(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064121
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20240507BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01R31/26 A
H01L27/04 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172478
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 満
【テーマコード(参考)】
2G003
5F038
【Fターム(参考)】
2G003AA01
2G003AA02
2G003AB01
2G003AB09
2G003AF06
2G003AH07
5F038DT07
5F038DT10
5F038EZ20
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の破壊率の低減を図ることのできる試験装置および試験方法を提供する。
【解決手段】所定電圧が印加されるインダクタに直列接続されるスイッチング素子を試験する試験装置であって、スイッチング素子の制御電極に接続される可変抵抗と、スイッチング素子がオフした際のスイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の電圧変化率と、可変抵抗の抵抗値と、の関係を示す第1情報を記憶する記憶回路と、スイッチング素子のオン、オフと、可変抵抗とを制御する制御回路と、を備え、制御回路は、可変抵抗を第1抵抗値に設定して、第1電圧変化率を取得し、第1電圧変化率と、第1情報と、に基づいて、可変抵抗を第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定し、可変抵抗が第2抵抗値のときの第2電圧変化率を取得し、第2電圧変化率が、スイッチング素子の第1仕様を満たすか否かを判定する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定電圧が印加されるインダクタに直列接続されるスイッチング素子を試験する試験装置であって、
前記スイッチング素子の制御電極に接続される可変抵抗と、
前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の電圧変化率と、前記可変抵抗の抵抗値と、の関係を示す第1情報を記憶する記憶回路と、
前記スイッチング素子のオン、オフと、前記可変抵抗とを制御する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、
前記可変抵抗を第1抵抗値に設定して、第1電圧変化率を取得し、
前記第1電圧変化率と、前記第1情報と、に基づいて、前記可変抵抗を前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定し、
前記可変抵抗が前記第2抵抗値のときの第2電圧変化率を取得し、
前記第2電圧変化率が、前記スイッチング素子の第1仕様を満たすか否かを判定する、
試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験装置であって、
前記制御回路は、
前記第1電圧変化率が、前記第1仕様を満たすか否かを判定し、
前記第1電圧変化率が前記第1仕様を満たさない場合に、前記可変抵抗を前記第2抵抗値に設定する、
試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試験装置であって、
前記制御回路は、
前記第1電圧変化率が前記第1仕様の下限値となるように前記可変抵抗を前記第1抵抗値に設定する、
試験装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の試験装置であって、
前記記憶回路は、前記スイッチング素子がオフした際に前記スイッチング素子に流れる電流のピーク値と、前記スイッチング素子をオンする際のパルス信号のパルス幅と、の関係を示す第2情報を記憶し、
前記制御回路は、
前記パルス幅を第1期間に設定して、第1ピーク値を取得し、
前記第1ピーク値と、前記第2情報と、に基づいて、前記パルス幅を前記第1期間よりも長い第2期間に設定し、
前記パルス幅が前記第2期間のときの第2ピーク値を取得し、
前記第2ピーク値が、前記スイッチング素子の第2仕様を満たすか否かを判定する、
試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載の試験装置であって、
