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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063954
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】保持ピース入り直動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240507BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20240507BHJP
   F16C 33/37 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F16H25/22 L
F16C29/06
F16C33/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172162
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】永井 豊
【テーマコード(参考)】
3J062
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA22
3J062CD06
3J062CD63
3J104AA04
3J104AA23
3J104AA33
3J104AA66
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104AA78
3J104BA22
3J104BA26
3J104DA01
3J104EA10
3J701AA02
3J701AA33
3J701AA42
3J701AA65
3J701BA13
3J701BA16
3J701FA41
(57)【要約】
【課題】従来技術と比較してより容易に充填隙間を調整できる保持ピース入り直動装置を提供する。
【解決手段】複数の転動体4と転動体4の間に介在する保持ピース5とからなる列7が無限循環回路を無限循環することで外方部材と内方部材とが相対移動可能に構成された保持ピース入り直動装置であって、1個以上の特殊保持ピース12を有する。特殊保持ピース12は、隣り合う2個の転動体4の間に設けられ、一方の転動体41と当接する第一球状面56を有する第一保持部品51と、他方の転動体42と当接する第二球状面60を有する第二保持部品52と、第一保持部品51と第二保持部品52との間に設けられる間座部品53と、を有する。間座部品53の厚さ寸法Tを変化させることにより充填隙間が調整される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と内方部材とが隙間を介して互いに対向しており、前記外方部材と前記内方部材との間で無限循環回路がループをなして形成されており、複数の球である転動体と前記転動体の間に介在する保持ピースとからなる列が前記無限循環回路を無限循環し、前記外方部材と前記内方部材とが相対移動可能に構成された直動装置であって、
前記保持ピースのうち1個以上は特殊保持ピースであり、
前記特殊保持ピースは、
隣り合う2個の前記転動体の間に設けられ、前記2個の転動体のうち一方の転動体と当接する球状面を有する第一保持部品と、
前記2個の転動体の間に設けられ、前記2個の転動体のうち他方の転動体と当接する球状面を有する第二保持部品と、
前記第一保持部品と前記第二保持部品との間に設けられ、かつ前記第一保持部品及び前記第二保持部品とは別体で構成される間座部品と、
を有し、
前記無限循環回路に挿入された全ての前記転動体と全ての前記保持ピースを相互に隙間なく接触させて1箇所に寄せ集めた場合に前記転動体及び前記保持ピースからなる列の最前部の部品と最後部の部品との間にできる隙間を充填隙間と定義し、
前記間座部品の厚さ寸法を変化させることにより前記充填隙間が調整される、
保持ピース入り直動装置。
【請求項2】
前記第一保持部品、前記第二保持部品及び前記間座部品は、互いに係合することにより前記第一保持部品、前記第二保持部品及び前記間座部品の傾倒を抑制する傾倒防止部を有する、
請求項1に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項3】
前記傾倒防止部は、
前記間座部品に設けられた穴と、
前記第一保持部品及び前記第二保持部品に設けられ、前記間座部品の前記穴と嵌合する凸部と、
を有する、
請求項2に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項4】
前記第一保持部品は、
前記球状面が形成される保持部本体と、
前記保持部本体に接続され、前記保持部本体から前記間座部品に向かって突出する凸部と、
