(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064012
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240507BHJP
E21C 25/00 20060101ALI20240507BHJP
E21D 9/10 20060101ALI20240507BHJP
E21B 1/38 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01C15/00 104D
E21C25/00
E21D9/10 H
E21B1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172279
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】上岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】江口 康則
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
【テーマコード(参考)】
2D054
2D065
2D129
【Fターム(参考)】
2D054BA24
2D054GA62
2D065AB23
2D065BA36
2D129AB05
2D129BA03
2D129BA11
2D129CA02
2D129CB11
2D129CB12
2D129DC13
2D129DC16
2D129HA01
(57)【要約】
【課題】建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削でき、アタリ部や余掘り部の発生を抑制できる、建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法を提供する。
【解決手段】掘削機17が装着されている作業装置16が、走行台車11における取り付け位置15に取り付けられている建設機械10において掘削位置17aを特定する、掘削位置特定システム100であり、作業装置16のロール角とピッチ角とヨー角を検出して作業装置16の方向角を特定する3軸慣性センサ21と、複数の視準ターゲット30と、建設機械10の移動に伴って移動する視準ターゲット30を自動追尾して基準点座標に基づいて視準ターゲット30の3次元座標を測定する1台の測量機40と、3軸慣性センサ21による検出データと測量機40による測量データとに基づいて掘削位置を特定する制御装置50とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に掘削機が装着されている作業装置が、走行台車における取り付け位置に旋回自在に取り付けられている、建設機械において、該掘削機の掘削位置を特定する、建設機械の掘削位置特定システムであって、
前記取り付け位置に設けられて、前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して、該作業装置の方向角を特定する、3軸慣性センサと、
前記建設機械に設置される複数の視準ターゲットと、
前記建設機械の移動に伴って移動する少なくとも1つの前記視準ターゲットを自動追尾して、3次元座標が既知の基準点座標に基づいて該視準ターゲットの3次元座標を測定する、1台の測量機と、
前記3軸慣性センサによる検出データと前記測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する、制御装置とを有することを特徴とする、建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項2】
前記3軸慣性センサは、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項3】
前記作業装置が複数の関節を備え、各関節には、少なくともピッチ角を測定する1軸以上の加速度センサが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項4】
前記制御装置は、第1制御と第2制御を実行し、
前記第1制御は、
前記建設機械が掘削施工している際に、前記測量機に対して1つの前記視準ターゲットを視準させる制御を実行してターゲット座標を取得し、該ターゲット座標に関する測量データと、前記3軸慣性センサによる検出データとに基づいて前記掘削機の掘削位置を特定する制御であり、
前記第2制御は、
前記建設機械が停止している際に、前記測量機に対して前記複数の視準ターゲットを順に視準させる制御を実行し、各視準ターゲットに固有の複数のターゲット座標を取得し、該複数のターゲット座標に関する測量データに基づいて前記建設機械および/または前記作業装置の新たな方向角を特定し、前記3軸慣性センサに対して該新たな方向角を与える制御であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項5】
前記複数の視準ターゲットは、前記測量機による視準の可不可を実行する、視準可不可手段を備えており、
前記制御装置は、
前記第1制御において、前記複数の視準ターゲットのうちの1つの該視準ターゲットのみを視準可とし、他の該視準ターゲットを視準不可とする制御をさらに実行し、
前記第2制御において、前記複数の視準ターゲットが1基ずつ順に視準されるように、1つの視準ターゲットのみを視準可とし、他の該視準ターゲットを視準不可とし、次に、視準可の該視準ターゲットを視準不可とし、視準不可の該視準ターゲットを視準可とするシーケンシャルな制御を実行することを特徴とする、請求項4に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項6】
前記制御装置には、前記3軸慣性センサが作動を開始して累積誤差が蓄積され、該累積誤差が誤差閾値となるまでの所要時間が記憶され、
前記建設機械のキャビンには、オペレータ端末が装備されており、
掘削施工中において、前記所要時間が経過する前に、前記制御装置から前記オペレータ端末に対して、前記建設機械を停止させて前記第2制御を実行する指令信号が送信されることを特徴とする、請求項5に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項7】
少なくとも前記オペレータ端末には表示部が設けられており、
前記表示部には、トンネルの設計掘削断面ラインが表示され、
前記掘削機の先端を掘削断面における実掘削断面ライン上の複数の掘削位置に接触させた際の三次元座標が前記表示部にプロットされることで、前記設計掘削断面ラインよりも過剰に掘削されている余掘り部と、前記設計掘削断面ラインに対して掘削が不十分なアタリ部とが特定されることを特徴とする、請求項6に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項8】
前記建設機械が、3Dスキャナを備え、
前記3Dスキャナにて取得された前記掘削断面までの距離データに基づいて、該掘削断面の複数箇所の3次元座標が特定されて前記実掘削断面ラインが作成され、前記表示部に表示されることを特徴とする、請求項7に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項9】
