IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064062
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】多糖類生産性細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/04 20060101AFI20240507BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20240507BHJP
   A01H 6/12 20180101ALN20240507BHJP
【FI】
C12N5/04
C12P19/04 Z
A01H6/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172374
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 大智
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃範
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 圭二
【テーマコード(参考)】
2B030
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD07
2B030AD08
2B030CB02
2B030CD05
2B030CD07
2B030CD09
2B030CD10
2B030CD17
4B064AF11
4B064CA11
4B064CC03
4B064CD02
4B064DA20
4B065AA88X
4B065AA89X
4B065AC14
4B065AC15
4B065BB03
4B065BB04
4B065BB35
4B065BD50
4B065CA01
4B065CA22
4B065CA50
(57)【要約】
【課題】多糖類高生産性細胞を効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】
細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を、基本培地に金属塩が終濃度で5~200mM高くなるように添加された固体培地で培養してカルス誘導することを含む、多糖類生産性細胞の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を、基本培地に金属塩が終濃度で5~200mM高くなるように添加された固体培地で培養してカルス誘導することを含む、多糖類生産性細胞の製造方法。
【請求項2】
誘導されたカルスを液体培地で培養することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属塩が、カリウム、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属の塩である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
固体培地が、オーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種、又はオーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種とサイトカイニン類からなる群より選択される少なくとも1種の組み合わせの植物ホルモンを含有する、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
固体培地が炭素源を含有する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
植物がポリアンテス属植物である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
植物がポリアンテス属のチューベロース(Polianthes tuberosa L.)である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
多糖類がグルクロン酸、マンノース、アラビノース、ガラクトース、及びキシロースを構成成分とする酸性ヘテロ多糖である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
カルス誘導開始時から液体培地で培養を開始するまでの期間が300日以内である、請求項2~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項記載の方法により製造された多糖類生産性細胞を液体培地で培養すること含む、多糖類の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類生産性細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類を生産する植物としては多くの種類のものが知られている。そのような植物からの多糖類の取得には、天然の、又は栽培した植物の種子、果実、花、茎、幹、葉、根、塊茎、あるいは塊根等からの抽出またはタッピング等による方法が利用されている。しかし、それらの天然の植物または栽培植物は、自然環境や天候の影響を受け易く、従って生産量や価格が安定しないという欠点がある。このため、それらの植物の細胞または組織を液体培地にて培養することによって、細胞や組織を増殖させ、同時に多糖類を生産させて、培地中に分泌させる方法も利用されている。