前記制御回路は、
前記第1ピーク値が、前記第2仕様を満たすか否かを判定し、
前記第1ピーク値が前記第2仕様を満たさない場合に、前記パルス幅を前記第2期間に設定する、
試験装置。
【請求項6】
請求項4に記載の試験装置であって、
前記制御回路は、
前記第1ピーク値が前記第2仕様の下限値となるように、前記パルス幅を前記第1期間に設定する、
試験装置。
【請求項7】
請求項1に記載の試験装置であって、
前記インダクタと並列に電流回生用のダイオードが設けられている、
試験装置。
【請求項8】
所定電圧が印加されるインダクタに直列接続して試験するスイッチング素子の試験方法であって、
前記スイッチング素子の制御電極に接続される可変抵抗を第1抵抗値に設定して、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の第1電圧変化率を取得し、
前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の電圧変化率と前記可変抵抗の抵抗値との関係を示す第1情報と、前記第1電圧変化率と、に基づいて、前記可変抵抗を前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定し、
前記可変抵抗が前記第2抵抗値のときの、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の第2電圧変化率を取得し、
前記第2電圧変化率が、前記スイッチング素子の第1仕様を満たすか否かを判定する、
試験方法。
【請求項9】
請求項8に記載の試験方法であって、
前記第1電圧変化率が、前記第1仕様を満たすか否かを判定し、
前記第1電圧変化率が前記第1仕様を満たさない場合に、前記可変抵抗を前記第2抵抗値に設定する、
試験方法。
【請求項10】
請求項8に記載の試験方法であって、
前記第1電圧変化率が前記第1仕様の下限値となるように前記可変抵抗を前記第1抵抗値に設定する、
試験方法。
【請求項11】
請求項8~10の何れか一項に記載の試験方法であって、
前記スイッチング素子をオンする際のパルス信号のパルス幅を第1期間に設定して、前記スイッチング素子がオフした際に前記スイッチング素子に流れる電流の第1ピーク値を取得し、
前記スイッチング素子がオフした際に前記スイッチング素子に流れる電流のピーク値と前記パルス幅との関係を示す第2情報と、前記第1ピーク値と、に基づいて、前記パルス幅を前記第1期間よりも長い第2期間に設定し、
前記パルス幅が前記第2期間のときの、前記スイッチング素子がオフした際に前記スイッチング素子に流れる電流の第2ピーク値を取得し、
前記第2ピーク値が、前記スイッチング素子の第2仕様を満たすか否かを判定する、
試験方法。
【請求項12】
請求項11に記載の試験方法であって、
前記第1ピーク値が、前記第2仕様を満たすか否かを判定し、
前記第1ピーク値が前記第2仕様を満たさない場合に、前記パルス幅を前記第2期間に設定する、
試験方法。
【請求項13】
請求項11に記載の試験方法であって、
前記第1ピーク値が前記第2仕様の下限値となるように、前記パルス幅を前記第1期間に設定する、
試験方法。
【請求項14】
請求項8に記載の試験方法であって、
前記インダクタと並列に電流回生用のダイオードが設けられている、
試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング素子では、初期故障や欠陥品を選別するためのスクリーニング試験として、例えばターンオフスイッチング試験が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。ターンオフスイッチンング試験は、スイッチング素子内の欠陥部に電流集中やラッチアップによってダメージを与えて、欠陥品等を選別する試験である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4821601号公報
【特許文献2】特開2022-38486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常、ターンオフスイッチング試験では、要求される仕様の下限値を下回らないように、測定環境や素子のばらつき等を考慮して、適正条件よりも厳しい条件(過剰なストレスを与える条件)が設定される。