(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063946
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】複合膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20240507BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240507BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240507BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20240507BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20240507BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240507BHJP
B32B 3/26 20060101ALI20240507BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D39/16 C
B01D39/16 E
B01D69/10
B01D71/36
B01D71/26
B01D69/02
B32B3/26
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172150
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】菅澤 淳
【テーマコード(参考)】
4D006
4D019
4F100
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA08
4D006MA09
4D006MA10
4D006MB10
4D006MC22
4D006MC23X
4D006MC28
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4D006MC53
4D006NA39
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4D019AA01
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4D019BB10
4D019BC13
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4D019CB06
4F100AK07
4F100AK07B
4F100AK17
4F100AK17A
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4F100AK18A
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4F100DJ00
4F100DJ00A
4F100DJ00B
4F100GB56
4F100JD02
4F100JK14
(57)【要約】
【課題】油の付着による通気性能の低下が抑制された複合膜を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂多孔質膜と、該フッ素樹脂多孔質膜と積層された吸油層とを具備する複合膜が提供される。上記吸油層は、親油性材料を含み、多孔質である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂多孔質膜と、
前記フッ素樹脂多孔質膜と積層された、親油性材料を含み多孔質である吸油層と
を具備する、複合膜。
【請求項2】
前記フッ素樹脂多孔質膜は、ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
前記吸油層は、ポリプロピレン製不織布である、請求項1又は2に記載の複合膜。
【請求項4】
前記フッ素樹脂多孔質膜と前記吸油層との間に、撥油性材料を含む多孔質なオイルバリア層をさらに具備する、請求項1又は2に記載の複合膜。
【請求項5】
前記フッ素樹脂多孔質膜の前記吸油層とは反対側の主面上に、多孔質支持体をさらに具備する、請求項1又は2に記載の複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機器において、内圧調整や換気のための通気口が設けられている。また、携帯電話等のスピーカーやマイクの様に音声を発したり認識したりする部位には、機能上の理由から開口が設けられる。通気口や開口から内部への水分や他の異物の侵入を防ぐために、通気・防水膜が取り付けられている。その通気膜には、例えば、撥水処理された不織布やメッシュ、並びにポリテトラフルオロエチレン(PTFE;四フッ化エチレン樹脂)等のフッ素樹脂の多孔膜が用いられる。高い通気性と耐水性の観点からPTFEの多孔質膜が、耐水・通気膜として多く用いられている。例えば、特許文献1(特開2005-334758号公報)には、PTFE等のフッ素樹脂を含んでいる撥水樹脂多孔質膜を備えた通気フィルタが記載されている。