を有し、
前記第一保持部品及び前記第二保持部品は同一の部品であり、かつ前記凸部が互いに向かい合うように配置され、
前記間座部品は、前記第一保持部品の前記凸部及び前記第二保持部品の前記凸部がそれぞれ挿入される貫通孔を有する環状の部品である、
請求項2に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項5】
前記傾倒防止部は、
前記間座部品に設けられた突起と、
前記第一保持部品及び前記第二保持部品に設けられ、前記突起と嵌合する凹部と、
を有する、
請求項2に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項6】
前記間座部品の厚さ寸法を減じるように前記間座部品が切削加工されることにより前記充填隙間が調整される、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項7】
厚さ寸法が互いに異なる複数の間座部品を組み合わせることにより前記充填隙間が調整される、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保持ピース入り直動装置。
【請求項8】
前記第一保持部品及び前記第二保持部品は樹脂により形成されており、
前記間座部品は樹脂又は金属により形成されている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保持ピース入り直動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持ピース入り直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無限循環回路を循環する複数の転動体の転動を利用した直動装置としてボールねじやリニアガイド等が知られている。例えばボールねじでは、内方部材であるボールねじ軸と外方部材であるボールナットとの間に転動体軌道路を形成し、転動体軌道路に充填された転動体を介してボールねじ軸とボールナットとが嵌合している。転動体軌道路内では複数の転動体及び保持ピースが交互に充填されて列を構成している。保持ピースには転動体の球面と対応した形状の凹部が形成されている。この凹部に隣接する転動体が接触し、保持ピースは列の進行方向前方の転動体を押すとともに、後ろから転動体によって押される。そして、無限循環回路を列が無限循環してボールナットがボールねじ軸に対して相対移動する。
【0003】
このような直動装置において、無限循環回路に挿入された全ての転動体と全ての保持ピースを隙間なく接触させて1箇所に寄せ集めた場合に転動体及び保持ピースからなる列の最前部と最後部との間にできる隙間を充填隙間と定義する。直動装置では、無限循環回路での円滑な循環を維持するために、充填隙間が所定の値以下に収まるように充填隙間を厳格に調整する必要がある。しかしながら、従来の直動装置の組立にあっては、例えばサイズが異なる保持ピースを複数用意し、無限循環回路内に挿入する各サイズの保持ピースの数を増減することにより、充填隙間の大きさを所定の範囲に収めていた。このような調整を個々の直動装置について実施する必要があり、調整作業に要する労力が大きくなり、直動装置の組立作業時間も長くなり、直動装置のコストが上昇してしまうという不都合があった。
このため、このような保持ピース入り直動装置では、充填隙間をより容易に調整するための技術が種々提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、2個の転動体の間に設けられる保持ピースのうち少なくとも1個以上が、球状の外形を有する特殊保持ピースからなる構成が記載されている。特殊保持ピースには、球状面の周方向に180度の間隔をおいて2個の凹部が形成されており、この凹部は転動体の球面と対応した形状となり、転動体はまり込むことが可能となっている。特殊保持ピースの外径は転動体の外径の60%~90%であり、かつ2個の凹部の縁の間の距離は特殊保持ピースの外径の70%~90%の寸法とされている。
