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特開2024-63971押出機のシミュレーション方法および押出機のシミュレーションプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063971
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】押出機のシミュレーション方法および押出機のシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/92 20190101AFI20240507BHJP
   B29C 48/58 20190101ALI20240507BHJP
   B29C 48/55 20190101ALI20240507BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/58
B29C48/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172192
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】笹井 裕也
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AJ08
4F207AM23
4F207AR02
4F207AR14
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL17
4F207KM14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高速回転するスクリュにより樹脂の粘度を低下させる場合における、押出機内および樹脂の処理後の圧力、滞留時間、樹脂の充満率、樹脂の分子量、粘度および温度等を精度よく予測することができる、押出機のシミュレーション方法を提供すること。
【解決手段】貫通孔を有するせき止め部を備えた押出機のシミュレーション方法であって、前記押出機の解析領域をスクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、複数の格子領域に分割する離散化ステップS10と、前記押出機の前記解析領域における上流端の前記樹脂に関する数値に基づいて、隣接する前記各格子領域における前記樹脂に関する数値を上流端から下流端に向かって順次推定する推定ステップS30と、を備えている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
せき止め部を備えた押出機のシミュレーション方法であって、
前記押出機の解析領域をスクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、複数の格子領域に分割する離散化ステップと、
前記押出機の前記解析領域における上流端の樹脂に関する数値に基づいて、隣接する前記各格子領域における前記樹脂に関する数値を上流端から下流端に向かって順次推定する推定ステップと、を備えていることを特徴とする、押出機のシミュレーション方法。
【請求項2】
前記推定ステップは、
前記解析領域における送りスクリュ部を、前記樹脂が非充満状態である非充満領域と、前記樹脂が充満状態である充満領域と、に分け、
前記非充満領域および前記充満領域のそれぞれについて、前記樹脂に関する数値を推定する、
請求項1に記載の押出機のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記推定ステップは、
初期推定値として、前記解析領域のうち、送りスクリュ部の全体が非充満領域であるとし、
前記送りスクリュ部における前記非充満領域と充満領域との境界点を、前記格子領域を単位として順次上流側にずらして計算を行い、前記解析領域における最下流端の前記格子領域における圧力pが0となるときの前記各格子領域における値を前記樹脂の状態量として推定する、
請求項1に記載の押出機のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記推定ステップは、前記非充満領域において、スクリュのフライト壁における流路方向の流速が0であることを境界条件とする、
請求項2または3に記載の押出機のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記推定ステップは、
前記非充満領域における前記樹脂の流速を2変数の関数として計算し、
前記充満領域における前記樹脂の流速を1変数の関数として計算する、
請求項2または3に記載の押出機のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記押出機が前記せき止め部を複数備えた押出機であり、
前記離散化ステップと前記推定ステップとの間に、前記押出機の前記解析領域を、複数の前記せき止め部に応じた分割領域に分割する分割ステップを備え、
前記推定ステップは、最上流の前記分割領域から最下流の前記分割領域に向かって、前記分割領域ごとに順次、上流端から下流端に向かって、前記樹脂に関する数値を推定する、
請求項1に記載の押出機のシミュレーション方法。
【請求項7】
貫通孔を有するせき止め部を備えた押出機のシミュレーション方法であって、
前記押出機の領域をスクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、複数の格子領域に分割する離散化ステップと、
前記押出機の前記領域における上流端の樹脂に関する数値に基づいて、隣接する前記各格子領域における前記樹脂に関する数値を上流端から下流端に向かって順次推定する推定ステップと、を備えている押出機のシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機のスクリュを高速回転させて樹脂を熱分解する場合における、押出機内および樹脂の処理後の圧力、滞留時間、樹脂の充満率、樹脂の分子量、粘度および温度等を予測する押出機のシミュレーション方法および押出機のシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
濾過媒体、医療用布、音吸収材、クッション材などに用いられるメルトブローン不織布は、樹脂を溶融してノズルを通過させて製造する。当該ノズルが備える孔は0.1mm程度と小さく、ノズルに高い圧力がかかるとノズルが破損するため、メルトブローン不織布を製造する原料として、メルトフローレート(以下、適宜、MFRという)が極めて高い低粘度グレードの樹脂が用いられる。しかし、例えばMFR値が1000g/10分間程度である低粘度のポリプロピレン(以下、適宜、PPという)などの樹脂は、市場に多く出回っていない特別なグレードである。このため、低粘度のPPなどの樹脂は、通常グレードのものと比べて、数倍程度価格が高い。そこで、入手が容易で安価な汎用樹脂を低分子量化することにより、低粘度の樹脂を製造することができれば、有用かつ経済的である。
【0003】
従来、知られている樹脂の低分子量化の方法の一つとして、有機過酸化物を用いる方法がある(例えば非特許文献1)。この方法は、二軸押出機を用いて、樹脂(高分子)と有機過酸化物とを混合して樹脂を化学的に分解する。しかし、有機過酸化物は高い反応性を有するため、樹脂の分解を制御することが困難である。また、樹脂の分解によって過酸化物の分解残渣が生じるため、この方法で低分子量化した樹脂は、医療、衛生用の製品として適さない。加えて、有機過酸化物は、危険物として分類されているため、取り扱いおよび保存に注意を要するという問題がある。
【0004】
我々は有機過酸化物を用いないで樹脂を低分子量化することができる、溶融した樹脂に高いせん断力を加えて低分子量化する製造方法を提案している(特許文献1)。この製造方法は、せん断応力によってせん断発熱を誘起して樹脂を低分子量化するものであり、低分子量化をスクリュの回転数により制御して、グレード(分子量)の異なる樹脂を迅速かつ簡単に製造できる点において優れている。
【0005】
また、押出機を用いた樹脂の処理に関する、押出機の構成および運転条件に基づいたシミュレーション方法も提案されている。例えば、非特許文献2には、二軸押出機のシミュレーション方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許6949342号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Berzin、 F; Vergnes、 B; Dufosse、 P; Delamare、 L. Modeling of Peroxide Initiated Controlled Degradation of Polypropylene in a Twin Screw Extruder. Polym. Eng. Sci. 2000、 40、 344-356.
