(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064027
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、重合体及び化合物
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240507BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172310
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
(72)【発明者】
【氏名】安池 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】仲里 巧
(72)【発明者】
【氏名】島田 直昭
【テーマコード(参考)】
2H290
4J043
【Fターム(参考)】
2H290BF24
2H290BF25
2H290BF54
2H290DA01
2H290DA03
4J043PA04
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA31
4J043SA47
4J043SA71
4J043SB03
4J043SB04
4J043SB05
4J043TA22
4J043TA70
4J043TA71
4J043TB01
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4J043TB04
4J043UA052
4J043UA082
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4J043UA711
4J043UB121
4J043UB161
4J043UB211
4J043UB221
4J043UB241
4J043XA19
4J043XB27
4J043YA09
4J043ZB23
4J043ZB35
(57)【要約】
【課題】良好な塗布性を示すとともに、残留電荷の蓄積を抑制でき、基板に対する密着性が高く、かつ高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性に優れた液晶配向膜を形成できる液晶配向剤を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される部分構造(a)を有する重合体[P]を液晶配向剤に含有させる。式中、Ar
1、Ar
2は芳香環基である。X
1及びX
5は炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。X
3及びX
7は単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-等である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造(a)を有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【請求項2】
前記重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリアミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記重合体[P]は、前記部分構造(a)を有するジアミン化合物に由来する構造単位を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体[P]は、下記式(2)で表される構造単位及び下記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化2】
(式(2)及び式(3)中、Z
1及びZ
3は、それぞれ独立して4価の有機基である。Z
2及びZ
4は、それぞれ独立して、上記式(1)で表される2価の基である。R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
【請求項5】
上記式(1)で表される部分構造(a)を有しない重合体[Q]を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体[Q]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、保護されたアミノ基、基「-CR20=CR21-R22-」(ただし、R20は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R21は水素原子又はアルキル基、R22は電子求引性基である。)、シラノール基、及びアルコキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を分子内に2個以上有する化合物を更に含有する、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
【請求項10】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル又はポリイミドであって、下記式(2)で表される構造単位及び下記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、重合体。
【化3】
(式(2)及び式(3)中、Z
1及びZ
3は、それぞれ独立して4価の有機基である。Z
2及びZ
4は、それぞれ独立して、下記式(1)で表される2価の基である。R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
【化4】
(式(1)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【請求項11】
下記式(4)で表される化合物。
【化5】
(式(4)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子、重合体及び化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶配向剤の溶剤成分としては、非プロトン性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の高沸点溶剤が一般に使用されている。また、NMP等の高沸点溶剤と組み合わせてブチルセロソルブ(BC)等といった表面張力が低い有機溶剤を用いることにより、基板に対する液晶配向剤の塗布性(印刷性)を改善することが行われている。
【0003】
液晶素子において、直流電圧の印加に対する蓄積電荷の緩和速度が遅かったり、蓄積する電荷が多くなったりすると残像を誘発することとなり、液晶素子の表示品位の低下を招くことが懸念される。そのため、液晶配向膜には電荷を蓄積しにくい特性が要求される。そこで従来、ピリジン環等の窒素含有芳香族複素環を有するジアミンを原料に使用したポリアミック酸又はポリイミドを液晶配向剤に含有させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は更に高まっている。そこで、液晶配向膜の性能を更に改善するべく、従来にも増して高い塗布性や、電荷の蓄積が十分に低減された液晶配向膜を形成可能であることが液晶配向剤に求められている。その一方で、ピリジン環等の窒素含有芳香族複素環構造を液晶配向膜に導入して蓄積電荷の緩和速度を速め、液晶配向膜の電荷の蓄積を抑制しようとした場合、重合体同士の相互作用が生じやすくなり、これにより溶解性の低下を引き起こし、塗布性の低下を招くことが懸念される。
【0006】
使用用途の拡大に伴い、液晶素子は従来よりも過酷な環境下で使用されることが想定される。例えば、長時間の連続駆動によってバックライトが液晶パネルに長時間照射されたり、高温環境下で液晶パネルが使用されたりすることがある。また、過酷な環境下で液晶素子を使用することによって表示性能が低下したり、基板と液晶配向膜との密着性が十分でない場合には液晶配向膜が基板から剥がれやすくなったりすることが懸念される。液晶素子に対する更なる高品質化の要求を満たすためには、これらの複数の特性を同時に満足できることが求められる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、良好な塗布性を示しながら、残留電荷の蓄積を抑制でき、基板に対する密着性が高く、かつ高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性に優れた液晶配向膜を形成できる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討し、窒素含有芳香族複素環を含む特定の構造を重合体に導入することにより上記課題を解決するに至った。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0009】
〔1〕 下記式(1)で表される部分構造(a)を有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0010】
〔2〕 上記〔1〕の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
〔3〕 上記〔2〕の液晶配向膜を備える液晶素子。
〔4〕 ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル又はポリイミドであって、下記式(2)で表される構造単位及び下記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、重合体。
【化2】
(式(2)及び式(3)中、Z
1及びZ
3は、それぞれ独立して4価の有機基である。Z
2及びZ
4は、それぞれ独立して、上記式(1)で表される2価の基である。R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
〔5〕 下記式(4)で表される化合物。
【化3】
(式(4)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、良好な塗布性を示しながら、残留電荷の蓄積を抑制でき、基板に対する密着性が高く、かつ高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性に優れた液晶配向膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】化合物(DA-1)の
1H-NMRスペクトル。
【
図2】評価用ITO電極基板の概略構成を示す図。(a)は平面図であり、(b)は一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《液晶配向剤》
本開示の液晶配向剤は、芳香族複素環を含む特定の部分構造を有する重合体[P]を含有する。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。なお、各成分については特に言及しない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ここで、本明細書において、「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、鎖状炭化水素基は飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素基は脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香族炭化水素基は芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。「芳香環」は、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環を含む意味である。「有機基」とは、炭素を含む化合物(すなわち有機化合物)から任意の水素原子を取り除いてなる原子団をいう。
【0015】
重合体の「主鎖」とは、重合体のうち最も長い原子の連鎖からなる「幹」の部分をいう。この「幹」の部分が環構造を含むことは許容される。例えば、「特定構造を主鎖に有する」とは、その特定構造が主鎖の一部分を構成することをいう。「側鎖」とは、重合体の「幹」の部分から分岐した部分をいう。「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを包含する用語である。
【0016】
<重合体[P]>
重合体[P]は、下記式(1)で表される部分構造(a)を有する。
【化4】
(式(1)中、Ar
1は(n+2)価の芳香環基である。Ar
2は(m+2)価の芳香環基である。X
1及びX
5は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルカンジイル基である。X