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、保持ピースの一部(特殊保持ピース)が球状に形成されているので、例えば一部の転動体と保持ピースとの間の隙間が大きくなり特殊保持ピースが転動体の間に支承されなくなった場合には、特殊保持ピースが単独で無限循環回路を転動することができる。このとき単独で転動する特殊保持ピースと前後で隣接する転動体との間の距離は、特殊保持ピースの外径とほぼ等しくなるので、転動体と保持ピースとの間で拡大した隙間を、特殊保持ピースで埋めることができる。よって、特許文献1に記載の技術によれば、充填隙間が小さく保たれ、保持ピースが無限循環回路内で転倒して動作不良を起こすことを抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-28221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで上述した従来技術は、隙間が大きくなった際に保持ピースを転動体のように転動させることで充填隙間を調整するものである。よって、従来技術にあっては、組み立て作業において充填隙間をより容易に調整する点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、従来技術と比較してより容易に充填隙間を調整できる保持ピース入り直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る保持ピース入り直動装置は、外方部材と内方部材とが隙間を介して互いに対向しており、前記外方部材と前記内方部材との間で無限循環回路がループをなして形成されており、複数の球である転動体と前記転動体の間に介在する保持ピースとからなる列が前記無限循環回路を無限循環し、前記外方部材と前記内方部材とが相対移動可能に構成された直動装置であって、前記保持ピースのうち1個以上は特殊保持ピースであり、前記特殊保持ピースは、隣り合う2個の前記転動体の間に設けられ、前記2個の転動体のうち一方の転動体と当接する球状面を有する第一保持部品と、前記2個の転動体の間に設けられ、前記2個の転動体のうち他方の転動体と当接する球状面を有する第二保持部品と、前記第一保持部品と前記第二保持部品との間に設けられ、かつ前記第一保持部品及び前記第二保持部品とは別体で構成される間座部品と、を有し、前記無限循環回路に挿入された全ての前記転動体と全ての前記保持ピースを相互に隙間なく接触させて1箇所に寄せ集めた場合に前記転動体及び前記保持ピースからなる列の最前部の部品と最後部の部品との間にできる隙間を充填隙間と定義し、前記間座部品の厚さ寸法を変化させることにより前記充填隙間が調整される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の保持ピース入り直動装置によれば、保持ピースのうち少なくとも一部の特殊保持ピースは、保持部品と間座部品とを有する。保持部品は、転動体と当接する球状面を有し、間座部品を介して進行方向前後の転動体から力を受ける。保持ピースに隣接する2個の転動体の表面が保持ピースの球状面をそれぞれ覆って塞ぐと、保持ピースは2個の転動体の間に支承された形となる。転動体に支承されたまま保持ピースは無限循環回路内を循環することができる。転動体の間にこのような保持ピースを設けることにより、転動体同士の競り合いによる作動不良や摩耗の発生を抑制することができる。
間座部品は保持部品とは別体で構成されており、間座部品の厚さ寸法を変化させることにより充填隙間が調整される。すなわち、特殊保持ピースを複数の部品で構成し、複数の部品のうち1部品の寸法を変えることにより充填隙間を変更できる。これにより、例えば無限循環回路内に挿入する各サイズの保持ピースの数を増減することにより充填隙間を調整する従来技術と比較して、より直接的かつ精密に充填隙間の大きさを調整できる。よって、保持ピースの数を増減して調整する従来技術と比較して、容易に充填隙間を調整できる。また、特殊保持ピースが複数の部品により構成され、そのうちの1部品の寸法を変更するだけで特殊保持ピース全体の寸法を変化させることができるので、例えば特殊保持ピースが単一の部品により形成される場合と比較して、特殊保持ピースの寸法の変更が行い易い。さらに、特殊保持ピースを構成する複数の部品のうち寸法を変化させる部品(間座部品)の形状や材料等を加工し易い構成とすることで、より一層特殊保持ピースの寸法を調整し易くすることができる。よって、充填隙間の調整作業を容易に実施できる。
したがって、従来技術と比較してより容易に充填隙間を調整できる保持ピース入り直動装置を提供できる。また、充填隙間の調整作業に要する労力が小さくなることにより、直動装置の組立作業時間も短くなり、直動装置のコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置を軸方向に沿う方向から見た断面図。
図2】第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置を軸方向と直交する方向から見た断面図。
図3】第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置における複数の転動体及び保持ピースからなる列の構成図。
図4図3のIV部の拡大断面図。
図5】(A)は保持部品の側面図であり、(B)は保持部品の正面図。
