を行わない場合もある。その場合、切断済み部分がそのまま製品になる。
【0037】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42(図1参照)の他に、送り矢44と、送り矢駆動機構45と、送り矢モータ46と、先端センサ47と、原点センサ48とを有している。送り矢44は、不図示のガイドによってZ1軸方向に移動自在に案内されている。送り矢44の先端には、棒材Wの後端を把持するフィンガーチャック441が設けられている。このフィンガーチャック441は、送り矢44の他の部分に対して回転自在に取り付けられることで、主軸中心線CLを回転中心軸として回転自在になっている。フィンガーチャック441が棒材Wの後端を把持することで、送り矢44は棒材Wに連結される。すなわち、フィンガーチャック441が棒材Wを把持している間、送り矢44は棒材ととともにZ1軸方向に移動する。
【0038】
送り矢駆動機構45は、給材機4の先端側と後端側それぞれに設けられた不図示のプーリと、そのプーリに掛け渡された駆動ベルトによって構成されている。駆動ベルトには、連結部451が固定されている。この連結部451によって駆動ベルトと送り矢44の後端部分とが連結されている。給材機4の後端側に設けられたプーリは、送り矢モータ46の出力軸に固定されている。
【0039】
送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2に向かって移動する。反対に、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2から離間する方向に移動する。給材機4内に格納された複数の棒材Wのうち軸心が主軸中心線CLと一致した位置にある棒材Wがフィンガーチャック441によって把持される。そして、送り矢44が移動することで、フィンガーチャック441に把持された棒材Wは、棒材Wの軸心方向に移動する。すなわち、送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、棒材Wはその先端側に移動し、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、棒材Wはその後端側に移動する。送り矢モータ46は、送り矢エンコーダ461を有している。なお、送り矢エンコーダ461は、送り矢モータ46とは別に設置されていてもよい。送り矢エンコーダ461によって、送り矢モータ46の回転数や回転量が検出される。送り矢エンコーダ461の検出結果は、第2制御装置40(図3参照)に送信される。
【0040】
先端センサ47は、棒材Wの先端を検出する。また、原点センサ48は、送り矢44が原点に位置しているか否かを検出する。送り矢44の原点は、送り矢44の移動範囲のうち最も後端側に位置している。原点センサ48は、送り矢44の後端を検出するセンサである。これらの先端センサ47と原点センサ48の検出結果は、それぞれ第2制御装置40(図3参照)に送信される。第2制御装置40は、先端センサ47の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、NC旋盤2に電源投入後最初に棒材Wを供給する際やあらたに棒材Wを供給する際の棒材Wの先端位置がどの位置にあるかを把握する。また、第2制御装置40は、原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、送り矢44の位置を把握する。
【0041】
図3は、図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。なお、この図3では、旋盤システム1のハードウェア構成のうち本発明との関連性の低いものは、これまで説明した構成要素を動作させるものであっても図示省略している。
【0042】
図3に示すように、NC旋盤2は、第1制御装置20と、上述した旋盤操作パネル24と、Z1軸モータ252と、主軸モータ253と、主軸アクチュエータ254とを有している。第1制御装置20は、いわゆるNC(Numerical Control)装置であり、CPU201と、PLC(Programmable Logic Controller)202と、記憶部203とを有している。第1制御装置20は、CPU201による演算機能を有するコンピュータである。第1制御装置20は、記憶部203に記憶されている加工プログラムや旋盤操作パネル24からの入力に従って図2に示した主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29等の各構成要素の動作を制御する。図3には、各構成要素を駆動するモータやアクチュエータのうちの一部が示されている。第1制御装置20は、主にNC旋盤2に設けられたサーボモータに対して数値制御を行う。また、第1制御装置20が有しているPLC202は、主にNC旋盤2に設けられたシリンダーやバルブ等のサーボモータ以外の機器の動作をシーケンス制御する。
