(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063945
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】プラズマ電解酸化による皮膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/30 20060101AFI20240507BHJP
C25D 11/04 20060101ALI20240507BHJP
C25D 11/06 20060101ALI20240507BHJP
C25D 11/08 20060101ALI20240507BHJP
C25D 11/26 20060101ALI20240507BHJP
C25D 11/34 20060101ALI20240507BHJP
C25D 11/36 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C25D11/30
C25D11/04 101E
C25D11/06 C
C25D11/08
C25D11/26 302
C25D11/34 301
C25D11/34 303
C25D11/36 B
C25D11/36 C
C25D11/36 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172149
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 陽一
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】堺 貴洋
(57)【要約】
【課題】金属の表面に耐摩耗性の高い皮膜を容易に形成することができるプラズマ電解酸化による皮膜形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】リン酸塩及びケイ酸塩を含有し、リン酸塩とケイ酸塩のモル比が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1である電解液に金属を陽極として浸漬させた状態で、金属と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、金属の表面に皮膜を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩及びケイ酸塩を含有し、前記リン酸塩と前記ケイ酸塩のモル比が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1である電解液に金属を陽極として浸漬させた状態で、前記金属と前記電解液との間にプラズマ放電を発生させて、前記金属の表面に皮膜を形成することを特徴とするプラズマ電解酸化による皮膜形成方法。
【請求項2】
前記電解液における前記リン酸塩及び前記ケイ酸塩の各々の濃度の合計が、15~300mmol/Lであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ電解酸化による皮膜形成方法。
【請求項3】
前記電解液が有機酸塩を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ電解酸化による皮膜形成方法。
【請求項4】
前記金属が、マグネシウムまたはマグネシウム合金であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ電解酸化による皮膜形成方法。
【請求項5】
金属の表面に、該金属、酸素、リン酸塩及びケイ酸塩を含有する皮膜が形成された金属材料であって、
前記皮膜におけるリンとケイ素のモル比が、リン:ケイ素=1:3~2:1であることを特徴とする金属材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の表面に対して、プラズマ電解酸化処理により皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属の表面に皮膜を形成する方法として、プラズマ電解酸化(Plasma Electrolytic Oxidation、以下「PEO」とも称する。)処理が使用されている。
【0003】
このPEO処理は、陽極酸化処理の一種であり、金属を電解液に浸漬させた状態で、金属に対して高電圧を印加することにより、金属と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、金属の表面に酸化皮膜を形成する処理方法である。
【0004】
そして、このPEO処理を使用した皮膜形成方法としては、例えば、インジウム化合物を含有する電解液を用いて、マグネシウム合金等の金属と電解液との間にプラズマ放電を発生させることにより、金属の表面にインジウムを含有する皮膜を形成する方法が開示されている。そして、このような方法により、金属の表面に耐食性に優れた皮膜を形成することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、メタケイ酸ナトリウム、カルボン酸塩、メタホウ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム及びフッ化カリウムを水に溶解した陽極酸化処理液を用いて、マグネシウム合金等の金属に対して陽極酸化処理を行うことにより、金属の表面に酸化皮膜を形成する方法が開示されている。そして、このような方法により、金属の表面に耐食性と耐摩耗性に優れた皮膜を形成することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-162935号公報
【特許文献2】特開昭63-100195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記特許文献1に記載の方法では、金属の耐食性を向上することはできるものの、金属の耐摩耗性について検討が不十分であり、例えば、マグネシウムやマグネシウム合金等の耐摩耗性に乏しい金属において、耐摩耗性を十分に向上することができないという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の方法では、ガラスを腐食させる等の取り扱いが困難なフッ化カリウムを使用しなければならないため、皮膜形成処理が困難になるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、金属の表面に対して、耐摩耗性の高い皮膜を形成して、耐摩耗性に優れた金属材料を得ることができるとともに、耐摩耗性の高い皮膜を容易に形成することができるプラズマ電解酸化による皮膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のプラズマ電解酸化による皮膜形成方法は、リン酸塩及びケイ酸塩を含有し、リン酸塩とケイ酸塩のモル比が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1である電解液に金属を陽極として浸漬させた状態で、金属と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、金属の表面に皮膜を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の金属材料は、金属の表面に、金属、酸素、リン酸