図6】(A)は間座部品の側面図であり、(B)は間座部品の正面図。
図7】第2実施形態に係る特殊保持ピースの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置1を軸方向に沿う方向から見た断面図である。図2は、第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置1を軸方向と直交する方向から見た断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の保持ピース入り直動装置1は、例えばボールねじである。保持ピース入り直動装置1は、内方部材であるボールねじ軸2と、外方部材であるボールナット3と、複数の転動体4と、複数の保持ピース5と、を備える。
【0014】
ボールねじ軸2は、外周面にねじ溝である転動体転動溝21を有して軸方向に延びている。ボールナット3は、内周面にボールねじ軸2の転動体転動溝21と対向する転動体転動溝31を有し、ボールナット3がボールねじ軸2と嵌合している。各転動体転動溝21,31の断面形状は2つの円弧によってそれぞれ形成されており、ゴシックアーチをなしている。なお、図1及び図2では図面の簡略化のために各転動体転動溝21,31の断面形状を円弧状に図示している。
【0015】
ボールねじ軸2とボールナット3の各転動体転動溝21,31の間に挟まれてできた空間が転動体軌道路20を構成している。また、ボールナット3の肉厚部分には、転動体軌道路20におおよそ接線方向から連通しており、かつボールねじ軸2を跨いで1対をなしボールナット3の外部に開口する循環孔35が形成されている。1対の循環孔35はU字状をした転動体チューブ36で連結されている。転動体軌道路20、循環孔35及び転動体チューブ36がループ状の無限循環回路22をなしている。つまり、ボールねじ軸2とボールナット3とが隙間を介して互いに対向しており、ボールねじ軸2とボールナット3との間で無限循環回路22がループをなして形成されている。
【0016】
無限循環回路22には複数の鋼球の転動体4及び保持ピース5(一般保持ピース11及び特殊保持ピース12)が交互に充填されており列7を構成している(図3も参照)。これらの列7が無限循環回路22を無限循環することにより、ボールねじ軸2とボールナット3とが相対移動可能とされている。
【0017】
図3は、第1実施形態に係る保持ピース入り直動装置1における複数の転動体4及び保持ピース5からなる列7の構成図である。
図3に示すように、転動体4は無限循環回路22に複数充填されている。複数の転動体4同士の間には、転動体4同士の競り合いによる作動不良や摩耗の発生を抑制するために保持ピース5が配置されている。保持ピース5は、一般保持ピース11と、特殊保持ピース12と、を有する。本実施形態の保持ピース入り直動装置1において、無限循環回路22に充填された全ての保持ピース5のうち1個以上が特殊保持ピース12であり、残りが一般保持ピース11である。以下の説明において一般保持ピース11と特殊保持ピース12とを区別しない場合はまとめて保持ピース5と言う場合がある。
【0018】
本実施形態では、列7内において、転動体4同士の間に一般保持ピース11と特殊保持ピース12のいずれかが1個介在している。転動体4の総個数をNbとした場合、特殊保持ピース12の総個数Nsは1以上となっており、一般保持ピース11の総個数はNbからNsを引いた値となっている。さらに、列7内での特殊保持ピース12同士の間に介在する転動体4及び一般保持ピース11の個数は一定の数であり、列7内で、転動体4、一般保持ピース11及び特殊保持ピース12はそれぞれ均一に分布している。
【0019】
さらに、無限循環回路22において、転動体4、一般保持ピース11及び特殊保持ピース12を相互に隙間なく接触させて1箇所に寄せ集め、かつ、保持ピース5の各凹部(詳しくは後述する一般保持ピース11の転動体受部49及び特殊保持ピース12の球状面56,60)を隣接する転動体4の表面で塞いだ状態としたときに、列7の最前部と最後尾との間の距離が充填隙間Sとなっている。
【0020】
一般保持ピース11は、外形が円柱形状に形成されており、その両側の端面にはそれぞれ転動体4の球面に対応して凹む転動体受部49を有する。この転動体受部49に隣接する転動体4が接触し、保持ピース5は列7の進行方向D(図3及び図4参照)の前方の転動体4を押すとともに、後ろから転動体4によって押される。そして、無限循環回路22を列7が無限循環してボールナット3がねじ軸に対して相対移動する。
【0021】
図4は、図3のIV部の拡大断面図であり、隣り合う2個の転動体4とその間に設けられた特殊保持ピース12の構成を示す。図4は、図3に示す列7を、紙面と平行かつ転動体4の中心を通る平面で切ったときの断面図を示す。
