(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064001
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/00 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H02M3/00 H
H02M3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172254
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000103208
【氏名又は名称】コーセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】川高 伸人
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730EE52
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD31
5H730FF06
5H730FG05
5H730FV08
5H730XX03
5H730XX12
5H730XX23
5H730XX32
5H730XX43
(57)【要約】
【課題】出力電圧を広範囲に外部可変することができ、出力電圧の設定が変更された時でも常に適切な大きさのダミー電流が流れるスイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】一対の出力端子18の間に接続されてダミー電流Idが流れ込む回路であって、ダミー電流Idが流れ込むことによってダミー電力Pd(=Vo・Id)を発生させるダミー回路22を備える。ダミー回路22は、制御電圧Vsに対応したダミー電流Idを発生させる電圧制御電流源部24と、制御電圧Vsの値を決定する演算部26と、演算部26が決定した値の制御電圧Vsを生成し、電圧制御電流源部24に向けて出力する制御電圧生成部28とで構成される。演算部26には、所定の定数である電力閾値Pth(>0)が設定されており、演算部26は、出力電圧Voの設定値Vor及び出力電流Ioの情報を取得し、Vor・(Id+Io)≧Pthの条件を満たすように制御電圧Vsの値を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧を所定の出力電圧Voに変換し、一対の出力端子から前記出力電圧Vo及び出力電流Ioを出力し、負荷に出力電力Po(=Vo・Io)を供給するスイッチング方式の電力変換回路と、前記一対の出力端子の間に接続されてダミー電流Idが流れ込む回路であって、前記ダミー電流Idが流れ込むことによってダミー電力Pd(=Vo・Id)を発生させるダミー回路とを備え、
前記電力変換回路は、前記出力電圧Voの設定値Vorを外部可変する機能を有しており、
前記ダミー回路は、直流の制御電圧Vsが入力され、前記制御電圧Vsに対応した前記ダミー電流Idを発生させる電圧制御電流源部と、デジタル演算処理を行って前記制御電圧Vsの値を決定する演算部と、前記演算部が決定した値の前記制御電圧Vsを生成し、前記電圧制御電流源部に向けて出力する制御電圧生成部とで構成され、
前記演算部には、所定の定数である電力閾値Pth(>0)が設定されており、前記演算部は、前記設定値Vor及び前記出力電流Ioの情報を取得し、Vor・(Id+Io)≧Pthの条件を満たすように前記制御電圧Vsの値を決定することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記演算部には、ダミー電力下限値Pdmin(Pth>Pdmin>0)が設定されており、前記演算部は、前記設定値Vor及び前記出力電流Ioの情報を取得し、Vor・(Id+Io)≧Pth及びVor・Id≧Pdminの条件を満たすように前記制御電圧Vsの値を決定する請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
ダミー電力下限値Pdminは、前記出力電流Ioを変数に含む数式によって、前記出力電流Ioが大きい時ほど小さくなるように規定されている請求項2記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