【0003】
オイルが付着するような環境下でも通気・防水膜が必要とされる場面があるが、特段の処置が施されていない通常の多孔質膜、例えば、典型的なPTFE多孔質膜は、たとえ撥水性を有していても耐油性がなく、オイルに暴露されると通気性能が著しく低下する。オイルの付着による通気性の劣化を防止する手段について様々な検討がされている。例えば、特許文献1には、必要に応じて撥水処理や撥油処理などの撥液処理を通気フィルタに施すことが記載されている。また、特許文献2(特開平7-126428号公報)及び特許文献3(特開2014-31412号公報)には、PTFE等の多孔質膜に撥油性を付与することにより、通気膜への油分や界面活性剤の付着によって生じる弊害を防止することが記載されている。
【0004】
異物の付着による通気性の劣化を防止する手段として、通気膜の直接の暴露を防止するという方法がある。例えば、特許文献4(特開2014-102970号公報)には、筐体の開口部に取り付ける通気部材として、防水通気膜が取り付けられるエラストマー製の内側部材と防水通気膜を覆うように内側部材に装着される樹脂製の外側部材とを備えた通気部材が記載されている。内側部材と外側部材の露出表面には撥液処理が施されているため、筐体内部へのオイルや洗浄液の侵入を防止できる。また、外側部材が防水通気膜を覆っていることで、筐体外部からの砂や泥などの防水通気膜の表面への蓄積により通気性が阻害される虞を低減できる。特許文献5(特開2014-191902号公報)には、筐体の開口部に取り付ける通気部材として、通気膜と、通気膜を支持し筐体の開口部に固定される支持体と、通気膜を覆うように支持体に取り付けられたカバー部材とを備えた通気部材が記載されている。支持体には通気膜の周囲を囲むように撥油部分が形成されているため、カバー部材によって通気膜への正面からのオイルの付着を遮ることができるだけでなく、カバー部材の側部にある開口よりカバー部材と支持体との間の通気空間にオイルが侵入した場合にも通気膜へのオイルの付着を防止できる。
【0005】
通気膜への付着が懸念されるオイルは外部由来のものに限らず、筐体内部に収容されるオイルが通気膜の通気性を損なわせる場合もある。例えば、自動車用部品の筐体にはオイル等の液体が収容される場合があり、筐体内の圧力が低いときに生じ得るオイルミストや他の液状浮遊物が内面側から通気膜に付着し得る。
【0006】
筐体内に浮遊したオイルミストの通気膜への付着を防止する手段の一例として、特許文献6(特開2014-191903号公報)に記載されている通気部材を挙げることができる。特許文献6が開示する通気部材は、筐体の開口部に装着され、筐体の内外を連絡する貫通孔を有する支持体と、貫通孔を筐体内部側で塞ぐフィルタ部材と、貫通孔を筐体外部側で塞ぐ通気膜とを備えている。貫通孔は第1通気経路とその側面に連結された第2通気経路とを含んでおり、第1通気経路の一端部は筐体内部側の開口に連結されており、第2通気経路の一端部は外部側の開口に連結されている。貫通孔は、第1通気経路の他端部から袋状に延びるように形成された袋状経路をさらに含んでいる。筐体内のオイルミストが外部へ通気される際、フィルタ部材を通過することで粒状のオイルとなり、第1通気経路の内周面および袋状経路の内周面に付着する。それにより、オイルミストが第2通気経路へ移動しにくくなるため、通気膜への筐体内に浮遊したオイルミストの付着が低減される。
【0007】
他の例として特許文献7(特開2017-204620号公報)には、通気膜と、通気膜と接触せずに設置された捕集膜と、それらを保持し筐体の開口部や他の部材に装着される装着部材とを備えた通気部材が記載されている。筐体内部の圧力が外部圧力に対し大きくなった場合に筐体内の空気が通気部材を介して外部へ放出されるが、その際に外部へ向かうオイルミスト等の液体浮遊粒子は、通気膜の前段に設けられた捕集膜に捕集される。そのため、液体浮遊粒子の通気膜への到達が抑制される。筐体内部の圧力が外部圧力に対し負圧となった時に通気膜から捕集膜へ向かう方向へ気体が流れることによって、捕集膜に捕集された液体浮遊粒子が粗大化して液化し、脱落する。また、捕集膜に付着した液体が自重により落下する。捕集膜からの液体分離の促進のために、通気膜だけでなく捕集膜にも撥水処理や撥油処理等の撥液処理を施すことができる。つまり当該通気部材では、捕集膜を含むことで、跳ね油漏れ防止構造を備えたブリーザーキャップと同様の機能が発揮される。
【0008】