2及びX
6は、それぞれ独立して、-O-、-NY
1-、*
1-CO-NY
1-、*
1-NY
1-CO-、*
1-CO-O-又は*
1-O-CO-である。Y
1は、水素原子又は1価の有機基である。「*
1」は、X
1又はX
5との結合手を表す。X
3及びX
7は、それぞれ独立して、単結合であるか、又はX
2若しくはX
6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X
4及びX
8は、それぞれ独立して1価の芳香族複素環基である。X
9は、単結合、-O-、-S-、-CO-、-NY
2-、-COO-、-CONY
2-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基である。Y
2は、水素原子又は1価の有機基である。n及びmは、それぞれ独立して1~4の整数である。rは0~4の整数である。Ar
2、X
1~X
9がそれぞれ複数存在する場合、互いに同一又は異なる。「*」は結合手を表す。)
【0017】
上記式(1)において、Ar1で表される(n+2)価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から(n+2)個の水素原子を取り除いた基であり、Ar2で表される(m+2)価の芳香環基は、置換又は無置換の芳香環の環部分から(m+2)個の水素原子を取り除いた基である。当該芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素環;ピリジン環、ピリダジン環等の芳香族複素環が挙げられる。これらのうち、Ar1で表される(n+2)価の芳香環基及びAr2で表される(m+2)価の芳香環基を構成する芳香環は、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。芳香環基の環部分に置換基が結合している場合、当該置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。良好な液晶配向性を示すとともに残像の少ない液晶配向膜を得る観点からすると、Ar1で表される(n+2)価の芳香環基は、環部分に、基「-X1-X2-X3-X4」以外の置換基を有しないことが好ましい。また同様に、Ar2で表される(m+2)価の芳香環基は、環部分に、基「-X5-X6-X7-X8」以外の置換基を有しないことが好ましい。
【0018】
Ar1におけるX9とは反対側の結合手、Ar2におけるX9とは反対側の結合手はそれぞれ、信頼性により優れた液晶素子を得る観点から、基「-NR-」(ただし、Rは水素原子又は1価の有機基である)に結合していることが好ましい。Rで表される1価の有機基は、炭素数1~3のアルキル基又は1価の熱脱離性基が好ましい。
【0019】
X1及びX5で表される炭素数1~6のアルカンジイル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。A1とX2との間にX1が介在し、A2とX6との間にX5が介在することにより、極性基の存在により解重合成分が発生することへの懸念を抑制でき、これにより電圧保持率及び信頼性の向上を図ることができると考えられる。X1及びX5の具体例としては、メチレン基、エチレン基、1,3-プロパンジイル基、1,2-プロパンジイル基、2,2-プロパンジイル基、1,4-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、1,5-ペンタンジイル基、1,2-ペンタンジイル基、1,6-ヘキサンジイル基、1,2-ヘキサンジイル基等が挙げられる。液晶配向膜の基板に対する密着性の改善効果を高める観点から、X1及びX5は直鎖状であることが好ましい。X1及びX5の炭素数は、電圧保持特性を確保する観点や信頼性の低下を抑制する観点から、1~4が好ましく、1~3がより好ましい。また、X2が-O-の場合、X1の炭素数は2~4が好ましく、2又は3がより好ましい。同様に、X5が-O-の場合、X2の炭素数は2~4が好ましく、2又は3がより好ましい。
【0020】
X3がX2に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である場合、及びX7がX6に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である場合、当該2価の有機基としては、置換又は無置換の炭素数1~20の2価の炭化水素基、置換又は無置換の2価の炭化水素基の一部のメチレン基が-O-、-CO-、-COO-、-NH-又は-CONH-に置き換えられた2価の基等が挙げられる。ただし、X3はX2に対して炭素原子で結合し、X7はX6に対して炭素原子で結合しており、具体的には、-C(Ra)(Rb)-(ただし、Ra及びRbは、それぞれ独立して、水素原子又は置換基である。)で結合していることが好ましい。
【0021】
X3、X7が炭素数1~20の2価の炭化水素基である場合、当該2価の炭化水素基としては、炭素数1~20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性を確保する観点、及び電荷の蓄積を抑制する観点から、2価の鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基であることが好ましく、直鎖状又は分岐状のアルカンジイル基であることが好ましい。また、X3、X7が2価の炭化水素基である場合の炭素数は、電圧保持特性を確保する観点、及び液晶配向膜の信頼性の低下を抑制する観点から、1~10が好ましく、1~3がより好ましい。X3、X7が置換基を有する場合、当該置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、水酸基等が挙げられる。
【0022】
高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性確保及び電荷の蓄積低減の観点から、X3、X7は、上記のうち、単結合又は炭素数1~20の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数1~20の2価の炭化水素基がより好ましく、炭素数1~20のアルカンジイル基が更に好ましい。なお、X3、X7が炭素数1~20の2価の炭化水素基である場合、極性基の存在により熱分解成分が発生することへの懸念を抑制できるとともに、X4が有する窒素含有芳香族複素環の電子状態の変化を抑制できることにより信頼性の向上及び電荷の蓄積の低減を図ることができるものと考えられる。
【0023】
X2、X6が-NY1-、*1-CO-NY1-、*1-NY1-CO-、*1-CO-O-又は*1-O-CO-の場合、X3、X7は単結合又はアルカンジイル基であることが好ましく、アルカンジイル基であることがより好ましい。また、X2、X6が-O-の場合、X3、X7は単結合であることが好ましい。X2とX3との組み合わせ、あるいはX6とX7との組み合わせが上記の組み合わせであることにより、高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性確保と電荷の蓄積低減とをより高度に実現できる点で好ましい。
【0024】
X4、X8で表される1価の芳香族複素環基は、置換又は無置換の芳香族複素環から水素原子を1個取り除いた基である。高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性確保及び電荷の蓄積低減の観点から、X4、X8は、窒素含有芳香族複素環、硫黄含有芳香族複素環又は酸素含有芳香族複素環が好ましく、窒素含有芳香族複素環又は硫黄含有芳香族複素環がより好ましく、窒素含有芳香族複素環が更に好ましい。窒素含有芳香族複素環は、ヘテロ原子として窒素原子のみを環部分に含んでいてもよく、窒素原子と他の原子(酸素原子、硫黄原子)を含んでいてもよい。窒素含有芳香族複素環の具体例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,4-トリアゾール環、1,2,3-トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、1,2,4-トリアジン環、1,3,5-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環、トリアゾール環、カルバゾール環、ベンズイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、プリン環、アクリジン環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾチアゾール環等が挙げられる。これらのうち、X4、X8が有する窒素含有芳香族複素環は、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,4-トリアゾール環、1,2,3-トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、1,2,4-トリアジン環、1,3,5-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環、トリアゾール環、カルバゾール環、ベンズイミダゾール環又はプリン環であることが好ましく、特に、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,4-トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環又はベンズイミダゾール環が好ましい。
【0025】
芳香族複素環基が環部分に置換基を有する場合、当該置換基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基、1価の熱脱離性基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、炭素数1~10の1価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の1価の芳香族炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1~6のアルキル基、シクロヘキシル基又はフェニル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。1価の熱脱離性基としては、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、ベンジルオキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-ハロエチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性に優れ、かつ脱離した構造の膜中における残存量を少なくできる点で、Boc基が特に好ましい。
【0026】
X
4、X
8の好ましい具体例としては、下記式(x-1)~式(x-20)のそれぞれで表される基が挙げられる。
【化5】
(式中、「*」は結合手を表す。「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0027】
例えば上記式(x-12)や式(x-15)、(x-17)、(x-20)で表される構造のように、X4、X8が、窒素含有芳香族複素環を構成する窒素原子に1価の熱脱離性基が結合した構造を有する場合、液晶配向剤の塗布性を更に優れたものとすることができる点で好適である。
【0028】
X2、X6について、Y1で表される1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基、1価の熱脱離性基、基「*2-X10-X11」(ただし、X10は、単結合であるか、又はY1が結合する窒素原子に対して炭素原子で結合する炭素数1~20の2価の有機基である。X11は、1価の芳香族複素環基である。「*2」は窒素原子との結合手を表す。)等が挙げられる。炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基の具体例及び好ましい例としては、X4、X8の説明において例示した基の具体例及び好ましい例と同様である。X10の具体例及び好ましい例としては、X3、X7の説明と同様の基が挙げられる。X11の具体例及び好ましい例としては、X4、X8の説明と同様の基が挙げられる。
【0029】
高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性を確保する観点、及び電荷の蓄積の低減を十分に図る観点から、X2、X6は、-NY1-、*1-CO-NY1-、*1-NY1-CO-、*1-CO-O-又は*1-O-CO-であることが好ましく、*1-CO-NY1-、*1-NY1-CO-、*1-CO-O-又は*1-O-CO-であることがより好ましい。また更に、基板に対する液晶配向膜の密着性の改善効果が高い点において、*1-CO-NY1-又は*1-NY1-CO-が特に好ましい。
