(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064107
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】乳酸菌及び発酵物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240507BHJP
A23L 2/38 20210101ALN20240507BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L2/38 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172458
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】横山 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】加島 隆洋
【テーマコード(参考)】
4B065
4B117
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BA22
4B065BB31
4B065CA42
4B117LG12
4B117LK21
4B117LP05
(57)【要約】
【課題】安定した酸菜発酵を可能にするとともに、様々な発酵物に適用できる乳酸菌を提供する。また、食品としての機能性を向上させた発酵物を提供する。
【解決手段】本発明の乳酸菌は、レンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ・高根株(TS)25(Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri. takane strain 25)(受領番号:NITE AP-03767)、及びリモシラクトバチルス・ファーメンタム・高根株(TS)75(Limosilactobacillus fermentum takane strain 75)(受領番号:NITE AP-03768)から選ばれる少なくとも一種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ・高根株(TS)25(Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri. takane strain 25)(受領番号:NITE AP-03767)、及びリモシラクトバチルス・ファーメンタム・高根株(TS)75(Limosilactobacillus fermentum takane strain 75)(受領番号:NITE AP-03768)から選ばれる少なくとも一種である乳酸菌。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌をスターターとして得られた発酵物。
【請求項3】
前記発酵物は、コハク酸、γ-アミノ酪酸、オルニチン、フマル酸、及び炭酸ガスから選ばれる少なくとも一種を含む請求項2に記載の発酵物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な発酵物に適用できる乳酸菌、及びそれをスターターとして得られた発酵物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高山市高根地区では、「酸菜(すな)」と称される赤蕪の無塩発酵漬物が伝統的に食されている。現代では、循環器系の疾病予防のため減塩が推奨されており、酸菜は時流に乗った食品として注目される。しかし、従来の共種を用いた製法では腐敗等の発酵不良に至る場合が多く、この困難さが普及を妨げる一因となっている。そのため、酸菜の安定生産のため、スターターとなる乳酸菌の提供が望まれていた。また、スターターとなる乳酸菌は、無塩発酵漬物の安定的な生産のみならず、人の健康や嗜好に資する生理作用物質を生産する場合、他の発酵物への応用も期待される。
【0003】
従来より、発酵食品を製造する際、地域の特産食品又はその土地に由来する乳酸菌を分離し、それをスターターとして用いて発酵食品を製造することが試みられている。例えば、特許文献1は、長野県木曽地域の無塩漬物「すんき」漬けから分離された乳酸菌を用いた発酵食品の製造方法について開示する。特許文献2は、新潟県魚沼地域の野沢菜漬けから分離された乳酸菌を用いた発酵食品の製造方法について開示する。特許文献3は、新潟県長岡市古志地区の伝統的保存食の「いぜこみ菜」(大根菜の無塩漬物)から分離され、食品に粘性・曳糸性を付与する乳酸菌としてラクトバチルス・パラプランタラムYAMAKOSHI及びこれを用いた発酵食品の製造方法について開示する。特許文献4は、発酵キムチから分離される乳酸菌ラクトバチルス・サケHS1を用いた漬物の製造方法について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5276290号公報
【特許文献2】特開2013-236604号公報
【特許文献3】特開2022-26233号公報
【特許文献4】特開2001-120173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、安定した酸菜発酵を可能にするとともに、様々な発酵物に適用できる乳酸菌を提供することを目的とする。また、食品としての機能性を向上させた発酵物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、発酵の良好な酸菜より、食品として有用な機能成分を産生する新規乳酸菌(すなわち高根乳酸菌)を見出した。
