(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064123
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、プログラム、及び地絡点標定システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20240507BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01R31/08
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172481
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000144108
【氏名又は名称】株式会社三英社製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 久征
(72)【発明者】
【氏名】馬場 秀央
(72)【発明者】
【氏名】石通 孝行
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿介
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 秀行
【テーマコード(参考)】
2G033
5G064
【Fターム(参考)】
2G033AA01
2G033AB01
2G033AD01
2G033AE01
2G033AF01
2G033AG12
5G064AA01
5G064AA04
5G064AB05
5G064AC03
5G064AC09
5G064BA02
5G064BA03
5G064BA09
5G064CB08
5G064CB18
5G064CB19
5G064DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見する。
【解決手段】プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置であって、配電線の複数地点に設置される複数の計測端末から、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得し、前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求め、隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ及び記憶装置を有し、
配電線の複数地点に設置される複数の計測端末から、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得し、
前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記ピーク値の絶対値が閾値未満であるとき、前記第1時刻を前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡点を標定する、
情報処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の情報処理装置であって、
前記ピーク値の絶対値が前記閾値以上であるとき、前記サージ電流を近似して求めた第2時刻を、前記サージ到達時刻として、前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第2時刻の差を基に前記地絡点を標定する、
情報処理装置。
【請求項4】
プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置が、
配電線の複数地点に設置される複数の計測端末から、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得し、
前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する、
情報処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の情報処理方法であって、
前記ピーク値の絶対値が閾値未満であるとき、前記第1時刻を前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡点を標定する、
情報処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の情報処理方法であって、
前記ピーク値の絶対値が前記閾値以上であるとき、前記サージ電流を近似して求めた第2時刻を、前記サージ到達時刻として、前記地点毎に求め、
隣接する前記地点間における前記第2時刻の差を基に前記地絡点を標定する、
情報処理方法。
【請求項7】
プロセッサ及び記憶装置を有するコンピュータに、
配電線の複数地点に設置される複数の計測端末から、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得する処理と、
前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求める処理と、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムであって、
前記ピーク値の絶対値が閾値未満であるとき、前記第1時刻を前記地点毎に求める処理と、
隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡点を標定する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のプログラムであって、
前記ピーク値の絶対値が前記閾値以上であるとき、前記サージ電流を近似して求めた第2時刻を、前記サージ到達時刻として、前記地点毎に求める処理と、
隣接する前記地点間における前記第2時刻の差を基に前記地絡点を標定する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項10】
配電線の複数地点に設置され、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を計測し、前記サージ電流の電流値を含む事故情報を保持する複数の計測端末と、