前記走行台車は、下部走行体と、該下部走行体に対して旋回自在に積層されている、上部旋回体とを有し、
前記上部旋回体に前記取り付け位置が設定され、前記作業装置が旋回自在に取り付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の建設機械の掘削位置特定システム。
【請求項10】
先端に掘削機が装着されている作業装置が、走行台車における取り付け位置に旋回自在に取り付けられている、建設機械において、該掘削機の掘削位置を特定する、建設機械の掘削位置特定方法であって、
前記建設機械の停止時において、該建設機械の備える複数の視準ターゲットを1台の測量機にて順に視準して該建設機械と前記作業装置の方向角の初期値を特定する、A工程と、
前記建設機械を作動させて掘削施工を行い、その際に、前記測量機にて1つの前記視準ターゲットを自動追尾し、かつ該建設機械における前記作業装置の取り付け位置に設けられて、前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出する3軸慣性センサにて、該作業装置の方向角を特定し、該3軸慣性センサによる検出データと該測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する、B工程とを有することを特徴とする、建設機械の掘削位置特定方法。
【請求項11】
前記3軸慣性センサが作動を開始して累積誤差が誤差閾値を超えるまでの所要時間を設定し、
掘削施工中において、前記所要時間が経過する前に前記建設機械を停止させ、前記測量機に前記複数の視準ターゲットを順に視準させ、各視準ターゲットに固有の複数のターゲット座標に基づいて前記建設機械および/または前記作業装置の新たな方向角を特定して、前記3軸慣性センサに対して該新たな方向角を与えた後、次の掘削施工を行うことを特徴とする、請求項10に記載の建設機械の掘削位置特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、発破後に建設機械を用いて岩盤を掘削する際に、トンネルの設計掘削断面ラインに対して岩盤がトンネルの中央側へ張り出す、所謂アタリ(アタリ部)や、掘り過ぎによる所謂余掘り(余掘り部)などの凹凸が生じ得る。
このような凹凸が生じた際には、設計掘削断面ラインに近づけるべく、アタリ部に対しては油圧ブレーカを用いて除去し、余掘り部に関しては掘削を速やかに止めて凹部の深度を最小限に留める措置が講じられる。
従来のアタリ部の除去方法は、作業員が切羽近傍で目視により確認を行い、レーザーポインター等で除去する箇所を建設機械のオペレータに指示する方法であることから、切羽崩落の際の作業員の巻き込まれの危険性がある。
また、アタリ部や余掘り部の状況確認は作業員と建設機械のオペレータによる経験や技量に頼るところが大きく、アタリ部の除去不足による追加作業の発生や、過大な余掘り部に伴うコンクリート吹付け量の増加に起因して、施工コストが増加するといった課題もある。
【0003】
以上のことから、作業員がレーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する方法に代わり、建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好であって、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することのできる、建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、掘削機の基準位置及び方向の設定装置と設定方法が提案されている。
この設定装置は、削岩機を搭載した建設機械と、建設機械をガイドマウンティングで支承するブームと、建設機械とブームの可動部分の作動量を検出するための検出器と、検出器からの検出データに基づいて建設機械の自動位置決め又は位置表示を行う制御装置とを備えた掘削機において、建設機械に設置された1個のプリズムと、建設機械の前後方向移動に伴って移動するプリズムを自動追尾し、検出器の検出データから演算された測定点のプリズム位置の演算データと、自動追尾式測量機による2測定点のプリズム位置の測定データとに基づいて、掘削の基準方向に対する掘削機の基準方向のずれと、切羽に対する掘削機の基準点の位置とを求め、掘削機の基準方向のずれと基準点の位置のデータを制御装置に設定する演算手段とを備えている。
掘削作業を行う際は、掘削機の台車を切羽付近に設置した後、建設機械を移動して、切羽上の点にビットの先端を第1測定点として接触させ、演算手段は第1測定点に対して、検出器の検出データからプリズム位置の演算データを求めるとともに、自動追尾式測量機は、建設機械の移動に伴って移動するプリズムを自動追尾してプリズム位置の第1測定データを測定する。次に、ビットの先端を切羽上の点から所定距離に離隔するように建設機械をその前後方向に第2測定点まで後退させ、自動追尾式測量機は、プリズム位置の第2測定データを測定するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の掘削機の基準位置及び方向の設定装置によれば、掘削機の基準方向のずれと切羽に対する掘削機の基準点の位置とを容易に求めることができ、基準点の位置と基準方向のずれに関するデータを制御装置に予め設定するための掘削機の準備作業の時間を短縮して、作業効率を向上できるとしている。
しかしながら、このように掘削機の準備作業に関する時間短縮を図ることができたとしても、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく特定し、施工性を良好にしながら、アタリ部や余掘り部の発生を抑制できるシステムや方法を提案するものではない。
【0007】
本発明は、建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好であって、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することのできる、建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの一態様は、
先端に掘削機が装着されている作業装置が、走行台車における取り付け位置に旋回自在に取り付けられている、建設機械において、該掘削機の掘削位置を特定する、建設機械の掘削位置特定システムであって、
前記取り付け位置に設けられて、前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して、該作業装置の方向角を特定する、3軸慣性センサと、
前記建設機械に設置される複数の視準ターゲットと、
前記建設機械の移動に伴って移動する少なくとも1つの前記視準ターゲットを自動追尾して、3次元座標が既知の基準点座標に基づいて該視準ターゲットの3次元座標を測定する、1台の測量機と、