上記課題を解決する各態様を記載する。
【0007】
態様1の乳酸菌は、レンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ・高根株(TS)25(Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri. takane strain 25)(受領番号:NITE AP-03767)、及びリモシラクトバチルス・ファーメンタム・高根株(TS)75(Limosilactobacillus fermentum takane strain 75)(受領番号:NITE AP-03768)から選ばれる少なくとも一種である。
【0008】
態様2の発酵物は、態様1に記載の乳酸菌をスターターとして得られたものである。
態様3は、態様2に記載の発酵物において、コハク酸、γ-アミノ酪酸、オルニチン、フマル酸、及び炭酸ガスから選ばれる少なくとも一種を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳酸菌によれば、安定した酸菜発酵を可能にする。また、本発明の発酵物は、食品としての機能性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、本発明の乳酸菌を具体化した第1実施形態を説明する。
(新規乳酸菌)
乳酸菌は、レンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ・高根株(TS)25(Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri. takane strain 25)(受領番号:NITE AP-03767)(以下、「高根乳酸菌TS25株」という)、及びリモシラクトバチルス・ファーメンタム・高根株(TS)75(Limosilactobacillus fermentum takane strain 75)(受領番号:NITE AP-03768)(以下、「高根乳酸菌TS75株」という)から選ばれる少なくとも一種である。この2種類の乳酸菌は、それぞれ赤蕪の無塩発酵漬物である酸菜から分離された、レンチラクトバチルス・ブフネリ(Lentilactobacillus buchneri)及びリモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)に属する新規の菌株である。この2種類の乳酸菌は、それぞれ独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、2022年10月17日付けで、上記受領番号にて受領されている。
【0011】
高根乳酸菌TS25株は、発酵によりコハク酸、γ-アミノ酪酸(GABA)、オルニチン、フマル酸等の有用代謝物、炭酸ガスを産生するヘテロ発酵型の乳酸菌である。至適生育温度は15~45℃付近である。高根乳酸菌TS25株は、代謝産物としてコハク酸、オルニチン、フマル酸を産生する点、及び45℃のやや高温で生育する点で、従来知られているレンチラクトバチルス・ブフネリにおける報告例のない新規な性質を有する。
【0012】
高根乳酸菌TS75株も同様に、発酵によりコハク酸、γ-アミノ酪酸、オルニチン、フマル酸等の有用代謝物、炭酸ガスを産生するヘテロ発酵型の乳酸菌である。至適生育温度は30~45℃付近である。高根乳酸菌TS75株は、代謝産物としてフマル酸を産生する点で、従来知られているリモシラクトバチルス・ファーメンタムにおける報告例のない新規な性質を有する。
【0013】
(乳酸菌の入手方法)
高根乳酸菌TS25株及び高根乳酸菌TS75株は、上記受領番号より特許微生物寄託センターから入手できる他、菌の分離素材として酸菜を使用し、以下の方法にて入手できる。
【0014】
酸菜の漬け込み後の日数は特に限定されないが、例えば10~20日後、好ましくは14日後の酸菜が用いられる。まず、酸菜の浸出液を適宜滅菌生理食塩水にて希釈する。その一部を乳酸菌分離用のMRS白亜寒天培地で培養し、培地に添加した炭酸カルシウムを溶解してクリアゾーン(透明帯)を形成した乳酸菌株を採取する。これらの中で、培地に飛騨紅蕪の搾汁液を用いて培養した際、高いコハク酸生産能を指標として分取できる。
【0015】
第1実施形態の乳酸菌の効果について説明する。
(1-1)第1実施形態の乳酸菌では、高根乳酸菌TS25株及び高根乳酸菌TS75株は、酸菜より分離された新規乳酸菌である。かかる乳酸菌を発酵スターターとして使用することにより、安定した酸菜発酵を行うことができる。それにより、品質が安定した酸菜が得られる。また、後述する第2実施形態に示されるように、食品として有用な機能成分を産生させるために、様々な発酵物のスターターとして適用することができる。
【0016】
<第2実施形態>
以下、本発明の発酵物を具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態の発酵物は、第1実施形態の乳酸菌をスターターとして得られたものである。かかる発酵物は、高根乳酸菌TS25株又は高根乳酸菌TS75株の発酵作用により、例えばコハク酸、γ-アミノ酪酸、オルニチン、及びフマル酸から選ばれる少なくとも一種の有用代謝物、又は炭酸ガスを含む。