多孔質膜に撥油性能を付与しただけでは、膜がオイルに暴露された時に通気性が著しく低下する虞がある。暴露から通気膜を保護する部材を備えた通気部材は、膜単体(複合膜を含む)と比較して寸法が大きく、機器設計の上での制約となる。また、そのような通気部材ではオイルの直接暴露は避けられるものの、オイルミスト環境下に置かれた場合は、膜への付着を完全に失くすことができずに膜がオイルに曝される可能性がある。何れの方法に関しても、通気膜までオイルが到達した場合の機能低下を避けることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-334758号公報
【特許文献2】特開平7-126428号公報
【特許文献3】特開2014-31412号公報
【特許文献4】特開2014-102970号公報
【特許文献5】特開2014-191902号公報
【特許文献6】特開2014-191903号公報
【特許文献7】特開2017-204620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
油の付着による通気性能の低下が抑制された複合膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
フッ素樹脂多孔質膜と、該フッ素樹脂多孔質膜と積層された吸油層とを具備する複合膜が提供される。上記吸油層は、親油性材料を含み、多孔質である。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の複合膜では油の付着による通気性能の低下が抑制されているため、当該複合膜を油が付着する環境において通気膜として用いた場合に通気性を維持できる。また、該複合膜は、簡潔でコンパクトな構造を有するため、省スペース化の要望にも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1に示した複合膜の作用を概念的に表す断面図。
【
図7】
図6に示した通気膜における課題を概念的に表す断面図。
【
図8】従来の通気膜の他の例における課題を概念的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
通気・防水膜の一例を
図6に示す。
図6は、従来の通気膜の一例を概略的に示す断面図である。図示する通気膜10は、積層された樹脂多孔質膜13と多孔質支持体14との複合品である。樹脂多孔質膜13は、例えば、フッ素樹脂製の多孔質膜であり、具体的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE;四フッ化エチレン)樹脂製の多孔質膜であり得る。多孔質支持体14は、例えば、不織布であり、通気膜10の耐久性およびハンドリング性を向上させるために含まれている。多孔質支持体14を省略した樹脂多孔質膜13単体でも、通気・防水膜としての機能を備えている。
【0015】
通気膜10が含む樹脂多孔質膜13及び多孔質支持体14の何れにも通気性があり、通気膜10は厚み方向に通気を示す。その一方で、樹脂多孔質膜13の孔が小さいため、水等の液体は高圧をかけないと浸透しない。そのため、図示するように気体分子20は通気膜10を何れの方向にも通過できることに対し、水滴21は樹脂多孔質膜13にはじかれる。そのため、通気膜10の表側および裏側の間で通気や通音を保ちつつ、樹脂多孔質膜13側(例えば、機器外部側)からの水分の侵入を防止することができる。
【0016】
樹脂多孔質膜13に水は浸透しないものの油は浸透する。
図7に示すように、樹脂多孔質膜13に油滴22が付着すると油分23が膜内部に浸透し、孔が油分23によって塞がれる。そのため、通気膜10の通気性が損なわれる。
【0017】
樹脂多孔質膜13への油の浸透を防止するために、撥油剤を塗布するなどの撥油処理を施した多孔質膜を備えた通気膜が使用されている。そのような、従来の通気膜の他の例を
図8に示す。
図8に示す例の通気膜10は、
図6及び7に示した例と異なり撥油処理されていない樹脂多孔質膜13の代わりに撥油処理樹脂多孔質膜15を備えている。撥油処理樹脂多孔質膜15は、例えば、樹脂多孔質膜13と同様の多孔質膜に撥油剤を塗布する等の撥油処理を施して撥油性を付与したものである。撥油処理樹脂多孔質膜15は、少量の油分や粘度の低い油をはじくことができるものの、例えば、粘度の高い油のオイルミスト等の油滴22が付着した場合は、油滴22が撥油処理樹脂多孔質膜15表面に油膜24を形成する。油膜24により通気が妨げられ、通気膜10の通気性能が損なわれる。
【0018】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0019】
発明の実施形態に係る複合膜は、フッ素樹脂多孔質膜と、このフッ素樹脂多孔質膜と積層された吸油層とを具備する。吸油層は、親油性材料を含む。また吸油層は、多孔質である。