【0030】
X9が、-NY2-、-CONY2-又は-NY2CO-である場合、Y2で表される1価の有機基としては、炭素数1~10の1価の炭化水素基、1価の熱脱離性基等が挙げられる。炭素数1~10の1価の炭化水素基及び1価の熱脱離性基の具体例及び好ましい例としては、X4、X8の説明において例示した基の具体例及び好ましい例と同様である。
X9は、単結合、-O-、炭素数1~10のアルカンジイル基、又は炭素数1~10のアルカンジイル基における任意のメチレン基が-O-に置き換えられた基であることが好ましい。
【0031】
nは1~4の整数であり、1又は2が好ましい。
mは1~4の整数であり、1又は2が好ましい。
rは0~4の整数であり、0~2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0032】
重合体[P]は、上記式(1)で表される部分構造(a)を重合体の主鎖中に有していてもよく、側鎖に有していてもよい。液晶素子の信頼性や蓄積電荷の低減、液晶配向剤の塗布性を改善する効果を十分に得ることができる点において、重合体[P]は、部分構造(a)を主鎖中に有することが好ましい。なお、重合体[P]が部分構造(a)を主鎖中に有する場合、上記式(1)中のAr1、Ar2が重合体の主鎖の一部を構成し、基「-X1-X2-X3-X4」、基「-X5-X6-X7-X8」は側鎖に存在することとなる。また、十分な量の部分構造(a)を重合体に導入する観点から、重合体[P]は、部分構造(a)を有する単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0033】
重合体[P]の主骨格は特に限定されない。液晶分子との親和性や機械的強度、液晶配向性の観点から、重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリアミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
重合体[P]の製造方法は特に限定されず、有機化学の定法を適宜組み合わせることにより製造できる。部分構造(a)を重合体中に導入しやすく、また液晶配向性や電圧保持特性等の各種性能に優れた液晶配向膜を形成できる点で、重合体[P]は、部分構造(a)を有するジアミン(以下、「特定ジアミン」ともいう。)に由来する構造単位を含む重合体であることが好ましい。
【0035】
特定ジアミンは、上記式(1)で表される部分構造(a)を有していればよく、その他の構造は特に限定されない。特定ジアミンの好ましい具体例としては、例えば下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【化6】
(式(4)中、Ar
1、X
1、X
2、X
3、X
4、Ar
2、X
5、X
6、X
7、X
8、X
9、n、m及びrは上記式(1)と同義である。)
【0036】
上記式(4)中のAr1、X1、X2、X3、X4、Ar2、X5、X6、X7、X8、X9、n、m及びrの具体例及び好ましい例については、上記式(1)の説明において例示したものと同様である。
芳香環に結合する2個の1級アミノ基の位置は特に限定されない。例えば、Ar1がベンゼン環構造を有する場合、2個の1級アミノ基はそれぞれ、基「-X1-X2-X3-X4」に対してオルト位、メタ位、パラ位のいずれに結合していてもよい。
【0037】
特定ジアミンの具体例としては、上記で説明したAr
1、X
1、X
2、X
3、X
4、Ar
2、X
5、X
6、X
7、X
8、X
9、n、m及びrのそれぞれにおける具体例を任意に組み合わせた化合物が挙げられる。特定ジアミンの一例としては、下記式(d-1)~式(d-96)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、構造式中の「Boc」はtert-ブトキシカルボニル基を表す。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0038】
特定ジアミンは、これらのうち、式(d-1)~式(d-49)、式(d-51)~式(d-55)~式(d-59)、式(d-61)及び式(d-62)のそれぞれで表される化合物が好ましく、式(d-1)~式(d-7)、式(d-9)、式(d-10)、式(d-12)~式(d-16)、式(d-18)~式(d-36)、式(d-39)、式(d-40)、式(d-42)及び式(d-43)のそれぞれで表される化合物がより好ましい。
【0039】
重合体[P]において、特定ジアミンに由来する構造単位の割合は、重合体[P]を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して、1モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。また、特定ジアミンに由来する構造単位の割合は、重合体[P]を構成するジアミン化合物に由来する構造単位の全量に対して80モル%以下が好ましい。
【0040】
[特定ジアミンの合成]
特定ジアミンは、有機化学の定法を適宜組み合わせることによって合成することができる。その一例としては、特定ジアミンにおいて1級アミノ基に代えてニトロ基を有するジニトロ体を合成し、次いで、得られたジニトロ体のニトロ基を適当な還元系を用いてアミノ化する方法が挙げられる。
【0041】
ジニトロ体を合成する方法は、目的とする化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、X2が-O-の場合、「Z1-X1-Ar1-(NO2)2」(ただし、Z1はハロゲン原子、以下同じ)で表されるハロゲン化合物と、「HO-X3-X4」で表される水酸基含有化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;「HO-X1-Ar1-(NO2)2」で表される水酸基含有化合物と、「Z1-X3-X4」で表されるハロゲン化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;が挙げられる。
X2が-NY1-の場合、「Z1-X1-Ar1-(NO2)2」で表されるハロゲン化合物と、「H-Y1N-X3-X4」で表されるアミノ基含有化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法が挙げられる。
X2が-COO-の場合、「Z2-X1-Ar1-(NO2)2」(ただし、Z2は-COCl、以下同じ)で表される酸クロリド化合物又はカルボキシ基を有する化合物と、「HO-X3-X4」で表される水酸基含有化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;「HO-X1-Ar1-(NO2)2」で表される水酸基含有化合物と、「Z2-X3-X4」で表される酸クロリド化合物又はカルボキシ基を有する化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;が挙げられる。
X2が-CONY1-の場合、「Z2-X1-Ar1-(NO2)2」で表される酸クロリド化合物又はカルボキシ基を有する化合物と、「H-Y1N-X3-X4」で表されるアミノ基含有化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;「H-Y1N-X1-Ar1-(NO2)2」で表されるアミノ基含有化合物と、「Z2-X3-X4」(ただし、Z2は-COCl)で表される酸クロリド化合物又はカルボキシ基を有する化合物とを、好ましくは有機溶媒中、塩基及び必要に応じて触媒の存在下で反応させる方法;が挙げられる。
【0042】
ジニトロ体の還元反応は、好ましくは有機溶媒中、例えばパラジウム炭素、酸化白金、亜鉛、鉄、スズ、ニッケル等の触媒を用いて実施することができる。ここで使用する有機溶媒としては、例えば酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、アルコール系等が挙げられる。ただし、特定ジアミンの合成手順は上記方法に限定されるものではない。
【0043】
次に、重合体[P]としてのポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリアミドの詳細について説明する。
【0044】
[ポリアミック酸]
重合体[P]としてのポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(P)」ともいう)は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。
【0045】
(テトラカルボン酸二無水物)
ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物を含む。
【0046】
鎖状テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0047】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物等が挙げられる。また、ポリアミック酸(P)の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、上記の他、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0048】
ポリアミック酸(P)の合成に際して使用するテトラカルボン酸二無水物は、脂肪族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。脂肪族テトラカルボン酸二無水物の割合は、液晶配向剤の塗布性をより良好にする観点から、合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の合計量に対して、10モル%以上とすることが好ましく、30モル%以上とすることがより好ましく、50モル%以上とすることが更に好ましい。
【0049】
(ジアミン化合物)
ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物は特定ジアミンのみであってもよい。また、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物として、特定ジアミンと、上記式(1)で表される部分構造を有しないジアミン(以下、「その他のジアミン」ともいう)とを併用してもよい。その他のジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等が挙げられる。脂肪族ジアミンは、鎖状ジアミン及び脂環式ジアミンを含む。
【0050】
その他のジアミンの具体例としては、鎖状ジアミンとして、例えばm-キシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を;脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばドデカノキシジアミノベンゼン、テトラデカノキシジアミノベンゼン、ペンタデカノキシジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシジアミノベンゼン、オクタデカノキシジアミノベンゼン、コレスタニルオキシジアミノベンゼン、コレステリルオキシジアミノベンゼン、ジアミノ安息香酸コレスタニル、ジアミノ安息香酸コレステリル、ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェノキシ)メチル)フェニル)-4-ヘプチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)シクロヘキサン、N-(2,4-ジアミノフェニル)-4-(4-ヘプチルシクロヘキシル)ベンズアミド、下記式(E-1)
【化13】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立して、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はジアミノフェニル基側との結合手を表す)である。R
Iは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIは、単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。R
