(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064042
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】クランプ治具
(51)【国際特許分類】
B25B 27/10 20060101AFI20240507BHJP
F16L 3/10 20060101ALI20240507BHJP
B25B 1/20 20060101ALI20240507BHJP
F16B 2/10 20060101ALI20240507BHJP
F16L 19/05 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
B25B27/10 A
F16L3/10 Z
B25B1/20
F16B2/10 E
F16L19/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172338
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 智大
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐人
【テーマコード(参考)】
3C020
3C031
3H014
3H023
3J022
【Fターム(参考)】
3C020HH01
3C031DD28
3H014EA07
3H023AC08
3H023AD38
3J022DA15
3J022EA42
3J022EB12
3J022EC17
3J022EC22
3J022ED26
3J022FB04
3J022FB07
3J022FB12
3J022GA03
3J022GA20
3J022GB23
3J022GB27
(57)【要約】
【課題】締付機構により配管を滑らない程度に押圧しても、配管が損傷するのを抑制することができるクランプ治具を提供する。
【解決手段】クランプ治具10は、チューブ8の周方向の一部が嵌め込まれる固定把持溝12を有する固定クランプ11と、チューブ8の周方向の他部が嵌め込まれて固定把持溝12との間でチューブ8を挟み込む可動把持溝16を有し固定クランプ11に対して回動自在に設けられた可動クランプ15と、固定把持溝12と可動把持溝16との間にチューブ8が挟み込まれた状態で可動把持溝16の底部がチューブ8を径方向内方に押圧するように可動クランプ15を固定クランプ11に引き寄せる締付機構30と、を備える。固定把持溝12は、固定把持溝12にチューブ8が嵌め込まれた状態で、締付機構30によるチューブ8の押圧方向Fと直交する方向に延びるチューブ8の中心線Cに対して、可動把持溝16側にオフセットした位置で開口している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の周方向の一部が嵌め込まれる固定把持溝を有する固定クランプと、
前記配管の周方向の他部が嵌め込まれて前記固定把持溝との間で前記配管を挟み込む可動把持溝を有し、前記固定クランプに対して移動自在に設けられた可動クランプと、
前記固定把持溝と前記可動把持溝との間に前記配管が挟み込まれた状態で、前記可動把持溝の底部が前記配管を径方向内方に押圧するように、前記可動クランプを前記固定クランプに引き寄せる締付機構と、を備えるクランプ治具であって、
前記固定把持溝及び前記可動把持溝のうち、一方の把持溝は、当該一方の把持溝に前記配管が嵌め込まれた状態で、前記締付機構により前記配管が径方向内方に押圧される方向と直交する方向に延びる前記配管の中心線に対して、他方の把持溝側にオフセットした位置で開口している、クランプ治具。
【請求項2】
前記一方の把持溝は、当該一方の把持溝に嵌め込まれた前記配管の軸線方向から見て、U字状に形成されている、請求項1に記載のクランプ治具。
【請求項3】
前記一方の把持溝は、前記固定把持溝である、請求項1又は請求項2に記載のクランプ治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランプ治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造、医療・医薬品製造、及び食品加工・化学工業等の各種技術分野の製造工程では、薬液、高純度液、超純水、或いは洗浄液等の流体が流れる配管経路において、チューブや流体デバイスに形成された流路同士を接続するために、合成樹脂製の管継手が用いられる(例えば、特許文献1参照)。この管継手は、チューブの先端部に圧入されるインナーリングと、チューブの先端部の外周側に装着される円筒状の継手本体と、継手本体の外周側に装着されるユニオンナットと、を備えている。