プロセッサ及び記憶装置を有し、前記複数の計測端末から前記事故情報を取得し、前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求め、隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する情報処理装置と、
を備える地絡点標定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡事故を早期に発見するための情報処理装置、情報処理方法、プログラム、及び地絡点標定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
配電線(例えば6kVの配電系統)に地絡事故が発生したとき、配電線のどの位置に地絡事故が発生したのかを発見するために地絡点を標定する地絡点標定システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
地絡点標定システムは、例えば、配電線に現れる零相電圧を検出する電圧センサ、配電線に流れるサージ電流を検出する電流センサ、計測端末、地絡点標定装置を含んで構成される。電圧センサ、電流センサ、計測端末は、例えば配電線が架設される支柱毎に設置され、地絡点標定装置(例えばコンピュータ)は、例えば電力会社等に設置される。そして、支柱毎に設置される複数の計測端末は、例えば地絡事故が発生したときの零相電圧の変化を契機として、地絡電流(漏れ電流)の発生に伴って零相電流のバランスが乱れて発生するサージ電流を示す情報を、GPS衛星から得られる時刻を示す情報に対応付けて、地絡点標定装置に送信する。一方、地絡点標定装置は、複数の計測端末から得られるサージ電流を示す情報及び時刻を示す情報に基づいて、所定の演算を行うことによって地絡点を標定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地絡事故が発生すると、配電線にサージ電流が流れる。地絡点標定装置は、例えば、地絡事故が発生したときのサージ電流を直線、曲線等で近似することによって、地絡事故が発生したときのサージ電流が各計測端末に到達したサージ到達時刻を求め、このサージ到達時刻に基づいて地絡点を標定する。
【0006】
地絡事故には、低抵抗地絡及び高抵抗地絡の2種類の事故がある。低抵抗地絡では、サージ電流の振幅は大きく、サージ電流の傾きは急峻であるため、求めたサージ到達時刻のばらつきは小さくなる。一方、高抵抗地絡では、低抵抗地絡と比べて、サージ電流の振幅は小さく、サージ電流の傾きは緩やかであるため、求めたサージ到達時刻のばらつきは大きくなる。そのため、地絡事故が高抵抗地絡である場合、地絡点の標定誤差が大きくなり、地絡位置を発見するまでに多くの時間を要する虞があった。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明のうちの1つは、プロセッサ及び記憶装置を有する情報処理装置であって、配電線の複数地点に設置される複数の計測端末から、前記配電線が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得し、前記事故情報を基に、前記配電線が地絡した際に前記サージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、前記サージ電流が前記複数の計測端末に到達するサージ到達時刻として、前記地点毎に求め、隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡が発生した地絡点を標定する。
【0009】
本発明の情報処理装置によれば、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0010】
上記の目的を達成するための本発明のうちの他の1つは、情報処理装置であって、前記ピーク値の絶対値が閾値未満であるとき、前記第1時刻を前記地点毎に求め、隣接する前記地点間における前記第1時刻の差を基に前記地絡点を標定する。
【0011】
本発明の情報処理装置によれば、地絡事故が高抵抗地絡の場合において、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明のうちの他の1つは、情報処理装置であって、前記ピーク値の絶対値が前記閾値以上であるとき、前記サージ電流を近似して求めた第2時刻を、前記サージ到達時刻として、前記地点毎に求め、隣接する前記地点間における前記第2時刻の差を基に前記地絡点を標定する。
【0013】
本発明の情報処理装置によれば、地絡事故が高抵抗地絡及び低抵抗地絡の双方の場合において、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0014】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄の記載、及び図面の記載等により明らかにされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】地絡点標定システム100の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図2A】地絡事故が低抵抗地絡であるときの零相電流の変化の一例を表示部155に表示した様子を示す図である。
【
図2B】
図2Aの零相電流の変化の一部を表示部155に拡大表示した様子を示す図である。
【
図3A】地絡事故が高抵抗地絡であるときの零相電流の変化の一例を表示部155に表示した様子を示す図である。
【
図3B】
図3Aの零相電流の変化の一部を表示部155に拡大表示した様子を示す図である。
【
図4】到達時刻検出部153が、地絡事故が高抵抗地絡である場合におけるサージ到達時刻を検出する処理を示すフローチャートである。
【
図6A】地絡事故が高抵抗地絡である場合における地絡点の標定結果画面200Aの一例を示す図である。
【
図6B】地絡事故が低抵抗地絡である場合における地絡点の標定結果画面200Bの一例を示す図である。
【
図7】地絡点標定装置150の機能を実現する情報処理装置300のハードウェアの一例を示すブロック図である。
【
図8】地絡事故が高抵抗地絡の場合において、ピーク値検出手法を用いて地絡点を標定したときの地絡点の標定誤差を示す図である。
【