【0003】
植物細胞の培養による多糖類の製造方法は、自然環境や天候の影響を受けないため、多糖類を安定的に生産することができる有利な方法ということができ、斯かる方法において多糖類の生産量向上が可能となる技術が求められている。
【0004】
たとえば、特許文献1及び2では、ポリアンテス属のチューベロースから誘導されるカルスなどの植物細胞を液体培地にて培養する際に、その液体培地に一定範囲の量の金属塩を存在させることによって多糖類の生産量の向上を図っている。多糖類生産用細胞は一般に、対象の植物からカルスを誘導した後、このカルスを継代培養することにより増殖させて多数の細胞として取得し、この増殖した多糖類生産用細胞を大量の液体培地にて培養して多糖類を生産させ、細胞外に分泌させ、最後に、この細胞外に分泌された多糖類を細胞から分離して、目的の多糖類を取得する方法に利用される。特許文献1では、多糖類生産用液体培地に金属塩を存在させて、液体培地の粘度の上昇を抑制している。そして、液体培地の粘度の上昇が抑制される結果、培養液の拡散、混合が良好になり、多糖類の生産性が向上する他、カルスや細胞と目的物を含有する上澄液との分離も容易となり生産性が向上するとされている。また、特許文献2では、継代培養時の液体培地に金属塩を存在させることで、多糖類生産用細胞のストレス耐性が向上し、多糖類の生産性が増すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-207888号公報
【特許文献2】特開平8-131159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者が、細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を固体培地で培養してカルス誘導し、次いでカルスを液体培地で培養する従来の多糖類生産性細胞の製造方法について検討したところ、得られた多糖類生産性細胞には、由来するカルスの株によって多糖類生産能に大きな差があり、多糖類生産能の低い多糖類低生産性細胞(株)が存在することが判明した。植物細胞の培養による多糖類生産にあたっては、多糖類生産能の高い多糖類高生産性細胞が好適に利用されることから、多糖類高生産性細胞を効率よく製造する手法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を基本培地にさらに特定濃度の金属塩が添加された固体培地で培養してカルス誘導することで、多糖類生産能の低い多糖類低生産性細胞を選択的に除去できること、換言すれば、多糖類生産能の高い多糖類高生産性細胞を効率よく製造できること、また、多糖類生産性細胞の製造に要する期間を短縮できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を、基本培地に金属塩が終濃度で5~200mM高くなるように添加された固体培地で培養してカルス誘導することを含む、多糖類生産性細胞の製造方法を提供する。
本発明は、また、該多糖類生産性細胞の製造方法により製造された多糖類生産性細胞を液体培地で培養すること含む、多糖類の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多糖類低生産性細胞を選択的に除去でき、多糖類高生産性細胞を短期間で効率よく製造できる。該多糖類高生産性細胞を用いることにより、多糖類の生産量向上が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0011】
本発明において、「カルス」とは、植物細胞が脱分化して生じる再分化能を有する細胞塊を指す。植物細胞からカルスを形成させることを「カルス誘導」という。
【0012】
本発明で用いられる「植物の細胞」は、それが多糖類を生産する種類のものである限り特に制限はなく、例えば、アオイ科植物のオクラ、アオイ科植物のブッソウゲ、セリ科植物のニンジン、シソ科植物のハッカなど各種の植物の細胞を用いることができる。なかでも、本発明では、好ましくはポリアンテス属(Polianthes L.)の植物の細胞、より好ましくはポリアンテス属のチューベロース(Polianthes tuberosa L.)の細胞を好適に使用できる。
【0013】
ポリアンテス属のチューベロースから誘導されるカルスは、チューベロース多糖(Tuberose Polysaccharide Solution;TPS)を生産することで知られている。TPSは、グルクロン酸、マンノース、アラビノース、ガラクトース、及びキシロースを構成成分とする酸性ヘテロ多糖であり、表面平滑化効果や角質保護効果を有することから、化粧品配合成分として有用である。
【0014】
一態様において、本発明は、多糖類生産性細胞の製造方法を提供する。当該方法は、細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を、基本培地に金属塩が終濃度で5~200mM高くなるように添加された固体培地でカルス誘導することを含む。
【0015】
