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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064109
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】塗装方法及び積層構造
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20240507BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240507BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240507BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20240507BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20240507BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240507BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B05D7/24 301F
B32B27/18 Z
B32B27/18 A
B05D7/00 L
E04F13/02 C
E04F13/02 F
C09D7/48
C09D7/63
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172460
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】早野 秋乃
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB92Y
4D075CB06
4D075CB07
4D075DA06
4D075DB02
4D075DB04
4D075DB07
4D075DB12
4D075DC02
4D075DC05
4D075EA43
4D075EB14
4D075EB15
4D075EB19
4D075EB22
4D075EB32
4D075EB33
4D075EB35
4D075EB37
4D075EB38
4D075EB52
4D075EC45
4D075EC47
4D075EC54
4F100AA21A
4F100AH06B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK52B
4F100AR00A
4F100BA02
4F100CA05B
4F100CA07B
4F100CC00B
4F100DE02B
4F100EH46
4F100JA06B
4F100JL08A
4F100JL09
4F100JM01B
4F100JN01B
4F100JN26B
4F100YY00B
4J038CG141
4J038CJ181
4J038DL131
4J038HA216
4J038HA486
4J038JC32
4J038KA08
4J038KA09
4J038KA12
4J038MA10
4J038NA17
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】基材の意匠性を維持するクリヤー層において、光触媒層を要因とした密着性の低下を抑えることができる塗装方法及び積層構造を提供する。
【解決手段】塗装方法は、光触媒層を有する基材における前記光触媒層に塗料を用いてクリヤー層を積層する積層工程を備える。積層構造は、光触媒層を有する基材と、基材の光触媒層に積層されるクリヤー層とを備える。クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内である。クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内である。クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層を有する基材における前記光触媒層に塗料を用いてクリヤー層を積層する積層工程を備え、
前記クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内であり、
前記クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内であり、
前記クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内である、塗装方法。
【請求項2】
前記塗料の23℃における粘度は、1dPa・s以上、50dPa・s以下の範囲内であり、前記塗料のTi値は、2.0以上、5.0以下の範囲内である、請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記塗料は、合成樹脂と、紫外線吸収剤と、シランカップリング剤とを含有し、
前記塗料中における前記合成樹脂の含有量は、30.0質量%以上、90.0質量%以下の範囲内であり、
前記塗料中における前記紫外線吸収剤の含有量は、前記合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であり、
前記塗料中における前記シランカップリング剤の含有量は、前記合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、3.0質量部以下の範囲内である、請求項1又は請求項2に記載の塗装方法。
【請求項4】
光触媒層を有する基材と、前記光触媒層に積層されるクリヤー層と、を備え、
前記クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内であり、
前記クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内であり、