このため、スイッチング素子の破壊が過剰に発生するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、スイッチング素子の破壊率の低減を図ることのできる試験装置および試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する主たる本発明は、所定電圧が印加されるインダクタに直列接続されるスイッチング素子を試験する試験装置であって、前記スイッチング素子の制御電極に接続される可変抵抗と、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の電圧変化率と、前記可変抵抗の抵抗値と、の関係を示す第1情報を記憶する記憶回路と、前記スイッチング素子のオン、オフと、前記可変抵抗とを制御する制御回路と、を備え、前記制御回路は、前記可変抵抗を第1抵抗値に設定して、前記電圧変化率である第1電圧変化率を取得し、前記第1電圧変化率と、前記第1情報と、に基づいて、前記可変抵抗を前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定し、前記可変抵抗が前記第2抵抗値のときの前記電圧変化率である第2電圧変化率を取得し、前記第2電圧変化率が、前記スイッチング素子の第1仕様を満たすか否かを判定する試験装置である。
【0007】
また、本発明は、所定電圧が印加されるインダクタに直列接続して試験するスイッチング素子の試験方法であって、前記スイッチング素子の制御電極に接続される可変抵抗を第1抵抗値に設定して、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の第1電圧変化率を取得し、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の電圧変化率と前記可変抵抗の抵抗値との関係を示す第1情報と、前記第1電圧変化率と、に基づいて、前記可変抵抗を前記第1抵抗値より小さい第2抵抗値に設定し、前記可変抵抗が前記第2抵抗値のときの、前記スイッチング素子がオフした際の前記スイッチング素子の電源側電極及び接地側電極間の第2電圧変化率を取得し、前記第2電圧変化率が、前記スイッチング素子の第1仕様を満たすか否かを判定する試験方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スイッチング素子の破壊率の低減を図ることのできる試験装置および試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一般的な試験装置1Aの構成を示す図である。
【
図2】ターンオフSW試験波形の一例を示す図である。
【
図3】ゲート抵抗の抵抗値とdV/dtとの関係を説明するための図である。
【
図4】dV/dtと破壊率との関係を説明するための図である。
【
図5】駆動信号(パルス信号)のパルス幅PWと、電流Icのピーク値Icpとの関係を説明するための図である。
【
図6】ピーク値Icpと破壊率との関係を説明するための図である。
【
図7】本実施形態の試験装置1の構成を示す図である。
【
図9】本実施形態の試験装置1によるターンオフスイッチング試験のフロー図である。
【
図10】本実施形態における抵抗値とdV/dtの関係を示す図である。
【
図11】本実施形態におけるパルス幅とピーク値Icpの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
なお、以下では、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明を省略することがある。
【0012】
また、本実施形態で、「接続」とは、特段の言及がない限り電気的に接続されている状態をいう。このため「接続」には、2つの部品が配線のみならず、例えば、抵抗を介して接続されている場合も含む。
【0013】
=====スクリーニング試験および比較例について=====
<<スクリーニング試験について>>
パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor-Field-Effect-Transistor)や、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子(以下、スイッチング素子)は、ウェハ基板に多数形成される。そして、これらのスイッチング素子は、ダイシングにより分断された後、半導体モジュールに組み込まれる。
【0014】
スクリーニング試験は、スイッチング素子が正常に動作するか否かを評価して、初期故障や欠陥品を振るい落とす(選別する)試験であり、通常、半導体モジュールに組み込まれる前に実施される。スクリーニング試験には、ターンオフスイッチング試験(以下、ターンオフSW試験)やL負荷アバランシェ試験などの動特性試験と、電極間の漏れ電流試験、静耐圧試験などの静特性試験がある。以下では、ターンオフSW試験について説明する。
【0015】
<<一般的な試験装置1A>>
図1は、一般的な試験装置1Aの構成を示す図である。
【0016】
