(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064076
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】複合梁材及びその継手構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20240507BHJP
E04C 3/14 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
E04B1/26 E
E04C3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172400
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 晃治
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA12
2E163FC05
2E163FC31
(57)【要約】
【課題】木質材を主体として鋼材を合理的に組み合わせることにより、大スパンや高耐荷重の架構を無理なく構築しうる複合梁材を提供する。
【解決手段】複合梁材1は、縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材2、2と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材3、3と、を組み合わせて構成される。補剛鋼材3は、ウェブ31の高さが木質材2の高さの半分未満に設定されるとともに、左右に張り出すフランジ32の全体幅が木質材2の幅の2倍未満に設定される。各補剛鋼材3のウェブ31が左右一対の木質材2の間に上下からそれぞれ挟み込まれた状態で、各補剛鋼材3のフランジ32が、その材軸方向に沿って配列される複数本のビス41により、木質材2の上面と下面とにそれぞれ接合される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材と、を組み合わせて構成される複合梁材であって、
前記補剛鋼材は、T字形の直立脚に相当するウェブの高さが前記木質材の高さの半分未満に設定されるとともに、前記ウェブに直交して左右に張り出すフランジの全体幅が前記木質材の幅の2倍に前記ウェブの厚みを加えた寸法未満に設定され、
前記各補剛鋼材のウェブが前記左右一対の木質材の間に上下からそれぞれ挟み込まれた状態で、前記各補剛鋼材のフランジが、その材軸方向に沿って配列される複数本のビスにより、前記木質材の上面と下面とにそれぞれ接合された
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項2】
請求項1に記載された複合梁材において、
前記木質材が直交集成板であり、
前記ビスが前記木質材の上面及び下面に現れるラミナの小端面に沿って打ち込まれている
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項3】
縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材と、を組み合わせて構成される複合梁材であって、
前記補剛鋼材は、T字形の直立脚に相当するウェブの高さが前記木質材の高さの半分未満に設定されるとともに、前記ウェブに直交して左右に張り出すフランジの全体幅が前記木質材の幅の2倍未満に設定され、
前記各補剛鋼材のウェブが前記左右一対の木質材の間に上下からそれぞれ挟み込まれた状態で、前記補剛鋼材及び前記木質材の材軸方向に沿って、前記ウェブ及び各木質材を梁幅方向に貫通する複数本のピン部材が打ち込まれている
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された複合梁材において、
前記左右一対の木質材を抱き合わせた状態で、その上面の両側縁近傍を除く中央部分に一様深さの掘込部が形成され、
前記補剛鋼材が、前記フランジを前記掘込部内に納めた状態で前記左右一対の木質材と接合され、
前記掘込部内に前記フランジの上から耐火被覆材が充填された
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項5】
請求項1、2または3に記載された複合梁材の端面に、T字形の材軸直交断面を有する梁端鋼材が、その材軸を縦向きにし、そのウェブを複合梁材の外方に向けて突出させる姿勢で当てがわれ、
前記梁端鋼材のフランジが前記木質材の端面にビスで止め付けられた
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項6】
請求項2を引用する請求項5に記載された複合梁材において、
前記梁端鋼材のフランジを止め付けるビスが、前記木質材の端面に現れるラミナの小端面に沿って打ち込まれている
ことを特徴とする複合梁材。
