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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063983
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸の風味の改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240507BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240507BHJP
   A23L 21/15 20160101ALI20240507BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L2/00 B
A23L21/15
A21D2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172215
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土橋 竜也
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祐見
【テーマコード(参考)】
4B032
4B041
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B032DB22
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK19
4B032DK43
4B032DK47
4B032DP08
4B032DP29
4B032DP40
4B041LC01
4B041LD02
4B041LK07
4B041LK10
4B041LK13
4B041LK30
4B041LP01
4B041LP13
4B041LP17
4B047LB08
4B047LF07
4B047LF09
4B047LF10
4B047LG15
4B117LC03
4B117LK01
4B117LK08
4B117LK12
4B117LK14
4B117LL01
(57)【要約】
【課題】 γ-アミノ酪酸(GABA)には独特の苦み、収斂味、酸味、エグみといった好ましくない風味があるため、これを食品に添加すると、食品本来の味質が変化する問題がある。本発明の目的は、第一義的にはそのようなGABAの好ましくない風味を改善する方法を提供することにあり、最終的には、味質の改善されたGABA含有飲食品を提供することにある。
【解決手段】 GABA0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上で併存させることにより、GABAの有する好ましくない風味を改善することができるため、当該方法を利用することにより、最終的には味質の改善されたGABA含有飲食品を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-アミノ酪酸とD-アルロースを混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸の風味の改善方法。
【請求項2】
γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上で混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸の風味の改善方法。
【請求項3】
D-アルロースを含んでなる、γ-アミノ酪酸の風味を改善するための組成物。
【請求項4】
γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上で含むことを特徴とする、γ-アミノ酪酸組成物。
【請求項5】
γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上となるように混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸組成物の製造方法。
【請求項6】
γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上となるように配合する工程を含む、γ-アミノ酪酸含有飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ-アミノ酪酸が有する好ましくない風味を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-アミノ酪酸(以降、「GABA」ともいう。)は、動植物界に広く分布するアミノ酸の一種であって、ほ乳動物の脳や脊髄の中枢神経系における抑制性神経伝達物質としてよく知られている。このGABAは、発酵法などにより商業生産され(特許文献1)、近年では、血圧改善、ストレス緩和、疲労感の軽減、睡眠の改善、認知機能の改善の機能性関与成分として機能性表示食品に多く用いられるようになってきたことから、一般消費者にもその機能が広く知られるところとなっている。
【0003】
しかし、GABAには独特の苦み、収斂味、酸味、エグみといった好ましくない風味があり、食品に添加すると食品本来の味質が変化するため、これを改善する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-210075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、第一義的にはGABAの好ましくない風味を改善する方法を提供することにあり、最終的には、味質の改善されたGABA含有飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、GABA0.002~1.0質量部に対してD-アルロースを0.01質量部以上で併存させることにより、GABAの有する好ましくない風味を改善することができることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の〔1〕~〔6〕から構成されるものである。
〔1〕γ-アミノ酪酸とD-アルロースを混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸の風味の改善方法。
[2]γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上で混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸の風味の改善方法。
[3]D-アルロースを含んでなる、γ-アミノ酪酸の風味を改善するための組成物。
[4]γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上で含むことを特徴とする、γ-アミノ酪酸組成物。
[5]γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上となるように混合することを特徴とする、γ-アミノ酪酸組成物の製造方法。
[6]γ-アミノ酪酸0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上となるように配合する工程を含む、γ-アミノ酪酸含有飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
D-アルロースを混合するだけで、GABA独特の風味が低減した飲食品を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にいうγ-アミノ酪酸(GABA」ともいう)は、野菜、果物、穀物などの植物に含まれ、ほ乳動物では脳に局在するアミノ酸の一種である。本発明にいうGABAは、合成物のほか、茶、大麦若葉、発芽玄米など植物からの抽出物、乳酸菌や酵母を利用した発酵産物など、純度99%以上の結晶品として市場で入手可能であり(例えば、大象ジャパン株式会社、シンライ化成株式会社などが販売。)、制限なく使用することができる。
