(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064090
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】不織布マスク
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172437
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】592124137
【氏名又は名称】株式会社サンロード
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】松下 栄一
(72)【発明者】
【氏名】高見 敏明
(57)【要約】
【課題】対象物質の高捕集性を保持しながら、息がしやすい通気性を両立した不織布マスクを提供する。
【解決手段】鼻口を覆うマスク本体を不織布(但し、メルトブロー不織布は除く)を積層した二層以上の積層不織布で形成すると共に、そのうち少なくとも一層をスパンボンド不織布で構成することにより、JIS T9001の試験方法に基づくPFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率を何れも95%以上とし、且つ、前記JIS T9001の圧力損失試験に基づく圧力損失を15Pa/cm
2以下とした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鼻口を覆うマスク本体を不織布(但し、メルトブロー不織布は除く)を積層した二層以上の積層不織布で形成すると共に、そのうち少なくとも一層をスパンボンド不織布で構成することにより、JIS T9001の試験方法に基づくPFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率を何れも95%以上とし、且つ、前記JIS T9001の圧力損失試験に基づく圧力損失を15Pa/cm2以下としたことを特徴とする不織布マスク。
【請求項2】
積層不織布の層のうち二層を、繊維径が15~25μmであり、目付が50~150g/m2であって、且つ、エレクトレット加工を施したスパンボンド不織布で構成した請求項1記載の不織布マスク。
【請求項3】
積層不織布の層のうち鼻口に接する一層は、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、エアースルー不織布、またはレーヨン不織布から選択される一の不織布で構成した請求項1記載の不織布マスク。
【請求項4】
スパンボンド不織布はポリプロピレン・スパンボンド不織布である請求項1、2または3記載の不織布マスク。
【請求項5】
マスク本体は左右対称に折り畳まれた状態から着用時に立体形状に展開する請求項4記載の不織布マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウイルスやバクテリアを含む飛まつ、花粉粒子、及びPM2.5(微粒子状物質)などの対象物質の体内への侵入を防御すると共に、空気中への飛散を防止することを目的とした不織布マスクにかかり、対象物質の捕集性と通気性(息のしやすさ)を両立させた不織布マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延による感染予防の一手段としてマスクの着用が推奨され、古くからあるガーゼマスク以外に、現在では織物や編み物を使用した布マスクやウレタンマスクなどが市販されている。これらマスクは比較的通気性が高いが、反面、対象物質の捕集性が著しく低い。
【0003】
一方、対象物質の捕集性が高いとされているのが不織布マスクである。特に、フィルター層に極細繊維からなるメルトブロー(メルトブローンとも称される)不織布を採用した不織布マスクが感染予防に有効とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-127757号公報
【特許文献2】特開2022-124963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メルトブロー不織布は比較的圧力損失が大きく、通気性に乏しいため、これを採用した不織布マスクは息がしにくいとされ、長時間の着用や運動を伴うシーンでの息苦しさは顕著である。
【0006】
また、このように通気性に乏しいと、会話や咳をしたときに横から飛まつが漏れ出てしまい、感染予防の有効性を損なうという根本的課題につながる。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、対象物質の高捕集性を保持しながら、息がしやすい通気性を両立した不織布マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために本発明では、鼻口を覆うマスク本体を不織布(但し、メルトブロー不織布は除く)を積層した二層以上の積層不織布で形成すると共に、そのうち少なくとも一層をスパンボンド不織布で構成することにより、JIS T9001の試験方法に基づくPFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率を何れも95%以上とし、且つ、前記JIS T9001の圧力損失試験に基づく圧力損失が15Pa/cm2以下としたものである。なお、PFEは、Particle Filtration Efficiencyの略で、微小粒子捕集効率を意味し、BFEは、Bacterial Filtration Efficiencyの略で、バクテリア飛まつ捕集効率し、VFEは、Viral Filtration Efficiencyの略で、ウイルス飛まつ捕集効率を意味する。
