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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063993
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】可視光応答型光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/39 20240101AFI20240507BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240507BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240507BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20240507BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J37/04 101
B01J37/03 A
B01J27/24 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172235
(22)【出願日】2022-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔刊行物名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 25p-P01-14 予稿集 〔発行者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔発行年月日〕 令和4年2月25日 〔刊行物等〕 〔集会名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 オンライン開催 〔主催者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔開催日〕 令和4年3月25日 〔刊行物等〕 〔刊行物名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 25p-P01-10 予稿集 〔発行者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔発行年月日〕 令和4年2月25日 〔刊行物等〕 〔集会名〕 公益社団法人応用物理学会 2022年 第69回応用物理学会春季学術講演会 〔主催者名〕 公益社団法人応用物理学会 〔開催日〕 令和4年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB06C
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BB11C
4G169BB12C
4G169BB15A
4G169BB15B
4G169BB15C
4G169BB20C
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC25C
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC54C
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD04C
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD06C
4G169CA05
4G169CA10
4G169CA15
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EB03
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC25
4G169EC28
4G169EE09
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB07
4G169FB08
4G169FB27
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC06
4G169FC07
4G169FC08
4G169FC10
4G169HA02
4G169HB06
4G169HB10
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD03
4G169HD04
4G169HE05
(57)【要約】
【課題】窒化炭素を含み、優れた光触媒効果を有する可視光応答型光触媒を提供する。
【解決手段】窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む可視光応答型光触媒に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む可視光応答型光触媒。
【請求項2】
窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスが複合化されている、請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項3】
窒化炭素の表面にバナジン酸ビスマスが付着している、請求項2に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項4】
バナジン酸ビスマスの平均粒子径に対する窒化炭素の平均粒子径の比が1を超える、請求項1または2に記載の可視光応答型光触媒。