前記3軸慣性センサによる検出データと前記測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する、制御装置とを有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、走行台車における作業装置の取り付け位置に、作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して当該作業装置の方向角を特定する、3軸慣性センサが設置され、建設機械に設置されている複数の視準ターゲット(例えば360度プリズム)のうちの少なくとも1つの視準ターゲットが、3次元座標が既知の1台の測量機にて自動追尾されることにより、3軸慣性センサの検出データと測量機の測量データにて建設機械の掘削位置を特定することが可能になり、建設機械のオペレータが自ら、掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削を行うことができる。このことにより、レーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する作業員を不要にして施工安全性を高めることができ、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することができる。
さらに、例えば建設機械の後方(坑口側)に設置されている測量機は無人にて自動追尾するものであることから、掘削施工は建設機械のオペレータのみでよいこととなり、作業員の削減を図ることも可能になる。ここで、建設機械が無人走行と無人操作を実現できる場合(トンネル坑外にある管理施設からの遠隔操作を含む)は、トンネル内における作業員を完全に不要にした、自動掘削施工を実現できる。
【0010】
例えば、走行台車が掘削を開始する前の停止している状態において、走行台車の備える複数(例えば2つ)の視準ターゲットを後方の1台の測量機が視準して走行台車の3次元座標や方向角を特定し、作業装置の先端にある掘削機の3次元座標を特定する。その後、走行台車が移動したり旋回しながら掘削を行う過程で、測量機は常時1つの視準ターゲットを自動追尾することで建設機械の当該視準ターゲットの3次元座標が特定される。測量機には、自動追尾が可能なトータルステーション(自動追尾トータルステーション)の適用が好ましい。
ここで、「作業装置」とは、例えば、ブームとアームのユニット形態や、ブームのみの形態等を含んでいる。また、走行台車における作業装置の取り付け位置に、作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出して当該作業装置の方向角を特定する、3軸慣性センサが設置されていることにより、3軸慣性センサは検出データを随時累積することによって、測量された視準ターゲットの3次元座標に関する測量データと合わせて、掘削機の掘削位置を都度特定することが可能になる。
【0011】
本態様の掘削位置特定システムに適用される建設機械としては、作業装置であるブーム及びアームの先端に油圧ブレーカを含む各種のアタッチメントが掘削機として装着され、走行体と旋回体を備えている重機等を挙げることができる。
【0012】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記3軸慣性センサは、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを備えていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、3軸慣性センサが、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを備えていることにより、特に3軸ジャイロセンサが作業装置の方向角(ヨー角)の特定精度の向上に寄与する。ここで、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサとにより、6軸慣性センサが形成される。
【0014】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様は、
前記作業装置が複数の関節を備え、各関節には、少なくともピッチ角を測定する1軸以上の加速度センサが設けられていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、作業装置の備える複数の関節がそれぞれ、少なくともピッチ角を測定する1軸以上の加速度センサを備えていることにより、走行台車における作業装置の取り付け位置に設置されている3軸慣性センサの検出データと、各関節の加速度センサの検出データとに基づき、掘削機の方向角をより一層高精度に特定することが可能になる。
ここで、「少なくともピッチ角を測定する1軸以上の加速度センサ」とは、ピッチ角を測定する1軸加速度センサの他に、ピッチ角とロール角を測定する2軸加速度センサ、ピッチ角とロール角とヨー角を測定する3軸加速度センサを含む意味である。
【0016】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記制御装置は、第1制御と第2制御を実行し、
前記第1制御は、
前記建設機械が掘削施工している際に、前記測量機に対して1つの前記視準ターゲットを視準させる制御を実行してターゲット座標を取得し、該ターゲット座標に関する測量データと、前記3軸慣性センサによる検出データとに基づいて前記掘削機の掘削位置を特定する制御であり、
前記第2制御は、
前記建設機械が停止している際に、前記測量機に対して前記複数の視準ターゲットを順に視準させる制御を実行し、各視準ターゲットに固有の複数のターゲット座標を取得し、該複数のターゲット座標に関する測量データに基づいて前記建設機械および/または前記作業装置の新たな方向角を特定し、前記3軸慣性センサに対して該新たな方向角を与える制御であることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、制御装置による第2制御により、建設機械が停止している際に、測量機に対して複数(例えば2つ)の視準ターゲットを順に視準させる制御を実行し、各視準ターゲットに固有のターゲット座標を取得し、複数のターゲット座標に関する測量データに基づいて、建設機械や作業装置の新たな方向角を特定して3軸慣性センサによる検出データの累積による誤差をリセットし、精度のよい作業装置の方向角の初期値を再設定でき、以後の建設機械の作動開始後における第1制御による掘削機の掘削位置の高精度な特定を図ることが可能になる。
例えば、3軸慣性センサが3軸ジャイロセンサを含む6軸慣性センサである場合に、ジャイロセンサはセンサが常時旋回していることから累積的な誤差が生じ易いため、第2制御は、特に3軸ジャイロセンサの累積誤差のリセット(初期値の再設定)に有効になる。
【0018】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記複数の視準ターゲットは、前記測量機による視準の可不可を実行する、視準可不可手段を備えており、
前記制御装置は、
前記第1制御において、前記複数の視準ターゲットのうちの1つの該視準ターゲットのみを視準可とし、他の該視準ターゲットを視準不可とする制御をさらに実行し、