図9】地絡点標定装置150の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。尚、本実施形態において、同一の又は類似する構成については共通の符号を付してその説明を省略することがある。また、本実施形態において、符号の前に付している「S」の文字は処理ステップを意味する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る地絡点標定システム100の概略的な構成を示すブロック図である。
【0019】
地絡点標定システム100は、変電所(電源)と需要家エリア(負荷)との間に設置された複数の支柱160に架設されている配電線110に低抵抗地絡、高抵抗地絡等の地絡事故が発生したとき、地絡事故が発生した地絡点を標定するシステムである。
【0020】
地絡点標定システム100は、地絡点を標定するための手段として、複数の電圧センサ121、複数の電流センサ122、複数の計測端末130、複数のバッテリー端末140、地絡点標定装置150を含んで構成される。
【0021】
電圧センサ121は、例えば、配電線110が架設された支柱160毎に設置される。電圧センサ121として、例えば、配電線110の各相に現れる電圧を検出する計器用変圧器PDを採用することができる。電圧センサ121は、配電線110に地絡事故が発生したとき、支柱160の設置場所において配電線110に現れる零相電圧を検出する。
【0022】
電流センサ122は、支柱160に設置された電圧センサ121と一対一に対応するように、支柱160毎に設置される。電流センサ122として、例えば、配電線110の全相(R相、S相、T相)に流れる電流を合成して零相電流を検出する零相変流器ZCTを採用することができる。電流センサ122は、支柱160の設置場所において、地絡事故が発生したときに、地絡電流(漏れ電流)の発生に伴って全相における零相電流のバランスが乱れることによって配電線110に流れるサージ電流を検出する。サージ電流が発生すると、全相が不平衡となることによって零相電圧が発生する。
【0023】
センサ開閉器120は、例えば、支柱160毎に設置される。センサ開閉器120は、電圧センサ121及び電流センサ122を風雨、紫外線等の外部要因から保護するために、電圧センサ121及び電流センサ122を筐体の内部に密閉状態で収容する。本実施形態では、電圧センサ121及び電流センサ122は、地絡点標定システム100の他に、配電自動化システムにも兼用されることとする。この配電自動化システムは、配電線110の事故区間が検出されると、電圧センサ121及び電流センサ122の検出結果に基づいて、センサ開閉器120の開閉動作を制御することによって、事故区間を健全区間から遮断するシステムである。尚、電圧センサ121及び電流センサ122は、地絡点標定システム100のみに使用されることとしてもよい。
【0024】
計測端末130は、支柱160に設置された電圧センサ121及び電流センサ122と一対一に対応するように、支柱160毎に設置される。計測端末130は、GPS受信機131、タイマ132、メモリ133を含んで構成されている。計測端末130は、電圧センサ121及び電流センサ122と接続され、電圧センサ121によって検出された零相電圧と、電流センサ122によって検出されたサージ電流と、を示す情報を受信する。配電線110に地絡事故が発生すると、零相電圧が変化するとともにサージ電流が発生するので、本実施形態では、計測端末130は、配電線110に地絡事故が発生したときの零相電圧の変化を契機として、メモリ133の記憶動作を制御することとする。
【0025】
バッテリー端末140は、支柱160毎に設置された計測端末130と一対一に対応するように、支柱160毎に設置される。バッテリー端末140は、配電線110に供給される電力が停電したとき、計測端末130を動作させるための電源であり、例えば、配電線110に供給される電力を蓄電することによって電源として機能する。バッテリー端末140は、例えば、鉛電池、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池、ニッケル水素電池、レドックスフロー電池、燃料電池、キャパシタ電池等を含んで構成される。これにより、計測端末130は、配電線110に供給される電力によって動作し、配電線110に供給される電力が停電したとき、バッテリー134に蓄電される電力によって動作する。
【0026】
GPS衛星170は、例えば数百~数万kmの軌道高度を有する人工衛星であり、軌道情報及び時刻情報を含む電波(マイクロ波)を地球に向けて一定期間(例えば1回/秒)毎に発射する。GPS受信機131は、GPS衛星170から発射された電波に含まれている時刻情報を受信する。タイマ132は、GPS受信機131によって受信された時刻情報に同期して、正確な時刻を計時する。メモリ133は、配電線110に地絡事故が発生したかどうかに関わらず、電流センサ122によって検出されたサージ電流の電流値を、タイマ132によって計時された時刻と対応付けて、所定時間(例えば50nsec)毎に記憶領域Aに記憶する動作を継続する。メモリ133は、配電線110に地絡事故が発生したとき、時刻とサージ電流の電流値とを対応付けた情報の中から、零相電圧が変化する前の期間TAと、零相電圧が変化した後の期間TBと、を含む期間TA+TBにおける、時刻とサージ電流の電流値とを対応付けた情報(以下、「事故情報」と称する。)を、記憶領域Aから読み出して記憶領域Bに記憶する。尚、メモリ133に対するデータの書き込み動作及び読み出し動作を行う装置として、例えばデータロガーを採用することができる。計測端末130は、配電線110に地絡事故が発生したとき、メモリ133の記憶領域Bに記憶された事故情報を、例えばCSV(Comma Separated Value)形式のテキストファイルに変換した後、一定サイズのパケットに分割して地絡点標定装置150に送信する。
【0027】
地絡点標定装置150は、配電線110に地絡事故が発生したとき、配電線110のどの位置に地絡事故が発生したのかを発見するために、地絡点を標定するコンピュータ等の装置であり、例えば電力会社等に設置される。
【0028】
地絡点標定装置150は、複数の計測端末130に対して、通信ネットワーク180を介して双方向通信が可能な状態で接続される。尚、通信ネットワーク180は、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、専用線、電力線通信網、各種公衆通信網等である。