【0020】
フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、フッ素樹脂フィルム又はフッ素樹脂シートに対し延伸処理を行うことで多孔質化して得られたものである。フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマ(ETFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群より選ばれる少なくとも1種のフッ素樹脂を含む。フッ素樹脂多孔質膜がPTFEを含んでいることが望ましい。
【0021】
フッ素樹脂多孔質膜の具体例として、PTFE延伸多孔質フィルムを挙げることができる。PTFE延伸多孔質フィルムは、PTFEで構成されるノード及びフィブリルから成る多孔膜である。延伸多孔質化の際、おおよそ延伸方向に沿ってノードからフィブリルが引き出される。ノードとは、高分子繊維が引き延ばされずにPTFE材料が凝集している領域を指す。フィブリルは、ノード間に存在し、延伸方向に沿って配向している高分子繊維を指す。この繊維が細かく密に存在することで無数の小さい孔を有する多孔膜となり、高い耐水性を示すことができる。
【0022】
フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、0.01μm以上10μm以下の平均孔径を有し得る。この範囲の平均孔径を有するフッ素樹脂多孔質膜は、通気性と耐水性とのバランスが取れている。
【0023】
フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、0.01mm以上0.5mm以下の厚みを有し得る。厚みが0.01mm以上であることで、耐水性を確保できる。複合膜を通気膜として設置する機器の設計の自由度の観点からは、膜厚が薄い方が望ましい。
【0024】
フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、フッ素樹脂から成る多孔質膜であり得る。又は、フッ素樹脂多孔質膜はフッ素樹脂製の多孔質膜に撥油処理を施すなどして撥油性を付したものであり得る。撥油処理としては、例えば、ペルフルオロアルキル基を有する高分子を含む撥油剤を塗布して当該撥油剤の被膜で多孔質膜の表面を被覆する方法が挙げられる。
【0025】
吸油層は、親油性材料を含んだ多孔質層である。親油性材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、及び発泡ウレタン等の親油性を示す樹脂材料を挙げることができる。吸油層は、フッ素樹脂多孔質膜よりも高い通気性を有することが望ましい。また吸油層は、表面積が大きい形態を有することが望ましい。例えば、吸油層は、不織布であり得る。吸油層の具体例としてPP製不織布を挙げることができる。また、吸油層は、不織布に加え、その表面の一部に配置された自己膨潤型吸油ポリマーやゲル化型吸油ポリマーをさらに含むことができる。
【0026】
吸油層は、複合膜のうち油が付着し得る表面として含まれる。例えば、複合膜の表裏両側の主面に油が付着し得る用途では、両側の最も外側の表面に吸油層を配置することもできる。親油性を示し表面積の大きい吸油層を外面側に設けることで、複合膜の表面に付着した油を吸油層に吸着できる。それにより吸油層の孔の一部が油で埋まるものの、複合膜内の孔が立体的には塞がらないため、通気が損なわれない。吸着した油が多くなって吸油層の孔が埋まり飽和に近づくと通気性が低下するが、それまでは通気経路が妨げられず通気を維持できる。油の吸着面に対し部分的に自己膨潤型吸油ポリマーやゲル化型吸油ポリマーが配置された吸油層の場合は、油を固定化し通気経路が埋まるのを防ぐことができるため、吸油層における通気の低下を抑えることができる。つまり、複合膜の最表面に吸油層を設けることでフッ素樹脂多孔質膜自体の油への暴露を防止でき、それにより通気性能の低下を防ぐことができる。
【0027】
加えて、吸油層は、フッ素樹脂多孔質膜に対する物理的な保護層としても機能する。フッ素樹脂多孔質膜より外側に吸油層があることで、外部からの一部によるフッ素樹脂多孔質膜へのダメージを防止できる。そのため、フッ素樹脂多孔質膜が損傷して防水性が損なわれることを避けることができる。
【0028】
吸油層は、例えば、1.0mm以上5.0mm以下の厚みを有し得る。吸油層の厚みが1.2mm以上3.0mm以下であることがより好ましい。吸油層の厚みが1.0mm以上であることで、油が付着した際に通気経路を確保できる。また、吸油層が厚い方が、吸油層の孔が油で埋まって飽和するまでに付着できる油の量が多い。複合膜を通気膜として設置する機器の設計の自由度の観点からは、厚みが薄い方が望ましい。
【0029】