ダミー電力下限値Pdminは、前記出力電流Ioを変数に含まない数式によって規定されている請求項2記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記電力変換回路は、前記出力電圧Voが過電圧閾値Vovpを超えると電力変換動作を停止する過電圧保護機能を有し、
前記演算部には、所定の定数である電圧閾値Vth(>0)が設定されており、前記ダミー電力下限値Pdminを規定する前記数式は、前記設定値VorがVovp-Vth<Vor<Vovpの条件を満たす範囲では、前記設定値Vorを変数に含み、Pdmin<Pthの条件が撤廃されて、前記設定値Vorが高い時ほど前記ダミー電力下限値Pdminが大きくなるように規定されている請求項3又は4記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記制御電圧生成部は、前記演算部が決定した前記制御電圧Vsの値の情報に基づいてデューティが設定される矩形波電圧を出力するパルス幅変調部と、前記矩形波電圧を平滑して前記制御電圧Vsを発生させるローパスフィルタとで構成されている請求項1又は2記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力電圧が発生する出力端に、ダミー電力を消費するダミー回路を備えたスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング方式の電力変換回路は、出力する電流が一定以下に小さくなると適切に動作することが難しくなる。例えば、電力変換回路が出力する電流がゼロアンペアに近くなると、スイッチング素子がオンオフした時に両端電圧が高速に変化することができず、狙いのゼロボルトスイッチング動作ができなくなったり、スイッチング周期の数倍の周期でパルス抜けが発生して出力リップルが大きくなったりする[軽負荷時の不安定動作の問題]。
【0003】
また、外部接続された負荷の状態が変化して、電力変換回路が出力する電流が急激にゼロアンペア近くまで小さくなった時、電力変換回路の出力電圧Voが大きく上昇し、且つ出力端に接続されている出力コンデンサが放電されないので、出力電圧Voが高い値に保持され、元の設定値Vorに戻るのに長い時間が掛かってしまう[動的負荷変動の問題]。
【0004】
これらの問題を回避するため、従来から、出力電圧Voが発生する出力端にダミー抵抗(固定抵抗)を接続することが行われている。ここで、負荷に流れる電流を出力電流Io、ダミー抵抗に流れる電流をダミー電流Idとすると、ダミー抵抗を接続することによって、電力変換回路が出力する電流がIo+Idとなり、出力電流Ioがゼロになった時でもダミー電流Idが流れるので、上記の2つの問題を発生しにくくすることができる。
【0005】
その他、特許文献1には、基準となる1つの出力電圧を安定化制御する多出力スイッチング電源であって、基準の出力の出力電流Io(負荷電流)とダミー電流Id(電流可変型ダミー抵抗回路の電流)との和が一定の値になるように制御する多出力スイッチング電源が開示されている。このようにダミー電流Idを制御するのは、基準となる出力以外の出力の出力電圧の変動を低減し安定化することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
出力電圧Voを広範囲に外部可変できるスイッチング電源装置があるが、出力端にダミー抵抗(固定抵抗)を接続した場合、出力電圧Voが低電圧に設定された時に適量のダミー電流Idが流れる設計にすると、出力電圧Voが高電圧に設定された時のダミー電流Idが必要以上に大きくなり、ダミー抵抗に無駄に大きな損失が発生してしまう。反対に、出力電圧Voが高電圧に設定された時に適量のダミー電流Idが流れる設計にすると、出力電圧Voが低電圧に設定された時のダミー電流Idが不足し、軽負荷時の不安定動作の問題や動的負荷変動の問題を回避できなくなる。これは、特許文献1の多出力スイッチング電源においても同様である。
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、出力電圧を広範囲に外部可変することができ、出力電圧の設定が変更された時でも常に適切な大きさのダミー電流が流れるスイッチング電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、入力電圧を所定の出力電圧Voに変換し、一対の出力端子から前記出力電圧Vo及び出力電流Ioを出力し、負荷に出力電力Po(=Vo・Io)を供給するスイッチング方式の電力変換回路と、前記一対の出力端子の間に接続されてダミー電流Idが流れ込む回路であって、前記ダミー電流Idが流れ込むことによってダミー電力Pd(=Vo・Id)を発生させるダミー回路とを備え、