【請求項7】
請求項5に記載された複合梁材と、同様に構成された他の複合梁材とが、互いの端面に取り付けられた前記梁端鋼材のウェブ同士を突き合わせて配置され、
前記ウェブ同士の突き合せ箇所が表裏一対のスプライスプレートに挟まれてボルト・ナット綴着されることにより、前記両複合梁材が材軸方向に接合される
ことを特徴とする複合梁材の継手構造。
【請求項8】
請求項7に記載された複合梁材の継手構造において、
材軸方向に接合される両複合梁材の各補剛鋼材が、互いの突き合せ箇所に向けて延設され、
前記木質材の端面から突出した前記各補剛鋼材のフランジ同士及びウェブ同士が表裏一対のスプライスプレートに挟まれてそれぞれボルト・ナット綴着される
ことを特徴とする複合梁材の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、木質材と鋼材とを組み合わせた建築用の複合梁材と、その継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造により大空間を実現する技術として、トラス構造、アーチ構造、あるいはその両者を組み合わせた建築構造が広く実用化されている(例えば、非特許文献1等)。
【0003】
また、木質材からなる梁材の剛性や耐力を向上させるための技術として、木質材を上下に重ねて接着した重ね梁(例えば、非特許文献2等)や、木質材を縦横に組み合わせてフランジとウェブとを有するI形断面に加工した梁材(例えば、非特許文献3等)も公知である。非特許文献3に記載された技術では、フランジとウェブとはビスや接着剤で接合して一体化される。
【0004】
また、木質材と鋼材とを組み合わせた複合梁材(合成梁材)に関する技術として、例えば特許文献1~3や、非特許文献4等に開示された技術が公知である。これらの文献に記載された複合梁材は基本的に、H形鋼、I形鋼、溝形鋼等を芯材として、その鋼材の上面及び下面に木質材を重ねて一体化する構成を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08-284310号公報
【特許文献2】特開2006-257853号公報
【特許文献3】特開2011-174314号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“中大規模建築用木造トラス「媛トラス」ガイド”、[online]、一般社団法人愛媛県木材協会、[令和4年10月1日検索]、インターネット <URL:https://ehimeclt.com/web/wp-content/uploads/2021/07/hime-truss.pdf>
【非特許文献2】吉田孝久長、“接着重ね梁の製造マニュアル-間伐材を救え!接着重ね梁-”、[online]、平成21年3月、野県林業総合センター、[令和4年10月1日検索]、インターネット <URL:https://www.pref.nagano.lg.jp/ringyosogo/seika/documents/gbmanual-l.pdf>
【非特許文献3】“キーラムジョイスト”、[online]、令和4年、株式会社キーテック、[令和4年10月1日検索]、インターネット <URL:http://www.key-tec.co.jp/products/joist.html>
【非特許文献4】“テクノストラクチャーの家 高性能を誇る7つの特長”、[online]、パナソニックアーキスケルトンデザイン株式会社、[令和4年10月1日検索]、インターネット <URL:https://panasonic.co.jp/phs/pasd/technostructurenoie/advantage.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トラス構造やアーチ構造は古くから実用化されてきた典型的な構造形式で、木造建築でも世界で数多の実例があり、その有効性は高い。しかし、トラス構造は部材点数や接合箇所が多く、設計・施工が複雑になる。また、大空間を構築しようとした場合、トラスの高さも大きくしなければならないので、空間を余分に高く設定する必要がある。小断面部材の組み合わせで構築できる一方、体積に対する部材の表面積の割合が大きくなり、接合箇所も多いことから、耐火性能や耐久性能の確保に難がある。また、アーチ構造は、建物の形態や高さがアーチ形状によって規定されるため、フラットな屋根の建築には適さないという問題がある。
【0008】
非特許文献2、3等に開示された重ね梁やI形断面の木質梁材は、比較的小規模な木造建築には適用できるものの、スポーツ施設等の大スパン、大空間を実現するには剛性や耐力が不足する。また、長大スパンを構築するための継手を設けるのが難しい、という問題がある。
【0009】