吸油層は、例えば、100g/m2より大きく500g/m2以下の目付を有し得る。吸油層の目付が150g/m2以上300g/m2以下であることが好ましい。また吸油層は、例えば、0.03g/cm3以上0.1g/cm3以下の密度を有し得る。吸油層の密度が0.035g/cm3以上0.095g/cm3以下であることが好ましい。吸油層の油吸着効果を鑑みると、吸油層の目付および密度が大きい方が好ましい。また、密度が高い吸油層の方が強度が高い。一方で、複合膜を搭載する機器の軽量化を鑑みると、吸油層の目付および密度が小さい方が好ましい。
【0030】
係る複合膜は、フッ素樹脂多孔質膜の吸油層とは反対側の主面上に、多孔質支持体をさらに含んでもよい。多孔質支持体は、例えば、多孔質シート又は多孔質膜である。多孔質支持体をバッキング材として含むことで、複合膜のハンドリング性を向上させたり、複合膜の強度をさらに向上させたりすることができる。多孔質支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド、アラミド樹脂、ポリイミド、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等の樹脂製の不織布やメッシュ素材を用いることができる。又は、金属多孔体や金属メッシュ等の金属製の多孔質支持体を用いることもできる。その他、ガラスクロスや金属メッシュ等の繊維布をPTFE等のフッ素樹脂で被覆した複合ファブリック剤を多孔質支持体として用いることができる。
【0031】
多孔質支持体は、例えば、0.05mm以上0.3mm以下の厚みを有し得る。また、多孔質支持体の目付は、30g/m2以上100g/m2以下であり得る。この範囲の厚み及び目付を有する多孔質支持体は、複合膜の厚みと、多孔質支持体によるハンドリング性や強度を向上する効果とのバランスを取ることができる。
【0032】
上述したとおり、フッ素樹脂多孔質膜に撥油性を付してもよい。フッ素樹脂多孔質膜に撥油性をもたせることで、吸油層が吸着した油の量が多くなった場合に、吸油層からフッ素樹脂多孔質膜へ油が到達することを防ぐことができる。また、フッ素樹脂多孔質膜自体に撥油性を持たせる代わりに、フッ素樹脂多孔質膜と吸油層との間にオイルバリア層を設けることもできる。
【0033】
オイルバリア層は撥油性材料を含み、吸油層からフッ素樹脂多孔質膜への油の移動を遮ることができる。また、オイルバリア層は多孔質であり、通気を妨げない。オイルバリア層は、例えば、撥油性不織布であり得る。オイルバリア層に含ませる撥油性材料としては、例えば、パーフルオロアルキル基含有重合体などのフッ素系コーティング剤、メチルハイドロジエンポリシロキサン等のシリコン系コーティング剤、パラフィンやポリオレフィンワックス等のワックス系コーティング剤、ジルコニウム脂肪酸塩などのジルコニウム塩コーティング剤、オクタデシルエチレン尿素などのエチレン尿素系コーティング剤、N-メチロールステアリン酸アミド等のメチロールアミド系コーティング剤、ステアラミドメチルピリジニウムクロライド等のピリジニウム塩系コーティング剤、及びステアリン酸アルミニウム等の金属石鹸系コーティング剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。耐熱性を付与できることから、フッ素系およびシリコン系の撥油性材料が好ましい。オイルバリア層の具体的な形態としては、例えば、上記撥油性コーティング剤により撥油性を付与した不織布を挙げることができる。オイルバリア層の形態はこれに限られず、撥油性を有し通気性を示す膜であればオイルバリア層として使用できる。
【0034】
オイルバリア層は、例えば、0.05mm以上0.3mm以下の厚みを有し得る。また、多孔質支持体の目付は、30g/m2以上100g/m2以下であり得る。この範囲の厚み及び目付を有するオイルバリア層は、通気を阻害することなく多孔質膜への油の付着を防止し、通気性能の低下を防ぐ事ができる。
【0035】
複合膜が含むフッ素樹脂多孔質膜および吸油層、並びに任意に含み得るオイルバリア層および多孔質支持体は、何れも膜形状やシート形状を有する。複合膜は、これらの部位の積層体であるため、立体的に嵩張る形状の部材ではなく、コンパクトにまとまっている。このように複合膜の構成が簡潔でコンパクトであるため、当該複合膜の設置個所の設計に制約を設けず、様々な機器などに使用することができる。また、このような構成の複合膜には、簡便に製造することができるという利点もある。
【0036】
実施形態に係る複合膜は、例えば、フッ素樹脂多孔質膜と吸油層とを準備し、これらを重ね、熱融着、超音波融着、又は接着剤や両面テープの使用によって固定することにより製造することができる。多孔質支持体やオイルバリア層を含ませる場合は、それらの部位も上述した配置となるよう適宜重ねて固定する。
【0037】
