(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063923
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】分散樹脂およびそれを用いた分散液、インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20240507BHJP
【FI】
C09D11/328
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172117
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】大竹 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘
(72)【発明者】
【氏名】小松 晴信
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039BD02
4J039BE08
4J039CA06
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】固化した色材の再分散性が良好であり、且つ高温環境下で保管した際に安定した分散性を有する分散液等を提供することを目的とする。
【解決手段】水と、色材と、前記色材を分散する分散樹脂と、を含み、前記分散樹脂が、疎水性単量体を含む構成単位Aと、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位Bと、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位Cと、を有し、前記分散樹脂の重量平均分子量が、10000~100000であり、前記構成単位Aの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、40mol%以上であり、前記構成単位Bの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、4mol%以上である分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
色材と、
前記色材を分散する分散樹脂と、を含み、
前記分散樹脂が、疎水性単量体を含む構成単位Aと、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位Bと、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位Cと、を有し、
前記分散樹脂の重量平均分子量が、10000~100000であり、
前記構成単位Aの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、40mol%以上であり、
前記構成単位Bの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、4mol%以上である、
分散液。
【請求項2】
前記分散樹脂の分子量分布が、1.0~3.0である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記構成単位Aの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、40~90mol%である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
前記構成単位Bの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、4~37mol%である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項5】
前記構成単位Cの含有量が、前記分散樹脂の総量に対して、10~20mol%である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項6】
前記色材が、分散染料である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項7】
前記色材の含有量が、前記分散液の総量に対して、7.5~30質量%である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項8】
前記分散樹脂の含有量が、前記分散液の総量に対して、2.5~10質量%である、
請求項1に記載の分散液。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の分散液と、
界面活性剤と、
水溶性有機溶剤と、を含む、
インクジェット記録用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散樹脂およびそれを用いた分散液、インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、記録ヘッドのミスト汚染を抑制しつつ、高画質の画像を得ることについて種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、顔料粒子を、スチレン-アクリル系樹脂で分散した顔料インクジェット記録用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスチレン-アクリル系樹脂など従来の分散剤を含むインク組成物は、一度インクを乾燥させて色材を固化すると、その後の再分散がし難く、吐出時の不具合を発生させやすいという問題や、高温環境下で保管した際の分散安定性が不十分であるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、水と、色材と、上記色材を分散する分散樹脂と、を含み、上記分散樹脂が、疎水性単量体を含む構成単位Aと、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位Bと、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位Cと、を有し、上記分散樹脂の重量平均分子量が、10000~100000であり、上記構成単位Aの含有量が、上記分散樹脂の総量に対して、40mol%以上であり、上記構成単位Bの含有量が、上記分散樹脂の総量に対して、4mol%以上である分散液である。
【0006】
また、本発明は、上記分散液と、界面活性剤と、水溶性有機溶剤と、を含む、インクジェット記録用インク組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.分散液
本実施形態の分散液は、水と、色材と、上記色材を分散する分散樹脂と、を含み、上記分散樹脂が、疎水性単量体を含む構成単位Aと、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位Bと、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位Cと、を有し、上記分散樹脂の重量平均分子量が、10000~100000であり、上記構成単位Aの含有量が、上記分散樹脂の総量に対して、40mol%以上であり、上記構成単位Bの含有量が、上記分散樹脂の総量に対して、4mol%以上である。
【0009】