【非特許文献2】Fel、 E.; Massardier、 V.; Melis、 F.; Vergnes、 B.; Cassagnau、 P. Residence Time Distribution in a High Shear Twin Screw Extruder. Int. Polym. Proc. 2014、 29、 71-80.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献2のシミュレーション方法は、1000RPM(回転/分間)までの回転速度を検討対象としており、押出機の処理による樹脂の低分子量化を考慮していない。このため、特許文献1に記載の製造方法のように、2000~4000RPM程度の高速回転での処理により樹脂の粘度を急激に低下させる場合について精度よくシミュレーションすることが困難であった。
本発明は、高速回転するスクリュにより樹脂の粘度を低下させる場合における、押出機内および樹脂の処理後の圧力、滞留時間、樹脂の充満率、樹脂の分子量、粘度および温度等を精度よく予測することができる、押出機のシミュレーション方法および押出機のシミュレーションプログラムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の押出機のシミュレーション方法は、せき止め部を備えた押出機のシミュレーション方法であって、前記押出機の解析領域をスクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、複数の格子領域に分割する離散化ステップと、前記押出機の前記解析領域における上流端の樹脂に関する数値に基づいて、隣接する前記各格子領域における前記樹脂に関する数値を上流端から下流端に向かって順次推定する推定ステップと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、押出機の上流側の入口から下流側の出口に向かって計算を進めることにより、せん断発熱およびバレルからの熱伝達によって引き起こされる樹脂の熱分解による樹脂に関する数値の変化を予測する計算の収束性が向上する。したがって、押出機内および処理後の圧力、滞留時間、樹脂の充満率、樹脂の分子量、粘度および温度等の樹脂に関する数値を精度よく予測可能な、計算の収束性が改善された分子量予測シミュレーションを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るシミュレーション方法のフローチャートである。
図2】押出機のスクリュ形状の模式図である。
図3】押出機のスクリュにおける充満状態と非充満状態とを示す模式図である。
図4】流路断面の離散化とコントロールボリュームとを説明する模式図である。
図5】スクリュの座標系を示す模式図である。
図6A】押出機の構成を示す模式図である。
図6B】分割領域(解析領域)の構成を示す模式図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るシミュレーション方法のフローチャートである。
図8】実施例で用いた装置の全体像を示す模式図である。
図9図8の装置における高せん断押出機のスクリュエレメントを示す模式図である。
図10】PP1の粘度データを示すグラフである。
図11】実施例のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
押出機内部における樹脂粘度低下のシミュレーション方法として、押出機内部の樹脂の非充満状態の箇所を特定するために、押出機における下流端の出口から上流端の入口に向かって順に計算を進める方法がある。この方法では、樹脂の充満状態と非充満状態との境界となる部分を算出するために、あらかじめ、押出機出口における樹脂の温度および粘度を予測して初期推定値として与える必要がある。
【0013】
押出機内部のせん断発熱は、押出機の後部側すなわち下流側になるにつれて小さくなっていく。このため、樹脂の温度上昇および粘度低下の程度は、押出機の上流側から下流側に向かって徐々に小さくなる。したがって、樹脂の温度および粘度の変化は、上流側から下流側にいくにつれて徐々に小さくなる。例えば、上流端の入口において温度および粘度が異なる樹脂を想定した場合、温度および粘度の差は下流側の出口に近づくにつれて小さくなる。このため、樹脂の温度および粘度は、入口において多少異なる値であっても、出口ではかなり近い値となる。逆にいえば、出口において温度と粘度が異なる値である場合、その値の差は下流端の出口から上流端の入口にいくにつれて大きくなる。このため、出口における樹脂の温度および粘度の初期推定値として、実際の値と異なる値を設定した場合、入口における温度と粘度が実際の値と大きく異なることになる。
【0014】
したがって、樹脂の温度および粘度のシミュレーション方法において、初期推定値として出口の値を与える場合、計算を収束させるには真の解に近い値を初期推定値として入力する必要がある。初期推定値と真の解との差異が大きい場合、シミュレーション方法における計算が収束しない。このため、押出機における下流側の出口から上流側の入口へ向かって計算を進めるシミュレーション方法には、計算の収束性が悪く、初期推定値の設定に時間を要するという問題がある。
【0015】
そこで、本発明のシミュレーション方法は、上記問題点に着目し、初期推定値として上流端の入口における樹脂の状態量の値を入力し、当該状態量に基づいて上流側から下流側に向かって計算を進める構成を採用して、計算の収束性を向上させている。以下、本発明の実施態様について、適宜、図面を参照して説明する。