前記第2制御において、前記複数の視準ターゲットが1基ずつ順に視準されるように、1つの視準ターゲットのみを視準可とし、他の該視準ターゲットを視準不可とし、次に、視準可の該視準ターゲットを視準不可とし、視準不可の該視準ターゲットを視準可とするシーケンシャルな制御を実行することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、視準ターゲットが視準可不可手段を備えていて、第2制御では、複数(例えば2つ)の視準ターゲットが1基ずつ順に視準されるように、1つの視準ターゲットのみを視準可とし、他の該視準ターゲットを視準不可とし、次に、視準可の該視準ターゲットを視準不可とし、視準不可の該視準ターゲットを視準可とするシーケンシャルな制御を実行することにより、1台の測量機にて複数の視準ターゲットを順次視準する際に、視準したい視準ターゲットとは異なる他方の視準ターゲットを誤って視準することを効果的に防止することができる。
ここで、視準可不可手段としては、視準ターゲットがカバーに収容されて視準不可な状態とされ、アクチュエータにて視準ターゲットが昇降してカバーから張り出すことにより視準可な状態とされる形態や、視準ターゲットを包囲するカバーがアクチュエータにて昇降することにより、視準ターゲットが視準可な状態と視準不可な状態とされる形態等が挙げられる。
【0020】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記制御装置には、前記3軸慣性センサが作動を開始して累積誤差が蓄積され、該累積誤差が誤差閾値となるまでの所要時間が記憶され、
前記建設機械のキャビンには、オペレータ端末が装備されており、
掘削施工中において、前記所要時間が経過する前に、前記制御装置から前記オペレータ端末に対して、前記建設機械を停止させて前記第2制御を実行する指令信号が送信されることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、3軸慣性センサの累積誤差が誤差閾値となるまでの所要時間が制御装置に記憶され、建設機械のキャビンに装備されているオペレータ端末に対して、所要時間が経過する前に建設機械を停止させて第2制御を実行する指令信号が送信されることにより、第1制御における掘削機の掘削位置の高精度な特定を継続することができる。
ここで、オペレータ端末には、ブザーや点灯表示、所要時間までの残り時間の報知等を実行する警報手段が設けられているのが好ましい。
【0022】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
少なくとも前記オペレータ端末には表示部が設けられており、
前記表示部には、トンネルの設計掘削断面ラインが表示され、
前記掘削機の先端を掘削断面における実掘削断面ライン上の複数の掘削位置に接触させた際の三次元座標が前記表示部にプロットされることで、前記設計掘削断面ラインよりも過剰に掘削されている余掘り部と、前記設計掘削断面ラインに対して掘削が不十分なアタリ部とが特定されることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、オペレータ端末の表示部に、トンネルの設計掘削断面ラインが表示され、さらに、掘削機の先端を掘削断面における実掘削断面ライン上の複数の掘削位置に接触させた際の三次元座標が表示部にプロットされて設計掘削断面ラインに重ね合わされることにより、余掘り部とアタリ部の位置やその程度を、建設機械のオペレータが速やかに特定することができる。その結果、アタリ部に対しては追加の掘削にて余掘り部を解消でき、余掘り部に対してはさらなる掘削を速やかに停止することができる。
【0024】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記建設機械が、3Dスキャナを備え、
前記3Dスキャナにて取得された前記掘削断面までの距離データに基づいて、該掘削断面の複数箇所の3次元座標が特定されて前記実掘削断面ラインが作成され、前記表示部に表示されることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、建設機械の備える3Dスキャナにて取得された掘削断面までの距離データに基づいて実掘削断面ラインが作成され、表示部に表示されることにより、高精度に実掘削断面ラインを作成することができ、表示部に表示されている設計掘削断面ラインと実掘削断面ラインの重ね合わせにより、余掘り部とアタリ部の位置やその程度をオペレータが高精度に確認することが可能になる。
【0026】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定システムの他の態様において、
前記走行台車は、下部走行体と、該下部走行体に対して旋回自在に積層されている、上部旋回体とを有し、
前記上部旋回体に前記取り付け位置が設定され、前記作業装置が旋回自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、走行台車が、下部走行体に対して旋回自在に積層されている上部旋回体を有し、上部旋回体にある取り付け位置に作業装置が旋回自在に取り付けられている形態、すなわち上部旋回体の旋回によって掘削機の方向角や3次元座標が都度変化する走行台車であっても、掘削機の掘削位置を都度高精度に特定することができる。
【0028】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定方法の一態様は、
先端に掘削機が装着されている作業装置が、走行台車における取り付け位置に旋回自在に取り付けられている、建設機械において、該掘削機の掘削位置を特定する、建設機械の掘削位置特定方法であって、
前記建設機械の停止時において、該建設機械の備える複数の視準ターゲットを1台の測量機にて順に視準して該建設機械と前記作業装置の方向角の初期値を特定する、A工程と、
前記建設機械を作動させて掘削施工を行い、その際に、前記測量機にて1つの前記視準ターゲットを自動追尾し、かつ該建設機械における前記作業装置の取り付け位置に設けられて、前記作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出する3軸慣性センサにて、該作業装置の方向角を特定し、該3軸慣性センサによる検出データと該測量機による測量データとに基づいて前記掘削位置を特定する、B工程とを有することを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、建設機械の停止時において、建設機械の備える複数の視準ターゲットを1台の測量機にて順に視準して建設機械と作業装置の方向角の初期値を特定した後、建設機械の作動後は、測量機にて1つの視準ターゲットを自動追尾し、建設機械における作業装置の取り付け位置に設置されている、作業装置のロール角とピッチ角とヨー角を検出する3軸慣性センサにて作業装置の方向角を特定することにより、掘削機の掘削位置を特定することが可能となり、建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削する施工を実現できる。
【0030】
また、本発明による建設機械の掘削位置特定方法の他の態様は、
前記3軸慣性センサが作動を開始して累積誤差が誤差閾値を超えるまでの所要時間を設定し、