図3及び図4に示すように、特殊保持ピース12は、複数の部品により構成されている。具体的に特殊保持ピース12は、第一保持部品51と、第二保持部品52と、間座部品53と、を有する。第一保持部品51と第二保持部品52は同じ部品である。よって以下の説明において、第一保持部品51と第二保持部品52とを区別しない場合はまとめて保持部品と言う場合がある。
【0022】
図5の(A)は保持部品(第一保持部品51及び第二保持部品52)の側面図であり、図5の(B)は保持部品の正面図である。
図4及び図5に示すように、第一保持部品51は、列7の進行方向Dにおいて、隣り合う2個の転動体4のうちの一方の転動体41側に設けられている。第一保持部品51は、一方の転動体41と当接する第一球状面56が形成された第一保持部本体55(請求項の保持部本体)と、第一保持部本体55から他方の転動体42へ向かって突出する第一凸部57(請求項の凸部)と、を有する。第一保持部本体55は、外形が円柱形状に形成されている。第一球状面56は、第一保持部本体55の一方の端面(一方の転動体41が位置する側の面)から内側に凹むとともに、内周面の形状が転動体4の球面に対応した球面形状となっている。第一凸部57は、外形が第一保持部本体55と同心の円柱形状に形成されている。
【0023】
第二保持部品52は、列7の進行方向Dにおいて、隣り合う2個の転動体4のうちの他方の転動体42側に設けられている。第二保持部品52は、第一保持部品51と同じ部品であるが、第一保持部品51とは異なる向きで無限循環回路22に充填されている。具体的に第二保持部品52は、他方の転動体42と当接する第二球状面60が形成された第二保持部本体59と、第二保持部本体59から一方の転動体41へ向かって突出する第二凸部61(請求項の凸部)と、を有する。第二保持部本体59は、外形が円柱形状に形成されている。第二球状面60は、第二保持部本体59の他方の端面(他方の転動体42が位置する側の面)から内側に凹むとともに、内周面の形状が転動体4の球面に対応した球面形状となっている。第二凸部61は、外形が第二保持部本体59と同心の円柱形状に形成されている。
【0024】
第一保持部品51の第一凸部57と第二保持部品52の第二凸部61とが、間座部品53を挟んで互いに向かい合うように配置されている。第一保持部品51の第一球状面56及び第二保持部品52の第二球状面60は、一般保持ピース11の転動体受部49と同様の作用を奏する。すなわち、第一球状面56に隣接する一方の転動体41が接触し、特殊保持ピース12は列7の進行方向Dの前方の転動体4(一方の転動体41)を押すとともに、後ろから他方の転動体42によって押される。そして、無限循環回路22を列7が無限循環してボールナット3がねじ軸に対して相対移動する。進行方向Dの後方に列7が移動する場合も同様である。
【0025】
保持部品51,52は、例えば樹脂材料を用いて射出成型することにより形成されている。なお、転動体4が接触する保持部品51,52の材料としては耐摩耗性に優れる樹脂が好ましいが、例えば部分ごとに特性の異なる樹脂を用いてもよい。例えば球状面56,60が設けられる保持部本体55,59を耐摩耗性に優れる樹脂で形成し、凸部57,61を強度の高い樹脂や接着性に優れた樹脂等で形成してもよい。また、インサート成形等により一部に金属を含むように形成してもよい。
【0026】
図6の(A)は間座部品53の側面図であり、図6の(B)は間座部品53の正面図である。
図4及び図6に示すように、間座部品53は、第一保持部品51と第二保持部品52との間に設けられている。間座部品53は、第一保持部品51及び前記第二保持部品52とは別体で構成されている。間座部品53は、樹脂により形成されている。なお、間座部品53は、黄銅やアルミ合金等、切削加工が容易な金属により形成されてもよい。間座部品53は、第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61がそれぞれ挿入される貫通孔66を有する環状に形成されている。
【0027】
図4に示すように、間座部品53の貫通孔66は、各保持部品51,52の凸部57,61と対応する形状及び位置に形成されている。間座部品53の貫通孔66には、第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61がそれぞれ両側から挿入されている。第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61は、貫通孔66に嵌め込まれて(圧入されて)固定されている。これにより、転動体4から力を受けた場合であっても各保持部品51,52と間座部品53とが分解されることが抑制される。また、間座部品53の厚みTは、間座部品53の貫通孔66に第一凸部57及び第二凸部61が挿入された状態(図4に示す状態)で第一凸部57と第二凸部61とが互いに当接しない程度に十分厚く形成されている。