従来の分散樹脂を用いた分散液又はインク組成物は、一度色材が固化すると、再分散し難いという問題や、高温環境下で保管した際の分散安定性が不十分であるという問題がある。これに対して、本実施形態においては、上記構成を有する分散樹脂を用いることにより、固化した色材が容易に再分散することを可能とし、また、高温環境下で保管した場合であっても、分散安定性を保持することが可能となる。以下、各成分について詳説する。
【0010】
1.1.分散樹脂
本実施形態の分散樹脂は、疎水性単量体を含む構成単位Aと、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位Bと、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位Cと、を有する共重合体である。本実施形態において「単量体」とは、重合前の重合性不飽和結合を有するモノマーをいい、「構成単位」とは、重合後に分散樹脂の一部を構成する繰り返し単位をいう。また、本実施形態において「疎水性」とは、25℃の水と相溶しない性質をいい、「親水性」とは、25℃の水と相溶する性質をいう。
【0011】
分散樹脂は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。ブロック共重合体としては、構成単位Aから構成されるブロックAと、構成単位Bから構成されるブロックBと、構成単位Cから構成されるブロックCとを有するトリブロック共重合体の他、構成単位Aから構成されるブロックAと、構成単位B及び構成単位Cから構成されるランダムブロックB/Cとを有するジブロック共重合体などが挙げられる。このような分散樹脂を用いることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0012】
分散樹脂の含有量は、分散液の総量に対して、好ましくは2.5~10質量%であり、2.7~8.0質量%であり、3.0~6.0質量%である。分散樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0013】
1.1.1.構成単位A
構成単位Aは、疎水性単量体を含む構成単位であり、分散樹脂に部分的に疎水性を付与する。特に制限されないが、構成単位Aは、色材の表面に疎水性相互作用等により配向し得し、分散樹脂の色材への吸着に寄与し得る。
【0014】
構成単位Aを構成する疎水性単量体としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、メチルスチレン、その他のスチレン誘導体等の芳香族基を有するビニルモノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を有するアクリル酸エステルモノマーが挙げられる。このなかでも、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。このような疎水性単量体を用いることにより、色材への分散樹脂の吸着性がより向上し、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。疎水性単量体は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。なお、本実施形態において「(メタ)アクリレート」には、アクリレート及びメタクリレートが含まれる。
【0015】
構成単位Aの含有量は、分散樹脂の総量に対して、40mol%以上であり、好ましくは40~90mol%であり、50~90mol%であり、60~90mol%である。構成単位Aの含有量が40mol%以上であることにより、色材への分散樹脂の吸着性がより向上する。また、通常は、疎水性である構成単位Aの含有量が40mol%以上もあると、分散樹脂自体の親水性が低下するが、本実施形態の分散樹脂は他の構成単位、特には、構成単位Cの寄与により、分散樹脂の水溶性を確保することができる。これにより、色材への分散樹脂の吸着性がより向上し、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0016】
1.1.2.構成単位B
構成単位Bは、不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を含む構成単位である。特に制限されないが、構成単位Bは、色材の表面とは反対側に配向する。また、二価のカルボン酸を含むことにより、粒子表面上の電荷密度が高くなり、粒子間の静電反発が強くなる。そのため、凝集性が強い色材に対しても凝集を抑制でき、分散性の向上に寄与し得、特に、高温環境下で保管した際の分散安定性を大きく向上させる傾向にある。
【0017】
構成単位Bを構成する不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体としては、特に制限されないが、例えば、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸、ドデセニルコハク酸が挙げられる。このなかでも、イタコン酸、フマル酸が好ましい。このような不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体を用いることにより、色材への分散樹脂の吸着性がより向上し、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。不飽和脂肪族ジカルボン酸単量体は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0018】
構成単位Bの含有量は、分散樹脂の総量に対して、4mol%以上であり、好ましくは4~40mol%であり、4~37mol%であり、4~30mol%である。構成単位Bの含有量が4mol%以上であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。また、構成単位Bの含有量が40mol%以下であることにより、分散樹脂が極端に水溶性になることを回避し、色材に対する吸着性を確保することができる。
【0019】
1.1.3.構成単位C
構成単位Cは、スルホン酸基を有するアクリルアミド単量体を含む構成単位であり、分散樹脂に部分的に親水性を付与する。特に制限されないが、構成単位Cは、色材の表面とは反対側に配向し、分散性の向上に寄与し得る。
【0020】
構成単位Cを構成するスルホン酸基を有するアクリルアミド単量体としては、特に制限されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。このなかでも、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸がより好ましい。このようなアクリルアミド単量体を用いることにより、分散樹脂の親水性がより向上し、固化した後の再分散性がより向上し、高温下で保管した場合であっても、粒子径や粘度変化がより少なくなる傾向にある。アクリルアミド単量体は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
CH=CONH-R-SO3H ・・・ (1)
(式中、Rは、炭素数1~6の、直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基を示す。)
【0021】
