IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064063
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】くすみ低減剤の評価又は選択方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240507BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172376
(22)【出願日】2022-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年2月28日 「第16回日本ゲノム微生物学会年会プログラム及び要旨、P-50B(第16回日本ゲノム微生物学会年会事務局)」にて公開 (2)令和4年4月14日 https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2022/20220414-001/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年2月28日「第16回日本ゲノム微生物学会年会プログラム及び要旨、P-50B(第16回日本ゲノム微生物学会年会事務局)」にて公開 (2)令和4年3月2日「第16回日本ゲノム微生物学会年会(オンライン開催)」にて公開 (3)令和4年4月14日 https://www.kao.com/jp/corporate/news/rd/2022/20220414-001/
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴朗
(72)【発明者】
【氏名】矢野 剛久
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ20
4B063QR90
4B063QS40
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】くすみを低減するための剤を客観的かつ効率的に評価又は選択する方法を提供する。
【解決手段】被験物質存在下でオーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌により産生されるバイオフィルム構成成分量を測定する工程を含む、くすみ低減剤の評価又は選択方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質存在下でオーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌により産生されるバイオフィルム構成成分量を測定する工程を含む、くすみ低減剤の評価又は選択方法。
【請求項2】
下記(1)~(4)の工程を含む、請求項1記載の方法。
(1)オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させる工程
(2)(1)のオーレイモナス属細菌をオーレイモナス属細菌が生育可能な条件下で一定期間保持する工程
(3)(2)の一定期間保持したオーレイモナス属細菌の増殖性を測定する工程
(4)(3)で測定された結果に基づいて、オーレイモナス属細菌の増殖を抑制する被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する工程
【請求項3】
下記(5)~(8)の工程を含む、請求項1記載の方法。
(5)予め滅菌した固体表面にオーレイモナス属細菌と被験物質を接触させる工程
(6)(5)の固体表面に接触させたオーレイモナス属細菌をオーレイモナス属細菌が生育可能な条件下で一定期間保持する工程
(7)(6)の固体表面におけるバイオフィルム構成成分量を測定する工程
(8)(7)で測定された結果に基づいて、バイオフィルム構成成分量を減少させる被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する工程
【請求項4】
くすみ低減剤がくすみの維持又は改善剤である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
くすみ低減剤が白色度の維持又は改善剤である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
くすみ低減剤が繊維製品のくすみ低減剤である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
オーレイモナス属菌がオーレイモナス・ウレイリティカ又はオーレイモナス・アルタミレンシスである、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くすみ低減剤の評価又は選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類、タオル、寝具、ぬいぐるみ等の繊維製品では、使用や経年劣化に伴いくすみが生じる。くすみは使用時の心地よさや満足感などに負の影響を与えることから、くすみを低減する処理剤あるいは手法が求められている。