前記クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内である、積層構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法及び積層構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物、土木構造物等は、色調や模様により意匠性を高めた壁面を有するものが知られている。このような壁面に対して、塗装によりクリヤー層を積層することで壁面の改修が行われる場合がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-208546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物、土木構造物等の壁を構成する基材をクリヤー層により補修することで、基材の意匠性を維持することが可能となる。ここで、壁を構成する基材の表面は、例えば、防汚性を発揮する光触媒層により形成されている場合がある。このような光触媒層に積層したクリヤー層は、光触媒層の光触媒活性により劣化し易い。クリヤー層が劣化すると、例えば、光触媒層とクリヤー層との密着性が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する塗装方法及び積層構造の各態様について説明する。
態様1の塗装方法は、光触媒層を有する基材における前記光触媒層に塗料を用いてクリヤー層を積層する積層工程を備え、前記クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内であり、前記クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内であり、前記クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内である。
【0006】
態様2の塗装方法では、態様1において、前記塗料の23℃における粘度は、1dPa・s以上、50dPa・s以下の範囲内であり、前記塗料のTi値は、2.0以上、5.0以下の範囲内であってもよい。
【0007】
態様3の塗装方法では、態様1又は態様2において、前記塗料は、合成樹脂と、紫外線吸収剤と、シランカップリング剤とを含有し、前記塗料中における前記合成樹脂の含有量は、30.0質量%以上、90.0質量%以下の範囲内であり、前記塗料中における前記紫外線吸収剤の含有量は、前記合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であり、前記塗料中における前記シランカップリング剤の含有量は、前記合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、3.0質量部以下の範囲内であってもよい。
【0008】
態様4の積層構造は、光触媒層を有する基材と、前記光触媒層に積層されるクリヤー層と、を備え、前記クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内であり、前記クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内であり、前記クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、基材の意匠性を維持するクリヤー層において、光触媒層を要因とした密着性の低下を抑えることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、塗装方法及び積層構造の実施形態について説明する。まず、積層構造について説明する。
<積層構造>
積層構造は、光触媒層を有する基材と、光触媒層に積層されるクリヤー層とを備えている。基材は、基材本体と、光触媒層とを有している。基材本体の材料としては、例えば、無機材料、金属材料等が挙げられる。無機材料としては、セメント系材料、石膏系材料、ケイ酸カルシウム系材料等が挙げられる。金属材料としては、例えば、アルミニウム、鋼、及びステンレス鋼等が挙げられる。基材本体は、光触媒層側から視認される凹凸、色調、模様等に基づく意匠層を有している。
【0011】
光触媒層は、光が入射されることで活性化する。活性化した光触媒層は、光触媒層の外面に付着した有機物質を酸化分解したり、光触媒層の外面の親水性を高めたりする。これにより、光触媒層の外面の汚れは、例えば、雨により容易に洗い流される。このように光触媒層は、防汚性を発揮することで、基材の美観を維持する。
【0012】
光触媒層は、光触媒活性を有する粒子を含有する。光触媒活性を有する粒子としては、例えば、酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等が挙げられる。光触媒粒子の平均粒径は、例えば、10nm以上、100nm以下の範囲内である。光触媒層は、バインダーを含有する。バインダーとしては、例えば、樹脂バインダーを用いることができる。樹脂バインダーとしては、例えば、アクリル塗料、アクリルシリコン塗料を硬化物により構成することができる。光触媒層中における光触媒活性を有する粒子及びバインダーの含有量は、バインダー100質量部に対して、光触媒活性を有する粒子は、例えば、10質量部以上、90質量部以下の範囲内である。
【0013】
基材は、建物の外壁の仕上げ材として用いられるサイディングであることが好ましい。サイディングとしては、例えば、窯業系サイディング、金属系サイディング、木質系サイディング、樹脂系サイディング等が挙げられる。
【0014】
積層構造におけるクリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内である。クリヤー層の光透過率は、クリヤー層に対する入射光の強度を100%としたとき、透過光の強度の割合である。クリヤー層の光透過率が60%以上の場合、例えば、基材の意匠性の低下を抑えることができる。クリヤー層の光透過率が99%以下の場合、光触媒層の光触媒活性を抑えることができる。クリヤー層の光透過率は、70%以上であることが好ましい。クリヤー層の光透過率は、85%以下であることが好ましい。クリヤー層の光透過率は、分光光度計を用いて測定することができる。
【0015】
クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内である。クリヤー層の隠ぺい率は、クリヤー層が下地の色の差を覆い隠す度合を示す。クリヤー層の隠ぺい率が1.0%以上の場合、光触媒層の光触媒活性を抑えることができる。クリヤー層の隠ぺい率が10.0%以下の場合、基材の意匠性の低下を抑えることができる。クリヤー層の隠ぺい率は、1.5%以上であることが好ましい。クリヤー層の隠ぺい率は、JIS K5600-4-1:1999に規定される方法で測定することができる。詳述すると、クリヤー層の隠ぺい率は、黒と白とに塗り分けて作った隠ぺい率試験紙等の下地の上に、黒の部分と白の部分とを同じ厚さのクリヤー層を積層する。このときのクリヤー層の45度、0度拡散反射率、又は三刺激値Yの比により隠ぺい率を表すことができる。