【0043】
記憶部203には、ラダープログラムやマクロプログラムなどの各種プログラムがあらかじめ記憶されている。さらに、記憶部203には、加工プログラムの他に、工具に関するデータ、棒材Wの径データおよび製品長データなどの諸情報がオペレータによって記憶される。記憶部203は、ROM、HDDおよびSSD等の不揮発性メモリーとRAM等の揮発性メモリーとから構成されている。
【0044】
Z1軸モータ252は、第1制御装置20からの指令を受けて回転するサーボモータである。Z1軸モータ252が回転することで主軸25(図2参照)はZ1軸方向に移動する。なお、第1制御装置20とZ1軸モータ252の間には不図示のアンプが設けられており、第1制御装置20がアンプに指令を送信することでZ1軸モータ252が制御されている。以下、アンプについては説明を省略する。Z1軸モータ252は、Z1軸エンコーダ2521を有している。Z1軸エンコーダ2521の出力が第1制御装置20にフィードバックされることで、第1制御装置20は、主軸25(図2参照)のZ1軸方向における位置を常時把握している。
【0045】
主軸25(図2参照)には、ビルトインモーター等の主軸モータ253が設けられている。主軸モータ253は、第1制御装置20から指令を受けて回転する。主軸モータ253が回転することで、主軸25および主軸25に把持された棒材W(図2参照)は、主軸中心線CL(図2参照)を中心にして回転する。なお、主軸25と同様に、背面主軸28にも背面主軸モータが設けられているが説明は省略する。主軸アクチュエータ254は、コレットチャック251(図2参照)を動作させるための油圧シリンダー等のアクチュエータである。主軸アクチュエータ254によって不図示のチャックスリーブが前進方向に移動することで、コレットチャック251が閉じて棒材Wが主軸25によって把持される。また、チャックスリーブが後退方向に移動することで、コレットチャック251が開いて主軸25による棒材Wの把持が解除される。なお、主軸25と同様に、背面主軸28にも背面主軸28が有する背面コレットチャックを開閉する背面主軸アクチュエータが設けられているが説明は省略する。
【0046】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42、送り矢モータ46、先端センサ47および原点センサ48の他に第2制御装置40を有している。第2制御装置40は、給材機4の各構成要素についてシーケンス制御を行う制御装置である。第2制御装置40は、各センサや送り矢エンコーダ461等から受信した情報に基づいて送り矢モータ46や給材機4に設けられた不図示のアクチュエータの動作を制御する。また、第2制御装置40は、第1制御装置20からの動作要求に応じて給材機4の動作を制御する。第2制御装置40には、給材記憶部401が設けられている。その給材記憶部401には、送り矢44の材欠位置の情報が保存されいてる。主軸25が移動可能範囲のうち最も後退した位置にある状態でコレットチャック251(図2参照)と送り矢44とが干渉しない位置が材欠位置の初期値として設定され給材記憶部401に保存されている。ただし、材欠位置は、給材機操作パネル42からの入力操作によって書き換え可能になっている。
【0047】
送り矢モータ46は、第2制御装置40からの指令を受けて回転するサーボモータである。送り矢モータ46が回転することで送り矢44(図2参照)はZ1軸方向に移動する。上述したように、第2制御装置40は、送り矢44の原点からの移動距離を原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって把握することで、送り矢44のZ1軸方向における位置を常時把握し、給材機4に関する情報として第1制御装置20に送信している。また、第2制御装置40は、あらたに供給する棒材Wの先端や電源投入後最初にNC旋盤2に送り出した棒材Wの先端のZ1軸方向における位置を第1制御装置20に送信する。NC旋盤2が加工を開始した後、残材の引き抜き開始までは、第2制御装置40によって送り矢モータ46は基本的に一定のトルクで一方向に回転しようとするように制御される。これにより、棒材Wは、設定された荷重で棒材Wの先端側に向かって送り矢44によって付勢される。この荷重は、主軸25が棒材Wを把持しているときに棒材Wと主軸25との間に滑りが生じる虞が無い比較的弱い荷重に設定される。