【0003】
くすみが生じる原因のひとつとして、繊維上で増殖した細菌が知られている。非特許文献1では、生地上でマイクロコッカス(Micrococcus)属細菌を培養すると、生地が黄色に変色し、変色領域でバイオフィルム様構造が形成されたことが確認されている。特許文献1では、洗濯物の悪臭の原因菌の1種であるブレブンディモナス(Brevundimonas sp.)属細菌を事前に増殖させた生地をDNase存在下で洗剤洗浄すると、DNase非存在下に比べ、当該生地に対する汚れ付着が防止されることが開示され、ブレブンディモナス属細菌と生地の汚れとの関係が示唆されている。しかしながら、くすみと細菌との関係について十分に研究されているとはいえない。
【0004】
一方、オーレイモナス(Aureimoas)属細菌は、アルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)綱に属する好気性のグラム陰性細菌である。現在17の種名が知られており、植物の葉や樹皮の他、空気中、海洋等の環境から検出例がある(非特許文献2)。しかしながら、オーレイモナス属細菌について、繊維製品からの分離例や、繊維製品のくすみに関連するといった報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-059943号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Tsuchiya et al. Colloids Surf B Biointerfaces, 2008, 64(2): 216-22
【非特許文献2】Sakai, H.D. et al. Microbiol. Resour. Announc. 2021, 10(41): e0087821
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、くすみ低減剤の評価又は選択方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、タオルに着目して検討を進め、タオルのくすみ強度、タオルにおける菌叢、及びタオルに存在する細菌のバイオフィルム構成成分量との関係を調べたところ、くすみ強度と菌叢中のオーレイモナス属細菌の存在割合、くすみ強度とバイオフィルム構成成分量、及びオーレイモナス属細菌の存在割合とバイオフィルム構成成分量とがそれぞれ有意に相関することを見出した。したがって、オーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌によって産生されるバイオフィルム構成成分量を指標として、くすみ低減剤の評価又は選択が可能であると考えられる。
【0009】
すなわち、本発明は、被験物質存在下でオーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌によって産生されるバイオフィルム構成成分量を測定する工程を含む、くすみ低減剤の評価又は選択方法に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、くすみを低減するための剤を客観的かつ効率的に評価又は選択することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「くすみ」とは、無生物対象物において生じる変色、具体的には白色度(whiteness、W)の値の低下を指す。W値は、無生物対象物の明度(L*値)と、色相と彩度を表す色度(a*値及びb*値)とを色差計で測定し、得られた各値からGriesser,R.Appita J.1996,49(2):105-112に記載の計算式により算出することができる。あるいは、W値は、JIS L 1916:2000 繊維製品の白色度測定方法に記載されているCIE W10の方法によっても算出することができる。本発明においては、無生物対象物の変色前のW値から変色後のW値を減じたW値の変化の程度(Delta whiteness、Dw)の値をくすみ強度の指標として使用することができる。
【0012】
「くすみの低減」とは、無生物対象物のくすみを悪化しないように維持すること又は改善することを指し、具体的には無生物対象物の白色度を維持すること又は改善する(増加させる)ことをいう。
【0013】
