(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064029
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】逆流防止具及び逆流防止方法
(51)【国際特許分類】
E03F 7/02 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
E03F7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172313
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】302054442
【氏名又は名称】株式会社サワヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 東志郎
(57)【要約】
【課題】安価で製造でき、設置が容易な逆流防止具及び逆流防止方法を提供する。
【解決手段】 本発明の逆流防止具2は、地中に埋設された排水管106から上方に地面までのびる公共汚水桝107の内部に配置されて下水道本管109からの下水202の逆流を防ぐ逆流防止具である。垂直方向にのびる棒状部材40と、棒状部材の少なくとも下部を内包した状態で、上部開口31が棒状部材の周囲に水密状態で固定される袋状部材30とを備えており、袋状部材の内部に水200を貯留する。逆流防止具は棒状部材及び袋状部材で構成されているため構造が簡易であり、安価に製造できる。また、袋状部材に水を貯留させた状態で公共汚水桝の内部に配置するだけなので設置が容易である。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された排水管から上方に地面までのびる公共汚水桝の内部に配置されて下水道本管からの下水の逆流を防ぐ逆流防止具であり、
垂直方向にのびる棒状部材と、
前記棒状部材の少なくとも下部を内包した状態で、上部開口が前記棒状部材の周囲に水密状態で固定される袋状部材とを備えており、
前記袋状部材の内部に水を貯留して成ることを特徴とする逆流防止具。
【請求項2】
前記棒状部材は前記公共汚水桝の内部に配置された状態で前記排水管の内部に流出しない長さであることを特徴とする請求項1に記載の逆流防止具。
【請求項3】
前記棒状部材がその内部に貫通穴を有する筒状であり、
前記貫通穴の上端から注がれた水が前記袋状部材の内部に貯留されることを特徴とする請求項1に記載の逆流防止具。
【請求項4】
更に、前記棒状部材の下端から水平方向に広がる板状部材を備えており、
前記袋状部材は、前記棒状部材の少なくとも下部と前記板状部材とを内包した状態で、上部開口が前記棒状部材の周囲に水密状態で固定されることを特徴とする請求項1に記載の逆流防止具。
【請求項5】
前記板状部材は前記公共汚水桝の内部に配置された状態で前記排水管の内部に流出しない形状であることを特徴とする請求項4に記載の逆流防止具。
【請求項6】
前記棒状部材がその内部に貫通穴を有する筒状であり、
前記板状部材が開口部を備えており、
前記貫通穴と前記開口部とが連通しており、前記貫通穴の上端から注がれた水が前記開口部を通過して前記袋状部材の内部に貯留されることを特徴とする請求項4に記載の逆流防止具。
【請求項7】
請求項1又は4に記載の逆流防止具を使用する逆流防止方法であり、
前記逆流防止具を前記公共汚水桝の内部に配置した状態で前記公共汚水桝の内部に水を注ぐことを特徴とする逆流防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水道本管から住宅等の施設内への汚水の逆流を防止する逆流防止具及び逆流防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や各種施設にはトイレ、台所、洗面、風呂、洗濯機等の排水器具からの排水を下水道本管に流すための排水システムが設けられている。
一般的な排水システムでは排水器具からの排水は排水管を通って私設の汚水桝(「接続桝」とも言う。)を通過し、公共汚水桝(「公共桝」とも言う。)で合流して最終的に下水道本管に流される仕組みになっている。
公共汚水桝は地中の排水管から垂直に上方に地面までのびており、上端の開口は蓋により開閉自在になっている。公共汚水桝は排水管の点検及び清掃のために設けられる。