フッ素樹脂多孔質膜は、例えば、非多孔質構造(充実構造)を有するフッ素樹脂シートを延伸することにより製造できる。フッ素樹脂多孔質膜の前駆体となる充実構造を有するフッ素樹脂シートは、例えば押出成形品であり得る。押出成形の一例として、PTFE多孔質膜の製造方法を以下に説明する。
【0038】
PTFE押出成形品の原料としては、PTFEファインパウダーと、潤滑剤等の押出助剤とを用いることができる。PTFEファインパウダーに潤滑剤等の押出助剤を混合することで、ペースト状の混合物を得ることができる。PTFEファインパウダーを含んだ混合物をシート形状に押出成形することで、シート状の押出成形品を得ることができる。
【0039】
押出助剤としては、例えば、汎用されているソルベントナフサ(例えば、登録商標:Isoper E、エクソン化学社製)、ホワイトオイル、及び、炭素数6乃至12の流動パラフィン(例えば、登録商標:カクタスノルマルパラフィンN-10、(株)ジャパンエナジー製)を挙げることができる。
【0040】
PTFEファインパウダーと押出助剤とを混合して得られる混合物は、押出成形に供する前に熟成してもよい。また、熟成させた混合物を圧縮して、圧縮成型体(ビレット)を造ってもよい。圧縮することにより、PTFEファインパウダーにおける空気を除き、押出成形品の均一性を向上させることができる。圧縮成型体の形状は特に限定されないが、例えば、円柱形状であり得る。
【0041】
続いて、フッ素樹脂多孔質膜の前駆体として製造したPTFEシートを延伸する。延伸処理は、一軸延伸または二軸延伸の何れであってもよい。延伸を行うと、前駆体に含まれる高分子材料から、高分子繊維が引き出されて延伸方向に引き延ばされる。このようにすると、ノードとフィブリルとを含む微細構造を形成できる。
【0042】
延伸時の延伸倍率を調整することによって、フッ素樹脂多孔質膜の平均孔径を調整できる。延伸時の延伸倍率を高めることにより、平均孔径が大きいフッ素樹脂多孔質膜を形成できる。延伸時の延伸倍率を低めることにより、平均孔径が小さい低いフッ素樹脂多孔質膜を形成できる。延伸倍率は、目的とする通気性および防水性に応じて適宜調整することができる。
【0043】
続いて、未焼成状態のフッ素樹脂多孔質膜を乾燥及び焼成に供する。乾燥は、例えば乾燥炉の中で行う。先に使用した石油系押出助剤の沸点以上の温度で乾燥を行うことにより、助剤を揮発させることができる。続いて、乾燥後の多孔質膜をPTFEの融点以上の温度、例えば330℃以上の温度で加熱して焼成する。焼成は、例えば、延伸物を固定して行うことにより、多孔質膜が収縮しないように行うことができる。こうして、フッ素樹脂多孔質膜を作製することができる。
【0044】
吸油層およびオイルバリア層としては、例えば、上述した材質の不織布などの多孔質体を準備することができる。多孔質支持体としては、例えば、上述した材質の不織布またはメッシュシート等の多孔質体を準備することができる。
【0045】
以下、実施形態に係る複合膜の具体例を、図面を参照しながら説明する。
【0046】
図1及び
図2に複合膜の一例を示す。
図1は、複合膜の一例を概略的に示す断面図である。
図2は、この複合膜の作用を概念的に表す断面図である。
【0047】
図示する複合膜1は、フッ素樹脂多孔質膜3と、このフッ素樹脂多孔質膜3の片方の主面上に積層された吸油層2とを含む。
図1の例では、複合膜1はさらにフッ素樹脂多孔質膜3の主面のうち吸油層2が設けられた面とは反対側の主面上に多孔質支持体4をさらに含む。
【0048】
図1及び
図2では、各図の上側を、例えば、複合膜1が設置される機器の外側等、複合膜1が油に曝され得る側とする。複合膜1は、最表面として吸油層2を備えているため、油が付着しても通気を保つことができる。複合膜1に付着する油滴22は、吸油層2に付着および吸着する。吸油層2の孔の一部が油によって塞がれても、複合膜1における通気経路が立体的であるため、複合膜1における通気を確保することができる。
【0049】
図1及び
図2に示した例では複合膜1は多孔質支持体4を備えていたが、多孔質支持体4は省略してもよい。
【0050】
図3に、複合膜の他の例を示す。図示する複合膜1は、フッ素樹脂多孔質膜3と、このフッ素樹脂多孔質膜3の両方の主面上にそれぞれ積層された吸油層2とを含む。
図3に示す例の複合膜1は、例えば、当該膜の両面が油に暴露し得る環境で使用される機器に設置される。複合膜1の両主面の最表面に吸油層2が設けられているため、どちら側から油が付着しても吸油層2に吸着させることができ、複合膜1における通気を確保することができる。
【0051】
図4に、複合膜の変形例を示す。当該変形例の複合膜1は、フッ素樹脂多孔質膜3と、吸油層2と、それらの間に介在するオイルバリア層5とを含む。このフッ素樹脂多孔質膜3の片方の主面上に、オイルバリア層5及び吸油層2が順次積層されている。