IIIは、炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基である。aは0又は1である。bは0~3の整数である。cは0~2の整数である。dは0又は1である。ただし、1≦a+b+c≦3である。)
で表される化合物などの配向性基含有ジアミン:
パラフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、N,N’-ジ(5-アミノ-2-ピリジル)-N,N’-ジ(tert-ブトキシカルボニル)エチレンジアミン、4,4’-(2,2’-オキシビス(エタン-2,1-ジイル)ビス(オキシ))ジアニリン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、3,5-ジアミノ安息香酸、1-(4-アミノフェノキシ)-2-(4-(4’-アミノフェニル)フェノキシ)エタン、3,5-ジアミノ-N,N-ビス(ピリジン-3-イルメチル)ベンズアミド、下記式(f-1)~式(f-32)
【化14】
【化15】
【化16】
のそれぞれで表されるジアミン、シンナメート基含有ジアミン等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【0051】
上記式(E-1)における「-XI-(RI-XII)d-」で表される2価の基としては、炭素数1~3のアルカンジイル基、-O-、*-COO-、-O-C2H4-O-(ただし、「*」を付した結合手がジアミノフェニル基と結合する。)等が挙げられる。RIIIで表される基は直鎖状であることが好ましい。ジアミノフェニル基における2つのアミノ基は、他の基に対して2,4-位又は3,5-位にあることが好ましい。
【0052】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-4)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【化17】
【0053】
ポリアミック酸(P)の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、1モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。特定ジアミンの使用割合が上記範囲であると、高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性や、液晶配向剤の塗布性、基板に対する液晶配向膜の密着性を向上させる効果を十分に得ることができる点で好適である。また、ポリアミック酸(P)の合成に際し、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、100モル%以下であればよい。その他のジアミンの使用により所望の特性を付与する場合、特定ジアミンの使用割合は、ポリアミック酸(P)の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対し、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましい。
【0054】
(ポリアミック酸の合成)
ポリアミック酸(P)は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸(P)の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0055】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水イタコン酸等の酸一無水物;アニリン、シクロヘキシルアミン及びn-ブチルアミン等のモノアミン化合物;フェニルイソシアネート及びナフチルイソシアネート等のモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0056】
ポリアミック酸(P)の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0057】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等を挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0058】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(x)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計量(y)が反応溶液の全量(x+y)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0059】
[ポリアミック酸エステル]
重合体[P]としてのポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸(P)とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、等によって得ることができる。
【0060】
なお、本明細書において「テトラカルボン酸ジエステル」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がカルボキシ基である化合物を意味する。「テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物」とは、テトラカルボン酸が有する4個のカルボキシ基のうち2個がエステル化され、残りの2個がハロゲン化された化合物を意味する。
【0061】
方法[I]で使用するエステル化剤としては、例えば水酸基含有化合物、アセタール系化合物、ハロゲン化物、エポキシ基含有化合物等が挙げられる。これらの具体例としては、水酸基含有化合物として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、フェノール、クレゾール等のフェノール類等を;アセタール系化合物として、例えばN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジエチルホルムアミドジエチルアセタール等を;ハロゲン化物として、例えば臭化メチル、臭化エチル、臭化ステアリル、塩化メチル、塩化ステアリル、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン等を;エポキシ基含有化合物として、例えばプロピレンオキシド等を、それぞれ挙げることができる。
【0062】
方法[II]で使用するテトラカルボン酸ジエステルは、例えばポリアミック酸(P)の合成の説明において例示したテトラカルボン酸二無水物を、メタノールやエタノール等のアルコール類を用いて開環することにより得ることができる。なお、方法[II]で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルのみであってもよいし、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。ジアミン化合物については、ポリアミック酸(P)の説明において例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、又はその他のジアミンを併用してもよい。
【0063】
方法[II]の反応は、有機溶媒中、適当な脱水触媒の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水触媒としては、例えば4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムハライド、カルボニルイミダゾール、リン系縮合剤等が挙げられる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0064】
方法[III]で使用するテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物は、例えば上記の如くして得たテトラカルボン酸ジエステルを、塩化チオニル等の適当な塩素化剤と反応させることにより得ることができる。なお、方法[III]で使用するテトラカルボン酸誘導体はテトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物のみであってもよいし、テトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。また、ジアミン化合物については、ポリアミック酸(P)の合成の説明において例示した特定ジアミンを単独で使用してもよいし、又はその他のジアミンを併用してもよい。
【0065】
方法[III]の反応は、有機溶媒中、適当な塩基の存在下で行うことが好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸(P)の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。塩基としては、例えばピリジン、トリエチルアミン等の3級アミン;水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類等を好ましく使用することができる。このときの反応温度は、-20~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0066】
液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0067】
[ポリイミド]
重合体[P]としてのポリイミドは、例えば、上記の如くして合成されたポリアミック酸(P)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0068】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20%以上であることが好ましく、30~99%であることがより好ましく、40~95%であることが更に好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0069】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法により、又はポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0070】
ポリアミック酸の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン、1-メチルピペリジン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。その他、ポリアミック酸エステルのイミド化によってポリイミドを得ることもできる。
【0071】
[ポリアミド]
重合体[P]としてのポリアミドは、例えば、ジカルボン酸とジアミン化合物との重縮合反応によって得ることができる。反応に使用するジアミン化合物としては、ポリアミック酸(P)の説明で例示した特定ジアミン及びその他のジアミンが挙げられる。なお、上記反応に際しては、ポリアミドの溶解性を高めるために、ジアミン化合物が有する1級アミノ基を、例えばtert-ブトキシカルボニル基などの保護基で保護した後に、ジカルボン酸との反応に供してもよい。ジカルボン酸としては、特に制限されず、ポリアミドの合成に使用される公知のジカルボン酸を使用することができる。ジカルボン酸は、例えば塩化チオニル等の適当な塩素化剤を用いて酸クロリド化した後にジアミンとの反応に供することが好ましい。ジカルボン酸とジアミンとの反応は公知の方法により行うことができ、例えば、塩基の存在下、有機溶媒中において行うことができる。
【0072】
電圧保持特性や液晶配向性により優れた液晶配向膜を形成できる点において、重合体[P]は上記の中でも、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。具体的には、重合体[P]は、下記式(2)で表される構造単位及び下記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化18】
(式(2)及び式(3)中、Z
1及びZ
3は、それぞれ独立して4価の有機基である。Z
2及びZ
4は、それぞれ独立して、上記式(1)で表される2価の基である。R
11、R
12、R
13及びR
14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
【0073】
上記式(2)及び式(3)において、Z1又はZ3で表される4価の有機基は、テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の基である。Z2及びZ4は、それぞれ独立して、特定ジアミンに由来する2価の基である。テトラカルボン酸二無水物及び特定ジアミンの具体例及び好ましい例については、上記で説明したものと同様である。