【0003】
チューブの先端部にインナーリングを圧入する際に、チューブを滑らないように把持する治具として、例えば特許文献2に記載されたクランプ治具が知られている。特許文献2のクランプ治具は、固定クランプと、固定クランプに対して回動自在な可動クランプと、可動クランプを固定クランプに引き寄せる締付機構(強制把持機構)と、を備えている。
【0004】
固定クランプ及び可動クランプは、それぞれ半円状に形成された把持溝(把持面)を有している。チューブは、両クランプの把持溝に嵌め込まれることによって両クランプの間で把持される。両クランプにより把持されたチューブは、締付機構により可動クランプを固定クランプに引き寄せたときに、可動クランプの把持溝によって径方向内方に押圧されて締め付けられる。これにより、クランプ治具は、チューブを滑らないように把持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-168947号公報
【特許文献2】特開2008-194799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記クランプ治具では、両クランプの把持溝に対してチューブが滑らないように、締付機構によりチューブを径方向内方に強く押圧する必要がある。しかし、チューブを径方向内方に強く押圧すると、その押圧力によってチューブ全体が楕円状に撓み変形しようとする。その際、チューブの外周面の一部(楕円の長軸方向の両端部)が両把持溝の間に形成された隙間に入り込み、チューブが損傷するおそれがある。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、締付機構により配管を滑らない程度に押圧しても、配管が損傷するのを抑制することができるクランプ治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示は、配管の周方向の一部が嵌め込まれる固定把持溝を有する固定クランプと、前記配管の周方向の他部が嵌め込まれて前記固定把持溝との間で前記配管を挟み込む可動把持溝を有し、前記固定クランプに対して移動自在に設けられた可動クランプと、前記固定把持溝と前記可動把持溝との間に前記配管が挟み込まれた状態で、前記可動把持溝の底部が前記配管を径方向内方に押圧するように、前記可動クランプを前記固定クランプに引き寄せる締付機構と、を備えるクランプ治具であって、前記固定把持溝及び前記可動把持溝のうち、一方の把持溝は、当該一方の把持溝に前記配管が嵌め込まれた状態で、前記締付機構により前記配管が径方向内方に押圧される方向と直交する方向に延びる前記配管の中心線に対して、他方の把持溝側にオフセットした位置で開口している、クランプ治具である。
【0009】
本開示のクランプ治具によれば、固定把持溝及び可動把持溝のうち、一方の把持溝は、当該一方の把持溝に配管が嵌め込まれた状態で、締付機構により配管が径方向内方に押圧される方向と直交する方向に延びる配管の中心線に対して、他方の把持溝側にオフセットした位置で開口している。これにより、締付機構によって押圧された配管が楕円状に撓み変形しても、配管における前記中心線の方向の両端部(楕円の長軸方向の両端部)が、前記一方の把持溝における前記中心線の方向の両側部に当接する。その結果、配管の前記両端部が、両把持溝の間に形成された隙間に入り込むのを抑制することができる。したがって、締付機構により配管を滑らない程度に押圧しても、配管が損傷するのを抑制することができる。
【0010】
(2)前記(1)のクランプ治具において、前記一方の把持溝は、当該一方の把持溝に嵌め込まれた前記配管の軸線方向から見て、U字状に形成されているのが好ましい。
この場合、前記一方の把持溝が前記軸線方向から見てC字状に形成されている場合と比較して、当該一方の把持溝に配管を嵌め込み易いので、作業効率を向上させることができる。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)のクランプ治具において、前記一方の把持溝は、前記固定把持溝であるのが好ましい。
この場合、固定把持溝は、上記のように前記中心線よりも可動把持溝側にオフセットした位置で開口するので、固定把持溝の溝深さは可動把持溝の溝深さよりも深くなる。これにより、配管は、固定把持溝に嵌め込まれることで、安定した状態で固定クランプに保持される。したがって、その状態から可動クランプを固定クランプ側に移動させて両把持溝の間に配管を嵌め込む作業を容易に行うことができるので、作業効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示のクランプ治具によれば、締付機構により配管を滑らない程度に押圧しても、配管が損傷するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本開示の第1実施形態に係るクランプ治具を示す斜視図である。