掘削施工中において、前記所要時間が経過する前に前記建設機械を停止させ、前記測量機に前記複数の視準ターゲットを順に視準させ、各視準ターゲットに固有の複数のターゲット座標に基づいて前記建設機械および/または前記作業装置の新たな方向角を特定して、前記3軸慣性センサに対して該新たな方向角を与えた後、次の掘削施工を行うことを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、3軸慣性センサの累積誤差が誤差閾値となるまでの所要時間を設定し、所要時間が経過する前に建設機械を停止させ、建設機械および/または作業装置の新たな方向角を特定して、3軸慣性センサに対して新たな方向角を与えた後に掘削を行うことにより、掘削機の掘削位置の高精度な特定を継続することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法によれば、建設機械のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好であって、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施形態に係る掘削位置特定システムを構成する建設機械の一例を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る掘削位置特定システムの一例の構成図である。
【
図3】アタリ部と余掘り部を説明する模式図である。
【
図4】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図6A】視準可不可手段の一例を示す図であって、視準ターゲットが視準不可の状態を示す図である。
【
図6B】視準可不可手段の一例を示す図であって、視準ターゲットが視準可の状態を示す図である。
【
図7A】視準可不可手段の他の例を示す図であって、視準ターゲットが視準不可の状態を示す図である。
【
図7B】視準可不可手段の他の例を示す図であって、視準ターゲットが視準可の状態を示す図である。
【
図8】オペレータ端末の表示画面における表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施形態に係る建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0035】
[実施形態に係る建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る建設機械の掘削位置特定システムと掘削位置特定方法の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る掘削位置特定システムを構成する建設機械の一例を示す斜視図であり、
図2は、実施形態に係る掘削位置特定システムの一例の構成図である。また、
図3は、アタリ部と余掘り部を説明する模式図である。
【0036】
掘削位置特定システム100が適用される図示例の建設機械10は、作業装置16のアーム16cの先端に油圧ブレーカ17(掘削機の一例)がアタッチメントとして装着されている重機(油圧ブレーカをアタッチメントとして備える油圧ショベル)である。ここで、建設機械は、図示例のような油圧ブレーカを備えた重機の他にも、掘削機である掘削ロッドを備えた複数のブームが旋回自在に設けられている、ドリルジャンボ等、走行体と旋回体がある建設機械であってもよい。
【0037】
建設機械10は、不図示の油圧モータにて走行する左右のクローラを備えた下部走行体12と、下部走行体12に対して水平面内をZ1方向に旋回自在に積層されている、上部旋回体13とを備える走行台車11と、上部旋回体13の取り付け位置15に対して鉛直面内をZ2方向に回動自在に取り付けられている作業装置16とを有する。
【0038】
上部旋回体13には、オペレータキャビン14が装備され、エンジンや油圧ポンプ、作動油タンク(いずれも図示せず)等が搭載されている。オペレータキャビン14には、以下で説明するオペレータ端末70(
図8参照)が設置されている。
【0039】
作業装置16は、取り付け位置15に取り付けられているブーム16aと、上部旋回体13の本体に対してブーム16aをピッチ方向に回動させるブームシリンダ16bと、アーム16cと、ブーム16aに対してアーム16cをピッチ方向に回動させるアームシリンダ16dと、アーム16cに対してアタッチメントをピッチ方向に回動させるアタッチメントシリンダ16eとを有し、これら複数のシリンダによる関節を備えている。アーム16cの先端に、油圧ブレーカ17が装着され、油圧ブレーカ17の先端はノミ先17a(掘削位置)となっており、掘削位置特定システム100は、掘削時における掘削機17の3次元座標として、このノミ先17aの3次元座標を特定するシステムである。
【0040】
上部旋回体13における作業装置16の取り付け位置15には、3軸慣性センサ21が設置されている。図示例の3軸慣性センサ21は、3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサを含む、6軸慣性センサである。尚、本明細書における「3軸慣性センサ」とは、3軸以上の加速度センサやジャイロセンサを含む慣性センサを意味する。
【0041】
一方、作業装置16の複数の関節箇所(各シリンダの先端の回動取り付け箇所)には、いずれも1軸加速度センサ22が設置されており、ブームシリンダ16bの先端位置に1軸加速度センサ22Aが設置され、アームシリンダ16dの先端位置に1軸加速度センサ22Bが設置され、アタッチメントシリンダ16eの先端位置に1軸加速度センサ22Cが設置されている。
【0042】
図2に示すように、上部旋回体13の後方には、複数(図示例は2つ)の視準ターゲット30A,30Bが設置されている。この視準ターゲット30は、360度方向からの視準を可能とする360度プリズムである。
【0043】
図2は、山岳トンネルTにおいて、発破後に岩盤からなる地山Gを建設機械10が掘削している状況を示しているが、山岳トンネルTにおいて、建設機械10よりも坑口側の坑壁には、視準ターゲット30の自動追尾が可能なトータルステーション40(測量機の一例)が設置されている。また、トータルステーション40とケーブル45を介して電気的に接続されている、制御装置50も坑口側に設けられている。
【0044】
トータルステーション40では、3次元座標が既知の基準点Bの基準点座標に基づいて、自身の三次元座標が設定されており、視準ターゲット30を自動追尾してその3次元座標を測定する。
【0045】
このように、掘削機17を先端に備えた作業装置16が回動自在に設けられている、建設機械10と、建設機械10における作業装置16の取り付け位置15に設置されている3軸慣性センサ21(図示例は6軸慣性センサ)と、建設機械10の備える複数の視準ターゲット30を自動追尾するトータルステーション40と、制御装置50とにより、掘削位置特定システム100が形成される。
【0046】
制御装置50は通信アンテナ58を備えており、3軸慣性センサ21による検出データや、作業装置16の各関節に設置されている1軸加速度センサ22による検出データを無線通信によりX3方向でデータ取得する。また、ケーブル45を介してトータルステーション40によって測量及び内部演算された、視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データをX4方向でデータ取得する。
【0047】
図2に示すように、トンネルTの軸方向をX方向、水平面内においてX方向に直交す方向をY方向、これらに直交する鉛直方向をZ方向とする。そして、X-Z平面(鉛直面)における作業装置16の角度をピッチ角θpとし、Y-Z平面(鉛直面)における作業装置16の角度をロール角θrとし、X-Y平面(水平面)における作業装置16の角度をヨー角θyとする。