【0017】
コハク酸は、うま味成分として発酵物の呈味性を向上させる。γ-アミノ酪酸は、血圧降下作用、快眠作用、脳機能改善作用等を有することが知られている。オルニチンは、肝機能の向上作用、疲労の改善作用、安眠作用等を有することが知られている。フマル酸は、抗菌作用、独特の味覚を付与することが知られている。炭酸ガスは、発酵時の発泡により、発酵食品、例えばパン、酒等に風香味を付与する。また、コハク酸、フマル酸は、乳酸、酢酸等の他の有機酸とともに発酵物のpHを下げ、雑菌の繁殖を抑制する。高根乳酸菌TS25株又は高根乳酸菌TS75株の発酵時にクエン酸を添加することにより、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸の産生を促進できる。
【0018】
発酵物としては、特に限定されないが、例えば酸菜等の無塩発酵漬物、甘酒等の酒、醸しぬか床、発酵トマト調味料等の調味料、サワードウブレッド等のパン、栄養補助飲料等の飲料、サイレージ等が挙げられる。
【0019】
発酵物の製造において、高根乳酸菌TS25株及び高根乳酸菌TS75株の一方のみを使用してもよく、両方使用してもよい。各発酵物は、常法に従い製造することができる。高根乳酸菌TS25株及び高根乳酸菌TS75株は、それぞれの生育環境に応じて、発酵のスターターとして適宜のタイミングで原料に投与できる。
【0020】
第2実施形態の発酵物の効果について説明する。
(2-1)第1実施形態の発酵物では、高根乳酸菌TS25株又は高根乳酸菌TS75株の発酵作用により、コハク酸、γ-アミノ酪酸、オルニチン、及びフマル酸から選ばれる少なくとも一種の有用代謝物、又は炭酸ガスを含んで構成される。得られる発酵物の機能性を向上又は新たな機能性を付与することにより飲食品等の付加価値を向上できる。例えば地域の伝統的な食材を生かした発酵食品を創造し、食文化振興への寄与できるとともに、食味と健康増進を両立させた食材を適用できる。
【0021】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態により得られた発酵物は、上述した飲食品の他、有用代謝物の成分に応じて医薬品、化粧品、飼料等として適用してもよい。
【0022】
・上記実施形態により得られた発酵物を飲食品として適用する場合、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0023】
・上記実施形態により得られた発酵物を飲食品として適用し、さらに用途を表示する場合、包装、容器等のパッケージ、説明書、パンフレット等の広告媒体、ウェブサイト等の電子媒体において、表示するものも含まれる。各種用途の表示内容としては、例えば上述したγ-アミノ酪酸を含有する発酵物であれば、血圧降下作用、快眠作用、脳機能改善作用等の表示の他、高血圧等の各症状の改善、予防、悪化の防止、又は症状の悪化遅延を示唆する表示も含まれる。
【実施例0024】
以下、実施例に基づき、本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0025】
(試験例1:新規乳酸菌の分離)
本発明の新規乳酸菌の分離及び同定について説明する。
分離素材として漬け込み後14日後の酸菜を使用した。酸菜の浸出液を適宜滅菌生理食塩水にて希釈した。その一部を乳酸菌分離用のMRS白亜寒天培地で培養し、培地に添加した炭酸カルシウムを溶解してクリアゾーン(透明帯)を形成した多数の乳酸菌株を採取した。
【0026】
これらの中から、培地に飛騨紅蕪の搾汁液を用いて培養した際、高いコハク酸生産能を示した菌株2株を高根乳酸菌株(高根乳酸菌TS25株、高根乳酸菌TS75株)として得た。この高根乳酸菌2株(高根乳酸菌TS25株、高根乳酸菌TS75株)について、16SリボゾームDNA(16S rDNA)の部分塩基配列のBLAST相同性解析を行った。また、生理・化学性状試験を行った。
【0027】
(高根乳酸菌TS25株)
高根乳酸菌TS25株は、相同性検索の結果、レンチラクトバチルス・ブフネリ・JCM 1115T(Lentilactobacillus buchneri JCM 1115T)及びラクトバチルス・ブフネリ・亜種・シラゲイ・SG162T(Lactobacillus buchneri subsp. silagei SG162T)に対して、99.7%の相同率を示した。
【0028】
なお、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)は、2020年に谷川らの報告により、亜種(Lactobacillus buchneri subsp. silagei)が提唱されたことから、現在はレンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ(Lentilactobacillus buchneri subsp. buchneri)に学名変更されている。また、ラクトバチルス・ブフネリ・亜種・シラゲイ(Lactobacillus buchneri subsp. silagei)は、Liuらの報告により、レンチラクトバチルス(Lentilactobacillus)属へ移籍している。
【0029】