【請求項5】
窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを反応させる工程を含む、可視光応答型光触媒の製造方法。
【請求項6】
水中で、窒化炭素、ビスマス化合物、およびバナジウム化合物を反応させる、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
ビスマス化合物と、ビスマス化合物のビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が1を超える量のバナジウム化合物を反応させる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ビスマス化合物が硝酸ビスマスである請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
バナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムである請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項10】
反応を尿素の存在下で行う請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項11】
反応時間が12時間以下である請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項12】
窒化炭素とバナジン酸ビスマスとの反応を500~940℃での焼成により行う、請求項5に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光応答型光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、光エネルギーを吸収して電子(e)と正孔(h)のペアを形成するが、この正孔(h)が触媒の表面にある水分を強い酸化力を持つヒドロキシラジカルに変えることで、このヒドロキシラジカルが汚染物資や汚れ、細菌などの有機物を分解し、その機能を発揮する。その効果は、吸収する光エネルギーの大きさに比例し、光触媒のバンドギャップエネルギーと関係する。吸収できる光エネルギーは、バンドギャップエネルギーEgが低いほど大きく、吸収可能な上限の波長λと下記式の関係にある。
Eg=プランク定数×光速度/λ=1240/λ
【0003】
光触媒として広く活用されている酸化チタンTiOは、バンドギャップエネルギーが3.2eVであり、波長388nm以下の紫外光を利用できるが、太陽光全エネルギーのわずか3%弱しか活用できない。特許文献1には、バンドギャップエネルギーがさらに低い単斜晶系バナジン酸ビスマスBiVOの効率的な製造方法が開示されており、バンドギャップエネルギーは2.4eVで、波長517nm以下の可視光と紫外光のエネルギーを利用できるが、太陽光全エネルギーの19%弱しか活用できない。
【0004】
その他の可視光応答型光触媒として、グラファイト状窒化炭素g-C(非特許文献1)や、メラミンCとBiVOとの焼成物(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-111476号公報
【特許文献2】特開2021-137789号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「GSアライアンスが可視光応答型光触媒、人工光合成にも応用できるグラファイト状窒化炭素(g-C3N4)を合成して商業化」2018年10月4日公開、https://www.atpress.ne.jp/news/167523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~2、非特許文献1で開示されている可視光応答型光触媒は、光触媒効果が十分とはいえなかった。本発明は、窒化炭素を含み、優れた光触媒効果を有する可視光応答型光触媒を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む化合物が可視光応答型光触媒を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む可視光応答型光触媒に関する。
【0010】
窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスが複合化されていることが好ましい。
【0011】
窒化炭素の表面にバナジン酸ビスマスが付着していることが好ましい。
【0012】
バナジン酸ビスマスの平均粒子径に対する窒化炭素の平均粒子径の比が1を超えることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを反応させる工程を含む、可視光応答型光触媒の製造方法に関する。
【0014】
前記製造方法において、水中で、窒化炭素、ビスマス化合物、およびバナジウム化合物を反応させることが好ましい。
【0015】
前記製造方法において、ビスマス化合物と、ビスマス化合物のビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が1を超える量のバナジウム化合物を反応させることが好ましい。
【0016】
前記製造方法において、ビスマス化合物が硝酸ビスマスであることが好ましい。
【0017】
前記製造方法において、バナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0018】
前記製造方法において、反応を尿素の存在下で行うことが好ましい。
【0019】
