(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064068
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ウイルス増殖阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/343 20060101AFI20240507BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240507BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240507BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240507BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20240507BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
A61K31/343
A61P31/12
A61P31/14
A61P43/00 121
A61K31/196
A61P31/16 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172388
(22)【出願日】2022-10-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「GTP代謝制御によるウイルス複製阻害技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】千田 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敦朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 恒
(72)【発明者】
【氏名】川口 敦史
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA05
4C086GA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA10
4C086NA05
4C086ZB33
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA33
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB33
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】ウイルスの増殖を抑制可能な新規のウイルス増殖阻害剤を提供する。
【解決手段】ウイルス増殖抑制剤は、式(I)又は(II)で表される化合物及びこれら化合物の医薬的に許容される塩、並びにそれらの医薬的に許容される溶媒和物からなる群より選ばれる1種以上を有効成分として含有する。ウイルス感染症予防又は治療用医薬組成物は、前記ウイルス増殖阻害剤と、薬学的に許容される担体と、を含む。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)又は(II)で表される化合物及びこれら化合物の医薬的に許容される塩、並びにそれらの医薬的に許容される溶媒和物からなる群より選ばれる1種以上を有効成分として含有する、ウイルス増殖阻害剤。
【化1】
【請求項2】
阻害対象となるウイルスがコロナウイルス又はインフルエンザウイルスである、請求項1に記載のウイルス増殖阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤と、薬学的に許容される担体と、を含む、ウイルス感染症予防又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス増殖阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
個別のウイルスに対する抗ウイルス剤の開発においては、ウイルスのゲノム情報や構造情報に基づきハイスループットスクリーニングを活用してウイルスの生活環を阻害する化合物を開発する方法が一般的である。この方法では、成功すれば効果は大きいが、(1)ウイルスの変異により薬剤が無効化する場合がある、(2)個々のウイルスに対して特異的な薬剤を開発する必要がある等の問題が存在する。また、SARSコロナウイルス-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のように治療及び予防に緊急を要する場合には、即効的に対処することが難しい。
【0003】
一方、発明者らは、これまでに、イノシトールリン脂質キナーゼの一種であるホスファチジルイノシトール-5-リン酸-4-キナーゼβ(P15P4Kβ)のGTPセンシング機能とがん増殖の関係を解明し(例えば、非特許文献1等参照)、1μM未満という極めて小さいIC50値でP15P4Kβを強く阻害する化合物群を見出している(例えば、特許文献1等参照)。なお、発明者らは、反応液中の補酵素若しくは基質又はそれら由来の反応生成物のNMRスペクトルを取得することで、酵素の活性を高精度かつ高効率に定量し、これにより阻害剤又は賦活剤の同定を行う方法(例えば、特許文献2等参照)を開発し、上記化合物群を同定した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/111792号
【特許文献2】特開2017-040603号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sumita K et al., “The lipid kinase PI5P4Kβ is an intracellular GTP sensor for metabolism and tumorigenesis.” Mol Cell, Vol. 61, Issue 2, pp. 187-198, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ウイルスの増殖を抑制可能な新規のウイルス増殖阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するP15P4Kβ阻害剤の投与によりウイルスの複製を抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 下記式(I)又は(II)で表される化合物及びこれら化合物の医薬的に許容される塩、並びにそれらの医薬的に許容される溶媒和物からなる群より選ばれる1種以上を有効成分として含有する、ウイルス増殖阻害剤。