カルス誘導に用いられる固体培地は、基本培地に本来含まれる金属塩に加えてさらに金属塩が添加された固体培地であり、基本培地にさらなる金属塩が添加されていない固体培地は包含されない。固体培地は、基本培地に所定量の金属塩、アガロース、ゲランガム、寒天などのゲル化剤、及び必要に応じて用いられるその他の成分を添加して、常法により調製することができる。ここで、基本培地とは、植物細胞の維持、増殖が可能な培地を指す。基本培地としては、植物細胞の培養に通常用いられる培地を使用することができ、また、市販品を使用することもできる。基本培地の例としては、LS(Linsmaier-Skoog)培地、MS(Murasige-Skoog)培地、Gamborg B5培地(Sigma、G5768)、White培地(Sigma、W0876)、Chu(N6)培地(Sigma、C1416)、DKW培地(Sigma、D6162)、Hoagland培地(Sigma、H2395)、McCown培地(Sigma、M6774)、SH培地(Sigma、S6765)などが挙げられる。なかでも、LS培地又はMS培地が好ましい。
【0016】
基本培地には、通常、一定の金属塩が含まれている。例えば、基本培地に含まれるカリウム塩濃度は、LS培地で20.0mM、MS培地で20.0mM、Gamborg B5培地で24.7mM、White培地で1.7mM、Chu(N6)培地で30.9mM、DKW培地で19.8mM、Hoagland培地で6.0mM、McCown培地で12.6mM、SH培地で24.7mMである。また、基本培地に含まれるナトリウム塩濃度は、LS培地で0.2mM、MS培地で0.2mM、Gamborg B5培地で1.3mM、White培地で3.0mM、Chu(N6)培地で0.2mM、DKW培地で0.3mM、Hoagland培地で0.0mM、McCown培地で0.2mM、SH培地で0.1mMである。また、基本培地に含まれるカルシウム塩濃度は、LS培地で3.0mM、MS培地で3.0mM、Gamborg B5培地で1.0mM、White培地で1.2mM、Chu(N6)培地で1.1mM、DKW培地で9.3mM、Hoagland培地で4.0mM、McCown培地で3.0mM、SH培地で1.4mMである。また、基本培地に含まれるマグネシウム塩濃度は、LS培地で1.5mM、MS培地で1.5mM、Gamborg B5培地で1.0mM、White培地で3.0mM、Chu(N6)培地で0.8mM、DKW培地で3.0mM、Hoagland培地で2.0mM、McCown培地で1.5mM、SH培地で1.6mMである。また、基本培地に含まれる金属塩濃度は、合計で、LS培地で25.0mM、MS培地で25.0mM、Gamborg B5培地で28.2mM、White培地で8.9mM、Chu(N6)培地で33.2mM、DKW培地で32.8mM、Hoagland培地で12.0mM、McCown培地で17.6mM、SH培地で28.0mMである。
【0017】
カルス誘導に用いられる固体培地は、基本培地に本来含まれる金属塩に加えてさらに金属塩を含有する。基本培地に添加される金属塩の濃度は、終濃度として、5mM以上が好ましく、8mM以上がより好ましく、10mM以上がさらに好ましく、かつ200mM以下が好ましく、150mM以下がより好ましく、100mM以下がさらに好ましい。すなわち、金属塩濃度が、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度と比較して終濃度として、好ましくは5mM以上、より好ましくは8mM以上、さらに好ましくは10mM以上、かつ好ましくは200mM以下、より好ましくは150mM以下、さらに好ましくは100mM以下高くなるように金属塩が添加される。基本培地に添加される金属塩の濃度範囲は、終濃度として、5~200mMが好ましく、8~150mMがより好ましく、10~100mMがさらに好ましい。固体培地における金属塩濃度は、基本培地に本来含まれる金属塩と基本培地に添加される金属塩の合計濃度であり、終濃度として、13mM以上が好ましく、16mM以上がより好ましく、18mM以上がさらに好ましく、かつ235mM以下が好ましく、185mM以下がより好ましく、135mM以下がさらに好ましい。固体培地における金属塩濃度範囲は、終濃度として、13~235mMが好ましく、16~185mMがより好ましく、18~135mMがさらに好ましい。
【0018】
あるいは、基本培地に添加される金属塩の濃度は、終濃度として、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、かつ好ましくは500%以下、より好ましくは450%以下、さらに好ましくは400%以下の濃度であり得る。すなわち、金属塩濃度が、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、かつ好ましくは500%以下、より好ましくは450%以下、さらに好ましくは400%以下高くなるように金属塩が添加される。基本培地に添加される金属塩の濃度範囲は、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20~500%、より好ましくは30~450%、さらに好ましくは40~400%の濃度範囲であり得る。
【0019】