特許文献1~3や非特許文献4等に開示された、木質材と鋼材とを組み合わせた複合梁材も、主として戸建住宅等の小規模建築向けに開発されたものであり、大スパン、大空間の建築物にはあまり適さない。また、側面に鋼材が露出するため、その側面を耐火材料で被覆したり、外観を木造風に整えるために木材を被せたりする必要がある。
【0010】
本願が開示する発明は、前述のような様々な構造技術の長所・短所を検討して想起されたものであり、木質材を主体として鋼材を合理的に組み合わせることにより、大スパンや高耐荷重の架構を無理なく構築しうる複合梁材の構成と、その継手構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本願が開示する発明は、縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材と、を組み合わせて構成される複合梁材の第1の基本的構成として、前記補剛鋼材は、T字形の直立脚に相当するウェブの高さが前記木質材の高さの半分未満に設定されるとともに、前記ウェブに直交して左右に張り出すフランジの全体幅が前記木質材の幅の2倍に前記ウェブの厚みを加えた寸法未満に設定され、前記各補剛鋼材のウェブが前記左右一対の木質材の間に上下からそれぞれ挟み込まれた状態で、前記各補剛鋼材のフランジが、その材軸方向に沿って配列される複数本のビスにより、前記木質材の上面と下面とにそれぞれ接合された構成を採用する。
【0012】
この構成に係る複合梁材においては、前記木質材が直交集成板であり、前記ビスが前記木質材の上面及び下面に現れるラミナの小端面に沿って打ち込まれているものとすることができる。
【0013】
また、本願が開示する発明は、縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材と、を組み合わせて構成される複合梁材の第2の基本的構成として、前記補剛鋼材は、T字形の直立脚に相当するウェブの高さが前記木質材の高さの半分未満に設定されるとともに、前記ウェブに直交して左右に張り出すフランジの全体幅が前記木質材の幅の2倍未満に設定され、前記各補剛鋼材のウェブが前記左右一対の木質材の間に上下からそれぞれ挟み込まれた状態で、前記補剛鋼材及び前記木質材の材軸方向に沿って、前記ウェブ及び各木質材を梁幅方向に貫通する複数本のピン部材が打ち込まれている構成を採用する。
【0014】
前記第1及び第2の構成に係る複合梁材においては、前記左右一対の木質材を抱き合わせた状態で、その上面の両側縁近傍を除く中央部分に一様深さの掘込部が形成され、前記補剛鋼材が、前記フランジを前記掘込部内に納めた状態で前記左右一対の木質材と接合され、前記掘込部内に前記フランジの上から耐火被覆材が充填されたものとすることができる。
【0015】
さらに、前記第1及び第2の構成に係る複合梁材においては、その端面に、T字形の材軸直交断面を有する梁端鋼材が、その材軸を縦向きにし、そのウェブを複合梁材の外方に向けて突出させる姿勢で当てがわれ、前記梁端鋼材のフランジが前記木質材の端面にビスで止め付けられたものとすることができる。
【0016】
この構成において、前記木質材が直交集成板である場合は、梁端鋼材を止め付けるビスが前記木質材の上面及び下面に現れるラミナの小端面に沿って打ち込まれているものとすることができる。
【0017】
また、本願が開示する発明は、前記複合梁材同士の継手構造として、2本の複合梁材が、互いの端面に取り付けられた前記梁端鋼材のウェブ同士を突き合わせて配置され、前記ウェブ同士の突き合せ箇所が表裏一対のスプライスプレートに挟まれてボルト・ナット綴着されることにより、前記両複合梁材が材軸方向に接合される構成を採用する。
【0018】
前記継手構造においては、材軸方向に接合される両複合梁材の各補剛鋼材が、互いの突き合せ箇所に向けて延設され、前記木質材の端面から突出した前記各補剛鋼材のフランジ同士及びウェブ同士が表裏一対のスプライスプレートに挟まれてそれぞれボルト・ナット綴着されるように構成することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本願が開示する発明の複合梁材によれば、木質材のみからなる梁材と同程度の断面寸法で、曲げ剛性及び強度を大幅に増大させることができるので、従来、木質材だけでは実現困難であった大スパンの架構や耐荷重の大きい架構を実現することが可能となる。木質材と鋼材との接合形態が単純であり、両者の接合はビス止めによるので、製造・加工も容易である。
【0020】
さらに、この複合梁材の端部に補剛鋼材を接合すれば、柱材その他の躯体各部に対し、複合梁材を鉄骨造に準じた納まりで強固に接合することが可能になる。また、複数本の複合梁材を材軸方向に継ぎ合わせて大スパンの梁材にすることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本願が開示する複合梁材の第1実施形態を示す分解斜視図である。
【
図2】前記複合梁材の断面図及び梁端部近傍の側面図である。
【