【0029】
地絡点標定装置150は、地絡点を標定するための手段として、事故情報受信部151、地絡事故判定部152、到達時刻検出部153、地絡点標定部154、表示部155、記憶部156を含んで構成される。
【0030】
事故情報受信部151は、配電線110に地絡事故が発生したとき、通信ネットワーク180を介して複数の計測端末130から事故情報を受信する。
【0031】
地絡事故判定部152は、事故情報に含まれるサージ電流の電流値に基づいて、地絡事故が低抵抗地絡又は高抵抗地絡の何れであるのかを判定する。
【0032】
図2Aは、地絡事故が低抵抗地絡であるときのサージ電流の変化の一例を表示部155に表示した様子を示す図である。
図2Bは、
図2Aのサージ電流の変化の一部を表示部155に拡大表示した様子を示す図である。
図3Aは、地絡事故が高抵抗地絡であるときサージ電流の変化の一例を表示部155に表示した様子を示す図である。
図3Bは、
図3Aのサージ電流の変化の一部を表示部155に拡大表示した様子を示す図である。尚、
図2A,
図2B,
図3A,
図3Bにおける横軸は時間(nsec)を示し、縦軸は電流(mA)を示す。
図2A及び
図3A,
図2B及び
図3Bの夫々における縦軸のスケールは同一であり、表示部155に表示可能なサージ電流のプラス方向及びマイナス方向への変化幅も同一である。地絡事故が発生したとき、サージ電流が地絡位置から変電所側の計測端末130に向かって流れるか、又は、サージ電流が地絡位置から変電所とは反対側の計測端末130に向かって流れるかによって、計測端末130から取得した事故情報に含まれるサージ電流の電流値が変化する方向は、プラス方向又はマイナス方向の何れかになる。本実施形態では、地絡事故が発生したとき、事故情報に含まれるサージ電流の電流値が変化する方向はマイナス方向であることとする。
【0033】
低抵抗地絡は、変電所の遮断器が動作する規模の地絡である。低抵抗地絡では、サージ電流の振幅は大きく、サージ電流の傾きは急峻であるため、地絡事故が発生したときにサージ電流が各計測端末130に到達するサージ到達時刻の検出結果のばらつきは小さい。一方、高抵抗地絡は、変電所の遮断器が動作しない規模の地絡である。高抵抗地絡では、低抵抗地絡と比べて、サージ電流の振幅は小さく、サージ電流の傾きは緩やかであるため、上記のサージ到達時刻の検出結果のばらつきは大きくなる。
【0034】
地絡事故判定部152は、地絡事故が発生したとき、事故情報に含まれるサージ電流の電流値の情報から、サージ電流の最初のピーク値を特定する。つまり、地絡事故判定部152は、ピーク値として、サージ電流のマイナス方向への下降からプラス方向への上昇に変化するときの値を検出する。そして、地絡事故判定部152は、サージ電流のピーク値の絶対値が予め定められた閾値以上であるとき、地絡事故は低抵抗地絡であると判定し、一方、サージ電流のピーク値の絶対値が予め定められた閾値未満であるとき、地絡事故は高抵抗地絡であると判定する。尚、閾値は、地絡事故が高抵抗地絡である場合にサージ電流がマイナス方向に変化したときの最初のピーク値の絶対値と、地絡事故が低抵抗地絡である場合にサージ電流がマイナス方向に変化したときの最初のピーク値の絶対値と、の間に存在するように、例えば経験則から事前に設定される値である。
【0035】
以下、
図2A及び
図3Aを参照しつつ、閾値を設定する一例について説明する。地絡事故が低抵抗地絡である場合、サージ電流のマイナス方向のピーク値は、表示部155の表示範囲に収まらないため、表示部155で確認することは不可能である。一方、地絡事故が高抵抗地絡である場合、サージ電流のマイナス方向のピーク値は、表示部155の表示範囲に収まるため、表示部155で確認することは可能である。例えば、表示部155に表示可能なサージ電流のマイナス方向への変化幅の絶対値を閾値に設定すると、地絡事故判定部152は、サージ電流のマイナス方向のピーク値が表示部155に表示されないとき、地絡事故は低抵抗地絡であると判定し、一方、サージ電流のマイナス方向のピーク値が表示部155に表示されるとき、地絡事故は高抵抗地絡であると判定することとなる。尚、サージ電流がプラス方向に変化する場合も、同様に考えることができる。
【0036】
到達時刻検出部153は、地絡事故判定部152の判定結果に基づいて、地絡事故が低抵抗地絡であると判定された場合は、後述する「線形近似手法」で、一方、地絡事故が高抵抗地絡であると判定された場合は、後述する「ピーク値検出手法」で、地絡事故が発生したときのサージ電流が計測端末130に到達した時刻であるサージ到達時刻を検出する。
【0037】
例えば、地絡事故が
図2A及び
図2Bに示すような低抵抗地絡である場合、到達時刻検出部153に設定された線形近似手法のアルゴリズムにより、例えば零相電圧の変化を契機として、
図2Aに示す急峻に変化したサージ電流の波形に接線を引く線形近似を行い、この接線が時間を示す横軸(時間軸に平行な電流値が0mAとなる直線)と交差した点をサージ到達時刻(第2時刻)とする。計測端末130内のメモリ133に記憶された事故情報を地絡点標定装置150に送信し、この事故情報に含まれるサージ電流の電流値を表示部155に表示した場合、サージ電流の変化が急峻であることから、サージ電流の波形に引いた接線が横軸と交差する位置のばらつきは小さく、サージ電流の変化点を明確に捉えることができるので、地絡点標定部154による地絡点の標定誤差は小さくなることが分かる。尚、到達時刻検出部153は、地絡事故が低抵抗地絡である場合におけるサージ到達時刻の検出のために、サージ電流の波形を線形近似しているが、線形近似の他に、サージ到達時刻の検出誤差を小さくするために、指数近似、対数近似、累乗近似等を適宜採用してもよい。
【0038】
一方、地絡事故が
図3A及び
図3Bに示すような高抵抗地絡である場合、到達時刻検出部153は、地絡事故が低抵抗地絡の場合とは異なるピーク値検出手法でサージ到達時刻を検出する。例えば、
図3Bの拡大波形を見ると、高抵抗地絡におけるサージ電流は、電流値が小さく、緩やかに変化することから、地絡事故が低抵抗地絡の場合におけるアルゴリズムでサージ電流を線形近似しようとすると、サージ電流の波形に複数の異なる接線(例えば接線1~5等)を引けることとなり、接線1~5等が