【0010】
本発明にいうD-アルロース(D-プシコース)は、D-フラクトースのC3位の構造位異性体であり、自然界に多く存在しない「希少糖」の一種である。本発明にいうD-アルロースは、合成物のほか、ズイナなど植物からの抽出物、微生物を利用した発酵産物など、純度95%以上の結晶品として市販で入手可能であり(例えば、松谷化学工業社の製品「ASTRAEA」などがある。)、制限なく使用することができる、また、その純度は特に問わないが、本発明の効果を発揮する有効成分であることから、少なくとも90質量%以上のものを利用するのが簡便であり、それを下回る純度のものを利用する場合は、純度換算をした上で同等量使用することが好ましい。
【0011】
GABAに対するD-アルロースの使用量は、特に制限されないが、GABA0.002~1.0質量部(純度100%換算)に対し、0.0001質量部以上であり、好ましくは0.001質量部以上又は0.01質量部以上である。D-アルロースは、GABA独特の苦み等をマスキングするには飲食品中において少なくとも当該量以上で含まれることで足りるが、1質量%を超えて含むと、マスキング効果以上にD-アルロースの甘味が現れはじめるため、とくに甘味の付与を望まない飲食品においては、5質量%以下の使用量にとどめることが望ましい。
【0012】
本発明にいう「飲食品」は、とくに制限はなく、一般的な飲食品、たとえばベーカリー、ゼリー、ガム、キャンディー、飲料、スープなどのほか、栄養補助的、嚥下補助的又は医薬的な形態(たとえば粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状、ジェル状、ペースト状)、すなわち、ヒトが経口摂取できる形態のものであればいずれの形態であっても構わない。
【0013】
本発明にいう「GABAの風味」とは、GABAを経口摂取したときに口腔、鼻腔、食道などで感じる味、香り、刺激などであり、具体的には、苦み、収斂味、エグみ、酸味、辛み、生臭みなどである。
【0014】
本発明にいう「GABAの風味の改善」とは、D-アルロースを混合しないGABAを含む飲食品(対照品)より風味が改善されていること(苦み、エグみ、収斂味、酸味などが軽減していること)をいい、たとえば、対照品と比べて「改善している」と評価した評価者(訓練されたパネラー)の人数が、10人中7人以上のときは「◎」、6人のときは「〇」、5人のときは「△」、4人以下のときは「×」などとして、評価することができる。
【0015】
本発明において、GABAの風味を改善する有効成分はD-アルロースであり、GABAとD-アルロースの両者が併存することにより本発明の効果が得られる。よって、D-アルロースを主成分として含むGABAの風味改善剤(組成物)として提供することができるし、あらかじめGABAと混合しておき、風味が改善されたGABA組成物として提供することもできる。風味が改善されたGABA組成物として提供する場合は、GABA0.002~1.0質量部に対しD-アルロースを0.01質量部以上の割合であらかじめ混合しておけばよく、そうすることにより飲食品等の製造時に両成分の比率を調整することなく、飲食品等の製造に簡便に利用することができる。
【0016】
本発明を用いれば、GABAの機能性を享受しながら風味に優れた飲食品等、とくにGABAを機能性関与成分とする機能性表示食品や医薬を提供できることとなる。
【0017】
以下、本発明の実施形態を記載するが、実施例に特に限定されるものではない。
【実施例0018】
<各糖の効果の検討>
GABAの風味を改善できる素材を種々検討していたところ、D-アルロースにGABAの風味改善効果が幾分認められた。そこで、その効果の程度をほかの糖と比較することとし、表1記載の配合で調製した試験液について、パネラー10名による評価を行った。評価は、対照液(糖無添加)と比べたときに、GABA由来の苦み、エグみ、収斂味、酸味などが軽減しているか否かで評価し、具体的には、対照液と比べて「改善している」と評価した評価者の人数が、10人中7人以上のときは「◎」、6人のときは「〇」、5人のときは「△」、4人以下のときは「×」とした。
【0019】
【表1】
【0020】
<D-アルロースの用量>
GABAの風味改善効果は、D-アルロースのみが有する特徴的な効果であることが判明したため、その効果が発揮される用量を検討することとした。評価は、表2記載の配合で調製した試験液について、上と同様の方法で行った。
【0021】
【表2】
【0022】
D-アルロースを0.001%以上の濃度で含有させると、GABA特有の風味が改善されることがわかった。
【0023】
<GABA1%に対するD-アルロースの用量>
GABAは、食品においてその機能性を表示するためには、少なくともその機能が発揮される量で添加される必要がある。機能性表示食品においては、GABAは通常2~1000mg/100gの範囲で含まれることが多い(注:希釈タイプの粉末飲料などは3000mg/100gを超えるが、希釈すれば同範囲内となる)。そこで、機能性表示の最大用量と考えられるGABA1%濃度(表3)及び最低用量と考えられる0.002%濃度(表4)の風味を改善できるD-アルロース用量を検討することとした。
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
GABAが1%と高濃度であるときにも、そのGABA特有の風味を改善するには、0.01%のD-アルロースを用いれば十分であることがわかった。
【0027】
以上より、GABA0.002~1.0質量部に対し、D-アルロースを少なくとも0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上で使用すれば、GABA特有の風味が十分改善されることがわかった。
【0028】
(レモンウォーター)
表5記載の各配合比で原料を混合し、100ml容量ビンに充填して85℃で10分間殺菌した。上と同様の官能評価を行ったところ、D-アルロースが添加されたレモンウォーターはGABA特有の異味がなく、GABA無添加品(表4に記載なし)と同様の味わいであった。
【0029】
【表5】
【0030】
(スポーツドリンク)
表6記載の各配合比で全原料を混合し、100ml容量ビンに充填して85℃で10分間殺菌を行った。D-アルロースが添加されたスポーツドリンクはGABAの異味がなく、GABA無添加品(表6に記載なし)と同様の味わいであった。
【0031】
【表6】
【0032】
(アップルゼリー)
表7記載の配合割合でゲル化剤、糖及び水を混合・加熱(85℃・10分)し、そこへ、別途水に溶解・加温(65℃)した残りの原料を加えて混合し、水分補正してから70ml容量のゼリーカップに充填して殺菌(85℃で30分)した。これらのアップルゼリーについて官能評価を行ったところ、D-アルロースが添加されたアップルゼリーはGABAの異味がなく、GABA無添加品(表7に記載なし)と同様の美味しさであった。
【0033】
【表7】
【0034】
(クッキー)
表8記載の割合であらかじめ混合しておいた粉体(マーガリン、糖、塩及びGABA)に全卵を加えて混合し、次いで小麦粉及び脱脂粉乳を加えて混合した生地を15分間ねかせた。これを生地厚5mmに伸ばして直径40mmの丸型でくり抜き、電気オーブンで焼成し(上火160℃/下火140℃、14分間)、クッキーを作製した。このクッキーについて官能評価を行ったところ、D-アルロースが添加されたクッキーはGABAの異味がなく、GABA無添加品(表8に記載なし)と同様の美味しさであった。
【0035】
【表8】