【0048】
給材機操作パネル42は、操作部と表示画面とが一体になったタッチパネルである。なお、給材機4には、給材機操作パネル42の他に非常停止ボタンや送り矢モータ46のトルク設定スイッチ等が設けられている。旋盤システム1のオペレータは、給材機操作パネル42を用いて、送り矢44(図2参照)をZ1軸方向に手動操作で移動させたり、材欠位置などの給材機4の各種設定値を入力することができる。また、給材機操作パネル42には、給材機4の各種設定値およびエラー内容などの給材機4に関する各種情報並びに給材機4の操作ボタンが表示される。
【0049】
第1制御装置20と第2制御装置40とは信号ケーブルで接続されている。第1制御装置20は、信号ケーブルを介して第2制御装置40に動作要求などを送信する。また、第2制御装置40は、信号ケーブルを介して第1制御装置20に送り矢44の位置情報を含む給材機4に関する各種情報を随時送信する。また、第2制御装置40は、第1制御装置20からの情報送信要求に応じて材欠位置の情報などの要求された情報を第1制御装置20に送信する。
【0050】
図4は、図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。なお、図4でも、本発明に特に関連性の高い機能構成のみを示し、旋盤システム1が有するその他の機能構成は図示省略し説明も省略する。
【0051】
図4に示すように、第1制御装置20によって、機械制御部20aと途中材欠判定部20bとが構成されている。機械制御部20aは、主に図3に示したCPU201とPLC202と記憶部203によって達成される機能構成である。また、途中材欠判定部20bは、主にCPU201と記憶部203によって達成される機能構成である。また、第2制御装置40によって、給材制御部40aと送り矢位置把握部40bが構成されている。
【0052】
機械制御部20aは、NC旋盤2の各構成要素の動作を制御するものである。また、機械制御部20aは、第2制御装置40に動作要求や情報送信要求を送信することもある。途中材欠判定部20bは、加工途中に掴みかえを実行する必要がある長尺製品を製造するための加工開始以前に、加工途中の掴みかえを実行することが可能な位置に送り矢44が位置しているか否かを判定する。具体的には、途中材欠判定部20bは、1サイクルにおける加工途中の掴みかえまでに送り矢44が到達することになる位置をあらかじめ演算して材欠位置に到達するか否かを加工の開始以前に判定する。この実施形態の途中材欠判定部20bは、1サイクルの加工途中に複数の掴みかえが行われる場合には、実質的に最後の掴みかえにおいて送り矢44が到達する位置を演算して材欠位置に到達していないか否かを判定している。ただし、途中材欠判定部20bは、加工途中に複数の掴みかえが行われる場合には、その全ての掴みかえにおいて送り矢44が到達している位置を演算して材欠位置に到達していないか否かを判定してもよい。なお、途中材欠判定部20bが、第2制御装置40に材欠位置の情報を送信要求することもある。
【0053】
給材制御部40aは、給材機4に設けられた各種センサからの出力、給材機操作パネル42からの入力および第1制御装置20からの動作要求に従って送り矢モータ46などの動作を制御する機能構成である。送り矢位置把握部40bは、原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果を用いて原点センサ48からの送り矢44のZ1軸方向の位置を演算することで原点センサ48からの送り矢44(図2参照)の前進距離である送り矢位置を把握する。給材記憶部401には、送り矢44の長さ情報が保存されている。送り矢位置把握部40bは、送り矢44の前進距離に送り矢44の長さを加算することで原点センサ48から送り矢44の先端位置までの距離も把握している。
【0054】
図5は、図1に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。また、図6は、図5に示したフローチャートの動作に用いられる位置関係を説明するための平面図である。
【0055】