前記製造方法において、反応時間が12時間以下であることが好ましい。
【0020】
前記製造方法において、窒化炭素とバナジン酸ビスマスとの反応を500~940℃での焼成により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の可視光応答型光触媒は高い光触媒効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】固相法で得られた可視光応答型光触媒のXRD評価結果を示す。
図1B図1Aの28~32°における拡大図である。
図2】固相法で得られた可視光応答型光触媒の光触媒効果を示す。
図3】固相法で得られた可視光応答型光触媒の透過率測定時の外観を示す。
図4】固相法で得られた可視光応答型光触媒のSEM画像を示す。
図5】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒のXRD評価結果を示す。
図6】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒の光触媒効果を示す。
図7】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒の光照射時間に応じた光触媒効果を示す。
図8A】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒のSEM画像を示す。
図8B】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒のEDSマッピング結果を示す。
図9】沈殿法で得られた可視光応答型光触媒の、加熱撹拌時間に応じた光触媒効果を示す。
図10】炭化窒素の合成後、沈殿法で得られた可視光応答型光触媒の光触媒効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<<可視光応答型光触媒>>
本発明の可視光応答型光触媒は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含むことを特徴とする。
【0024】
可視光応答型光触媒は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む限りその態様は特に限定されないが、窒化炭素からなる部分と、バナジン酸ビスマスからなる部分を有するように、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスが複合化されていることが好ましい。特に、光触媒粒子間電子移動型とするために、窒化炭素の表面にバナジン酸ビスマスが付着していることがより好ましい。
【0025】
可視光応答型光触媒を構成する窒化炭素は、窒素原子と炭素原子からなる。窒化炭素の中でも、エネルギー的に安定したCが好ましい。窒化炭素の結晶形態としては、グラファイト状窒化炭素(g-C)、ポリマー状窒化炭素(PCN)などの低次元結晶;立方晶窒化炭素(c-C)、六方晶窒化炭素(β-C)などの結晶;軟質窒化炭素(a-CN)、硬質窒化炭素(ta-CN)などの非結晶が挙げられる。これらの中でも低次元結晶が好ましく、グラファイト状窒化炭素(g-C)がより好ましく、トリアジン環を骨格とするグラファイト状窒化炭素(tg-C)がさらに好ましい。
【0026】
窒化炭素は、メラミン(C(NH)を焼成することにより得られたものを用いることが好ましい。焼成温度は500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、630℃以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、一般的には800℃以下とされる。焼成時間は1~6時間が好ましく、2~6時間がより好ましい。
【0027】
特に、メラミンを630℃以上で長時間連続して焼成すると、得られる窒化炭素の触媒活性が損なわれる傾向がある。したがって、630℃以上で焼成する場合には、長時間での焼成を一度行うよりも、焼成を複数回繰り返すことが好ましい。例えば、630℃以上で0.5~6時間での焼成を繰り返す方法が挙げられ、繰り返し回数は2~4回が好ましく、2~3回がより好ましい。各焼成の後は、反応物を室温まで冷却してから、次の焼成を行うことが好ましい。短い時間での焼成を複数回繰り返す場合、630℃以上での焼成の延べ時間は4~6時間が好ましい。
【0028】
可視光応答型光触媒を構成するバナジン酸ビスマスは、単斜晶系結晶を含むことが好ましい。単斜晶系結晶と正方晶系結晶の混合物である場合は、重量比(単斜晶/正方晶)は、100/100以上であることが好ましく、100/50以上であることがより好ましく、100/33以上であることがさらに好ましい。
【0029】
可視光応答型光触媒の全表面積のうち、窒化炭素が占める割合は55~95%が好ましく、バナジン酸ビスマスが占める割合は5~45%が好ましい。窒化炭素が占める割合が55%未満の場合、および95%を超える場合、ともに光触媒粒子間電子移動型の効果が得られない傾向がある。表面積の割合はSEM画像に基づく画像解析から求めることができる。
【0030】
可視光応答型光触媒の平均粒子径は1~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。1μm未満では可視光や紫外線が照射される面積が小さくなり、触媒が活性化されにくくなる傾向があり、20μmを超えるとバナジン酸ビスマスの粒子径も大きくなり、表面積が大きくなる結果、可視光応答型光触媒の活性が低下する傾向がある。平均粒子径はSEM画像に基づく画像解析から求めることができる。