【0074】
以上の重合反応により得られた反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に用いられてもよく、反応溶液中に含まれる重合体[P]を単離したうえで液晶配向剤の調製に用いられてもよく、又は単離した重合体[P]を精製したうえで液晶配向剤の調製に用いられてもよい。重合体[P]の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。
【0075】
重合体[P]は、これを濃度15質量%の溶液としたときに、20~1,800mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、50~1,500mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、重合体の溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えばγ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度15質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0076】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、重合体[P]につき、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5以下であり、より好ましくは3.5以下である。重合体[P]のMw及びMw/Mnが上記範囲にあることによって、液晶素子の良好な液晶配向性を確保することができる。
【0077】
本開示の液晶配向剤における重合体[P]の含有割合は、液晶配向剤に含まれる固形分(液晶配向剤の溶媒以外の成分)100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましい。
【0078】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、上記式(1)で表される部分構造を有しない重合体(以下、「重合体[Q]」ともいう。)、架橋剤、官能性シラン化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。これらの配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0079】
(重合体[Q])
重合体[Q]は、例えば、電圧保持率の低下を抑制する目的や、液晶配向性の向上を図る目的等により使用される。重合体[Q]の主骨格は特に限定されないが、例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリアセタール、付加重合体を主骨格とする重合体が挙げられる。付加重合体は、重合性不飽和炭素-炭素結合を有する単量体に由来する構造単位を含む重合体であり、例えば、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、マレイミド系重合体、スチレン-マレイミド系共重合体等が挙げられる。重合体[Q]は、これらのうち、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0080】
なお、光配向処理用の液晶配向剤とする場合、重合体[P]として感光性の重合体を含むとともに、重合体[Q]として非感光性の重合体を含むものとしてもよい。あるいは、重合体[P]として非感光性の重合体を含むとともに、重合体[Q]として感光性の重合体を含むものとしてもよい。また、重合体[P]及び重合体[Q]の両方が感光性の重合体を含んでいてもよい。
【0081】
重合体[Q]を液晶配向剤に含有させる場合、重合体[Q]の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分(すなわち、重合体[P]と重合体[Q]との合計量)100質量部に対して、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。
【0082】
(架橋剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]と共に架橋剤を含有していてもよい。架橋剤を含むことで、液晶配向膜の形成時に重合体成分の架橋反応を進行させることができ、液晶配向膜と液晶との間に形成されるプレチルト角の安定性の更なる向上を図ることができる。
【0083】
架橋剤としては、環状エーテル基(オキセタニル基、オキシラニル基等)、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基(アルケニル基、ビニルエーテル基、ビニルフェニル基、マレイミド基、(メタ)アクリロイル基等)、保護されたアミノ基、β-ヒドロキシアルキルアミド基、β-アルコキシアルキルアミド基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボジイミド基、保護されたカルボキシ基、基「-CR20=CR21-R22-」(ただし、R20は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R21は水素原子又はアルキル基、R22は電子求引性基である。)、シラノール基、及びアルコキシシリル基等の架橋性基の1種又は2種以上を分子内に2個以上有する化合物を好ましく使用することができる。反応性と保存安定性とのバランスを良好に保つ観点から、これらの中でも、環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、保護されたアミノ基、基「-CR20=CR21-R22-」、シラノール基、及びアルコキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を分子内に2個以上有する化合物を好ましく使用でき、環状エーテル基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、及び保護されたアミノ基よりなる群から選択される少なくとも1種を分子内に2個以上有する化合物をより好ましく使用することができる。
【0084】
本開示の液晶配向剤が架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有割合は、本開示の液晶配向剤に含まれる重合体成分(重合体[P]と重合体[Q]との合計量)100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。
【0085】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体[P]及び必要に応じて使用される成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物として調製される。
【0086】
使用する有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジイソブチルケトン、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロペンタノン等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0087】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性等を考慮して適宜に選択することができる。液晶配向剤の固形分濃度は、好ましくは1~10質量%の範囲である。すなわち、液晶配向剤は、後述するように基板表面に塗布され、好ましくは加熱されることにより、液晶配向膜である塗膜又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。このとき、固形分濃度が1質量%以上である場合には、塗膜の膜厚を十分に確保でき、良好な液晶配向膜が得られやすい傾向がある。固形分濃度が10質量%以下である場合には、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また液晶配向剤の粘性の増大を抑制でき、塗布性を良好にできる傾向がある。
【0088】
特に好ましい固形分濃度の範囲は、液晶配向剤の用途や、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えば、液晶表示素子用の液晶配向剤の場合、スピンナー法により基板に塗布する場合には、固形分濃度(液晶配向剤中の溶媒以外の全成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)が1.5~4.5質量%の範囲であることが特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3~9質量%の範囲とし、それにより溶液粘度を12~50mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1~5質量%の範囲とし、それにより、溶液粘度を3~15mPa・sの範囲とすることが特に好ましい。液晶配向剤を調製する際の温度は、好ましくは10~50℃であり、より好ましくは20~30℃である。また、位相差フィルム用の液晶配向剤の場合、液晶配向剤の塗布性及び形成される塗膜の膜厚を適度にする観点から、液晶配向剤の固形分濃度が0.2~10質量%の範囲であることが好ましく、3~10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0089】
《液晶配向膜及び液晶素子》
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型(VA-MVA型、VA-PVA型等を含む)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA(Polymer Sustained Alignment)型といった種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0090】
(工程1:塗膜の形成)
先ず、基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラス等のガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)等のプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一方の面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標 、酸化インジウム-酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型、VA型又はPSA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた透明導電膜又は金属膜からなる電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。金属膜としては、例えばクロムなどの金属からなる膜を使用することができる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、オフセット印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行うことが好ましい。
【0091】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、必要に応じて、溶剤を完全に除去したり重合体に存在するアミック酸構造を熱イミド化したりすることを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。基板上に液晶配向剤を塗布した後、有機溶媒を除去することによって、液晶配向膜、又は液晶配向膜となる塗膜が形成される。
【0092】
(工程2:配向処理)
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜の表面をコットン等で擦るラビング処理、及び塗膜に光照射を行って液晶配向能を付与する光配向処理が挙げられる。特に、本開示の液晶配向剤は、当該液晶配向剤を用いて形成された塗膜に光照射処理を施して液晶配向能を付与する光配向剤として好ましく適用できる。一方、垂直配向型(VA型)の液晶素子を製造する場合には、工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜はPSA型の液晶素子にも好ましく用いることができる。
【0093】