前記電力変換回路は、前記出力電圧Voの設定値Vorを外部可変する機能を有しており、
前記ダミー回路は、直流の制御電圧Vsが入力され、前記制御電圧Vsに対応した前記ダミー電流Idを発生させる電圧制御電流源部と、デジタル演算処理を行って前記制御電圧Vsの値を決定する演算部と、前記演算部が決定した値の前記制御電圧Vsを生成し、前記電圧制御電流源部に向けて出力する制御電圧生成部とで構成され、
前記演算部には、所定の定数である電力閾値Pth(>0)が設定されており、前記演算部は、前記設定値Vor及び前記出力電流Ioの情報を取得し、Vor・(Id+Io)≧Pthの条件を満たすように前記制御電圧Vsの値を決定するスイッチング電源装置である。
【0010】
前記演算部には、ダミー電力下限値Pdmin(Pth>Pdmin>0)が設定されており、前記演算部は、前記設定値Vor及び前記出力電流Ioの情報を取得し、Vor・(Id+Io)≧Pth及びVor・Id≧Pdminの条件を満たすように前記制御電圧Vsの値を決定する。この場合、ダミー電力下限値Pdminは、前記出力電流Ioを変数に含む数式によって、前記出力電流Ioが大きい時ほど小さくなるように規定されている構成にすることができる。あるいは、ダミー電力下限値Pdminは、前記出力電流Ioを変数に含まない数式によって規定されている構成にすることができる。
【0011】
さらに、前記電力変換回路は、前記出力電圧Voが過電圧閾値Vovpを超えると電力変換動作を停止する過電圧保護機能を有し、前記演算部には、所定の定数である電圧閾値Vth(>0)が設定されており、前記ダミー電力下限値Pdminを規定する前記数式は、前記設定値VorがVovp-Vth<Vor<Vovpの条件を満たす範囲では、前記設定値Vorを変数に含み、Pdmin<Pthの条件が撤廃されて、前記設定値Vorが高い時ほど前記ダミー電力下限値Pdminが大きくなるように規定されている構成にすることができる。
【0012】
また、前記制御電圧生成部は、前記演算部が決定した前記制御電圧Vsの値の情報に基づいてデューティが設定される矩形波電圧を出力するパルス幅変調部と、前記矩形波電圧を平滑して前記制御電圧Vsを発生させるローパスフィルタとで構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスイッチング電源装置は、出力電圧Voを広範囲に外部可変することができ、出力電圧Voの設定が変更された時でも、ダミー電流Idが常に適切な大きさに設定される。さらに、負荷に流れる出力電流Ioが変化した時も、ダミー電流Idが常に適切な値に変化する。したがって、電力変換回路における軽負荷時の不安定動作の問題や動的負荷変動の問題が発生するのを回避しつつ、ダミー電流Idを小さくして無駄な損失が発生するのを効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態を示す回路図である。
【
図2】
図1の演算部のインプット及びアウトプットを示すブロック図(a)、この演算部の動作の概要を示すグラフ(b)である。
【
図3】
図1の制御電圧生成部の具体的な構成の一例を示すブロック図(a)、他の例を示すブロック図(b)である。
【
図4】
図1の電圧制御電流源の具体的な構成の一例を示す回路図(a)、入力と出力との関係を示すグラフ(b)である。
【
図5】第一の実施形態のスイッチング電源装置の、出力電流に対するダミー電流及び総電流の変化の具体的な数値例を示すグラフであって、出力電圧が5Vに設定された時のグラフ(a)、出力電圧が10Vに設定された時のグラフ(b)である。
【
図6】
図1の演算部の一変形例のインプット及びアウトプットを示すブロック図(a)、この演算部の動作の概要を示すグラフ(b)である。
【
図7】本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態を示す回路図である。
【
図8】
図7の演算部のインプット及びアウトプットを示すブロック図(a)、この演算部の動作の概要を示すグラフ(b)である。
【