くすみの低減の対象となる「無生物対象物」としては、細菌が存在している、細菌が存在している可能性がある、又は細菌が付着する可能性がある、換言すれば、細菌がバイオフィルムを形成する可能性がある軟質又は硬質の固体表面を有する無生物物品が挙げられる。軟質又は硬質の固体表面としては、例えば、繊維製品等の軟質表面;家庭や事業施設における、カウンタ、シンク、化粧室、トイレ、浴槽、シャワー台、床、窓、ドアノブ、壁、下水口、パイプ等の硬質表面;キッチン用品、家具、電話、玩具等の各種器具、道具、雑貨等の硬質表面が挙げられる。ここで、繊維製品は、糸状の天然繊維、再生繊維又は合成繊維等を織るか編むなどして、多数の繊維を薄く広いシート状に加工した布生地、及び斯かる布生地を用いて縫製、圧着加工等されて作製された布生地の加工物を包含し、布生地の加工物としては、例えば、衣類(例えば、肌着、シャツ、セーター、スカート、スウェット、吸収性物品(使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、パンティライナー等)等)、タオル、装着品(例えば、スリッパ、スカーフ、ストール、手袋、靴下等)、装具(例えば、サポーター、マスク、ガーゼ、包帯等)、寝具(例えば、布団、マット、クッション、枕、毛布等)、カバー(例えば、布団カバー、クッションカバー、枕カバー、シーツ、座布団カバー、便座カバー等)、玩具(例えば、ぬいぐるみ等)等が挙げられる。本発明において、くすみの低減の対象となる無生物対象物は、好ましくは繊維製品である。
【0014】
本発明において、「バイオフィルム」とは、無生物対象物の固体表面に付着した細菌等の微生物の群落が分泌物とともに形成する構造体をいう。
【0015】
後記実施例に示すとおり、使用、洗濯、及び乾燥を繰り返したタオルのくすみ強度、タオルにおける菌叢、及びタオルに存在する細菌のバイオフィルム構成成分量の相関解析を行ったところ、くすみ強度と菌叢中のオーレイモナス属細菌の存在割合、くすみ強度とバイオフィルム構成成分量、及びオーレイモナス属細菌の存在割合とバイオフィルム構成成分量とが、それぞれ有意に正に相関していた。また、オーレイモナス属細菌とともに培養した培養布は、再汚染試験の結果、オーレイモナス属細菌を添加しなかったコントロールに比べてくすみ強度が高く、オーレイモナス属細菌が存在することで汚れの再汚染度が増加し、くすみやすいことが明らかとなった。これらの結果は、オーレイモナス属細菌及びオーレイモナス属細菌によって産生されるバイオフィルム構成成分量の制御がくすみ低減のターゲットとなり得、オーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌によって産生されるバイオフィルム構成成分量を指標として、くすみ低減剤の評価又は選択が可能であることを示すものである。
【0016】
本発明のくすみ低減剤の評価又は選択方法は、被験物質存在下でオーレイモナス属細菌の増殖性又はオーレイモナス属細菌によって産生されるバイオフィルム構成成分量を測定する工程を含む。
【0017】
一実施形態において、本発明のくすみ低減剤の評価又は選択方法は、下記(1)~(4)の工程を含む。
(1)オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させる工程
(2)(1)のオーレイモナス属細菌をオーレイモナス属細菌が生育可能な条件下で一定期間保持する工程
(3)(2)の一定期間保持したオーレイモナス属細菌の増殖性を測定する工程
(4)(3)で測定された結果に基づいて、オーレイモナス属細菌の増殖を抑制する被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する工程
【0018】
別の一実施形態において、本発明のくすみ低減剤の評価又は選択方法は、下記(5)~(8)の工程を含む。
(5)予め滅菌した固体表面にオーレイモナス属細菌と被験物質を接触させる工程
(6)(5)の固体表面に接触させたオーレイモナス属細菌をオーレイモナス属細菌が生育可能な条件下で一定期間保持する工程
(7)(6)の固体表面におけるバイオフィルム構成成分量を測定する工程
(8)(7)で測定された結果に基づいて、バイオフィルム構成成分量を減少させる被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する工程
【0019】
本発明の方法で用いられる、オーレイモナス属細菌としては、アルファプロテオバクテリア(Alphaproteobacteria)綱のオーレイモナス(Aureimonas)属に属する好気性のグラム陰性細菌が挙げられる。具体的には、オーレイモナス・ウレイリティカ(Aureimonas ureilytica)、オーレイモナス・アルタミレンシス(Aureimonas altamirensis)、オーレイモナス・エンドフィティカ(Aureimonas endophitica)、オーレイモナス・フェルギネア(Aureimonas ferruginea)、オーレイモナス・フラバ(Aureimonas flava)、オーレイモナス・フリジダクアエ(Aureimonas frigidaquae)、オーレイモナス・ガリイ(Aureiomnas galii)、オーレイモナス・グラシエイ(Aureimonas glaciei)、オーレイモナス・グラシイスタグニ(Aureimonas glaciistagni)、オーレイモナス・ジャトロファエ(Aureimonas jatrophae)、オーレイモナス・レプラリア(Aureimonas leprariae)、オーレイモナス・マングロヴィ(Aureimonas mangrovi)、オーレイモナス・フィロスファエラ(Aureimonas phyllosphaerae)、オーレイモナス・ポプリ(Aureimonas populi)、オーレイモナス・プサモシレナ(Aureimonas psammosilenae)、オーレイモナス・シュードガリイ(Aureimonas pseudogalii)、オーレイモナス・ルビジニス(Aureimonas rubiginis)等が挙げられ、好ましくはオーレイモナス・ウレイリティカ又はオーレイモナス・アルタミレンシスである。