【
図3】クランプ治具の使用途中の状態を示す斜視図である。
【
図4】締付機構により可動クランプを固定クランプに引き寄せる前の、固定把持溝及び可動把持溝を前側から見た拡大正面図である。
【
図5】本開示の第2実施形態に係るクランプ治具の固定把持溝及び可動把持溝を前から見た拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[管継手]
まず、本開示のクランプ治具が用いられる管継手について説明する。
図1は、管継手1を示す軸方向の断面図である。
図1において、管継手1は、例えば、半導体製造装置で使用される薬液(流体)が流れる配管経路に用いられる。管継手1は、継手本体2と、ユニオンナット3と、インナーリング4と、を備えている。以下、便宜上、
図1の左側を軸方向一方側といい、
図1の右側を軸方向他方側という。
【0015】
インナーリング4は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、又はフッ素樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)の合成樹脂材料によって、円筒状に形成されている。
【0016】
インナーリング4は、円筒状に形成された本体部5と、本体部5の軸方向一方側に形成された膨出部6と、本体部5の軸方向他方側に形成されたシール部7と、を備えている。インナーリング4における本体部5、膨出部6、及びシール部7の各径方向内側には、流体流路4aが形成されている。流体流路4aは、チューブ(配管)8の内部に形成された流路8aと、継手本体2の内部に形成された流路2cとを連通する。チューブ8は、可撓性を有する円筒状のホースからなり、PFA等の合成樹脂材料によって形成されている。
【0017】
膨出部6は、本体部5の軸方向一方側において径方向外側に突出して形成されている。膨出部6は、チューブ8の先端部に圧入され、当該チューブ8の先端部を拡径する。シール部7は、環状の一次シール部7aと、円筒状の二次シール部7bと、を有している。
【0018】
一次シール部7aは、本体部5の軸方向他端部の径方向内側から軸方向他方側に突出して形成されている。一次シール部7aの外周面は、軸方向一端から軸方向他端へ向かって漸次縮径して形成されている。一次シール部7aは、継手本体2の一次シール溝2d(後述)に圧入される。二次シール部7bは、本体部5の軸方向他端部の径方向外側から軸方向他方側に突出して形成されている。二次シール部7bは、継手本体2の二次シール溝2e(後述)に圧入される。
【0019】
継手本体2は、例えば、PVC、PP、PE又はフッ素樹脂(PFAやPTFE等)の合成樹脂材料によって円筒状に形成されている。継手本体2の内径は、薬液の移動を妨げないように、インナーリング4の内径と略同一である。継手本体2の軸方向一端部には、受口部2aが形成されている。受口部2aの内周には、チューブ8の先端部に膨出部6が圧入されたインナーリング4のシール部7(軸方向他方側の端部)が圧入されている。これにより、継手本体2の軸方向一端部は、チューブ8の先端部の外周に装着されている。受口部2aの外周には、雄ねじ部2bが形成されている。
【0020】
継手本体2は、受口部2aよりも径方向内側に形成された、環状の一次シール溝2d及び環状の二次シール溝2eを有している。一次シール溝2dは、継手本体2の径方向内側において、軸方向一端から軸方向他端へ向かって漸次縮径するように切り欠かれたテーパ形状とされている。二次シール溝2eは、継手本体2において一次シール溝2dよりも径方向外側に形成されている。
【0021】
ユニオンナット3は、例えば、PVC、PP、PE又はフッ素樹脂(PFAやPTFE等)の合成樹脂材料によって円筒状に形成されている。ユニオンナット3は、軸方向他方側の内周に形成された雌ねじ部3aと、軸方向一方側において径方向内側に突出して形成された押圧部3bと、を有している。雌ねじ部3aは、継手本体2の雄ねじ部2bに締め込まれている。その締め込みによって、ユニオンナット3は継手本体2に装着される。その際、押圧部3bの軸方向他端部は、インナーリング4の膨出部6により拡径されたチューブ8の外周面を押圧する。
【0022】