図9】第二の実施形態のスイッチング電源装置の、出力電流に対するダミー電流及び総電流の変化の具体的な数値例を示すグラフであって、出力電圧が10Vに設定された時のグラフ(a)、出力電圧が12Vに設定された時のグラフ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第一の実施形態のスイッチング電源装置10>
以下、本発明のスイッチング電源装置の第一の実施形態について、
図1~
図5に基づいて説明する。この実施形態のスイッチング電源装置10は、
図1に示すように、入力電圧Viを所定の出力電圧Voに変換するスイッチング方式の電力変換回路12を備えている。電力変換回路12は、一対の入力端子14に入力電源16が接続され、一対の出力端子18に負荷20が接続され、出力端子18を通じて出力電圧Vo及び出力電流Ioを出力し、負荷20に出力電力Po(=Vo・Io)を供給する。
【0016】
また、電力変換回路12は、出力電圧Voを外部可変する機能を備えている。具体的には、外部から出力電圧Voの設定値Vorを規定する設定値指令S(Vor)が入力され、設定値指令S(Vor)から認識される設定値Vorに出力電圧Voが近づくように、スイッチング動作が制御される。なお、設定値指令S(Vor)の入力方法は特に限定されず、例えば、外部機器からデジタル信号として入力される構成でもよいし、電力変換回路12に設けた専用の可変端子にボリューム等を接続し、設定値Vorを手動で可変調節する構成でもよい。
【0017】
一対の出力端子18の間には、ダミー電流Idが流れ込むことによってダミー電力Pd(=Vo・Id)を発生させるダミー回路22が接続されている。ダミー回路22は、直流の制御電圧Vsが入力され、制御電圧Vsに対応したダミー電流Idを発生させる電圧制御電流源部24と、デジタル演算処理を行って制御電圧Vsの値を決定する演算部26と、演算部26が決定した値の制御電圧Vsを生成し、電圧制御電流源部24に向けて出力する制御電圧生成部28とで構成される。
【0018】
演算部26には、所定の定数である電力閾値Pth(>0)と、ダミー電力下限値Pdmin(Pth>Pdmin>0)とが設定されている。この演算部26の場合、ダミー電力下限値Pdminは、出力電流Ioを変数に含む数式によって、出力電流Ioが大きい時ほどPdminが小さくなるように設定されている。
【0019】
そして、演算部26は、
図2(a)に示すように、設定値情報J(Vor)と出力電流情報J(Io)とを取得し、次の式[1]、[2]の両方の条件を満たすように制御電圧Vsの値を決定し、デジタル信号である制御電圧指令S(Vs)を出力する。
Vor・(Id+Io)≧Pth [1]
Vor・Id≧Pdmin [2]
【0020】
なお、設定値情報J(Vor)は、設定値指令S(Vor)から認識される設定値Vorの情報であり、出力電流情報J(Io)は、出力電流Ioの検出値の情報である。ただし、設定値情報J(Vor)は、その他の情報、すなわち、設定値指令S(Vor)から認識される設定値Vorの情報以外の情報を使用してもよい。その他の情報については、後述する<その他の実施形態、変形例等>の項で説明する。
【0021】
制御電圧生成部28は、デジタル信号である制御電圧指令S(Vs)に対応したアナログの制御電圧Vsを生成するブロックで、
図3(a)に示すように、演算部26が出力した制御電圧指令S(Vs)に基づいてデューティDが設定される矩形波電圧Vp(波高値V1)を出力するパルス幅変調部28aと、矩形波電圧Vpを平滑して制御電圧Vs≒V1・Dを発生させるローパスフィルタ28bとで構成される。
【0022】
電圧制御電流源部24は、例えば
図4(a)に示すように、トランジスタ、オペアンプ及び抵抗を組み合わせた定電流回路を使用することができる。この回路の場合、
図4(b)に示すように、制御電圧Vsが高くなるほどダミー電流Idが大きくなる。
【0023】
次に、上記の式[1]及び[2]の意味と、スイッチング電源装置10の動作(ダミー回路22の動作)を詳しく説明する。ここで、電力変換回路12が出力する電流(出力電流Ioとダミー電流Idの和)を総電流Iallと称し、電力変換回路12が出力する電力(出力電力Poとダミー電力Pdの和)を総電力Pallと称する。
【0024】
発明者は、スイッチング方式の電力変換回路において、軽負荷時の不安定動作の問題を回避できる総電力Pallの下限値を電力閾値Pthとした時、電力閾値Pthは出力電圧Voが変更されてもほぼ一定であることに着目し、次の式[3]を満たすようにダミー電力Pdを調節するこことを考えた。