【0016】
クリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内である。クリヤー層の厚さが、50μm以上の場合、光触媒層の光触媒活性を抑えることができる。クリヤー層の厚さが、300μm以下の場合、基材の意匠性の低下を抑えることができる。クリヤー層の厚さは、80μm以上であることが好ましい。クリヤー層の厚さは、200μm以下であることが好ましい。
【0017】
<塗料>
次に、クリヤー層を得るための塗料について説明する。
塗料の23℃における粘度は、1dPa・s以上、50dPa・s以下の範囲内であることが好ましい。この場合、クリヤー層の厚さの均一性を容易に高めることができる。これにより、クリヤー層による光触媒層の光触媒活性を抑える効果をより均一に発揮させることが可能となる。
【0018】
塗料のTi値は、2.0以上、5.0以下の範囲内であることが好ましい。この場合、クリヤー層の厚さの均一性を容易に高めることができる。これにより、クリヤー層による光触媒層の光触媒活性を抑える効果をより均一に発揮させることが可能となる。
【0019】
塗料は、基材と密着する樹脂膜を形成する合成樹脂を含有する。合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂等が挙げられる。合成樹脂は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。合成樹脂は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0020】
合成樹脂は、溶媒に溶解した溶液として塗料に含有されてもよいし、合成樹脂が水系分散媒に分散したエマルションとして塗料に含有されてもよい。合成樹脂は、合成樹脂エマルションとして塗料に含有されることが好ましい。合成樹脂エマルションは、耐候性が良好であるという観点から、アクリル系合成樹脂エマルション、ウレタン系合成樹脂エマルション、シリコーン系合成樹脂エマルション、フッ素系合成樹脂エマルション、及びアクリルシリコン系合成樹脂エマルションから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの合成樹脂エマルションは、耐候性の他にも塗料適性、塗膜の物性、入手の容易性等の観点でも好適に用いられる。
【0021】
合成樹脂のガラス転移点(Tg)は、0℃以上、40℃以下の範囲内であることが好ましい。Tgが0℃以上の場合、クリヤー層が汚れ難くなる。Tgが40℃以下の場合、クリヤー層の柔軟性が向上することで、例えば、クリヤー層の割れの発生を抑えることができる。
【0022】
塗料中における合成樹脂の含有量は、30.0質量%以上、90.0質量%以下の範囲内である。塗料中における合成樹脂の含有量が30.0質量%以上の場合、得られるクリヤー層の耐久性を高めることが可能となる。塗料中における合成樹脂の含有量が90.0質量%以下の場合、例えば、塗料の流動性を確保することができる。なお、塗料中の合成樹脂の含有量は、例えば、合成樹脂の溶液又は合成樹脂エマルション中の樹脂固形分から算出することができる。
【0023】
塗料は、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収することで、光触媒層の光触媒活性を抑える。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤等が挙げられる。紫外線吸収剤は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
紫外線吸収剤は、熱及び光に対する安定性が高いという観点から、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、及びトリアジン系紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0025】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2´-ヒドロキシ-5´-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2´-ヒドロキシ-3´,5´-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2´-ヒドロキシ-3´,5-ジ-t-ブチル-フェニル)-ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0026】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルフォニックアシド等が挙げられる。
【0027】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(4-ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0028】
塗料中における紫外線吸収剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が、0.1質量部以上の場合、クリヤー層の耐候性をより高めることができる。紫外線吸収剤の含有量が、5.0質量部を超える場合、耐候性の効果が格段に向上することを期待できないおそれがある。
【0029】
紫外線吸収剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上であることがより好ましい。紫外線吸収剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、3.0質量部以下であることがより好ましい。
【0030】
塗料は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤は、基材の光触媒層に対するクリヤー層の付着性(密着性)を高める。シランカップリング剤は、加水分解性を有するケイ素化合物である。シランカップリング剤は、有機物と反応性を有する官能基を有する。
【0031】
有機物と反応性を有する官能基としては、例えば、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル基とは、メタクリル基とアクリル基との総称である。
【0032】