【0009】
この手段では、種々実験の結果、対象物質を捕集するフィルター層としてスパンボンド不織布を主材として、その繊維径と目付を調整したり、エレクトレット加工を施すことによって、PFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率をJIS T9001における一般用マスクの品質基準に適合させることに成功した。
【0010】
また、スパンボンド不織布の通気性の良さから、15Pa/cm2以下という低圧力損失を実現することができた。これはJIS T9001における一般用マスクの品質基準の60Pa/cm2未満を大幅に下回る値で、極めて通気性が高いことを示している。
【0011】
なお、本発明ではマスク本体を複数の不織布を積層したシート状の積層不織布から形成するが、その構成素材としてメルトブロー不織布は除外している。一層でもメルトブロー不織布を採用すれば、圧力損失は20Pa/cm2以上を示すことが実験から明らかとなっており、長時間の着用や運動を伴うシーンでの使用に不向きだからである。
【0012】
本発明のマスク本体における積層不織布の層数は、対象物質の捕集性、通気性、保形性、コスト面を総合的に勘案すれば、二~四層が好ましいが、層数は限定しない。また、単に層数を増やしても、対象物質の捕集性が高まるとは限らず、通気性が低下するおそれが高まるため、本発明では積層不織布の層のうち二層を、繊維径が15~25μmであり、目付が50~150g/m2であって、且つ、エレクトレット加工を施したスパンボンド不織布で構成することで、より確実にJIS T9001に適合する捕集性と、極めて優れた通気性を両立することができる。
【0013】
また、積層不織布の層のうち鼻口に接する一層は、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、エアースルー不織布、またはレーヨン不織布から選択される一の不織布で構成することが好ましい。これら何れかの不織布によって、圧力損失を所定以下に抑えながら、着用時の肌触りを良好とすることができるからである。
【0014】
さらに、スパンボンド不織布の繊維素材は、エレクトレット(電石)加工に適し、その効果(静電気の力による対象物質の捕集効果)も長期に保持できるポリプロピレンであることが好ましい。一方、ポリエステルやポリエチレンなどの繊維素材もエレクトレット加工は可能であるが、その効果はポリプロピレンよりも早期に減衰する。
【0015】
なお、マスク本体の形態的構造は、左右対称に折り畳まれた状態から着用時に立体形状に展開するものであることが好ましい。マスク本体の周囲を顔面に密着させながら、鼻口との間に空間ができて、平面マスクとするよりも息のしやすさを向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、高捕集性と低圧力損失を両立したマスクを得ることができ、長時間の着用や運動を伴うシーンでも快適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマスクの折り畳み状態を示す説明図
【
図3】同、マスク本体の層構造の概略図(二層構造)
【
図4】同、マスク本体の想像高の概略図(三層構図)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。
図1・2は、本発明の一実施形態として、着用時に立体形状に展開される立体マスクを示している。このマスクはマスク本体1と耳掛け紐2とからなり、マスク本体1は左右同形に裁断した生地1a・1bを中央で互いに接合させて一体形成したものである。生地1a・1bは後述するように積層不織布であるため、溶着によって両者1a・1bを接合することができるが、接着であってもよい。
【0019】
そして、生地1a・1bを展開し、耳掛け紐2を耳にかければ、
図2に示したように、マスク本体1の中央接合部の上側が着用者の鼻筋にフィットすると共に、その下側は顎下にフィットする。また生地1a・1bの両脇(耳掛け紐2側の縁部)も着用者の顔の凹凸表面に沿うようにフィットする。このように、この実施形態のマスクは、顔面周囲へのフィット性が高く、呼気漏れや外気侵入を防止する。また、マスク本体1と鼻口の間に空間が形成されるため、息苦しさもない。
【0020】
このような形態的構造(立体形状)のマスクにおいて、生地1a・1bは不織布を二層以上に積層した積層不織布により構成している。具体的には、