光配向処理における光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線又は可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0094】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタ
ルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等を使用することができる。放射線の照射量は、好ましくは400~20,000J/m2であり、より好ましくは1,000~5,000J/m2である。塗膜に対する光照射は、反応性を高めるために塗膜を加温しながら行ってもよい。
【0095】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された塗膜を120℃以上280℃以下の温度範囲内で加熱することにより液晶配向性を更に改善するようにしてもよい(加熱再配列)。この加熱は、ポストベークであってもよく、ポストベークとは別にポストベーク後に行う加熱処理であってもよい。光照射処理が施された塗膜に対する加熱処理に際し、加熱温度は、加熱による分子鎖の再配向を促進させる観点から、140℃以上とすることが好ましく、150℃~250℃とすることがより好ましい。加熱時間は、好ましくは5分~200分、より好ましくは10分~60分である。
【0096】
液晶配向膜の製造に際し、光照射処理が施された塗膜を、水、水溶性有機溶媒、又は水と水溶性有機溶媒との混合溶媒に接触させる工程を更に含んでいてもよい。ここで、水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロペンタノンが挙げられる。本工程で用いる溶媒は、これらのうち、水、イソプロパノール及びこれらの混合物が好ましい。塗膜と溶媒との接触方法としては、例えば噴霧(スプレー)処理、シャワー処理、浸漬処理、液盛り処理等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塗膜と溶媒との接触時間は特に限定されず、例えば5秒~15分である。溶媒との接触後には塗膜の加熱処理を行ってもよい。
【0097】
(工程3:液晶セルの構築)
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、(1)液晶配向膜が対向するように間隙(スペーサー)を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤により貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填した後、注入孔を封止する方法、(2)液晶配向膜を形成した一方の基板上の所定の場所にシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶を滴下した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせるとともに液晶を基板の全面に押し広げる方法(ODF方式)等が挙げられる。製造した液晶セルにつき更に、用いた液晶が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0098】
シール剤としては、例えば、硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。スペーサーとしては、フォトスペーサー、ビーズスペーサー等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができる。これらの中でもネマチック液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶等を用いることができる。また、これらの液晶に、コレステリック液晶、カイラル剤、強誘電性液晶等を添加して使用してもよい。
【0099】
PSAモードでは、液晶とともに重合性化合物(例えば、多官能(メタ)アクリレート化合物等)をセルギャップ内に充填するとともに、液晶セルの構築後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。PSA型の液晶素子の製造に際し、重合性化合物の使用割合は、液晶の合計100質量部に対して、例えば0.01~3質量部、好ましくは0.05~1質量部である。
【0100】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0101】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA 、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイ等の各種表示装置や、調光フィルム等に用いることができる。また、本開示の液晶配向剤を用いて形成された液晶素子を位相差フィルムに適用することもできる。
【0102】
以上説明した本開示によれば、以下の手段が提供される。
〔手段1〕 上記式(1)で表される部分構造(a)を有する重合体[P]を含有する、液晶配向剤。
〔手段2〕 前記重合体[P]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリアミドよりなる群から選択される少なくとも1種である、〔手段1〕に記載の液晶配向剤。
〔手段3〕 前記重合体[P]は、前記部分構造(a)を有するジアミン化合物に由来する構造単位を含む、〔手段1〕又は〔手段2〕に記載の液晶配向剤。
〔手段4〕 前記重合体[P]は、上記式(2)で表される構造単位及び上記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、〔手段1〕~〔手段3〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段5〕 上記式(1)で表される部分構造(a)を有しない重合体[Q]を更に含有する、〔手段1〕~〔手段4〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段6〕 前記重合体[Q]は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び付加重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔手段5〕に記載の液晶配向剤。
〔手段7〕 環状エーテル基、環状チオエーテル基、イソシアネート基、保護されたイソシアネート基、メチロール基、保護されたメチロール基、環状カーボネート基、重合性炭素-炭素結合を有する基、保護されたアミノ基、基「-CR20=CR21-R22-」(ただし、R20は、アミノ基との反応により脱離する1価の有機基である。R21は水素原子又はアルキル基、R22は電子求引性基である。)、シラノール基、及びアルコキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の基を分子内に2個以上有する化合物を更に含有する、〔手段1〕~〔手段6〕のいずれかに記載の液晶配向剤。
〔手段8〕 〔手段1〕~〔手段7〕のいずれか一項に記載の液晶配向剤により形成された液晶配向膜。
〔手段9〕 〔手段8〕に記載の液晶配向膜を備える液晶素子。
〔手段10〕 ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル又はポリイミドであって、上記式(2)で表される構造単位及び上記式(3)で表される構造単位よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、重合体。
〔手段11〕 上記式(4)で表される化合物。
【実施例0103】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例によって本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0104】
以下の例では、重合体溶液中のポリイミドのイミド化率、並びに重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を以下の方法により測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
ポリイミドの溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式によりイミド化率[%]を求めた。
イミド化率[%]=(1-(A1/(A2×α)))×100
(数式中、A1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積である。A2はその他のプロトン由来のピーク面積である。αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
[重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
装置:昭和電工(株)の「GPC-101」
GPCカラム:(株)島津ジーエルシー製の「GPC-KF-801」、「GPC-KF-802」、「GPC-KF-803」及び「GPC-KF-804」を結合
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:1.0質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0105】
以下の例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0106】
化合物の略号は以下のとおりである。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と示すことがある。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
<化合物の合成>
[合成例1A]
下記スキームに従い化合物(DA-1)を合成した。
【化25】
【0112】
100mLナスフラスコにピリジン-3-メチルアミンを2.51g(23.1mmol)、テトラヒドロフランを30mL加え、氷浴で0℃に冷却した。続いて2-(2,4-ジニトロフェニル)酢酸5.23g(23.1mmol)、及びHOBt 3.89g(25.4mmol)を加え、0℃で30分間撹拌を継続した。次いで、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を27.7mmol加えた。その後、反応温度を室温まで昇温し、3時間攪拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、蒸留水300mLへ反応液を滴下し、白色固体を析出させた。固体を濾別し、蒸留水で洗浄して乾燥させることで、化合物(DA-1-1)を5.68g得た(収率78%)。化合物(DA-1-1)の
1H-NMR測定データは以下のとおりである。
1H-NMR (DA-1-1,400MHz,DMSO-d6, δ ppm): δ4.11 (s, 2H), 4.32 (d, 2H), 7.36 (dd, 1H), 7.66 (dt, 1H), 7.85 (d, 1H), 8.49-8.53 (m, 3H), 8.74-8.75 (m, 2H).
次いで、100mLナスフラスコに化合物(DA-1-1)を3.00g(9.49mmol)、テトラヒドロフラン20mL、及びエタノール20mLを加えた後、白金-活性炭素(含水型:5wt%)を1.48g加え、氷浴で0℃に冷却した。反応溶液を撹拌しつつ、ヒドラジン一水和物2.85g(56.9mmol)を滴下した。0℃で30分間撹拌を継続した後、反応温度を室温まで昇温し、更に5時間撹拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、反応溶液をセライトにて濾過後、残留物をエタノール/蒸留水=5/1(質量比)の混合溶媒を用いてリンスした。その後、エバポレーターで濾液を濃縮、乾固させた。得られた固体をエタノールに分散させ、洗浄濾過することで化合物(DA-1)を1.37g得た(収率56%)。化合物(DA-1)の
1H-NMR測定データは以下のとおりである。また、化合物(DA-1)の
1H-NMRスペクトルを
図1に示す。
1H-NMR (DA-1, 400 MHz, DMSO-d6, δppm): δ3.18 (s, 2H), 4.26 (d, 2H), 4.63 (s, 2H), 4.81 (s, 2H), 5.81 (dd, 1H), 5.90 (d, 1H), 6.64 (d, 1H), 7.32 (dd, 1H), 7.60 (dt, 1H) 8.41-8.44 (m, 3H).