図3】梁材の曲げ変形と、接合面のずれ変形の状態を示す説明図である。
【
図4】前記複合梁材の変形形態を示す部分断面図ある。
【
図5】本願が開示する複合梁材の第2実施形態を示す断面図及び梁端部近傍の側面図である。
【
図6】複合梁材の端面に梁端鋼材を接合した形態を示す斜視図である。
【
図7】
図6の複合梁材と柱材との接合構造を示す側面図及び横断面図である。
【
図8】
図6の複合梁材を材軸方向に複数本、連結する場合の継手構造を示す分解斜視図である。
【
図9】同じく、複合梁材の継手構造を示す側面図及び横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1及び
図2は、本願が開示する発明に係る複合梁材の第1実施形態を示している。この複合梁材1は、縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材2、2と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材3、3と、を組み合わせて構成される。木質材2は、建築物の構造材として一般的に使用し得る無垢材、集成材(JAS規定の構造用集成材)、樹脂含浸木材、その他の木質材料を特に制限なく利用することができる。荷重を負担する集成材を不燃性被覆材と積層するなどした複合材でも構わない。例示形態では、ラミナ(ひき板)を並列させて繊維方向が交差するように積層接着した直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)を利用している。基本的に左右の木質材2は同一の材種で、同一の断面寸法を有するものとするのが好ましい。
【0024】
補剛鋼材3も、基本的に上下同一の材種で、上下同一の断面寸法を有するものとするのが好ましい。その点では、H形鋼のウェブを半分に切断したCT形鋼(カットティー)を利用するのが実用的である。ただし、二枚の鋼板をT字形に突き合わせて溶接した部材や、二本の山形鋼(L形鋼)の一辺同士を溶接した合わせ鋼材等も利用可能である。
【0025】
補剛鋼材3の断面寸法は、T字形の直立脚に相当するウェブ31の高さが木質材2の高さの半分未満(好ましくは片方の木質材2の幅の1.0~2.0倍程度)となるように設定される。また、ウェブ31に直交して左右に張り出すフランジ32の全体幅が、片方の木質材2の幅の2倍にウェブ31の厚みを加えた寸法未満(好ましくは片方の木質材2の幅の1.0~1.8倍程度)となるように設定される。
【0026】
そして、
図1及び
図2に示すように、各補剛鋼材3のウェブ31が、左右一対の木質材2の間に上下からそれぞれ挟み込まれる。前述の寸法設定により、上下の補剛鋼材3のウェブ31同士は離隔するので、左右一対の木質材2の間には、補剛鋼材3のウェブ31の厚みに相当する隙間が形成される。なお、例示形態では、木質材2の端部と補剛鋼材3の端部とが揃えられているが、他部材との取り合い等によっては、互いの端部がずれた形態になることもあり得る。
【0027】
各補剛鋼材3のフランジ32は、木質材2の上面と下面とにそれぞれ密着するように重ねられる、そのフランジ32には予め複数箇所のビス孔が、少なくとも左右一列ずつ(例示形態では二列ずつ)略等間隔で形成されており、そのビス孔にビス41を打ち込んで、フランジ32が木質材2に止め付けられる。例示形態では、止め付け用のビス41として、下孔加工を要しない程度の細さの六角コーチボルト(ラグスクリュー)を使用している。さらに、そのビス41を、直交集成板からなる木質材2の上面及び下面に現れるラミナの小端面に沿って打ち込むことにより、ビス41の接合強度を効果的に確保している。なお、例示形態では、左右各二列のビス41を梁幅方向に並べるように打ち込んでいるが、二列のビス41を千鳥状(ジグザグ状)にずらして打ち込んでもよい。また、梁材の内部に発生する応力の分布に応じて、ビス41の間隔を非等間隔に調整してもよい。
【0028】
こうして、左右一対の木質材2と上下一対の補剛鋼材3とが一体的に接合された複合梁材1が得られる。木質材2の上下に補剛鋼材3を重ねて接合したこの複合梁材1は、
図3に示すように、木質材同士を接合した図示左側の重ね梁と比較すると、同一の接合具を用いた場合でも、曲げ変形に伴う材軸方向のずれ剛性を数倍高くすることが可能になる。一般的に鋼材は木質材に比べて20倍程度のヤング係数と10倍程度の強度を有するので、このような組み合わせを採用することにより、梁材としての全体的な断面寸法をほとんど変えることなく、曲げ剛性や曲げ強度を効率的に増大させることができる。
【0029】
構造設計においては、木質材と鋼材との接合部をモデル化した構造解析により、曲げ剛性、曲げ強度を確認することができるので、それに基づいた実施設計が可能である。また、木質材のみからなる重ね梁の設計理論(例えば、日本建築学会による「木質構造接合部設計マニュアル」等)を応用した構造解析の結果ともよく整合するので、その準用が可能である。