【0016】
<押出機内における樹脂の流れ>
非ニュートン流体の場合の高せん断押出機(以下、適宜、押出機という)内部の樹脂流動の1次元モデルについて説明する。本実施形態のシミュレーション方法では、押出機内における樹脂の流れは、定常状態であり、完全発達流れであると仮定した。また、押出機は、スクリュの内径に対するバレルの内径の比率が1に近いことから、スクリュの溝の曲率は無視できるとした。なお、バレルの内径をD、スクリュの内径をD’としたときに、D’/D>0.7程度であれば、スクリュの溝の曲率を無視することができる。
【0017】
本実施形態においては、樹脂流動における樹脂の速度成分の関数に含まれる変数の数により、計算モデルを区別する。例えば、非充満状態における流速はvcの1成分のみ考えているが、(x、y)の2変数の関数なので2D計算という(図2参照)。対して、充満状態における流速は(vχ、vζ)の2成分を考えているが、yのみの1変数の関数として扱っているので1D計算という(図5参照)。
【0018】
<スクリュ>
図2は押出機のスクリュの形状を示す模式図である。スクリュは、その断面が溝深さ(高さ)H、幅Wの長方形の溝(チャネル)としてモデル化した。バレルは、スクリュの溝を覆う移動するプレートとしてモデル化した。この場合、プレートの移動速度Vは、V=πDNで表される(Dはバレルの内径であり、Nはスクリュの回転速度である)。
【0019】
図3は押出機のスクリュにおける、樹脂が充満した充満状態と、樹脂が充満していない非充満状態とを示す模式図である。以下、適宜、スクリュにおける樹脂が充満状態の領域を充満領域といい、樹脂が非充満状態の領域を非充満領域という。
【0020】
押出機において、通常、スクリュの溝幅Wは、溝深さHに比べて大きい。このため、充満領域ではスクリュのフライトの影響を無視することができる。
しかし、図3に示すように、二軸押出機や高せん断押出機は、非充満状態を許容する装置であり、非充満状態の場合、スクリュ流路断面における樹脂領域の幅W’はスクリュの溝深さHと同程度かそれよりも小さくなっている。このため、非充満領域においては、スクリュのフライトの影響を考慮する必要がある。
【0021】
スクリュのフライトに接している樹脂はフライトと一緒に移動するため、フライトから見た樹脂の流速は0である。すなわち、フライト上では樹脂の流速が0である。したがって、フライトの影響を考慮して計算を行う場合、考慮しない場合に比べて樹脂の平均流速が小さくなり、樹脂の充満率および滞留時間が大きくなる。
【0022】
<流体方程式>
図2に示すように、スクリュの溝幅方向をx、溝深さ方向をy、流路方向をcとする。本実施形態では、スクリュ角θが十分小さいとして、流路方向(c方向)の樹脂の流速のみを考える。流体である樹脂の運動方程式は、以下の式(1)で表される。
【数1】
式(1)において、vcは樹脂のc方向の流速成分、ηは樹脂の粘度である。また、∂x=∂/∂x、∂y=∂/∂yである(以下、同様の表記を用いる)。
樹脂は非ニュートン流体であり、粘度ηは、温度Tとせん断速度の大きさγ・とに依存する。
せん断速度の大きさγ・は、以下の式(2)で表される。
【数2】
【0023】
非充満状態における、流路断面での樹脂界面の形状を特定することは難しい。そこで、図3に示すように、流路断面での樹脂界面の形状が長方形であると仮定する。このとき、境界条件は、以下の式(3)で表される。
【数3】
式(3)におけるf=W′/Wは樹脂の充満率である。Vcはスクリュ静止系から見たバレル速度、すなわちスクリュを基準としたバレルの相対的な速度である移動速度Vのc成分である。式(3)の最初に示すように、非充満領域においては、スクリュフライト壁における流路方向の流速vcが0であることを境界条件とする。本実施形態のシミュレーション方法では、非充満領域において、流速vcをxおよびyの2変数の関数とする2D計算を行うことにより、式(3)に示す境界条件の設定が可能になる。
【0024】
流路断面における樹脂領域をSとすると、押出量Qは以下の式(4)で表される。
【数4】
【0025】
流路方向の位置cにおける温度分布T0が与えられていると仮定し、式(1)~(4)を数値的に解くことで、流速vcと充満率fとが求められる。
【0026】
エネルギー方程式は、以下の式(5)により表される。
境界条件は、以下の式(6)により表される。
【数5】
式(5)におけるρは溶融状態での樹脂の密度[kg/m3]、Cpは樹脂の比熱[J/(kg・K)]、κは樹脂の熱伝導率[W/(m・K)]である。
式(6)におけるTbは、押出機のバレル温度である。
【0027】
<離散化>
(流速)
図4は樹脂の流路断面の離散化とコントロールボリューム(検査体積、すなわち空間を分割してできる体積)とを説明する模式図である。本実施形態では、同図に示すようにフライトにおける流路断面を離散化する。
x方向、y方向における格子点のラベルをそれぞれI(=0、1、・・・、Nx+1)、J(=0、1、・・・、Ny+1)とする。I=0、I=Nx+1、J=0およびJ=Ny+1は、境界での格子点のラベルある。また、コントロールボリュームの境界をi(=0、・・・、Nx)、j(=0、・・・、Ny)でラベルする。
【0028】
等間隔格子では、格子点におけるx、y座標は、以下の式(7)、(8)により表される。
【数6】
ここで、△x=fW/Nx、△y=H/Nyである。また、δI,Jはクロネッカーのデルタである。
【0029】