これらは、公的な微生物寄託機関より所定の細菌株を入手することができる。例えば、オーレイモナス・ウレイリティカ及びオーレイモナス・アルタミレンシスは、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NITE Biological Resource Center、NBRC)より、それぞれ例えばNBRC106430及びNBRC107774として入手できる。
【0020】
工程(1)では、オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させる。オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させる手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、オーレイモナス属細菌への被験物質の塗布、添加、滴下、散布、噴霧等が挙げられる。オーレイモナス属細菌は、オーレイモナス属細菌の菌体、菌液等を用いることができるが、操作性の観点から、オーレイモナス属細菌の菌液を用いるのが好ましい。オーレイモナス属細菌の菌液としては、オーレイモナス属細菌の生菌を含んでいればよく、オーレイモナス属細菌の生菌及び培地を含むオーレイモナス属細菌の培養液が好ましい。培地は、オーレイモナス属細菌が生育可能である限り特に制限されず、例えば、R2A液体培地(塩谷エムエス)、SCD培地「ダイゴ」(塩谷エムエス)を例示することができる。
【0021】
工程(5)では、予め滅菌した固体表面にオーレイモナス属細菌と被験物質を接触させる。固体表面としては、上述した無生物対象物の軟質又は硬質の固体表面が挙げられ、好ましくは繊維製品の軟質の固体表面である。接触の順序は特に制限されず、オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させ、次いでこれらを予め滅菌した固体表面に接触させてもよいし、予め滅菌した固体表面に被験物質を接触させ、次いで当該固体表面にオーレイモナス属細菌をさらに接触させてもよいし、あるいは、予め滅菌した固体表面にオーレイモナス属細菌を接触させ、次いで当該固体表面に被験物質をさらに接触させてもよい。オーレイモナス属細菌に被験物質を接触させる手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、工程(1)の場合と同様の方法が挙げられる。固体表面にオーレイモナス属細菌及び/又は被験物質を接触させる手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、固体表面へのオーレイモナス属細菌及び/又は被験物質の塗布、添加、滴下、散布、噴霧等が挙げられる。オーレイモナス属細菌としては、オーレイモナス属細菌の菌体、菌液等を用いることができるが、操作性の観点から、オーレイモナス属細菌の菌液を用いるのが好ましい。オーレイモナス属細菌の菌液及び培地は、工程(1)の場合と同様のものが挙げられる。
【0022】
「被験物質」としては、くすみ低減剤として使用することが可能な物質であれば、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;ならびにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
【0023】
オーレイモナス属細菌の菌量、並びに被験物質の濃度及び量は、オーレイモナス属細菌の増殖相や、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、適当な濃度に希釈した被験物質の所定量を、所定量の菌に添加することが挙げられる。
【0024】
工程(2)又は(6)では、工程(1)で被験物質を接触させたオーレイモナス属細菌又は工程(5)で固定表面に接触させたオーレイモナス属細菌をオーレイモナス属細菌が生育可能な条件下で一定期間保持し、オーレイモナス属細菌を培養する。ここで、「生育可能」とは「増殖可能」であることを意味する。当該条件としては、オーレイモナス属細菌が良好に生育する条件であれば、特に制限はないが、例えば、4~40℃、好ましくは25~37℃で、好気条件下、好ましくは振盪培養することが挙げられる。保持期間は、被験物質によってオーレイモナス属細菌の増殖速度が異なり得るため、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等を考慮して適宜設定すればよい。通常は、例えば4~72時間、好ましくは8~48時間である。保持に用いる容器は、被験物質、オーレイモナス属細菌の生育に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されず、通常のガラス瓶、ガラス管、遠心管、プラスチック容器等を使用できる。