金属塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、そして鉄、亜鉛、アルミニウムなどの一~三価の金属の塩、例えば、塩化物、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、硝酸塩が用いられる。具体的な金属塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸バリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウムなどを挙げることができる。このうち、アルカリ金属の塩及びアルカリ土類金属の塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0020】
固体培地には、カルス誘導効率の観点から、植物ホルモンが添加されていることが好ましい。植物ホルモンの種類や濃度は、用いる植物細胞に応じて適宜選択、設定すればよい。植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、α-ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、インドール酪酸(IBA)等のオーキシン類;フルフリルアミノプリン(カイネチン)、6-ベンジルアミノプリン(BA)、ジメチルアミノプリン(2iP)等のサイトカイニン類が挙げられる。なかでも、オーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種、又はオーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種とサイトカイニン類からなる群より選択される少なくとも1種の組み合わせが好ましく、2,4-DもしくはNAA単独、NAAとBAの組み合わせ、2,4-Dとカイネチンの組み合わせ、2,4-DとBAの組み合わせ、又はNAAとカイネチンの組み合わせがより好ましい。固体培地中の植物ホルモンの濃度は、例えば、2,4-D又はNAAを単独で用いる場合、5×10-4Mから1×10-7Mが好ましく、1×10-5Mから1×10-6Mがより好ましく、NAAとBAの組み合わせ、2,4-Dとカイネチンの組み合わせ、2,4-DとBAの組み合わせ、又はNAAとカイネチンの組み合わせを用いる場合、2,4-D又はNAAの濃度は、1×10-4Mから1×10-7Mが好ましく、1×10-4Mから5×10-6Mがより好ましく、そしてBA又はカイネチンの濃度は1×10-5Mから1×10-9Mが好ましく、1×10-6Mから1×10-7Mがより好ましい。
【0021】
固体培地には、さらに炭素源等の公知の各種の添加剤が添加されていてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、マンノース、キシロース、スクロース、ラムノース、フコース、デンプンなどが用いられ、通常はスクロースなどの少糖類が炭素源として用いられる。炭素源は、通常は0.5~10重量%、好ましくは1~7重量%、より好ましくは3~5重量%の範囲の濃度で用いられる。
【0022】
固体培地のpHは、例えば、4.5~7.0が好ましく、5.5~6.5がより好ましい。
【0023】
本発明の多糖類生産性細胞の製造方法においては、細胞外に多糖類を分泌する植物細胞を上記固体培地で培養してカルスを誘導する。例えば、植物細胞として植物体の一部を上記固体培地上に置床して培養することで、該植物細胞からカルスを誘導することができる。植物体の一部としては、特に限定されず、葉、茎、花、芽、果皮、果実、木質部、樹皮、根、根茎、種子、それらの一部、及びそれらの組み合わせなどが挙げられ、植物の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、ポリアンテス属(Polianthes L.)の植物であれば、花の一部を用いるのが好ましく、花弁を用いるのがより好ましい。カルス誘導に供する植物体の一部の大きさは、カルス誘導が可能な大きさである限り特に限定されない。カルス誘導に供する植物体の一部は、事前に常法により滅菌しておくことが好ましい。
【0024】
カルス誘導のための培養条件は、カルス誘導が可能な条件であればいかなる条件であってもよく、植物の種類、用いる植物の部位、培地の種類等に応じて適切に調節され得る。例えば、培養温度は、好ましくは15~35℃、より好ましくは20~30℃である。培養期間は、好ましくは10~120日間、より好ましくは30~90日間である。また、好ましくは暗所で培養される。ここで、暗所とは、植物細胞培養で通常用いられる暗所を意味し、完全に暗所である必要はない。
【0025】
斯くして誘導されたカルスは、多糖類生産性細胞であり、液体培地で培養することでさらに増殖させて多数の多糖類生産性細胞を得ることができる。よって、一実施形態において、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法は、誘導されたカルスを液体培地で培養することをさらに含んでいてもよい。一方、液体培地での培養を行う前に、必要に応じて、誘導されたカルスを同じ状態を維持したまま上記固体培地を用いて継代培養することもできる。よって、別の一実施形態において、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法は、誘導されたカルスを上記固体培地で継代培養すること、及び継代培養されたカルスを液体培地で培養することをさらに含んでいてもよい。