図3・4に示したように、二層(実施例1)または三層(実施例2)の積層不織布の層全てをポリプロピレン・スパンボンド不織布SB1・SB2・SB3で構成している。このうちSB1とSB2の二層は、同じ繊維径(25μm)、同じ目付(50g/m
2)であり、三層構造の実施例2は、これに繊維径14μm、目付15g/m
2のSB3を鼻口と接する肌側の内層として付加している。
【0021】
また、SB1~SB2はエレクトレット加工を施し基準の捕集性能機能を満たす。SB3の目的は、肌側内層であり肌触りを優先した層であり、エレクトレット加工を施しても、施さなくてもよい。この結果これらSB1~SB3の各層が微小物質の捕集性に優れ、かつ肌触りを良くしたフィルター層として機能する。なお、エレクトレット加工法は特許第5022987号公報に記載された方法を採用することが好ましいが、他の方法を採用することも可能である。
【0022】
表1は、本発明の実施例1(二層構造)と実施例2(三層構造)のマスクについて、JIS T9001の試験方法に基づくPFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率と、圧力損失を示したものである(一般財団法人カケンテストセンター試験)。
【0023】
一方、比較例1・2は本出願人の既存マスクであり、比較例1は外層から目付25g/m2、繊維径17μmのスパンボンド不織布、目付20g/m2、平均繊維径2.5μmのメルトブロー不織布(トレミクロンET02060)、目付21g/m2、繊維径16~19μmのサーマルボンド不織布を順に積層した平面マスクであり、比較例2は外層から目付38g/m2、繊維径22μmのスパンボンド不織布、目付20g/m2、平均繊維径2.5μmのメルトブロー不織布(トレミクロンET02060)、目付20g/m2、繊維径18μmのスパンボンド不織布を積層した立体マスクである。
【0024】
【0025】
上表のとおり、本発明の実施例1・2のみならず既存マスクの比較例1・2も、PFE、BFE、VFE、及び花粉粒子捕集効率はJIS T9001における一般用マスクの品質基準である95%を上回っており、粒子物質の捕集性の高さを示している。
【0026】
一方、圧力損失は本発明の実施例1・2の低さが際立っており、通気性が極めて良好であることを示している。
【0027】
このように本発明によれば、JIS T9001の品質基準に適合する高捕集性を得ながら、低圧力損失によって従来の不織布マスクではなし得なかった極めて高い通気性も得られる。したがって、高い感染予防効果を得ながら、長時間の着用や運動を伴うシーンででも息苦しさがなく、継続的に着用することができる。
【0028】
さらに、スパンボンド不織布は比較的長い糸(長繊維)で形成され、強度が高く、寸法安定性に優れているため、
図1・2のような立体マスクとしたときも、着用時の保形に優れ、通気性の良さも相俟って、呼吸の度に生地1a・1bが膨らんだり、鼻口に密着するようにへこむことも少ない。
【0029】
なお、本発明は実施例1・2に限定されず、次のとおり、種々変更することができる。
(1)スパンボンド不織布の繊維素材について
実施例1・2では繊維素材としてポリプロピレン製のスパンボンド不織布を採用することによって、エレクトレット効果を長期間持続することに成功したが、ポリエステルやポリエチレンなど、他の繊維素材によるスパンボンド不織布であってもよい。また、芯をポリエステル、鞘をポリプロピレンとした芯鞘構造のスパンボンド不織布もエレクトレット加工が可能であるが、コスト高となる。
(2)繊維径や目付について
各層の不織布は、捕集性と通気性が両立するように、50~150g/m2の範囲で目付を決定することが好ましく、着用時の形態安定性を考慮すれば50~150g/m2の範囲で目付を決定することがより好ましい。これに伴い、維径は15~25μmの範囲で決定することが好ましい。また、スパンボンド不織布として全て同じ目付・繊維径のものを積層することも可能であるが、圧力損失を15Pa/cm2以下とできるのであれば、異なる目付・繊維径のスパンボンド不織布を組み合わせて良い。
(3)層数について
マスク本体1を構成する積層不織布の層数は二層や三層に限定されない。この点、層数を増やせば、一般的には性能が安定し、均一的な高捕集性が得られるという利点であるが、圧力損失が15Pa/cm2以上となるものは本発明からは除外する。
(4)スパンボンド不織布以外の不織布について
本発明では、メルトブロー不織布を除外すると共に、少なくとも一層をスパンボンド不織布で構成することを要件とする。このため、スパンレース不織布、エアースルー不織布、またはレーヨン不織布の採用も可能であり、むしろ、こうした不織布を鼻口に接する層に採用することで、着用時の肌触りを良好とすることができる。
(5)マスクの形態的構造について
上記実施形態では立体マスクを例示したが、平面マスクであってもよく、プリーツの有無も問わない。
【符号の説明】
【0030】
1 マスク本体
2 耳掛け紐
SB1・SB2・SB3 スパンボンド不織布