図3Aの横軸と交差する位置が大きくばらつき、検出するサージ到達時刻が大きくばらつくこととなる。そのため、到達時刻検出部153は、地絡事故判定部152から地絡事故が高抵抗地絡であることを示す判定結果を取得すると、到達時刻検出部153に設定されたピーク値検出手法のアルゴリズムにより、以下に示すようにサージ到達時刻を検出する。
【0039】
図4は、到達時刻検出部153が、地絡事故が高抵抗地絡である場合におけるサージ到達時刻を検出する処理を示すフローチャートである。
【0040】
先ず、到達時刻検出部153は、地絡事故の発生に伴って零相電流のバランスが乱れてサージ電流が生じているかどうかを判断する(S1010)。
【0041】
図3Aにおいて、地絡事故に伴って零相電圧が変化する前の期間TAでは、零相電流は、0mAを中心に僅かな常時ノイズが重畳した状態となっている。到達時刻検出部153では、期間TAに発生する常時ノイズの振幅を検出し、プラス側に常時ノイズよりも大きい第1閾値+Vth1を設定するとともに、マイナス側に常時ノイズよりも小さい第2閾値-Vth1を設定する。これにより、到達時刻検出部153は、期間TAでは、常時ノイズが第1閾値+Vth1より大きくなることも、常時ノイズが第2閾値-Vth1より小さくなることもないので、地絡事故に伴うサージ電流は生じていないものと判断する(S1010:NO)。そして、到達時刻検出部153は、地絡事故に伴うサージ電流の発生を検出するまで、上記のステップS1010の処理を繰り返し実行する。
【0042】
一方、
図3Aにおいて、地絡事故に伴って零相電圧が変化した後の期間TBでは、零相電流は全相のバランスが乱れて第2閾値-Vth1を下抜いてマイナス方向に変化し始める。到達時刻検出部153は、零相電流が第2閾値-Vth1よりも小さくなった時点で、サージ電流が地絡事故に伴って生じているものと判断する(S1010:YES)。
【0043】
次に、到達時刻検出部153では、零相電流が第2閾値-Vth1よりも小さくなったため、その後、サージ電流がマイナス方向への下降からプラス方向への上昇に変わる、所謂マイナス方向のピーク値を検出するための処理を行う(S1020)。例えば、到達時刻検出部153は、事故情報に含まれる期間TBのサージ電流の電流値を絶対値に変換し、期間TBの中で、最初に最大となる絶対値を検出する。この絶対値が、サージ電流のマイナス方向のピーク値となる。
【0044】
次に、到達時刻検出部153は、この絶対値に対応する横軸の時刻を、各計測端末130へのサージ到達時刻(第1時刻)とみなす(S1030)。
【0045】
このようにして、到達時刻検出部153は、地絡事故が低抵抗地絡及び高抵抗地絡の双方の場合におけるサージ到達時刻を、地絡点の標定誤差が小さくなるように求める。
【0046】
図5は、地絡点を標定する手法を示す図であり、この手法で示されるサージ到達時刻には、到達時刻検出部153によって検出されたサージ到達時刻(ピーク値検出手法では第1時刻、線形近似手法では第2時刻)が用いられることとする。地絡事故は低抵抗地絡、高抵抗地絡の何れであってもよい。
【0047】
地絡点標定部154は、地絡点よりも変電所側となる1台の計測端末130Aと、地絡点よりも需要家エリア側となる2台の計測端末130B,130Cと、の合計3台、又は、地絡点よりも変電所側となる2台の計測端末130A,130Bと、地絡点よりも需要家エリア側となる1台の計測端末130Cと、の合計3台を用いて地絡点の標定を行う。
【0048】
説明の便宜上、配電線110に地絡事故が発生した位置は、地絡点よりも変電所側となる計測端末130Aと、地絡点よりも需要家エリア側となる計測端末130Bと、の間の所定位置であることとする。つまり、地絡点を挟む2台の計測端末130の組み合わせの中で、互いに隣り合う関係の2台の計測端末130A,130Bの組み合わせにおけるサージ到達時刻が、2台の計測端末130の他の組み合わせにおけるサージ到達時刻よりも早いこととなる。或いは、地絡点標定装置150は、3台の計測端末130A、130B、130Cから取得したサージ電流が正であるか負であるかによって、地絡がどの計測端末130の間で発生したかを特定することもできる。ここで、地絡点と計測端末130Bとの間の距離をXとする。また、計測端末130A,130B間の距離をLとする。また、サージ電流は配電線110上を計測端末130A,103Bに向かって放射状に流れるので、このときのサージ電流の伝搬速度(以下、「サージ伝搬速度」と称する。)をVとする。また、サージ電流が地絡点から計測端末130A,130Bに向かって流れ始める時刻をt0、サージ電流が計測端末130Aに到達するサージ到達時刻をt1、サージ電流が計測端末130Bに到達するサージ到達時刻をt2とする。尚、サージ伝搬速度Vについては、例えば特許第4039576号に記載されているサージ伝搬速度を用いることができるので、その説明を省略する。
【0049】
地絡点から計測端末130Bにサージ電流が到達するまでに要した時間t2-t0は、
t2-t0=X/V ・・・(1)
で示される。
【0050】
また、地絡点から計測端末130Aにサージ電流が到達するまでに要した時間t1-t0は、
t1-t0=(L-X)/V ・・・(2)
で示される。
【0051】
(1)(2)式から、地絡点と計測端末130Bとの間の距離X、つまり地絡点は、隣り合う計測端末130B,130Aまでのサージ到達時刻t2,t1の差を基に、
X=(t2-t1+(L/V))(V/2) ・・・(3)
から算出される。
【0052】
地絡点標定部154は、到達時刻検出部153によって検出された、標定誤差を小さくすることが可能なサージ到達時刻を採用するので、標定誤差の小さい地絡点を標定することが可能となる。例えば、地絡点を基準に変電所側及び需要家エリア側に±数km程度であった標定誤差であれば、±数百m程度の標定誤差まで狭めることができ、作業者が地絡位置を発見するまでの巡視作業に係る負担を大幅に軽減することが可能となる。
【0053】
表示部155は、例えば、
図2Aに示す地絡事故が低抵抗地絡であるときの期間TA+TBにおけるサージ電流の波形と、
図2Bに示す
図2Aのサージ電流の一部を拡大した波形との組み合わせ、或いは、
図3Aに示す地絡事故が高抵抗地絡であるときの期間TA+TBにおけるサージ電流の波形と、
図3Bに示す
図3Aのサージ電流の一部を拡大した波形との組み合わせを表示する。また、表示部155は、地絡点標定部154によって地絡事故が低抵抗地絡又は高抵抗地絡の場合における地絡点の標定を行った結果を示す画面の一例を表示する。