【0113】
[合成例2A、4A~6A、8A、9A]
使用する原料を下記表1のとおり変更した点以外は合成例1Aと同様にして化合物(DA-2)、化合物(DA-4)~化合物(DA-6)、化合物(DB-8)、化合物(DB-9)をそれぞれ合成した。
【0114】
【0115】
[合成例3A]
下記スキームに従い化合物(DA-3)を合成した。
【化26】
【0116】
100mLナスフラスコに3-ピリジンメタノールを3.43g(31.4mmol)、テトラヒドロフランを30mL加え、氷浴で0℃に冷却した。続いて2-(2,4-ジニトロフェニル)酢酸7.10g(31.4mmol)、及びN,N-ジメチル-4-アミノピリジン4.21g(34.5mmol)を加え、0℃で30分間撹拌を継続した。次いで、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を7.19g(37.7mmol)加えた。その後、反応温度を室温まで昇温し、3時間撹拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、蒸留水300mLへ反応液を滴下し、白色固体を析出させた。固体を濾別し、蒸留水で洗浄して乾燥させることで、化合物(DA-3-1)を4.30g得た(収率43.2%)。
次いで、100mLナスフラスコに化合物(DA-3-1)を3.00g(9.46mmol)、テトラヒドロフラン20mL、及びエタノール20mLを加えた後、白金-活性炭素(含水型:5wt%)を1.48g加え、氷浴で0℃に冷却した。反応溶液を撹拌しつつ、ヒドラジン一水和物2.84g(56.8mmol)を滴下した。0℃で30分間撹拌を継続した後、反応温度を室温まで昇温し、更に5時間攪拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、反応溶液をセライトにて濾過後、残留物をエタノール/蒸留水=5/1(質量比)の混合溶媒を用いてリンスした。その後、エバポレーターで濾液を濃縮、乾固させた。得られた固体をエタノールに分散させ、洗浄濾過することで化合物(DA-3)を1.21g得た(収率49.7%)。
【0117】
[合成例7A]
下記スキームに従って化合物(DA-7)を合成した。
【化27】
【0118】
100mLナスフラスコに3-(2,5ジニトロフェニル)プロパン-1-アミンを5.58g(24.8mmol)、テトラヒドロフランを30mL加え、氷浴で0℃に冷却した。続いてニコチン酸3.05g(24.8mmol)、及びHOBt 4.18g(27.3mmol)を加え、0℃で30分間撹拌を継続した。次いで、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩を5.71g(29.8mmol)加えた。その後、反応温度を室温まで昇温し、3時間撹拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、蒸留水300mLへ反応液を滴下し、白色固体を析出させた。固体を濾別し、蒸留水で洗浄して乾燥させることで、化合物(DA-3-1)を5.47g得た(収率66.8%)。
次いで、100mLナスフラスコに化合物(DA-7-1)を3.00g(9.08mmol)、テトラヒドロフラン20mL、及びエタノール20mLを加えた後、白金-活性炭素(含水型:5wt%)を1.48g加え、氷浴で0℃に冷却した。反応溶液を撹拌しつつ、ヒドラジン一水和物2.73g(54.5mmol)を滴下した。0℃で30分間撹拌を継続した後、反応温度を室温まで昇温し、更に5時間撹拌した。LC-MS分析にて反応終了を確認後、反応溶液をセライトにて濾過後、残留物をエタノール/蒸留水=5/1(質量比)の混合溶媒を用いてリンスした。その後エバポレーターで濾液を濃縮、乾固させた。得られた固体をエタノールに分散させ、洗浄濾過することで化合物(DA-7)を1.32g得た(収率53.8%)。
【0119】
<重合体の合成>
1.ポリアミック酸の合成
[合成例1]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-1)50モル部及び化合物(TA-3)50モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-6)20モル部、化合物(DB-1)10モル部、化合物(DB-3)10モル部及び化合物(DB-5)60モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸(これを重合体(PI-1)とする。)を15質量%含有する溶液を得た。
【0120】
[合成例2~6,9~12,17~20]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表1に記載のとおり変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(重合体(PI-2)~(PI-6),(PI-9)~(PI-12),(PI-17)~(PI-20))を得た。なお、表1中、酸二無水物の数値は、ポリアミック酸の合成に使用したテトラカルボン酸二無水物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。ジアミン化合物の数値は、ポリアミック酸の合成に使用したジアミン化合物の全量100モル部に対する各化合物の割合(モル比)を表す。
【0121】
2.ポリイミドの合成
[合成例7]
テトラカルボン酸二無水物として化合物(TA-2)40モル部、化合物(TA-3)40モル部及び化合物(TA-4)20モル部、ジアミン化合物として化合物(DA-5)30モル部、化合物(DB-2)30モル部及び化合物(DB-5)40モル部をNMPに溶解し、40℃で6時間反応を行い、ポリアミック酸を15質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加してポリアミック酸濃度10質量%の溶液とし、ピリジン及び無水酢酸を添加して60℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなNMPで溶媒置換することにより、イミド化率約65%のポリイミド(これを重合体(PI-7)とする。)を15質量%含有する溶液を得た。
【0122】
[合成例8,13~16]
使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を表2に記載のとおり変更した以外は合成例7と同様の操作を行い、ポリイミド(重合体(PI-8),(PI-13)~(PI-16)を得た。
【0123】
【0124】
3.ポリオルガノシロキサンの合成
[合成例21]
1000mL三口フラスコに、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(化合物(s-1))100.0g、メチルイソブチルケトン500g、及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサンである重合体(ESSQ-1)の50質量%溶液を得た。
500mL三口フラスコに、化合物(C-4)7.94g(重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対して30モル%)、テトラブチルアンモニウムブロミド1.00g、重合体(ESSQ-1)含有溶液20.0g、及びメチルイソブチルケトン60gを加え、90℃で18時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返した後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調整し、ポリオルガノシロキサン(これを重合体(PS-1)とする。)のNMP溶液を得た。
【0125】
[合成例22]
反応に使用する側鎖カルボン酸の種類及び量を表3に記載のとおり変更した点以外は合成例21と同様にして、ポリオルガノシロキサンである重合体(PS-2)を10質量%含有するNMP溶液を得た。なお、表3中、側鎖カルボン酸の数値は、重合体(ESSQ-1)が有するエポキシ基量に対する割合(側鎖変性率、モル%)を表す。
【0126】
【0127】
4.付加重合体の合成
[合成例23]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(M-2)20モル部、化合物(M-4)40モル部及び化合物(M-5)40モル部、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2モル部、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン50mLを加え、70℃で5時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで、付加重合体(これを重合体(PM-1)とする。)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは52,500、分子量分布Mw/Mnは2.65であった。
【0128】
[合成例24,25]
反応に使用する重合モノマーの種類及び量を表4に記載のとおり変更した点以外は合成例23と同様にして、付加重合体である重合体(PM-2)、重合体(PM-3)をそれぞれ得た。なお、表4中、モノマーの数値は、合成に使用したモノマーの全量100モル部に対する各化合物の使用割合(モル部)を表す。
【0129】
【0130】
<液晶配向剤の調製及び評価>
[実施例1:光垂直型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例1で得た重合体(PI-18)100質量部を含む溶液と、合成例12で得た重合体(PI-12)20質量部を含む溶液とを混合し、更にNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0131】
(2)微細凹凸表面への塗布性評価
図1に示す評価用ITO電極基板10を用いて、微細凹凸表面に対する液晶配向剤の塗布性を評価した。評価用ITO電極基板10としては、ガラス基板11の一方の表面に、ストライプ形状のITO電極12が所定間隔をあけて複数配置された基板を使用した(
図1参照)。なお、電極幅Aは50μm、電極間距離Bは2μm、電極高さCは0.2μmとした。この評価用ITO電極基板10の電極形成面に、濡れ性評価装置LSE-A100T(ニック社製)を用いて、上記1.で調製した液晶配向剤(AL-1)を滴下し、基板の凹凸表面への馴染みやすさを評価した。このとき、液量に対する液滴の濡れ広がり面積S(mm
2/μL)が大きいほど、液滴の濡れ広がりが大きく、微細凹凸表面に対する液晶配向剤の塗布性が良好であるといえる。
評価は、面積Sが12mm