塩及びケイ酸塩を含有する皮膜が形成された金属材料であって、皮膜におけるリンとケイ素のモル比が、リン:ケイ素=1:3~2:1であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属の表面に耐摩耗性の高い皮膜を容易に形成することが可能になり、耐摩耗性に優れた金属材料を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る皮膜が形成された金属材料を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るプラズマ電解酸化による皮膜形成方法を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施例2~3において作製した電解液及び金属材料の皮膜における組成分析(ケイ素とリンのモル比に関する分析)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る皮膜が形成された金属材料を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の金属材料1は、金属基板2と、金属基板2の表面に形成された皮膜3とを備えている。
【0017】
金属基板2を形成する金属としては、PEO処理において電圧を印加することができるものであれば特に限定されず、例えば、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、マンガン、カルシウム、イットリウム、シリコン、チタン、鉄及びこれらの合金を使用することができる。
【0018】
皮膜3は、リン酸塩及びケイ酸塩を含有する電解液に金属基板2を陽極として浸漬させた状態で、金属基板2に対して高電圧を印加することにより、金属基板2と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、金属基板2の表面に形成される多孔質のセラミック膜である。
【0019】
電解液におけるリン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム等を使用することができる。なお、これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
電解液におけるケイ酸塩としては、特に限定されないが、例えば、メタケイ酸ナトリウム・9水和物、メタケイ酸ナトリウム無水物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等を使用することができる。なお、これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
また、本実施形態においては、リン酸塩とケイ酸塩とを含有する電解液において、リン酸塩とケイ酸塩のモル比が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1である。そして、リン酸塩とケイ酸塩のモル比が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1である電解液を使用してPEO処理を行うことにより、金属基板2の表面に耐摩耗性の高い皮膜3を形成することが可能になる。
【0022】
電解液におけるリン酸塩とケイ酸塩の合計濃度としては15~300mmol/Lが好ましく、20~200mmol/Lがより好ましい。これは濃度が15mmol/L未満の場合は、必要な電解電圧が高くなるため金属基板2自体が溶解する場合があるためであり、300mmol/Lよりも大きい場合は、リン酸塩が溶解しにくく電解液の安定性が劣る場合があるためである。即ち、リン酸塩とケイ酸塩の合計濃度を15~300mmol/Lとすることにより、電解処理時における皮膜3を安定的に形成させることが可能となる。
【0023】
電解液には、クエン酸ナトリウム、クエン酸リチウム、クエン酸カリウム及びクエン酸カルシウム等のクエン酸塩や、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の有機酸塩を含有させてもよい。
【0024】
また、電解液中における有機酸塩の濃度は、30mmol/L以下が好ましく、1.5~27.1mmol/Lがより好ましい。これは、濃度が30mmol/Lよりも大きい場合は、皮膜3の形成が困難になる場合があるためである。即ち、有機酸塩の濃度を30mmol/L以下に設定することにより、電解処理時における皮膜3を安定的に形成させることが可能になる。
【0025】
また、電解液には、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ剤(pH調整剤)を含有させてもよい。
【0026】
また、電解液中における金属材料の自己溶解反応を抑制するとの観点から、電解液のpHは、12.5~14の範囲が好ましく、本実施形態においては、電解液のpHが上記範囲内となるように、電解液に上記アルカリ剤が添加される。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係るプラズマ電解酸化による皮膜形成方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係るプラズマ電解酸化による皮膜形成方法を説明するための図である。本実施形態の皮膜形成方法は、電解液作製工程とPEO処理工程とを備える。
【0028】
<電解液作製工程>
まず、溶媒である水に、リン酸ナトリウム等のリン酸塩と、メタケイ酸ナトリウム・9水和物等のケイ酸塩と、クエン酸三ナトリウム等の有機酸塩と、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤とを加え、均一となるように攪拌して混合し、電解液を作製する。なお、必要に応じて、EDTA等のキレート剤を加えてもよい(ステップS1)。
【0029】
<PEO処理工程>
次に、マグネシウム等の金属基板2を電解液に浸漬させ(ステップS2)、金属基板2を電解液に浸漬させた状態で、金属基板2に対して高電圧を印加することにより、金属基板2と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、金属基板2の表面に皮膜3を形成する(ステップS3)。なお、電解液を攪拌した状態でPEO処理を行ってもよい。
【0030】
ここで、本実施形態においては、PEO処理法として、金属基板2を陽極として用いた、パルス電解法、直流電解法、交流電解法等が使用できるが、均一に皮膜を形成するとの観点から、パルス電解法を使用することが好ましい。
【0031】
また、電解電圧としては、最大電圧が放電(アーク放電)電圧以上であればよいが、PEO処理の安定性を向上させるとの観点から、80~800Vに設定することが好ましい。
【0032】
また、パルス電解法を使用する場合は、エネルギー効率及び均一な皮膜を形成するとの観点から、周波数を100~10000Hzに設定するとともに、デューティー比を0.5以下に設定することが好ましい。
【0033】
また、PEO処理の時間は、皮膜3の耐摩耗性の確保とエネルギー効率の観点から適宜変更することができ、例えば、1~60分に設定することができる。
【0034】
また、PEO処理を行う際の陰極を形成する材料としては、例えば、ステンレス、黒鉛、銅、チタン、白金等を使用することができる。
【0035】