【0025】
Pall=Pd+Po=Vo・(Id+Io)≧Pth [3]
式(3)を満たすようにダミー電力Pdを設定すれば、出力電力Poがゼロになったとしても、総電力Pallを電力閾値Pth以上の値にすることができる。また、出力電力Poがゼロから増加すると、その分だけダミー電力Pdを減少させて無駄な損失を低減することができる。また、多くの場合、式[3]を満たせば、動的負荷変動の問題も回避できるので、PoがPthを超える値まで増加すると、ダミー電力Pdはゼロにすることができる。
【0026】
ただし、ダミー電力Pdをゼロにすると、上記の2つの問題とは別の問題が発生する可能性があるので、式[4]に示すように、ダミー電力下限値Pdmin(<Pth)を設定し、ある程度のダミー電力Pdを発生させておくことが好ましい。
Pd=Vo・Id≧Pdmin [4]
【0027】
電力変換回路12は、出力電圧Voと設定値Vorとが等しくなるように動作するので、実質的にはVo=Vorとなる。したがって、式[3]及び[4]の中のVoをVorに置き換えることによって、上記の式[1]及び[2]を得ることができる。
【0028】
ダミー回路22は、式[1]、式[2]、設定値情報J(Vor)及び出力電流情報J(Io)を基に、ダミー電流Idの値を自動的に調節する。
図5(a)、(b)は、ダミー回路22の動作を分かりやすく示すための数値例である。
図5(a)は、電力閾値Pth=1Wで、設定値Vor=5V(出力電圧Vo=5V)とした時のグラフで、横軸が出力電流Ioで、縦軸が各部の電流である。出力電流Io=ゼロの時、ダミー電流Idは、電力閾値Pthに相当する0.2A(=1W/5V)となり、出力電流Ioが増加すると、ダミー電流Idが徐々に低下してゼロに近づき、ダミー電力下限値Pdminに相当するライン(Pdmin/5Vのライン)に沿って緩やかに小さくなる。
【0029】
図5(b)は、電力閾値Pth=1Wで、設定値Vor=10V(出力電圧Vo=10V)とした時のグラフであり、出力電流Io=ゼロの時、ダミー電流Idは、電力閾値Pthに相当する0.1A(=1W/10V)となり、出力電流Ioが増加すると、ダミー電流Idが徐々に低下してゼロに近づき、ダミー電力下限値Pdminのライン(Pdmin/10V)のラインに沿って緩やかに小さくなる。
【0030】
このように、出力電圧Voが高い時はダミー電流Idが相対的に小さくなり、出力電圧Voが低い時はダミー電流Idが相対的に大きくなり、出力電圧Voの設定が変更されても、ダミー電力Pdはほぼ一定に保持されることになる。
【0031】
以上説明したように、スイッチング電源装置10は、出力電圧Voを広範囲に外部可変することができ、出力電圧Voの設定が変更された時でも、ダミー電流Idが常に適切な大きさに設定される。さらに、出力電流Ioが変化した時も、ダミー電流Idが常に適切な値に変化する。したがって、電力変換回路12における軽負荷時の不安定動作の問題や動的負荷変動の問題が発生するのを回避しつつ、ダミー電流Idを小さくして過剰なダミー損失Pdが発生するのを効果的に抑えることができる。
【0032】
また、ダミー回路22の演算部26の動作はプログラムを書き換えることによって自由に設定することができるので、例えば、通常時は「ダミー電流を調節する」という動作モードに設定しておき、特定の状況になった時に別の動作モードに切り替えるという使い方ができる。したがって、このダミー回路22を設けることによって、特定の状況になった時に別目的のダミー電流制御を行うことができ、インテリジェンス性の高い高度な制御を行うことが可能になる。
【0033】
<第一のスイッチング電源装置10の変形例>
第一のスイッチング電源装置10の制御電圧生成部28及び演算部26の変形例について、
図3(b)及び
図6に基づいて説明する。
【0034】
上記の制御電圧生成部28(
図3(a))は、デジタルプロセッサ内に独特なパルス幅変調部28aを設け、これにローパスフィルタ28bを組み合わせた構成なので、安価な汎用デジタルプロセッサを使用しても高い分解能で制御電圧Vsを生成できるという利点がある。しかし、
図3(b)に示すように、1つのD/Aコンバータで成る制御電圧生成部28xに置き換えてもよく、これによって部品点数を削減することができる。ただし、制御電圧生成部28xを使用する場合、制御電圧Vsの分解能を高くするためには、比較的高価な高速デジタルプロセッサが必要になる点に留意する。