【0031】
前述のように、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスが複合化されている場合、複合体中の、バナジン酸ビスマスからなる部分の平均粒子径に対する、窒化炭素からなる部分の平均粒子径が1を超えることが好ましく、2以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。バナジン酸ビスマスからなる部分の平均粒子径に対する、窒化炭素からなる部分の平均粒子径が1を超える場合、可視光応答型光触媒の活性を得やすい傾向がある。窒化炭素からなる部分の平均粒子径、およびバナジン酸ビスマスからなる部分の平均粒子径はSEM画像に基づく画像解析から求めることができる。
【0032】
可視光応答型光触媒の光触媒活性は、例えば、メチレンブルー溶液を使用した脱色試験により評価できる。0.5mMのメチレンブルー溶液と可視光応答型光触媒を混合後、可視光を1時間照射する。その後、遠心分離により可視光応答型光触媒を除去し、得られた溶液の波長662nmの光透過率を測定し、下記式により算出される回復率が、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
回復率[%]=(溶液の透過率/水の透過率)×100
【0033】
本発明の可視光応答型光触媒は、脱臭、除菌、防汚用途に好適に使用できる。その他、可視光を利用した被浄化系に適用でき、特に被浄化水系に存在する内分泌攪乱物質であるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等の分解に好適に使用できる。
【0034】
<<可視光応答型光触媒の製造方法>>
本発明の可視光応答型光触媒の製造方法は、窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを反応させる工程を含むことを特徴とする。窒化炭素とバナジン酸ビスマスとの反応方法は特に限定されないが、沈殿法または焼成法により行うことが好ましい。沈殿法、焼成法のいずれによっても、得られる可視光応答型光触媒は、可視光応答型光触媒について前述した、複合化態様、平均粒子径、光触媒活性を持つことが好ましい。
【0035】
<沈殿法>
沈殿法では、水中で、窒化炭素、ビスマス化合物、およびバナジウム化合物を反応させ、可視光応答型光触媒を含む沈殿物を生成する。
【0036】
沈殿を生成するための、水中の窒化炭素の濃度は60~90w/v%が好ましく、65~85w/v%がより好ましく、70~80w/v%がさらに好ましい。なお、窒化炭素は溶媒に溶解している必要はなく、分散状態であってもよい。
【0037】
ビスマス化合物としては、水に可溶な化合物であればよく、例えば硝酸ビスマス、またはその水和物が挙げられ、硝酸ビスマス5水和物が好ましい。また、バナジウム化合物としては、水に可溶な化合物であればよく、取り扱いやすく、安価で毒性も低い点から、メタバナジン酸アンモニウムが好ましい。
【0038】
ビスマス化合物、およびバナジウム化合物の使用量は、ビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比(バナジウム原子のモル数/ビスマス原子のモル数)が、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されないが、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。1未満では、正方晶系結晶が生成しやすくなる傾向がある。ビスマス化合物は、水100重量部に対しビスマス原子換算で0.001~5モル使用することが好ましい。
【0039】
窒化炭素、バナジウム化合物、およびビスマス化合物の混合方法は特に限定されない。これらの原料の固体が入った反応容器に水を加えてもよく、水が入った反応容器に原料の固体を加えてもよく、反応容器に、各原料を含む水溶液または分散液を加えてもよい。
【0040】
窒化炭素に対し、ビスマス化合物の使用量のモル比(ビスマス原子のモル数/窒化炭素のモル数)は0.04~8.8が好ましく、0.18~1.76がより好ましい。また、窒化炭素に対し、バナジウム化合物の使用量のモル比(バナジウム原子のモル数/窒化炭素のモル数)は0.13~26.4が好ましく、0.53~5.28がより好ましい。
【0041】
沈殿生成時には、反応系中に沈殿剤を存在させることが好ましい。沈殿剤としては特に限定されないが、尿素、ミョウバン、石灰乳等を挙げることができる。中でも、取扱いが容易で安価である点から、尿素が好ましい。沈殿剤の量は、窒化炭素1モルに対し、0.001~1モルが好ましい。
【0042】
沈殿の生成は、水中で窒化炭素、バナジウム化合物、およびビスマス化合物を高温で混合し、その後、冷却することにより行うことが好ましい。混合温度は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。また、100℃以下が好ましく、98℃以下がより好ましく、95℃以下がさらに好ましい。60℃未満であると、尿素の加水分解が行われない傾向がある。また、100℃を超えると、水が蒸発するおそれがある。
【0043】
混合時間は特に限定されないが、2~12時間が好ましく、2~10時間がより好ましく、2~6時間がさらに好ましく、2~3時間がさらにより好ましい。
【0044】
混合時の水のpHは5~9が好ましく、6~8がより好ましい。混合時には、反応液を攪拌してもよい。攪拌速度は100~800rpmが好ましく、300~600rpmがより好ましい。
【0045】