次に、系統解析の結果、高根乳酸菌TS25株は、レンチラクトバチルス属が構成するクラスター内に含まれ、レンチラクトバチルス・ブフネリ・JCM 1115T(Lentilactobacillus buchneri JCM 1115T)と同一の分子系統学的位置を示した。
【0030】
なお、高根乳酸菌TS25株とレンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ・JCM 1115T(L. buchneri subsp. buchneri JCM 1115T)の16S rDNA塩基配列間には4塩基の相違点が認められる。それらは何れも混合塩基(IUBコードR=G又はA、Y=C又はTを意味する)による。帰属分類群を亜種レベルで同定することは、一般に16S rDNA塩基配列の置換率が低いことから難しいとされている。
【0031】
以上により、16S rDNAの部分塩基配列のBLAST相同性解析の結果からは、高根乳酸菌TS25株をレンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ(L. buchneri subsp. buchneri)に帰属する可能性のあるレンチラクトバチルス・ブフネリ(L. buchneri)と同定した。
【0032】
次に、生理・化学性状試験の結果、高根乳酸菌TS25株は、芽胞を形成しないグラム陽性桿菌で、運動性を有さず、グルコースを酸化し、ガス産生が確認された。また、カタラーゼ反応及びオキシダーゼ反応は陰性を示した。これらの性状は、16S rDNA塩基配列解析の結果帰属が示されたレンチラクトバチルス(Lentilactobacillus)属の性状と一致した。
【0033】
APIキットを用いて行った試験の結果、高根乳酸菌TS25株は、L-アラビノース、リボース、マルトース、メレチトース等を発酵し、マンノース、サリシン、セロビオース、トレハロース、及び2-ケトグルコン酸等を発酵しなかった。
【0034】
また、追加試験の結果、高根乳酸菌TS25株は、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示し、15℃にて生育した。これらの性状は、高根乳酸菌TS25株が45℃にて生育可能な点以外は、16S rDNA塩基配列解析の結果において帰属が示唆されたレンチラクトバチルス・ブフネリ(L. buchneri)の2亜種のうち、レンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ(L. buchneri subsp. buchneri)の性状とほぼ一致した。特にサリシン、セロビオース、及び2-ケトグルコン酸を発酵しない点は、別亜種のレンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・シラゲイ(L. buchneri subsp. silagei)の性状と異なった。下記表1に生理・化学性状試験の結果を示す。
【0035】
よって、今回の生理・化学性状試験結果から高根乳酸菌TS25株をレンチラクトバチルス・ブフネリ・亜種・ブフネリ(L. buchneri subsp. buchneri)と同定した。
【0036】
【表1】
(高根乳酸菌TS75株)
系統解析の結果、高根乳酸菌TS75株は、リモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属が構成するクラスター内に含まれ、リモシラクトバチルス・ファーメンタム・CIP 102980
T(L. fermentum CIP 102980
T)と同一の分子系統学的位置を示した。
【0037】
なお、高根乳酸菌TS75株と、リモシラクトバチルス・ファーメンタム・CIP 102980T(L. fermentum CIP 102980T)の16S rDNA塩基配列間には4塩基の相違点が認められるが、それらは何れも混合塩基(IUBコードY=C又はT、R=G又はAを意味する)によるものである。よって、16S rDNA塩基配列解析の結果からは、高根乳酸菌TS75株をリモシラクトバチルス・ファーメンタム(L. fermentum)と同定した。
【0038】
次に、生理・化学性状試験の結果、高根乳酸菌TS75株は、芽胞形成能及び運動性を有さないグラム陽性桿菌で、カタラーゼ反応及びオキシダーゼ反応は陰性を示し、グルコースからの酸及びガスの産生が確認された。これらの結果は、16S rDNA塩基配列解析の結果帰属が示されたリモシラクトバチルス(Limosilactobacillus)属の性状と一致した。
【0039】
APIキットを用いて行った細菌第二段階試験の結果、高根乳酸菌TS75株は、リボース、ガラクトース、マルトース、メリビオース、ラフィノース、スクロース等を発酵し、エスクリン、メレチトース等を発酵しなかった。また、追加試験の結果、検体は15℃にて生育せず、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示した。これらの結果は、16S rDNA塩基配列解析の結果帰属が示されたリモシラクトバチルス・ファーメンタム(L. fermentum)の性状とほぼ一致した。よって、細菌第一・第二段階試験の結果から高根乳酸菌TS75株をリモシラクトバチルス・ファーメンタム(L. fermentum)と同定した。
【0040】
(試験例2:発酵物の成分分析)
本発明の新規乳酸菌を用いて発酵物を製造し、その成分分析を行った。