【0054】
図6Aは、地絡事故が高抵抗地絡である場合における地絡点の標定結果画面200Aの一例を示す図である。
図6Aでは、計測端末130A,130B,130Cは、変電所(電源)に近い側から需要家エリア(負荷)へ向かって隣り合う関係で設置されていることとし、計測端末130Aと計測端末130Bとの間に地絡事故が発生したこととする。
【0055】
標定結果画面200Aの中で、左上側の画面エリア210Aには、変電所と計測端末130A,130B,130Cとの位置関係と、隣り合う計測端末130A,130Bの間の距離と、隣り合う計測端末130B,130Cの間の距離と、計測端末130A,130B,130Cが夫々設置されている支柱160A,160B,160Cを示す支柱番号と、地絡点を示す×印(計測端末130Aと計測端末130Bとの間に記された×印)と、支柱160Bから地絡点までの距離を示すメッセージと、が表示されている。具体的には、計測端末130A,130Bの間の距離は2891m、計測端末130B,130Cの間の距離は3380mと表示され、支柱160A,160B,160Cを示す支柱番号は、夫々、×××21T1号、×××71号、×××125号と表示されている。また、支柱160Bから地絡点までの距離を示すメッセージとして、「地絡点:×××71号から電源側に1056m」と表示されている。
【0056】
標定結果画面200Aの中で、右上側の画面エリア220Aには、計測端末130A,130Bの間で標定を行った結果と、計測端末130A,130Cの間で標定を行った結果と、の詳細が表示されている。計測端末130A,130Bの間で標定を行った結果として、支柱番号Aの欄には、×××21T1号が表示され、支柱番号Bの欄には、×××71号が表示され、地絡点の欄には、「×××71号から電源側に1056m」と表示されている。また、計測端末130A,130Cの間で標定を行った結果として、支柱番号Aの欄には、×××21T1号が表示され、支柱番号Bの欄には、×××125号が表示され、地絡点の欄には、「×××71号から電源側に1056m」と表示されている。尚、画面エリア220Aには、更に、この地絡事故の際のサージ伝搬速度も、「サージ伝搬速度:52.5[m/μsec]」と表示されている。
【0057】
標定結果画面200Aの中で、下側の画面エリア230Aには、各支柱160A,160B,160Cにおける、支柱番号、サージ到達時刻、停電検出、地絡方向、GPS状態、零相電流の値(I0値)、零相電圧の値(V0値)が表示されている。支柱番号の欄には、支柱160A,160B,160Cに予め割り当てられた支柱番号が表示されている。サージ到達時刻の欄には、配電線110に地絡事故が発生したときに流れるサージ電流が各計測端末130A,130B,130Cに到達した時刻が表示されている。停電検出の欄には、地絡事故が発生した際に、計測端末130A,130B,130Cが配電線110に供給される電力によって動作している場合には、「停電なし」が表示され、計測端末130A,130B,130Cがバッテリー端末140によって動作している場合には、「停電あり」が表示される。地絡方向の欄には、地絡点が計測端末130A,130B,130Cの夫々よりも変電所に近い側にあれば「電源側」と表示され、地絡点が計測端末130A,130B,130Cのよりも変電所から遠い側にあれば「負荷側」と表示される。GPS状態の欄には、計測端末130A,130B,130Cの夫々において、GPS受信機131がGPS衛星170から発射された電波を受信できている場合には「GPS受信可」と記され、GPS受信機131がGPS衛星170から発射される電波を受信できていない場合には「GPS受信不可」と表示される。I0値の欄には、計測端末130A,130B,130Cの夫々において、サージ到達時刻のときのサージ電流の値が表示される。V0値の欄には、サージ到達時刻のときの零相電圧の値が表示される。
【0058】
このように、配電線110に高抵抗地絡の地絡事故が発生した場合に、表示部155を通して、標定結果画面200Aを構成する画面エリア210A,220A,230Aに表示された、精度の高い地絡点の標定結果を一度に確認することができるので、作業者が高抵抗地絡の地絡位置を発見するまでの巡視作業に係る負担を大幅に軽減し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0059】
一方、
図6Bは、地絡事故が低抵抗地絡である場合における地絡点の標定結果画面200Bの一例を示す図である。
図6Bでは、計測端末130A,130B,130Cは、変電所に近い側から需要家エリアへ向かって隣り合う関係で設置されていることとし、計測端末130Bと計測端末130Cとの間に地絡事故が発生したこととする。
【0060】
標定結果画面200Bの中で、左上側の画面エリア210Bには、変電所と計測端末130A,130B,130Cとの位置関係と、隣り合う計測端末130A,130Bの間の距離と、隣り合う計測端末130B,130Cの間の距離と、計測端末130A,130B,130Cが夫々設置されている支柱160A,160B,160Cを示す支柱番号と、地絡点を示す×印(計測端末130B,130Cの間に記された×印)と、支柱160Cから地絡点までの距離を示すメッセージと、が表示されている。具体的には、計測端末130A,130Bの間の距離は3145m、計測端末130B,130Cの間の距離は3374mと表示され、支柱160A,160B,160Cを示す支柱番号は、夫々、△△△1号、△△△44T1号、△△△93号と表示されている。また、支柱160Cから地絡点までの距離を示すメッセージとして、「地絡点:△△△9371号から電源側に780m」と表示されている。
【0061】
標定結果画面200Bの中で、右上側の画面エリア220Bには、計測端末130A,130Cの間で標定を行った結果と、計測端末130B,130Cの間で標定を行った結果と、の詳細が表示されている。計測端末130A,130Cの間で標定を行った結果として、支柱番号Aの欄には、△△△1号が表示され、支柱番号Bの欄には、△△△93号が表示され、地絡点の欄には、「△△△93号から電源側に780m」と表示されている。また、計測端末130B,130Cの間で標定を行った結果として、支柱番号Aの欄には、△△△44T1号が表示され、支柱番号Bの欄には、△△△93号が表示され、地絡点の欄には、「△△△93号から電源側に780m」と表示されている。尚、画面エリア220Bには、更に、この地絡事故の際のサージ伝搬速度も、「サージ伝搬速度:182.3[m/μsec]」と表示されている。