【0048】
建設機械10が停止している際には、トータルステーション40にて2つの視準ターゲット30A、30BがX1方向とX2方向に順に視準され、各視準ターゲット30A,30Bに固有の複数のターゲット座標が取得され、2つのターゲット座標に関する測量データに基づいて、建設機械10の例えば作業装置16の取り付け位置15の3次元座標が特定され、さらには、作業装置16の方向角が特定される。
【0049】
また、建設機械10が掘削施工している際には、トータルステーション40にていずれか一方の視準ターゲット30が自動追尾にて視準され、視準ターゲット30のターゲット座標が取得される。さらに、作業装置16の取り付け位置15における3軸慣性センサ(6軸慣性センサ)21による検出データや作業装置16の各関節における1軸加速度センサ22による検出データが制御装置50へX3方向に送信され、これら測量データと検出データとに基づいて、作業装置16に装着されている油圧ブレーカ17のノミ先17a(掘削位置)の3次元座標が特定される。
【0050】
すなわち、掘削位置特定システム100では、作業装置16のロール角θrとピッチ角θpとヨー角θyを検出して作業装置16の方向角を特定する、3軸慣性センサ21が作業装置16の取り付け位置15に設置されていることにより、3軸慣性センサ21は、停止時に設定された方向角の初期値から建設機械10の旋回や移動で変化する作業装置16の方向角を累積的に読み込んでいく。そして、3軸慣性センサ21の内部において検出データを随時累積することにより、測量された視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データと合わせて、施工中の油圧ブレーカ17のノミ先17a(掘削位置)を都度特定することを可能にする。
【0051】
図3に示すように、山岳トンネルTの施工においては、発破後に建設機械10を用いて岩盤Gを掘削する際に、トンネルTの切羽Kにおける設計掘削断面ラインL1に対して、実掘削断面ラインL2がトンネルTの中央側へ張り出す、アタリ部Aや、掘り過ぎによる余掘り部Dなどの凹凸が生じ得る。掘削位置特定システム100は、以下で詳説する制御装置50による制御により、掘削施工中の油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標を都度高精度に特定して、アタリ部Aや余掘り部Dの発生を抑制することを可能にしたシステムである。
【0052】
ここで、実掘削断面ラインL2は、複数のノミ先17aの3次元座標に基づいて作成される。尚、図示を省略するが、建設機械10に3Dスキャナがさらに備えられていてもよい。この形態では、3Dスキャナにて取得された掘削断面までの距離データに基づいて、掘削断面の複数箇所の3次元座標が特定され、特定された複数の3次元座標に基づいて実掘削断面ラインが作成される。
【0053】
次に、
図4乃至
図8を参照して、掘削位置特定システム100を構成する制御装置50について説明するとともに、実施形態に係る掘削位置特定方法の一例について説明する。ここで、
図3は、制御装置のハードウェア構成の一例を示す図であり、
図4は、制御装置の機能構成の一例を示す図である。
【0054】
図3に示すように、制御装置50は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)等の情報処理装置(コンピュータ)により構成される。制御装置50を構成するコンピュータは、接続バス56により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信IF54、及び入出力IF(interface)55を備えている。主記憶装置52と補助記憶装置53は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0055】
CPU51は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU51は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU51は、コンピュータからなる制御装置50の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU51は、例えば、補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0056】
主記憶装置52は、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置53には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF54を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。外部装置等には、例えば、トータルステーション40や、3軸慣性センサ21,1軸加速度センサ22、オペレータキャビン14にあるオペレータ端末70等の他、例えばネットワークに接続するトンネル坑外にある管理施設等に設置されている、施工管理用のパーソナルコンピュータ(図示せず)等が含まれる。
【0057】
補助記憶装置53は、例えば、主記憶装置52を補助する記憶領域として使用され、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置53は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置53として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0058】
入出力IF55は、制御装置50に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF55には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。制御装置50は、入出力IF55を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0059】
また、入出力IF55には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。例えば、現在施工中の切羽Kにおいて予め設定されている、設計掘削断面ラインL1や、現在施工中の実掘削断面ラインL2、アタリ部Aや余掘り部Dが生じている場合はその位置とアタリ部Aにおけるアタリ部の長さや余掘り部Dにおける余掘り部の長さ等が表示されるようになっている。尚、オペレータ端末70も同様の入出力IFを備えており、その表示部には制御装置50と同様の表示内容が表示されるようになっている。
【0060】
通信IF54は、制御装置50が接続するケーブルやネットワークとのインターフェイスである。通信IF54は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、3軸慣性センサ21や1軸加速度センサ22等から計測データを受信し、管理施設にある施工管理用のパーソナルコンピュータに対して、実掘削断面ラインや、アタリ部、余掘り部等に関する特定データを送信する。