試験装置1Aは、スイッチング素子5のスクリーニング試験(ここではターンオフSW試験)を行う装置である。試験装置1Aは、電源電圧VCCを供給する電源2、コイルL1、ダイオードD1、電流遮断用素子4、制御回路130、抵抗150、端子A,B,C、を備えている。また、試験装置1Aは、試験の際の電流値や電圧値をモニタすることにより、過電流等の異常の検出を行う検出回路(不図示)なども備えている。
【0017】
コイルL1は、電源2と、後述するスイッチング素子5との間に設けられた負荷(誘導性負荷)であり、電源2の電源電圧VCCが印加される。
【0018】
ダイオードD1は、電流回生用のダイオードであり、コイルL1と並列に設けられている。
【0019】
電流遮断用素子4は、異常発生時にスイッチング素子5に供給される電流を遮断するための素子であり、コイルL1と、スイッチング素子5(より具体的には、端子B)との間に設けられている。ここでは、電流遮断用素子4としてIGBTが用いられており、電流遮断用素子4のゲート電極は、制御回路130に接続されている。なお、電流遮断用素子4はIGBTには限られず、例えば、MOSFETやスイッチでもよい。
【0020】
制御回路130は、電流遮断用素子4及びスイッチング素子5のオン、オフを制御する。例えば、制御回路130は、通常はハイレベルで、過電流などの異常が検出された場合にローレベルとなる駆動信号を電流遮断用素子4のゲート電極に印加する。つまり、異常が検出された場合のみ、電流遮断用素子4がオフされる。
【0021】
また、制御回路130は、スイッチング素子5を制御するための矩形状の駆動信号(以下、パルス信号)を生成する。このパルス信号に応じてスイッチング素子5がオン、オフされる。なお、電流遮断用素子4のオン、オフを制御する制御回路と、スイッチング素子5のオン、オフを制御する制御回路とを別に設けても良い。
【0022】
スイッチング素子5は、ターンオフSW試験の試験対象であり、ここではIGBTである。ただし、スイッチング素子5はIGBTには限られず、例えば、MOSFETでもよい。
【0023】
スイッチング素子5のコレクタ電極は、端子Bおよび電流遮断用素子4を介して、コイルL1に接続されており、エミッタ電極は、端子Cを介して接地されている。また、スイッチング素子5のゲート電極は、端子Aに接続されており、上述したパルス信号が抵抗150を介して印加される。そして、スイッチング素子5は、パルス信号がハイレベルのときにはオンし、ローレベルのときはオフする。
【0024】
なお、スイッチング素子5(IGBT)において、ゲート電極とエミッタ電極は、スイッチング素子5のおもて面に形成されており、コレクタ電極はスイッチング素子5のうら面に形成されている。
【0025】
端子Bは、試験装置1Aのステージ(不図示)に接続されている。そして、ステージの上にスイッチング素子5を載置することにより、端子Bは、スイッチング素子5のコレクタ電極に接続される。
【0026】
端子Aは、試験装置1Aのゲート電極用のプローブ(不図示)に接続されている。このプローブをスイッチング素子5のおもて面のゲート電極に接触させることにより、端子Aはスイッチング素子5のゲート電極に接続される。
【0027】
端子Cは、試験装置1Aのエミッタ電極用のプローブ(不図示)に接続されている。このプローブをスイッチング素子5のおもて面のエミッタに接触させることにより、端子Cは、スイッチング素子5のエミッタ電極に接続される。
【0028】
そして、試験装置1Aから、端子A,B,Cを介して、スイッチング素子5に通電を行い、電気的特性評価(ここでは、ターンオフSW試験)を行う。
【0029】
<<ターンオフSW試験について>>
ターンオフSW試験では、スイッチング素子5のゲート電極に抵抗150を介して駆動信号(パルス信号)を印加したときの電流の変化や電圧の変化をモニタする。この際、スイッチング素子5をオンした後、スイッチング素子5がオフとなると、コイルL1→ダイオードD1→コイルL1の還流経路が形成される。そして、例えば、スイッチング素子5のターンオフ時に、逆起電圧が発生すると、コイルL1に流れていた電流の大半がその還流経路に流れることになり、コイルL1に蓄積されたエネルギーがコイルL1の抵抗成分(不図示)によって消費される。
【0030】
図2は、ターンオフSW試験波形の一例を示す図である。
図2において、時刻t0より前では、スイッチング素子5がオフの状態である。
【0031】