【0026】
上記固体培地での継代培養は、好ましくは15~35℃、より好ましくは20~30℃で、好ましくは10~120日間、より好ましくは30~90日間の培養を数回実施することにより行うことができる。継代回数に特に制限はないが、通常は10回以下である。カルス誘導開始時から液体培地で培養を開始するまでの期間(カルス誘導のための上記固体培地での培養開始日を1日目とし、誘導されたあるいは誘導され上記固体培地で継代されたカルスの液体培地での培養開始日の前日を最終日とする期間)は、最短でカルス誘導のための上記固体培地での培養期間に相当し、また、300日以内が好ましく、200日以内がより好ましく、100日以内がさらに好ましい。
【0027】
カルスの培養のための液体培地としては、カルス誘導のための固体培地の基本培地と同様のものを用いることができる。このうち、LS培地又はMS培地が好ましい。液体培地には、さらに植物ホルモンや炭素源等の公知の各種の添加剤が添加されていてもよい。植物ホルモンの種類や濃度は、多糖類の生産性に関係がある。植物ホルモンとしては、例えば、2,4-D、NAA、IAA、IBAなどのオーキシン類;カイネチン、BA、2iPなどのサイトカイニン類;ジベレリンA(GA)などのジベレリン類などを使用することができる。なかでも、オーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種、又はオーキシン類からなる群より選択される少なくとも1種とサイトカイニン類からなる群より選択される少なくとも1種の組み合わせが好ましく、2,4-DもしくはNAA単独、NAAとBAの組み合わせ、2,4-Dとカイネチンの組み合わせ、2,4-DとBAの組み合わせ、又はNAAとカイネチンの組み合わせがより好ましい。液体培地中の植物ホルモンの濃度は、2,4-D又はNAAを単独で用いる場合、5×10-4Mから1×10-7Mが好ましく、1×10-5Mから1×10-6Mがより好ましく、NAAとBAの組み合わせ、2,4-Dとカイネチンの組み合わせ、2,4-DとBAの組み合わせ、又はNAAとカイネチンの組み合わせを用いる場合、2,4-D又はNAAの濃度は、1×10-4Mから1×10-7Mが好ましく、1×10-4Mから5×10-6Mがより好ましく、BA又はカイネチンの濃度は、1×10-5Mから1×10-9Mが好ましく、1×10-6Mから1×10-7Mがより好ましい。
【0028】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、マンノース、キシロース、スクロース、ラムノース、フコース、デンプンなどが用いられ、通常はスクロースなどの少糖類が炭素源として用いられる。炭素源は、通常は0.5~10重量%、好ましくは1~7重量%、より好ましくは3~5重量%の範囲の濃度で用いられる。
【0029】
液体培地には、多糖類生産性の向上の観点から、基本培地に本来含まれる金属塩に加えてさらに金属塩が添加されていてもよい。基本培地に添加される金属塩の濃度は、終濃度として、5mM以上が好ましく、8mM以上がより好ましく、10mM以上がさらに好ましく、かつ200mM以下が好ましく、150mM以下がより好ましく、100mM以下がさらに好ましい。すなわち、金属塩濃度が、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度と比較して終濃度として、好ましくは5mM以上、より好ましくは8mM以上、さらに好ましくは10mM以上、かつ好ましくは200mM以下、より好ましくは150mM以下、さらに好ましくは100mM以下高くなるように金属塩が添加される。基本培地に添加される金属塩の濃度範囲は、終濃度として、5~200mMが好ましく、8~150mMがより好ましく、10~100mMがさらに好ましい。液体培地における金属塩濃度は、基本培地に本来含まれる金属塩と基本培地に添加される金属塩の合計濃度であり、終濃度として、13mM以上が好ましく、16mM以上がより好ましく、18mM以上がさらに好ましく、かつ235mM以下が好ましく、185mM以下がより好ましく、135mM以下がさらに好ましい。液体培地における金属塩濃度範囲は、13~235mMが好ましく、16~185mMがより好ましく、18~135mMがさらに好ましい。
【0030】
あるいは、基本培地に添加される金属塩の濃度は、終濃度として、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、かつ好ましくは500%以下、より好ましくは450%以下、さらに好ましくは400%以下の濃度であり得る。すなわち、金属塩濃度が、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、かつ好ましくは500%以下、より好ましくは450%以下、さらに好ましくは400%以下高くなるように金属塩が添加される。基本培地に添加される金属塩の濃度範囲は、基本培地に本来含まれる金属塩の濃度を100%としたときに、好ましくは20~500%、より好ましくは30~450%、さらに好ましくは40~400%の濃度範囲であり得る。
【0031】
金属塩としては、上記固体培地の場合と同様のものを例示することができる。このうち、アルカリ金属の塩及びアルカリ土類金属の塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、塩化カリウムがさらに好ましい。