アクリルアミド単量体におけるスルホン酸基は、塩を形成していてもよい。塩は、特に制限されないが、例えば、カリウム、ナトリウム等によるアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等によるアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;アルキルアミン塩が挙げられる。
【0022】
構成単位Cの含有量は、分散樹脂の総量に対して、好ましくは5~25mol%であり、10~20mol%であり、12.5~17.5mol%である。構成単位Cの含有量が上記範囲内であることにより、分散樹脂の親水性がより向上し、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0023】
1.1.4.重量平均分子量及び分子量分布
分散樹脂の重量平均分子量は、10000~100000であり、好ましくは20000~80000であり、30000~60000であり、30000~50000である。分散樹脂の重量平均分子量が10000以上であることにより、分散樹脂の色材への吸着性が向上し、分散の安定性に優れる傾向にある。また、分子量を100000以下とすることで、分散液の粘度が小さくなり、吐出信頼性が向上する傾向にある。
【0024】
また、分散樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0であり、1.0~2.5であり、1.0~2.0である。分散樹脂の分子量分布が上記範囲内であることにより、分散樹脂の分子量のばらつきが小さくなり、一定の分散性能を有する分散樹脂を多く含む分散液が得られる。これにより、分散液の品質のばらつきが小さくなる傾向にあり、品質管理が容易になる。なお、このように比較的狭い分子量分布は、後述するリビングラジカル重合などにより達成することができる。
【0025】
重量平均分子量及び分子量分布は、公知の方法により、クロマトグラフィー法により測定することができる。より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0026】
1.1.5.製造方法
本実施形態の分散樹脂は、上記疎水性単量体と上記アクリルアミド単量体とを、順次共重合させることにより得ることができる。重合反応は、特に制限されないが、例えば、ラジカル重合、特にはリビングラジカル重合を用いることができる。
【0027】
1.2.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、純水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等が挙げられる。
【0028】
水の含有量は、分散液の総量に対して、好ましくは60~90質量%であり、70~90質量%であり、80~90質量%である。
【0029】
1.3.色材
色材としては、特に制限されないが、例えば、分散染料や顔料が挙げられる。このなかでも、分散染料がより好ましい。色材は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0030】
分散染料としては、特に制限されず、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースブラックなど公知のものを用いることができる。
【0031】
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンが挙げられる。
【0032】
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料等が挙げられる。
【0033】
色材の含有量は、分散液の総量に対して、好ましくは7.5~30質量%であり、8.0~20質量%であり、8.5~15質量%である。
【0034】
1.4.pH調整剤
分散液は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸等)、無機塩基(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン)、有機酸(例えば、アジピン酸、クエン酸、コハク酸等)等が挙げられる。pH調整剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上混合して用いてもよい。
【0035】
2.インクジェット記録用インク組成物
本実施形態のインクジェット記録用インク組成物(単に、「インク組成物」ともいう。)は、上記分散液と、界面活性剤と、水溶性有機溶剤と、を含み、必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。なお、「インクジェット記録用」とは、インクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出するインクジェット法により用いることを意味する。
【0036】
2.1.分散液
分散液については上記のとおりである。分散液とともにインク組成物に添加される上記分散樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~3.0質量%であり、0.3~2.0質量%であり、0.5~1.5質量%である。分散樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0037】
また、分散液とともにインク組成物に添加される上記色材の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは1.0~7.0質量%であり、1.5~6.0質量%であり、2.5~4.5質量%である。色材の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0038】
インク組成物中において、分散樹脂の含有量は、色材100質量部に対して、好ましくは10~80質量部であり、15~70質量部であり、25~60質量部である。分散樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0039】
2.2.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0040】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0041】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0042】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは0.1~3.0質量%であり、0.1~1.0質量%である。
【0044】
2.3.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等の含窒素溶剤;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。このなかでも、グリコール類が好ましく、ジエチレングリコールや1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。水溶性有機溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0045】