ところが、集中豪雨等により排水システムの処理能力の限界を超えると、下水が下水道本管から排水管へ逆流し、汚水桝を通ってトイレ、風呂等から噴出してしまうという問題がある。
【0003】
例えば特許文献1には排水器具と下水道本管を繋ぐ排水管に逆流防止弁と貯留部を備えた排水システムが開示されている。この排水システムによれば下水道本管から逆流してきた汚水を逆流防止弁で停止させると共に、排水器具からの排水を非常時終了まで一時的に貯留部に貯留できるという効果を得られる。
特許文献2には、通常時は浮子の重みで開閉蓋が開いて弁口が完全に開口しており、増水時には浮子が浮上していくことによって開閉蓋が閉じる方向に動作し、最終的に開閉蓋の自重で全閉となる逆止弁装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-89316号公報
【特許文献2】実用新案登録第3136061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では次のような問題がある。
特許文献1のような貯留部を設けるには大掛かりな工事が必要になり、費用が膨大になるという問題がある。また、特許文献1及び2のような逆止弁の場合、通常時も設置したままで使用し続ける仕組みであるため、経年劣化による部品の破損や汚れの蓄積等により非常時に作動しない可能性があるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を考慮して、安価で製造でき、設置が容易な逆流防止具及び逆流防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の逆流防止具は、地中に埋設された排水管から上方に地面までのびる公共汚水桝の内部に配置されて下水道本管からの下水の逆流を防ぐ逆流防止具であり、垂直方向にのびる棒状部材と、前記棒状部材の少なくとも下部を内包した状態で、上部開口が前記棒状部材の周囲に水密状態で固定される袋状部材とを備えており、前記袋状部材の内部に水を貯留して成ることを特徴とする。
また、前記棒状部材は前記公共汚水桝の内部に配置された状態で前記排水管の内部に流出しない長さであることを特徴とする。
また、前記棒状部材がその内部に貫通穴を有する筒状であり、前記貫通穴の上端から注がれた水が前記袋状部材の内部に貯留されることを特徴とする。
また、更に、前記棒状部材の下端から水平方向に広がる板状部材を備えており、前記袋状部材は、前記棒状部材の少なくとも下部と前記板状部材とを内包した状態で、上部開口が前記棒状部材の周囲に水密状態で固定されることを特徴とする。
また、前記板状部材は前記公共汚水桝の内部に配置された状態で前記排水管の内部に流出しない形状であることを特徴とする。
また、前記棒状部材がその内部に貫通穴を有する筒状であり、前記板状部材が開口部を備えており、前記貫通穴と前記開口部とが連通しており、前記貫通穴の上端から注がれた水が前記開口部を通過して前記袋状部材の内部に貯留されることを特徴とする。
本発明の逆流防止方法は、上記逆流防止具を使用する逆流防止方法であり、前記逆流防止具を前記公共汚水桝の内部に配置した状態で前記公共汚水桝の内部に水を注ぐことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の逆流防止具は棒状部材及び袋状部材で構成されているため構造が簡易であり、安価で製造できる。
更に板状部材を使用する場合でも構造は簡易であり、安価で製造できる。
また、袋状部材に水を貯留させた状態で公共汚水桝の内部に配置するだけなので設置が容易である。
逆流防止具を公共汚水桝の内部に配置した状態で棒状部材や板状部材を排水管の内部に流出しない長さや形状にすることで、逆流防止具が排水管の内部に流れていってしまう事態を防止できる。
棒状部材の貫通穴と板状部材の開口部とを連通させることで、貫通穴の上端から注いだ水を容易に袋状部材の内部に貯留することができる。
逆流防止具を公共汚水桝の内部に配置した状態で公共汚水桝の内部に水を注ぐことで袋状部材の表面と公共汚水桝の内面との間に生じる隙間を水で埋めることができるので、隙間から汚水が漏れる事態を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図5】袋状部材の内部に水を貯留した状態を示す断面図
【
図6】逆流防止方法を説明するための概略図(a)~(c)
【