【0032】
カルスの液体培地での培養は、好ましくは15~35℃、より好ましくは20~30℃で、7~30日間程度の培養を数回実施することにより行なわれる。培養方法としては、特に限定されないが、振盪培養が好ましい。また、培養の回数(継代回数)は、特に限定されないが、3回以上行うのが好ましい。尚、継代培養時の金属塩の添加は、必ずしも毎回の継代培養用液体培地に行う必要はないが、多糖類生産性の向上のためには、多くの回の継代培養用液体培地に金属塩を存在させることが好ましい。またカルスは組成が大きく異なる液体培地へ継代培養する際、褐変を生じる場合があり、褐変を生じたカルスは増殖性や多糖類生産性が低下する。そのため、液体培地の金属塩や炭素源などの濃度を変更する際には、継代培養毎に徐々に濃度を変化させていくことが望ましい。
【0033】
カルスの液体培地での培養に用いられる培養装置、培養槽などについては特に制限はない。培養槽としては縦型ドラム、横型ドラム、回転ドラムなど各種のタイプのものを用いることができる。ただし、振盪可能な培養槽の使用が好ましい。培養装置には通常は撹拌装置が付設され使用されるが、液体培地が培養槽の内部で循環移動するようにしてあれば、撹拌装置の設置と使用は必ずしも必要ではない。
【0034】
後記実施例に示すように、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法によれば、基本培地にさらに特定濃度の金属塩が添加された固体培地で誘導されたカルス(多糖類生産性細胞)は、基本培地にさらなる金属塩が添加されていない通常の固体培地で誘導された従来法のカルス(多糖類生産性細胞)に比して、カルスの株間の多糖類生産能のばらつきが抑制されており、多糖類生産能の低いカルスの株を選択的に除去することができる。すなわち、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法によれば、多糖類生産能の高い多糖類高生産性細胞を効率よく製造することができる。よって、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法は、多糖類高生産性細胞の製造方法もしくは選択方法又は多糖類低生産性細胞の除去方法と言い換えることができる。ここで、多糖類低生産性とは、多糖類の生産量が、従来法(例えば、後記実施例の比較例1の方法)における平均多糖類生産量の80%未満であることをいい、多糖類高生産性とは、多糖類の生産量が、該平均多糖類生産量の80%以上であることをいう。多糖類の生産量は、高速液体クロマトグラフィーなど公知の手段により測定することができる。金属塩高含有条件下での植物細胞からのカルス誘導は、通常、カルスの増殖不良や細胞死を生じ、カルス誘導の系として適さないと考えられるところ、基本培地にさらに特定濃度の金属塩が添加された固体培地でカルス誘導を行うことで多糖類高生産性細胞を効率よく製造できることは全く意外であった。これは、従来法では、塩ストレス耐性が低い植物細胞からもカルス誘導され、その後も誘導されたカルスが生存することで、多糖類生産能の低いカルスが存在していたのに対し、本発明の方法では、塩ストレス耐性が高い細胞から選択的にカルスが誘導された結果、多糖類生産能の高いカルスが得られたためと推測される。
また、後記実施例に示すように、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法では、誘導されたカルスを固体培地で継代する従来の多糖類生産性細胞の製造方法(例えば、後記実施例の比較例1)とは異なり、誘導されたカルスを固体培地で継代することなく液体培地での培養に供することができる。さらに、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法では、従来の多糖類生産性細胞の製造方法(例えば、後記実施例の比較例1)に比して、誘導されたカルスを液体培地で培養する期間を短縮することができる。よって、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法によれば、多糖類生産性細胞の製造に伴う期間、労力、資源などの削減が可能となる。
【0035】
本発明の多糖類生産性細胞の製造方法により得られる多糖類生産性細胞は、そのまま多糖類生産用細胞として、公知の培養条件にて培養し、工業的あるいは実験室的な多糖類の生産に利用できる。よって、別の一態様において、本発明は、多糖類の生産方法を提供する。当該方法は、本発明の多糖類生産性細胞の製造方法により得られる多糖類生産性細胞を液体培地で培養することを含む。多糖類生産のための液体培地としては、上記の液体培地と同様な組成の液体培地、あるいは多糖類の生産に適した液体培地を用いることが好ましく、上記同様に金属塩を含む液体培地を用いることがより好ましい。
【0036】
このようにして得られた培養物からの多糖類の採取は、例えば、培養物から細胞を遠沈又はろ過等によって除去したのち、培養液をロータリーエバポレーター等を用いて濃縮し、濃縮液にエタノールを加えて沈澱させ、沈澱物を凍結乾燥することによって行われる。多糖類の精製は、通常の多糖類の精製法に従って行うことができる。例えば、粗精製の多糖類を水に溶解し、遠心分離して不溶物を完全に除去した後、透析あるいはイオン交換クロマトグラフィー又はゲル濾過クロマトグラフィーにかけることによって、高純度精製品を得ることができる。