【0009】
【0010】
(2) 阻害対象となるウイルスがコロナウイルス又はインフルエンザウイルスである、(1)に記載のウイルス増殖阻害剤。
(3) (1)又は(2)に記載のウイルス増殖阻害剤と、薬学的に許容される担体と、を含む、ウイルス感染症予防又は治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
上記態様のウイルス増殖阻害剤によれば、ウイルスの増殖を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1におけるP15P4Kβ阻害剤添加群及び非添加群でのSARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)のウイルス産生量を示すグラフである。
【
図2】実施例1におけるP15P4Kβ阻害剤添加及び非添加のVeroE6-TMPRSS2アフリカミドリザル腎由来細胞(VeroE6-TM2細胞)の観察像である。
【
図3】実施例1におけるP15P4Kβ阻害剤添加及び非添加のVeroE6-TM2細胞の細胞生存率を示すグラフである。
【
図4】実施例2における化合物(II)添加群及び非添加群でのSARS-CoV-2のウイルスタンパク質の発現量を示す図である。
【
図5】実施例3における化合物(II)添加群及び非添加群でのインフルエンザA型ウイルス(IAV)のウイルス産生量を示すグラフである。
【
図6】実施例3における化合物(II)添加群及び非添加群でのIAVのウイルスタンパク質の発現量を示す図である。
【
図7】実施例4における化合物(II)の添加タイミングが異なる群間でのIAVのウイルスタンパク質の発現量を比較した図である。
【
図8】実施例4における化合物(II)の添加タイミングが異なる群間でのSARS-CoV-2のウイルスタンパク質の発現量を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪ウイルス増殖阻害剤≫
本実施形態のウイルス増殖阻害剤は、下記式(I)又は(II)で表される化合物(以下、「化合物(I)」又は「化合物(II)」と称する場合がある)及びこれら化合物の医薬的に許容される塩、並びにそれらの医薬的に許容される溶媒和物からなる群より選ばれる1種以上を有効成分として含有する。
【0014】
【0015】
化合物(I)及び化合物(II)はいずれもP15P4Kβ阻害剤として発明者らが同定した化合物である。発明者らは、これまでにP15P4KβがGTP代謝において細胞内でのタンパク質の合成及び分解等の制御を行っていることを明らかにしている。
【0016】
従来の抗ウイルス剤の開発方法は、ウイルスに直接的に働きかける薬剤の開発を主としている。これに対して、発明者らは、ウイルスが感染する宿主細胞におけるタンパク質合成及び分解を制御することで、大量のタンパク質合成によって複製を行うウイルスの増殖を抑制できると仮説を立て、GTP代謝に関与するP15P4Kβの機能を阻害する薬剤に着目した。その結果、後述する実施例に示すように、P15P4Kβ阻害剤である、化合物(I)及び化合物(II)がウイルスの増殖を抑制できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0017】
なお、本明細書において、「有効成分として含有する」とは、所定の化合物(I)又は化合物(II)の投与量においてウイルスの増殖を一定程度阻害できることを意味する。具体的には、所定の化合物(I)又は化合物(II)の投与量において、化合物(I)及び化合物(II)非投与時のウイルス量に対して、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%又は10%以下のウイルス量となるようにウイルスの増殖を阻害できることを意味する。
【0018】
本実施形態のウイルス増殖阻害剤において、阻害対象となるウイルスとしては、特に限定されず、各種感染症の原因となるウイルスを対象とすることができる。そのようなウイルスとして具体的には、例えば、RSウイルス(respiratory syncytial virus)、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス等が挙げられる。中でも、本実施形態のウイルス増殖阻害剤は、SARS-CoV-2、又はインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性に特に優れるものである。
【0019】
<化合物(I)及び化合物(II)>
化合物(I)及び化合物(II)には、特に断らない限り、存在し得る互変異性体、幾何異性体、鏡像異性体等の立体異性体のいずれもが含まれる。
【0020】
化合物(I)及び化合物(II)の入手方法は任意であり、自ら合成してもよく、商業的に入手してもよい。
【0021】
化合物(I)及び化合物(II)の合成方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法を単独又は組み合わせて合成すればよい。
【0022】
化合物(I)及び化合物(II)を商業的に入手する場合、例えば、以下のとおり商業的に入手できる。
【0023】
化合物(I)(CAS番号:19795-96-1、Pubchem番号88253)は、例えば、Vitas-M社から、商品名「STK238453」として、商業的に入手することができる。
【0024】
化合物(II)は、例えば、TimTec社から、商品名「ST095461」として、商業的に入手することができる。
【0025】
なお、本明細書において、「医薬的に許容される」とは、所望の主作用を得るための投与量において投与対象者にとって通常、有害ではないことを意味する。
【0026】
医薬的に許容される塩としては、化合物が酸性基を有する場合には、以下のものが挙げられる。
【0027】
例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、リジン、δ-ヒドロキシリジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸付加塩等が挙げられる。さらにはアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、L-グルカミン等のアミン付加塩等が挙げられる。
【0028】
医薬的に許容される塩としては、化合物が塩基性基を有する場合には、以下のものが挙げられる。
【0029】
例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸塩等が挙げられる。さらにはアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸付加塩等が挙げられる。