図11】逆流防止方法を説明するための概略図(a)~(c)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本発明の逆流防止具及び逆流防止方法の第1の実施の形態について説明する。
図1は一般的な排水システム100を示している。具体的には、トイレ101、風呂102、台所103等の各排水器具104に対して地中に汚水桝105が設けられており、各汚水桝105は排水管106で連結されている。公共汚水桝107は排水管106から上方に地面までのびており、上端の開口は蓋108により開閉自在になっている。公共汚水桝107は排水管106の点検及び清掃のために設けられる。
各排水器具104からの排水は排水管106を通って汚水桝105を通過し、公共汚水桝107で合流して最終的に下水道本管109に流される。
【0011】
図2及び
図3に示す本発明の逆流防止具1は公共汚水桝107の内部に配置されて、下水道本管109からの下水の逆流を防ぐための器具である。具体的には逆流防止具1は棒状部材10、板状部材20、袋状部材30を備える。
棒状部材10は垂直方向にのびる部材であり、本実施の形態では内部に貫通穴11を有する筒状である。
板状部材20は棒状部材10の下端から水平方向に広がる部材である。本実施の形態では板状部材20を円形で表わしているが、円形に限らず三角形以上の多角形や楕円形でもよい。板状部材20は公共汚水桝107の内部に配置された状態で排水管106の内部に流出しない形状にするのが好ましい。例えば排水管106の内径が150ミリの場合、板状部材20の直径を150ミリよりも大きくするのが好ましい。なお、排水管106の内部の断面形状は必ずしも円形ではなく、凹凸が存在して複雑な形状になっている場合がある。
棒状部材10及び板状部材20はポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂材料やステンレス、アルミニウム、鉄等の周知の金属材料から成る。
【0012】
板状部材20はそのほぼ中央に開口部21を備えており、
図4に示すように棒状部材10の貫通穴11と開口部21とが連通している。袋状部材30はポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の周知の材料から成る。
袋状部材30は上部開口31を備える部材である。袋状部材30は棒状部材10の少なくとも下部と板状部材20とを内包した状態で、上部開口31が棒状部材10の周囲に粘着テープ等の周知の固定手段により水密状態で固定される。
図5に示すように貫通穴11の上端から注がれた水200が開口部21を通過して袋状部材30の内部に貯留される。貫通穴11の上端は蓋12で塞ぐことができる。
【0013】
次に、逆流防止具1を使用した逆流防止方法について説明する。
台風等の影響で集中豪雨が発生するおそれがある場合、使用者は蓋12を開けて棒状部材10の上端から貫通穴11に水200を注いで袋状部材30に水200を貯留しておく。水200の貯留が完了したら蓋12を閉めておく。
次に、
図6(a)に示すように使用者は公共汚水桝107の内部に逆流防止具1を配置する。袋状部材30の内部の水200は重力により水平方向に広がるので、袋状部材30も水平方向に広がった状態になり、袋状部材30の一部は公共汚水桝107を挟んだ左右の排水管106L,106Rの内部にまで至る。
【0014】
次に、
図6(b)に示すように使用者は公共汚水桝107の内部に水201を注ぐ。水201は袋状部材30の上部のほぼ全体が浸かる程度まで注ぐのが好ましい。水201を注ぐことにより、袋状部材30の表面と公共汚水桝107の内面との間に生じる隙間を水201で埋めることができる。
図6(c)に示すように下水道本管109から下水202が右側の排水管106R内を逆流してきた場合、下水202は袋状部材30の右側に衝突し、これにより袋状部材30は矢印で示すように左方向に押される。袋状部材30が左方向に押されることで内部の水200は左側の排水管106Lの内部形状に沿って変形し、最終的に袋状部材30の表面は左側の排水管106Lの内面に密着する。
このとき、板状部材20は排水管106の内部に流出しない形状になっているので、逆流防止具1が左側の排水管106Lの内部に流れていってしまうことはない。
【0015】
袋状部材30の表面が左側の排水管106Lの内面に密着することで、逆流してきた下水202は公共汚水桝107から左側の排水管106Lまで移動することが出来なくなり、下水道本管109から公共汚水桝107までの右側の排水管106Rの内部に留まることになる。