【0025】
工程(3)では、工程(2)で一定期間保持したオーレイモナス属細菌の増殖性を測定する。ここで、「増殖性」とは、増殖可能な細菌数を指す。一定期間保持したオーレイモナス属細菌の増殖性は、オーレイモナス属細菌の細菌数(濃度)を指標として、当該分野で公知の方法に従って測定することができる。具体的には、例えば、保持後の細菌数又は保持前後の細菌数の差若しくは比で求めることができる。細菌数の測定方法としては、プレートへの塗抹による菌数測定、吸光度測定、熱量測定、ATP測定、インピーダンス測定、リアルタイムPCRによる菌数測定等の方法を用いることができる。
【0026】
次いで、工程(4)では、工程(3)で測定された結果に基づいて、オーレイモナス属細菌の増殖を抑制する被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する。
斯かる評価又は選択は、例えば、被験物質接触群と被験物質非接触群若しくは対照物質接触群又は被験物質接触群の被験物質接触前とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われる。
【0027】
例えば、被験物質接触群において、保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数(濃度)又は保持前後のオーレイモナス属細菌の細菌数(濃度)の差若しくは比が、被験物質非接触群又は対照物質接触群と比べて少ない場合、当該被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する。この場合、被験物質非接触群又は対照物質接触群に対して、被験物質接触群における保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数又は保持前後のオーレイモナス属細菌の細菌数の差若しくは比が統計学的に有意に少ないか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質非接触群又は対照物質接触群における保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数又は保持前後のオーレイモナス属細菌の細菌数の差若しくは比を100%としたときに、被験物質添加群における保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数又は保持前後のオーレイモナス属細菌の細菌数の差若しくは比が一定以下、例えば、10%以下、好ましくは1%以下であるか否かによって判断することができる。
あるいは、例えば、被験物質接触群において、保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数(濃度)が、被験物質接触群の被験物質接触前のオーレイモナス属細菌の細菌数(濃度)と比べて少ない場合、当該被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する。この場合、被験物質接触群の被験物質接触前のオーレイモナス属細菌の細菌数に対して、被験物質接触群における保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数が有意に少ないか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質接触群の被験物質接触前のオーレイモナス属細菌の細菌数を100%としたときに、被験物質接触群における保持後のオーレイモナス属細菌の細菌数が一定以下、例えば、10%以下、好ましくは1%以下であるか否かによって判断することができる。
【0028】
工程(7)では、工程(6)で一定期間保持した固体表面におけるバイオフィルム構成成分の産生量を測定する。当該固体表面において、バイオフィルムは、菌液に由来するオーレイモナス属細菌によって形成されるため、測定されるバイオフィルム構成成分量は、実質的にオーレイモナス属細菌により産生されるバイオフィルム構成成分量である。バイオフィルム構成成分としては、一般的にタンパク質、核酸、多糖類等が挙げられる。
バイオフィルム構成成分の産生量は、各種成分に応じて、当該分野で公知の手段で測定すればよい。例えば、タンパク質量の測定方法の例としては、Lowry法(O.Lowry et al. J.Biol.Chem.,1951,193(1))が挙げられる。核酸量の測定方法の例としては、Qubit(登録商標) dsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)等の市販のキットを用いて測定する方法が挙げられる。多糖類量の測定方法の例としては、フェノール硫酸法(M.Dubois et al. Anal.Chem.,1956,28(3))が挙げられる。