窒化炭素、バナジウム化合物、およびビスマス化合物を高温で混合した後、10~50℃まで冷却することが好ましい。冷却時間は1~24時間が好ましく、10~18時間がより好ましい。
【0046】
沈殿物は、ろ過、遠心分離などにより回収できる。回収した沈殿物は、必要に応じて水、エタノール、メタノール、アセトンなどの洗浄液により洗浄してもよい。
【0047】
<焼成法>
焼成法は、窒化炭素とバナジン酸ビスマスの固相同士を混合後、高温で原子を拡散、反応させることによって可視光応答型光触媒を生成する方法である。窒化炭素とバナジン酸ビスマスの混合方法は特に限定されず、乳鉢、粉砕機、ビーズミルなどで混合することができる。
【0048】
窒化炭素とバナジン酸ビスマスを混合する際の、窒化炭素に対するバナジン酸ビスマスのモル比(バナジン酸ビスマス/窒化炭素)は、0.2~5が好ましく、0.3~3が好ましく、0.5~2が好ましく、0.75~1.5がより好ましい。
【0049】
焼成温度は500~940℃が好ましく、760~900℃がより好ましく、760~850℃がさらに好ましく、800~850℃が特に好ましい。500℃未満では窒化炭素とバナジン酸ビスマスが付着しない傾向があり、940℃を超えると窒化炭素が変質する傾向がある。
【0050】
焼成時間は0.5~24時間が好ましく、1~20時間がより好ましい。0.5時間未満では、材料の混合が不十分となることがあり、24時間を超えると、材料が揮発してしまうことがある。
【0051】
室温から焼成温度までの昇温速度は特に限定されないが、13~40℃/分が好ましく、16~27℃/分がより好ましい。昇温速度が速すぎると、固相反応の温度に到達するための時間が短く、原料の揮発が生じたり、収率が低下したりする傾向がある。
【0052】
焼成法で得られた可視光応答型光触媒は、必要に応じて水、エタノール、メタノール、アセトンなどの洗浄液により洗浄してもよい。また、必要に応じて乳鉢、粉砕機、ビーズミルなどでさらに粉砕してもよい。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0054】
(1)固相合成法
(1-1)固相合成法による可視光応答型光触媒の製造
特許文献1に記載の方法によりBiVO粉末を作製した。また、メラミンCを、電気炉で650℃で3時間焼成したのち、乳鉢で粉砕することによりg-C粉末を作製した。
【0055】
g-C粉末とBiVO粉末を、g-C:BiVO=1:1のモル比で、乳鉢で混合し、電気炉で、650℃、750℃、850℃、950℃、1050℃の温度で3時間焼成した。焼成後の試料を取り出し、乳鉢で粉砕して可視光応答型光触媒を得た。
【0056】
(1-2)X線回折
各温度で焼成して得られた可視光応答型光触媒について、XRD測定装置(株式会社リガク製RINT2500V)でX線回折を測定した。測定結果を図1Aに示す。また比較対照としてBiVO粉末とg-C粉末のXRD測定結果も同様に図1Aに示す。g-CとBiVOの焼成物ではg-Cのピークは見られなかった。28~32°の拡大図を図1Bに示す。図1Bにおいて、g-C粉末とBiVO粉末の焼成物は、焼成温度が上昇するにつれてBiVOの(040)のピークが上昇する傾向がみられた。
【0057】
(1-3)光触媒効果の評価
各温度で焼成して得られた可視光応答型光触媒0.1gと、メチレンブルー3mL(0.5mM)を有する水溶液をプラスチック容器に入れ、撹拌しながら太陽光シミュレーター装置(XES-301S+EL-100、株式会社三永電機製作所製)を用いて可視光(波長100~1400nm)を1時間照射した。照射後、溶液を、13000rpmの回転速度で30分間遠心分離した。得られた溶液を石英セルに入れ、分光光度計(大塚電子株式会社製)を用い透過率を測定した。図2に、波長に対して透過率をプロットした図を示す。図3に、透過率測定時の石英セルの外観写真を示す。
【0058】
BiVO粉末とg-C粉末の焼成物は光触媒効果を示した。850℃での焼成物は、光触媒効果が最も高く、g-Cを単独で使用した場合、およびBiVOを単独で使用した場合を超える光触媒効果を示した。
【0059】
(1-4)SEM解析
850℃で焼成して得られた可視光応答型光触媒、BiVO粉末、g-C粉末をそれぞれSEMで解析した。SEM解析画像を図4に示す。図4(f)では、g-Cの表面に凹凸が観察された。図4(d)では、g-Cの表面の凹凸にBiVOが入り込み複合化されている様子が観察された。
【0060】
図4(a)および(d)の可視光応答型光触媒の平均粒子径は10μmであった。SEM画像から求められる、複合体化粒子中の、バナジン酸ビスマスからなる部分の平均粒子径に対する、窒化炭素からなる部分の平均粒子径の比は20であった。
【0061】
(2)沈殿法-1
(2-1)沈殿法による可視光応答型光触媒の製造
g-C、Bi(NO・5HO、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、g-C:Bi(NO・5HO:NHVO=x:1:3(x=1,2,3,4,5)のモル比となるように混合した(混合物の合計重量は1g)。さらに超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、450rpmで2時間、90℃で加熱撹拌した。生成した沈殿物を回収し、洗浄、乾燥して粉末を得た。
【0062】
(2-2)X線回折
得られた粉末のXRD測定結果を図5に示す。BiVOの(121)、(040)のピーク、およびg-Cの(002)のピークが観測できた。
【0063】
(2-3)光触媒効果の評価