時刻t0でゲート-エミッタ間電圧(以下、電圧Vge)がスイッチング素子5の閾値(Vth)よりも高くなりスイッチング素子5がオンする。それとともに、コレクターエミッタ間電圧(以下、電圧Vce)はほぼ0となり、コレクタ電流(以下、電流Ic)が増加する。時刻t1で、電圧Vgeが閾値(Vth)よりも低くなることでスイッチング素子5がオフとなる。また、時刻t1で電流Icはピーク値Icpとなり、それ以降低下していく。また、時刻t1から電圧Vceが急激に増加し、時刻t2で最大になる。そして、時刻t3で時刻t0より前と同じ状態に戻る。このような波形の試験を行うことで、欠陥部に電流集中やラッチアップによってダメージを与えて、欠陥品等を選別することができる。
【0032】
ここで、ターンオフSW試験において、特に重要な設定パラメータは、スイッチング素子5のゲート抵抗(ここでは抵抗150)の抵抗値と、パルス信号のパルス幅PW(スイッチング素子5をオンする期間)である。
【0033】
なお、ゲート抵抗の抵抗値の設定により、スイッチング素子5がオフした際の電圧Vceの電圧変化率(単位時間当たりの電圧変化量:以下、dV/dt)を制御できる。また、パルス信号のパルス幅PWの設定により、電流Icのピーク値Icpを制御できる。
【0034】
<dV/dtについて>
図3は、ゲート抵抗の抵抗値とdV/dtとの関係を説明するための図である。
図3の横軸は抵抗値であり、縦軸はdV/dtである。また同図には、dV/dtの仕様(規格)の下限値を破線で示している。なお「仕様の下限値」とは、スイッチング素子5に要求される性能(ここではdV/dt)の最小値である。この値を下回ると、仕様を満たしていないことになる。
【0035】
図3に示すように、dV/dtは、ゲート抵抗に対して負の相関があり、抵抗値が大きいほど、dV/dtは小さくなる。
【0036】
また、
図3には、ゲート抵抗の抵抗値をRcに設定したときのばらつきの範囲(抵抗値Rcを中心とした範囲)が矢印で示されている。なお、ばらつきとしては抵抗150の製造ばらつき、スイッチング素子5の素子ごとのばらつき(製造要因のばらつき)、コンタクト状態などのばらつき(測定環境要因のばらつき)などがある。この範囲に対応するdV/dtが、仕様の下限値D0を下回らないように、抵抗値Rcが設定される。
【0037】
具体的には、抵抗値Rcは、矢印の範囲におけるdV/dtの最小値Dsが、仕様の下限値D0を下回らないように設定される。すなわち、抵抗150の抵抗値Rcは、ばらつきを考慮して、仕様の下限値D0に対応する抵抗値R0よりも十分小さくなるように設定される。
【0038】
また、
図3には、抵抗値をRcに設定したときのdV/dtの分布状態(略楕円形状の範囲)が示されている。
【0039】
図4は、dV/dtと破壊率との関係を説明するための図である。
図4の横軸はdV/dtであり、縦軸は破壊率である。図に示すように、dV/dtが大きいほど、破壊率が大きくなる。つまり、dV/dtが大きいほど、スイッチング素子5が破壊しやすくなる。ここで、
図3に示したように、dV/dtが仕様の下限値D0を下回らないように、抵抗値には、はばらつきを考慮したマージンが設定されている。よって、dV/dtが、例えばDc~Dbのように大きくなり、これにより、破壊率も大きくなるため過剰にスイッチング素子5が破壊してしまうおそれがある。
【0040】
<ピーク値Icpについて>
図5は、駆動信号(パルス信号)のパルス幅PWと、ピーク値Icpとの関係を説明するための図である。
図5の横軸はパルス幅PWであり、縦軸はピーク値Icpである。また同図には、ピーク値Icpの仕様(規格)の下限値を破線で示している。
【0041】
図5に示すように、ピーク値Icpは、パルス幅PWに対して正の相関があり、パルス幅PWが大きい(期間が長い)ほど、ピーク値Icpは大きくなる。
【0042】
また、
図3と同様に、
図5にはパルス幅PWを期間Wcとしたときのばらつきの範囲(期間Wcを中心とした範囲)が矢印で示されている。この範囲に対応するピーク値Icpが、仕様の下限値P0を下回らないように、パルス幅PWの期間Wcが設定される。
【0043】
具体的には、期間Wcは、矢印の範囲のうちのピーク値Icpの最小値Psが、仕様の下限値P0を下回らないように設定される。このように、パルス幅PWの期間Wcは、ばらつきを考慮して、仕様の下限値P0に対応する期間W0よりも十分長くなるように設定される。なお、パルス幅PWの期間Wcのばらつきは、例えば、制御回路130を構成する素子(不図示)のばらつきにより発生する。
【0044】
また、
図5には、パルス幅PWを期間Wcに設定したときのピーク値Icpの分布状態(略楕円形状の範囲)が示されている。
【0045】
図6は、ピーク値Icpと破壊率との関係を説明するための図である。
図6の横軸はピーク値Icpであり、縦軸は破壊率である。図に示すように、ピーク値Icpが大きいほど、破壊率が大きくなる。つまり、ピーク値Icpが大きいほど、スイッチング素子5が破壊しやすくなる。ここで、