そして、PEO処理を開始すると、陽極である金属基板2において電解反応が発生し、まず、金属基板2を形成する金属と水中の酸素を含む化学種とが反応して、金属基板2の表面に薄い酸化皮膜(バリア層)が形成される。そして、電子雪崩現象により、酸化皮膜内で発光が生じる。
【0036】
次いで、アーク放電が開始され、アーク放電の熱により金属表面に溶融が発生して、酸化皮膜上に金属成分や電解液成分(すなわち、リン酸塩やケイ酸塩)の酸化物が成長し、金属基板2の表面上に、数μm~数十μmの厚みを有し、金属、酸素、リン酸塩及びケイ酸塩を含有する多孔質のセラミック膜(即ち、皮膜3)が形成される。
【0037】
この際、本実施形態においては、電解液中にリン酸塩とケイ酸塩が、リン酸塩:ケイ酸塩=1:2~2:1のモル比で含有されているため、摩耗性の高い皮膜3を形成することが可能になる。
【0038】
また、本実施形態のプラズマ電解酸化による皮膜形成方法においては、上記従来技術と異なり、取り扱いが困難なフッ化カリウム等を使用する必要がないため、金属基板2の表面に対して耐摩耗性の高い皮膜3を容易に形成することが可能になる。
【0039】
以上のようにして、
図1に示す金属基板2の表面上に皮膜3が形成された、耐摩耗性に優れた金属材料1を作製することができる。
【0040】
なお、後述のごとく、金属基板2の表面に形成された皮膜3におけるリンとケイ素のモル比は、PEO処理において使用される電解液におけるリンとケイ素のモル比と相関(すなわち、電解液におけるリンとケイ素のモル比がリン:ケイ素=2:1~1:2の場合、皮膜3におけるリンとケイ素のモル比がリン:ケイ素=2:1~1:3となる関係)がある。
【実施例0041】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0042】
(実施例1)
(電解液の作製)
溶媒である水に、リン酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)と、メタケイ酸ナトリウム・9水和物(キシダ化学(株)製)と、クエン酸三ナトリウム(キシダ化学(株)製)と、水酸化カリウム(キシダ化学(株)製)とを加え、均一になるように攪拌して、電解液を作製した。
【0043】
なお、電解液中のリン酸ナトリウムの濃度が45mmol/L、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度が45mmol/L、クエン酸三ナトリウムの濃度が1.5mmol/L及び水酸化ナトリウムの濃度が100mmol/Lとなるように調整した。
【0044】
(PEO処理)
次に、アルミニウムや亜鉛を添加したマグネシウム合金(MDC-AXS620)からなり、表面積が18cm2であるマグネシウム合金板を陽極として使用するとともに、SUS304からなり、表面積が1300cm2であるステンレス槽を陰極として使用し、作製した電解液にマグネシウム合金板を浸漬させた状態で、16分間、マグネシウム合金板に対して高電圧を印加することにより、マグネシウム合金板と電解液との間にプラズマ放電を発生させて、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜を形成し、本実施例の金属材料を作製した。
【0045】
なお、電解電圧を300V、周波数を167Hz、及びデューティー比を0.166に設定してPEO処理を行った。
【0046】
(実施例2)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を60mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を30mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。なお、電解液のpHは13.3であった。
【0047】
そして、電解電圧を275Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を14分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0048】
(実施例3)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を30mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を60mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。なお、電解液のpHは13.2であった。
【0049】
そして、電解電圧を325Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を14分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0050】
(実施例4)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を10mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を10mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0051】
そして、電解電圧を420Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0052】
(実施例5)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を25mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を25mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0053】
そして、電解電圧を380Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0054】
(実施例6)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を30mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を20mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0055】
そして、電解電圧を380Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0056】
(実施例7)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を100mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を100mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0057】
そして、電解電圧を220Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0058】
(実施例8)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を80mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を120mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0059】