以上の構成により、ユニオンナット3の雌ねじ部3aを継手本体2の雄ねじ部2bに締め込むと、インナーリング4の一次シール部7a及び二次シール部7bは、それぞれ継手本体2の一次シール溝2d及び二次シール溝2eに圧入される。これにより、インナーリング4と継手本体2との接続部分のシール性能を確保することができる。また、ユニオンナット3の押圧部3bが、拡径されたチューブ8の外周面を軸方向他方側へ押圧することで、管継手1からチューブ8が抜け出すのを防止することができる。
【0023】
[第1実施形態]
<クランプ治具の全体構成>
図2は、本開示の第1実施形態に係るクランプ治具10を示す斜視図である。
図3は、クランプ治具10の使用途中の状態を示す斜視図である。
図2及び
図3において、クランプ治具10は、管継手1のインナーリング4をチューブ8の先端部に圧入する際に、チューブ8を滑らないように把持する治具である。以下において、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、及び「後」といった方向は、
図2に示す方向を意味する。
【0024】
クランプ治具10は、固定クランプ11と、可動クランプ15と、締付機構30と、を備えている。固定クランプ11は、例えば略直方体状に形成されている。固定クランプ11は、固定把持溝12と、切欠部13と、を有している。切欠部13は、固定クランプ11の右前側の角部に形成されている。切欠部13は、前記角部の下側の途中から端面11aまで形成されている。
【0025】
固定把持溝12は、固定クランプ11の上側の端面11aにおいて左右方向の略中央部に形成されている。固定把持溝12には、チューブ8の周方向の一部(
図2の下部)が嵌め込まれる。固定把持溝12の表面には、当該表面に対してチューブ8が滑るのを抑制するために、ブラスト処理が施された粗面部12aが形成されている。
【0026】
可動クランプ15は、例えば、固定クランプ11と同様に、略直方体状に形成されている。可動クランプ15は、固定クランプ11よりも上下方向に短く形成されている。可動クランプ15は、可動把持溝16と、切欠部17と、凹部18と、を有している。切欠部17は、可動クランプ15の右前側の角部に形成されている。切欠部17は、可動クランプ15の上下方向の全長にわたって形成されている。切欠部17は、
図2に示す状態において、固定クランプ11の切欠部13と連通している。凹部18は、可動クランプ15の左側面に形成されている。凹部18は、可動クランプ15の上下方向の全長にわたって形成されている。
【0027】
可動把持溝16は、可動クランプ15の下側の端面15aにおいて左右方向の略中央部に形成されている。可動把持溝16は、
図2に示す状態において固定把持溝12と対向して配置される。可動把持溝16には、チューブ8の周方向の他部(
図2の上部)が嵌め込まれる。これにより、固定把持溝12と可動把持溝16との間で、チューブ8を上下方向から挟み込むことができる。可動把持溝16の表面には、当該表面に対してチューブ8が滑るのを抑制するために、ブラスト処理が施された粗面部16aが形成されている。
【0028】
可動クランプ15は、固定クランプ11に対して移動自在に設けられている。具体的には、固定クランプ11の端面11aの左側には、可動クランプ15の凹部18に配置されるブラケット21が固定されている。ブラケット21には、前後方向に延びるピン22を介して、可動クランプ15の左側の下端部が回動自在に支持されている。これにより、本実施形態の可動クランプ15は、固定クランプ11に対して回動自在に設けられている。
【0029】
可動クランプ15は、固定把持溝12と可動把持溝16との間でチューブ8を挟み込む挟持姿勢(
図2に示す姿勢)と、可動把持溝16をチューブ8から離間させた退避姿勢(
図3に示す姿勢)との間で、回動自在である。可動クランプ15が挟持姿勢のとき、可動クランプ15の下側の端面15aと、固定クランプ11の上側の端面11aとの間には、僅かな隙間Sが形成される。
【0030】
<締付機構>
締付機構30は、挟持姿勢にある可動クランプ15を固定クランプ11に引き寄せる機構である。締付機構30は、偏心カム31と、フック32と、係合ピン33と、操作部34と、を備える。偏心カム31は、固定クランプ11の切欠部13に設けられている。偏心カム31は、カム軸31aと、カム軸31aと一体に設けられたカム部31bと、を有している。カム軸31aは、固定クランプ11に形成された前後方向に貫通する貫通孔11bに挿入され、固定クランプ11に対して回転自在に支持されている。カム部31bは、カム軸31aの前端部において当該カム軸31aに対して偏心して固定されている。これにより、カム軸31aが回転すると、カム部31bは、カム軸31aに対して偏心しながら回転する。