ビニル重合性基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0033】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0038】
シランカップリング剤は、単独種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
塗料中におけるシランカップリング剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、3.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。シランカップリング剤の含有量が、0.1質量部以上である場合、基材の光触媒層に対するクリヤー層の密着性をより高めることができる。シランカップリング剤の含有量が、3.0質量部を超える場合、基材の光触媒層に対するクリヤー層の密着性を高める効果が格段に向上することを期待できないおそれがある。
【0039】
シランカップリング剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、2.0質量部以下であることがより好ましい。
【0040】
塗料は、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)を含有してもよい。ヒンダードアミン光安定剤は、クリヤー層を構成する合成樹脂の劣化に影響を与える遊離ラジカルを捕捉する。これにより、クリヤー層の耐候性を高めることが可能となる。
【0041】
HALSとしては、例えば、テトラメチルピペリジンを有するものが好ましい。テトラメチルピペリジンの数が一つのHALSとしては、例えば、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。テトラメチルピペリジンの数が二つのHALSとしては、例えば、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ[4.5]デカン-2,4-ジオン等が挙げられる。
【0042】
HALSの平均分子量は、200~1000の範囲のものが好ましい。HALSの平均分子量が200以上の場合、クリヤー層から流出し難くなることで、耐候性をより高めることが可能となる。HALSの平均分子量が1000以下の場合、塗料の貯蔵安定性が得られ易くなる。
【0043】
塗料中におけるHALSの含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。HALSの含有量が、0.1質量部以上の場合、クリヤー層の耐候性をより高めることが可能となる。HALSが、5.0質量部を超える場合、クリヤー層の耐候性を高める効果が格段に向上することを期待できないおそれがある。塗料中におけるHALSの含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上であることがより好ましい。塗料中におけるHALSの含有量は、合成樹脂100質量部に対して、4.0質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
塗料には、クリヤー層の艶消し剤を含有させることができる。塗料に艶消し剤を含有させることで、クリヤー層の隠ぺい率の値を上記範囲に容易に調整することができる。艶消し剤としては、例えば、炭酸カルシウム、珪藻土、樹脂ビーズ等が挙げられる。艶消し剤としては、鱗片状粒子であることが好ましい。鱗片状粒子としては、例えば、雲母、鱗片状の金属片やガラス片(ガラスフレーク)が挙げられる。鱗片状粒子は、例えば、金属、金属酸化物等からなる被覆層を有していてもよい。塗料中における艶消し剤の含有量は、例えば、合成樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
塗料には、必要に応じて添加剤を含有させることもできる。添加剤としては、例えば、界面活性剤、高沸点溶剤、増粘剤、レベリング剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤、艶消し剤、架橋剤等が挙げられる。界面活性剤は、消泡剤、分散剤、湿潤剤等として用いることができる。高沸点溶剤は、造膜助剤,防凍剤等として用いることができる。
【0046】
塗料は、撹拌機を用いて各原料を混合することで調製することができる。撹拌機としては、例えば、ディゾルバー、バタフライミキサー、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
【0047】
<塗装方法>
塗装方法は、光触媒層を有する基材における光触媒層に塗料を用いてクリヤー層を積層する積層工程を備えている。積層工程では、基材に塗料を塗布した後、塗料を乾燥及び硬化させることで、基材上にクリヤー層を形成することができる。基材に塗料を塗布する方法としては、例えば、塗装用ローラー、刷毛等の塗布具を用いた塗布、塗料の吹き付けによる塗布(吹付塗装)等が挙げられる。塗料を乾燥する方法としては、例えば、自然乾燥、強制乾燥のいずれであってもよい。強制乾燥は、例えば、遠赤炉、ガス炉、電気炉等を用いて行うことができる。
【0048】
塗装方法は、上記積層工程の前工程、すなわち、基材に塗料を塗布する前工程として、基材に付着している埃や汚れ等の汚染物質を除去する除去工程を備えていてもよい。除去工程は、例えば、水等の洗浄液を用いて基材を洗浄する洗浄工程が挙げられる。積層工程は、基材に付着した洗浄液を乾燥させた後に行うことができる。
【0049】
<実施形態の作用及び効果>
次に、実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)塗装方法の積層工程において光触媒層に積層するクリヤー層の厚さは、50μm以上、300μm以下の範囲内である。クリヤー層の光透過率は、60%以上、99%以下の範囲内である。クリヤー層の隠ぺい率は、1.0%以上、10.0%以下の範囲内である。この方法によれば、上述したクリヤー層によって基材の意匠性を維持することができる。また、上述したクリヤー層によって、光触媒層の光触媒活性を抑えることが可能となる。従って、基材の意匠性を維持するクリヤー層において、光触媒層を要因とした密着性の低下を抑えることができる。
【0050】
(2)塗料の23℃における粘度は、1dPa・s以上、50dPa・s以下の範囲内であり、塗料のTi値は、2.0以上、5.0以下の範囲内であることが好ましい。この場合、クリヤー層の厚さの均一性を容易に高めることができる。これにより、クリヤー層による光触媒層の光触媒活性を抑える効果をより均一に発揮させることが可能となる。従って、光触媒層を要因としたクリヤー層の密着性の低下を抑える効果をより均一に発揮させることが可能となる。