図5に示すフローチャートは、電源投入後の初期動作が完了した後や新しい製品を加工するための段取り作業が完了した後の旋盤システム1の動作を示している。初期動作や段取り動作では、棒材Wの先端が突切工具で切断される。初期動作や段取り動作が完了した状態は、突切工具がストッパとして作用して棒材Wの先端が突切工具に当接している状態である。この状態では、棒材Wは送り矢44によって先端側に向かって付勢されることで突切工具に押し付けられている。また、図5に示すフローチャートは、主軸25の移動可能範囲よりも長い長尺製品を製造する場合のフローチャートである。
【0056】
図5及び図6に示すように、途中材欠判定部20bは、長尺製品を製造するための加工プログラムに従った1サイクルの加工を開始する前に、1サイクルにおける最初の掴みかえ後から最後の掴みかえ前迄の加工動作における主軸25の移動距離である距離Eを読み込む(ステップS11)。この距離Eは、1サイクルにおける最初の掴みかえ後から最後の掴みかえ前迄の加工動作における棒材Wの移動距離でもある。距離Eは、加工プログラムにおいて指定されていれば、その指定された距離を使用する。以下、その加工プログラムにおいて指定された距離Eを指定距離と称する。指定距離は、Gコード指令またはMコード指令を用いて指定される。Gコード指令を用いて指定する場合には、例えば、加工プログラムに「G*** A___ W___ S___ X___ Z___ F___ B___ Q___ K___ E___」のように記述される。なお、実際には、Gに続く***には、コードの内容やコードの機能を示す数字が記述される。また、G以外のアルファベットに続く___には引数が記述される。この例においては、指定距離は、Eに続く引数として記述される。Mコード指令を用いる場合も同様に指定距離は引数として記述される。このようにオペレータが加工プログラムで指定した場合、指定距離は、記憶部203に記憶されているのでステップS11において途中材欠判定部20bは、記憶部203に記憶された指定距離を距離Eとして読み込む。指定されていなければ、途中材欠判定部20bは、加工プログラムを解析して1サイクルにおける最初の掴みかえの後から最後の掴みかえの前迄の加工動作において主軸25が移動する距離を演算して距離Eとして記憶部203に保存するとともに読み込む。以下、この演算により得られた距離Eを、演算距離と称する。ここでいう加工動作とは、第1工具T1が棒材Wに接しているか否かに関わらず、加工プログラムに記述された1サイクルの動作中における掴みかえ以外の全ての動作を指す。また、主軸25が移動する距離とは、加工動作において主軸25が後退する動作を含む場合には対象となる加工動作における合計前進距離から対象となる加工動作における合計後退距離を減算した距離である。図6には、加工途中に2回掴みかえを実行する例が記載されている。途中材欠判定部20bは、加工途中に実行される掴みかえにおける主軸25の後退距離の合計距離を演算することで距離Eとしてもよい。その場合、その演算により得られた距離Eが、演算距離に相当する。本実施形態でいう加工途中に実行される掴みかえとは、加工開始前に行われる最初の掴みかえ以外の、1サイクルの動作中に実行される掴みかえを指す。
【0057】
次に、途中材欠判定部20bは、現在の送り矢位置から材欠位置までの距離である残有効加工長Rと距離Eとを比較する(ステップS12)。これらステップS11およびステップS12が、途中材欠判定工程の一例に相当する。上述したように、材欠位置は、掴みかえにおいて主軸が後退したときに送り矢と主軸とが干渉しない位置であり、第2制御装置40の給材記憶部401に保存されている。そして、旋盤システム1の立ち上げ時や、材欠位置が書き換えられた際などに第2制御装置40から第1制御装置20に送信されて記憶部203に記憶されている。途中材欠判定部20bは、その材欠位置の情報と、第2制御装置40から随時送信されてくる送り矢44の位置情報とから残有効加工長Rを演算する。そして、残有効加工長Rが距離E以上であれば(ステップS12でYES)、機械制御部20aは、最初の掴みかえを実行する(ステップS13)。最初の掴みかえが完了したら機械制御部20aは、加工プログラムに従って加工を開始させる(ステップS14)。このステップS14で開始される加工が、加工工程の一例に相当する。
【0058】