【実施例0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
比較例1
(1)固体培養1(カルスの誘導)
チューベロースのつぼみを切り取り、70%エタノール溶液で1分間滅菌し、更に11倍希釈したキッチンハイター(KAO)で15分間滅菌した後、滅菌水で洗浄した。滅菌処理されたつぼみから花弁を適当な大きさに切り、固体培地に接種した。固体培地の基本培地にはリンスマイヤー・スクーグの培地(LS培地)を使用し、さらに0.18重量%のゲランガム、オーキシンとして10-5MのNAA(α-ナフタレン酢酸)、サイトカイニンとして10-6MのBA(6-ベンジルアミノプリン)、炭素源として3重量%のスクロースを含む組成とした。この培地をKOH(水酸化カリウム)でpH5.7に調整したのち、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。
培養は暗所にて26±1℃で行なった。30~90日間の培養の後、それぞれの花弁からはカルスが誘導されていることが確認された。
培養90日後に15株分のカルス湿重量をそれぞれ測定したところ平均値は0.71gだった。
【0039】
(2)固体培養2(カルスの継代)
上記の工程で90日間培養することで得られたカルスを花弁から切り離した。カルスを新しい固体培地へ置床して同一条件下で90日間培養する継代培養を3回行なった。
【0040】
(3)液体培養1
液体培地Aの基本培地にはLS培地を使用し、さらにオーキシンとして10-5MのNAA(α-ナフタレン酢酸)、サイトカイニンとして10-6MのBA(6-ベンジルアミノプリン)、炭素源として3重量%のスクロースを含む組成とした。この培地をKOHでpH5.7に調整したのち、500mL容の三角フラスコに200mLを仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に固体培養で得られたカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Aが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養1は計5ヶ月以上行った。
【0041】
(4)液体培養2
液体培地Aのスクロース濃度を5重量%に変更した培地を液体培地Bとした。500mL容の三角フラスコに200mLの液体培地Bを仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に液体培養1を経たカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Bが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養2は計5ヶ月以上行った。
【0042】
(5)液体培養3
液体培地Bの組成に塩化カリウム(KCl)の終濃度が25mM高くなるようにKClを加えた培地を液体培地Cとした。500mL容の三角フラスコに200mLの液体培地Cを仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に液体培養2を経たカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Cが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養3は計5ヶ月以上行った。
【0043】
(6)TPS生産培養
液体培地Cに含まれている植物ホルモン(NAA及びBA)を10-5Mの2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)に変更した培地を液体培地Dとした。500mL容の三角フラスコに200mLの液体培地Dを仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に液体培養3を経たカルスを湿重量で10g接種して、暗所、26℃、90rpmで14日間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Dが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを湿重量で10g継代した。暗所、26℃、90rpmで14日間振盪培養した後、培養上清を回収した。
【0044】
(7)TPS生産性評価
(i)検量線の作製
透析膜にいれたソフケアTP-S(KAO)を超純水に浸漬して透析した後、透析膜内のソフケアTP-Sを回収して凍結乾燥した(凍結乾燥TPS)。凍結乾燥TPSを0.5MのNaCl(塩化ナトリウム)溶液に溶解することで複数濃度のTPS溶液を作製した後、高速液体クロマトグラフィーに供した。得られたTPS由来のピーク面積値とTPS溶液の濃度から検量線を作製した。高速液体クロマトグラフィーには装置にChromaster(日立ハイテクサイエンス)、カラムにTSKgel G6000PWXL(東ソー)、移動相に0.5MのNaCl、0.5%の安息香酸ナトリウム溶液、検出にRI(示差屈折率検出器)を使用した。
【0045】
(ii)測定