【0051】
(3)塗料中における合成樹脂の含有量は、30.0質量%以上、90.0質量%以下の範囲内であることが好ましい。塗料中における紫外線吸収剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、5.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。塗料中におけるシランカップリング剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、3.0質量部以下の範囲内であることが好ましい。この場合、クリヤー層の耐候性、及び光触媒層に対するクリヤー層の密着性を高めることができる。
【実施例0052】
次に、実施例及び比較例を説明する。
(実施例1~4、及び比較例1,2)
実施例1では、表1に示す各原料を、ミキサーで撹拌することで、塗料を調製した。表1中の原料の配合量を示す数値の単位は、質量%である。表1中に記載の塗料の原料の詳細は、以下のとおりである。
【0053】
合成樹脂エマルション:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分:47質量%、Tg:11℃)
造膜助剤:テキサノール
増粘剤A:ウレタン会合型増粘剤
増粘剤B:ヒドロキシエチルセルロース(HEC)
光安定剤:ヒンダードアミン光安定剤(HALS)
紫外線吸収剤(UVA):ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(有効成分20質量%)
シランカップリング剤:イソシアネート基を有するシランカップリング剤(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)
艶消し剤:鱗片状粒子(酸化チタンからなる被覆層を有するガラスフレーク)
添加剤:消泡剤、分散剤、及び防腐剤
<粘度の測定及びTi値の算出>
各例の塗料のサンプルを23℃の恒温室に1日静置後、粘度計を用いて各サンプルの粘度を測定した。また、各例の塗料のサンプルを23℃の恒温室に1日静置後、BH型粘度計を用いて2rpmと20rpmにおける各サンプルの粘度を測定した。これらの粘度から各サンプルのTi値を算出した。各サンプルの粘度及びTi値を表1に示す。
【0054】
<クリヤー層の光透過率の測定>
各例の塗料をガラス板にフィルムアプリケーターを用いて塗布した後、塗料を乾燥することで、厚さが100μmのクリヤー層を作製した。各例のクリヤー層の光透過率を、分光光度計を用いて測定した。光透過率は、200nm以上、500nm以下の波長範囲の平均透過率である。各例におけるクリヤー層の光透過率を表2に示す。
【0055】
<クリヤー層の隠ぺい率の測定>
各例のクリヤー層の隠ぺい率をJIS K 5600-4-1:1999に規定される方法B(隠ぺい率試験紙)に準じて測定した。各例のクリヤー層(厚さ100μm)は、各例の塗料を隠ぺい率試験紙にフィルムアプリケーターを用いて塗布した後、塗料を乾燥することで作製した。
【0056】
<外観の評価>
基材にウールローラーを用いて各例の塗料を塗布した後、塗料を乾燥することで厚さ100μmのクリヤー層を基材上に積層したサンプルを作製した。基材としては、多彩柄の窯業系サイディング(ケイミュー株式会社製、商品名:エクセレージ・光セラ)を用いた。
【0057】
得られたサンプルを目視で観察し、以下の評価基準で評価した。その結果を表2に示す。
優れる(◎):基材の柄がはっきりと確認できる。
【0058】
良好(○):基材の柄が十分に確認できる。
不良(×):基材の柄がぼやける。
<付着性(密着性)の評価>
上記のクリヤー層の外観の評価で使用した各サンプルの一部を用いて付着性の評価を行った。まず、各サンプルは以下の(1)~(4)の条件で処理した。付着性の評価は、JIS K 5600-5-6:1999に規定される付着性(クロスカット法)に準じて行った。まず、各サンプルのクリヤー層をカット間隔5mmで25マスの格子にカットし、テープを貼り付けた。テープを引き剥がした後、各サンプルに残ったクリヤー層をカウントした。各サンプルの付着性の評価結果を「サンプルに残ったクリヤー層の数/25」として表2に示す。
【0059】
(1)標準状態
各サンプルを23℃の恒温室で14日間静置した。
(2)温冷繰り返し試験
各サンプルを23℃の恒温室で14日間静置した。次に、各サンプルをJIS A 6909:2014(7.11温冷繰返し試験)に準じて10サイクルの温冷を各サンプルに繰り返した。
【0060】
(3)紫外線照射試験
各サンプルを23℃の恒温室で14日間静置した。次に、紫外線ランプを用いて各サンプルに紫外線を照射する紫外線照射試験を24時間行った。
【0061】
(4)耐候性試験
クリヤー層を形成した後、23℃の恒温室で14日間静置した。次に、促進耐候性試験機(岩崎電気株式会社製、商品名:アイ スーパーUVテスター)を用いて576時間の耐候性試験を行った。この耐候性試験では、3時間の紫外線照射、30秒間の水シャワー、3時間の結露、及び30秒間の水シャワーを1サイクルとして、このサイクルを繰り返した。紫外線照射は、照度150mW/cm、温度63℃、湿度50%の条件で行った。
【0062】
<クリヤー層の耐候性の評価>
上記のクリヤー層の外観の評価で使用した各サンプルの一部を用いてクリヤー層の耐候性を評価した。各サンプルを上記の<付着性の評価>における「(4)耐候性試験後」欄に記載の条件で耐候性試験を行った。各サンプルを144時間毎に目視とマイクロスコープで観察した。各サンプルのクリヤー層に変化が確認された時間と、変化の状態を表2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
実施例1~4では、外観の結果が、優れる又は良好となった。また、実施例1~4では、耐候性試験におけるマイクロスコープの観察において、ひびが確認されるまでの時間が720hであった。また、実施例1~4では、付着性の評価結果も良好であった。
【0065】
一方、比較例1では、外観が不良となった。比較例2では、外観は優れるものの、耐候性試験におけるマイクロスコープの観察において、ひびが確認されるまでの時間が各実施例よりも短いことが分かる。また、比較例2では、付着性の評価結果についても、各実施例よりも劣る結果となった。