【0061】
図5に示すように、制御装置50は、CPU51によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部102、制御モード切替部104、視準可不可手段駆動部106、測量機制御部108、掘削位置・方向角特定部110、表示部112、及び記憶部114の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0062】
通信部102には、トータルステーション40にて測定された、視準ターゲット30の3次元座標に関する測量データが取得され、取得された視準ターゲット30の三次元座標データは記憶部114に記憶(格納)される。さらに、通信部102には、3軸慣性センサ21により検出された、上部旋回体13の取り付け位置15における作業装置16の方向角に関する検出データと、作業装置16の各関節にある1軸加速度センサ22により検出された、ブーム16aやアーム16c等のピッチ角θpに関する検出データが取得され、記憶部114に記憶される。すなわち、通信部102では、無線通信と有線通信の双方によるデータの送受信が実行される。
【0063】
制御モード切替部104は、第1制御と第2制御の2つの制御モードの切替えを実行する。ここで、第1制御は、測量機制御部108により、建設機械10が掘削施工している際に、トータルステーション40に対して1つの視準ターゲット30を視準させる制御を実行してターゲット座標を取得する。
【0064】
掘削位置・方向角特定部110により、ターゲット座標に関する測量データと、3軸慣性センサ21による検出データと、1軸加速度センサ22による検出データとに基づいて、油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標(掘削位置)を特定する制御が実行される。すなわち、第1制御により、油圧ブレーカ17の方向角が特定され、ノミ先17aの3次元座標が特定される。
【0065】
一方、第2制御は、測量機制御部108により、建設機械10が停止している際に、トータルステーション40に対して2つの視準ターゲット30A,30Bを順に視準させる制御を実行して、視準ターゲット30A,30Bに固有の2つのターゲット座標を取得する。
【0066】
掘削位置・方向角特定部110により、2つのターゲット座標に関する測量データに基づいて、建設機械10と取り付け位置15の3次元座標を特定し、作業装置16の方向角を特定し直し(新たな方向角の特定)、3軸慣性センサ21に対して新たな方向角を与える制御が実行される。
【0067】
第2制御においては、1つのトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30A,30Bを順にシーケンシャルに視準することから、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することが生じ得る。この課題を解消するべく、視準可不可手段駆動部106により、視準ターゲット30に備えてある視準可不可手段を駆動する。
【0068】
ここで、
図6と
図7は、異なる形態の視準可不可手段の例を示している。
図6Aと
図6Bに示す視準可不可手段60Aは、角鋼管61と、角鋼管61の内部に取り付けられているストロークモータ62と、ストロークモータ62に対してY1方向へ昇降自在に取り付けられているロッド63と、ロッド63の上方に取り付けられているカバー64とを有する。
【0069】
建設機械10の上部旋回体13には、ロッド31の下端が取り付けられ、ロッド31の上端に360度プリズム30(視準ターゲット)が取り付けられている。
【0070】
360度プリズム30を視準不可とする際は、
図6Aに示すように、カバー64により360度プリズム30を完全に包囲する。一方、360度プリズム30を視準可とする際は、視準可不可手段駆動部106によるストロークモータ62の駆動制御により、
図6Bに示すように、カバー64をY2方向へ降下させることによって360度プリズム30を外部へ露出させる。
【0071】
一方、
図7に示す視準可不可手段60Bは、ストロークモータ62にてY1方向に昇降されるロッド63の上端に360度プリズム30が取り付けられている。
【0072】
360度プリズム30を視準不可とする際は、
図7Aに示すように、角鋼管61により360度プリズム30を完全に包囲する。一方、360度プリズム30を視準可とする際は、視準可不可手段駆動部106によるストロークモータ62の駆動制御により、
図7Bに示すように、ロッド63をY3方向へ上昇させることによって360度プリズム30を外部へ露出させる。
【0073】
図6と
図7に示すいずれの形態の視準可不可手段60であっても、第2制御においては、視準可不可手段駆動部106によって双方の視準ターゲット30A,30Bの各ストロークモータ62を交互に駆動することにより、1つの視準ターゲット30のみを視準可とし、他の視準ターゲット30を視準不可とし、次に、視準可の視準ターゲット30を視準不可とし、視準不可の視準ターゲット30を視準可とするシーケンシャルな制御を実行することができる。
【0074】
この制御により、1台のトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30を順次視準する際に、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することを防止できる。
【0075】
建設機械10が作動している際に作業装置16の方向角を特定する3軸慣性センサ21には、建設機械10が停止している際に特定された方向角が初期値として付与されている。その後、建設機械10の作動により、3軸慣性センサ21は検出データを随時累積することによって、作動中の作業装置16の方向角を特定し、視準ターゲット30の3次元座標と合わせて油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標が特定される。そのため、3軸慣性センサ21には、時間の経過とともに累積誤差(ドリフト誤差とも言う)が生じ得る。図示例のように3軸ジャイロセンサを含む6軸慣性センサである場合に、ジャイロセンサではセンサが常時旋回していることから、この累積誤差はより一層生じ易くなる。
【0076】
そこで、制御装置50では、その第2制御により、建設機械10が停止している際に2つのターゲット座標に関する測量データを取得し、この測量データに基づいて、建設機械10や作業装置16の新たな方向角を特定して、3軸慣性センサ21に対して新たな方向角を付与することにより、3軸慣性センサ21による検出データの累積誤差をリセットし、以後の作業装置16の作動の際の方向角の初期値を再設定する。
【0077】
また、記憶部114には、3軸慣性センサ21の累積誤差に関する誤差閾値がさらに記憶されている。例えば、3軸加速度センサや3軸ジャイロセンサは、5分程度で累積誤差が大きくなり、ノミ先17aの3次元座標の精度を低下させ得ることから、例えば3軸慣性センサ21の累積誤差の誤差閾値を5分程度に設定し、制御装置50では、建設機械10が作動を開始した後の経過時間がカウントされる。
【0078】