【0030】
この複合梁材1は、木質材2と補剛鋼材3との接合形態が単純であり、下孔加工を要しない程度のビス41で両者を手早く接合することができる。このような物理的な接合手段は、接着剤を使用する化学的な接合手段に比べて、圧着時間や圧力等を管理するなどの手間がかからず、接合強度の性能も担保しやすい。また、多数本のビス41を打つので、接合後のガタツキや浮きなども生じにくい。
【0031】
この複合梁材1により、従来、木質材2のみでは実現困難であった大スパンの架構や耐荷重の大きい架構を実現することが可能となる。構造用の大断面集成材や直交集成板を利用すれば、継手のない長さ10m以上の複合梁材1を製造することも可能である。トラス構造やアーチ構造に比べて部材点数や接合箇所数を簡素化することができるので、施工性にも優れる。また、トラス構造やアーチ構造のような高さを必要としないので、ボリュームを抑えたフラットでコンパクトな屋根架構を無理なく実現することができる。
【0032】
さらに、この複合梁材1は、補剛鋼材3の断面寸法に対して木質材2の断面寸法が大きく、H形鋼やI形鋼の上下両面に木質材を重ねたような従来の複合梁材に比べても、鋼材の露出部分が少ない。さらに、小断面の木質材を組み合わせるトラス構造等に比べても一本の木質材が肉厚で、木質材の表面積に対する体積の比が大きくなるので、耐火性能及び耐久性能に優れる。したがって、燃え代設計を適用する準耐火構造や、耐火被覆を有する耐火構造とする場合でも、補剛鋼材3の外側に適宜の耐火被覆を施すことで、耐火性能を確保することが可能となる。
【0033】
図4は、左右一対の木質材2を抱き合わせた状態で、その上面の両側縁近傍を除く中央部分に一様深さの掘込部21を形成し、その掘込部21に補剛鋼材3のフランジ32を納めた形態を示す。掘込部21には、フランジ32の上から耐火モルタル等の耐火被覆材22を充填している。このようにして補剛鋼材3を外表面に露出させないことにより、全体の耐火性能をさらに向上させることもできる。
【0034】
<第2実施形態>
図5は、本願が開示する発明に係る複合梁材1の第2実施形態を示している。この複合梁材1も前述の第1実施形態と同様に、縦長矩形の材軸直交断面を有する左右一対の木質材2、2と、T字形の材軸直交断面を有する上下一対の補剛鋼材3、3と、を組み合わせて構成される。各補剛鋼材3のウェブ31が左右一対の木質材2の間に上下からそれぞれ挟み込まれる点も第1実施形態と同じであるが、木質材2と補剛鋼材3との接合形態が相違している。すなわち、各補剛鋼材3のウェブ31が左右一対の木質材2の間に挟み込まれた状態で、各ウェブ31及び左右の木質材2に、それらを梁幅方向に貫通する複数本のピン部材42が、それらの材軸方向に沿って適宜間隔で打ち込まれている。ピン部材42には、一般的な木質造において木質材と金物類との接合に用いられれるドリフトピン等を好適に利用することができる。
【0035】
このような形態でも、左右一対の木質材2、2と上下一対の補剛鋼材3、3とを一体的に接合することができ、前述と同様の作用効果を得ることができる。ただし、この形態では、複数個のピン挿通孔を、あらかじめ両木質材2と両補剛鋼材3のウェブ31に、互いの位置を合致させて形成しておく必要がある。したがって、前述の第1実施形態に比べると、やや加工手間が嵩む。
【0036】
<躯体等との接合構造>
前述のように構成される複合梁材1と躯体各部等との接合構造について以下に説明する。
図6は、複合梁材1の端面に梁端鋼材5を添設した形態を示し、
図7は、その梁端鋼材5を介して複合梁材1を柱材に接合した構造を示している。
【0037】
梁端鋼材5は、前述の補剛鋼材3と同様にT字形の材軸直交断面を有する鋼材である。断面寸法は補剛鋼材3と同じでもよいし、多少、相違していてもよい。梁端鋼材5は、その材軸を縦向きにし、T字形の直立脚に相当するウェブ51を複合梁材1の外方に向けて木質材2の端面に当てがわれる。例示形態では、梁端鋼材5の長さを木質材2の高さよりも小さくしているが、梁端鋼材5の長さを木質材2の高さ一杯に揃えてもよい。
【0038】
梁端鋼材5のフランジ52にも複数箇所のビス孔が、少なくとも左右一列ずつ(例示形態では二列ずつ)、略等間隔で形成されており、そのビス孔にビス43を打ち込んで、フランジ52が木質材2の端面に止め付けられる。このビス43には、補剛鋼材3を止め付けるビス41と同じものを使用することができる。木質材2に直交集成板を用いる場合は、木質材2の端面に現れるラミナの小端面に沿ってビス43を打ち込むことで、ビス43の接合強度を効果的に確保することができる。この場合、補剛鋼材3をビス止めするラミナと梁端鋼材5をビス止めするラミナとは繊維方向が交差するので、複合梁材1の上下両面と端面とでは、ビス列の位置がラミナ一層分ずれることになる。
【0039】