このように本発明の逆流防止具1によれば逆流してきた下水202を公共汚水桝107で止めるのでトイレ101、風呂102等の排水器具104から噴出してしまう事態を防止できる。
集中豪雨が止んで通常状態に戻れば下水道本管109に下水202が流れ出し、下水202が袋状部材30を左方向に押す力が無くなるので、使用者は公共汚水桝107の蓋108を開けて棒状部材10を掴んで上方に引き抜くことができるようになる。これにより公共汚水桝107の右側の排水管106Rと左側の排水管106Lが繋がる。
【0016】
なお、
図7に示すように棒状部材10の側面に開口13を設けても良い。開口13を設けることで、棒状部材10の上端から貫通穴11に水200を注いでいる間に、袋状部材30の内部に存在している空気を矢印で示すように開口13及び貫通穴11を介して棒状部材10の上端から大気中に逃がすことができる。
また、袋状部材30に穴が開いてしまい貯留していた水200が漏れてしまう事態を防止するために、
図8に示すように1つの袋状部材30を更に別の袋状部材30で内包する、つまり2つの袋状部材30を使用する構成にしてもよい。
また、
図9に示すように棒状部材10は筒状でなくてもよい。具体的には、棒状部材10を中実の棒にして、袋状部材30に開閉自在の蓋32を設けて、蓋32を開けて水200を袋状部材30の内部に貯留させることにしてもよい。
【0017】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の逆流防止具及び逆流防止方法の第2の実施の形態について説明するが、上記第1の実施の形態と同一の構成になる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態では
図10に示すように逆流防止具2が垂直方向にのびる棒状部材40と、棒状部材40の少なくとも下部を内包した状態で、上部開口31が棒状部材40の周囲に水密状態で固定される袋状部材30とで構成される点に特徴を有する。
棒状部材40は公共汚水桝107の内部に配置された状態で排水管106の内部に流出しない程度の長さを備えている。
棒状部材40はその内部に貫通穴41(
図11(a)参照)を有する筒状であり、貫通穴41の上端から注がれた水200が袋状部材30の内部に貯留される。
本実施の形態の逆流防止具2でも、
図11(a)に示すように公共汚水桝107の内部に配置した状態で、袋状部材30の内部の水200は重力により水平方向に広がるので、袋状部材30も水平方向に広がった状態になり、袋状部材30の一部は公共汚水桝107を挟んだ左右の排水管106L,106Rの内部にまで至る。
【0018】
図11(b)に示すように使用者が公共汚水桝107の内部に水201を注ぐことで逆流防止具2の設置が完了する。
図11(c)に示すように下水道本管109から下水202が右側の排水管106R内を逆流してきた場合、下水202は袋状部材30の右側に衝突し、これにより袋状部材30は矢印で示すように左方向に押される。袋状部材30が左方向に押されることで内部の水200は左側の排水管106Lの内部形状に沿って変形し、最終的に袋状部材30の表面は左側の排水管106Lの内面に密着する。
このとき、棒状部材40は排水管106の内部に流出しない程度の長さを備えているので、逆流防止具2が左側の排水管106Lの内部に流れていってしまうことはない。
袋状部材30の表面が左側の排水管106Lの内面に密着することで、逆流してきた下水202は公共汚水桝107から左側の排水管106Lまで移動することが出来なくなり、下水道本管109から公共汚水桝107までの右側の排水管106Rの内部に留まることになる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、安価で製造でき、設置が容易な逆流防止具及び逆流防止方法であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0020】
1 逆流防止具
2 逆流防止具
10 棒状部材
11 貫通穴
12 蓋
13 開口
20 板状部材
21 開口部
30 袋状部材
31 上部開口
32 蓋
40 棒状部材
41 貫通穴
100 排水システム
101 トイレ
102 風呂
103 台所
104 排水器具
105 汚水桝
106 排水管
106L 左側の排水管
106R 右側の排水管
107 公共汚水桝
108 蓋
109 下水道本管
200 水
201 水
202 下水