【0028】
間座部品53の貫通孔66、第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61は、本実施形態の保持ピース入り直動装置1における傾倒防止部を構成している。つまり、傾倒防止部(間座部品53の貫通孔66、第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61)は、互いに少なくとも係合(本実施形態では嵌合)することにより、列7内における間座部品53、第一保持部品51及び第二保持部品52の分解及び分解に伴う各部品の傾倒等を抑制している。
【0029】
ここで、上記のように構成された保持ピース入り直動装置1において、例えば列7が無限循環回路22内を高速で循環するときは、充填隙間Sは各転動体4と各保持ピース5との間にほぼ均等に分散され、転動体4と保持ピース5との間に生じる隙間の大きさは比較的小さなものとなる。よって、保持ピース5が転動体4の間で転倒などすることは生じない。一方、列7が無限循環回路22内を低速で循環するときは、充填隙間Sが列7内にほぼ均一に分散されずに、充填隙間Sが一部の転動体4と保持ピース5との間に片寄って集まる場合がある。かかる場合に、充填隙間Sが大きなものだと、転動体4と保持ピース5との隙間が大きくなって、保持ピース5が転倒等し、列7が無限循環回路22を円滑に循環できなくなる場合がある。このような事態を防ぐため、充填隙間Sを所定の範囲内の長さに収める必要がある。
【0030】
本実施形態の保持ピース入り直動装置1は、間座部品53の厚さ寸法Tを変化させることによりこの充填隙間Sを調整することが可能である。間座部品53の厚さ寸法Tは、例えば切削加工により間座部品53の厚さ寸法Tを減少させることで変化(減少)させることができる。つまり、間座部品53の厚さ寸法Tを変化させることで特殊保持ピース12全体としての進行方向Dに沿う長さ寸法を変化させ、これにより充填隙間Sを調整することが可能となっている。
【0031】
間座部品53の初期厚さ寸法(切削加工等の調整が行われる前の厚さ寸法)は、例えば充填隙間Sが生じない程度に大きく設定されている。充填隙間Sを調整する際には、充填隙間Sが所定の範囲に収まるように間座部品53を切削加工して厚みを減少させることで、充填隙間Sを調整する。
【0032】
上記構成は次のように言い換えることができる。すなわち、保持ピース入り直動装置1は、間座部品53、第一保持部品51及び第二保持部品52を有する特殊保持ピース12が列7を構成するように組み込まれた際に充填隙間Sが所定の範囲に収まるように厚さ寸法Tが調整(切削加工)された間座部品53を有する。
【0033】
(作用、効果)
本実施形態の保持ピース入り直動装置1によれば、保持ピース5のうち少なくとも一部の特殊保持ピース12は、保持部品51,52と間座部品53とを有する。保持部品51,52は、転動体4と当接する球状面56,60を有し、間座部品53を介して進行方向D前後の転動体4から力を受ける。保持ピース5に隣接する2個の転動体4の表面が保持ピース5の球状面56,60をそれぞれ覆って塞ぐと、保持ピース5は2個の転動体4の間に支承された形となる。転動体4に支承されたまま保持ピース5は無限循環回路22内を循環することができる。転動体4の間にこのような保持ピース5を設けることにより、転動体4同士の競り合いによる作動不良や摩耗の発生を抑制することができる。
間座部品53は保持部品51,52とは別体で構成されており、間座部品53の厚さ寸法Tを変化させることにより充填隙間Sが調整される。すなわち、特殊保持ピース12を複数の部品で構成し、複数の部品のうち1部品の寸法を変えることにより充填隙間Sを変更できる。これにより、例えば無限循環回路22内に挿入する各サイズの保持ピース5の数を増減することにより充填隙間Sを調整する従来技術と比較して、より直接的かつ精密に充填隙間Sの大きさを調整できる。よって、保持ピース5の数を増減して調整する従来技術と比較して、容易に充填隙間Sを調整できる。また、特殊保持ピース12が複数の部品により構成され、そのうちの1部品の寸法を変更するだけで特殊保持ピース12全体の寸法を変化させることができるので、例えば特殊保持ピース12が単一の部品により形成される場合と比較して、特殊保持ピース12の寸法の変更が行い易い。さらに、特殊保持ピース12を構成する複数の部品のうち寸法を変化させる部品(間座部品53)の形状や材料等を加工し易い構成とすることで、より一層特殊保持ピース12の寸法を調整し易くすることができる。よって、充填隙間Sの調整作業を容易に実施できる。