こうして、木質材2の端面に梁端鋼材5のフランジ52が止め付けられることにより、左右一対の木質材2、2と、上下一対の補剛鋼材3、3と、梁端鋼材5とが一体的に接合される。このように構成された複合梁材1は、鉄骨造に準じた納まりで躯体と接合することができる。
【0040】
例えば
図7に示すように、鋼管等からなる柱材6の側面に、縦方向に略等幅で延びる接合プレート61を溶接等によって突設させる。その接合プレート61と梁端鋼材5のウェブ51とを突き合わせて二枚のスプライスプレート72で挟み、ボルト・ナット44で綴着することにより、複合梁材1と柱材6とを接合することができる。なお、例示形態では、複合梁材1の上下両面に接合した補剛鋼材3も、梁端鋼材5のウェブ51の出寸法に揃えて木質材2の端面から突出させ、その突出部分のウェブ31を梁端鋼材5のウェブ51と一緒にスプライスプレート72で挟むことで、接合強度をさらに高めている。また、複合梁材1の上面に接合した補剛鋼材3に、例えば溝形鋼等からなる母屋受け部材72を溶接またはボルト・ナット等により取り付け、その母屋受け部材72を介して屋根架構の母屋材73等を支持することもできる。
【0041】
図8及び
図9は、梁端鋼材5を介して複合梁材1を材軸方向に複数本、連結する場合の継手構造を示す。二本の複合梁材1を、互いの端面に取り付けられた梁端鋼材5のウェブ51同士を突き合わせるように配置し、それらウェブ51同士の突き合せ箇所を表裏一対のスプライスプレート(添え板)81で挟んでボルト・ナット45で綴着することにより、複数本の複合梁材1を材軸方向に継ぎ合わせることができる。この形態でも、各複合梁材1の上下両面に接合した補剛鋼材3を木質材2の端面から突出させて互いに突き合わせ、各補剛鋼材3のウェブ31同士は梁端鋼材5のウェブ51と一緒に二枚のスプライスプレート81で挟み、フランジ32同士は別のスプライスプレート82、83で挟んでボルト・ナット46で綴着している。大スパンの架構を構築する際、曲げモーメントが小さい箇所にこのような継手を設けることで、安全性を損なうことなく、20~30m、さらにそれ以上の材長の梁材を製造することが可能になる。
【0042】
以上に説明した通り、本願が開示する発明に係る複合梁材1は、木質材2を鋼材(補剛鋼材3及び梁端鋼材5)で補強したことにより、木質材2を主体としながら、柱材や屋根架構その他躯体各部との取り合い部分は鉄骨造的な納まりで接合することを可能にしている。基本的に、鉄骨造における鋼材同士の接合部は、添え板等を重ねるなどして、接合される各母材よりも強度を増すように構成されるから、この複合梁材1を用いた躯体も、木質造の躯体に比べて遥かに大きい強度を発揮する。
【0043】
とはいえ、木質材2のボリュームに対して鋼材のボリュームが小さく抑えられているので、外観的には鋼材を目立たせずに、木質造の風合いを現すことができる。つまり、この複合梁材1は、建築物の性質や求められる条件に応じて、木質造と鉄骨造の「いいとこ採り」を実現するのに好適である。木質材2は補剛鋼材3の耐火被覆の役割も兼ねるが、梁材全体の断面形状が単純な矩形になるので、必要に応じて、さらにその外周面を石膏ボードその他の耐火材料等で被覆するのも容易である。
【0044】
また、この複合梁材1は、基本的に梁材以外の躯体各部(基礎、柱材、屋根架構等)の構造形式を制限しないので、鉄骨造だけでなく、木質造の躯体の一部に採用することもできるし、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の躯体と組み合わせることも可能である。
【0045】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。特許請求の範囲および明細書において使用している構成要素の名称は、発明を具体的に理解し易くするための便宜的なものであって、その名称が当該構成要素の概念や性状を必要以上に限定するものではない。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない部材の詳細な寸法、材質、数量等を、例示形態と実質的に同等程度ないしそれ以上の作用効果が得られる範囲内で、適宜、改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本願が開示する発明は、各種建築物の躯体を構成する梁材として幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 複合梁材
2 木質材
21 掘込部
22 耐火被覆材
3 補剛鋼材
31 ウェブ
32 フランジ
41 ビス
42 ピン部材
43 ビス
44 ボルト・ナット
45 ボルト・ナット
46 ボルト・ナット
5 梁端鋼材
51 ウェブ
52 フランジ
6 柱材
61 接合プレート
71 スプライスプレート
72 母屋受け部材
73 母屋材
81 スプライスプレート
82 スプライスプレート
83 スプライスプレート