【0031】
フック32は、固定クランプ11の前側において偏心カム31に連結されている。フック32は、カム部31bに対して回転自在に連結された支持部32aと、支持部32aと一体に設けられた係合部32bと、を有している。支持部32aは、カム部31bから、カム軸31aの径方向外方に延びている。係合部32bは、支持部32aの先端から更に前記径方向外方に延びている。フック32は、カム部31bに対して上下方向に回動自在である。
【0032】
係合ピン33は、可動クランプ15の右側に固定されている。具体的には、係合ピン33は、可動クランプ15の切欠部17における後側の側面17aに固定され、側面17aから前方に突出している。係合ピン33は、例えば円柱状に形成されている。
【0033】
フック32を上方回動させると、係合部32bが係合ピン33に係合される(
図2参照)。この状態からフック32を下方回動させると、係合部32bが係合ピン33から離間することで、係合部32bと係合ピン33との係合が解除される(
図3参照)。したがって、フック32は、係合部32bが係合ピン33に係合された係合姿勢(
図2に示す姿勢)と、係合部32bと係合ピン33との係合が解除された係合解除姿勢(
図3に示す姿勢)との間で、上下回動するようになっている。
【0034】
操作部34は、フック32が係合姿勢にあるときに回動操作されるものである。操作部34は、固定クランプ11の後側において偏心カム31に連結されている。操作部34は、レバー部34aと、握り部34bと、を有している。レバー部34aの一端部は、カム軸31aと一体に連結されている。
【0035】
握り部34bは、レバー部34aの他端部に一体に固定されている。作業者は、握り部34bを握ることによって、操作部34を回動操作することができる。操作部34は、カム軸31aを中心として、
図2に示す締付位置と、
図3に示す締付解除位置との間で回動するようになっている。
【0036】
操作部34が締付解除位置から締付位置に回動操作されると、操作部34と共にカム軸31aが回転することで、カム部31bは、フック32の支持部32aに対して回転する。その際、カム部31bは、フック32の支持部32aを下方に押し付けるように偏心回転する。これにより、フック32は、係合姿勢のまま、固定クランプ11に対して下方へ移動する。
【0037】
フック32が下方移動すると、挟持姿勢にある可動クランプ15は、隙間Sの範囲内で下方回動し、固定クランプ11に引き寄せられる。これにより、可動把持溝16の底部(
図2の上部分)が、チューブ8の外周面を径方向内方(
図2の下方)に押圧するので、チューブ8は、固定把持溝12と可動把持溝16との間で滑らないように強固に把持される。
【0038】
<チューブの把持構造>
図4は、固定把持溝12と可動把持溝16との間にチューブ8が挟み込まれた状態において、締付機構30(
図2参照)により可動クランプ15を固定クランプ11に引き寄せる前の、固定把持溝12及び可動把持溝16を前側から見た拡大正面図である。上記のように、締付機構30により可動クランプ15を固定クランプ11に引き寄せる際に、可動把持溝16の底部が、チューブ8の外周面を径方向内方(
図4の下方)に押圧する。以下、チューブ8の外周面が径方向内方に押圧される方向を、押圧方向Fという。
【0039】
図4において、本実施形態の固定把持溝12は、固定把持溝12に嵌め込められたチューブ8の軸線方向(
図4の紙面垂直方向)から見て、U字状に形成されている。固定把持溝12は、円弧面12bと、一対の側壁面12cと、を有している。円弧面12bは、半円状に形成されている。円弧面12bの曲率半径R1は、チューブ8の外周面の半径R0に対して同一若しくは少し小さい。なお、
図4では、便宜上、円弧面12bの曲率半径R1を、前記半径R0よりも少し大きく図示している(後述する曲率半径R2も同様)。
【0040】
側壁面12cは、円弧面12bの両端それぞれから、押圧方向Fと反対方向(
図4の上方)に直線状に延びて形成されている。これにより、固定把持溝12は、押圧方向Fと直交する方向(
図4では左右方向)に延びるチューブ8の中心線Cに対して、可動把持溝16側にオフセット(偏移)した位置で開口している。したがって、本実施形態では、固定把持溝12の溝深さは、可動把持溝16の溝深さよりも深い。
【0041】