水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは5.0~30質量%であり、10~20質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0046】
2.4.水
水としては、特に限定されないが、分散液で例示したものを挙げることができる。
【0047】
水の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは60~90質量%であり、70~85質量%である。水の含有量が上記範囲内であることにより、固化した後の再分散性がより向上し、高温環境下で保管した際の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0048】
2.5.pH調整剤
インク組成物は、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、分散液で例示したものを上げることができる。インク組成物におけるpH調整剤は、分散液に由来して混合されるものであってもよいし、インク組成物の調整時に別途添加されるものであってもよい。
【0049】
pH調整剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは0.1~2.0質量%であり、0.5~1.5質量%である。
【0050】
2.6.その他の樹脂
インク組成物は、分散樹脂以外のその他の樹脂をさらに含んでいてもよい。その他の樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アニオン系樹脂、カチオン系樹脂、又はノニオン系樹脂が挙げられる。このような樹脂を含むことにより、色材を記録媒体に固着させることができる。
【0051】
カチオン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、カチオンでんぷんなどのでんぷん誘導体、カチオン系のウレタン系樹脂、カチオン系のオレフィン系樹脂、及びカチオン系のアリルアミン系樹脂が挙げられる。
【0052】
アニオン系樹脂の例としては、カルボキシメチルセルロース塩、ビスコースなどのセルロース誘導体、アルギン酸塩、アラビアゴム、トラガントゴム、リグニンスルホン酸塩等
の天然樹脂類が挙げられる。
【0053】
ノニオン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、オレフィン系樹脂、及び酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。
【0054】
その他の樹脂の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは0.1~2.0質量%であり、0.5~1.5質量%である。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
1.共重合体の合成
1.1.製造例1
撹拌子とジムロート冷却管をセットした、容量200mLの2口フラスコに、17質量部のスチレンと、7質量部の2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と、3.4質量部のイタコン酸と、0.3質量部の2-{[(カルボキシメチル)スルファニルチオカルボニル]スルファニル}プロパン酸(CSPA)と、0.3質量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)と、を入れ、72質量部のイソプロピルアルコールで溶解させた。
【0057】
その後、窒素雰囲気下で、75℃に加熱し、22時間リビングラジカル重合反応を行った。反応終了後、反応物を1Lの純水に滴下して、分画分子量が100,000のフィルターを用いて限外ろ過した。濃縮液を液体窒素で凍結させて、一晩凍結乾燥することにより、共重合体である、単黄色の粉末状の分散樹脂1を15質量部得た。分散樹脂1の重量平均分子量は32000であった。なお、上記で用いた試薬はいずれも東京化成工業社製である。
【0058】
1.2.製造例2~10
用いた単量体の種類と量を、下記表1の分散樹脂が得られるように変更したこと以外は、製造例1と同様の方法により、分散樹脂2~10を合成した。
【0059】
1.3.重量平均分子量及び分子量分布
クロマトグラフィー法により、上記のようにして得られた各分散樹脂及び各ポリマーAの重量平均分子量及び、各分散樹脂の分子量分布(Mw/Mn)を測定した。条件を以下に示す。
(測定条件)
装置名 :HLC8320GPC(東ソー)
ガードカラム:Super AW-L
カラム :Super AW3000
カラム温度 :25℃
溶出液 :ジメチルアセトアミド
流速 :0.6 mL/min
検出器 :RI
【0060】
【表1】
※ATBS(登録商標):2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
【0061】
2.ワニス液の調製
撹拌子、ジムロート冷却管をセットした1Lナス型フラスコに、10質量部の分散樹脂と、86質量部の純水と、4質量部のトリエタノールアミンと、を加え、80℃に加熱して1時間撹拌した。その後、25℃に冷却して、得られた水溶液をワニス液として用いた。
【0062】
3.分散液の調製
13質量部のワニス液と、4質量部の非水溶性色材であるDISPERSE YELLOW 232(DY232)と、17質量部の純水と、を80質量部のジルコニアビーズを用いて、ビーズミルにて1時間粉砕し、分散液を得た。
【0063】
4.インク組成物の調製
下記表2に記載の組成となるように、分散液とその他の成分を混合し、各インク組成物を得た。また、後述する再分散性の評価で用いたインク水の組成についても表2に示す。
【0064】
5.評価
5.1.再分散性
上記のように調製したインク組成物をスライドガラス上に滴下し、乾燥させて固化させた。そして、インク水を入れたサンプル瓶内に、スライドガラスを浸漬し、固形物の再分散の挙動を目視にて確認した。なお、インク水が撹拌等されないように注意して操作を行った。なお、インク水とは、下記表2において色材と分散樹脂を含まないものをいう。再分散性の評価基準を以下に示す。
(評価基準)
A:インク水中に完全に分散している。
B:インク水中に分散している。
C:インク水中で凝集物もしくは沈降物がみられる。
【0065】
5.2.粒度分布変化(高温環境下で保管した際の分散安定性)
上記のように調整したインク組成物をサンプル瓶に入れ、60℃で5日間放置した。そして、放置前後のインク組成物の体積基準の累積50%粒子径(D50)を、動的光散乱法によって測定し、放置前後における累積50%粒子径の変化を確認した。測定装置としては、マイクロトラックUPA150(Microtrac Inc.社製商品名)を使用した。得られた測定結果に基づいて粒度分布変化を求めた。
(評価基準)
A:D50の増加が8%未満であった。
B:D50の増加が8%以上20%未満であった。
C:D50の増加が20%以上であった。
【0066】
【表2】
※表中の数字は全て質量%である。
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩:富士フイルム和光純薬社製
BYK-348:シリコーン系界面活性剤、ビックケミー社製
【0067】
以上のとおり、本発明の分散液を用いた実施例のインク組成物は、比較例と比較して、再分散性及び高温環境下で保管した際の分散安定性に優れていることがわかる。