【0062】
標定結果画面200Bの中で、下側の画面エリア230Bには、各支柱160A,160B,160Cにおける、支柱番号、サージ到達時刻、停電検出、地絡方向、GPS状態、サージ電流の値(I0値)、零相電圧の値(V0値)が、
図6Aと同様に表示されている。
【0063】
このように、配電線110に低抵抗地絡の地絡事故が発生した場合に、表示部155を通して、標定結果画面200Bを構成する画面エリア210B,220B,230Bに記された、精度の高い地絡点の標定結果を一度に確認することができるので、作業者が低抵抗地絡の地絡位置を発見するまでの巡視作業に係る負担を大幅に軽減し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0064】
記憶部156は、地絡点標定装置150が地絡点の標定を行うための制御プログラム、事故情報受信部151が受信した事故情報、地絡事故判定部152が判定した地絡事故の種類(低抵抗地絡、高抵抗地絡)、到達時刻検出部153が検出したサージ到達時刻、地絡点標定部154が標定した地絡点、等の情報を記憶する。
【0065】
図7は、
図1に示す地絡点標定装置150の機能を実現する情報処理装置300のハードウェアの一例を示すブロック図である。
【0066】
情報処理装置300は、プロセッサ310、主記憶装置320、補助記憶装置330、入力装置340、出力装置350、通信装置360を備える。情報処理装置300は、例えば、パーソナルコンピュータ、オフィスコンピュータ、各種サーバ装置、汎用機等である。情報処理装置300は、その全部又は一部が、例えば、クラウドシステムによって提供される仮想サーバのように、仮想化技術を用いて提供される仮想的な情報処理資源を用いて実現されるものであってもよい。
【0067】
プロセッサ310は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、AI(Artificial Intelligence)チップ等を用いて構成される。
【0068】
主記憶装置320は、プログラムやデータを記憶する装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリ(NVRAM(Non Volatile RAM))等である。
【0069】
補助記憶装置330は、例えば、SSD(Solid State Drive)、ハードディスクドライブ、光学式記憶装置(CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等)、ストレージシステム、ICカード、SDカード、光学式記録媒体等の記録媒体の読取/書込装置、クラウドサーバの記憶領域等である。補助記憶装置330には、記録媒体の読取装置や通信装置360を介してプログラムやデータを読み込むことができる。補助記憶装置330に記憶されているプログラムやデータは主記憶装置320に随時読み込まれる。
【0070】
入力装置340は、外部からの入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、カードリーダ、ペン入力方式のタブレット、音声入力装置等である。
【0071】
出力装置350は、処理経過や処理結果等の各種情報を出力するインタフェースである。出力装置350は、例えば、上記の各種情報を可視化する表示装置(LCD(Liquid Crystal Display)、グラフィックカード等)、上記の各種情報を音声化する装置(音声出力装置(スピーカ等))、上記の各種情報を文字化する装置(印字装置等)である。尚、情報処理装置300は、通信装置360を介して他の装置との間で情報の入力や出力を行う構成としてもよい。
【0072】
入力装置340および出力装置350は、ユーザとの間で情報の受け付けや情報の提示を行うユーザインタフェースを構成する。
【0073】
通信装置360は、通信ネットワーク180等の通信基盤を介した他の装置との間での通信(有線通信又は無線通信)を実現する装置であり、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線通信モジュール、USBモジュール等を用いて構成される。
【0074】
尚、情報処理装置300には、例えば、オペレーティングシステム、ファイルシステム、DBMS(Data Base Management System)(リレーショナルデータベース、NoSQL等)、KVS(Key-Value Store)等が導入されていてもよい。
【0075】
地絡点標定装置150が備える機能は、情報処理装置300のプロセッサ310が、主記憶装置320に記憶されている制御プログラムを読み出して実行するか、或いは、情報処理装置300を構成するハードウェア(FPGA、ASIC、AIチップ等)自体の機能によって実現される。本実施形態では、地絡点標定装置150の記憶部156の機能は、情報処理装置300の主記憶装置320及び補助記憶装置330によって実現され、地絡点標定装置150の事故情報受信部151、地絡事故判定部152、到達時刻検出部153、地絡点標定部154の夫々の機能は、情報処理装置300のプロセッサ310が制御プログラムに従って動作することにより実現される。尚、地絡点標定装置150の事故情報受信部151は、情報処理装置300のプロセッサ310が入力装置340及び通信装置360を制御することにより実現され、地絡点標定装置150の表示部155は、情報処理装置300のプロセッサ310が出力装置350を制御することにより実現される。
【0076】
図8は、配電線110に例えば蛇等が絡みついたことで高抵抗地絡の地絡事故が発生した場合において、
図4に示す本実施形態に係るサージ電流のピーク値を検出してピーク値に到達する第1時刻をサージ到達時刻とみなすピーク値検出手法を用いて、地絡点を標定したときの地絡点の標定誤差を示す図である。尚、
図8では、ピーク値検出手法による地絡点の標定誤差と、地絡事故が低抵抗地絡である場合に、サージ電流を線形近似してサージ到達時刻を検出する線形近似手法により求められた地絡点の標定誤差とが、比較する形で記されている。また、説明の便宜上、地絡点は、