この加工を開始した後、次の掴みかえまでの加工が完了していなければ(ステップS15でNO)、ステップS18に進む。次の掴みかえまでの加工が完了したら(ステップS15でYES)、機械制御部20aは、加工を中断して加工途中の掴みかえを実行させる(ステップS16)。なお、通常の加工プログラムは、加工が進むにつれて主軸25が前進し、主軸25の移動可能範囲のうち最も前進端に主軸25が到達または接近したら次の掴みかえを実行するように作成されている。加工途中の掴みかえが完了したら、機械制御部20aは、掴みかえ後の加工を開始させる(ステップS17)。加工開始後、次の掴みかえまでの加工が完了するまでは、機械制御部20aは、1サイクルの加工が全て完了したかを随時判定する(ステップS18)。ステップS14の加工開始後は、これらステップS15~ステップS18を繰り返すことで1サイクルの加工が完了するまで掴みかえと加工とが繰り返し実行される。1サイクルの加工が全て完了したら(ステップS18でYES)、機械制御部20aは、加工プログラムで指定されたサイクル数の加工が完了したか判定する(ステップS19)。指定されたサイクル数の加工が完了していれば(ステップS19でYES)、機械制御部20aは動作を終了する。指定されたサイクル数の加工が完了していなければ(ステップS19でNO)、ステップS11に戻って途中材欠判定部20bによる判定を行った(ステップS11~ステップS12)後、残有効加工長Rが距離E以上であれば(ステップS12でYES)、次のサイクルの動作を開始する。
【0059】
一方、残有効加工長Rが距離E未満であれば(ステップS12でNO)、加工を開始することなく、機械制御部20aは主軸25に棒材Wの把持を解除させた後、給材機4が残材をNC旋盤2から引き抜いてあらたな棒材WをNC旋盤2に供給する棒材交換を実行させる(ステップS21)。その後、ステップS11に戻って途中材欠判定部20bによる判定を行った(ステップS11~ステップS12)後、次のサイクルの動作を開始する。なお、ステップS21の棒材交換直後は、残有効加工長Rは距離E以上であることは明らかであるので、ステップS21後は、ステップS13に進んで次のサイクルの動作を開始してもよい。
【0060】
以上説明した旋盤システム1および旋盤システム1の制御方法によれば、途中材欠判定部20bが、加工途中の掴みかえが実行できなくなるか否かを、加工開始以前に判定することで、途中まで加工した加工済み部分が製品として使用できなくなってしまうことを防止できる。すなわち、完了することができない無駄な加工を削減することができる。これにより、その加工済み部分の加工に要した時間や棒材Wなどが無駄になってしまうことを防止でき、加工による第1工具T1やNC旋盤2の部品の劣化や摩耗も抑制できる。加えて、加工途中の棒材Wの加工済み部分を切り離して廃棄するための材欠プログラムを作成しなければならないといったオペレータの手間も削減できる。換言すれば、材欠プログラムを作成する代わりに、加工プログラムにおいて指定距離(距離E)を記入するだけですむので旋盤システム1の操作性が飛躍的に高まる。
【0061】
また、距離Eが指定されていなければ、途中材欠判定部20bは、加工プログラムから距離Eを自動的に演算するのでオペレータが距離Eを計算して入力する手間を低減できる。さらに、途中材欠判定部20bが加工プログラムを解析して距離Eを演算することで、人為的な計算ミスが防止され正確な判定を行うことができる。
【0062】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことができる。例えば、本実施形態では、主軸25が移動可能なスイス型のNC旋盤2に途中材欠判定部20bを設ける例を示したが、主軸25が土台である脚に固定された主軸固定型のNC旋盤に途中材欠判定部20bを設けてもよい。その場合、距離Eの代わりに加工時の送り矢44の前進距離を用いて判定すればよい。また、本実施形態を示した図5の動作と、従来技術を示した図7の動作とを加工プログラムや旋盤操作パネルからの入力操作によって切り替え可能に構成してもよい。換言すれば、途中材欠判定部20bの動作有無または途中材欠判定工程の実行有無をオペレータが選択できるようにしてもよい。なお、加工プログラムによって上述の切り替えを可能にする場合、Gコード指令やMコード指令などの加工プログラムに記述されるコードによって切り替え可能に構成してもよい。
【0063】
なお、以上説明した各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 旋盤システム(工作機械システム)
20b 途中材欠判定部
25 主軸
44 送り矢
W 棒材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7