境界条件を離散化すると、以下の式(9)、(10)で表される。
【数7】
【0030】
その他の境界での流速は、式(11)(12)で表される。
【数8】
【0031】
クリアランスがある場合は、その部分で自由端とする(図3参照)。
この場合の境界での流速は、式(13)~(15)で表される。
【数9】
ここで、Jcはクリアランス頂部の格子点である。
【0032】
樹脂の粘度は、コントロールボリュームにおける中心であるコントロールボリューム中心で定義する。そのためには、せん断速度の大きさもコントロールボリューム中心で定義しなければならない。せん断速度の大きさを中心差分で近似すると、式(16)で表される。
【数10】
【0033】
境界上では中心差分が適用できないので、前進差分もしくは後進差分で近似する。
【数11】
【0034】
よって、粘度関数をηとすると、コントロールボリューム中心における粘度ηIJは、式(21)で表される。
【数12】
【0035】
運動方程式(1)をコントロールボリューム内で積分すると、式(22)のようになる。
【数13】
【0036】
ただし、I=1、・・・、Nx、J=1、・・・、Nyである。
コントロールボリューム境界での粘度値は以下の式に示すとおりである。
【数14】
【0037】
押出量Qは、式(29)により表される。
【数15】
式(22)と式(29)とを合わせて(NxNy+1)個の方程式であり、未知変数は(vIJ、f)の(NxNy+1)個であるから解が定まる。ただし、I=1、・・・、Nx、J=1、・・・、Nyである。
方程式は非線形であるため、反復法を用いて解を求める必要がある。ニュートン流体の場合では、(1)式の解析解が求められるので、初期推定値としてニュートン流体の結果を用いる。
【0038】
(温度)
式(5)のエネルギー方程式をコントロールボリューム内において積分すると、式(30)のようになる。
【数16】
ただし、式(30)において、I=1、・・・、Nx、J=1、・・・、Nyである。
【0039】
境界条件は式(31)で示される。
【数17】
【0040】
充満状態において、スクリュの回転数が大きい場合、圧力勾配が大きくなりバックフローが発生する。そのため、スクリュにおいて流速が負になる領域が出てくる。この場合、陰解法を用いても安定性条件を破ってしまい、解が不安定になる。逆スクリュの場合も同様に、バレル付近の流れは負なので、安定性条件を破る。よって、上述した計算でバレル内における温度分布を計算できるのは非充満状態に限定される。
【0041】
高せん断のような回転数が大きい運転条件では、非充満領域における充満率が非常に小さく、スクリュにおけるフライトの影響を無視できなくなる。このため、上述した2D計算を取り入れることにより、非充満領域における充満率の大きさおよび滞留時間の推定精度を改善できる。樹脂について、滞留時間は平均流速(押出量÷流路断面積)に反比例し、流路断面積は充満率に比例するため、滞留時間は充満率に比例する。そのため、充満率が2倍になると滞留時間も2倍になる。粘度低下のシミュレーションにおいて、滞留時間は重要であるため、2D計算を用いて流速・温度分布を計算することにより、充満率、滞留時間の予測精度が改善する。
【0042】
<ダイ・貫通孔>
バレルの伸長方向に直交する断面形状が円形の孔を備えた、せき止め部における貫通孔、および押出機のせき止め部として機能するダイについて説明する。
貫通孔およびダイにおける運動方程式を以下に示す。
【数18】
rは貫通孔の動径方向の座標、zは軸方向(スクリュ軸方向)の座標である。
【0043】
境界条件を以下に示す。
【数19】
Rはダイまたは貫通孔の半径である。圧力勾配∂p/∂z≡αは押出速度(押出量、m3/秒間)に関する式から導出される。
【数20】
【0044】
ダイ・貫通孔に関するエネルギー方程式は、式(35)で示される。
【数21】
【0045】
境界条件は、断面円形の管が一定の温度である場合、式(36)で示され、断熱条件の場合、式(37)で示される。
【数22】
【0046】
スクリュ内の流体解析は通常、流路方向をz方向として定式化する。しかし、充満状態では流路方向に負の流速となる領域が発生するため、流路方向に沿った温度分布を計算することができない。これを解消する方法として、スクリュ軸方向をz軸として定式化する。この場合、流速のζ成分は常に正なので、温度分布の計算が可能となる。以下では、スクリュ内における充満領域に関する計算について説明する。
【0047】
図5はスクリュの座標系を示す模式図である。同図に示す座標系を用いる場合、(x、c)系のベクトルから(ζ、χ)系のベクトルへの変換は以下の式(38)で与えられる。
【数23】
【0048】
スクリュのフライト壁の影響は無視し、(ζ,χ)系で方程式を書き下すと、スクリュの充満領域における運動方程式は以下の式(39)、(40)で示される。
【数24】
このように充満状態における樹脂の流速は(vχ、vζ)の2成分を考えているが、いずれの成分もy(図2参照)のみの関数すなわち1変数の関数として扱っている。
【0049】
樹脂の粘度ηは、式(41)で示されるせん断速度の大きさγ・と温度Tとの関数である。
【数25】
【0050】
流速の境界条件は、式(42)、(43)で示される。
【数26】
ここで、Vbは押出機のバレル速度である。
【0051】
押出量の定義は、以下の式(44)、(45)であるから、これらを座標変換すると、式(46)、(47)のようになる。
【数27】
【0052】
流路方向の圧力変化は、式(48)で示される。このため、スクリュ軸方向への射影は式(49)で示される。エネルギー方程式は式(50)である。