図4に示すように可動クランプ15が挟持姿勢のとき、可動把持溝16は、隙間Sを介して固定把持溝12の上方に配置される。本実施形態の可動把持溝16は、固定把持溝12に嵌め込められたチューブ8の軸線方向から見て、円弧状に形成されている。可動把持溝16は、溝全体にわたって形成された円弧面16bを有している。可動クランプ15が挟持姿勢のとき、可動把持溝16の円弧面16bは、固定把持溝12の円弧面12bと同心状に配置される。可動把持溝16の円弧面16bの曲率半径R2は、固定把持溝12の円弧面12bの曲率半径R1と同一である。固定把持溝12の溝深さは、曲率半径R1(R2)の75%に設定され、可動把持溝16の溝深さは、曲率半径R1(R2)の25%に設定されるのが好ましい。
【0042】
<クランプ治具の使用方法>
次に、クランプ治具10の使用方法について説明する。ここでは、クランプ治具10が
図3に示す状態、すなわち、可動クランプ15が退避姿勢、フック32が係合解除姿勢、及び操作部34が締付解除位置にそれぞれある状態から説明する。まず、作業者は、固定クランプ11の固定把持溝12にチューブ8を嵌め込み、可動クランプ15を退避姿勢から挟持姿勢(
図2参照)まで回動させる。これにより、固定把持溝12と可動把持溝16との間にチューブ8が挟み込まれる(
図4参照)。
【0043】
次に、作業者は、フック32を係合解除姿勢から係合姿勢まで回動させ、フック32の係合部32bを、可動クランプ15側の係合ピン33に係合させる(
図2参照)。次に、作業者は、操作部34を締付解除位置から締付位置まで回動操作し、挟持姿勢にある可動クランプ15を固定クランプ11に引き寄せる。これにより、可動把持溝16の底部が、チューブ8の外周面を径方向内方(
図4の押圧方向F)に押圧するので、チューブ8は、固定把持溝12と可動把持溝16との間で、滑らないように強固に把持される。
【0044】
可動把持溝16の底部がチューブ8の外周面を押圧するとき、チューブ8は、押圧方向Fと直交する中心線C(
図4参照)の方向(左右方向)に長くなるように、楕円状に撓み変形する。したがって、この撓み変形によって、チューブ8の外周面における左右方向の両端部(楕円の長軸方向の両端部)のうち、中心線Cよりも下側の部分は、主に固定把持溝12の円弧面12bに当接し、中心線Cよりも上側の部分は、主に固定把持溝12の側壁面12cに当接する。
【0045】
<作用効果>
本実施形態のクランプ治具10によれば、固定クランプ11の固定把持溝12にチューブ8が嵌め込まれた状態で、固定把持溝12は、左右方向に延びるチューブ8の中心線Cに対して、可動クランプ15の可動把持溝16側にオフセットした位置で開口している。これにより、締付機構30によって押圧されたチューブ8が、左右方向に長くなるように楕円状に撓み変形しても、チューブ8の外周面における左右方向の両端部が、固定把持溝12の両側部(両側壁面12c)に当接する。その結果、チューブ8の前記両端部が、上下両側の把持溝12,16間の隙間Sに入り込むのを抑制することができる。したがって、締付機構30によりチューブ8を滑らない程度に押圧しても、チューブ8が損傷するのを抑制することができる。
【0046】
また、固定把持溝12はU字状に形成されている。これにより、固定把持溝12がC字状に形成されている場合(
図5参照)と比較して、固定把持溝12の上側の開口からチューブ8を嵌め込み易いので、作業効率を向上させることができる。また、固定把持溝12の表面にブラスト処理を容易に施すことができるので、固定クランプ11の加工も容易に行うことができる。
【0047】
また、固定把持溝12の開口を上記のようにオフセットさせることで、固定把持溝12の溝深さは可動把持溝16の溝深さよりも深くなる。これにより、チューブ8は、固定把持溝12に嵌め込まれることで、安定した状態で固定クランプ11に保持される。したがって、その状態から可動クランプ15を挟持姿勢まで回動させて上下両側の把持溝12,16の間にチューブ8を挟み込む作業を容易に行うことができるので、作業効率をさらに向上させることができる。
【0048】
[第2実施形態]
図5は、本開示の第2実施形態に係るクランプ治具10の固定把持溝12及び可動把持溝16を前から見た拡大正面図である。
図5は、
図4と同じ状態を示している。第2実施形態では、固定把持溝12の形状が第1実施形態と相違する。
【0049】
本実施形態の固定把持溝12は、固定把持溝12に嵌め込められたチューブ8の軸線方向(
図5の紙面垂直方向)から見て、可動把持溝16側が開口するようにC字状に形成されている。固定把持溝12は、溝全体にわたって形成された円弧面12dを有している。
【0050】
円弧面12dの曲率半径R1’は、チューブ8の外周面の半径R0に対して同一若しくは少し小さい。また、円弧面12dの曲率半径R1’は、可動把持溝16の円弧面16bの曲率半径R2と同一である。なお、
図5では、便宜上、円弧面12dの曲率半径R1’を、前記半径R0よりも少し大きく図示している(曲率半径R2も同様)。