通信部102を介して、オペレータキャビン14にあるオペレータ端末70に対して、カウントされる経過時間データが送信され、その表示画面には、経過時間もしくは誤差閾値までの残り時間が表示されるようになっている。建設機械10のオペレータは、この残り時間が経過する前に建設機械10の作動を停止し、制御装置50による第2制御によって3軸慣性センサ21の方向角の初期値の再設定を行う。このことにより、3軸慣性センサ21の内部における累積誤差をリセットし、その後に建設機械10の作動を開始することによって、油圧ブレーカ17のノミ先17aの3次元座標の高精度な特定を継続することが可能になる。
【0079】
このような制御装置50による第1制御と第2制御により、油圧ブレーカ17の方向角やノミ先17aの3次元座標の高精度な特定を図りながらの掘削施工を実現でき、アタリ部と余掘り部の発生抑制に繋がる。
【0080】
図8は、建設機械10のオペレータキャビン14に設置されている、オペレータ端末70の表示画面72における表示例を示す図である。
【0081】
図示するように、表示画面72には、現在の切羽K(トンネルの長手方向における所定の縦断位置にある切羽)において、予め設定されている設計掘削断面ラインL1が表示される。また、この切羽Kにおける実掘削断面ラインL2が設計掘削断面ラインL1と重ね合わされるようにして表示される。
【0082】
さらに、オペレータが表示画面72を視認しながら掘削する際に、油圧ブレーカ17のノミ先17aを実掘削断面ラインL2上の任意の掘削位置に接触させた際の三次元座標(P0(xp、yp、zp))が、都度表示画面72にプロットされる。
【0083】
また、設計掘削断面ラインL1と実掘削断面ラインL2の重ね合わせにより、表示画面72には、アタリ部と余掘り部の位置やアタリ部長さや余掘り部長さが表示される。図示例では、アタリ部の複数の3次元座標が点P1乃至P5で表示され、各アタリ部長さがt1乃至t5で表示される。一方、、余掘り部の複数の3次元座標が点P6乃至P10で表示され、各余掘り部長さがs1乃至s5で表示される。
【0084】
また、方向角の初期値設定までの残り時間が表示され、オペレータは、この残り時間までに掘削を継続し、残り時間が経過する前に建設機械10を停止し、3軸慣性センサ21の累積誤差をリセットするべく、制御装置50による第2制御により、作業装置16の方向角の初期値の再設定を実行する。
【0085】
制御装置50は、例えば、送信されるトータルステーション40からの測量データや、3軸慣性センサ21や1軸加速度センサ22からの検出データがいずれも変化しない場合に、建設機械10が停止していると判定し、制御モードを第1制御から第2制御に自動的に切替え、作業装置16の方向角の初期値の再設定のための各種制御を実行する。
【0086】
作業装置16の方向角の初期値の再設定が実行された後、制御装置50は制御モードを第2制御から第1制御に自動的に切替え、初期値の再設定が完了した旨の指令信号をオペレータ端末70に送信し、オペレータ端末70はこの指令信号に基づいて建設機械10の作動を開始してよい旨の報知をオペレータに対して実行する。
【0087】
建設機械の掘削位置特定システム100によれば、作業員がレーザーポインター等で建設機械のオペレータに指示する方法に代わり、建設機械10のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械10の作業装置16の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好であって、アタリ部や余掘り部の発生を抑制することができる。
【0088】
また、建設機械10の坑口側に設置されているトータルステーション40は無人にて自動追尾するものであることから、掘削施工は建設機械10のオペレータのみでよいこととなり、作業員の削減を図ることも可能になる。ここで、建設機械10が無人走行と無人操作を実現できる場合は、トンネルT内における作業員を完全に不要にした、自動掘削施工を実現できる。
【0089】
また、実施形態に係る建設機械の掘削位置特定方法は、掘削位置特定システム100を適用した掘削位置特定方法であり、まず、A工程として、建設機械10の停止時に、建設機械10の備える2つの視準ターゲット30を1台のトータルステーション40にて順に視準して建設機械10と作業装置16の方向角の初期値を特定する。この際、
図6と
図7を参照して説明した通り、2つの視準ターゲット30が視準可不可手段60を備えていることにより、1台のトータルステーション40にて2つの視準ターゲット30を順次視準する際に、視準したい視準ターゲット30とは異なる他方の視準ターゲット30を誤って視準することを防止できる。
【0090】
次に、B工程として、建設機械10を作動させて掘削施工を行い、その際に、トータルステーション40にて1つの視準ターゲット30を自動追尾し、かつ建設機械10における作業装置16の取り付け位置15に設けられて、作業装置16のロール角とピッチ角とヨー角を検出する3軸慣性センサ21にて作業装置16の方向角を特定し、3軸慣性センサ21による検出データとトータルステーション40による測量データとに基づいて、掘削施工中の掘削機17の掘削位置を特定する。
【0091】
この施工において、3軸慣性センサ21が作動を開始して累積誤差が誤差閾値を超えるまでの所要時間を設定し、掘削施工中において、所要時間が経過する前に建設機械10を停止させ、トータルステーション40に2つの視準ターゲット30A,30Bを順に視準させ、各視準ターゲット30A,30Bに固有の2つのターゲット座標に基づいて建設機械10や作業装置16の新たな方向角を特定して、3軸慣性センサに対して新たな方向角を与えた後、次の掘削施工を行う。
【0092】
建設機械の掘削位置特定方法によっても、建設機械10のオペレータが自ら、随時変化し得る建設機械10の作業装置16の掘削位置を都度精度よく、効率的に特定しながら掘削することにより、施工安全性が高く、施工性が良好な掘削施工を実現できる。
【0093】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0094】
10:建設機械
11:走行台車
12:下部走行体
13:上部旋回体
14:オペレータキャビン
15:取り付け位置
16:作業装置
16a:ブーム
16b:ブームシリンダ
16c:アーム
16d:アームシリンダ
16e:アタッチメントシリンダ
17:油圧ブレーカ(掘進機)
17a:掘削位置(ノミ先)
21:3軸慣性センサ(6軸慣性センサ)
22:1軸加速度センサ
30,30A,30B:視準ターゲット(360度プリズム)
31:ロッド
40:測量機(トータルステーション)
45:ケーブル
50:制御装置
58:通信アンテナ
60,60A,60B:視準可不可手段
61:角鋼管
62:アクチュエータ(ストロークモータ)
63:ロッド
64:カバー
70:オペレータ端末
72:表示画面
100:掘削位置特定システム(建設機械の掘削位置特定システム)
102:通信部
104:制御モード切替部
106:視準可不可手段駆動部
108:測量機制御部
110:掘削位置・方向角特定部
112:表示部
114:記憶部
B:基準点
T:山岳トンネル(トンネル)
G:地山(岩盤)
K:切羽
L1:設計掘削断面ライン
L2:実掘削断面ライン
A:アタリ部
D:余掘り部