TPS生産培養で回収した培養上清を遠心機(himac CF7D2)にて3000rpm、5分間遠心分離した後、上清を回収して等量の0.5MのNaCl溶液と混合し、材質がセルロースアセテートで孔径が0.8μmのフィルター(ADVANTEC、39122181)にて濾過精製した。濾過精製後の液を検量線の作製と同じ条件の高速液体クロマトグラフィーに供して、得られたピーク面積値と検量線から回収した培養上清のTPS濃度を算出した。
【0046】
計22株を評価した際の結果を表1に示す。TPS濃度の平均値は1.01g/Lだった。またTPS濃度の平均値の8割(0.8g/L)に満たないTPS低生産な株は22株中8株(36.4%)存在した。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1
(1)固体培養(カルスの誘導)
比較例1記載の(1)固体培養1のうち、固体培地のスクロース濃度を5重量%とし、さらにKClの終濃度が25mM高くなるようにKClを加えた以外は同じ条件でカルスを誘導した。30または90日間の培養の後、それぞれの花弁からはカルスが誘導されていることが確認された。
培養90日後に回収した5株分のカルス湿重量をそれぞれ測定したところ平均値は0.20gだった。
【0049】
(2)液体培養
500mL容の三角フラスコに比較例1(5)記載の液体培地Cと同じ組成の培地を200mL仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に実施例1(1)カルスの誘導で得られたカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Cが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養は計4ヶ月以上行った。
【0050】
(3)TPS生産培養
カルスとして実施例1(2)液体培養で得られたカルスを使用する以外は、比較例1(6)記載のTPS生産培養と同じ条件で培養と培養上清の回収を行った。
【0051】
(4)TPS生産性評価
比較例1(7)と同様の方法でTPS濃度を算出した。
計9株を評価した際の結果を表2に示す。TPS濃度が0.8g/Lに満たないTPS低生産な株は存在しなかった。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例2
(1)固体培養(カルスの誘導)
比較例1記載の(1)固体培養1のうち、固体培地のKClの終濃度が25mM高くなるようにKClを加えた以外は同じ条件でカルスを誘導した。90日間の培養の後、それぞれの花弁からはカルスが誘導されていることが確認された。
培養90日後に10株分のカルス湿重量をそれぞれ測定したところ平均値は0.40gだった。
【0054】
(2)液体培養
500mL容の三角フラスコに比較例1(5)記載の液体培地Cと同じ組成の培地を200mL仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に実施例2(1)カルスの誘導で得られたカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Cが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養は計4ヶ月以上行った。
【0055】
(3)TPS生産培養
カルスとして実施例2(2)液体培養で得られたカルスを使用する以外は、比較例1(6)のTPS生産培養と同じ条件で培養と培養上清の回収を行った。
【0056】
(4)TPS生産性評価
比較例1(7)と同様の方法でTPS濃度を算出した。
計10株を評価した際の結果を表3に示す。TPS濃度が0.8g/Lに満たないTPS低生産な株は存在しなかった。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例3
(1)固体培養(カルスの誘導)
比較例1記載の(1)固体培養1のうち、固体培地にさらにKCl、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl)または塩化マグネシウム(MgCl)を加えた以外は同じ条件でカルスを誘導した。90または110日間の培養の後、それぞれの花弁からはカルスが誘導されていることが確認された。
培養90または110日後に回収したカルス湿重量を表4に示す。いずれも比較例1の固体培養1よりもカルス量が少なかった。
【0059】
【表4】
【0060】
(2)液体培養
500mL容の三角フラスコに比較例1(5)記載の液体培地Cと同じ組成の培地を200mL仕込み、オートクレーブを用いて121℃、15分間滅菌した。この培地に実施例3(1)カルスの誘導で得られたカルスを接種した。暗所、26℃、90rpmで2~4週間振盪培養した後、液体培地からカルスを分離し、新しい液体培地Cが200mL入った500mL容の三角フラスコにカルスを継代する工程を複数回行った。液体培養は計4ヶ月以上行った
【0061】
(3)TPS生産培養
カルスとして実施例3(2)液体培養で得られたカルスを使用する以外は、比較例1(6)記載のTPS生産培養と同じ条件で培養と培養上清の回収を行った。
【0062】
(4)TPS生産性評価
比較例1(7)と同様の方法でTPS濃度を算出した。
評価した際の結果を表5に示す。TPS濃度が0.8g/Lに満たないTPS低生産な株は存在しなかった。
【0063】
【表5】