したがって、従来技術と比較してより容易に充填隙間Sを調整できる保持ピース入り直動装置1を提供できる。また、充填隙間Sの調整作業に要する労力が小さくなることにより、直動装置の組立作業時間も短くなり、直動装置のコストを抑えることができる。
【0034】
第一保持部品51、第二保持部品52及び間座部品53は、互いに係合することにより第一保持部品51、第二保持部品52及び間座部品53の傾倒を抑制する傾倒防止部を有している。これにより、第一保持部品51、第二保持部品52及び間座部品53が分解するのを抑制し、保持ピース5の傾倒を抑制できる。また、保持ピース5の傾倒による動作不良等の発生を抑制し、円滑に列7を循環させることができる。
【0035】
傾倒防止部は、間座部品53に設けられた貫通孔66と、第一保持部品51及び第二保持部品52に設けられた凸部57,61と、により構成される。凸部57,61が間座部品53の貫通孔66と嵌合することにより保持部品51,52と間座部品53とが接続される。よって、簡素な構成により傾倒防止部を設けることができる。また、特に間座部品53に対して保持部品51,52の各凸部57,61を嵌合や接着、溶着した場合には、保持部品51,52及び間座部品53の分解をより確実に抑制できる。
【0036】
第一保持部品51は、第一球状面56が形成される第一保持部本体55と、第一保持部本体55に接続され、第一保持部本体55から間座部品53に向かって突出する第一凸部57と、を有する。これにより、保持部品51(52)を簡素な構成とすることができ、製造性を向上できる。また、第一保持部品51及び第二保持部品52は同一の部品であるので、部品の種類を減らすことができる。よって、特殊保持ピース12を複数の部品により構成した場合であっても、製造コストを比較的小さく抑えることができる。
間座部品53は、第一保持部品51の第一凸部57及び第二保持部品52の第二凸部61がそれぞれ挿入される貫通孔66を有する環状の部品である。間座部品53を環状の単純形状な部品とすることにより、特殊保持ピース12の製造性を向上できる。また、間座部品53を簡素な構成とすることで、間座部品53の厚さ寸法Tを容易に変化させることができる。よって、充填隙間Sの調整を容易に実施することができる。
【0037】
間座部品53の厚さ寸法Tを減じるように間座部品53が切削加工されることにより、充填隙間Sが調整される。これにより、初期の充填隙間Sから目標とする充填隙間Sとなるように設定された厚みだけ間座部品53を加工すればよいので、保持ピース5の数を増減することで充填隙間Sを調整する従来技術と比較して、充填隙間Sをより容易かつより精密に調整することができる。
【0038】
第一保持部品51及び第二保持部品52は樹脂により形成されており、間座部品53は樹脂又は金属により形成されている。転動体4と接触する第一保持部品51及び第二保持部品52を樹脂で形成することにより、転動体4に対する耐摩耗性を向上できる。よって、摩耗による摩耗粉の発生や摩耗粉による動作不良等の発生を抑制できる。充填隙間Sの調整に用いる間座部品53を例えば切削加工し易い樹脂又は金属により形成することにより、間座部品53の加工を容易にし、充填隙間Sの調整に係る作業性を向上できる。
【0039】
(第1実施形態の変形例)
次に、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。なお、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。本変形例では、充填隙間Sを調整する方法が上述した第1実施形態と相違している。
【0040】
変形例では、厚さ寸法Tが互いに異なる複数の間座部品53を組み合わせることにより、充填隙間Sが調整される。具体的に、充填隙間Sの調整作業において、まず、厚さ寸法Tが異なる複数の間座部品53を予め準備しておく。充填隙間Sの調整時には、上述した間座部品53の厚さ寸法Tを切削加工等により減少させる工程に代えて、目標の充填隙間Sの大きさとなるように、適当な厚さ寸法Tを有する間座部品53を選定して特殊保持ピース12に組み込む。少なくとも1個以上の特殊保持ピース12において、適当に選定された間座部品53と、第一保持部品51及び第二保持部品52とにより特殊保持ピース12が構成される。
【0041】
変形例の保持ピース入り直動装置1によれば、予め複数の厚さ寸法Tを有する間座部品53が準備され、その中から適当な厚さ寸法Tの間座部品53を選定して組み合わせることにより特殊保持ピース12が形成される。これにより、切削加工等により間座部品53の厚さ寸法Tを変化させる場合(上述の第1実施形態)と同様の効果を得ることができる。すなわち、上述の第1実施形態において切削加工により最終的に得られる厚さ寸法Tと同等の厚さ寸法Tを有する間座部品53を選定することで、充填隙間Sの大きさを目標とする範囲に収めることができる。したがって、従来技術と比較してより容易に充填隙間Sを調整できる保持ピース入り直動装置1を提供できる。また、予め準備された間座部品53の中から適当なものを選定するだけでよいので、充填隙間Sの調整時に切削加工を行う場合と比較して、充填隙間Sの調整にかかる時間を短縮できる。