【0029】
次いで、工程(8)では、工程(7)で測定された結果に基づいて、バイオフィルム構成成分量を減少させる被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する。
斯かる評価又は選択は、例えば、被験物質接触群と被験物質非接触群又は対照物質接触群とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われる。
【0030】
例えば、被験物質接触群において、バイオフィルム構成成分量が、被験物質非接触群又は対照物質接触群と比べて少ない場合、当該被験物質をくすみ低減剤として評価又は選択する。この場合、被験物質非接触群又は対照物質接触群に対して、被験物質接触群におけるバイオフィルム構成成分量が統計学的に有意に少ないか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質非接触群又は対照物質接触群におけるバイオフィルム構成成分量を100%としたときに、被験物質接触群におけるバイオフィルム構成成分量が一定以下、例えば、90%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは10%以下であるか否かによって判断することができる。
【0031】
斯くして得られたくすみ低減剤は、くすみの低減のために、衣料用洗剤等の日用品に加える他、化粧品、医薬部外品、医薬品等に配合することによっても使用できる。
【実施例0032】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0033】
実施例1 タオルのくすみ強度、タオルから抽出したバイオフィルム構成成分量、菌叢中のオーレイモナス属細菌の存在割合の相関
タオルのくすみ強度、タオルから抽出したバイオフィルム構成成分量、タオルの菌叢の相関解析を行った。
【0034】
(1)解析タオル
解析対象として、新品の状態から、2~6カ月間の使用と洗濯を繰り返した、計78枚のタオルを使用した。
【0035】
(2)くすみ強度の測定
各タオルのくすみ強度は、色差計を用いて測定した。具体的には、切り出したタオル片12cm角に対してL*値、a*値、b*値を測定した。得られた各値から白色度を算出し(Griesser,R.Appita J.1996,49(2):105-112)、さらに同じタオル片の異なる領域を同様に3回測定してその平均値をWhiteness(W)値とした。次に、タオルが使用・洗濯によって相対的にどの程度変色したかを表すために、Delta whiteness(Dw)値を以下の式に従い算出した。タオルのDw値は使用、洗濯、乾燥を通して生じる変色の程度、すなわちくすみ強度を表している。
(数1)
Dw=(新品タオルのW値)-(使用タオルのW値)
【0036】
(3)バイオフィルム構成成分量の測定
バイオフィルムの構成成分量として、タンパク質量、核酸量の定量を行った。回収したタオル中で頻度高く使用されたと思われる部位から30mgのタオル片を1枚切り出し、タオル片からのアルカリ・加熱抽出物を遠心分離して得られた画分に対して、タンパク質量はLowry法(O.Lowry et al. J.Biol.Chem.,1951,193(1))で測定し、核酸量はQubit(登録商標) dsDNA HS Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用い、添付プロトコルに従って測定した。
【0037】
(4)菌叢解析
菌叢解析は、細菌の16S rRNAをターゲットとし、次世代シークエンサーを用いて行った。具体的には、切り出したタオル片1cm角に対してDNA抽出を行った。DNA抽出の方法について、タオル片1cm角を更に4分割して0.5cm角とし、それぞれメタルコーン(安井器械)と共に2mL容凍結破砕チューブ(安井器械)に入れた。液体窒素にて凍結してマルチビーズショッカー(安井器械)にて2,000rpm、1分間破砕する操作を2回繰り返した。1mLのbuffer(10mM EDTA,1.0%(w/v) dodecyl sulfate,10mM Tris-HCl(pH8.0))を破砕後のチューブに添加し、激しく攪拌した。破砕繊維を含む500μLの上清を4本のチューブそれぞれから回収し、1本の遠沈管に移した。遠沈管に700μLのPhenol:Chloroform:Isoamyl aocohol(25:24:1,PCI)とジルコニアビーズ(ジルコプレップミニ、日本ジェネティクス)を添加し、5分間激しく攪拌した。遠沈管を8,000×g、室温で10分間遠心した後、700μLの水層を1.5mL容遠沈チューブに移した。チューブに700μLのPCIを添加し、5分間激しく攪拌した。