図5における計測端末130A,130Bの間の複数の位置であることとする。
図8には、地絡事故の発生日時、ピーク値検出手法によるサージ到達時刻t1,t2,t3(nsec)、ピーク値検出手法による地絡点の標定誤差(m)、線形近似手法による地絡点の標定誤差(m)が対応付けて記されている。また、ピーク値検出手法及び線形近似手法の双方における地絡点の標定誤差とは、上記の(3)式で算出された地絡点と地絡事故が発生したときの実際の地絡点との差分であり、例えば、(3)式で算出された地絡点が実際の地絡点よりも変電所側とは反対側であるとき、地絡点の標定誤差の符号はマイナス(-)であることとする。また、線形近似手法による地絡点の標定誤差の中に「-」のみの欄があるが、これは地絡点の標定誤差が一定の誤差範囲(例えば±1000m)を超えてしまっていることを示している。
【0077】
図8の平均の欄を見て明らかなように、地絡事故が高抵抗地絡の場合において、ピーク値検出手法による地絡点の標定誤差は、線形近似手法による地絡点の標定誤差よりも大幅に小さくなって改善されていることが分かる。
【0078】
図9は、地絡点標定装置150の処理の一例を示すフローチャートである。尚、地絡事故は、
図5の計測端末130A,130Bの間に発生したこととする。
【0079】
先ず、地絡点標定装置150では、事故情報受信部151が各計測端末130から地絡事故に伴って生成された事故情報を受信したかどうかを判定する(S2010)。事故情報受信部151が事故情報を受信していない場合(S2010:NO)、このステップS2010の動作を繰り返し実行する。
【0080】
次に、事故情報受信部151が事故情報を受信すると(S2010:YES)、地絡事故判定部152は、各事故情報に含まれるサージ電流の電流値から、地絡事故が低抵抗地絡又は高抵抗地絡の何れであるのかを判定する(S2020)。地絡事故判定部152は、例えば、地絡事故に伴ってサージ電流がマイナス方向に変化し始めたとすると、サージ電流がマイナス方向への下降からプラス方向への上昇に最初に変化したときの電流値を、マイナス方向のピーク値として検出する。そして、地絡事故判定部152は、このピーク値の絶対値を上記の閾値と比較した結果、ピーク値の絶対値が閾値未満であって、ピーク値を表示部155で確認することができる場合には、このときの地絡事故を高抵抗地絡であると判定し、一方、ピーク値の絶対値が閾値以上であって、ピーク値を表示部155で確認することができない場合には、このときの地絡事故を低抵抗地絡であると判定する。
【0081】
次に、到達時刻検出部153は、地絡事故が高抵抗地絡であると判定されたとき、上記のピーク値検出手法を用いて、サージ電流が最初にマイナス方向のピーク値となったときの第1時刻を、サージ電流が計測端末130A,130Bの夫々に到達するサージ到達時刻t1、t2とみなす(S2030)。尚、第1時刻は、隣り合う全ての計測端末130の組み合わせにおいて求められ、計測端末130A,130B間の第1時刻が最も短くなっている。
【0082】
一方、到達時刻検出部153は、地絡事故が低抵抗地絡であると判定されたとき、上記の線形近似手法を用いて、マイナス方向に変化するサージ電流を直線で線形近似し、この直線が横軸と交差した第2時刻を、サージ電流が計測端末130A,130Bの夫々に到達するサージ到達時刻t1、t2とする(S2040)。尚、第2時刻は、隣り合う全ての計測端末130の組み合わせにおいて求められ、計測端末130A,130B間の第2時刻が最も短くなっている。
【0083】
次に、地絡点標定部154は、ステップS2030又はS2040で得られたサージ到達時刻t1、t2の差を基に、(3)式から地絡点を標定する(S2050)。
【0084】
次に、表示部155は、地絡点の標定結果を示す
図6Aの標定結果画面200A又は
図6Bの標定結果画面200Bを表示する(S2060)。
【0085】
以上説明したように、プロセッサ310及び記憶装置(主記憶装置320及び補助記憶装置330)を有する情報処理装置300は、配電線110の複数地点に設置される複数の計測端末130から、配電線110が地絡した際のサージ電流の電流値を含む事故情報を取得し、事故情報を基に、配電線110が地絡した際にサージ電流が最初にピーク値となる第1時刻を、サージ電流が複数の計測端末130に到達するサージ到達時刻として地点毎に求め、隣接する地点間における第1時刻の差を基に地絡が発生した地絡点を標定する。
【0086】
情報処理装置300によれば、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0087】
また、情報処理装置300は、ピーク値の絶対値が閾値未満であるとき、第1時刻を地点毎に求め、隣接する地点間における第1時刻の差を基に地絡点を標定する。
【0088】
情報処理装置300によれば、地絡事故が高抵抗地絡の場合において、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0089】
また、情報処理装置300は、ピーク値の絶対値が閾値以上であるとき、サージ電流を近似して求めた第2時刻を、サージ到達時刻として地点毎に求め、隣接する地点間における第2時刻の差を基に地絡点を標定する。
【0090】
情報処理装置300によれば、地絡事故が高抵抗地絡及び低抵抗地絡の双方の場合において、地絡点を精度よく標定し、地絡事故を早期に発見することが可能となる。
【0091】
尚、本実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0092】
100 地絡点標定システム
110 配電線
120 センサ開閉器
121 電圧センサ
122 電流センサ
130 計測端末
131 GPS受信機
132 タイマ
133 メモリ
140 バッテリー端末
150 地絡点標定装置
151 事故情報受信部
152 地絡事故判定部
153 到達時刻検出部
154 地絡点標定部
155 表示部
160 支柱
170 GPS衛星
180 通信ネットワーク
200A,200B 標定結果画面
210A,210B,220A,220B,230A,230B 画面エリア
300 情報処理装置
310 プロセッサ
320 主記憶装置
330 補助記憶装置
340 入力装置
350 出力装置
360 通信装置