また、間座部品53は環状の簡素な構成となっているので、厚さ寸法Tの異なる複数の間座部品53を用意し易い。よって、過大な手間やコストをかけることなく複数の間座部品53を用意し、かつ充填隙間Sの調整を容易に行うことができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。図7は、第2実施形態に係る特殊保持ピース212の断面図である。図7は、第1実施形態の図4に対応する。本実施形態では、傾倒防止部の構成が上述した第1実施形態と相違している。
【0043】
第2実施形態において特殊保持ピース212は、傾倒防止部として、第一保持部品251に設けられた凹部257と、第二保持部品252に設けられた凹部261と、間座部品253に設けられた突起266と、を有する。第一保持部品251の凹部257は、一方の転動体41が当接する第一球状面56と反対側の端面に設けられている。第二保持部品252の凹部261は、他方の転動体42が当接する第二球状面60と反対側の端面に設けられている。突起266は、間座部品253から第一保持部品251及び第二保持部品252に向かって突出している。突起266は、第一保持部品251の凹部257及び第二保持部品252の凹部261とそれぞれ嵌合する。つまり、第1実施形態とは凹凸が逆の構成となっている。突起266と各凹部257,261とが嵌合することにより、間座部品253、第一保持部品251及び第二保持部品252の分解及び転倒が抑制される。なお、第一保持部品251及び第二保持部品252の各凹部257,261は、間座部品253の突起266が嵌合可能な深さ以上凹んでいればよく、例えば図7に示すような貫通孔であってもよい。
【0044】
第2実施形態の保持ピース入り直動装置1によれば、間座部品253のうち突起266を除く端面(例えば第一保持部品251の第一球状面56とは反対側の面と接する端面や、第二保持部品252の第二球状面60とは反対側の面と接する端面)を例えば切削加工等により加工することで、間座部品253の厚さ寸法Tを変化させることができる。これにより、傾倒防止部の凹凸を逆にした場合であっても第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の第1実施形態では、間座部品53に形成された貫通孔66に第一凸部57及び第二凸部61が嵌め込まれる構成について説明したが、これに限定されない。例えば間座部品53の厚みが十分に厚い場合、貫通孔66の代わりに間座部品53の両端面から内側に凹む一対の穴(凹部)を形成してもよい。
【0046】
保持部品51,52と間座部品53とを固定する方向は上述した嵌め込み(圧入)に限られず、例えば溶着や接着等により固定してもよい。
保持ピース入り直動装置1は、ボールねじの他に例えばリニアガイド等であってもよい。この場合、リニアガイドは、軸方向に延設された内方部材としての案内レールと、その上に移動可能に跨設された断面U字状の外方部材としてのスライダとを有してもよい。案内レールの両側面にはそれぞれ軸方向に沿って転動体転動溝が形成されており、スライダにはその両袖部の内側面にそれぞれ案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝が形成されてもよい。案内レールとスライダの各転動体転動溝に挟まれてできた空間により転動体軌道路20を構成してもよい。
また、上述した各実施形態と変形例とを適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 保持ピース入り直動装置
2 ボールねじ軸(内方部材)
3 ボールナット(外方部材)
4 転動体
5 保持ピース
7 列
12,212 特殊保持ピース
22 無限循環回路
41 一方の転動体
42 他方の転動体
51,251 第一保持部品
52,252 第二保持部品
53,253 間座部品
55 第一保持部本体(保持部本体)
56 第一球状面
57 第一凸部(凸部、傾倒防止部)
60 第二球状面
61 第二凸部(凸部、傾倒防止部)
66 貫通孔(穴、傾倒防止部)
257,261 凹部(傾倒防止部)
266 突起(傾倒防止部)
S 充填隙間
T (間座部品の)厚さ寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7