【数28】
【0053】
対流項にはvχに比例する項も存在するが、vχはバックフローにより負になる領域があるため、エネルギー方程式に含めない。
温度の境界条件は、式(51)で示される。
【数29】
ここで、Tbは押出機のバレル温度である。
【0054】
<粘度低下モデル>
スクリュの回転速度を大きくしバレル温度を高くすることで、せん断発熱および熱伝導が大きくなることにより、樹脂(高分子)が熱的に分解される。樹脂の熱的な分解について、これまでに種々の研究がなされているが、本シミュレーションでは以下のモデルを採用した。
【0055】
数平均分子量をMn、重量平均分子量をMw、z平均分子量をMzとすると、以下の式(52)~(54)が成り立つ。
【数30】
ここで、vzは樹脂の流速、kは反応速度定数である。
【数31】
Tは温度、Rgは気体定数、A、Eはモデルパラメータである。
よって、位置zでの流速、温度、分子量が与えられると、次の位置z+△zでの分子量が分かる。
【0056】
分子量と粘度との関係について、重量平均分子量Mwが臨界分子量Mc(10000程度)よりも大きい(Mw>Mc)ときは、参照温度におけるゼロせん断粘度ηr(以下、適宜「粘度」ともいう)は以下の式(56)により表されるとする。
【数32】
樹脂の分子量と粘度との関係を示すデータが複数あれば、当該データに基づいて、式(56)におけるaおよびnを求めることができる。ただし、そのようなデータがない場合、経験則に基づいて、n=3.4としてもよい。その場合、比例定数aは加工前の樹脂データからa=ηr(i)/Mnw(i)として求める。
1≦Mw≦Mcのときには、
【数33】
とする。
計算上、分子量が負にならないように、Mが1未満になった場合はM=1にする。
【0057】
<計算方法>
図1は、本実施形態のシミュレーション方法のフローチャートである。本実施形態では、押出機の上流端における入口の樹脂温度と粘度とが与えられた場合に、押出機の軸方向のすべての位置における、圧力p、温度T、粘度ηrおよび分子量を算出する場合について説明する。
以下では、押出機における軸座標をzで示す。なお、以下に示す各ステップの順序は一例であり、先のステップにおいて求めて算出した値を用いる場合を除いて、図1に示した順序とは異なる順序によって各ステップを行ってもよい。
【0058】
せき止め部を複数備えた押出機についてのシミュレーション方法として本発明を実施する態様について説明する。
図1は本実施形態のシミュレーション方法のフローチャートである。
図6Aおよび図6Bは、本実施形態のシミュレーション方法により計算を行う、押出機および押出機の分割領域Cnの構成を示す模式図である。
これらの図に示すように、本実施形態のシミュレーション方法は、せき止め部を複数備えた押出機に用いられるものであり、離散化ステップS10と、分割ステップS20と、推定ステップS30とを備えている。以下では、せき止め部を2つ備えた押出機について本実施形態のシミュレーション方法を実施する態様を説明する。なお、せき止め部は、バレル下流端に設けられたダイを含む。
【0059】
なお、本実施形態では、貫通孔を有するせき止め部を備えた押出機について、本発明のシミュレーション方法を用いる態様について説明する。ただし、貫通孔を備えない逆スクリュによりせき止め部を構成することも可能である。
【0060】
押出機のスクリュは一般的に昇圧能力を備えた送りスクリュの部分と、せき止め能力(降圧能力)を備えた部分(逆スクリュ、ニーティングディスクなど)とに分類される。なお、以下ではせき止め能力を備えた部分をせき止め部といい、せき止め部以外の昇圧能力を備えた部分を送りスクリュ部という。
【0061】
複数のせき止め部を備えた押出機では、押出機の解析領域における上流側から下流側に向かって、樹脂の状態が非充満、充満、非充満、充満・・・を繰り返す。本実施形態のシミュレーション方法では、樹脂の状態が非充満状態となる領域と充満状態となる領域とを一単位(1セット)として、樹脂の状態量などを推定する計算を行う。
【0062】
離散化ステップS10は、押出機における解析領域について、スクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、解析領域を複数の格子領域に分割する。ここでは、スクリュの軸方向をz方向とし、z方向に延びるスクリュ軸方向において、送りスクリュ部およびせき止め部を離散化する。以下では、適宜、格子領域を規定する所定の間隔をδzと記す。
【0063】
分割ステップS20は、押出機における解析領域を、せき止め部の数eに応じて、せき止め部と同じ数の分割領域C1~Ceに分割する。図6Aに示す押出機は、2つのせき止め部が設けられているため、2つの分割領域に分割する。上流側のせき止め部C1Bの領域において、最も下流側に位置する格子領域の位置である下流端ze1で解析領域を分割する。すなわち、押出機における下流端ze1がせき止め部であり、下流端ze1からz軸方向にδz下流側の位置ze1+δzが送りスクリュ部である場合、下流端ze1において押出機の領域を分割する。分割された領域を、スクリュの上流側から順に、分割領域C1、分割領域C2とする。下流端ze1が上流側の分割領域C1における最下流の位置となる。
【0064】
推定ステップS30は、上流側の分割領域C1から下流側の分割領域C2に向かって、分割領域Cnごとに順次、上流端から下流端に向かって、樹脂の状態量などを計算により推定する。上流端の数値に基づいて格子領域の数値を計算し、計算によって得られた数値に基づいて、隣接する下流側の格子領域の数値を計算する。このようにして、上流側から下流側に向かって、各格子領域の数値を順次計算(推定)する。