【0030】
医薬的に許容される溶媒和物としては、例えば、水和物、アルコール和物の他、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、トルエン、ベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン及びシクロヘキサンからなる群より選択される薬学的に許容される溶媒との溶媒和物等が挙げられる。これらの中では水和物が通常好ましい。ここで、化合物を合成する際に使用し残存した溶媒との溶媒和物も含まれる。
【0031】
≪ウイルス感染症予防又は治療用医薬組成物≫
本実施形態のウイルス感染症予防又は治療用医薬組成物(以下、単に「本実施形態の医薬組成物」と称する場合がある)は、上述したウイルス増殖阻害剤と、薬学的に許容される担体と、を含む。
【0032】
本実施形態の医薬組成物は、ウイルス感染症に適用され、ウイルスの増殖を効果的に抑制することができる。そのため、本実施形態の医薬組成物は、ウイルス感染症の症状の進行を止める治療薬への応用が期待される。
【0033】
ウイルス感染症としては、例えば、新型コロナウイルス感染症-2019(COVID-19)、RSウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザ等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、本実施形態の医薬組成物は、COVID-19又はインフルエンザに好ましく適用される。
【0034】
<薬学的に許容される担体>
薬学的に許容される担体としては、通常医薬組成物の製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができる。より具体的には、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤;水、エタノール、グリセリン等の注射剤用溶剤;ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤等が挙げられる。
【0035】
<添加剤>
本実施形態の医薬組成物は添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の医薬組成物は、上述したウイルス増殖阻害剤と、上述した薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0037】
本実施形態の医薬組成物は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよいが、非経口的に使用される剤型が好ましい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。非経口的に使用される剤型としては例えば注射剤、噴霧剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられる。
【0038】
本実施形態の医薬組成物は、他の治療薬と組合せて、使用してもよい。例えば、上記ウイルス増殖阻害剤を、抗炎症剤や他の抗ウイルス剤等と組み合わせて使用することで、ウイルス感染症の症状を軽減しながら、治療効果を増強することができる。
上記ウイルス増殖阻害剤と他の治療薬とは、同一の製剤にしてもよく、別々の製剤にしてもよい。また、各製剤は、同一の投与経路で投与してもよく、別々の投与経路で投与してもよい。更に、各製剤は、同時に投与してもよく、逐次的に投与してもよく、一定の時間乃至期間を空けて別々に投与してもよい。一実施態様において、上記ウイルス増殖阻害剤と他の治療薬とは、これらを包含するキットとしてもよい。
【0039】
<投与方法>
本実施形態のウイルス増殖阻害剤を投与する対象としては、限定されるものではないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、及びそれらの細胞等が挙げられる。中でも、哺乳動物又は哺乳動物細胞が好ましく、ヒト又はヒト細胞が特に好ましい。
【0040】
投与方法としては、例えば、髄腔内注射、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、関節内注射、鼻腔内的、経気管支的、経肺的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法により行うことができる。
【0041】
投与量は、患者の体重や年齢、患者の症状、投与方法等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0042】
本実施形態のウイルス増殖阻害剤の投与量は、上記化合物(I)又は化合物(II)の量として、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日当たり、且つ、体重1kgあたり、0.001mg以上、0.01mg以上、0.1mg以上、0.5mg以上、又は1mg以上程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。また、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日当たり、且つ、体重1kgあたり、100mg以下、10mg以下、9mg以下、8mg以下、7mg以下、6mg以下、5mg以下、4mg以下、又は3mg以下程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
【0043】
非経口的に投与を行う場合は、例えば注射剤の形で、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日当たり、且つ、体重1kgあたり、0.0001mg以上、0.001mg以上、0.01mg以上、0.05mg以上、又は0.1mg以上程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。また、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日当たり、且つ、体重1kgあたり、10mg以下、1mg以下、0.9mg以下、0.8mg以下、0.7mg以下、0.6mg以下、0.5mg以下、0.4mg以下、又は0.3mg以下程度を、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
【0044】
≪その他実施形態≫