まず、飛騨紅蕪の根茎部を水洗後、適宜切り分け、ジューサーにかけて搾汁した。これを沸騰水中で10分間加熱後、氷水で急冷し、さらに冷蔵庫で一晩放置することで澱を沈めた。これをキッチンペーパーでろ過し、赤蕪搾汁液とした。この搾汁液に0.4%のクエン酸を添加したものと、クエン酸未添加のものをそれぞれ5mLずつ試験管に分注し、80℃で15分間加熱した。これに本発明の乳酸菌(高根乳酸菌TS25株、高根乳酸菌TS75株)の懸濁液をそれぞれ0.1mL接種し、30℃で48時間発酵させた。なお、乳酸菌の接種量は、MRS培地で30℃、72時間培養し集菌して滅菌水で洗浄した後、吸光度(660nm)が1になるように調整した。得られた赤蕪発酵液の1mLを採取し、水で10mLにした。その2mLを固相抽出カートリッジ Sep Pak Acecell QMA(Waters)に負荷し、水10mLで3回洗浄後、0.1M塩酸溶液10mLで溶出させ、さらに0.22μmメンブランフィルターでろ過した。それをHPLCにて有機酸(リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酢酸、コハク酸、フマル酸)を分析した。分析条件は、カラム:HSS T3(粒子径1.8μm、内径2.1mm×長さ150mm Waters)、移動相:A液 80%アセトニトリル、B液 5mM NaH2PO4(pH2.8)、グラジェント条件:A液 0→70%(6分)、流速:0.5mL/分、注入量:6μL、測定波長:210nmとした。結果を表2に示す。表2中の数値の単位は、ppmを示す。
【0041】
【表2】
表2に示されるように、高根乳酸菌TS25株においてコハク酸及びフマル酸の検出が認められた。高根乳酸菌TS25株は、代謝産物としてコハク酸、フマル酸を産生する点で、従来知られているラクトバチルス・ブフネリにおいて報告例のない新規な性質を有していた。
【0042】
高根乳酸菌TS75株において、高根乳酸菌TS25株より高い濃度でフマル酸が検出された。高根乳酸菌TS75株は、代謝産物としてフマル酸を産生する点で、従来知られているラクトバチルス・ファーメンタムにおいて報告例のない新規な性質を有していた。
【0043】
なお、従来より酸菜の製造には、前年度に発酵させたものの一部を冷凍保存し、次期の製造に共種として用いられてきた。しかしながら、微生物検査で検出できないレベルまで乳酸菌が減少しているもの、あるいはホモ発酵型乳酸菌が多く含まれるためにコハク酸が少なく、乳酸が顕著に醸成されるもの等が存在する。本発明の高根乳酸菌TS25株及び高根乳酸菌TS75株の赤蕪発酵液は、味にコクを持たせるコハク酸、さわやかな酸味と風味を付与する酢酸、クエン酸を添加した場合、抗菌作用を高めるフマル酸を生産する。そのため、より安全性の高い発酵スターターとして製造現場で利用することができることが確認された。
【0044】
(試験例3:発泡甘酒の製造)
本発明の新規乳酸菌を用いた発泡甘酒を製造し、その成分分析を行った。
まず、米麹500gに水1.5kgを加えてよく混合し、55℃で6時間保温して甘酒を作製した。この100gを密栓可能な瓶に分注し、90℃で15分間加熱処理後、室温付近まで放冷した。これに本発明の乳酸菌(高根乳酸菌TS25株、高根乳酸菌TS75株)とラクトバチルス・サケイ・No.8(Lactobacillus sakei No.8)株(岐阜県食品科学研究所所有)の懸濁液をそれぞれ0.1mL接種し、30℃で48時間発酵させた。なお、乳酸菌の接種量は、MRS培地で30℃、48時間培養し集菌して滅菌水で洗浄した後、吸光度(660nm)が1になるように調整した。発酵させた甘酒の一部を採取し、pHを測定するとともに、コハク酸、各種アミノ酸(グルタミン酸、γ-アミノ酪酸、アルギニン、オルニチン)をHPLCにて分析し、定量した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
各種乳酸菌で発酵させた甘酒のpHは、3.2~3.5に低下し、いずれも良好な酸味を呈した。また、本発明の乳酸菌2株については炭酸ガスによる発泡も確認された。
【0046】
さらに本発明の乳酸菌2株で発酵させた甘酒では、コハク酸の醸成とアルギニンの代謝によるオルニチンの醸成が確認された。特に、高根乳酸菌TS25株は、代謝産物としてオルニチンを産生する点で、従来知られているラクトバチルス・ブフネリにおいて報告例のない新規な性質を有していた。コハク酸及びオルニチンは、二枚貝であるシジミの旨味成分であり、他方アルギニンは苦味を呈するアミノ酸の一種であることから本発明の乳酸菌2株は、甘酒の呈味改善にも有用であることが確認された。
【0047】
さらに高根乳酸菌TS25株に関し、グルタミン酸の代謝によるγ‐アミノ酪酸の醸成が確認された。その含量は33mg/100gに達し、未接種の約3倍量に達した。γ‐アミノ酪酸は、28mg/日の摂取で血圧降下作用が発揮されることが知られている。本発明の高根乳酸菌TS25株で甘酒を発酵させることで未発酵の甘酒の1/3以下の摂取で済むことから摂取カロリーも低減され、ヒトの健康維持に極めて有用であることも確認された。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(イ)前記発酵物は、無塩発酵漬物、酒、醸しぬか床、調味料、パン、飲料、及びサイレージから選ばれる少なくとも一種である。(ロ)前記発酵物は、発酵時にクエン酸が添加されている。