【0065】
分割領域Cnに関する推定ステップS30の計算では、送りスクリュ部CnA内において、非充満状態から充満状態へ遷移する位置を境界点zbnとする。z方向における境界点zbnの手前(上流側)までは、上流端における数値に基づいて、上流側から下流側に向かって順次、非充満領域CnAnの計算を行う。境界点zbn以降では、充満状態の計算に切り替えて、充満領域における最下流端、すなわち、分割領域Cnのせき止め部CnBにおける下流端zenにおける圧力p(zen)を計算する。
【0066】
下流端zenを基準として、z軸方向にδzだけ下流側の位置zen+δzは下流側の送りスクリュ部Cn+1Aであり、送りスクリュ部Cn+1Aの距離が短くなければ、十分大きな回転数において、非充満、もしくは開放状態である。この仮定が成立する送りスクリュ部Cn+1Aの距離および回転数を具体的に特定することは困難であるが、樹脂が低粘度化する運転条件では充満領域Cn+1Afのz軸方向の長さが短いため、この仮定は十分成り立つ。そこで、下流端zenにおける圧力p(zen)が0となるように反復計算を行い、非充満領域CnAnから充満領域CnAfに変わる境界点zbnを求める。求めた境界点zbnを用いて、分割領域Cnにおける樹脂の温度、粘度などを推定する計算を行う。
【0067】
分割領域C1の推定ステップS30における計算の例について以下に説明する。
まず、推定の対象とする分割領域Cnとして分割領域C1を特定し、分割領域C1内の送りスクリュ部C1Aにおける格子点Lの数Nmaxを数える(S31)。格子点Lの間のz軸方向の幅δzの格子領域の数は、格子点数Nmax-1である。図6Aに示す押出機の場合、最初に最上流の分割領域C1を推定対象とし、分割領域C1の計算が終了した後、下流側に隣接する分割領域C2を次の推定対象とする。
【0068】
分割領域C1の送りスクリュ部C1A内における非充満領域C1Anの流体計算を実行するために、送りスクリュ部C1A内の非充満領域C1Anと充満領域C1Afのとの境界点zb1の初期値を設定する(S32)。z軸における上流端zs1から境界点zb1までの間に含まれる格子点数をNunfillとすると、1≦Nunfill≦Nmaxとなる。したがって、境界点zb1の初期値は、たとえば、非充満領域の格子点数NunfillがNmaxである、送りスクリュ部C1Aのスクリュ部下流端zt1とすればよい。
【0069】
送りスクリュ部C1Aの非充満領域C1Anの各格子領域について、樹脂の状態量Y(p:圧力、T:温度、ηr:粘度、Mn:数平均分子量、Mw:重量平均分子量、Mz:z平均分子量、t:滞留時間)を計算する(S33)。
【0070】
ステップS33では、上流端zs1における樹脂の状態量Y0(p=0、T=Ti、ηr=ηri、Mn=Mni、Mw=Mwi、Mz=Mzi、t=0)を初期条件として用いて、運動方程式を解く。この計算により、上流端zs1の格子点(L=0)における、樹脂の流速vz、充満率f、滞留時間変化dt/dz=押出量/流路方向に垂直な樹脂断面積=Q/(fWH)が得られる。したがって、上流端zs1の格子点(L=0)に隣接する、下流側にδzだけ移動した下流側の格子点(L=1)でのtが求まる。
【0071】
エネルギー方程式、分子量低下の式を用いて、L=1でのT、Mn、Mw、Mzを計算する。そして、L=1でのMwからL=1でのゼロせん断粘度ηrを計算する。L=1での状態量Y1から同様にして、L=2での状態量Y2を求める。上述した計算を、境界点zb1に対応する格子点L=Nunfill-1まで繰り返す。
【0072】
上述したようにして、非充満領域C1Anにおける各格子点(L=0~Nunfill-1)について求めた流速、温度、分子量、粘度はもともとxとyとの関数なので離散化すると行列値である。そこで、スカラー値を求めるため、平均値を計算する。平均は以下の定義を用いる。
【数34】
xは樹脂断面の幅方向であり、yは樹脂断面の高さ方向である(図2参照)。
【0073】
続いて、分割領域C1の送りスクリュ部C1A内における充満領域C1Afの流体計算を実行する(S34)。ステップS34の計算では、ステップS33において、非充満領域C1Anの計算から求められたL=Nunfill-1における樹脂の状態量Yに基づいて、送りスクリュ部C1Aの充満領域C1Afの流体計算を実行する。
【0074】
ただし、充満領域C1Afではyの依存性のみを考慮するので、流速、温度、分子量、粘度はベクトル値であり、非充満領域C1Anとサイズが異なる。このため、平均値で埋められたベクトルに変換してから充満領域C1Afの計算をL=Nmax-1まで行う。ここでは、充満率は1であり、充満率の代わりに圧力を求める。
【0075】
充満領域C1Afにおける計算では、樹脂の状態量として、以下の式により定義される平均値を用いる。
【数35】
【0076】
続いて、境界点zb1に対応する格子点L=Nmax-1での状態量を用いて、分割領域C1のせき止め部C1Bの貫通孔内部における流体計算を行う(S35)。ここでも状態量のサイズが異なるので、一様な平均値を仮定して、計算を進める。この計算から分割領域C1の下流端ze1における樹脂の終端圧力p(Nunfill)が求まる。
【0077】