図4の例では、複合膜1はさらに、オイルバリア層5及び吸油層2側の主面とは反対側にあるフッ素樹脂多孔質膜3の主面上に多孔質支持体4をさらに含む。多孔質支持体4は、省略してもよい。
【0052】
図4の変形例では、吸油層2とフッ素樹脂多孔質膜3との間にオイルバリア層5が在ることで、吸油層2に吸着された油の量が多くなっても、フッ素樹脂多孔質膜3に油が到達しない。そのため、通気の低下が生じるまでの複合膜1による油の許容量が多くなっている。
【0053】
図5に、複合膜の他の変形例を示す。
図5に示す複合膜1は、フッ素樹脂多孔質膜3と、このフッ素樹脂多孔質膜3の各主面上に順次積層されたオイルバリア層5と吸油層2とを含む。この変形例では、フッ素樹脂多孔質膜3の両方の主面側にてフッ素樹脂多孔質膜3と吸油層2との間にオイルバリア層5が介在しており、複合膜1の両側にて通気の低下が生じるまでの油の許容量が多くなっている。
【実施例0054】
(試料準備)
多孔質支持体としてのポリエチレンテレフタレート(PET)製不織布と四フッ化エチレン樹脂(PTFE)から成る厚さ0.05 mmのフッ素樹脂多孔質膜とが積層された不織布補強PTFE多孔質フィルム(中興化成工業株式会社製 C-Porous(登録商標)SEF-501N)を準備した。準備したフィルムを100 mm×100 mmの寸法に切り出し、性能評価の基準とするための試料No.1を得た。
【0055】
吸油層として厚さ2 mmのポリプロピレン(PP)製不織布(三井化学株式会社製 タフネル(登録商標)オイルブロッター(登録商標) AB-50)を準備した。試料No.1と同様に切り出した100 mm×100 mmの不織布補強PTFE多孔質フィルムに、PP製不織布を熱融着により積層させて複合膜(3層シート)を作製した。複数の複合膜を作製し、各々を試料No.2-9とした。
【0056】
また、性能比較用の試料No.10として、試料No.1と同様の不織布補強PTFE多孔質フィルム単体(2層シート)を準備した。
【0057】
(評価)
試料No.3-9の各複合膜に対し、吸油層側からエンジンオイル(elf社製 EVOLUTION 900 RACING 1)を全面にミスト状に噴霧した。試料No.10の単体フィルムに対し、一方の主面側から全面にエンジンオイルをミスト状に噴霧した。各試料に対し、下記表1に示す塗布量となるよう、エンジンオイルを噴霧した。試料No.1は評価の基準に用いる対照としたため、何ら処理を施さなかった。また、試料No.2についてもエンジンオイルを塗布しなかった。
【0058】
上記のとおりエンジンオイルを塗布した各試料について、JIS P8117:2009に準拠するガーレー式透気度試験により通気度を測定した。また、試料No.1及び2についても通気度を測定した。詳細には、規定の体積の空気が試料を透過するのに要した時間(ガーレー秒数)を通気度(透気抵抗度)として求めた。空気の透過に要した時間が短い程、通気性が高い。試料No.1について求められた通気度を基準に、それと比較した他の各試料における通気抵抗の増加率を算出した(試料No.Xの通気抵抗の増加率=[(試料No.Xの通気度-試料No.1の通気度)/試料No.1の通気度]×100%)。
【0059】
各試料へのエンジンオイル塗布量および評価結果を下記表1にまとめる。エンジンオイル塗布量は、試料全体への塗布量および面積当たりの塗布量としてそれぞれ示す。評価結果としては、透気度試験により測定された通気度およびその試料No.1に対する通気抵抗の増加率を示す。但し、試料No.10については、透気度試験を開始してから20分経過しても試験が終了しなかったため、通気無しと判断した。
【0060】
【0061】
表1における試料No.2-3の結果が示すとおり、200 mg程度の少量のエンジンオイルの塗布では通気性の低下は見られなかった。試料No.4-9の結果が示すとおり、塗布量400 mgから通気性の減少が見られ、複合膜へのエンジンオイルの塗布量がさらに増加するにつれて、通気性が低下した。但し、補強PTFEフィルム単体であった試料No.10では100 mgのエンジンオイルの塗布でも通気性がほとんど損なわれたところ、吸油層を設けた複合膜では試料No.9が示すとおり5000 mgものエンジンオイルを塗布した場合でも、性能減少は見られるものの通気性が無くなりはしなかった。
【0062】
以上のとおり、フッ素樹脂多孔質膜に親油性材料を含む多孔質な吸油層を積層させることで、油の吸着による通気性能の低下が抑制された複合膜を得ることができる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
1…複合膜、2…吸油層、3…フッ素樹脂多孔質膜、4…多孔質支持体、5…オイルバリア層、10…通気膜、13…樹脂多孔質膜、14…多孔質支持体、15…撥油処理樹脂多孔質膜、20…気体分子、21…水滴、22…油滴、23…油分、24…油膜。