図5に示したように、ピーク値Icpについても仕様の下限値P0を下回らないように、パルス幅PWには、ばらつきを考慮したマージンが設定されている。よって、ピーク値Icpが、例えばPc~Pbのように大きくなり、これにより破壊率も大きくなるため、過剰にスイッチング素子5が破壊してしまうおそれがある。
【0046】
そこで、本実施形態では、スイッチング素子5が過剰に破壊されることを抑制し、破壊率の低減を図っている。
【0047】
=====本実施形態=====
図7は、本実施形態の試験装置1の構成を示す図である。本実施形態の試験装置1は、電源2、コイルL1、ダイオードD1、電流遮断用素子4、制御回路13、可変抵抗15、記憶回路17、端子A,B,C、を備え、スイッチング素子5を試験する装置である。また、試験装置1は、比較例と同様に、試験の際の電流値や電圧値をモニタすることにより、過電流等の異常の検出を行う検出回路(不図示)なども備えている。
【0048】
電源2、コイルL1、ダイオードD1、電流遮断用素子4、端子A,B,Cは比較例と同じであるので、説明を省略する。なお、コイルL1は「インダクタ」に相当し、電源2の電源電圧VCCは、「所定電圧」に相当する。また、コイルL1と並列に電流回生用のダイオードD1が設けられている。
【0049】
スイッチング素子5は、試験対象の素子であり、電流遮断用素子4を介して、電源電圧VCCが印加されるコイルL1に直列接続されている。なお、スイッチング素子5のゲート電極は「制御電極」に相当し、コレクタ電極は「電源側電極」に相当し、エミッタ電極は「接地側電極」に相当する。
【0050】
本実施形態の制御回路13は、スイッチング素子5及び電流遮断用素子4のオン、オフと、可変抵抗15を制御する。電流遮断用素子4の制御については、比較例と同じなので、説明を省略する。
【0051】
本実施形態の制御回路13は、スイッチング素子5に供給する駆動信号(パルス信号)のパルス幅PWを変更可能である。また、制御回路13は、可変抵抗15のスイッチSW1~SW6(後述)のオン、オフを制御することにより、可変抵抗15の抵抗値を変更可能である。
【0052】
さらに、本実施形態の制御回路13は、端子Bの電圧VBと、端子Bに流れる電流(電流Ic)をモニタしており、dV/dt及びピーク値Icpを取得可能である。そして、ターンオフSW試験で取得した特性(dV/dt,ピーク値Icp)と、記憶回路17に記憶された情報(後述)とを比較して、試験結果を判定する機能も有している。
【0053】
可変抵抗15は、制御回路13とスイッチング素子5のゲート電極(より具体的には端子A)との間に設けられている。
【0054】
図8は、可変抵抗15の一例を示す図である。
図8に示す可変抵抗15は、スイッチSW1~SW6と、互いに抵抗値の異なる抵抗R1~R6を備えている。
【0055】
スイッチSW1は、抵抗R1と直列に接続されている。同様に、スイッチSW2~SW6は、それぞれ、抵抗R2~R6と直列に接続されている。そして、直列接続された抵抗とスイッチの各組合せが並列に接続されている。
【0056】
制御回路13は、スイッチSW1~SW6を選択的にオンさせるための信号RGを出力する。この信号RGによって、スイッチSW1~SW6が選択的にオンし、可変抵抗15の抵抗値が設定される。なお、オンするスイッチは一つには限られず、複数でもよい。また、可変抵抗15は、抵抗値を変更可能であればよく、その構成(抵抗の数や、接続方法)は、
図8に示すものには限られない。
【0057】
記憶回路17は、スイッチング素子5がオフした際の電圧VceのdV/dtと、ゲート抵抗(ここでは可変抵抗15)の抵抗値との関係(
図3の実線)を示す情報(以下、電圧情報)を記憶する。電圧情報および電流情報は、製品毎に記憶してもよいし、試験する製品毎に書き換えてもよい。また記憶回路17は、電流Icのピーク値Icpと、スイッチング素子5をオンする際のパルス信号のパルス幅PWとの関係(
図5の実線)を示す情報(以下、電流情報)を記憶する。なお、電圧情報は「第1情報」に相当し、電流情報は「第2情報」に相当する。
【0058】
図9は、本実施形態の試験装置1によるターンオフSW試験のフロー図である。また、
図10は、本実施形態における抵抗値とdV/dtの関係を示す図であり、
図11は、本実施形態におけるパルス幅とピーク値Icpの関係を示す図である。
【0059】
本実施形態の制御回路13は、記憶回路17に記憶された電圧情報と電流情報に基づいて、dV/dt及びピーク値Icpのセンターが、各仕様の下限値となるように、抵抗値とパルス幅PWを設定する(S101)。
【0060】
例えば、制御回路13は、