分割領域C1の終端圧力p(Nunfill)が0であるか否かを判断する(S36)。p(Nunfill)が0でない場合(S36におけるNo)、ステップS32に戻り、送りスクリュ部C1Aにおける充満領域C1Afと非充満領域C1Anとの境界点zb1を再設定する。当該再設定は、例えば、境界点zb1の位置を所定の距離、例えばδz上流側に変更すればよい。
【0078】
ステップS32~S36を繰り返し、反復法によりp(Nunfill)が0となるNunfillを求める。p(Nunfill)は単調減少関数なので、ニュートン法により解が求められる。境界点zb1(zbn)の初期値をスクリュ部下流端zt1(ztn)とし、初期推定値をNmaxとすれば、十分早く収束解を得られる。したがって、下流端における初期推定値を入力する場合のように、真の値に近い値を入力する必要はない。
【0079】
p(Nunfill)が0となったとき(S36におけるYes)、ステップ37に移り、分割領域C1の計算を終了し、p(Nunfill)が0となったときにおけるステップS33~S35の計算により得られた各数値を分割領域C1の推定値とする(S37)。
【0080】
続いて、ステップS38に移り、推定値が得られた分割領域Cnが解析領域における最下流の終端zefを含む下流端の分割領域Ceであるか否かを判断する。分割領域Cnが分割領域Ceでない場合は(S38におけるNo)、ステップS31に戻って分割領域Cnの下流側に隣接する分割領域Cn+1を新たな推定対象としてS32~S36を行う。分割領域Cn+1の計算では、分割領域Cnの計算により得られた下流端zenにおける樹脂の状態量を、分割領域Cn+1の上流端zsn+1における樹脂の状態量Y0として用いる。計算が終了した分割領域Cnが分割領域Ceである場合は(S38におけるYes)、シミュレーション計算を終了する。
【0081】
上述したように、1セット目の計算が終われば、1セット目の計算で得られた終端での温度、粘度等を初期値として1セット目と同様して2セット目の計算を行う。これを繰り返して、押出機の下流端である終端まで樹脂の状態量Yの推定計算を実行する。このようにして、上流側から下流側に向かって、分割領域Cnごとに計算を行って樹脂の状態量Yを推定する。
【0082】
図6Aに示すように、解析領域を分割領域C1と分割領域C2とに2分割した場合、分割領域C1における下流端(終端)ze1における樹脂の状態量Yze1を、分割領域C2における上流端zs2における樹脂の状態量Yzs2として分割領域C2の計算を同様に実行し、分割領域C2における樹脂の状態量Yを求める。
【0083】
本実施形態のシミュレーション方法は、押出機における下流端の出口における樹脂の温度および粘度を推定して初期値として与えるシミュレーションと違い、出口の温度、粘度を推定する必要がない。その代わりに、反復計算の初期推定値として、送りスクリュ部における非充満領域と充満領域との境界を与える必要があるが、当該境界は送りスクリュ部の間にあるため容易に定まり、当該計算の収束に要する時間も短いという利点がある。
【0084】
また、本シミュレーションでは、粘度だけでなく、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、z平均分子量Mzを求めることができる。さらに、分子量分布の分散の指標である多分散度Mw/Mnを計算することができる。
【0085】
図7は、他の実施形態に係るシミュレーション方法のフローチャートである。同図に示すように、本発明はせき止め部を一つ備えた押出機についてのシミュレーション方法として実施することができる。この場合、離散化ステップS10と、推定ステップS30とを備えたシミュレーション方法となる。
【0086】
離散化ステップS10では、押出機の解析領域C1(図6B参照)をスクリュの軸方向に所定の間隔で離散化して、複数の格子領域に分割する。
推定ステップS30では、解析領域C1における上流端zs1における樹脂に関する数値に基づいて、隣接する格子領域における樹脂に関する数値を推定する。当該数値の推定を、各格子領域について、解析領域C1における上流端zs1から下流端ze1に向かって順次行う。
【0087】
解析領域C1について、境界点zb1を推定するステップS32、非充満領域C1Anの樹脂に関する数値を推定するステップS33、充満領域C1Afの樹脂に関する数値を推定するステップS34、せき止め部C1Bの樹脂に関する数値を推定するステップS35は、せき止め部を複数備えた押出機についてのシミュレーション方法について説明したシミュレーション方法と同じである。
【0088】
解析領域C1の下流端zenにおける圧力pが0になるまで、境界点zb1を更新してS32~S35を繰り返し、圧力p=0となったときの樹脂に関する数値を推定値として、シミュレーションを終了する。
【0089】
本発明は、上述した押出機のシミュレーション方法をコンピュータに実行させるプログラムとして実施することもできる。
【実施例0090】
<装置>
図8は、実施例において用いた装置の全体像を模式的に示している。同図に示すように、2つの異なる押出機が、直径10mm、長さ150mmの1本の単管を介して直列に接続された装置を用いた。樹脂供給部から供給された樹脂は、二軸押出機で溶融された後、単軸押出機である高せん断押出機の入口に供給される。最初の押出機は、同方向回転二軸押出機(L(長さ)/D(内径)=48.5、D=26mm、芝浦機械製)であり、樹脂を溶融するために用いた。
【0091】
図9は、高せん断押出機の一部を模式的に示しており、同図に示すように、スクリュエレメントはせき止め部を貫通する貫通孔を備えている。当該貫通孔の断面形状は円形である。図中の矢印は樹脂の流れの方向を示している。