【0035】
また、上記の演算部26(
図2(a)、(b))には、ダミー電力下限値Pdmin(Pth>Pdmin>0)が設定され、ダミー電力Pdminは、出力電流Ioを変数に含む数式によって、出力電流Ioが大きい時ほど小さくなるように規定されている。しかし、ダミー電力下限値Pdmin(Pth>Pdmin>0)は、出力電流Ioを変数に含まない数式によって規定してもよい。例えば、
図6(a)、(b)に示す変形例の演算部26xでは、ダミー電力下限値Pdminが所定の定数として規定されている。この場合、出力電流Ioが大きい時に無駄なダミー電力Pdが少し増加することになるが、演算部26xの処理負担を軽減することができるという利点がある。その他、条件が合えば、出力電流Ioの大きさに関係なく、ダミー電力下限値Pdmin=ゼロにしてもよい。
【0036】
<第二の実施形態のスイッチング電源装置30>
次に、本発明のスイッチング電源装置の第二の実施形態について、
図7~
図9に基づいて説明する。ここで、上記実施形態を同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
この実施形態のスイッチング電源装置30は、
図7に示すようにスイッチング電源装置10と異なるのは、電力変換回路12が電力変換回路32に置き換えられ、ダミー回路22の演算部26(演算部26x)が演算部34に置き換えられている点である。
【0038】
電力変換回路32は、上記のスイッチング電源装置12と同様の動作を行うものであり、さらに、出力電圧Voが過電圧閾値Vovpを超えると電力変換動作を停止する過電圧保護機能を備えているという特徴がある。また、演算部34は、基本的には上記の演算部26xと同様の動作を行うものであり、さらに、所定の定数である電圧閾値Vth(>0)が設定され、ダミー電力下限値Pdminを規定する数式が、設定値Vorを変数に含んでいるという特徴がある。
【0039】
ここで、過電圧保護機能を備えたスイッチング電源装置で発生しやすい「過電圧保護機能の誤作動」について説明する。
【0040】
設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時は、背景技術の項で説明した動的負荷変動の問題が顕著になる。設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近いと、出力電圧Voが少し上昇しただけで過電圧閾値Vovpを超えてしまうので、正常な電力変換動作であるにもかかわらず過電圧保護機能が作動し、電力変換回路12が停止してしまう可能性があるからである。したがって、設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時は、動的負荷変動による過電圧保護機能の誤差動を防止することが大きな課題となる。
【0041】
そこで、スイッチング電源装置30では、独特な演算部34を設け、設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時にダミー電力Pdを特別に大きくすることによって、過電圧保護機能が誤差動する不具合を回避している。
【0042】
演算部34について詳しく説明すると、演算部34の数式は、設定値VorがVor≦Vovp-Vthの条件を満たす範囲では(設定値Vorが過電圧閾値Vovpよりも十分低い時は)、ダミー電力下限値Pdminは、
図8(b)に示すように、所定の定数(Pth>Pdmin>0)に規定されている。これは、上記の演算部26xと同様で、
図8(b)のグラフは、上記の演算部26xのグラフ(
図6(b))と同様のものである。
【0043】
また、演算部34の数式は、設定値VorがVovp-Vth<Vor<Vocpの条件を満たす範囲では(設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時は)、ダミー電力下限値Pdminに係るPdmin<Pthの条件が撤廃され、
図8(c)に示すように、設定値Vorが高い時ほどダミー電力下限値Pdminが大きくなるように規定されている。これは、上記の演算部26xに追加された独特な内容であり、設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時、ダミー電力Pdを特別に大きくすることを意味している。