【0051】
締付機構30(
図2参照)によって可動把持溝16の底部がチューブ8の外周面を押圧するとき、チューブ8は、第1実施形態と同様に、押圧方向Fと直交する中心線Cの方向(左右方向)に長くなるように、楕円状に撓み変形する。したがって、この撓み変形によって、チューブ8の外周面における左右方向の両端部(楕円の長軸方向の両端部)は、固定把持溝12の両側部(円弧面12dの周方向の両端部)に当接する。本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
本実施形態のクランプ治具10においても、締付機構30によって押圧されたチューブ8が、左右方向に長くなるように楕円状に撓み変形しても、チューブ8の外周面における左右方向の両端部が、固定把持溝12の両側部に当接する。その結果、チューブ8の前記両端部が、上下両側の把持溝12,16間の隙間Sに入り込むのを抑制することができる。したがって、締付機構30によりチューブ8を滑らない程度に押圧しても、チューブ8が損傷するのを抑制することができる。
【0053】
また、固定把持溝12はC字状に形成されているので、固定把持溝12に嵌め込まれたチューブ8は、固定把持溝12の開口から抜けにくくなる。したがって、その状態から可動クランプ15を挟持姿勢まで回動させて上下両側の把持溝12,16の間にチューブ8を挟み込む作業を容易に行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態においても、固定把持溝12の溝深さは可動把持溝16の溝深さよりも深くなるので、チューブ8は、固定把持溝12に嵌め込まれることで、より安定した状態で固定クランプ11に保持される。したがって、可動クランプ15を挟持姿勢まで回動させて上下両側の把持溝12,16の間にチューブ8を挟み込む作業をさらに容易に行うことができるので、作業効率をさらに向上させることができる。
【0055】
[その他]
上記実施形態の可動クランプ15は、固定クランプ11に対して回動自在に設けられているが、これに限定されるものではない。例えば、可動クランプ15は、固定クランプ11に対して、スライドレール等を介して
図2の上下方向にスライド自在に設けられていてもよい。また、クランプ治具10は、固定クランプ11と可動クランプ15とを連結する部材(ブラケット21やスライドレール等)を設けずに、固定クランプ11に対して可動クランプ15を分離できるように構成されていてもよい。
【0056】
上記実施形態では、可動クランプ15が挟持姿勢のとき、可動把持溝16の円弧面16bは、固定把持溝12の円弧面12b(又は12d)と同心状に配置されるが、円弧面16bの中心を、円弧面12b(又は12d)の中心に対して、
図4(又は
図5)の少し下側に配置してもよい。その場合、可動クランプ15が挟持姿勢のときに上下両側の把持溝12,16の間が狭くなるので、両把持溝12,16の間においてチューブ8をさらに強固に把持することができる。
【0057】
上記実施形態では、可動把持溝16の円弧面16bの曲率半径R2は、固定把持溝12の円弧面12b(又は12d)の曲率半径R1(又はR1’)と同一であるが、曲率半径R1(又はR1’)と異なっていてもよい。例えば、曲率半径R2を曲率半径R1(又はR1’)よりも少し小さくしてもよい。その場合も、可動クランプ15が挟持姿勢のときに上下両側の把持溝12,16の間が狭くなるので、両把持溝12,16の間においてチューブ8をさらに強固に把持することができる。
【0058】
上記実施形態では、固定把持溝12を、チューブ8の中心線Cに対して可動把持溝16側にオフセットした位置で開口させているが、可動把持溝16を、チューブ8の中心線Cに対して固定把持溝12側にオフセットした位置で開口させてもよい。その場合、可動把持溝16の溝深さは、固定把持溝12の溝深さよりも深くなることは言うまでもない。
【0059】
各把持溝12,16の表面には、ブラスト処理が施された粗面部12a,16aが形成されているが、合成ゴム等の滑り止め材を貼り付けてもよい。また、各把持溝12,16の表面には、粗面部12a,16aを形成したり、滑り止め材を貼り付けたりしなくてもよい。つまり、各把持溝12,16の表面は、機械加工レベルの面粗度であってもよい。
【0060】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
8 チューブ(配管)
10 クランプ治具
11 固定クランプ
12 固定把持溝
15 可動クランプ
16 可動把持溝
30 締付機構
C 中心線
F 押圧方向(押圧される方向)