一実施形態において、本発明は、治療的に有効量の上記ウイルス増殖阻害剤を、治療を必要とする患者に投与することを含む、ウイルス感染症(好ましくは、COVID-19又はインフルエンザ)の予防又は治療方法を提供する。
【0045】
なお、ここでいう「治療的に有効な量」とは、望ましい治療措置に従って投与したときに、医師、臨床医、獣医、研究者、又は他の適切な専門家が求める生物学的、医学的効果若しくは応答を誘発する化合物(I)又は化合物(II)の量、又は化合物(I)又は化合物(II)及び1種類以上の活性剤の組み合わせの量を意味する。好ましい治療的に有効な量はウイルス感染症の症状を改善する量である。また、「治療的に有効な量」には、予防に有効な量、すなわち、疾患状態の予防に適する量が包含される。
【0046】
一実施形態において、本発明は、ウイルス感染症(好ましくは、COVID-19又はインフルエンザ)の予防又は治療のための、上記ウイルス増殖阻害剤を提供する。
【0047】
一実施形態において、本発明は、ウイルス感染症(好ましくは、COVID-19又はインフルエンザ)予防又は治療用医薬組成物を製造するための上記ウイルス増殖阻害剤の使用を提供する。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[材料]
(P15P4Kβ阻害剤)
化合物(I):Vitas-M Laboratoryより購入し、DMSOに溶解して10mMの溶液を調製した。
化合物(II):TimTecより購入し、DMSOに溶解して10mMの溶液を調製した。
【0050】
(使用細胞及びウイルス株)
VeroE6-TMPRSS2アフリカミドリザル腎由来細胞(以下、「VeroE6-TM2細胞」と略記する場合がある)は、医薬基盤・健康・栄養研究所から入手した。
ヒト肺腺癌由来細胞株であるA549細胞は、ATCCより入手した。
【0051】
SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2) NIID株は、国立感染症研究所より入手した。
【0052】
インフルエンザA型ウイルス(IAV) A/Pureto Rico/8/1934株は、国立遺伝学研究所より入手した。
【0053】
(抗体)
ウエスタンブロッティング法で用いられた抗体は以下のとおりである。
抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体:慶応大学より入手。
抗NSP12タンパク質抗体:ABclonal社製
抗NSP8タンパク質抗体:Abcam社製
抗インフルエンザA型ウイルス核タンパク質(NP)抗体:自作
抗β-Actinタンパク質抗体:Sigma-Aldrich社製
【0054】
(プライマー)
定量的逆転写PCR(RT-qPCR)に用いられたプライマーの配列は以下の表に示すとおりである。
【0055】
【0056】
[測定方法]
(RNAの定量)
逆転写反応 cDNA合成キット(TOYOBO社;ReverTraAce)、定量PCRキット(Thermofisher社;SYBR Green Real-Time PCR Master Mixes)、及び上記表に示すプライマーを用いて、RNAの定量を行った。
【0057】
[実施例1]
(P15P4Kβ阻害剤の抗SARS-CoV-2活性及び細胞毒性)
以降の試験において、VeroE6-TM2細胞は、37℃、5v/v%CO2存在下で、DMEM(高グルコース)に非働化ウシ胎児血清(FBS)を10v/v%となるように添加した培地を用いて培養した。
【0058】
VeroE6-TM2細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、1、3、又は10μMの化合物(I)又は化合物(II)を含む培地で0.5時間培養した。細胞が接着したことを確認した後にSARS-CoV-2(MOI:0.1)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、1、3、又は10μMの化合物(I)又は化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で20時間培養した。コントロールとして、P15P4Kβ阻害剤の代わりに、DMSOを添加して培養した群も準備した。
【0059】
培養上清は15,000rpm、3分間の遠心後に回収し、ウイルスRNAを精製した。精製したウイルスRNAは、逆転転写反応後、SARS-CoV-2のS遺伝子に特異的なプライマーを用いて、定量PCR法を行った。化合物非添加(DMSOを代わりに添加)であってウイルスを添加した群のRNA量を1.0として、各濃度の化合物(I)又は化合物(II)添加群のウイルス産生量を評価した。結果を
図1に示す。
【0060】
図1に示すように、終濃度10μMで化合物(II)を添加した結果、SARS-CoV-2のウイルス産生量は非添加群の約20%まで低下し、また、終濃度10μMの化合物(I)では約半量まで低下することが見出された。よって、これらP15P4Kβ阻害剤は抗SARS-CoV-2活性を持つことが示された。
【0061】
次いで、VeroE6-TM2細胞を2×10
5細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、化合物(I)又は化合物(II)を濃度が0、1、3、10又は30μMとなるように培地に添加して24時間培養した。各濃度の化合物を添加した細胞の観察像を
図2に示す。次いで、テトラゾリウム塩WST-8[2-(2-methoxy-4-nitrophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt]溶液(DOJINDO社製、Cell Counting Kit-8)を添加し、1.5時間インキュベーションした。また、インキュベーション後に、450nmの吸光度を測定した。化合物非添加条件下でインキュベーションした細胞(化合物非添加群)の吸光度(バックグラウンド)の値に対する、各濃度の化合物添加条件下でインキュベーションした細胞(化合物添加群)吸光度の比を算出した。結果を
図3に示す。
【0062】
図2及び
図3に示すように、化合物(I)及び化合物(II)の細胞毒性は低いことが確かめられた。
【0063】
[実施例2]
(P15P4Kβ阻害剤によるウイルスタンパク質の合成阻害作用)
VeroE6-TM2細胞を2×10
5細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、10μMの化合物(II)を含む培地で0.5時間培養した。細胞が接着したことを確認した後にSARS-CoV-2(MOI:0.3)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、10μMの化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO
2存在下で6時間培養した。コントロールとして、P15P4Kβ阻害剤の代わりに、DMSOを添加して培養した群も準備した。細胞を回収し、細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロッティングによる解析を行った。結果を
図4に示す。
【0064】
図4に示すように、化合物(II)添加群では、SARS-CoV-2スパイクタンパク質、並びに、RNA依存性RNAポリメラーゼを構成するNSP12タンパク質、及びNSP8タンパク質の発現の低下が確認された。一方で、β-アクチンタンパク質の発現量は低下しなかった。よって、P15P4Kβ阻害剤はSARS-CoV-2のウイルスタンパク質の合成を特異的に阻害することが示唆された。
【0065】
[実施例3]
(P15P4Kβ阻害剤の抗IAV活性)
A549細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、1、3、又は10μMの化合物(II)を含む培地で0.5時間培養した。細胞が接着したことを確認した後にIAV(MOI:0.1)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、1、3、又は10μMの化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で24時間培養した。コントロールとして、P15P4Kβ阻害剤の代わりに、DMSOを添加して培養した群も準備した。
【0066】
培養上清は15,000rpm、3分間の遠心後に回収し、ウイルスRNAを精製した。精製したウイルスRNAは、逆転転写反応後、IAVのNP遺伝子に特異的なプライマーを用いて、定量PCR法を行った。化合物非添加(DMSOを代わりに添加)であってウイルスを添加した群のRNA量を1.0として、各濃度の化合物(II)添加群のウイルス産生量を評価した。結果を
図5に示す。
【0067】
図5に示すように、終濃度10μMで化合物(II)を添加した結果、IAVのウイルス産生量は非添加群の約10%まで低下することが見出された。よって、P15P4Kβ阻害剤は抗IAV活性を持つことが示された。
【0068】
次いで、A549細胞を2×10
5細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、1、3、又は10μMの化合物(II)を含む培地で0.5時間培養した。細胞が接着したことを確認した後にIAV(MOI:10)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、1、3、又は10μMの化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO
2存在下で6時間培養した。コントロールとして、P15P4Kβ阻害剤の代わりに、DMSOを添加して培養した群も準備した。細胞を回収し、細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロッティングによる解析を行った。結果を
図6に示す。
【0069】
図6に示すように、化合物(II)添加群では、IAVの内部構造タンパク質であるNPタンパク質の発現の低下が確認された。一方で、β-アクチンタンパク質の発現量は低下しなかった。よって、P15P4Kβ阻害剤はIAVのウイルスタンパク質の合成を特異的に阻害することが示唆された。
【0070】
[実施例4]
(P15P4Kβ阻害剤の投与タイミング)
A549細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、細胞が接着後にIAV(MOI:10)を10μMの化合物(II)と共に添加して、37℃で1時間ウイルスを吸着させた。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で6時間培養した(以下、「IAV on ice群」と称する場合がある)。
【0071】
また、A549細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、細胞が接着後にIAV(MOI:10)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、10μMの化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で6時間培養した(以下、「IAV post adsorption群」と称する場合がある)。
【0072】
SARS-CoV-2についてもIAVと同様の試験を行った。
すなわち、VeroE6-TM2細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、細胞が接着後にSARS-CoV-2(MOI:10)を10μMの化合物(II)と共に添加して、37℃で1時間ウイルスを吸着させた。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で6時間培養した(以下、「SARS-CoV-2 on ice群」と称する場合がある)。
【0073】
また、VeroE6-TM2細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種し、細胞が接着後にSARS-CoV-2(MOI:10)を添加した。1時間のウイルス吸着後、DMEMで細胞を洗浄し、未吸着のウイルスを除去した。その後、10μMの化合物(II)を含む1mLのDMEMを添加し、37℃、5v/v%CO2存在下で6時間培養した(以下、「SARS-CoV-2 post adsorption群」と称する場合がある)。
【0074】
各群の細胞を回収し、細胞溶解液を調製し、ウエスタンブロッティングによる解析を行った。結果を
図7(IAV)及び
図8(SARS-CoV-2)に示す。
【0075】
図7及び
図8に示すように、IAV on ice群及びSARS-CoV-2 on ice群では、ウイルスタンパク質の発現の低下は見られなかった。一方、IAV post adsorption群及びSARS-CoV-2 post adsorption群では、ウイルスタンパク質の発現の低下が確認された。すなわち、化合物(II)はウイルス吸着時ではなく、ウイルス吸着後から添加することで、顕著な抗ウイルス活性を示した。よって、P15P4Kβ阻害剤はウイルスの細胞への吸着後からウイルスタンパク質発現までのいずれかの過程を抑制することが示された。