【0044】
図9(a)、(b)は、ダミー回路34の動作を分かりやすく示すための数値例である。
図9(a)は、電力閾値Pth=1W、過電圧閾値Vovp=13V、電圧閾値Vth=2Vで、設定値Vor=10V(出力電圧Vo=10V)とした時のグラフである。ここでは、設定値Vor=10Vが過電圧閾値Vovp=13Vよりも十分低いと判断され、上記のダミー回路26xと同様の動作を行う。つまり、出力電流Io=ゼロの時、ダミー電流Idは、電力閾値Pthに相当する0.1A(=1W/10V)となり、出力電流Ioが増加すると、ダミー電流Idが徐々に低下し、ダミー電力下限値Pdminに相当するライン(Pdmin/10Vのライン)に沿って一定の値に保持される。
【0045】
図9(b)は、電力閾値Pth=1W、過電圧閾値Vovp=13V、電圧閾値Vth=2Vで、設定値Vor=12V(出力電圧Vo=12V)とした時のグラフである。ここでは、設定値Vor=12Vが過電圧閾値Vovp=13Vに近いと判断され、ダミー電力下限値Pdminが電力閾値Pthを超えて大きくなり、ダミー電流Idは、ダミー電力下限値Pdminに相当するライン(Pdmin/12Vのライン)に沿って一定の値に保持される。
【0046】
このように、設定値Vorが過電圧閾値Vovpに近い時にダミー電力Pdが特別に大きくなるので、動的負荷変動が発生した時の出力電圧Voの上昇幅を非常に小さくすることができ、過電圧閾値Vovpを少し超えたとしても、元の設定値Vorに戻るまでの時間が短縮されるので、過電圧保護の応答性を調節することにより、過電圧保護機能が誤差動するのを回避することができる。
【0047】
以上のように、スイッチング電源装置30によれば、上記のスイッチング電源装置10と同様の効果を得ることができ、さらに、過電圧保護機能の誤作動を容易且つ効果的に防止することができる。
【0048】
<その他の実施形態、変形例等>
なお、本発明のスイッチング電源装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の演算部26,26x,34の場合、取得する設定値情報J(Vor)を、設定値指令S(Vor)から認識される設定値Vorの情報としている。これにより、出力電圧Voの変更する旨の指令が出されてから実際に出力電圧Voが変化するまでに時間遅れが発生したとしても、ダミー電力Pdを素早く変化させることができるという利点がある。しかし、設定値情報J(Vor)は、設定値指令S(Vor)から認識される設定値Vorの情報以外の情報を使用してもよい。例えば、電力変換回路12,32が、出力電圧Voの目標値となる基準電圧と出力電圧Voとの差分を増幅する誤差増幅回路を有している場合、その基準電圧の値から認識される設定値Vorの情報を設定値情報J(Vor)とすることができる。また、条件が合えば、出力電圧Voの検出値の情報、又は出力電圧Voの検出値から認識される設定値Vorの情報を設定値情報J(Vor)としてもよい。
【0049】
電圧制御電流源部は、制御電圧生成部が生成した制御電圧Vsに対応したダミー電流Idを流すことができるものであればよく、
図4(a)に示す電圧制御電流源部24の構成に限定されない。また、電力変換回路は、スイッチングコンバータであればよく、インバータ回路の方式は特に限定されず、上述した作用効果を得ることができる。また、交流入力か直流入力か、入出力絶縁型か非絶縁型かも問わない。
【0050】
その他、
図5,
図9に示した具体的な数値例は、あくまでも動作説明を分かりやすくするために示したものであり、本発明がこれらの数値に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
10,30 スイッチング電源装置
12,32 電力変換回路
18 出力端子
20 負荷
22 ダミー回路
24 電圧制御電流源部
26,26x,34 演算部
28,28x 制御電圧生成部
28a パルス幅変調部
28b ローパスフィルタ
D デューティ
Iall 総電流
Id ダミー電流
Io 出力電流
J(Io) 出力電流情報
J(Vor) 設定値情報
Pd ダミー電力
Pdmin ダミー電力下限値
Po 出力電力
Pth 電力閾値
S(Vor) 設定値指令
S(Vs) 制御電圧指令
Vo 出力電圧
Vor 出力電圧の設定値
Vovp 過電圧閾値
Vp 矩形波電圧
Vs 制御電圧
Vth 電圧閾値