樹脂は、逆スクリュによってせき止められて、貫通孔に流れ込む。これら要素の役割は、逆スクリュの手前に、完全に樹脂で充満された領域を形成しつつ、樹脂に過度なせん断力がかからないようにして過度な低分子量化を防止することである。高せん断押出機のダイから排出された樹脂は、すぐに水で冷却した後、乾燥した。
【0092】
<原料>
原料は、ホモポリプロピレン(F-704NP、プライムポリマー製)を用いた。メルトフローレートは、7.0g/10分間であった。測定はISO1133-97に沿って行った。以下では、F-704NPをPP1と記す。せん断粘度は、モジュラー コンパクト レオメータ(MCR 102 Anton Paar製)を用いて測定した。せん断速度の測定範囲は、0.01~100/秒間であり、測定温度は463、473および483K(190、200、および210℃)であった。参照温度を473K(200℃)に設定した。表1および図10にPP1のデータを示す。
【0093】
【表1】
【0094】
<高せん断押出機によるPPの分子鎖切断>
本実施例では、図6Aに示す長さ250mmのスクリュエレメントを備えた高せん断押出機を用いた。スクリュエレメントのZ軸方向における長さはそれぞれ、送りスクリュ部C1Aが135mm、せき止め部C1Bが45mm、送りスクリュ部C2Aが45mm、せき止め部C2Bが25mmであった。送りスクリュ部C1Aは、溝の深さ3mm、リード22.5mm、長さ45mmであり、送りスクリュ部C2Aは、溝の深さ3mm、リード15mm、長さ45mmであった。
【0095】
図6Aにおけるせき止め部C1Bとして、直径2mm、長さ45mmの4つの断面円形の貫通孔を備えた逆ねじ要素(図9参照)を用いた。図6Aにおけるせき止め部C1Bとして、直径2mm、長さ25mmのダイを用いた。バレル温度は468K(195℃)に設定し、樹脂の押出速度を4.8kg/時間とした。スクリュ回転速度を、2000、2500、3000および3600回転/分間とした。樹脂としてPP1を用いた。PP1の温度は、図6AにおけるC1Aのスクリュ部下流端zt1、およびダイの出口である下流端ze2(終端zef)で測定した。高せん断処理後のPP1のゼロせん断粘度は、参照温度473K(200℃)で測定した。
【0096】
<結果>
<高せん断押出機によるPPの分解>
表2は、実施例のシミュレーションにより得られた予測値と実測値とを示す。全ての回転速度において、スクリュ部下流端zt1の温度Tp、ze2の温度Tfおよびηrfの予測値は、実測値と非常によく一致した。
【表2】
【0097】
図11は、実施例における、シミュレーション結果として得られた樹脂の状態量を示すグラフであり、上から圧力、温度、粘度、滞留時間、充満率f、多分散度(Mw/Mn)を示している。
スクリュの回転速度が増加するに従い、せん断発熱により温度が高くなり、樹脂の熱分解(分子鎖切断)により粘度が低下した。粘度は貫通孔およびダイの前の位置において大きく低下した。これは、この位置において、スクリュが樹脂により完全に充満されているため、樹脂に大きなせん断力が加えられ、また滞留時間も非充満状態に比べて長いためである。貫通孔およびダイの内側では、樹脂に加えられるせん断力が小さく、および滞留時間が短いことから、樹脂の熱分解が抑制された。なお、本実施例のシミュレーションでは、貫通孔およびダイの部分が断熱状態であるとした。
【0098】
樹脂が貫通孔から排出された後では、高いスクリュ回転速度にも関わらず、樹脂の温度が徐々に低下した。これは、貫通孔の前(樹脂の流れの上流側)における粘度低下により、樹脂に生じるせん断発熱が減少し、バレルへの熱伝導が支配的になったためといえる。
【0099】
非充満領域の推定において計算評価の対象となる領域の充満率fは、スクリュのフライトの影響を考慮しない1D計算を行った場合、f=2Q/(Vz×W×H)となる(Qは押出量、Vz、WおよびHは図2参照)。この式に基づいて、充満率fを計算するとf=0.022となる。対して、図11に示す実施例では計算により求められた充満率fは0.048であった。
高せん断のような回転数が大きい運転条件では、充満率が非常に小さいため、スクリュのフライトの影響を無視できなくなる。樹脂の滞留時間は平均流速(押出量÷流路断面積)に反比例し、流路断面積は充満率に比例するため、樹脂の滞留時間は充満率に比例する。したがって、充満率が2倍になると滞留時間も2倍になる。粘度低下の推定において滞留時間は重要である。このため、非充満領域の推定において2D計算を取り入れることで、シミュレーション方法の推定精度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、例えば、汎用されているポリプロピレン樹脂にせん断力を加えて、低粘度のポリプロピレン樹脂を製造する際における押出機内および処理後の圧力、滞留時間、樹脂の充満率、樹脂の粘度および温度を予測するために利用できる。
【符号の説明】
【0101】
H:溝深さ
W、W’:溝幅
C1:分割領域、解析領域
C2、Cn、Ce:分割領域
C1A、C2A、CnA:送りスクリュ部
C1An、CnAn:非充満領域
C1Af、CnAf:充満領域
C1B、C2B、CnB:せき止め部
zs1、zs2、zsn:上流端
zb1、zbn:境界点
zt1、ztn:スクリュ部下流端
ze1、ze2、zen:下流端
zef:終端
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11