そして、電解電圧を220Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0060】
(実施例9)
クエン酸三ナトリウムを使用しなかったこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0061】
そして、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0062】
(実施例10)
電解液中のクエン酸三ナトリウムの濃度を3.9mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0063】
そして、電解電圧を290Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0064】
(実施例11)
電解液中のクエン酸三ナトリウムの濃度を7.8mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0065】
そして、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0066】
(実施例12)
電解液中のクエン酸三ナトリウムの濃度を27.1mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0067】
そして、電解電圧を340Vに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0068】
(比較例1)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を72mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を18mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0069】
そして、電解電圧を275Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を12分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0070】
(比較例2)
電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を18mmol/Lに変更するとともに、メタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を72mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。
【0071】
そして、電解電圧を340Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を14分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0072】
(比較例3)
メタケイ酸ナトリウム・9水和物を使用せず、電解液中のリン酸ナトリウムの濃度を90mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。なお、電解液のpHは13.1であった。
【0073】
そして、電解電圧を275Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を10分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0074】
(比較例4)
リン酸ナトリウムを使用せず、電解液中のメタケイ酸ナトリウム・9水和物の濃度を90mmol/Lに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、電解液を作製した。なお、電解液のpHは13.5であった。
【0075】
そして、電解電圧を350Vに変更するとともに、処理時間(マグネシウム合金板に対して高電圧を印加する時間)を17分に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、PEO処理を行い、マグネシウム合金板の表面に、10.0μmの厚みを有する皮膜が形成された金属材料を作製した。
【0076】
<皮膜の元素分析>
エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy; EDS)により、実施例2~3において作製した電解液及び金属材料の皮膜における組成分析(ケイ素とリンのモル比に関する分析)を行った。以上の結果を表1、及び
図3に示す。
【0077】
表1、及び
図3に示すように、実施例2~3において、EDS分析により算出された皮膜におけるリンとケイ素のモル比(リン:ケイ素=2:1~1:3)は、EDS分析により算出された電解液におけるリンとケイ素のモル比(リン:ケイ素=2:1~1:2)と相関があることが分かる。
【0078】
なお、EDS分析は、EDS分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JED-2300)を用いて、加圧電圧15kVの条件下で行った。
【0079】
(耐摩耗性評価)
次に、実施例1~12及び比較例1~4で作製した各金属材料の表面に形成された皮膜面に対して、摩擦試験機(Bruker製、商品名:UMT-TriboLab)を用いて耐摩耗性評価を実施した。
【0080】
より具体的には、まず、直径9.525mm(3/8インチ)のタングステンカーバイド(WC)製ボールを作製した金属材料の皮膜面に接触させ、接触面に対する荷重が10Nとなるようにボールを押圧しながら、1mmの長さのストロークで、90往復/分となるようにボールを動かした。
【0081】
そして、900往復の摩擦試験を行った後、金属材料の摩耗深さ[μm]を形状解析レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VK-X250)で測定した。なお、測定は3回行い、その平均値を摩耗深さ[μm]として算出した。また、90往復の摩擦試験を行った時の皮膜の摩擦係数を測定した。なお、測定は6回行い、その平均値を摩擦係数として算出した。以上の結果を表1~2に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
表1~表2に示すように、リン酸ナトリウムとメタケイ酸ナトリウムのモル比が、リン酸ナトリウム:メタケイ酸ナトリウム=1:2~2:1である電解液を使用した実施例1~12においては、比較例1~4に比し、金属材料の摩耗深さが非常に小さいとともに、皮膜の摩擦係数が小さく、耐摩耗性に優れていることが分かる。
【0085】
一方、比較例1~4においては、金属材料の摩耗深さが皮膜の厚み(10μm)よりも大きく、皮膜を貫通して、マグネシウム合金の表面まで摩耗しており、耐摩耗性に非常に乏しいことが分かる。
【0086】
また、実施例1,4~12においては、比較例1~4に比し、金属材料の摩耗深さが非常に小さく、その中でも電解液中にクエン酸三ナトリウムが添加されている実施例1,4~6,8,10~12においては、金属材料の摩耗深さが特に小さく、耐摩耗性に非常に優れていることが分かる。