2/μL以上である場合に「特に良好(◎)」、面積Sが10mm
2/μL以上12mm
2/μL未満である場合に「良好(○)」、面積Sが5mm
2/μLよりも大きく10mm
2/μL未満である場合に「可(△)」、面積Sが5mm
2/μL以下である場合に「不良(×)」とした。その結果、本実施例では、面積Sは10mm
2/μLであり、微細凹凸表面への塗布性は「良好(○)」と判断された。
【0132】
(3)膜の密着性(狭線密着性)の評価
液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで2分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.10μmの塗膜を形成した。これと同様の操作を繰り返すことにより、塗膜が形成されたガラス基板を2枚作製した。塗膜を形成した1枚のガラス基板の塗膜上に、ODFシール剤(積水化学社製、S-WB42)を幅が0.5mmになるように塗布し、もう一枚のガラス基板の塗膜とODFシール剤とが接触するように貼り合わせた。その後、メタルハライドランプを用いて30,000J/m2(365nm換算)の光を照射した後、120℃のオーブンで1時間加熱した。その後、今田製作所の引張圧縮試験機(型番:SDWS-0201-100SL)を用いて密着力を測定することにより、基板に対する膜の密着性を評価した。評価は、密着力が175N/cm2以上であった場合を「特に良好(◎)」、150N/cm2以上175N/cm2未満であった場合を「良好(○)」、125N/cm2以上150N/cm2未満であった場合を「可(△)」、125N/cm2未満であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では密着力187N/cm2であり、密着性「特に良好(◎)」の評価であった。
【0133】
(4)光垂直型液晶表示素子(UV2A)の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL-1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/m2を、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
液晶配向膜を有する2枚の基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷し、光垂直型液晶セルを製造した。
【0134】
(5)電圧保持率(VHR)の評価
上記(4)で製造した光垂直型液晶セルにつき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置には(株)東陽テクニカ製VHR-1を使用した。このとき、電圧保持率が95%以上の場合に「良好(○)」、80%以上95%未満の場合に「可(△)」、80%未満の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例では、電圧保持率は「○(良好)」の評価であった。
【0135】
(6)高温環境下でのバックライト照射による信頼性の評価
上記(4)で製造した液晶セルにつき、電圧保持率により高温環境下でのバックライト照射による信頼性を評価した。評価は以下のようにして行った。まず、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR1)を測定した。次いで、液晶セルにCCFL(バックライト)を60℃で1週間照射した後、室温中に静置して室温まで自然冷却した。冷却後、液晶セルに1Vの電圧を60マイクロ秒印加した後、印加解除から1670ミリ秒後の電圧保持率(VHR2)を測定した。なお、測定装置には、東陽テクニカ社製VHR測定装置「VHR-1」を使用した。このときのVHRの変化率(ΔVHR)をVHR1とVHR2との差分(ΔVHR=VHR1-VHR2)により算出し、ΔVHRによって信頼性を評価した。ΔVHRが5%未満であった場合を「特に良好(◎)」、5%以上10%未満であった場合を「良好(○)」、10%以上20%以下であった場合を「可(△)」、20%よりも大きかった場合を「不良(×)」と判定した。その結果、この実施例の高温環境下でのバックライト照射による信頼性の評価は「特に良好(◎)」の評価であった。
【0136】
(7)電荷蓄積量(RDC)の測定及び評価
上記(4)で製造した液晶セルを用い、60℃で2Vの直流電圧を10分間印加した後、0.2秒の間ショートし、その後に10分間、開放状態に保ったときの液晶セル内に蓄積した電圧を誘電吸収法により測定した。得られた測定値により電荷蓄積特性の評価を行った。評価は、電荷蓄積量が0.05V以下であった場合を「特に良好(◎)」、電荷蓄積量が0.05Vよりも大きく0.1V以下の場合を「良好(○)」、電荷蓄積量が0.1Vよりも大きく0.2V以下の場合を「可(△)」、電荷蓄積量が0.2Vよりも大きい場合を「不良(×)」とした。その結果、この液晶セルの電荷蓄積特性の評価は「良好(○)」であった。
【0137】
[実施例2~8、実施例19及び比較例1]
液晶配向剤の組成を表5のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にして光配向法により垂直配向型液晶セルを製造し、各種評価を行った。それらの結果を表6に示す。表5中、重合体1、重合体2及び添加剤の数値は質量部を表す。
【0138】
[実施例9:PSA型液晶表示素子]
(1)液晶配向剤(AL-1)の調製
合成例6で得た重合体(PI-6)100質量部を含む溶液と、合成例13で得た重合体(PI-13)30質量部を含む溶液とを混合し、更にNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-9)を調製した。
【0139】
(2)微細凹凸表面への塗布性評価、膜の密着性(狭線密着性)の評価
液晶配向剤(AL-9)を用いた以外は実施例1と同様にして微細凹凸表面への塗布性評価、膜の密着性(狭線密着性)の評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0140】
(3)液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)10gに対し、下記式(L1-1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2-1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合し、液晶組成物LC1を得た。
【化28】
【0141】
(4)PSA型液晶表示素子の製造
上記で調製した液晶配向剤(AL-9)を、スリット状にパターニングされたITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.06μmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/m2の照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。
【0142】
(5)電圧保持率(VHR)の評価、高温環境下でのバックライト照射による信頼性の評価、電荷蓄積量(RDC)の測定及び評価
上記(4)で製造したPSA型液晶セルを用いた以外は実施例1と同様にして電圧保持率(VHR)の評価、高温環境下でのバックライト照射による信頼性の評価、電荷蓄積量(RDC)の測定及び評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0143】
[実施例10~18及び比較例2~4]
液晶配向剤の組成を表5のとおりに変更した以外は実施例9と同様にして液晶配向剤を調製した。また、得られた液晶配向剤を用いて、実施例9と同様にしてPSA型液晶セルを製造し、各種評価を行った。それらの結果を表6に示す。
【0144】
【0145】
表5中、溶剤の略称は以下の化合物を表す。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
NEP:N-エチル-2-ピロリドン
BC:ブチルセロソルブ
DIBK:ジイソブチルケトン
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
DMM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
MB:3-メトキシ-1-ブタノール
GBL:ガンマブチロラクトン
CPN:シクロペンタノン
【0146】
【0147】
表6に示すように、実施例1~19は、微細凹凸表面への塗布性、膜の密着性(狭線密着性)、電圧保持率、高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性、電荷蓄積量の評価
の評価がいずれも「特に良好」又は「良好」であり、各種特性がバランス良く発現された。これらの各評価において、信頼性及び膜の密着性に関しては、部分構造(a)中の芳香環基に結合するアルカンジイル基にアミド結合が結合している場合に良化する傾向が見られ、特に良好(◎)の評価であった。また、塗布性に関しては、部分構造(a)中の芳香族複素環基が窒素含有芳香族複素環基であり、かつ熱脱離性基を有する重合体(PI-4)又は重合体(PI-7)を用いることにより良化する傾向が見られた。
【0148】
これに対し、比較例1~4は、電圧保持率は高い値を示したものの、微細凹凸表面への塗布性及び膜の密着性(狭線密着性)の評価が不良(×)であり、高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性の評価は可(△)であり、実施例1~19よりも劣っていた。また、比較例3,4については電荷蓄積量の評価も可(△)であった。
【0149】
なお、部分構造(a)を有する重合体[P]を液晶配向膜の重合体成分として用いることにより上記の効果を示した理由は定かではないが、仮説として、(I)上記式(1)中のX1、又はX1とX5を重合体中に導入することにより、電子状態への影響が抑制されてAr1又はAr2周辺の極性基の塩基性が高くなり、解重合成分の発生が抑制され信頼性が向上したこと、(II)分子間相互作用による主鎖の束縛が緩和されて溶解性が向上したこと、(III)水素結合による物理架橋に加えて応力緩和効果が得られたことにより基板との密着性が向上したこと等が考えられる。ただし、これらはあくまで推測であり、本発明を限定するものではない。
【0150】
以上の結果から、部分構造(a)を有する重合体[P]を含む液晶配向剤によれば、良好な塗布性を示しながら、高い電圧保持率を保ちつつ、残留電荷の蓄積を抑制でき、基板に対する密着性が高く、かつ高温環境下でのバックライト照射に対する信頼性に優れた液晶配向膜を形成できることが明らかになった。