図10に示すように、可変抵抗15の抵抗値を、dV/dtの仕様の下限値D0に対応するR0に設定する。なお、dV/dtの仕様は「第1仕様」に相当し、このとき設定される抵抗値R0は、「第1抵抗値」に相当する。
【0061】
また、制御回路13は、
図11に示すように、パルス信号のパルス幅PWを、ピーク値Icpの仕様の下限値P0に対応する期間W0に設定する。なお、ピーク値Icpの仕様は「第2仕様」に相当し、このとき設定される期間W0は「第1期間」に相当する。
【0062】
そして、制御回路13は、1回目のターンオフSW試験を実施し(S102)、dV/dt、ピーク値Icpがそれぞれ仕様を満たしているかの判定を行う(S103)。この1回目のターンオフSW試験で所得されるdV/dtは、「第1電圧変化率」に相当し、ピーク値Icpは「第1ピーク値」に相当する。
【0063】
なお、本実施形態では、ばらつきを考慮したマージンが設定されていないため、例えば、
図10や
図11の斜線で示す部分では仕様の下限値を下回ることになり、仕様を満たしていない(NG)と判定される。一方、下限値よりも上側では仕様を満たしている(OK)と判定される。
【0064】
dV/dt、ピーク値Icpの両方が判定OKではない場合(S103でNOの場合)、制御回路13は、1回目の試験結果と、記憶回路17に記憶された情報(電圧情報、電流情報)に基づいて、可変抵抗15の抵抗値と、パルス信号のパルス幅PWの少なくとも一方の条件を再設定する(S104)。
【0065】
例えば、dV/dtが下限値D0よりも低い場合、制御回路13は、一回目の試験結果に応じて、可変抵抗15の抵抗値をR0よりも小さく設定する。ここでは、ばらつきがあっても下限値D0を下回らない抵抗値Rc(
図3参照)に設定する。なお、一回目の試験結果に応じて、可変抵抗15の抵抗値を、例えばR0とRcの間に設定しても良い。このとき可変抵抗15に設定される抵抗値(例えば、抵抗値Rc)は、「第2抵抗値」に相当する。
【0066】
同様に、ピーク値Icpが下限値P0よりも低い場合、制御回路13は、一回目の試験結果に応じて、パルス幅PWの期間をW0よりも長く設定する。ここでは、ばらつきあっても下限値P0を下回らない期間Wc(
図5参照)に設定する。なお、例えば、一回目の試験結果に応じて、パルス幅PWを期間W0と期間Wcの間に設定しても良い。なお、このとき設定されるパルス幅PWの期間(例えば、期間Wc)は、「第2期間」に相当する。
【0067】
また、dV/dtとピーク値Icpの両方が下限値よりも低い場合は、可変抵抗15の抵抗値と、パルス幅PWの両方を上記と同様に設定する。
【0068】
そして、制御回路13は、2回目のターンオフSW試験を実施し(S105)、dV/dt、ピーク値Icpがそれぞれ仕様を満たしているかの判定を行う(S106)。可変抵抗15の抵抗値を変更した場合、2回目のターンオフSW試験で取得されるdV/dtは「第2電圧変化率」に相当する。また、パルス幅PWを変更した場合、2回目のターンオフSW試験で取得されるピーク値Icpは、「第2ピーク値」に相当する。
【0069】
なお、本実施形態において、2回目のターンオフSW試験は、1回目の試験と同じ状態(測定環境)で行なわれる。具体的には、1回目の試験終了後、試験装置1のプローブやステージが、スイッチング素子5に接触した状態で保持される。そして、条件変更後、そのまま2回目の測定が実行される。これにより、2回目の試験を、1回目の試験と同じ測定環境、同じ素子で実施することができる。
【0070】
ステップS106で判定OK(S106でYES)、及び前述したステップS103で判定OK(S103でYES)の場合、制御回路13は、スイッチング素子5を良品と判定する(S107)。
【0071】
一方、ステップS106で判定NG(S106でNO)の場合、制御回路13は、スイッチング素子5を不良品と判定する(S108)。
【0072】
このように、本実施形態では、1回目では、スイッチング素子5の仕様の下限値に対して適正な条件(抵抗値、パルス幅PW)を設定してターンオフSW試験を行っている。そして、判定NGのものについて、1回目の結果に応じて、条件を再設定して2回目の試験を行っている。これにより、スイッチング素子5に過剰なストレスを与えることを抑制できるので、破壊率の低減を図ることができる。
【0073】
なお、1回目の判定(ステップS103)を行わずに、1回目の試験結果に基づいて2回目の条件を設定して、2回目の試験を実施してもよい。
【0074】
スイッチング素子の製造工程において、本発明を適用する場合は、次のように行うことができる。
【0075】
まず、試験を行う製品に対応する電圧情報と電流情報に基づいて、抵抗値とパルス幅PWを設定する(S101)。
【0076】