上記(1-3)と同じ条件で、得られた粉末の光触媒効果を測定した。その結果を図6に示す。モル比がg-C:Bi(NO・5HO:NHVO=1:1:3のときに光触媒効果が最も高く、g-Cを単独で使用した場合、およびBiVOを単独で使用した場合を超える光触媒効果を示した。
【0064】
また、可視光(波長100~1400nm)の照射時間を1時間、3時間、5時間とした場合の光触媒効果を図7に示す。照射時間が長いほど、透過率が改善された。
【0065】
(2-4)SEM解析
g-C:Bi(NO・5HO:NHVO=1:1:3のモル比で得られた粉末の、SEM解析画像を図8Aに示す。また、各元素ごとのEDSマッピング結果を図8Bに示す。図8A~Bのいずれにおいても、大きなg-Cの周りに小さなBiVO粒子が付着しており、g-CとBiVOが複合化されている様子が観察された。粉末の平均粒子径は20μmであった。SEM画像から求められる、複合体化粒子中の、バナジン酸ビスマスからなる部分の平均粒子径に対する、窒化炭素からなる部分の平均粒子径の比は2~400であった。
【0066】
(3)沈殿法-2
(3-1)沈殿法による可視光応答型光触媒の製造
g-C、Bi(NO・5HO、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、g-C:Bi(NO・5HO:NHVO=1:1:3のモル比となるように混合した(混合物の合計重量は1g)。さらに超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、450rpmで2時間、6時間、または12時間、90℃で加熱撹拌した。生成した沈殿物を回収し、洗浄、乾燥して粉末を得た。
【0067】
(3-2)光触媒効果の評価
上記(1-3)と同じ条件で、得られた粉末の光触媒効果を測定した。その結果を図9に示す。2時間の加熱撹拌で得られた可視光応答型光触媒が、最も高い光触媒効果を示した。
【0068】
(4)沈殿法-3
(4-1)窒化炭素の合成、および沈殿法による可視光応答型光触媒の製造
メラミン(C(NH)を下記の条件で焼成することにより炭化窒素g-Cを得た。
(条件A)650℃6時間焼成
(条件B)650℃6時間焼成した後、室温まで冷却し、650℃6時間焼成
(条件C)(C)の後、再度室温まで冷却し、650℃6時間焼成
得られた炭化窒素g-C、Bi(NO・5HO、およびメタバナジン酸アンモニウムNHVOを、g-C:Bi(NO・5HO:NHVO=1:1:3のモル比となるように混合した(混合物の合計重量は1g)。さらに超純水(150ml)と尿素(10g)を加え、450rpmで2時間、90℃で加熱撹拌した。生成した沈殿物を回収し、洗浄、乾燥して粉末を得た。
【0069】
(4-2)光触媒効果の評価
上記(1-3)と同じ条件で、得られた粉末の光触媒効果を測定した。その結果を図10に示す。条件A~Cで得られたどの窒化炭素を用いた場合でも光触媒効果が確認されたが、光触媒効果は、焼成回数が最も多い条件Cで得られた窒化炭素を使用したときに最も高く、次いで条件Bで得られた窒化炭素を使用したときに高かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、窒化炭素を含み、優れた光触媒効果を有する可視光応答型光触媒を提供する。この可視光応答型光触媒により環境汚染物質を浄化でき、例えば、被浄化水系に含まれるノニルフェノール、ビスフェノールA、天然エストロゲン等の内分泌攪乱物質を可視光により分解できる。
【0071】
本開示(1)は窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを含む可視光応答型光触媒である。
【0072】
本開示(2)は窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスが複合化されている、本開示(1)に記載の可視光応答型光触媒である。
【0073】
本開示(3)は窒化炭素の表面にバナジン酸ビスマスが付着している、本開示(1)または(2)に記載の可視光応答型光触媒である。
【0074】
本開示(4)はバナジン酸ビスマスの平均粒子径に対する窒化炭素の平均粒子径の比が1を超える、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の可視光応答型光触媒である。
【0075】
本開示(5)は窒化炭素、およびバナジン酸ビスマスを反応させる工程を含む、可視光応答型光触媒の製造方法である。
【0076】
本開示(6)は水中で、窒化炭素、ビスマス化合物、およびバナジウム化合物を反応させる、本開示(5)に記載の製造方法である。
【0077】
本開示(7)はビスマス化合物と、ビスマス化合物のビスマス原子に対するバナジウム原子のモル比が1を超える量のバナジウム化合物を反応させる、本開示(6)に記載の製造方法である。
【0078】
本開示(8)はビスマス化合物が硝酸ビスマスである本開示(6)または(7)に記載の製造方法である。
【0079】
本開示(9)はバナジウム化合物がメタバナジン酸アンモニウムである本開示(6)~(8)のいずれかに記載の製造方法である。
【0080】
本開示(10)は反応を尿素の存在下で行う本開示(6)~(8)のいずれかに記載の製造方法である。
【0081】
本開示(11)は反応時間が12時間以下である本開示(6)~(8)のいずれかに記載の製造方法である。
【0082】
本開示(12)は窒化炭素とバナジン酸ビスマスとの反応を500~940℃での焼成により行う、本開示(5)に記載の製造方法である。


図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10