チューブを12,000rpm、室温で5分間遠心した後、400μLの水層を新たな1.5mL容遠沈チューブに移した。Ethachinmate(ニッポンジーン)の推奨プロトコルに従い精製したゲノムDNAは風乾後、100μLのTE buffer[pH8.0](ニッポンジーン)に溶解した。調製したゲノムDNAは、TE buffer[pH8.0]で10倍希釈した後、PCR反応に供した。抽出したゲノムDNAに対し、16S rRNA遺伝子V3V4領域をターゲットとしたPCRによって増幅させた塩基配列を、次世代シークエンサーMiSeq(Illumina)を用いて解析した。PCR反応において、プライマーは株式会社FASMACにて合成されたForward primer(341F:5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’(配列番号1))と、Reverse primer(805R_mod:5’-GACTACHVGGGTATCTAAKCC-3’(配列番号2))を用いた。得られたデータはQiime2(E.Bolyen et al. Nat.Biotechnol.,2019,37(8))を用いて解析した後、Phyloseq(P.McMurdie et al. PLoS ONE,2013,8(4))により整理することで、各細菌の存在割合を明らかにした。
【0038】
(5)タオルのくすみ強度、タオルから抽出したバイオフィルム構成成分量、菌叢の相関解析
タオルのくすみ強度と、タオルから抽出したバイオフィルム構成成分量と、菌叢中の平均存在率が0.1%以上の菌(属レベル)の相関解析を、Pairwise Spearman’s correlation analysisによって行った。p値の補正にはHolm法を利用した。
【0039】
(6)相関解析の結果
表1に菌叢中のオーレイモナス属細菌の存在割合と、タオルから抽出したバイオフィルム構成成分量と、タオルのくすみ強度の相関解析の結果を示す。オーレイモナス属細菌の存在割合とタオルのくすみ強度、オーレイモナス属細菌の存在割合とタオルから抽出したバイオフィルム構成成分量、及びタオルのくすみ強度とタオルから抽出したバイオフィルム構成成分量は有意に正の相関があった(q<0.05)。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例2 オーレイモナス属細菌培養布の泥に対する再汚染性
オーレイモナス属細菌を布上で培養した際に、布がくすみやすくなっているかどうかを確かめた。
【0042】
(1)対象菌株
実施例1の菌叢解析の結果より、オーレイモナス属として検出されたDNA配列情報から種を推定し、オーレイモナス・ウレイリティカ(Aureimonas ureilytica、NBRC106430)とオーレイモナス・アルタミレンシス(Aureimonas altamirensis、NBRC107774)を用いて試験した。
【0043】
(2)菌液の調製
2種のオーレイモナス属細菌をR2A寒天培地(塩谷エムエス)上で30℃、24時間培養した。培養後のコロニーをかきとり、R2A液体培地(塩谷エムエス)に懸濁し、30℃、200rpm、19時間振とう培養したものを菌液とした。
【0044】
(3)オーレイモナス属細菌培養布の作製
3cm角の平織布を入れ、シリコ栓をして滅菌した試験管(φ22mm)中に10mLのR2A液体培地とOD600=0.3に合わせた100μLの菌液を添加し、30℃、200rpm、24時間振とう培養した。平織布を取り出し、乾燥させたものをオーレイモナス属細菌培養布とした。また、上記操作中で、菌液の代わりに100μLのR2A液体培地を添加したものをコントロール布とした。
【0045】
(4)オーレイモナス属細菌培養布に対する再汚染試験
4°dHとなるように硬度を調整した滅菌水中に、終濃度200ppmとなるようにエマルゲン108(Polyoxyethylene(6) lauryl ether,花王)と、終濃度250ppmとなるように泥(鹿沼土)を添加し、1時間超音波処理を行ったものを、再汚染液とした。UV滅菌済みのスクリュー管に10mLの再汚染液と、オーレイモナス属細菌培養布またはコントロール布を入れ、25℃、160rpm、30分間振とうした。再汚染液を除去したスクリュー管に、10mLの4°dH硬水を添加し、25℃、160rpm、5分間振とうする作業を2回行った。スクリュー管から布を取り出し、清潔なペーパータオルで挟んで余分な水分を除去した後、1時間以上乾燥させたものを再汚染布とした。再汚染布の白度を色差計で測定し、実施例1(2)と同様の方法でDw値を算出した。
【0046】
(5)再汚染試験の結果
表2に再汚染試験の結果を示す。ウィルコクソン検定の結果、各オーレイモナス属細菌培養布のDw値はコントロール布と比較して有意に増加した。よって、オーレイモナス属細菌存在下では、布がくすみやすくなっていることが示された。
【0047】
【表2】
【配列表】
2024064063000001.xml