次に、複数のスイッチング素子に対し1回目のターンオフSW試験を実施し(S102)、複数のスイッチング素子の各dV/dt、ピーク値Icpがそれぞれ仕様を満たしているかの判定を行う(S013)。
【0077】
次に、ステップS103において、dV/dt、ピーク値Icpの両方が判定OKではないスイッチング素子各々について、1回目の試験結果と、記憶回路17に記憶された情報(電圧情報、電流情報)に基づいて、可変抵抗15の抵抗値と、パルス信号のパルス幅PWを再設定する(S104)。
【0078】
次に、ステップS103において、判定OKでないスイッチング素子各々について、ステップS104において設定された設定により2回目の試験を行い(S105)、個々のスイッチング素子に対し、dV/dt、ピーク値Icpがそれぞれ仕様を満たしているかの判定を行う(S106)。
【0079】
次に、ステップS106で判定OK(S106でYES)、及び前述したステップS103で判定OK(S103でYES)のスイッチング素子を良品と判定し(S107)、一方、ステップS106で判定NG(S106でNO)のスイッチング素子を不良品と判定し(S108)試験を終了する。
【0080】
=====まとめ=====
以上、本発明の一実施形態である試験装置1について説明した。試験装置1は、電源電圧VCCが印加されるコイルL1に直列接続されるスイッチング素子5を試験する試験装置である。試験装置1は、スイッチング素子5のゲート電極に接続される可変抵抗15と、スイッチング素子5がオフした際のdV/dtと、可変抵抗15の抵抗値と、の関係を示す電圧情報を記憶する記憶回路17と、スイッチング素子5のオン、オフと、可変抵抗15とを制御する制御回路13と、を備えている。制御回路13は、可変抵抗15の抵抗値をR0に設定して、dV/dtを取得し、そのdV/dtと、記憶回路17に記憶された電圧情報と、に基づいて、可変抵抗15の抵抗値をR0より小さい抵抗値(例えばRc)に設定してdV/dtを取得する。そして取得したdV/dtがスイッチング素子5のdV/dtの仕様(第1仕様)を満たすか否かを判定する。これにより、比較例と比べて、スイッチング素子5の破壊率の低減を図ることができる。
【0081】
また、制御回路13は、可変抵抗15の抵抗値がR0のときのdV/dtが、仕様を満たすか否かを判定し、仕様を満たさない場合に、可変抵抗15を抵抗値R0よりも小さい抵抗値に設定する。これにより、1回目で仕様を満たす場合は、2回目の試験(1回目よりもストレスを与える試験)を実施しなくてもよい。よって破壊率の低減を図ることができる。
【0082】
また、制御回路13は、dV/dtが仕様の下限値D0となるように可変抵抗15を抵抗値R0に設定する。これにより、1回目でOKと判定されやすくなる。
【0083】
また、記憶回路17は、スイッチング素子5がオフした際にスイッチング素子5に流れる電流Icのピーク値Icpと、スイッチング素子5をオンする際のパルス信号のパルス幅PWと、の関係を示す電流情報を記憶している。そして、制御回路13は、パルス幅PWを期間W0に設定して、ピーク値Icpを取得し、そのピーク値Icpと、電流情報と、に基づいて、パルス幅PWを期間W0よりも長い期間(例えばWc)に設定してピーク値Icpを取得し、そのピーク値Icpが、スイッチング素子5のピーク値Icpの仕様を満たすか否かを判定する。これにより、比較例と比べて、スイッチング素子5の破壊率の低減を図ることができる。
【0084】
また、制御回路13は、パルス幅PWの期間をW0に設定したときのピーク値Icpが、仕様を満たすか否かを判定し、そのピーク値Icpが仕様を満たさない場合に、パルス幅PWを期間W0より長い期間に設定する。これにより、1回目で仕様を満たす場合は、2回目の試験(1回目よりもストレスを与える試験)を実施しなくてもよい。よって破壊率の低減を図ることができる。る。
【0085】
また、制御回路13は、ピーク値Icpが仕様の下限値となるように、パルス幅PWの期間をW0に設定する。これにより、1回目でOKと判定されやすくなる。
【0086】
また、コイルL1と並列に電流回生用のダイオードD1が設けられている。これにより、スイッチング素子5がオフした時に、コイルL1に蓄積されたエネルギーの大半がコイルL1とダイオードD1との還流経路に流れる。これにより、コイルL1の抵抗成分によってエネルギーを消費させることができる。
【0087】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0088】
1,1A 試験装置
2 電源
4 電流遮断用素子
5 スイッチング素子
13,130 制御回路
15 可変抵抗
17 記憶回路
L1 コイル
D1 ダイオード
150,R1~R6 抵抗
SW1~SW6 スイッチ
A,B,C 端子